(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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特務支援課から見たリィン・オズボーン

成長期:初めてクロスベルを訪れた時。優秀だが未熟な少年。トールズ士官学院副会長。親の威光のおかげで知る人ぞ知る位の知名度。
成熟期:通商会議で宰相の護衛として訪問。父親を彷彿とさせる覇気を宿した俊英。帝国正規軍准尉待遇。鉄血の子筆頭。アルフィン皇女救出の功績で専ら帝都市民の間では評判になり始める。
完全体:今回。帝国正規軍准将。成人していないとか嘘やろ?な覇気と風格を身に纏う。皇帝直属筆頭騎士にして《灰色の騎士》の異名を持つ帝国でその名を知らぬ者は居ない国民的英雄。

さて、究極体はどうなるかな。

今回は短いです。
まあタイトルで察したと思いますが、英雄無双な回です。


“聖戦”は此処に有り

 七曜暦1205年2月。

 クロスベル総督ルーファス・アルバレア卿より、クロスベルの治安維持の最高責任者として全権委任を受けた灰色の騎士リィン・オズボーン准将はクロスベルの闇を一掃すると宣言。

 同じ鉄血の子どもたる鉄道憲兵隊所属クレア・リーヴェルト少佐、情報局所属レクター・アランドール少佐、そしてクロスベル軍警所属ロイド・バニングス少佐らを従えてクロスベルに長年巣食っていたマフィア勢力と汚職議員との戦いを開始した。

 

 灰色の騎士はまず第一に自治州時代に証拠不十分にて不起訴となった自治州議員50名の再捜査を命じた。

 旧い権力体制下における聖域となっていた腐敗の弾劾は新体制の正当性を主張する絶好の機会である。

 故に「露骨な人気取り」と当初は冷ややかな目を送っていたクロスベル市民であったが、その中の23名もの人間が議会に於いて、親帝国を以て知られる俗に言う帝国派である事は市民を大いに驚かせた。

 困惑したのは他ならぬ帝国派の議員達である、何せ自分達と帝国はずっと蜜月関係を築いてきたのだ。

 故に、帝国の占領によってリーダーたるハルトマン議長が失脚して以来冷や飯ぐらいとなっていた自分達はようやく再び甘い汁を吸えるはずであったというのに、これは一体どういう事かと!怒りを抱いた後に彼らは最悪の結論にたどり着く。

 すなわち、自分への礼儀がなっていない事に灰色の騎士は怒っているのだと。

 帝国よりの慈悲に縋る者として、然るべき態度があるだろうとそういう事なのだと誤解した5名程が、よりにもよって賄賂をリィンに送るという暴挙へと及び、その場にて贈賄の現行犯によって拘束されたのであった。

 

 摘発されていく自治州議員には為す術などなかった。

 何せ灰色の騎士の行動は帝国宰相ギリアス・オズボーンとクロスベル総督ルーファス・アルバレアが全面的な支持を表明しているのだ。

 それに比べればクロスベルの自治州議員等何百人束になろうと歯牙にもかからぬ存在だ。

 懐柔しようにも手立ては無く、焦った議員の何人かが手土産と引き換えに共和国への亡命を画策したが、それらは総て帝国軍情報局の掌の上であった。

 結果、逆に共和国側を釣り出す餌とされ、敵国への共謀という贈収賄等よりも遥かに重い罪を課せられ、共和国派の議員12名が拘禁された事で、もはや汚職議員達には震えながら裁きの時を待つ以外の選択肢は残されていなかった。

 

 公権力に巣食った膿の洗い出しを粗方行うと灰色の騎士は次なる標的として裏社会に巣食うマフィア勢力との戦いを開始した。

 此処で議員達の摘発にあたってはあくまで裏で現場の人間の後ろ盾となる司令官の役に徹していた灰色の騎士は自ら双剣を携えて部隊を率いて、マフィアの拠点への一斉攻撃を開始する。

 腐敗議員達が得意とするのは搦め手故にそうした圧力を跳ね除ける盾となる事が重要であったが、マフィアとの闘争となるとこれは実際の武力行使を伴うものとなってくる。

 故に、捜査官達を奮い立たせてマフィアなど恐れるに足らぬと証明するには自らが最も危険な役どころを引き受けるのが有効と判断しての事だ。

 何より民衆というのはわかりやすさを好む、陣頭に立って危険を引き受ける“英雄”リィン・オズボーン、そしてその“英雄”の下に再び集結したクロスベルの英雄特務支援課という構図は、マスコミにとって余りにも美味しすぎるネタであった。

 総督府からの圧力、帝国軍情報局の巧みな情報操作と合わさり、マフィアとの戦いは帝国とクロスベルの垣根を越えて行う“絶対悪”との“聖戦”となった。

 そして余程ひねくれた者でなければ、期待されればそれに応えたくなるのが人間というものだ。

 長年クロスベル警察は遊撃士に比べれば役立たずの税金泥棒と誹られ続けていた。

 それが今やどうだろう、市民の期待を一身に背負う立場となり、上官たる“英雄”は偽りなき期待を自分達にかけてくれ、功績を挙げれば帝国人とクロスベル人の別なく報いてくれる。

 総督府に掛け合い潤沢な予算を獲得してくれて、待遇が向上した。これまで煩わされて来た政治的な圧力、その尽くを跳ね除けてくれる。

 無論、当然引き締めるべきところは引き締める。規律の向上にも力を入れた。風紀の取締りを強化し、摘発実績が優秀な者に高い評価を与え、違反行為を隠蔽した者に罰を与える。私的制裁、パワハラ、セクハラ、麻薬犯罪については、情報局所属である義兄の助言を基にして匿名での密告を受け付けて、相互監視の網を張り巡らせた。

 この際注意を払ったのはノルマを設定しない事だ。「ノルマを設定すると摘発実績欲しさに暴走する者が必ず出てきます」という義姉の助言を参考にして、過度の実績主義に陥らないように心がけた。

 

 組織や人を纏めるのに必要なのは畏怖と信頼。そんな自身の言葉を体現するかのようにリィン・オズボーンは腐敗の度合いが余りに酷い警官たちを罰する一方で、向上心と意欲に溢れた者を相応に報いた。

 帝国軍とクロスベル軍警の間でいざこざが発生した際には双方の言い分を聞いた上で、事実に基づき公正に裁く。そこには帝国人だからクロスベル人よりも贔屓にする等という贔屓は当然ながら欠片も存在しない。

 かくしてクロスベル軍警の人間の多くが、当初抱いていた帝国の英雄への反感はどこかへやり、何時しかリィンの事を頼もしい理想の上司として崇め始めるようになったのだった。

 

 

 そしてかつて無い公権力からの熾烈な攻撃に晒され、追い詰められて更には後ろ盾となっていた議員達の末路を見て懐柔が一切通じないと悟ったマフィア勢力は強硬手段に打って出た、すなわち猟兵を使ってのリィン・オズボーンの暗殺である。

 無論このような強硬手段は本来であれば最終手段だ。本来マフィアはこうした手合いを相手にした時は本人よりも先にその身内を人質に取りにかかるのが常套手段だ。

 しかし、人質に取ろうにもリィン・オズボーンの身内は帝国本土、それも帝都ヘイムダルに居る以上出来るはずもない。

 かくして護衛もつけずに堂々と一人で、または副官たる銀髪の少女と二人で行動する余りにも不用心すぎる英雄への襲撃はその尽くが、ひねり無く順当に返り討ちにあって終わった。

 そもヴァンダール流とは皇族守護の剣。当然そうした暗殺から主君を守るための訓練や気配察知については嫌という程叩き込まれている。

 ましてやリィン・オズボーンは今や理へと至った大陸屈指の使い手であり、更にはそこに未来予知じみた直感と帝国軍情報局の諜報網が加わっているのだ。

 襲撃をかけるならばせめて大陸最強と謳われる猟兵団赤い星座を雇う位の事をせねば勝負にすらならない。

 護衛をつけなかったのは不用心だったのではなく、その逆に万が一にも巻き込まれて殉職する事になるような者を出さないためであり、己の実力に対する自負に裏打ちされたものであったのだ。

 クロスベルに存在した主要なマフィアが5つ程壊滅させられ、襲撃をかけた8もの猟兵団の尽くが壊滅させられた。

 この際灰色の騎士は成人を超えた者に対しては一切の容赦をせずその場で尽くをその双剣で誅戮するという苛烈な対応で臨んだが、未だ成人に満たぬ子どもに対しては「当人の責ではなく周囲の大人の責である」として極力傷を与えないように捕らえて、捕らえた後は教会と国の運営する更生施設に入れるという慈悲に満ちた対応で以て臨んだ。此処でも灰色の騎士は“畏怖”と“信頼”の双方を敵と味方に与えたのであった。

 そうしてそんな“英雄”を相手にしては、流石に旗色が悪いと感じた、ルパーチェ商会が失脚して以後クロスベルに於いて最大勢力となりつつあった《黒月》がクロスベルよりの撤退を行った事で、一ヶ月に及んだ“絶対悪”との“聖戦”の終結をリィン・オズボーンは宣言。

 

 此処にクロスベルの闇は帝国の英雄によってほぼ一掃されたのであった……

 




汚職議員「つまり、賄賂をよこせってことやな!」(節穴)
マフィア「糞が!灰色の騎士がなんぼのもんじゃい!タマとったらぁ!!!」(ヤケクソ)

レクター「おいおいおい」
ルーファス「死ぬわアイツラ」

ツァオ「ちなみに銀殿、貴方だったらやれますか?」
銀「私に死ねと言っているのか?」
ツァオ「ですよねー」(そそくさと帰り支度を始める)

嘘みたいだろ、こいつ一年前にクロスベルに来た時はヴァルドさんに喧嘩売ってアリオスさんに諌められて恥ずかしそうにしていた学生だったんだぜ……

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