(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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特務支援課を尊敬するとある桃色髪「クロスベルの人間にとっては特務支援課の人たちはどっかの帝国の英雄よりもはるかに英雄だって事!」
盲信の一歩手前のレベルで尊敬する義兄よりも上と言われて張り合おうとする黒兎「(汚職議員を摘発する事もマフィア勢力を1ヶ月で一掃する事も)リィンさんなら出来ましたよ?リィンさんなら出来ましたよ?リィンさんなら出来ましたよ?」



流石にネタです。軽い冗談です。
こんな事には流石にならないと思います。多分


一時の休息

 東通りの一角に存在する東方風料理屋《龍老飯店》にて5人の男女が集っていた。

彼らこそ、クロスベルの英雄として呼び声も高き《特務支援課》の面々である。

 

「久しぶりに集まる事が出来たと思ったら、まさか一ヶ月でまた解散になるとはな」

 

 ため息をつきながら一行の中でも最年長たるランドルフ・オルランドは告げる。

 マフィア打倒の“聖戦”のために再集結を果たした特務支援課だったが、一緒にいられる期間はたったの一ヶ月で終わる事となった。

 理由としては至って簡単で、マフィア勢力の掃討作戦が終結し、後ろ盾となっていた灰色の騎士の本国への帰還が決まったからである。

 

「たった一ヶ月。たった一ヶ月で、彼はやってのけたのよね。お祖父様やお父様にお母様がやりたくても、ずっと出来なかった事を……」

 

「良いことではあるんですよね。汚職議員が摘発されたことも、マフィアが一掃された事にしても」

 

 続くエリィとノエルの言葉はどこか憂いを帯びたものだった。

 そう、リィン・オズボーンが為した事は紛れもなくクロスベルに益を齎すことである事は疑いようがない。

 何せ汚職議員にしても、裏社会に君臨するマフィアにしても心ある者たちなら眉を潜めて、いずれ然るべき罰を下さんと思っていた相手なのだから。

 ただ、それでも手放しに称賛する事が出来ないのは、所謂嫉妬によるものなのだろうかと二人はその端正な顔を憂いによって少しだけ歪ませる。

 

「ああ、それは間違いないよ。彼のやった事は多少強引なところはあったが、総て法律に則ったものだったし、判断にしても的確で公正そのものだった。正直、味方にしていて凄く頼もしかった」

 

 高性能の導力演算器もかくやというレベルの処理能力と未来でも予知しているのではないかというレベルで的確かつ果断な指示。戦士としてだけではない、指揮官としてもリィン・オズボーンは傑出していた。

 しかもその脇をアランドール少佐とリーヴェルト少佐という二人の敏腕将校が支え、更には卓越した情報処理能力を誇るオライオン少尉という副官までもが居るのだから、もはやマフィア如きの手に負えるはずもなかった。

ただ、それにしても余りにも上手く行き過ぎ(・・・・・・・)ではないかという言葉にできない奇妙な違和感があるのだが。

 

「半年前にシャーリィのやつとやり合えていた事にも驚いたが、今回は極めつきだったな。

 今の奴さんだったら叔父貴やアリオスの旦那とだってタイマン張れるぜ」

 

 ランディが思い浮かべるのは今この場に居る面子に、星杯騎士であったワジ、それに銀という凄腕の暗殺者だったリーシャという助っ人二人も加わって7人がかりでようやく倒せた人の形をした怪物たちだ。

 正直その勝利にしても10回に1回を土壇場で手繰り寄せたと言った感じで、もう一回やれと言われたらやれるかどうかはかなり怪しいところだ。

 

「正直、変わりすぎです。私達も成長している自信はあったというのに、何なんですかあの人は。

 会う度に別人のように凄まじくなっているんですが。半年で准尉から准将っていくらなんでも出世し過ぎでしょう」

 

 准将というのは当然だが、それほど安い地位ではない。

 士官学校出身のエリートであっても大半は大佐でもって現役を退くというのが一般的だ。

 軍人の階級を民間企業に例えると、兵卒はアルバイト、下士官は一般職正社員、尉官は総合職正社員、佐官は部課長、将官は役員といったところで、エレボニア帝国正規軍は総員80万人の超巨大組織で、これは大陸最大の企業グループであるラインフォルトとヴェルヌの従業員を足した数よりも遥かに多い。

 そんな80万を超える超巨大企業の役員についこの間まで幹部候補生に過ぎなかった10代の若者が役員にまで登り詰めたのだ、どれほど異常なことかがわかるだろう。

 彼の父たるギリアスにしても養父たるオーラフにしても将官となったのは30代、貴族という事で出世が早く正規軍よりも規模が小さい領邦軍の双璧でさえも、准将の地位に就いたのは26になってからの事である。

 皇族でもない人間が18の若さで准将の地位に就くなど、エレボニアの長き歴史に於いても史上初である。

 

「それについては、興味深い噂があるのよね~」

 

 突如として旧知の声が響き、声のした方を向いてみると、そこには案の定特務支援課の一行にとっても馴染み深い顔の女性が居て……

 

「グレイスさん」

 

「おいおい、聞き耳でも立ててたのかよ」

 

「その、興味深い噂というのは?」

 

「皆も聞いた事くらいはあるでしょう。

 当時帝国軍准将だったギリアス・オズボーンが突如として帝国宰相に抜擢された謎について。

 交流のなかった平民を宰相に抜擢するのみならず、ほとんど全権委任と言っていいレベルでユーゲント皇帝は何故オズボーンを信頼したのか?

 そこから派生した噂よ。曰く、ギリアス・オズボーンは実は先代皇帝の所謂ご落胤だった。

 ユーゲント皇帝はその事を知っているからこそ、罪滅ぼしも兼ねて義兄を宰相にして、その息子であり自身にとっては甥である灰色の騎士を筆頭騎士にしたって噂よ」

 

 ま、民衆なんてのはとかく皇子様だとかお姫様だとかが大好きな生き物だから話し10分の1程度に捉えた方が良いと思うけどね~等と冗談めかして告げたグレイスの言葉に苦笑いを浮かべる一行を他所にロイドだけは、どこか真剣な様子で考え込み始める。

 思い浮かぶのは、どこか高貴さを感じた件の青年の所作。半年前まではそういった印象は受けなかった。まさしく軍人然とした硬骨漢、それがリィンから受けた印象であった。

しかし、再会した彼から漂っていたのはある種の高貴さ。そう、それは全くタイプは異なるが、かつて帝国の皇子に会った時にも覚えたもので……

 

「ロイド君ってばなんだか真剣に考え込んじゃったみたいだけど、ひょっとして何か心当たりあるの?」

 

「あ、いえ。別に根拠や証拠があるわけじゃないんですが、なんというか確かに皇族だと言われても納得な気品を感じるようになったなと思って」

 

 ロイドのその言葉に一行は目を丸くして

 

「言われてみれば……」

 

「頬に傷が出来たのも相まって武骨な印象が強いですけど、確かになんというか妙なオーラというかある種の高貴さを感じる様になりましたね。通商会議の頃まではそんな事もなかったんですけど」

 

 しみじみとした様子で語っていく直接リィンと面識がある支援課のその評にグレイスは興味深そうに目を細めて

 

「ふーん、直接会った事のある貴方達がそんなふうに言うって事はあながち根も葉もない噂ってわけでもないのかもしれないわね……」

 

 オズボーン父子皇族説。あるいは追っかけてみる価値のあるネタかも知れない等とグレイスが考え込み出したところで、カランとドアが開く音がして……

 

「すいません、13時に4人で予約していたオズボーンですが」 

 

 この一ヶ月でクロスベルでも知らぬ者は居なくなった、渦中の英雄がとても皇族とは思えない気さくさで、何処にでも居る青年のような気さくな笑みを浮かべながら現れたのだった……

 

 

・・・

 

「しかし、奇遇ですね。まさかこんなところで特務支援課の方々にお会いする事になるとは」

 

 テーブルの上に所狭しと並べられた満漢全席、それをマナーは完全に遵守した上で貪るような速度でリィンは平らげていく。

 以前よりリィンの食欲は旺盛な方ではあったが、髪が白くなってからというものリィンの肉体は以前にも増して貪欲に栄養を欲するようになり、今やリィンの食事量はトールズの後輩たるマルガリータ嬢にも匹敵する領域である。最も運動量が激しいためか、そのエネルギーは総て脳と肉体へと行き渡り、肥満の兆候さえリィンの肉体には全く見えていないのだが。

 一時期味覚を喪失していたのも相まって、味覚が戻って以後のリィンは金銭面で全く不自由しないのも相まって中々の食道楽となりつつある。

 

「いや~すみません、支援課の皆はともかく私までご馳走になっちゃって」

 

 支援課の存在に気づき、せっかくだから一緒にどうかと言われ、迷う支援課一同を他所にちゃっかりとした様子で加わったグレイスは笑顔を浮かべながら、同様に舌鼓を打つ。もはや知らぬ者は居ない、英雄を相手に中々に肝っ玉が据わった態度であった。

 

「何、構わないさ。君たちクロスベル・タイムズにも此度の掃討戦では色々と協力して貰ったからね」

 

「そう言ってもらえると有り難いです。リーヴェルト少佐にアランドール少佐にオライオン少尉と一緒で、さしずめ今回は閣下の腹心達をねぎらうための慰労会というところでしょうか?」

 

 貪欲に少しでも情報を集めんと食いついてくるグレイスにリィンは苦笑を浮かべて

 

「そんな大層なものではないさ。単に働きすぎだと叱責を受けてね、せっかくだから姉弟水入らずでたまには食事をと思ったとそんな程度の事に過ぎないよ」

 

 その言葉を証明するように今のリィンは極めて珍しい事に軍服ではない私服姿で、それはクレアにしてもレクターにしてもアルティナにしても同様であった。

 というか専ら午前はそのへんの飾り気があまり無いアルティナをクレアが着せ替え人形にして、リィンとレクターはほとんどそれに付き合う形となっていた。

 

「ほうほう、姉弟水入らずという発言を聞くに閣下とお三方の付き合いは公的なものだけではなく、プライベートでも親密な仲だと捉えても?」

 

「ああ、構わないよ。三人とも私にとっては血こそ繋がっていないが、紛れもない私の家族だからね。特にリーヴェルト少佐とアランドール少佐は私にとっては軍人のいろはを教えてくれた師でもある」

 

 すっかりと手馴れた様子でリィンは食事を取りながらもグレイスの猛攻をいなし続ける。

 そこには世慣れぬ若者の姿ではなく、すっかりと円熟した大人の姿があった。

 

「改めまして、鉄道憲兵隊所属のクレア・リーヴェルトと申します。

 支援課の皆様のお噂はかねがね。お会いできて光栄です。

 ほら、アルティナちゃんも」

 

 クレアから挨拶を促されてアルティナは小動物のようにもぐもぐと動かしていた口を一旦止めて、口の中に入っていたものを飲み込み

 

「帝国軍情報局所属アルティナ・オライオン少尉です。

 現在はオズボーン准将閣下の副官を務めて居ます。

 もうすぐ帝国本土に戻るまでの短い間ですが、よろしくお願い致します」

 

 アルティナの告げたもうすぐ帝国本土に戻るという言葉にロイドたちは反応して

 

「……やはり、閣下はもうすぐ帝国本土に帰還されるんですね」

 

「リィンで構わないよ、ロイド。俺と君達の仲じゃないか。

 オフィシャルの場ならともかく、今はプライベートの場なんだ。

 今此処に居るのは帝国正規軍准将とクロスベル軍警少佐ではなく、ただのリィンとただのロイドだ」

 

 屈託のない、かつて一年前も見た少年のような笑みをリィンは浮かべる。

 

「……ああ、わかったよリィン。それで」

 

「先ほどの質問に関する答えならその通りだよロイド。

 元々俺がこの地に派遣された目的は共和国の侵攻からこの地を守る事、そしてこの地の腐敗と闇を一掃する事だったからね。

 総督閣下は優秀で打つ手も的確だし、何よりこの地にはクロスベルの英雄である君たち特務支援課も居る。

 俺はめでたくお払い箱、ようやく晴れて婚約者の居る本土に帰還できるというわけさ。

 本来なら3ヶ月はかかると思っていたが、まさかわずか1ヶ月で終わるとは思っていなかったよ。

 これも偏に君たち特務支援課の活躍があっての事だ」

 

 そう、本来であればクロスベルの腐敗と闇を一掃するのにリィンは三ヶ月はかかると見込んでいたのだ。

 だというのに蓋を開ければどうだろうか、わずか1ヶ月でそれが達成されたのだ。

 まるで何者かに仕組まれている(・・・・・・・・・・・)かのようにあっさりと。とんとん拍子で。

 それは無論リィンの卓越した指導力やクレア率いる鉄道憲兵隊、レクター率いる帝国軍情報局の助力や

 そしてクロスベル総督と帝国宰相という後ろ盾の存在、そしてなおかつクロスベルの英雄たる特務支援課の協力を得た事で

 帝国とクロスベルの垣根を超えた協力体制を築けた事が無論大きい。

 しかし、それにしても1ヶ月というのは余りに順調過ぎる速度であった。

 物事が思惑通りに運ぶという事は殆ど無い。なぜかと言えば、トップから下にその命令が届くまでに現実には様々な“摩擦”が発生するからだ。

 故にそうした計算外の“摩擦”を相手に適宜修正を加えていく対応力こそが、所謂名将と呼ばれる人物には求められる物なのだが

 今回リィンはその対応力をほとんど発揮する事無く終わったのだ。1ヶ月での終結というのは理論上最大効率で進めば(・・・・・・・・・・・)其れ位で終わるというもので

 当然ながら現実に於いてそのような最大効率などというものが発揮できる事などまず無い。故に様々な“摩擦”も考慮して三ヶ月程度と見積もっていたのだが

 どういうわけか、今回はその最大効率を発揮し続けたのだ。リィン・オズボーンの想定を上回るような出来事が最初から最後まで起こること無く。

 そしてその事に対して、はて、これは一体どういう事かとまるで気づかない内に自分がチートを使っているような奇妙な居心地の悪さをリィンとしては覚えているのだった。

 

 ……などとリィンとしては大真面目に思考を張り巡らしていたのだったが、特務支援課の面々はとある爆弾発言に完全に意識を取られて唖然とした表情を浮かべていた。

 

「そのリィン、聞き間違いだったかもしれないけど今婚約者って言わなかったか?」

 

「?別に聞き間違いじゃないぞロイド。トワと内戦が終わったら結婚しようと、そう約束してね。

 午後からはそのトワへのプレゼントを見繕うのに、義姉さん達にも付き合って貰うつもりなんだ」

 

「そ、そうなのか……」

 

 屈託のない笑みを浮かべるリィンのその姿にロイドは唖然としながら相槌を打ち

 

「……なんつーか、アレだな。准将だとかそんなお偉いさんになった事よりも遥かに男として差をつけられた気分だな」

 

 自分よりも年下が結婚するという事実、それにどこか打ちのめされたような様子でランドルフ・オルランドはしみじみとした様子で呟くのであった……




クレアの統合共感覚、レクターの直感が帝国の呪い所縁の因果律操作能力の発現の仕方の一つだとするなら
当然真なる黄昏の贄にして鉄血の子の筆頭のリィンもその辺持っていますよね!

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