鉄血宰相ギリアス・オズボーン
クロスベル総督ルーファス・アルバレア
灰色の騎士リィン・オズボーン
クロスベル議会議長ヘンリー・マクダエル
議長秘書エリィ・マクダエル
以上だ!
帝国のやべぇやつらが揃い踏みだが頑張れマクダエル議長!負けるなマクダエル議長!
灰色の騎士はついさっきクロスベルの英雄をボコしていたぞマクダエル議長!
ルーファス総督はクロスベルの新しい英雄達を封殺しているぞマクダエル議長!
鉄血宰相はジュライを併合する時に貴方のような立場だったアームブラスト市長をジュライ市民に生贄として差し出させたぞマクダエル議長!
孫娘の男を見る目が確かな事が唯一の救いだなマクダエル議長。
アルカンシェル、それはクロスベル最高の劇団であり、半年前の西ゼムリア通商会議でも観覧していった事で知られるクロスベルの“誇り”である。その公演のチケットはあっという間に売れてしまい、立ち見席でさえも入手するのが困難で、ましてや貴賓席ともなれば使用できるのはそこらの成金ではない社会的地位の伴った本物の要人のみとなってくる。
そして今宵そんな貴賓席を利用するのはそんな、本物の要人たちであった。
帝国宰相ギリアス・オズボーン、クロスベル総督ルーファス・アルバレア、獅子心十七勇士筆頭《灰色の騎士》リィン・オズボーン准将、そしてクロスベル議会議長たるヘンリー・マクダエルとその秘書を務めるエリィ・マクダエル。以上5名が貴賓席の利用客であった。
自治州時代に当時市長であったヘンリー・マクダエル氏が当時アーネスト秘書によって暗殺されかかるという憂き目にあったこともあって警備の体勢は万全。
宰相の信認厚き鉄血の子どもの一人たる、《氷の乙女》クレア・リーヴェルト少佐が精鋭たる鉄道憲兵隊を動員して鉄壁の警備体制を敷いている。……最も本来であれば、そんな警備も必要ないのかもしれない。
何せ今宵貴賓席には比喩抜きで一騎当千の実力を持つ、帝国最高峰の実力者にして鉄血宰相の腹心中の腹心が居るのだから。共和国が暗殺者として差し向けたとしても、その双剣の錆となって終わるだけだろう。
「こうして共に舞台を見るのは半年振りになりますかな、議長殿」
「然様ですな宰相閣下。……あの時准尉として護衛を務めていた少年が、今や准将とは。
いやはや若者の成長とは早いものですな。宰相閣下もさぞや鼻が高い事でしょう」
「フフ、確かに准将には至らぬ我が身を何かと支えてもらっており、感謝が絶えぬと思っておりますよ。
ルーファス総督と言い、若い力が着実に育っている事を考えるとそろそろ
目をかけていた秘書に殺されかけ、クロスベル市民の期待を背負い、結果見事暴走した市長ととことん後進に恵まれず
老齢の身でありながら未だヘンリーが第一線で踏ん張り続けざるを得ないクロスベルの情勢を当てこするようにギリアスは告げる。
「いえいえ、未だ私など閣下には到底及ばぬ若輩の身。クロスベル総督という大任をこなすだけで精一杯の身に過ぎませんよ。
クロスベルの闇をこの短期間で一掃出来た事は、准将の尽力無くしてあり得なかったのですから。
議長殿も、そうは想われませんかな?
そしてルーファス・アルバレアもまた続く。
ヘンリー・マクダエルがクロスベルの腐敗と闇を是正したいと願いつつ、ついぞ出来なかった原因に自分達帝国の圧力があった事を百も承知の上で。
「いえ、それらは自分一人で為したわけではありません。
鉄道憲兵隊のリーヴェルト少佐、情報局のアランドール少佐、我が副官たるオライオン少尉、そしてそこにおられるエリィ秘書を含む特務支援課の方々を始めとしたクロスベル軍警察の協力。
これらがあってこそ為し得たものです。決して私一人の功ではございません」
そこでリィンは老若男女を問わず見惚れるような微笑を浮かべて
「今後も
宰相閣下の演説の通り、帝国とクロスベルに永久の繁栄を訪れる事を私も願って止みません」
告げるのはもはやクロスベルは帝国の一部なのだという言葉。
思うところはある、宰相たる父ともう一人の義兄であったクロスベル総督に対して。
だが、それと公人としての立場はまた別問題である。
此度のクロスベル併合についてリィン・オズボーンには後ろめたいところなど一切ない。
総ては祖国たる帝国のためと信じて行ったこと。侵略者、殺人者という罵倒は幾らでも感受しよう。
だが、これは必要な事だったのだ。例えそれが、目前の気骨ある老翁の政治家にとっては胸を裂かれるような痛みだったとしても。
万人に取っての正義など存在せず、正義と正義が対立した時
その上で、クロスベルの繁栄を願うリィン・オズボーンの気持ちに嘘偽りは断じて存在しない。
この地はもはや愛する帝国の一部なのだから、心の底より
「いやはや素晴らしい。いささか自身を過小に評価しすぎているきらいはあるが、確かに君の言うとおりだ准将。
一人で出来る事などたかがしれている。ならばこそ、人は国という共同体を作り上げたのだから。
マクダエル議長、改めて今後ともよろしくお願いいたします。
クロスベルの良心と謳われ、ディーター・クロイスの暴走の際も一貫して
今後とも、どうか至らぬこの若輩者を支えて下さると助かります」
「……それが
全霊を以て私に課せられた義務を果たしましょう」
微笑を浮かべながら告げるルーファス総督とそれに応じるマクダエル議長の姿。
それを満足気に眺めるとギリアスは
「いやはや、頼もしい限りだ。ルーファス卿の才智とマクダエル議長の経験が合わさればもはやこの地の繁栄は約束されたも同然。
残る懸念事項は今もって逃走中のアリオス・マクレインなる手配犯位かな?」
告げたのはクロスベルの守護神と謳われた人物が帝国からどう見られているかを示す言葉。
それを前にしてアリオスの為人を知っているヘンリーとエリィは表情を強張らせる。
「……申し訳ございません。それに関しては交戦しておきながら取り逃がした私の責です」
「謝罪は不要だよ准将。君で不可能だったというのならば、今の帝国に居る他の誰でも不可能という事だ
重要なのはあと一歩のところまで追い詰めながら、彼の逃亡を手助けをする協力者が居たという事実。
それも、我が帝国の警備網を突破する程の凄腕のだ」
笑みはそのままに、されどその瞳の奥に剣呑な色を宿してルーファスは告げる。
「こうなってくるとこの地の軍警部隊では少々荷が勝つかもしれません。
宰相閣下、灰色の騎士殿にもう今しばらくこの地に留まって頂くわけにはいけませんかな?」
総督としての計算、そしてそれ以上のまるでお気に入りの遊戯相手と別れたくなくて駄々を捏ねる子どものような色を滲ませながら、親にわがままを告げる子供のような笑みを浮かべながらルーファスは告げる。
「ルーファス卿、准将は皇帝陛下の筆頭騎士であり、命令を下せるのはこの世において今上陛下ただお一人だ。
願うのならば、私ではなく皇帝陛下へとする事だな」
そしてそんなルーファスの言葉にギリアスは我が子を嗜める親のように苦笑を浮かべながら告げる。
願いを言う相手を間違えていると。ーーー灰色の騎士は皇帝直属という建前だが、実質的には宰相直属の筆頭武官である。そんな風に噂をされているのを承知の上で。
「そして、その上で陛下の代理人として私見を述べさせて貰うならば、それは些かに難しいだろう。
既にクロスベルの地にはある程度の秩序が齎された。准将の力を必要とする地は他にもあるのだからね。
ーーー代わりと言っては何だが、反逆の罪により、解散となった近衛部隊。それらを総督直属の部隊として君に回そう」
「ーーーそれはそれは。閣下のご厚情には誠に感謝の念が絶えません」
父より与えられた新たな課題、それにルーファスは微笑を浮かべながら応じる。
すなわちギリアスは体よく押し付けたのだ、近衛部隊の処遇という爆弾をルーファスに。
カイエン公の反乱に与した近衛をそのままにしておく事など出来ず、近衛軍は解散の憂き目にあった。
しかし、精鋭たる人材をそのままにしておくのはあまりに惜しいし、何よりもこうした居場所がなかった軍人達が金銭を目当てに猟兵となるというのは良くある事だ。
故に、叶うことならば再利用をしたい。しかし、そのまま正規軍に編入をするのは難しい。故にこその処置である。
見事、それらを有効活用してみせろとギリアスはルーファスへと宿題を押し付けたのだ。
それはすなわちルーファスの手駒に直々に引き抜いたクロイツェン州の精鋭に加えて新たな手札が加わるということであり、よりクロスベルが苦境に立たされるという事を意味するものであった……
・・・
リィン・オズボーンは芸術分野への興味が薄い男であった。
その才智の多くは軍事や政治という分野に主として向けられており、トールズにおける芸術担当教官であるメアリー・アルトハイム等はその他教科の貪欲さに比しての己の担当教科への意欲の薄さを残念がった程である。
しかし、そんな男の視線が今や舞台へと釘付けとなっていた。それは、確かな研鑽がその舞から見て取れるから。
(この世に於いて最も美しく尊いのは己が職務に誇りを以て取り組む人の姿であるーーーというのは誰の言葉だったかな)
なるほど、これは確かにクロスベルの“誇り”とまで言われるはずだと目の前の光景に感心させられる。
それは分野は違えど確かな一流と呼ぶに値する仕事であった。
故にこそリィン・オズボーンは舞を行う銀の姫を見て浮かんだ、どこかで会った事があるような奇妙な既視感を他所へとやる。
何時までもそのような事に気を取られて、目の前の演技に集中しないのは一流の仕事を行い続ける演者達に失礼だと判断したがために。
半年前にも父の護衛でアルカンシェルへと同行したからこその、奇妙な既視感なのだろうと誤解をしたままに……
・・・
「いやはや、素晴らしいものを見せてもらった。これでも審美眼は肥えている方だと自負しているのだが、これは称賛する他ない。そうは思わんかね、准将?」
舞台が終わった後に興奮も冷めやらぬ様子でルーファス・アルバレアは告げる。
その言葉は演技ではないのだろう、アルバレア家の嫡男たるルーファスは幼少より一流の芸術に触れて育っており、武骨なリィンとは違い、一流の趣味人として社交界に於いては広く知れ渡っている。芸術というのは貴族社会における共通の話題だからだ。
「……そうですね、確かに素晴らしいものでした。武骨者故芸術とは縁なき生活を送っていた身ですが、今後はこうした分野へと目を向けてみるのもいいかもしれませんね」
「そうすると良い。芸術は心を豊かにしてくれる。せっかくの特権なのだ存分に利用すると良いだろう、君はその特権に見合うだけの確かな功を打ちたてたのだから」
獅子心十七勇士は筆頭以外は権限の無い事実上ただの名誉職ではあるが、実利がまったくないというわけではない。
帝国最強にして最高の騎士たる彼らには様々な特権が与えられる。
一定額の恩給の授与。鉄道及び飛空便の優先利用。そして、帝国歌劇場の貴賓席の使用権もその一つだ。
つまり、今のリィンは多くの趣味人が願っても止まない特等席をボックス席に収容できる四人までなら年中何時でも無料で利用可能という立場なのだ。
正直、さして興味のない特権であったが今後は利用して見るのも良いかもしれない。そんな気分にリィンはなっていた。それほどまでにアルカンシェルの舞台は素晴らしかったのだ。
最愛の恋人であるトワはもちろんクロウやアンゼリカにジョルジュと行った親友たち、クレア義姉さんにレクター、ミリアム、アルティナ、エリオット、フィオナ義姉さんと行った家族。
そして……
チラリとそこでリィンはどこか何時もに比べて上機嫌な父の様子を伺い見る。
……問いたださなければならない。この人が一体何を考えているのかを。
愛する祖国を一体
その結果あの本の記述がただの杞憂であったのならば良い。
だがそうでなかったのならば、その時は……
「楽しい一時だった。いずれまたこのような機会を持ちたいものだな、そうは思わぬか
瞬間、告げられたのはどこまでも優しい言葉。
帝国宰相として灰色の騎士に告げる言葉ではなく、父の息子に対する言葉だ。
「……うん、そうだねギリアス父さん。今度来る時は俺達だけじゃなくて家族全員で」
故にこそリィンもまた告げる。
灰色の騎士としてではなく、ギリアス・オズボーンの息子リィン・オズボーンとして。
それで父と子の語らいを終わり、鉄血の親子は再び共に鋼鉄をまとう。
父の方は鉄血宰相として。息子の方は灰色の騎士として。
どちらも例え親子であろうと譲れぬ願いを抱いて……
かくして灰色の騎士リィン・オズボーンはクロスベルの地を跡にして、帝国政府専用列車アイゼングラーフにて父たる宰相と共に帝国へと凱旋を果たすのであった。
ルーファス「ねぇねぇ今どんな気持ち?」
ギリアス「長年どうにも出来なかったクロスベルの腐敗をうちの息子が1ヶ月であっさり解決しちゃってねぇ今どんな気持ち?」←圧力かけていた張本人
マクダエル議長「…………」
主人公イジメだと思ったか?
今回は主人公もパッパと腹黒兄と一緒にマクダエル議長をいじめる立場だよ!
マクダエル議長には強く生きて欲しいものです。