(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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3rdオリビエ「宰相、貴方のやり方はある種の幻想を作り上げて国民を熱狂の渦へと巻き込んでいくだろう」

おや、こんなところに内戦を収めて宿敵共和国を破った若き英雄という国民を熱狂の渦に巻き込むのに格好の“幻想”が。
これは鉄血の子ども筆頭にして真の黄昏の贄ですわ。


鉄血の子どもたち

 七耀暦 1205年3月10日。灰色の騎士リィン・オズボーンはクロスベルでの任を終え、帝国宰相にして実父たるギリアス・オズボーンと共に帰還の途につく。道中の護衛はクレア・リーヴェルト少佐率いる鉄道憲兵隊が行い、リィンは父と同じ車両を使い帰還する事となった。

 

「なるほど、それでは准将が軍人を志したのはやはりお父君である宰相閣下の影響と」

 

「ええ、父は私の憧れであり、目標でした。何時かあの大きな背中に追いつき、肩を並べて軍人となるのだと子ども心に誓ったものです」

 

「いやはや、改めてこう言われると些か面映いものだな。しかし、お前が18の若さで就いた准将という地位に私がついたのなど30も半ばを過ぎてようやくのこと。どちらの方がより軍人として優れた資質を持っているのは火を見るより明らかというものだろう。父としては誇らしくもあり、同時に器の違いというものを突きつけられているようでもあり、些か複雑でもあるな」

 

 そしてその帰路、リィン・オズボーンとギリアス・オズボーンは和やかな会話を行っていた。帝国最大の発行部数を誇る大衆紙帝国時報と革新派寄りで知られるプロレタリア・フロイントの記者の取材を受けながら。取材を行っている記者は所謂政府のお抱え記者という奴であり、その内容は「ユーゲントⅢ世の誇る忠臣の鑑オズボーン父子!その素顔に迫る」等という題で発表される事を予定している。

 要は息子である灰色の騎士を利用した鉄血宰相のイメージアップ戦略のための公務、それが今リィンが応じている取材内容だ。そこに映っているのは公権力に抗ってでも真実を追求しようという気概のある真のジャーナリストの姿ではなく、ただただ長いものに巻かれる事で甘い蜜を吸おうという俗物の姿。

 私的な感情を言えば、塩をまきながら追い払いたいところではあるが、帝国正規軍准将という公人としての職責を思えばそういうわけにも行かない。皇帝直属筆頭騎士の灰色の騎士の使命が皇帝陛下と祖国に仇なす存在を打つことならば、帝国正規軍准将リィン・オズボーンの職責は軍と政府の名誉を護る事なのだから。故にこそ、内面にある不快感は内面へと押し隠し、努めて柔和な笑顔を浮かべ、和やかな空気を醸し出しながら取材へと応じる。

 俗物だろうと扱い方次第では有用な駒足り得る以上、そうした存在の扱い方も自らの大望を思えば心得なければならないのだと己を律して。

 

「それについては、父さんが現役だった頃と今の帝国軍の体制の違いもあるだろ?

 父さんが現役だった頃はまだまだ貴族派が幅を効かせていて、平民だというだけで昇進速度が不利だったわけだし」

 

「それを加味しても、お前と私の差は明らかだと思うのだが……いや、まあ良い。そういうことにしておくとしよう。私にも父親としてのプライドというものがあるのだからな」

 

 素顔に迫るという題材故、今のリィンとギリアスは帝国正規軍准将と帝国宰相という公人としてではない、私人としての素顔を覗かせているという建前(・・・・・)の下で会話をしているため、その会話の内容は和やかで親しげだ。

 しかし、何故だろうか。本当に二人の素顔を知っているクレアにとっては今の二人の方が余程、仮面を被って演じているようにしか見えなかった。帝国臣民に親しみを持たせるための、仲の良い親子という仮面を被っているようにしか。

 

「ところで、宰相閣下は准将閣下へとアランドール少佐にリーヴェルト少佐という、俗に“鉄血の子ども”と称される閣下の腹心二人を送り、英才教育を施したと聞いているのですが、これはやはり准将の事を自身の後継と幼少期より見込んでいたと捉えてもよろしいのでしょうか?」

 

「全く期待していなかったと言えばそれは嘘になるだろうな。子が自らの跡を継ぎ、超えてくれる事は親にとっては至上の喜びと言うべきものなのだから。だが、それでも私は子が望んでいないのに自らの都合で道を強制する程に狭量ではないつもりだ。何よりも己の道というのは己自身で定めてこそ、そこに覚悟(・・)が生まれる。

 そしてどのような物事でも、覚悟無き意志で大望を果たす事は出来はしないのだから。故に、その二人を教師役として派遣した事、そしてヴァンダールの道場への推薦状を書いたこと、それらは総て親として子どもの夢を応援する。そんな当然の事に過ぎんよ。そうだったな、リィンよ?」

 

 お前は誰に強制されたわけでもない、自らの意志でその道を選んだはずだという父からの問いかけに対して

 

「ああ、そのとおりだよ父さん。誰に強制されたわけでもない、俺は俺自身の意志でこの道を歩む事を選んだ。

 だから父さんには感謝しているよ。俺が、俺自身の夢を叶えるために手助けをしてくれて。

 何よりも俺にとって掛け替えの無い二人の人に、クレア義姉さんとレクター義兄さんに会わせてくれた事に」

 

 心からの笑みを浮かべながらリィンはそんな本音を告げる。

 そう、自分は望んでこの道を歩んだのだ。誰に強制されたわけでもなく自分自身の意志で。

 そしてその過程で目の前の父は、自分にとっても大切な義姉と義兄に出会わせてくれた。

 そこに父なりの何らかの思惑があったとしても、二人が自分を気にかけてくれた事に何らかの代償行為が働いていたとしてもそんな事は関係ないのだ。

 何故ならばクレア・リーヴェルトとレクター・アランドールは紛れもない、自分の家族なのだから。

 

「そうか……それは何よりだ」

 

 そしてそんな息子の言葉に父もまた感慨深げに頷く。

 

「いやはや、これぞ蛙の子は蛙というものですな。

 おそらく幼少期より見せていた宰相閣下の背中があったからこそ、准将閣下もそれに続くために成長なされたんでしょうな!」

 

 そしてそんな二人の親子のどこかしんみりとした空気を記者のギリアスに対するおべっか全開の追従が壊す。

 

「ええ、その通りです。何時か追いつき、追い越したいと願い、目指した偉大なる背中があったからこそ自分は此処まで来れました。かつては余りに遠過ぎて、見失いかけていましたが、ようやく此処まで(・・・・)来れました」

 

 そう、ようやく自分は此処まで来た。

 帝国正規軍准将にして皇帝直属の筆頭騎士という最低限(・・・)、戦いの土俵に乗る事が出来るだけの地盤を獲得したのだ。

 

「フフ、この短期間で此処まで上り詰める事は流石の私としても予想外であった。故に一先ずは、見事だと労いの言葉をかけておこう。

 だが、忘れるな。お前はようやくスタートラインに立ったに過ぎん。此処からが本番だ(・・・・・・・・)

 

 そしてそんな息子に期待を込めてオズボーンは告げる。

 ようやくお前はただの駒から脱して、打ち手になっただけなのだと。

 本当の戦いはこれから始まるのだと。

 

「ハハハハハハ……」

 

「フフフフフ……」

 

「……いやはや、やはり、親子ですな。

 そうして笑われている様子など本当に瓜二つです。

 そ、それでは続けての質問に移らせて貰いますが……」

 

 どこか漂いだした二人の親子の剣呑な空気。

 それを察した記者はどこか居心地悪く感じながらも、仕事を続けるのであった……

 

 

・・・

 

「よ、お疲れさん」

 

「レクターさん……」

 

 アイゼングラーフ号での警護の最中、親しげな様子で声をかけてきたレクターへとクレアは応じる。

 無論談笑をしながらも、万一に備えて警戒は当然ながら怠っていない。

 

「掛け替えの無い義兄と義姉だとよ……ハハ、ったく言っていて恥ずかしくならねぇのかねアイツは。

 聞いているだけでこちとら落ち着かない気分になるってのによ」

 

 肩を竦めながらそんな事を告げるレクターに対してクレアは苦笑を浮かべる。

 掛け替えの無い人だと呼んでくれた事、家族だと言ってくれた事。それを聞いてクレアの胸に過ったのは喜びと後ろめたさ(・・・・・)だ。

 自分はそんな風に言って貰う資格などないのだという負い目。

 

「……大きく、なりましたね」

 

 自分達の愛する義弟は本当に大きくなった。

 それはただの体格的なものではなく、人間的な器という意味で。

 

「ああ、本当にな。ちょっと前まではからかい甲斐のあるガキだったのによ。

 いつの間にやら准将様で帝国の英雄灰色の騎士様だ。すっかり追い抜かれちまって義兄貴分としては立つ瀬がないってもんだぜ」

 

「それは私の方だってそうですよ。教師役だったというのに、今ではもう私が教える事なんてほとんど無いんですから」

 

「お前さんの方はまだいいだろ。こっちには曲がりなりにも義兄貴分としての沽券ってものがあってだなぁ

 俺らの知らなかった長男様は長男様でクロスベル総督で、野郎の中じゃいつの間にか俺が一番下っ端なんだぜ?」

 

 クロスベル総督、帝国正規軍准将にして皇帝直属筆頭騎士に比べて情報局少佐等木っ端も良いところだとしかめっ面でレクターは告げる。

 そうしておどけていたレクターは一転して真剣そのものな、されどどこか遠くを見つめるように流れ行く車外の景色を見つめながら

 

「……覚悟しておいた方が良いのかもしれねぇな、お互いに」

 

「……………………」

 

 告げられたレクターの言葉、それを受けてクレアは黙って俯く。

 それは彼女にとっては夢の終わりを意味する言葉だったからだ。

 

「アイツは本当にでかくなった。もう無邪気に父親の事を信じていたガキじゃねぇ。

 軍人として、英雄として、独り立ちしようとしている息子としてギリアス・オズボーンに相対しようとしている。

 俺たちが家族ごっこ(・・・・・)に浸っていられるのも、もうじき終わりなのかもしれねぇな」

 

 レクター・アランドールとクレア・リーヴェルトにはリィン・オズボーンに対する負い目がある。

 そしてそんな負い目と家族の居ない寂しさをどちらも、リィンと接する事で紛らわせていた。

 それは家族を失った少年と少女の行ったある種の代償行為だったのだろう。

 どこまでも真っ直ぐな少年と過ごす日々にクレアとレクターは確かなぬくもりを感じていたのだ。

 

 されど子どもだった少年は、大きく成長して今、父の手元を離れて歩き出そうとしている。

 リィン・オズボーンとギリアス・オズボーン、二人の決裂の時は近い、そんな予感が二人の中にはある。

 それは長年に渡り鉄血宰相に仕え続けて、朧気ながらもギリアス・オズボーンの目指す地平が見えてきた二人だからこその予感。

 ギリアス・オズボーンの子どもであり、同時にリィン・オズボーンの兄弟という身内である二人だからこそのものだ。

 そしてそれはレクターとクレアにとってもある選択を突きつけられるという事でもある。

 

 すなわち、ギリアス・オズボーンとリィン・オズボーン、義父と義弟どちらに就くかという。二人にとっては究極の。どちらを選んでも身を裂くような痛みを伴う事になる決断の時が訪れるという事なのだ。

 

 リィン・オズボーンとギリアス・オズボーン、共にこの時代に於いて冠絶する二人の“英雄”の決裂と激突の時は刻一刻と近づいていた……

 

 




またクレア少佐が曇っておられるぞ。
こういう時は天真爛漫な義妹にアイスでも奢って気分転換しましょう!
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