(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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ユーゲント三世は若気の至りはあったものの、人格も能力も名君と称えられるだけのものはある。
だけどどうしようもなく運命だとかに抗おうとする気概が抜け落ちてしまった人というのが個人的な印象になります。


栄光と影

「「「「「灰色の騎士様万歳!リィン准将万歳!!!」」」」」

 

 帝都ヘイムダルへと2ヶ月振りに降り立ったリィンを迎えたのはそんな自身を讃える大合唱であった。周囲を見渡せば巨大な構内を埋め尽くすような群衆だった。「リィン准将お帰りなさい」と書かれた横断幕やプラカードも溢れんばかりに並ぶ。

 

 そうしてリィンとギリアスが車両を降りると、軍楽隊が国歌を演奏し始めた。儀仗兵が両側に整列して、歩くために通路を作る。職務に精励する駅員達も警備の兵も一人も残らず敬礼を捧げている。凄まじいまでの熱烈な歓迎ぶりであった。

 

 実のところリィンは自身の今の帝国での人気というものを少々過小評価している部分があった。内戦が終結すると共に、即座にクロスベル戦線へと趣き、そこでは年配の軍人たちからの父親の威光と皇帝陛下からの寵愛を良いことに奢る「生意気な若造」を見る目に晒され、クロスベルでは当初は“侵略者”として、その後は自身の活躍によって好意と非好意の反応が半々位にまで持ち直したが、それでもそれは“畏怖”の対象としてであり、声援や喝采を受けるようなことからはなかった。

 そしてそれらはどれも無理からぬ正しい態度だとリィンは考えていた。自身が年齢に釣り合わぬ栄達を遂げる事を出来たことに父の威光が働いたのは確かな事実だし、クロスベルに於いてはむしろ進んで畏れられるように努めていた。平たくいえば、リィンはすっかりと嫌われ者になる事に慣れていたのだ。

 

 だが、帝都ヘイムダルにとってはリィンにとっての故郷とも言える地である。5歳の頃にオーラフに預けられて以来この地で生まれ育った、絵に描いたような優等生のリィン・オズボーンを知る者たちも居る上に、ヘイムダルは革新派支持の篤い地だ。故にそこに内戦を終結に導き、宿敵共和国を打ち破った若き英雄が帰還したともなれば、それはもう熱狂的な歓迎となるわけである。

 

「准将、応えてあげたまえ。彼らは君を出迎えるためにこうして此処に集ったのだから」

 

 そうして手馴れた様子で民衆の歓呼へと応えるギリアスの姿に続くように、リィンもまた颯爽とした様子で声援へと応えるように、爽やかな笑みを浮かべながら手を振る。先刻までのぎこちなさが嘘のように手馴れた様子で(・・・・・・・・)。それは見る者達に目に映る若き英雄が生来から人の上に立つことが女神によって定められている人物のような錯覚を与えた。

 

「「「「「リィン将軍万歳!!!オズボーン宰相万歳!!!帝国万歳!!!!!」

 

 割れんばかりの大歓声をどこまでも自然体で受け、二人は威風堂々とした様子で去って行くのであった……

 

・・・

 

 皇族の居城たるバルフレイム宮。内戦の終局にてカイエン公がセドリック皇太子を人質に取り、立て籠もったそこはすっかり落ち着きを取り戻していた。そしてその一室、「黒真珠の間」にて帝国政府と正規軍、皇帝の忠実なる臣下たる無数の高官が集結していた。非常時故後回しとなっていた、帝国正規軍准将リィン・オズボーンの獅子心十七勇士筆頭への叙勲式が執り行われるのだ。

 《獅子心十七勇士》、それは帝国中興の祖たる獅子心皇帝ドライケルス・ライゼ・アルノールが泡沫の候補に過ぎぬ自分の挙兵に付き従った忠臣、否戦友達を讃えて設けた名誉職だ。これに列席されるのは帝国の武人にとっては至上の栄誉であり、その身その言葉には帝国最高峰の武人という確かな重み、“権威”が加わる事となる。

 現在の列席者は《軍神》ウォルフガング・ヴァンダイク大元帥、《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイド、《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィン、内戦に於いてカイエン公爵に与した事から除名すべきだという意見も挙がったが共和国相手の大勝の立役者の一人という事で据え置きとなった、という錚々たる者達が名を連ねており、隻眼のゼクス、赤毛のクレイグ、黒旋風と言った帝国きっての名将達でさえも列席には至ってない事から、その名が如何に重いかを察する事が出来るだろう。

 

 そしてそんな《獅子心十七勇士》の中でも筆頭の地位はひときわ重い。

 なぜならそれは獅子心皇帝が最も信頼した最大の腹心たるロラン・ヴァンダールの就いていた地位だからだ。

 その地位に就くという事、それはすなわち皇帝より最上位の信認を受けたという事だ。

 帝政国家であるエレボニア帝国に於いてその意味が持つものは非常に大きい、何故ならばそれは“権威”という点では皇帝直々に任命する帝国宰相にさえ匹敵するという事なのだから。

 武官の頂点たる大元帥でも、文官の頂点たる宰相でも、後継者たる皇太子であっても命令は下す事が出来ず、命を下す事が出来るのはこの地上に於いて神聖なるエレボニア帝国皇帝ただ一人、それこそが獅子心十七勇士筆頭という地位なのだ。

 内戦に際して《雷神》マテウス・ヴァンダール元帥の死によって生じた大きな空席、そんな地位を《灰色の騎士》リィン・オズボーンは埋める事となったのだ……

 

 

「リィン・オズボーン、汝此処に騎士の誓いを立てエレボニアの騎士として戦う事を誓うか」

 

「イエス・ユアマジェスティ」

 

 玉座の前にて居並ぶ帝国の重鎮達に見守られながらリィンは恭しく跪き、応える。

 玉座の最も近い位置には帝国宰相ギリアス・オズボーン、帝国軍大元帥ウォルフガング・ヴァンダイクが佇みそれに続くように帝国の文と武その双方の重鎮たちが、幅6アージュ程度の赤い絨毯ーーー当然、皇室恩顧の職人たちが編み上げた最高級の品であるーーーを挟んで列を作る。

 

「汝、大いなる正義のために剣となり、盾となることを望むか」

 

 

 今上の皇帝たるユーゲントⅢ世は、若かりし頃にとある若気の至りがあったものの概ね開明的な名君として内外に知られている。

 当時帝国軍准将の地位にあったギリアス・オズボーンを抜擢した事は、当初は暴挙として、貴族勢力にとっては今もだが、見られていたがその抜擢に応えるだけの実績をギリアスが打ち立てて以降は、身分に囚われる事無くギリアスの才幹を見抜いた慧眼としてその声望を高める事となった。

 そしてそんなギリアスに続き、その息子たるリィンを未だ18歳の若さにも関わらず故マテウス元帥の後釜に据えるこの行為はオズボーン親子が皇帝の寵臣たる事をこの上なく明確な形で示す事となる。

 革新派勢力の隆盛と貴族勢力の凋落は、もはや不可避な流れと言えた。

 

 

「イエス・ユアマジェスティ」

 

 そう、ユーゲントⅢ世は敬意と忠誠に値する確かな風格と見識を備えた名君である。

 臣下の功はその臣下の才覚を見抜き取り立てた君主にも帰する以上ギリアス・オズボーンを取り立てて、貴族勢力と革新派の対立という内憂を解消し、その上で共和国という外敵を打ち破り、クロスベルの併合へと成功した彼の業績は歴代の皇帝の中でも暗黒竜を打ち破り帝国に安寧をその命と引き換えに齎したヘクトル大帝、獅子戦役を終結させ世の礎を築いたドライケルス大帝にも比肩しうるもので、後世においてはそれこそユーゲント大帝と称される事となるかもしれない。

 そしてそんな稀代の名君より寵臣と呼ばれるような厚遇を父共々リィンは受けている。全霊の忠誠を誓って当然だ。

 

「エレボニア帝国第89代皇帝の名に於いて、汝リィン・オズボーンを我が騎士として此処に認める。

 これより汝の身は総て帝国の為に。汝、我欲を捨て何時如何なる時もこの誓いに背いてはならぬ」

 

 だというのに何故だろうか?

 眼の前の人物の総身をどこか“諦観”めいた感情が支配しているように感じてしまうのは。

 「この方は諦めてしまった(・・・・・・・)」のだとそんな不遜にも過ぎる失望めいた感情がこの胸の内に広がるのは。

 ドライケルス大帝やヘクトル大帝と言った大帝と呼ばれた者たちが纏っていたであろう決して諦める事無く運命に抗おうとする“覇気”と称される気概、それが決定的なまでに目前の主君から欠けているように思えるのは。

 これならば、アルフィン殿下とオリヴァルト殿下の方が余程………

 

「イエス・ユアマジェスティ」

 

 そんな胸の中より溢れ出す余りにも不敬が過ぎる想い、それを振り払い表にはおくびも出すこと無くリィンは恭しく応じる。

 その様はどこからどう見ても帝室の忠臣そのものである。

 そして授けられた剣を鞘へと収めて、リィンはその場にて屹立する。

 ユーゲント皇帝が居合わせた者たちへ手で合図を送ると万雷の拍手が送られる。

 異例ながらも異論はない、それがその場に居合わせた帝国の重鎮たちの想いであった。

 

 此処にリィン・オズボーンは正式に故マテウス元帥の跡を継ぎ、皇帝第一の騎士へと就任したのであった。

 

 

・・・

 

 式典終了後、改めて内戦の終結とクロスベルの併合、そして共和国相手の戦勝を祝う晩餐会がバルフレイム宮の一角たる翡翠庭園に執り行われ出した。列席者は式典へと出席していた帝国の重鎮たちがほぼそのままに。用意された料理は当然ながら総てが最高の品だ。皇室恩顧の職人が用意した総てオーダーメイドに作成した豪奢な皿に、皇室御用達の原材料を、皇宮に召し上げられる帝国最高峰の料理人たちが振るって用意されたその料理の数々は、そこらの平民であればまず一生以て味わう事の出来ぬ最高の品々だ。

 

「いやはや、宰相閣下がお倒れになられた時はどうなるかと想いましたが、これで一安心といったところですな」

 

「全く以て。カイエンの奴めに囚えられ、虜囚の身となった時は正直死を覚悟したものでしたが……ふふふ、互いに灰色の騎士殿には頭が上がらなくなってしまいましたな」

 

「獅子の子は親と同様にやはり獅子であったとそういう事でしょうな。式典の最中の堂々たるあの風格、将軍の地位に相応しいものでした。年齢には不釣り合いなものでしたがな」

 

 列席者達はそんな品々に舌鼓をうちながら、談笑にふける。

 話題の種となるのは当然、先程の式典の主役でもあった人物だが、その内容は概ね好意的なものとなる。

 何せ帝都に居た彼らは一時貴族連合によって囚えられ、死を覚悟する程の窮地にあったのだ。

 そこから解放してくれた立役者の一人ともなれば、それは必然好意的なものとなる。

 彼らの場合は文官であり、武官としての栄達を遂げたリィンとは得意とする分野が異なるというのも一因であったであろう。

 いずれ彼が父の跡を継ぎ、政界へと転出するにしてもその際行政の経験者にして担い手たる自分たちの力を求めるのは目に見えているからだ。そういう意味でリィン・オズボーンという鉄血宰相の後継の台頭は彼らにとっては手放しに歓迎できる事であったのだ。

 何せ強力過ぎるリーダーを失った場合の喪失が、どれほど重いかというのは彼らはこの内戦でその身で以て味わったのだから。その空白を埋める事となる後継の誕生は彼らにとっては福音と言わざるを得ない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 一方の武官達の方はそう手放しに歓迎出来るものではなかった。

 リィン・オズボーンには紛れもない実績がある、それを認めぬ程に彼らは蒙昧でも視野狭窄でもない。

 だがそれでも理解と納得というのは別物だ。自分たちの半分も生きていない若造が、准将という地位を得たことが面白いはずもない。

 ましてやリィン・オズボーンにはクロスベルでの戦いに於いて、先達である正規軍の重鎮達に対して欠片も斟酌する様子を見せなかった前科(・・)がある。

 故にその反応は才幹がある事は認めるが、どこか納得し難い思いを感じるというものになるのであった。

 無論、中には素直にその才幹讃えるもの、式典での風格を見て軍と国を担う逸材だと期待するものも居たが、それはおよそ全体の3割程度と言ったところであった。

 基よりトールズ士官学院の出身者というのは分野を問わずに帝国の礎を築く人材を多方面に輩出するという目的から軍へと進む者は卒業生の4割程度に留まる。

 そして彼らは学院時代の経験から、良く言えば軍事のみに囚われない広い視野と柔軟な思考、中央士官学院出身者にしてみれば妥協的で柔弱な態度、を持つ傾向が多い。

 そのため文官たちからは好意的に見られる反面、軍の主流派たる中央士官学院の面々からは反感を買う事が多い。

 

 革新派と一概に評されていても、その内部には様々な派閥が存在しており、武官と文官の対立等というのは古今東西何処にでも起こりうる事であった。

 そして貴族派という最大の敵が凋落した以上、今後その対立は徐々にだが確実に激化していくだろう。

 派閥の長となるという事はそんな内憂を束ねる調停力と豪腕を持たねばならぬという事であり、リィン・オズボーンが父の後継となるのであれば避けては通れぬ試練であった。

 

「方々お揃いのようですな」

 

 そんなリィンに対する好意と反感、それらが渦巻く中で渦中の人物たる灰色の騎士は姿を現した。

 父たる帝国宰相と共に主君たる皇帝の傍へと付き従いながら……




トールズ士官学院って卒業後正規軍の軍人になるのは卒業生の3割程度なんですよね。
そうなると当然軍の主流派は別の士官学院出身者になるわけで、多分正規軍内部でもそういう争いは当然あると思うんですよね。
そして武官と文官が対立した時に大体胃壁削って、その狭間で調停役やる羽目になるのって大体トールズ出身の軍人になると思うんですよね。

幅広い分野に人材送っていて文官の方にも在学時代の旧友が居て~みたいなケースがあるでしょうし。
そしてそうなれば軍の同僚からは言われる事でしょう。「お前はこっちとあっちどっちの味方なんだ!」と。
そうして胃壁をすり減らしながら、在学時代の経験で幅広い視野を持ってしまったがためにどっちにも理があることがわかってしまって必死に調停役に奔走する事になる。
それがトールズ出身の標準的な軍人なのかなぁと思います。

なお、黄金の羅刹と灰色の騎士はそんな事(どっちにも理がある事)は知った上で私の無理で押し通す!をする模様。
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