・新設された光翼獅子機兵団の統率及び管理
・パッパ打倒のためにパッパの七光に頼らない軍部内での立場の確立
・レーグニッツ知事、イリーナ会長と言った政財界の要人とのコネづくり
・セドリック皇太子の教育
・ヴァンダール流師範代としての門下生への稽古
・アルティナの教育
・トワちゃんとの新婚生活
・剣術、指揮統率、といったあらゆる分野に於ける自分自身の成長
リィン「やることが……やることが多い……!」←特異体質により1日の睡眠時間1時間の男
「それでは殿下、今後私は内部より宰相閣下の切り崩しを図り、然るべき時が来ましたら殿下へと合流させて頂きます。今すぐに殿下の派閥へと参入するよりも、それが一番効果的でしょうから」
現在のリィンは鉄血宰相の懐刀にして後継者と見られている。
この立場を利用しない手はない。人間、敵からの言葉は聞き入れ辛くとも身内からの言葉には耳を傾けるからだ。
一例を挙げるならば鉄血の子どもたるクレアとレクターなどがそうだろう。
仮にオリビエが先程リィンに対して行ったような説得を二人に対して行ったとしても、恐らく引き入れられる可能性は低いだろう。
彼らにとってギリアス・オズボーンとは恩人であり父でもある、ある種絶対的な存在だから。
例え、オリヴァルト・ライゼ・アルノールの道こそが正道なのだと理解していても、その正道を歩む者たちを眩しそうに見つめながら、あくまで父へと殉じようとするだろう。
しかし、最も父に対して忠実とされたリィンが反旗を翻し、説得を行えばどうだろうか?
その言葉は恐らく、誰よりも彼らの心に届く。最も父を敬愛し、最も父に忠実であったリィン・オズボーンだからこそ。
彼らだけではない、次代の革新派を担う人物であり、鉄血宰相の後継者と目されていてこそ、その言葉はオリビエの届かぬ革新派の面々へと届きうるのだ。
故にこそ今すぐに革新派から離脱して副宰相派である事をアピールする事は得策ではない。
それでは単に親子であっても、政治思想とスタンスの違い故ととられて終わるだろう。
副宰相派の勢力は増強されるが、ギリアス・オズボーンの足元を切り崩すまでには至らない。
故にこそ、リィンはまだまだ高みを目指さなければならない。
リィン・オズボーンの声望は民衆に対してこそ絶大だが、軍部、政界、財界に於いてはまだまだ新米も良いところだ。
実績を積み上げていき影響力、発言力を確固たるものにする。
そして、周囲から自分は鉄血宰相の腹心であり、後継者だと目されるように振る舞う。
そうしてギリアスが暴走を始めたその時、初めて反旗を翻す。
それでようやく、彼を熱狂的に支持する者たちに疑念を与える事が出来るだろう。
腹心である灰色の騎士が離反するなど、ひょっとして不味いのではないかと、そんな疑念を。
その際、レーグニッツ知事のような声望篤き政治家もその時引き込めればそのうねりはより大きくなる。
無論、そんなリィン達の思惑はギリアスにしてもルーファス卿にしてもお見通しだろう。
ことそうした戦いに於いて、リィンにしてもオリビエにしてもあの二人の上を往けると思うほどには自惚れていない。
だが、それでも現状二人が取れる手段と言えばこれしかないのだ。
テロリズムという方法に二人は頼る気はないし、何よりもそれの効果がなかったのは先刻の内戦が証明済みだ。
逆にこちらが声望を失うだけの結果にしかならないだろう。
少なくとも、共和国を本気で併呑しようと思うのならば、挙国一致の“総力戦”体制の確立は必要不可欠だ。
そしてその際に抑止力と成り得るだけの抵抗勢力を作り上げる事が出来れば、少なくともその暴走に歯止めをかける事が出来るはずだと。
「すまない、君には苦労をかける事になる」
当然だが、派閥の長に対して派閥に属する者が反旗を翻すというのはそう簡単な話ではない。
上手く行けば、それは鉄血宰相に刃を届かせ得る致命打になり得るだろう。
だが、失敗すれば待っているのは破滅だ。
反旗を翻したその時、ギリアス・オズボーンは
それに対してオリビエとリィンのタッグが勝つか、勝てないまでも均衡状態に持ち込む事が出来ればいい。
だが、出来なければリィン・オズボーンはそれまで積み上げてきたものを総て失う事となるだろう。
そのようなリスクを踏まずとも本来ならば、何れ鉄血宰相の後継者として確固たる権力を手に入れる事が出来る立場であったのに。
何よりも、敬愛する父に背くというその行為自体が目の前の少年には多大なる辛苦を伴う行いだろうに。
そんな重荷を目前の少年に背負わせざるを得ないこと、頼りにしなければならないことがオリビエには申し訳なく、同時にそれでも自分の手を取ることを選んでくれた事に対する感謝の念で一杯であった。
「お気になさらず、自分で選んだ道ですから」
そうして最後にリィンとオリビエは拳をぶつけ合う。
此処に誓約は交わされた。後はただ来るべき日に備え、どちらも互いの道を進むのみである。
いずれ道が交わるその日まで、全力を尽くすのみだと。
二人の英雄は会談は失敗に終わり、決裂したのだという体を装い別れるのであった……
・・・
オリビエとの会談を終え、クルトをヴァンダールの道場へと送り届けると時刻は既に夕刻へと差し掛かっていた。そうしてリィンは
数ヶ月前まで内戦が繰り広げられていたとは思えないほどに帝都は活気づいており、周囲を見渡せば自分と同様に仕事を終えて家路への道を歩む者たちで溢れていた。
その顔は安堵と未来への希望に満ちあふれており、数ヶ月前にまで抱いていた不安が消え、誰もが祖国の繁栄を疑っていない事を意味していた。
“超大国エレボニア””黄金時代の到来”紙面にはそんな威勢の良い言葉が並び、その言葉を裏付けるかのようにエレボニアの経済は内戦の損失を補って余りある速度で回復していた。
誰もがそんな繁栄が続く事を疑っていない、偉大なるアルノールの血脈が見守り、豪腕を誇る宰相が導き、最強の英雄が守護する祖国に死角など無いのだと誰もが信じているのだ。
こんな当たり前の幸せを守らねばならない、いや守りたいのだとそうリィンは静かに決意を固めるのであった。
黄昏の中、辿り着いた実家の玄関の前には二つの影が佇んでいた。
「お帰りなさい、リィン。貴方が本当に無事で良かったわ」
リィンの姿を確認すると感極まった様子でフィオナ・クレイグはすっかりたくましくなった義弟に対して熱烈な抱擁を行う。
「ただいま、義姉さん。色々と心配をかけてごめん」
久しく浮かべていなかった少年のような笑みを浮かべながらリィンは告げる。
今、この時ばかりは彼は帝国正規軍准将でもエレボニアの若き英雄灰色の騎士でもなかった。
ただ5歳の時にクレイグ家に引き取られて以来、共に時間を過ごしてきたオーラフ・クレイグの義息子であり、フィオナ・クレイグの義弟であり、エリオット・クレイグの義兄弟たるただのリィンであった。
「本当よ全く。お姉ちゃんがどれだけ心配した事か……でも、許してあげるわ。
こうしてまたちゃんと元気な顔を見せてくれたから」
どんな人間だろうと頭が上がらない存在というものが存在する。
リィンにとってフィオナはまさしくそんな存在の一人であった。
幼い頃母を失い、クレイグ家に引き取られて以来6つ年上のフィオナは実の弟であるエリオットと代わらぬ惜しみない愛情を自分へと注いでくれた。
その事を言葉にして感謝を告げれば、“家族”なんだから当たり前だとそう微笑みながら告げてくれた事が、幼いリィンにとってはどれほどの救いとなった事か。
「良く帰ってきたな、リィン!」
そうしてフィオナとの姉弟としての交流を終えると今度は父子の交流だとオーラフ・クレイグはその厳つい顔に満面の笑みを浮かべながらフィオナ以上の熱烈な抱擁を行う。
行っているのは久方ぶりに再会した麗しい父子の交流なのだが、オーラフとリィンの双方が185リジュの堂々たる体躯を擁している偉丈夫なために、その絵面は中々に凄まじい事になっていた。
「あんなにも小さかった子どもがこんなにも大きくなって、父は……父は嬉しいぞ~~~~!!!」
気恥ずかしさを覚えながらも、リィンはしばしの間そんな父のされるがままになる。
そうして変わってしまったものもあれば、変わらないものもあるというその喜びを噛みしめるかのように苦笑を浮かべるのであった。
食卓の上には所狭しと山盛りの料理がところ狭しと並べられていた。
こんがり焼けたローストチキン、大皿いっぱいの魚貝のジャンバラヤ、彩豊で新鮮な野菜をたっぷりと使ったサラダ、そしてクレイグ家秘伝の特製シチュー。どれもリィンの大好物であった。ただ特製シチューと並ぶ、大好物が一つ欠けているのが少しリィンとしては残念だったが。
「フライドポテトは今から揚げるから少しだけ待っていてね、お腹が空いたんだったら先に食べてても構わないから」
そんなリィンの思惑を見透かしたかのようにフィオナは笑いながら告げる。
当然フィオナ・クレイグが愛する義弟の大好物を作り忘れる等という事があるはずもない。
揚げたてを用意したいという姉心故の事であった。
「子どもじゃないんだから、ちゃんと待つよ」
「そうね、今や貴方はこの国の“英雄”だもの。昔みたいにお腹を空かせた余り、つまみ食いをするだなんて事しないわよね」
調理の腕を止めぬままに、クスリと笑いながら告げられた言葉にリィンはごまかすように頭をかく。
自分の幼少期を知っている家族というのはこういう事だ。小さい頃の未熟な頃、本人は忘れた様な思い出、この場合はリィン自身も覚えているが、何時までも記憶している。
小さかった頃に、ヴァンダールの道場での修練を終えて腹ペコで帰宅して、父が帰宅する前に用意された料理をつまみ食いした等といった。そんな笑い話を。
やがて、出来上がった山盛りのフライドポテトが最後に加わり、揃って食事前の女神への祈りを捧げるとリィンはその旺盛な食欲を満たすべく、豪快な食べっぷりを見せ始める。
用意された料理はどれも懐かしく、自分好みの味付けがされていた。
そこに心許せる家族との和やかな会話という最高のスパイスが加わり、料理の味わいを何倍にも高めていた。
「しかしよもや、その年で獅子心十七勇士に列席される事になるとはなぁ。
お前ならばいずれ必ずやとは思っていたが、それでもまさか成人もしない内にというのは流石に予想していなかったぞ」
オーラフは感慨深そうにそう成長した息子の顔を眺めながら呟く。
そこにはかつてあった憂いは無く、ただただ我が子の成長を喜ぶ親としての顔が存在した。
幼い頃のように、幸せそうに娘の手料理を貪るその姿から、内戦の最中に感じた危うさが息子から消えた事を確認したがためだった。
「本当に良く頑張ったなリィンよ、ギリアス閣下もさぞお前の事を誇りに思っている事だろう」
「ハハ、まだようやくスタートラインに立っただけなんだから気を抜くな。此処からが本番だって釘を刺されたけどね」
「相も変わらず手厳しい御方だなぁ。まあ兎にも角にも帝国の未来は実に明るい!
一時はどうなるかと思ったが、これならばエリオットも憂いなく音楽の道へと進めるというものだろう!」
オーラフの告げた言葉にリィンは一瞬目を丸くする。
「父さん、エリオットが音楽の道に進むのを認めてあげたんだ」
そして次の瞬間には穏やかな笑みが広がる。
「うむ、自分は音楽の持つ力を信じていると私に対して臆する事無く言って来てな。
ああして、確かな決意と覚悟を抱いて息子に言われてしまえば、流石に親としては応援するしかあるまい」
「本当にエリオットもリィンもすっかり立派になっちゃって。
男の子の成長っていうのはあっという間ね」
そこから先は取り留めのない歓談が続く。
昔を懐かしみながら、父と姉と弟の三人は、家族の中で一人だけ欠席者が居る事を残念に思いながら思い出話しへと華を咲かせるのであった。
それはリィン・オズボーンにとって英雄ではない、ただの少年に戻れる穏やかで幸福な一時であった……
ちなみに当初フィオナ姉さんは英雄の背負うべき犠牲となる予定の人でした。
第2形態を使った時のエリオットが「どうして姉さんを見捨てたの?」と泣きながら詰め寄る幻覚はその名残です。
改めて修羅ルートに進ませなくてよかったなぁと思っています。