(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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「わたしね……誰よりも優れた“英雄”なんて居ないと思うんだ」

Ⅱでの絆イベントでのこの台詞がトワ会長が当作でメインヒロインになった最大の理由だったりします。


好きな男の人のタイプは優しい人

 5人で最も多くの時間を過ごした場所にて最高の親友との語らいを終えたリィンは、その後最も愛する人と最も共に過ごした場所、生徒会室に赴いた。明日は卒業式であり、式典の後には祝賀会があることを思えば、ゆっくり思い出の場所を巡るには今日が最後の機会だったからだ。

 

「済まなかったな、副会長だというのに全然顔を出せなくて」

 

「しょうがないよ、リィン君は色々と忙しかったんだもん。その辺は私も生徒会の皆もちゃんとわかっているよ」

 

 真面目な顔をしてそんな風に謝罪をしてきたリィンにトワは苦笑を浮かべながら答える。

 この数ヶ月、リィン・オズボーンがどれだけ祖国のためにその身を粉にして働いていたかを知らぬ者は居ない。

 確かに内戦というどたばたによって授業を短縮する必要が出たり、生徒会の引き継ぎが難航はしたが、それでも目前の少年がやってきた難行に比べればはるかに楽なのは疑いようがないのだから。

 なのに、そんな功績を鼻にかける事もなく副会長として(・・・・・・)律儀に謝罪してくる目前の少年の様子がトワにはどうにもおかしく、同時に嬉しかった。

 

「改めてありがとうね、リィン君。ちゃんとクロウくんを連れて帰ってきてくれて。私のワガママを聞いてくれて」

 

「礼を言うのはこちらの方だよ。あの時の俺はどこか意固地になっていた。

 君がああして説得してくれたからこそ、俺達が5人揃って卒業できるという最良の結末を迎える事に出来たんだ。

 ーーー思えば、君は何時もそうだったよ。アイツと初めて出会って大喧嘩した時、未熟だった俺に自身の過ちに気づかせてくれたのも君だった。

 だから、どうか胸を張って欲しい。クロウ・アームブラストとリィン・オズボーンが再び肩を並べるようになれたのは紛れもないトワ・ハーシェルの功績なんだから」

 

「わ、私はそんな大した事はしてないよ。

 リィン君に私が言った事と来たら、ただのワガママだったわけだし。

 クロウ君と仲直り出来た事は皆リィン君が頑張ったからだよ!」

 

「いや、ワガママだなんて卑下しているけど君のワガママはいつだって君の優しさから出ているものじゃないか。

 そんな君の優しさが何時だって俺を導いてくれたんだ。だから、やはりスゴイのは君の方さ」

 

「だから、それはリィン君がそんな私のワガママを聞いてくれる器の大きな人だからだよ~。

 どう考えてもスゴイのは私なんかよりもリィン君の方だよ~」

 

「いやいや、トワの方が……」

 

「ううん、リィン君の方が……」

 

 どれくらいの間相手が如何に素晴らしい人物なのかというある種の惚気とも言える称え合いを行っていただろうか、やがてどちらの方も同時にクスリと笑みを零して

 

「懐かしいな。思えば出会った時も俺たちはこんな風だったよな」

 

「ふふふ、そうだね。入学式の時もこんな風になって、そんな私達の様子が面白かったのかアンちゃんが声をかけてきて、それで3人揃って友達になって、何時しかそこにクロウ君やジョルジュ君も加わって5人で一緒に居るようになったんだよね」

 

「ああ、そうだったな。ーーー改めて思うよ、俺はトールズに入学して本当に良かった。

 トールズに入学したおかげで俺は成長することが出来た。

 ジョルジュ・ノーム、アンゼリカ・ログナー、クロウ・アームブラストという生涯の友と出会うことが出来た。

 何よりも、トワ・ハーシェルという最愛の少女に出会うことが出来たんだから。

 そこまで信心深い方ではないけど、空の女神の導きに感謝したい気分だよ。

 ーーーいや、この場合は獅子心皇帝陛下のお導きかな?」

 

「リィン君……」

 

 そこでリィンは何かを決意するかのように僅かに目を閉じて

 次の瞬間、決意をその瞳に宿して意を決して告げていた。

 

「そして、そんな君だからこそ打ち明けておきたいんだ。

 これから俺が何をしようとしていてるのかを。

 宰相閣下ーーーいいや、俺の父ギリアス・オズボーンが一体この国を何処に導こうとしているのかを」

 

 そうしてリィンは打ち明けた。

 自分の父が何をしようとしているのかを。

 それを止めるためにも自分は父に忠実な手駒だと振る舞いながらも、何れその首に刃を届かせるための獅子身中の虫となる事を。

 そしてオリヴァルト殿下とクロウの二人には既にその事を打ち明けている事を。

 それはクロウを引き入れた時のような、その力を頼りにしての事ではない。

 ただ、目前の愛する人には自分の真意を知っておいて欲しいと思った、そんな私情(・・)によるものであった。

 

「……そういうわけで俺とオリヴァルト殿下は今や肩を並べる同志になったんだ。

 だから、表向き激しくやりあっているように見えてもそれはあくまでそういうフリ(・・)だから、どうか安心して欲しい」

 

 そう告げるトワ・ハーシェルが最も愛おしい少年の微笑むその表情には雄々しき父性と慈しむ母性に満ちている。

 そこにトワは愛する相手の自分に対する気遣い(・・・)を感じて嬉しさと同時に寂しさを覚えた。

 彼は自分を気遣ってくれている、オリヴァルト殿下の秘書へと就任することが決定している自分を。

 愛する夫である彼と敬愛する主君であるオリヴァルト殿下が政敵(・・)として激しくやり合う事になるが、それはあくまで表面上の事だと教えてくれたのだ。

 総てはーーー鉄血宰相ギリアス・オズボーンに刃を届かせるためだと、雄々しくて頼もしい表情を浮かべ、言葉の中に覇気を漲らせて。

 それは多くの者を魅了する“英雄”の笑みだ。この人に任せておけば総て安心なのだと、そんな風に思わせる。

 頼もしさと共に安堵を覚えるべきそんな笑みを前にしてトワは……

 

「リィン君、少しだけかがんでくれるかな?」

 

「?ああ、こうかな」

 

 そっと包み込むように屈んだ少年の顔を自分の胸元で抱きしめていた。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーー」

 

「リィン君……リィン君は凄い人だと思うよ。

 初めて会った時から堂々としていて自信に溢れていて。

 もの凄く優秀で、でもそんな優秀さを鼻にかけるような事もしなくて何時だって前へ前へと進み続ける頑張り屋さんで。

 何よりも、リィン君がそんな風に頑張るのは何時だって“誰か”を助けるためだった。

 出会った頃からとっても優しくてとっても強くて、自分が辛い時でも色んな人の事を思いやって手を差し伸べて、そうして何時のまにか、《灰色の騎士》だなんて呼ばれる帝国の“英雄”にまでなった」

 

 

 “英雄”という言葉の体現者、それこそが世間が思い描くリィン・オズボーンという少年の人物像だろう。

 帝国宰相の一人息子で、小さい頃に母を失って、そんな悲劇を繰り返させないために、他の誰かに味合わせないために強くなる事を誓った。

 そしてその誓いを実現するために怠惰という言葉を遠い日に捨て去ったかのように努力を重ねて、ついには内戦を終わらせるまでの存在となった。

 そんなお伽噺の主人公のような完全無欠の超人だと、そう多くの人は思い込んでいる(・・・・・・・)

 

「でも、覚えていて欲しいんだ。

 リィン君は、あくまで一人の人間だってことを」

 

 だがトワ・ハーシェルは知っている。

 眼の前の少年が、どれだけお父さんの事を尊敬していたのかを。

 お父さんに褒めてもらいたくて、お母さんの時のような事を繰り返したくなくて、誰かのために何時だって一生懸命だった何処にでも居る普通の優しい少年なのだという事を。

 

 確かにリィンは、自分の愛する人は客観的に見て優れた才智を有しているだろう。

 いや才智だけではない、心もそうだ。どんな絶望的な状況でも決して諦めずに、辛くて泣き出して当然の状況でも頼もしく笑いながら、周囲を安心させる。そんな強い人だろう。

 だけど、どれほど強かったとしてもそれでも彼は自分と同じ人間なのだ。

 時に悩み、悔み、笑い、そして泣く、何処にでも居る普通の優しくて愛しい少年なのだ。

 

「私ね、誰よりも優れた“英雄”なんて居ないと思うんだ」

 

 それは決しての事や世に謳われた“英雄”達の事を過小評価しているわけではない。

 むしろその逆だ、彼女は“英雄”だ等という偶像で彼らの事を見ていない。

 故に彼らの成し遂げた偉業を“英雄”だから、“女神に選ばれた特別な存在”だから出来て当然なのだとそんな風に決して捉えない。

 彼らも自分たちと同じく、時に悩み、悔み、笑い、そして泣く同じ人間で、そんな彼らが“英雄”と呼ばれるようにまでなったその軌跡へ心からの敬意を抱いている。

 だけど、同時にこうも思うのだ。“英雄”だからあの人は特別だからと周囲はその人に甘え続けて良いのかと。

 

 それは多分、違うはずだ。だって世に謳われる“英雄”とは決して“孤高”の存在だったわけではないのだから。

 ドライケルス大帝にリアンヌ・サンドロットやロラン・ヴァンダールを始めとする多くの仲間が居たように。

 “英雄”にはそれを支える数多くの人が居たはずなのだ。それは歴史書に載るような人物だけではない、細やかなどこにでも居るような普通の人が、何気ない想いや、繋がりがその助けになった事だってきっとあるはずなのだ。

 

「だから……リィン君も、何もかも一人で抱え込まないで。

 私は、リィン君の奥さんなんだから。旦那様が辛い時はしっかり支えるよ」

 

「俺は……別に辛くなんて……」

 

「嘘ばっかり。

 ……辛くないはずないよね、だってオズボーン宰相はリィン君のお父さんなんだもん。

 どれだけリィン君がお父さんに褒めてほしくて、お父さんのために頑張ってきたのか私はよく知っているよ。

 そんな大好きなお父さん(・・・・・・・・)と戦う事になって、ひょっとしたらクレアさんやレクターさんーーーお義姉さんやお義兄さんともそうなるかもしれなくて辛くないわけが無いんだよ。

 だってリィン君はとっても優しい人(・・・・)だから」

 

 法の守護者、軍人の理想、鋼の化身、断頭台、閃剣、エレボニアの剣、閃刃、炎神。

 そんな多くの異名で誰もが彼を“英雄”だと讃えている。

 だけど、トワ・ハーシェルは知っているのだ。

 彼がとても優しい一人の少年に過ぎない事を。

 何故ならば、彼女が愛したのはそんな“英雄”ではない優しい頑張り屋さんの少年なのだから。

 

「どんな時でもひたむきに前へ前へと進み続ける頑張り屋さんなところはリィン君の良いところだと思うよ。

 でもねーーー何時もずっと立ち続ける必要はないんだよ。

 疲れた時には休んだって良いと思うんだーーーそれこそ、“英雄”だなんて呼ばれる凄い人でも、ね。

 だって私はリィン君の奥さんなんだから。私の前で位、強がらず(・・・・)にね」

 

「ぁ………」

 

 伝わってくる温もりと慈愛に満ち溢れた優しい言葉。

 それはリィンの心にどこまでも染み渡って

 

「……参ったな。母さんが死んだあの日に、もう泣いてばかり嘆いてばかりの弱い自分を変えて、誰かの涙を拭える強い男になるんだって誓って、そうなれて来たと思っていたのに。

 こんな……一番好きな人の前で一番みっともない姿を晒すだなんて……情けない姿を晒すだなんて……」

 

 気がつけばリィンの頬を涙が伝いだし、発する言葉は嗚咽混じりのものとなっていく。

 そこに先程までの雄々しき英雄の姿は存在しなかった。

 

「良いよ……良いんだよ。そんな優しいリィン君を、私は好きになったんだから」

 

 どこまでもどこまでも優しいまるで聖母のような微笑みと温かさ。

 それを受てリィンは

 

「なんで、なんでなんだよ父さん!俺はただ、貴方の力になりたかったのに!

 弱い足手まといじゃなくて、肩を並べて戦えるような立派な軍人になれば、昔のようにまた一緒に居られるとそう思っていたのに!自慢の息子だって、そう褒めて貰えると思っていたのに!

 なのになんで、貴方は世界大戦なんて馬鹿げた事をやろうとしているんだ!

 そんな事をしようとしていたら、止めるしか無いじゃないか!だって俺は、エレボニアの軍人なんだから!

 この国とそこに住まう人達を守るのが俺の使命なんだから!

 どれだけ()だとしても、戦うしか無いじゃないか!!!」

 

 堰を切ったように、他の誰に対しても決して明かす事は出来なかった己が心中の中の本音を、弱さを曝け出す。

 英雄としてではなく、どこにでも居るただの父親の事が大好きだった少年として。

 そしてそんな愛する少年をトワ・ハーシェルは優しく抱きしめ、寄り添い続けるのであった……




クロウ・アームブラストは互いに高め合い、肩を並べ戦う親友。
トワ・ハーシェルはリィン・オズボーンが帝国の英雄という強がりを捨てて、己が弱さを曝け出す事のできる唯一の女性。
そんな立ち位置です。
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