帝国時報やら書物やらの値段から1ミラは一応1円程度という認識で居ます。
武器の値段の安さは多分公的な支給かなにかがあるのでしょう。
帝都に存在するハーシェル雑貨店。
普段であれば営業をしている平日、そこはある事情によって臨時休業中であった。
事情を知らぬ者がその中の光景を見れば、驚いたかもしれない。
何せ今や帝国人であれば知らぬ者は居ない国民的英雄がそれこそ今から戦場に赴くのではないかと錯覚する程に真剣な表情を浮かべながらそこに居たのだから。
「そういうわけで、どうかトワさんとの結婚を認めて頂けないでしょうか?」
真剣そのものの表情でリィンは告げる。
そこには例えどれだけ強硬に反対されたとしても何としても認めさせて見せるという不退転の決意に満ちていた。
一般的に娘を嫁に出す時親は強硬に反対するものだと言われている。
そしてリィンの中で娘を嫁に出す事となる親として真っ先に頭に浮かぶのは養父たるオーラフ・クレイグである。
フィオナを嫁にするというのならばそれ相応の覚悟を示してもらわねばならん!と言って一戦する事も辞さない養父のその姿にリィンもまた全力で頷き、「その時は自分もオーラフ義父さんと一緒に戦います!」と宣誓したものである。
そんな自分たちにフィオナ義姉さんとエリオットは苦笑していたものだったが、兎にも角にも親にとって可愛い娘を嫁にやるというのはそれほど重要な事なのだ。
当然目前のトワの親同然の存在たる家族もまた同様だろう。
さぞかし特級の試練が自分へと襲いかかるだろう。
だが臆するところはなにもない、あらゆる万難を排して自分の彼女に対する思いをいざ彼女の家族にも認めて貰おうではないかと情熱の炎を燃やして。
「はいよわかった、認めようじゃないか」
「トワの事をよろしく頼むよ、リィン君」
しかし、帰ってきたのはにこやかな笑みとそんな拍子抜けする位にあっさりとした返答。予想だにしていなかった事態にリィンは目を丸くする。
「って父ちゃんも母ちゃんもなんでそんなにあっさりOK出しているんだよ!」
ただ一人夫妻の息子たるカイ・ハーシェルだけは憤然と抗議を行う。
「何でも何も、相手は帝国の英雄様だよ。反対する理由なんてないじゃないかい」
「両思いだったのは前々からわかっていたことだからねぇ。
むしろこんなにも有名人になってしまって、色々と面倒な事が起きるんじゃないかと心配していたからホッとした位だよ」
しみじみとこれで一安心だと言わんばかりにハーシェル夫妻は言う。
二人は権力闘争等といったものとは無縁の所謂一般庶民ではあるが、それでも大人である以上“英雄”と謳われるようになった人物に様々なしがらみが発生する事はある程度わかっている。
故に正直に言えば心配していたのだ。そうしたしがらみが二人の仲を裂くのではないかと。
「好きだから」とそれだけの理由でなんとかなるのは子供の間までで、様々な壁が立ちはだかってくるのが「大人」になるという事だから。
だが、そんな壁をものともせずに自分たちの姪御は無事好き合った相手と結ばれるというのだ、家族として反対する理由など一体どこにあるのだろうか?
人格も甲斐性もそして肝心の愛情も、全く以て問題ない事は明白なのだから。
むしろマーサとしては良くぞこんな速攻で売れる良物件を捕まえたものだと奥手の姪を全力で褒めたいところであった。
「ふ、普通色々と確認する事あるだろう!ちゃんとこいつがトワ姉ちゃんを幸せにできるのか、かいしょうがあるのか確認するとかさ!」
……等と大人である二人は納得できるが、子どもの方はそう簡単には行かない。
大好きなお姉ちゃんを取られる事を思えば無理からぬ事だろう、同じシスコンの身としてリィンはカイ少年のその思いに苛立つどころか、大いに共感している状態であった。
「確認するまでもないと思うんだけどねぇ……ま、アンタの気がそれで済むっていうなら一応しておくか。
ちょっと下世話な話しになっちゃうけど、聞いて良いかい?実際のところ、どれ位の収入があるんだい?」
「大雑把なものとなりますが、現在の自分の月の基本給は約120万ミラになります。
これに各種手当とロラン勲章とリアンヌ勲章による恩給が加わって約180万ミラ。
後は年2回の賞与がありますので、年収にすると約3000万ミラ程度になりますね。
このうちの1000万程は彼女とも話し合った結果、戦災孤児の育英を営む慈善団体に寄付でもしようかと思っていますが……」
リィンにしてもトワにしてもその生活スタイルは庶民的なもので余り散財する方ではない。
そしてリィンだけではなく副宰相秘書官となるトワにしてもその気になれば、彼女一人で一家を養えるだけの収入があるため、まずこの新婚夫婦が金欠になるという事はないだろう。
そして「持てる者の義務」を忠実に体現するのがこの夫妻な以上、余裕があるのだから余裕の無い子ども達への支援を少しでも行おうという考えはある種必然として浮上した。
「さ、3000万……」
告げられた額を前に思わずゴクリとマーサは生唾を呑み込む。
別段彼女は強欲というわけでも守銭奴というわけでもないが、それでも人間である以上それなりに高収入に対するある種の憧れめいたものは存在する。
成人もしていない眼の前の青年があっさりと自分たち夫妻の数倍の額を稼ぐというその事実に、改めて目前の人物が“英雄”とされるような、本来であれば自分たちのような一般庶民と関わる事のないこの国のトップエリートであるという事を実感したのであった。
最もリィンが飛び抜けていて霞むがトワにしても名門トールズを次席で卒業して、副宰相の秘書官へと抜擢されるというエリート中のエリートなのだが、夫妻にはどうにも姪の性格と容姿からその辺りの実感が湧いていないようであった。
ちなみにカイ少年の月のお小遣いは1000ミラ。
ヤ○チャとフ○ーザよりも激しい銭闘力の差がそこには存在した。
「か、かいしょうがあったって女たらしのうわきしょうな奴にトワ姉ちゃんは任せられないぞ!」
「その点ならば心配は要らない。俺が生涯妻として愛するのは彼女だけだ。
もしも俺がこの誓いを背いた時には遠慮なく俺を殴り飛ばしに来ると良い、君にはその権利がある」
苦し紛れに告げたカイ少年の言葉に対してリィンは微笑を湛えながら臆面もなく恥ずかしい事を真顔で告げる。
その様にマーサ氏は姪の方をにやけ顔で小突き、トワは照れながらも嬉しそうにしている。
「く、口だけならなんとでも言えるさ!俺が子供だから何も知らないと思ったら大間違いだぞ!
俺は知っているんだからな、アンタが皇女殿下と
優しいトワ姉ちゃんを騙しているんだろう!!!」
民衆はとかくお姫様と英雄の恋だのと言った話が大好きである。
夏至祭の折テロリストから囚われの姫君を救出し、内戦中にはそんな姫の騎士として活躍した英雄とのラブロマンスを想像するのはある種必然とさえ言えたかもしれない。
現在、リィン・オズボーンはアルフィン皇女の婿として最有力候補と見られている。
筆頭騎士への任命、皇太子の教育係への就任。灰色の騎士が現皇帝と次代皇帝の寵臣である事はもはや明白である。
この上リィンにはかの鉄血宰相の息子にして後継者という地位が加わり、更には皇女殿下との年齢も2歳差とかなり近しく、国民人気も極めて高い。
皇女の婿としてはそうそう転がっていない、最上級の相手である事は間違いがなかった。
「実際どうなんだい、リィン君。皇女殿下との関係についての噂というのはどこまで本当の事なのかな?」
「自分が殿下の騎士として内戦中戦ったことは事実です。
また臣下として殿下への敬意も当然持ち合わせています。
ですが、殿下と君臣を超えた関係になるなどというのは余りに畏れ多い事ですよ。
そちらの方は根も葉もない噂ですね。どうやら、根と葉があって欲しい人が結構な数で居るのが困り者ですが」
苦笑しながらリィンは応じる。
実を言えば、それこそがリィンが婚約で留めずにすぐにでもトワと結婚する事を決めた最大の理由でもある。
リィンとアルフィン皇女が恋仲にあるという噂、これは民衆の願望が加速させた側面もあるが、その裏にはこの二人をくっつける事でより立場を盤石なものにしたいと願う、革新派の重鎮の思惑もまた存在した。
そうした人間が意図的にばら撒き、加速させているのだ。そして民衆は、いや民衆に限らず人間というのは基本的に自分が信じたいと思うものを信じるものだ。
リィンとアルフィン、当人たちの思いを置き去りにしてこの噂は爆発的かつ加速度的に広まっていっている。
このまま後手を踏み続ければ、勝手に外堀が埋められる事となるだろう。
かつてのリィンならば、あるいはそれでも構わないと思ったかもしれない。
私人としての思いを捨て去り、皇女と結ばれた帝国の若き英雄という“偶像”を演じきる事を選んだかもしれない。
総ては偉大なる祖国に繁栄をもたらすためだと割り切って、政略結婚というのは公人にとってはある種の義務なのだからと。
「ですが、自分が愛しているのは彼女だけです。彼女以外との結婚する事などもはや考えられません。
彼女以上の女性など自分には存在しないのですから」
だが、今のリィンはそれでは
別段アルフィン皇女を嫌っているというわけではない、むしろ奔放ながらもあの若さでありながらしかと己の責務と向かい合った尊敬と忠誠に値する素晴らしい方だと思っている。
しかし、リィン・オズボーンにとっての伴侶はもはやトワ・ハーシェル以外にはあり得ないのだ。
彼女と共にこれからの人生を歩んでいきたい、彼女と共に幸せになりたい。それこそがリィンの嘘偽らざる思いだ。
だからこそ、今なのだ。
外堀が埋められる前に、政界や財界に潜む魑魅魍魎達が蠢き、甘い蜜を用意して自分を婚姻という鎖で封じ込めようと動く前に速やかに自分のパートナーは彼女なのだと高らかに宣言する。
婚約レベルならともかく、皇族まで居合わせる場で正式に挙式まで挙げてしまえばこちらのものだ。水面下で動いている連中も後手になった事を悟り、どうにもできない事だろう。
何よりも正式に妻とすれば、誰にはばかる事無くリィンは彼女の事を護る事が出来る。もしも自分たちの仲を踏みにじらんとした者が現れれば全力でそれを叩き潰すまでだと。
最もそんな水面下での闘争を目の前の優しい家族達が知る必要はない故、口に出してはただの噂だと告げるに留めるが、それでもリィンの言葉の中に秘めた並々ならぬ決意と真摯な思いを感じたのだろう。
ハーシェル夫妻は臆面もなく愛の告白を行うその様子に逆に落ち着かない気分となり、カイ少年はそれでもと大好きなお姉ちゃんを渡したくない思いから口を開こうとするが
「カイ、いい加減諦めな。このお兄ちゃんは
「大好きなお姉ちゃんを取られて寂しい気持ちはわかるけど、本当にトワの事を大切に思っているなら笑顔で見送ってあげなさい」
基よりリィンの事を娘の相手として高く評価していた夫妻は完全にリィンの味方となり、己が息子を説得しにかかる。
「大好きなお姉ちゃんだもんな、それをどこの馬の骨とも分からん奴が持っていこうとしているんだ、そりゃ納得出来ないよな」
反対し続ける目前の少年に対してリィンは
「だから約束しよう。俺は必ずや彼女と二人で幸せになる。
もしも俺がこの約束を破った時は、遠慮なく殴りに来い」
自分を子供だからとバカにせずに対等の男として告げられた真摯な思いの籠もった言葉。
それを受けてカイ・ハーシェルは考え込むような素振りを見せて
「……トワ姉ちゃんはそれで良いの?」
問いかけた言葉に、大好きな姉は見たこともない、綺麗で、それでいて優しい表情ではにかみながら頷いたものだからーーーカイ・ハーシェルは此処に初恋の終わりを静かに感じて
「姉ちゃんを、泣かせたら承知しねぇからな」
「ああ、約束だ。男同士のな」
そうして二人は拳をガツンとぶつけ合う。
年齢も立場も関係なく、対等の男として……
ナイトハルト教官が相手にしないといけないもの:オーラフ&灰色の騎士のタッグ
ユーシスが相手にしないといけないもの:灰色の騎士&クレア&レクター&アルティナの長男を除いた鉄血の子どもたち
ちなみにシスコンモードの灰色の騎士はかつてない気合の高ぶりによって鬼気解放が永続発動状態(暴走なし)で開幕で閃光陣黄龍発動からのSクラブッパをしてくるゾ!
アルティナちゃんとクレア姉さんはそもそも相手が出来るのだろうか?
多分アレですね、灰色の騎士は生きていれば、カイ少年が大きくなって準遊撃士になった最初の仕事で魔獣に囲まれてピンチなところを颯爽と助ける空でのチート親父、零でのアリオスさんポジですね。