なんちゃって戦国人のせいでエンゲル係数がやばい 作:ぽぽたろう
あれから一週間、平和は訪れた。桃源郷は自宅にあったんや。
怒涛の家康くん+α飯たかりの三食以来、襖はぴくりとも動かない。が、仕事帰りにまず押し入れを確認する癖が付いてしまったのはしょうがないと思う。
それはともかく。漬けておいた味噌豚は赤身一片脂身一切れ残さず私の口に入ったし、ツノギの肝も海老入り発砲祭間違えた八宝菜も惣菜パンも全部胃に収まった。
明らかに店売りパン混ざってるけど仕方ない疲れてたの許して。
さてはて、なんにせよ今日はやっと週末。
わりとアットホームな会社、というか部署のため、二、三ヶ月に一回交流レクリエーションという名のお騒がし大会を繰り広げる日でもあったり。
カラオケ採点大会だったりビアガーデン壊滅大会だったりボーリング大会だったり。ただの飲み会はともかく、ちょっとした勝負がある大会は、徴収した五百~千円で格差のある賞品がでる。
入社したばっかりの時はふざけんなーと思ってたんだけど、「飲み会時以外の飲食代は経費から落ちるよ?」と聞いてまぁいいかと手の平を返したわ、うん。景品代金と言う名のご飯代。
まぁ、何をぐだぐだ長く言っているのかというとよ。
「ぱんぱかぱああああああん!国産黒毛和牛!!」
ほどほどさし入りの薄切り肉!いやっふうううう!
要するにお騒がせ大会で一位に勝ち上がり肉をせしめたって事。優勝賞品が肉と聞いてアルコールも炭水化物も全力で断り、ただ勝つのみと全力を尽くしましたよ。ビンゴみたいな運要素の無い、完全な集中力の問題たったからなんとかなりました。いやなんとかした。
そのやる気を月締め提出書類に向けてくれと部長に言われてしまいましたが、肉が食べたい故致し方なし。
「家族ありを想定して買ってるから500gもあるのか。グラムが350円としても2000円近いお肉だわぁ」
何と言う幸せ。帰りに買ってきた白ネギを引っ張り出してニヤリと笑う。
「いっぺんやってみたかったのよね、ネギ敷き蒸篭」
某クイズ番組(硬派)で途中のご飯でやっていた、肉を食うと言うよりネギを食うといった蒸し物。付けるのがポン酢なのは申し訳ないけど仕方ない。
えー、蒸篭はどこ行ったかな。……あったあった。ざっと洗って、鍋に水を張り、軽くぬぐった干し椎茸を二三枚。ホントは水にさらすのがいいんだけど、さっさと火を入れてしまおう。沸かしながら買ってきたネギをささっと洗う。さてここから集中だわ、薄く薄く。
包丁を上から押さえるのではなく、滑らせるようにして斜め切り。トントン、ではなくシュッシュッ、と表現するべきか。薄く平たい楕円を目指しひたすら切る切る切る!分厚いのができたりしたけれど、まぁご愛嬌だわな。
ネギ一本目を処理した頃にお湯が沸いたので、ティーパックに詰め込んだ鰹節を一袋投げ入れる。きっちり一分ダシをとり、搾ってポイ。ついでに椎茸も回収する。
二本目のネギもさくっと処理し、人参と椎茸を(なるべく)千切り。慣れたもんだよホイホイな。
おっしゃあ!下準備完了、蒸篭にしきますか!
「わああああああああああ!!」
意気込んだ矢先に、居間から聞こえた悲鳴。ドンドドド、と重たい物が転がる音。折角貰ったのに、と涙目の声が聞こえる。
………今日か。今日に限って来るのか。
「奥州まで旅をしてやっと小十郎さんに会えたのに……伝説の野菜……」
ウッウッ、と子供特有のやや高い泣き声。あれ、家康くんじゃない。てか泣いてるよ、野菜で泣いてる!
「あらら、こりゃまたぶちまけたわね」
「ひぃいいいすみません!折角良いお野菜頂いたのに、ごめんなさいいい!」
床に丸くなってスンスン謝っている子供。いや子供と言うにはちょっと大きいんだけど。背中から零れるしょんぼりした空気がなんとも小さい子を彷彿させると言うかなんと言うか。
「ほらほら泣いてないで。とにかく拾おう?白菜とか中側は大丈夫だし、ゴボウだって折れてても切っちゃえば一緒なんだから」
「…………う、うん」
スンスン、と鼻を鳴らして、せっせと落ちた野菜を集めだす丸っこい子供。何故か大きい中華鍋(ホントに大きいな!?)に回収した野菜を詰め込んでいく。
拾うのを手伝ったけど、こりゃすごいわー。白菜なんて軽く抱えるくらいあるし、カボチャも見た目に違わず素晴らしく重い。みっしりだ。……白菜とカボチャがなんで一緒に採れてるんだよくわからん。
「ありがとうお姉さん。少し見た目は悪くなっちゃったけど、味は変わらないよね!」
「そうそう。打ち身になった野菜とかはさっさと食べちゃえば良いのよ。幸い根菜が多かったみたいだし、結構頑丈たがら何とかなるわ」
あんなに大きな大根をヒビ割らさせずに育て切るとか相当腕の良い農家さんに違いない。一本バキっと折れちゃってたけど、断面すらみずみずしくて全くとうが立っていないのだ。
大きいのに水をやり過ぎると割れて中から腐れるし、少なければ固くなる。なんというバランス調整、神か。
「悪くなったのは大根と白菜とお葱、ゴボウにきのこかぁ……。今日は味噌鍋にしよう。猪肉にいいのがあるかな?しばらく烏城を空けてたから在庫がわかんないや」
ゴボウに味噌に猪肉。こってりとした風味と、薬味に入れた鷹の爪のピリリとしたアクセント。一瞬にして味が想像出来ちゃったよこの子私と同類だ絶対。
よし。
「よかったらウチで作らせてもらっていい?豚……猪肉じゃないけど、すごくいい牛肉があるのよ」
「えぇー、牛?醤油だよね?僕味噌にしようかと思ったんだけど」
「うん、分かってる。君の想像した味も何となく。でもあえて!あえて任せてくれない?こんなすごいお野菜に負けないお肉があるのよ」
「……この野菜の素晴らしさが分かるなんてお姉さん…。うん、分かった!僕の宝物預けるね!」
ガシィ!と繋がる私と少年の右手。あ、やばいまた名前聞いてなかった私は佐藤めぐみです。
「僕は小早川秀秋。よろしくね、めぐみお姉さん!」
「葱は凍らせて味噌汁とかに使えばええんや」
切り方はアレだけどまぁ、使えないことはないはず。入れるときに割ればいいさぁ、とチルドパックに詰めて冷凍庫へ。あー、それか香味ソースという名の酢醤油葱漬けを作ってから揚げにでも掛けようかな。まぁ後で考えよう。
「これは……椎茸と干物?かな。凄く強い香りだね」
くんくんとダシの前で鼻を鳴らす秀秋くん。白菜を湯にくぐらせて塩降って食べたいなぁとか渋くないかな狙い目が。
小早川秀秋ってあれだよね裏切った人。酢豚作ってから関ヶ原読み直してないんだ。なんか、その程度の記憶でごめん秀秋くん。でもだからあえて読まないでおこう。
「そ、秀秋くんが来なかったら葱を引いた蒸篭で香り付けしながらこのダシで肉を蒸すつもりだったのよ。短期間さっと火を入れて、葱ごとぱくっとね」
「うっわぁ……、葱の敷物に柔らかいお肉。これだけ美味しそうな匂いのするおダシで蒸すなんて、鼻と口に対する暴力だね!」
「しかも特大のね。でもまぁ今回はちょっと諦めてすき焼きにしようと思って」
「すき焼き?」
「味濃い鍋ね」
鍋!僕鍋大好き!と跳ねる秀秋くんにちょっと気合いが入る。
「秀秋くんは包丁扱える?」
「僕を誰だと思ってるの、戦国美食会の会員だよ!」
「そ、そんなのあるんだ?」
なんだその至高の何かを求めて究極の誰かとバトルする感じのアレは。ま、まぁ戦力になりそうならちょっとお願いしようか。
「じゃあ白菜の処理お願いしていい?普通の鍋に使うよりちょっと小さめに刻んで欲しいの」
「兵法はさっぱりだけど台所仕事なら任せて!」
胸を張って言う秀秋くんに頼もしいと笑いかけ、水道やらなんやらの説明をする。蛇口を持ち上げるだけで水もお湯も出るシステムに目を白黒させたけれど、細かい事は気にしないとばかりに白菜を洗い出した。柔軟なのはいいことだよね、多分。
さてはて、私もこの折れたゴボウを処理しますかぁ。割とど真ん中でいっちゃってるから、そんなに苦労はしなくて良いわ。
タワシでガシガシ、サラっと流し、包丁のみね側で皮を削ぎ落とす。なんかこう、大根の皮剥きとは違う微妙な爽快感があるよね。ないか。
「めぐみお姉さん、このくらいでいい?」
「バッチr……完璧。食べたいだけ刻んでね?他の野菜があることも忘れないように!」
「分かってるよ。……僕なら半分は行けるかな」
半分て。一抱えある白菜半分て。いいけど、容器が厳しい。1番大きなバット一枚でまとめるつもりだったんだけど、仕方なしにボールも引っ張り出す。
炒めて割とぐしゃぐしゃにするやつだから、揃えなくても良いよと伝えると、分かった、ありがとう、と黙々刻んだ白菜を移す秀秋くん。
戦国美食会なるものの会員は伊達ではないようで、綺麗にサイズが一定の白菜がボールに重なっていく。
この調子なら大丈夫か。それより私の方が大丈夫じゃないかもしれない。笹がき苦手なのよね。とりあえず細い方を斜めにして、シャッと削いでいく。こっちは何とかなるんだけど。
太い方のゴボウに、繊維に沿って切れ込みを入れてから削ぎ始めるんだけど。まな板の寿命を気にしながら作業すれば、やっぱりちらほら分厚い笹がきが落下した。妥協だ妥協、と薄く刻みながら、なぜか負けた気になる私。.
「ゴボウもう一本入れよう」
「……まだ入れるの?」
「少ない少ない!僕いつも、さっき野菜入れた鉄鍋いっぱいのお鍋して食べてるんだよ?あれでやっと一人分」
「食べすぎだからね!?」
そりゃ丸っこくもなるわ。500の肉じゃ足りないかも知れない……。まぁ、いざってときは買い置きの安いお肉があるからいいか。
ゴボウ追加を希望した秀秋くん、自力で笹がきをしてくれている。わ、私より手慣れてる……?ぐぬぬ、とちょっとどうでもいい対抗心を抱きつつ、残りの野菜に手を付けた。
そういえば冷凍庫に豆腐入れてたなーとか思いつつ。
「んじゃま火を入れますか」
「待ってました!……鍋にしては浅いね?」
「すき焼き専用鍋なのです!」
「専用鍋があるなんて…」
嘘です。でかいフライパンです。フライパンというか、テフロン加工してあるきもーち深い鍋。取っ手着脱タイプで便利なんだ。
「ぴこぴこん!いいおにくー」
「うわぁ!」
青狸になりながら冷蔵庫より取り出した景品。柔らかそうだ!と大喜びする秀秋くん。量に関しては何もいわないでくれてるから、大丈夫かな。
戦国時代に牛を食べたりさしの価値があったりするのか疑問に思わないわけじゃないんだけど、まぁ秀秋くんのリアクション的に有ったんだろう、多分。
「んじゃま、まずは牛脂とサラダ油をたらっとな」
お肉に入ってた塊をころりと入れて、少し油が染み出たらさっさと取り出す。ゴボウ人参大根と、煮えにくい野菜を鍋に投下。混ざりすぎないように気をつけながら炒めていく。しゅんしゅんチリチリと野菜が焼ける音を聞きながら大きめのボールにタレを合わせる。醤油、砂糖が1:1。好みでバランスを弄ってしまえば良い。作っていたダシを3分の1程加え、お酒もクルッと一回転。
「油で直接焼く、なんて初めて見た。何だろうこの食材に対する冒涜と、新しい味に対するこの好奇心……。僕ドキドキしてきたよ」
あー、そういえば某時代を越えたシェフ漫画でも、炒めるは見たこと無いとか言ってたっけ。凄くおいしいよと笑ってやれば、真剣な目で私の手元を見つめだす秀秋くん。
よおっし、根菜がしっかり煮えたのを確認して残りの野菜!キノコ、白菜、葱(秀秋くんが落としたやつね)に買っていた木綿豆腐。白菜入りきらない当たり前だったよ!
軽く混ぜる程度に追加した野菜を炒めて、上から一気に合わせたタレを流し込む。具の半分にもならない程度で入れるのをやめ、さっと蓋をする。少ないと言わんばかりの視線をくれる秀秋くんに、まぁ見ててとお鍋を指差す。
「なるほど、野菜にある水!」
「そういうことね」
へたれてきた白菜から出て来る水分にどんどんとかさを増す煮汁。よしよし、と満足して火を止めた。おこた机にカセットコンロをセットして、よいせと鍋を運び出す。
「お肉は食べながらいれるよ。それじゃ食べますかぁ!」
「醤油と野菜!単純にして至高!いただきます!」
焦げが怖いので弱中火。くつくつと煮込まれるダシと醤油の匂いに私も秀秋くんもにっこにこだ。まずは肉を煮る場所を確保とばかりに大量の白菜とゴボウ達を取り皿へ。
「んまい!」
移している間にもう食べてる!?しかも大口で一気に野菜を口にして幸せそうに噛み締めている。ふぅふぅと熱気をはらって私も一口。
うん、おいしい。まだまだ早いうちにカセットコンロにまわしたから、ショリショリしゃきしゃきとした野菜の歯ごたえがしっかりのこってる。
「めぐみお姉さん、お肉いれていい!?」
「もう一杯たべたの!?(戦国時代人の特技なのかしら、熱いの掻きこむの)……はい、これ。すぐ煮えるから、両面ぱぱっと返して色が変わったら食べてね。半生でもいけるから」
「ありがとう!生肉もおいしいけど、たまにお腹壊すんだよね…」
「それ、すごーく手間をかけて管理してるお肉だから大丈夫よ。絶対当たらない。心配ならしっかり煮たの食べればいいよ」
生肉たべてたの!?ってツッコミはしない。しないったらしない。
秀秋君の手で一枚、二枚と鍋に広げられるお肉をささっとひっくり返し、空いた時にゴボウを口にする。
うっはぁー、やっぱりすき焼きと言えばゴボウだよね!予想してたよりも柔い歯ごたえを返すゴボウにちょっと驚きながら、ダシに染み出る味にテンションがあがる。
炊き込みご飯がつくりたいなーと思考を違う料理に浮気させながら、ゴボウ独特の香りを飲み込んだ。
「はいお姉さん!」
「おっとありがと!」
しゅぱぱぱ、と言ってもいいくらいの俊敏さで、程よくピンク色に染まった牛肉を回してくれた秀秋くん。うおお、何と言う完璧な色合い。
素晴らしい!と視線を送れば鍋将軍だからね!と張られる胸。鍋奉行じゃないんだ?と思いながらお高いお肉をくるくるり。部長ありがとうございますいただきます!
「んんー!ぅんぅん!」
「こ、これは……!おいしいいい!十年に一度の秘蔵のお肉に負けてない!肉汁が弾ける!」
うんうん!と、もごもごしながら言うもんじゃない。薄い脂身から滲み出る甘味が舌と鼻を一杯にさせて幸せ!その幸せをお腹に落としてすぐに白菜とゴボウをごったに含めば更にフィーバー!
「このお肉ホントに凄いね!小十郎さんの野菜と食べたら本当に胸がいっぱいになるくらいおいしい!」
「秀秋くんも野菜ありがとう。こーんな新鮮野菜と一緒に食べれるとか私マジラッキーだったわ!」
まじら?と首を傾げる秀秋くんに、本当に幸運だったと言い直す。言いながら次々煮える野菜を皿にとり、時々追加される和牛に喜んだ。
「うん!くたくたに煮えた白菜もまたおいしい!」
「おだし吸い上げまくったネギと一緒にお肉食べるの最高!」
そこそこ大きく切ったネギの隙間にダシが入り込んでるのがまた旨いんだこれ!
二人して鍋の中身(主に白菜)をうまうまと空にしていく。白菜メインで食べていたためか、いい具合にゴボウやネギなんかの野菜が残っている。……狙ってたんだけどね。
「あ、秀秋くん、お肉一旦すと……止めて。追加野菜煮るから」
「いいけどお肉も?」
すぐ煮えるからいいじゃないかと言わんばかりの目線に、ふっふっふ、と笑いかける。何かすごいものが来るのだと理解したらしい秀秋くんがわくわくと目を輝かせた。 「とりあえず残り野菜煮るね」
ボール半分になった白菜と残りの煮えやすい野菜を加えて、余っていたダシ醤油を流し入れる。山と盛り上がった鍋を押し込み、無理矢理蓋を閉めた。……やっぱり白菜多いって。
ちらっと火の燃え具合からガスの残りを確認して、これなら大丈夫と席を外す。ちょっと待ってねー、と向かうは台所。冷蔵庫を見れば在庫は5つ。よかった、余裕の数だわ。
すき焼きといえばやっぱりこれがなきゃね。
「はい、これ」
「た、卵!?こんな貴重品!」
面倒なのでパックごと残りを持って行ったらすごく驚かれた。あ、あれ?牛肉は普通に受け入れてたのに卵はビックリするんだ?牛より鶏の方が管理しやすいんじゃないかしら。よくわからないよとんでも戦国時代。
「こっちじゃお安いものよー。パック168円とかたまに理解できない値段もあるけど」
子供のころは98円とかだったのになんなんだこの肥料代。養鶏の方が潰れちゃうよりはましだけどさぁ。
円単位に、意味がわからないと首を傾げる秀秋くんのお皿に容赦なく卵を割入れる。カッカッカッ!と箸が底を弾いて鳴る音を聞きながら軽くほぐしてはいどうぞ。
「とろっと絡む卵の甘さに、ちょっと煮詰まって辛めの野菜を付けて食べたら……どうなると思う?」
「………っ!」
ゴクッ、とお決まりのリアクションをとり、黄身と卵白が斑にまざった取り皿を見つめる秀秋くん。鍋の淵からはシュー……っと蒸気が噴き出し、追加したダシの香りを振り撒いている。
「ホントは速効使いたかったけど、具がいっぱいあったからねー。んじゃ御開帳」
卵をガン見している秀秋くんそっちのけで蓋を開けて、煮汁の上がり切らなかった部分をちょいちょいと沈める。
おっと自分の卵忘れてた。カンッと皿の横に殻をぶつける音に「はっ」となった秀秋くんが煮え切ったゴボウや色の薄い白菜を箸で摘んだ。……ちょっとダシ足らんかったかなぁ。醤油を追加しようかちょっと悩む。
そんなこんな思っているうちに、恐る恐る卵にすき焼きの具を浸す秀秋くん。いつぞやのポン酢を思い出すその動きにちょっと笑って、私も野菜を掴んだ。
「…………!…っ!!」
「気に入った?」
言葉もなく野菜をかみ砕く秀秋くんにそう聞けば、気色満面に何度も縦に首を振られる。うんうん、おいしい物はおいしく食べるに限るよね。
猛烈な勢いで食べ始めた秀秋くんを横目に、私も野菜をパクリ。うんうん、まろやかだわー。こう、すき焼きの温度で微妙に固まった卵白と一緒に口にするのがまたいいんだ。危惧してたよりは甘過ぎず煮詰まったすき焼きに、ちょっと冷たく柔らかい卵黄がこれでもかと絡み付く。くああああ、最っ高!
褐色に染まった大根を食べれば、うま味の溶けた煮汁が口いっぱい弾けて卵が更に引き立つ。やばいわー、やっぱすき焼きいいわ大根マジ陰の主役。あ、個人的にね。
秀秋くんが食べ進めてくれたおかげで出来た隙間にサッと牛肉を広げていく私。なぜさっきお肉を追加するのを止めたのか理解したのだろう、これでもかと言うくらいの期待の目を向けてくる秀秋くん。
「卵減ってるだろうし、もう一個いいよ」
「いいの!?使っちゃうよ!?」
「サクッと割らないと煮えすぎるよ?」
私の言葉に無言で卵を割る秀秋くん。卵を見慣れていないにしては手慣れた感じて割って解いている。箸を外すのを見計らい、ステキな色になったお肉を秀秋くんのお皿に輸出。
「はいどうぞー」
「い、いただきます!」
きらっきらした顔で両面に卵を塗し、滴るお肉を一口で。
「!!……っ……んまあああああああい!」
なにこれもうすごい!おいしい!蕩けるし脂柔らかいし卵甘いしダシが塩っこいし混ざるし噛めば噛むほど口の中爆発するよおいしい!
褒め過ぎて何がなんだか分からないくらいには喜んでくれたようで。私の分のお肉を確保しつつ、煮えていくお肉を次々渡していく。えへへ、と幸せな表情のまま食べ進める秀秋くんに何となく嬉しくなりながら、私もはぐり。
………もう言葉も無いね!食べるのみだわ!
「あ゛ぁ゛ぁぁぁ、終わっちゃった……」
7割以上は秀秋くんが食べたんじゃ無かろうか?横に大きいとはいえ、どこに入ったんだろうと言うぐらい食べていた。それなのに、煮詰まった汁と小さな野菜のかけらが残った鍋を名残惜しそうに見つめている。
「よく入るねぇ……」
「もう一鍋行けそうなくらいには入るよ!」
うーん、私はちょっと辛いけど、せっかくカツオ出し残ってるしやるか。一杯くらいならなんとか。
「ご飯と卵と出し汁があるわけですが」
「いただきます」
早い!早いよ秀秋くん!まぁいいけど!
台所からダシ汁とちょっと多めのご飯をもってくる。ついでに切り刻んだネギも。ダシ汁加えて沸騰させて、ご飯だばぁ。……うどん買っとけばよかったなぁとちょっと後悔しながら、出汁の味を見た。うん、弄らなくてもいいね、完璧だわ。
卵にとじられた雑炊を今か今かと待ちかねている秀秋くんについで、私も一杯……は無理。半杯。
味?二人してニッコニコでしたよ!明日はサラダだけにしよう辛い!
「めぐみお姉さんごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。いやーおいしかった。すき焼きすごい久しぶりだったわー」
二人だから出来たことよね、とうんうん頷いて、重たいお腹を摩った。……食べすぎた。
「久しぶりに僕人の料理で感動した!野菜の水を使うなんて全然思い付かなかったもの」
「またやってみればいいよー。まだまだたくさんお野菜あるんだから」
そうする!と元気に返事を返してくれる秀秋くんに和みながら話していたら。
――金吾さーん?いただいたお野菜仕舞いにいったままどうなさいました?また人参でもかじられているのですか?
「天海さま!」
「お迎え見たいね。ほら、そこ通ったら帰れるから」
押し入れを指して笑いかける。どうしようかと悩むそぶりをみせたけど、よたよたと野菜の詰まった中華鍋を持ち上げて
「本当に美味しかった!めぐみお姉さんありがとう!じゃあね!」
と部屋を後にした。
いやはや、よく食べたなぁ。まぁ、お土産も貰ったし、と襖前に一個落っこちたカボチャを持ち上げて冷蔵庫に向かった。
――天海さま聞いて!僕鍋のお姉さん会っちゃった!
――鍋のお姉さん、とはまた珍妙な女性と出会いましたね
――その人にすごくおいしいお鍋をご馳走になったの!天海さまにも作ってあげるね!
すき焼き食べたい。卵ダバダバつけて霜降り肉食べたい