書きたいもの詰め合わせた闇鍋話   作:オニヤンマンマ

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質疑応答

 イリニがモモンガの隣に来て、アルベドが威圧するような無言の頷きをひとつするとそれまで雑談していたNPCたちが、表情を改めて、隊列を組んで並び始める。

 先頭に立つのはアルベド、次に守護者が続き、プレアデス、竜人兄弟と迷いなく整列する。

 

 忠誠の儀という聞いたこともない単語をアルベドが発したかと思えば、主だったメンバーが、真剣な面持ちで並び名乗りを上げ、規律正しく跪き、首を垂れる。一切の乱れない、練習でもしたかのような迷いない動き。その様は、壮観であった。

 

 圧倒されるそれに、モモンガはどうすればいいのか内心焦りながら、それを表に出さないよう挙動不審な声を嚥下する。

 たっちたちを確認したい気もするが、きょろきょろと視線を彷徨わせてはならない緊張感のある空気だ。

 

 自分以外の誰かが口火を切ってくれないものかと願ったが、そうはいかないらしい。

 ギルドマスターであるモモンガを立てているのか、はたまた彼らも困惑しているのか、そこから物事が進む気配はない。

 

「面を上げよ」

 

 なんとかそれらしい言葉を思いだし、モモンガは支配者らしい行動を取ろうと四苦八苦する。

 

「皆、厳しい警戒の仕事をする中よく集まってくれた。感謝しよう」

 

 アルベドがモモンガの労いの言葉に、やけに畏まって当然のことだと返してくる。

 忠誠どころかその身すら差し出すという厚い忠誠心が、物理的な質量でも持っているかのように伸し掛かってくるような錯覚。

 それに押しつぶされずに立っていられるのは、傍の仲間の存在のおかげだった。

 自分一人だけではない。仲間と一緒に、このナザリックを守り導けるという安心感。

 それは何にも代え難い、モモンガのこれからの自信につながるものだった。

 そして、この場にはいないウルベルト。

 彼が安全な場所にいるのかどうかすら分からない今、彼の存在を捕捉するのは仲間もそうだが、NPCたちの協力も必要不可欠。捧げられる献身にたじろぐ暇があるのならば、それをいかに有効に利用するか考えたほうがいい。

 モモンガは、ウルベルトと再び会うためにたっちたちともに彼らを最善の策を持って使っていかなければならないのだ。

 

 モモンガの強い決意を感じ取ったかのように、アルベドは凛々しい表情で意志強く見つめ返す。

 その瞳に宿るのは希望だ。

 臣下として、これから主人に用いられることに対する喜びと希望に輝いている。

 

「至高の御方々と比べれば、私たちの力は取るに足らないもの。その私たちが、至高の存在である御方々の意に添い、下命をいただけることこそ至上の幸福。

 私たちーー階層守護者各員、至高の方によって創造されし全ての者が、いかなる難行であろうと全身全霊を持って遂行いたします。

 アインズ・ウール・ゴウンの方々に恥じない働きを誓います」

『誓います』

 

 一拍のズレなく、この場にいるNPCが唱和した。

 ただの声にしかすぎない、スキルなど一切使用していないのに、それには力があった。

 ギルドメンバーの中にある最後の疑心を粉々に打ち砕く、圧倒的な忠誠心。

 

 忠誠の儀とはまさに、それをおおいに示されるもの。試すような質問を考えていた不明を恥じる心地だった。 

 

 苦虫を噛み潰すかのような後悔、そしてそれをすぐに洗い流していく感動。

 仲間たちの作ったものは、こんなにも素晴らしい存在なのだ。

 黄金すらも彼らの前ではその色をくすませるだろうと確信できるほど、輝きに満ちている気がした。

 喜びが内側から溢れ、そして抑制される。

 身をいっぱいに浸す歓喜に浸りたいのに、それに冷や水を浴びせられるような感覚にモモンガの目の赤い火がわずかに陰る。

 ほう、という誰かの感嘆のため息が漏れ、自分の代わりに心の底から喜ぶ仲間がいることを思い出しその腹立たしさも霧散する。

 

「なんとも、頼もしいですね」

 

 たっちが思わずといったていで漏らした言葉に、跪くみなの顔が意気揚々と輝く。

 頼りにされることが嬉しくてたまらないと、言葉にしなくても伝わってくる。

 

「ええ、本当に。素晴らしい、としか言葉が出てこないですよーーお前たちならば私たちの目的を理解し、失態なくことを運べると今この瞬間確信した」

 

 たっちの言葉にモモンガもつい首肯し、それによって一層深まるNPCたちの喜色に内心で子供のようだと微笑ましさを抱きながら、支配者にふさわしい態度へと戻す。

 

「さて、皆に玉座の間で話した通り、かつてナザリックがあった世界は崩壊した。本来ならば消えるはずの私たちが今なお存在することで我々も混乱したが、大秘術の成功は確認した。ーー我々は異世界に来ている」

 

 三十も過ぎて、リアルで口にしたら頭がおかしいと勘違いされるようなこんなファンタジーな言葉を告げることになるとは思わなかったが、気恥ずかしさを封じて宣言する。

 事実なのだから、仕方ないのだ。

 

「アウラ、外で見たことを皆に聞かせてやってくれ」

 

「はい、モモンガ様」

 

 周囲1キロを探索し、見た光景をアウラは報告する。

 引き続いて、ヘロヘロにもパンドラが交渉した少女の情報とそこから考えられる周辺の現地民の強さについても皆に説明してもらう。

 

 シャルティアとピジョン・ブラッドにも命じたように、他の守護者にも侵入者をできるだけ怪我をさせず生かして捉えることを命じる。

 そして、さきほど反省したばかりの情報の行き違いを考慮して、連絡網とも言えるような情報共有システムの確認を行い、九階層、十階層の警備の命令をする。

 アウラとマーレにナザリックの隠蔽工作を頼むと、いざこざが発生したがそれも淡々と収めて、ギルメンで考えた真っ先の懸念事項の穴は封じた。

 

「さて、皆にはまだこの場に残ってもらうが、警備には問題ないな? 敵が来るとしたら一階層だが、シャルティア、どうだお前の不在が問題を起こす可能性はあるか?」

 

「いいえ、問題はございません。高レベルのシモベを厳重に配置してあります。シモベたちで手に負えない緊急の事態が発生した場合は、メッセージで即座に連絡するよう言っております。その場合は御前を失礼する無礼をお許しください」

 

「いや、無礼などではないさ。それがシャルティアの仕事なのだからな」

 

 明朗に答えるシャルティアにモモンガは鷹揚に頷いた。守護者がいないせいでナザリックの奥まで侵入を許したとなればお話にならない。

 

「ここに守護者各位に残ってもらう理由だが、これからこの場に呼ぶ人間の少女ネイア・バラハに対するこの世界の情報収集にあたり、皆にもその話を聞いてもらうこと。紙にでもまとめて通達する手段もあるが、人間の何気ない一言で、私たちだけでは気づかない重要なことに気づく可能性もある。よって、お前たちにも立ち会ってもらう。

 そして、この会話による情報収集はマーレに行ってもらう。隠蔽工作の仕事も任せているのに、この仕事まで任せるのは心苦しいが、やってくれるかマーレ」

 

「は、はい。もちろんです、モモンガ様」

 

 畏まって返事をするマーレ。これが失態挽回の仕事だと気づいたのかはモモンガには分からないが、仕事を任された意気にあふれている。

 

「マーレに任せる理由は多々あるが、相手を油断させるのに一番向いている容姿をしていることだ。異論はないな?」

 

 異論があろうと、マーレに任せることは確定事項なわけだが、話のわかる上司のふりをするためにNPCの意見を聞いた。

 反論はなく、モモンガはほっとする。

 

「マーレの情報収集が終わったら、君たちにはこれからこの場に呼ぶ人間の少女に、情報の収集とは関係のない個人的な質問をひとつずつしてもらうよ。

 質問の内容はなんでもいいよ。ちょっと疑問に思ったこととか、不思議に思ったこととか。質問が思い浮かばないなら、それはそれで構わないから。

 それをさせる理由は聞かないでね。

 なんとなく理由が分かったひとも、それに関しては口をつぐんで他のひとに教えないように」

 

 人間に対する意識調査をするよ、とは言わずにヘロヘロがNPCたちに言う。あらかじめそうと伝えないのは、できるだけ素の反応を見たいから、だそうだ。

 

「そして、もう一つ。少女を呼ぶ前に、私たちから君たちに聞いておきたいことがあるんだ」

 

 先ほどの忠誠の儀があったせいか、疑念があるから確かめるというような緊張はなく、声は柔らかい。

 念のため、聞いておくかというニュアンスだな、とモモンガは感じた。

 

「なんなりとお聞きください。私共一同いかような質問でも嘘ひとつなく詳らかにお答えいたします」

 

 守護者統括が代表して、たっちに約束する。

 

「そうだね……このナザリックは私たちにとって今まで止まり木のようなものだった」

 

 NPCたちに無言のざわめきのようなものが広がる。微動だにしなかった彼らが、何かを恐るように、たっちの話を聞いている。

 

(え? いきなり何言ってるんですか、たっちさん)

 

 作られた世界に生きるものの核心に触れるようなことを言い出すたっちに、モモンガは慌てる。

 

「生活の基盤となる場所はここではなく、この世界の外に家があった。君たちの中で、私たちが『リアルに帰る』という言葉を口にしていたのを聞いていたものはいるかな」

 

 大多数が恐る恐る頷いた。

 

「そうか、大秘術に巻き込まれたせいで、私たちがリアルに帰ることは現状、不可能になった。もしかしたら可能なのかもしれないけれど、それが分からない今、このナザリックが、私たちの家となった。

 ずっと、ここに暮らしていた君たちにとって、私たちの存在は邪魔ではないか。一緒に暮らすことで息が詰まったりしないか。そういったことが、私は気になっている。

 止まり木としてしかいなかった私たちが、ここを家としてもいいのだろうか。このナザリックを家として、帰ってきてもいいのだろうか。

 私は、それを聞きたい」

 

 たっちのその考え方は、目から鱗のようなものだった。

 ナザリックこそが自分の居場所とモモンガは信じて疑っていなかったが、たっちは拠点NPCとしてずっとそこにあり続けた存在こそその居住権を強く主張できると考えていたらしい。

 

 その問いの後に巻き起こったのは、滂沱たる涙を流すNPCたちの姿だった。

 答えを聞くまでもない。

 感情のこもったその涙が答えだった。

 

「もちろんで、ございます。このナザリックが、たっち・みー様の家となられることを、誰が否定しましょうか」

 

 アルベドが涙に声を詰まらせていた。

 

「たっち・みー様、発言をお許しいただいてもよろしいでしょうか」

 

 片膝をついたセバスが、発言の許可を求めた。彼の目にも涙が浮かんでいた。

 

「ああ、セバスの話も聞きたい。言ってくれ」

 

「ナザリックを、止まり木ではなく家としていただけることを感謝し喜ぶことはあっても、邪魔など、息がつまるなどそのようなことは決してありません。

 そのような考えをたっち・みー様に抱かせてしまうなど思いもいたしませんでした。我々の不忠の致すところが、貴方様をわずかにでも不安にさせてしまったこと、深く、深くお詫び申し上げます。

 そして、ナザリックに、私たちの元に帰ってきていただける僥倖と、慈悲に感謝いたします」

 

「私自身の弱さを、君が詫びることはないよセバス。むしろ謝り感謝しなければならないのは私だ。私は不在の期間も長く、家を守ることも少なかった。モモンガさんとウルベルトさんと共に、君たちはこの家を守ってくれた。

 みんな、ありがとう」

 

 たっちのその言葉が、作られた存在にとっての琴線へのとどめとなった。

 

 止まり木ではなく、ナザリックが家になる。

 心に激情の渦が巻き起こったのは、NPCだけではない。モモンガもだ。

 だが、その渦はすぐに沈静化される。

 仲間とともに過ごせる確約のような言葉への喜びと感動が打ち消されたモモンガは、せっかくのいい気分からひとりだけ置いてけぼりにされた苛立ちも混じって、少し荒んだ目でNPCを見つめた。

 

(どうやって収拾つけるんだ、これ……)

 

 泣き伏し感動する面々に、モモンガはまだまだこなさなければならない案件を前に冷静に考えていた。

 

 ◆◆◆◆

 

 ヘロヘロの質問にはソリュシャンを筆頭に、過剰なまでの歓迎の意が示され、リーザの質問には至高の存在が増えることはお仕えすべきことが増えることでむしろ喜ばしいことであり、そもたっちの家族であるのだから一層忠義に励むと返され、ミーシャの質問にはあくまで主であって友達など畏れ多いと難色をしめした。

 

「僕が友達になるから。ね、元気だして」

 

 一応同位者であるイリニの励ましがあり、友達になれないと聞いて落ち込んでいたミーシャがやっと元気になった。

 たっちが少しだけ気にくわなさそうにしていたのが面白かった。まだまだどちらも子供なのに、異性と仲良くする姿は父親としてはどうしても気になるものらしい。

 

 そして、最後に残ったのはモモンガ質問である。

 

 人間の姿になっていたウルベルトを探すことに反対意見は出なかったことから、モモンガの中の危惧は薄い。

 しかし、万が一という場合もあり得る。

 見慣れた悪魔の姿から人間になってしまった理由をNPCの理解に及ぶように語り、そのうえでNPCがどう思っているのか知らなければならない。

 

「私が聞きたいのはウルベルトさんのことだ。

 まずは、彼が何故悪魔ではなく人間の姿をしているのかを説明しなければなるまい。

 全ての原因は彼が世界の管理者が恐れるほどの力を持ってしまったことにある。

 あの瞬間火力はギルド最強のたっちさんでも再現できないだろう。

 管理者の想定以上の魔法の力を行使したことにより、その力はあってはならないものとされ、彼はその存在を一度は完全に奪われた」

 

 ひゅ、と呼吸が止まる音を聞いた。

 場を満たしのは怒りだ。

 命を賭けても惜しくない大切な存在が、自らが知らぬところで奪われていたと聞き、彼らの中に生まれたのは奪った存在に対して怒りが生まれ、同時に何もできなかった自分の無力に忸怩たる怒りを覚えた。

 

「それから、私はなんとかウルベルトさんを取り戻した。

 だが、世界の管理者はウルベルトさんの規格外の力を恐れ、悪魔としての肉体を奪い……そうだな、返ってきたのは彼の魂だけだったのだ。魂だけでは、このナザリックに帰ってくることはできない。そのため、ウルベルトさんはあのレベル1の人間の体を仮の肉体としてこのナザリックにあらわれた。

 あの姿になってしまったのは彼の過失ではなく、全ては世界の管理者のせいだ。

 ウルベルトさんには一切の責任はなく、よって私たちはアインズ・ウール・ゴウンの不文律を破り、仲間として再び迎えることを決めた。

 だが、今のウルベルトさんはただの人間だ。

 アインズ・ウール・ゴウンでは、受け入れられない人間種。

 ウルベルトさんの肉体ごと世界そのものが崩壊してしまった今、彼の悪魔としての体を再び取り戻すのは私たちの帰還以上に困難だろう。

 お前たちは、そんなウルベルトさんを快く迎え入れられるか?

 私たち上位者が決めたから渋々受け入れられるのではなく、私たちと対等に扱えるか? 弱くなってしまった彼に対して同様の忠誠を誓えるか?」

 

 静謐さをもちながらも、その奥底に苛烈さを秘めた問いかけであった。

 ひとつ、返すべき言葉を間違えれば、マグマのような激昂が噴き荒れることをこの場にいる誰もが瞬時に飲み込んだ。

 

 幸いなことに、いや当然というべきことに、言葉を間違える者など、この場にはいなかったのだ。

 

 至高の存在がたとえ人間になろうと、レベル1のか弱き存在になろうと関係ない。 

 愛情を持って創ってくださった方への感謝があり、そして一部の者は命を賭けるほどに愛されているということを痛いほどに知っていた。

 そのような方を拒むはずないのだ。

 忠誠が変わるはずない。

 

「もちろんでございます。ウルベルト・アレイン・オードル様が例えお姿を変えようと、その威光とも言える気配は決してお変わりありませんでした。私たちが頭をさげ、平伏し奉るべき御方。私たちはウルベルト・アレイン・オードル様にモモンガ様、たっち・みー様、ヘロヘロ様、リーザ様、ミーシャ様と変わらぬ忠誠を誓います」

 

『誓います!』

 

 守護者統括の宣言に、背後に控えるものたちの声が唱和する。

 その場しのぎの偽りではなく、彼らの真意がうかがえる真剣な瞳。

 モモンガは知らずのうちに威圧するように発していたスキルを解き、息を吐いた。

 

(嘘は、ない。よかった)

 

 ああ、これで彼をちゃんとここに連れて帰ってこれる。

 そう、あとは見つけるだけだ。なんとしてでも。

 

 モモンガの眼窩に灯る赤い光が安堵に揺らいだ。

 

「発言ヲオ許シ頂イテモヨロシイデショウカ」

 

「ああいいぞ、コキュートス。どうした」

 

「ウルベルト様ヲ捕ラエタト言ウ不届キ者デアル、世界ノ管理者トハ一体ドノヨウナ者ナノデショウカ」

 

(うん。世界の管理者っていうだけでは漠然としすぎていてわかりにくかったか)

 

 クソ制作のGMだよ。

 とは言えず、言ったところで意味が通用しないであろうから、モモンガはあらんかぎりの語彙力を駆使した。

 

「世界の管理者とは……そうだな力でどうにかなる者たちではない。

 それこそナザリックのワールドアイテムをかき集めて100のレベルを120に上げたような強さにして戦いを挑んでも、我々は勝てない。ユグドラシルという世界を創造し、ありとあらゆる生き物を作り、世界に存在する理そのものを操る。私たちギルドメンバーもその理に縛られている。どれだけプレイヤーに打ち勝とうと、世界が定めた物理法則には勝てない。

 世界の管理者は例えるなら自分たちの陣営を1000にまで上げて圧倒的実力差で我々を虫でも叩き潰すように消滅させることも可能なものたちなのだ。

 まともにぶつかり合おうと、策を弄そうと、どんなにあがこうと絶対に勝てない相手だ」

 

「ナント、ソノヨウナ者ガ居タノデスカ!」

 

 ゲームの運営や制作の者というのは、プレイヤーのモモンガとは一線を画していて当然だ。そのゲームの枠組みそのものを作って操作できるわけであるからして。同一に語る方がおかしいのだ。

 モモンガはその思考のもと、自分たちよりも強い者が存在していたと淡々と情報を開示したわけだが、それはゲームという枠組みの中にいたことを知らないNPCの意識と、完全に隔離してるものだった。

 アインズ・ウール・ゴウンこそ至上であり唯一絶対の強者と信じて疑っていない彼らにとって、その存在が勝てないと断言する相手がいるというのは、天と地がひっくり返るような衝撃だった。

 

 だが、その衝撃を乗り越えた先の真理に行き着いた者は、自分たちがどれほど強大で偉大な方を主と頂いているのかを悟り、その異様なまでの法悦に全身に痺れを走らせた。

 

「流石です、モモンガ様」

 

 デミウルゴスは興奮混じりの称賛の声をあげた。

 

「え?」

 

「そのような存在から、単身でウルベルト・アレイン・オードル様をお救いするという偉業を成し遂げてくださったのですね。

 その力、智謀。モモンガ様は一体どれほどまでの能力を有しておられるのか……!

 無論、至高の存在であられる方は大いなるお力をお持ちしていると最初からわかってはおりましたが、それは凡夫でしかない私の想像の内にすぎないものであったのですね。創られし者でしかない私の物差しでおさまる御方ではなかった。

 私程度では到底理解が及ばない、及ぶはずもない遥かなる高みにおられたことを、今この瞬間理解いたしました」

 

 話の半分も頭に入ってこないが、モモンガはとてつもなく過大評価されていることだけは分かった。

 何か、勘違いをされている。

 ウルベルトを取り戻したことを、なんらかの武力行使と思っていないか……!?

 

「待て、デミウルゴス。何か思い違いをしているようだが、世界の管理者からウルベルトを取り戻したのは、武力ではなく会話だ」

 

 正しくは、なかなか返答がないメールでのイライラするやりとりの応酬の結果であった。

 

 しかし、それはモモンガへの誤解をさらに深めるものとなってしまったようだ。

 眼鏡の下で細められていた目が完全に開き、レンズ越しに宝石があらわになる。

 

「なんという」

 

 激情で声も出ないと言いたげな有様だった。

 

(え、俺なんか言った?)

 

 モモンガは加速する勘違いにさらにアクセルを踏み込んでしまったかのような予感に、ごくりと息を飲んだ。

 

 

 

 

 デミウルゴスは、智者であれと創られた。

 それによって得た知識という力。卓越した発想力。それらを万全に活かすための演算力。残念なことにそれをもってしてでも、世界を作る、世界そのものの理を操るということはできそうにない。

 デミウルゴスにできるのは例えるならば盤上にある駒をいかに最適に動かすかという、『最初から有ると決まっている』ものを使っての策謀。

 舞台となる盤を作れるわけでも、駒を作れるわけでも、ルール自体はいじれる訳でもない。

 世界の管理者とは、いわば不条理な存在なのだろう。

 元となる盤を作り、駒を配置し、ルールを作る。それらを自分たちにとって好きなように有利に変更できる。

 

 至高の存在以外の者が自分よりも上にあるとは認めたくはないが、その存在はナザリック随一の智者であるデミウルゴスの智謀を凌ぐのであろう。

 モモンガは、そのような者たちと知恵で持って渡り合い、ウルベルトを取り戻したのだ。

 

「世界の管理者から、危険を顧みずウルベルト様を助け出してくださったのですね。その叡智は、いかほどのものであるのか」

 

 レベル1000などというまるでおとぎ話のような、戯言としか思えないような者たちに話術でもって挑み、あの日の言葉通り宿願を果たしてくださった。

 それがいかに、無謀か、危険であったかなどもはや想像もつかない。智者であれと与えてくださった力を有効に扱いきれない自身の不明に、情けなさが増すばかりだ。

 

 そして、デミウルゴスは思い知る。

 モモンガは我が身の何も省みず、ウルベルトを取り戻した。

 それは仲間を思う気持ちからさせるものであるのだろうが、それ以上に……

 

(モモンガ様は、やはりウルベルト様のことを……)

 

 畏敬を塗り替える苦い感情に、名前をつけてはならない感情に、デミウルゴスは体の芯を凍らせながら頭を下げた。これは、表に出てしまいそうになった家臣にあるまじき心情を隠すための行為ではない、そう自身に言い聞かせながら。

 

「モモンガ様は、賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有される方ーーまさに端倪すべからざる、という言葉が相応しきお方。

 そのような方に仕えることができる至福、改めて噛み締めております」

 

 至高への賛辞は心の底から湧いてくるはずなのに、まるで言い聞かせるようだとデミウルゴスは不甲斐なさを恥じ、呵責した。

 

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