書きたいもの詰め合わせた闇鍋話   作:オニヤンマンマ

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どうしようもない話

 後悔の極致にあろうと、完全に取り乱すことはできなかった。いっそ激しい怒りに突き動かされたままこの場から去りたかったが、感情が抑圧されると、いろんな義務感にそうもいっていられなくなる。

 まだ、この場を収めるという面倒な仕事が残っていた。

 

 あろうことか、自分が創ったNPCにウルベルトを拒まれたことへの腹立たしさ。

 しかしそれとこれとは別に仲間の存在を重ねるパンドラズ・アクターにほかのNPCたちから嫌悪の視線が向けられるのも、モモンガの中で不快な痼りになる。

 

 自分自身がパンドラズ・アクターを見るのが嫌なことと、その視線が気に入らなかったことから、彼をさっさと元の場所に戻すことにした。

 

「パンドラズ・アクターに無期限の謹慎を命じる。謹慎を解くまで宝物殿での仕事に従事していろ」

 

 冷たい声音で命じると、ドッペルゲンガーは仰々しい仕草でその命令を受け入れた。

 それに感情が動かない程度には、モモンガの中には複雑なものが渦巻いていた。

 

(あれ、なんで死んでるんだろ、あの子)

 

 とりあえずネイア・バラハとの話は仕切り直して翌日に持ち越させよう。

 そう、告げようとしたら本人が生気の失せた顔色で椅子に座ったまま事切れていた。

 人が死んでいるというのにとても冷静で、ただただ唐突に死んでいたことが疑問だった。もしかして発作の持病持ちか何かだったのか?

 モモンガが首をわずかに傾げていると、ヘロヘロが『モモンガさん、スキル使ってますよね。あの子、それで轢死してましたよ』と小声で教えてくれた。

 

「え?」

 

(そういえば、うっかり絶望のオーラ纏ってたな。これで轢死? たかだかオーラに轢き殺されたの? オーラって人間を轢き殺せるのか?)

 

 恐怖効果と能力ペナルティの効果しかもたないこれに、なぜ? ギルド武器で強化されているかもしれないが、なぜそれだけで死ぬんだろう。

 人を殺してしまったかもしれない罪悪感よりも、モモンガの中に湧いて出たのは「手間がかかって面倒だなあ」という感覚。モンスターを捕縛するクエストで間違って対象を殺してしまったときの、億劫さに似ている。

 

(フレンドリーファイアも解禁されているみたいだし、ウルベルトさんと会う時は気をつけなきゃ。あ、リーザさんとミーシャちゃんに死体を見せているのはダメだな。一旦、たっちさんの部屋に行ってもらおう)

 

 そんなふうに平然と思えることに、なにかが違うだろうと警鐘を鳴らすものがあるが、それにかまけている余裕はなかった。

 

「すみません、たっちさん。今日は夜も遅いし、お二人には休んでもらっていいですか? 話を聞く空気でも気分でもなくなっちゃいましたし」

 

 たっちにも課金アイテムのメールを送ったから、二人を部屋に送り届けた後にでも円卓の間に来てくれるだろう。

 聖騎士は二人の視界にネイア・バラハの遺体が目に入らない位置に立ちながら応じる。

 

「そうですね。緊急事態だから言いだせませんでしたが、さすがに理沙と美沙はそろそろ休ませたいと思っていました。

 ルプスレギナを……いや、この場合はペストーニャか。セバス、その少女をペストーニャに介抱させてやってくれ。あとは頼んだ」

 

 ナザリックにおける信仰魔法のスペシャリストの元に少女を運ぶように執事に命じ、たっちは二人を連れて早々に引き上げた。

 

「ネイア・バラハに対する情報収集は、明日……といっても、日付はもう変わっていたな、翌朝に改める。今日は解散するので、各自休息を取りつつ、職務に戻り忠義に励め。

 ……お前たちまで私を失望させてくれるなよ」

 

 釘を刺すような捨て台詞とともに、モモンガは指輪の力で六階層から転移する。

 

 拝謁の姿勢をとったNPCたちは、そのようなことは絶対にありえないと否定する間すらもらえず、その姿を見送ることとなる。

 

 一人残ったヘロヘロは、細々としたNPCたちへの指示や、後継者となっているはずだがNPCであったせいでギルドメンバーからは取り残されがちのイリニへのフォローを終えてから、

(ホモの言い訳かあ、できれば聞きたくない類の話だなあ)

 とぼやきながら嫌々円卓の間へと転移した。

 

 ◆◆◆◆

 

 リーザとミーシャを先に休ませて、男三人だけで円卓の間に集まった。

 そこにはなんとも言い難い奇妙な空気が流れている。その居心地の悪い見当違いの生温い気遣いムードに、モモンガは全力で抗った。

 

「違うんです、メールでも言いましたが、誤解しないでくださいね。なんだかこう、俺がウルベルトさんを好きみたいなことを言ってしまった気がしますが、お願いですから、勘違いしないでください。そうじゃないんです。本当に、そうじゃないんです」

 

 ガンガン発生する精神抑制が意味がないくらいに、本音を勢い余って吐き出してしまった後悔と向けられる誤解に心乱れた。

 人に聞かれたら絶対に誤解されるような重い気持ちだと理解していたからひた隠しにしてきたのに、怒りに我を忘れていた。

 

「え、どの辺が誤解なんですか?」

 

「大丈夫ですよモモンガさん、今更そんなふうにごまかして自分を偽る必要なんてありませんよ。

 私も理沙もそういったことに偏見はないので、安心してください。モモンガさんが同性愛者でも、友人なのは変わりありませんから」

 

 ヘロヘロとたっちは全く取り合ってくれなかった。ヘロヘロは聞く耳を持たないし、たっちのおおらかでさわやかな気遣いは、むしろモモンガの胸を深く抉ってくる。

 

「だいたい、モモンガさんの気持ちは昔からダダ漏れでしたから。ペロロンチーノさんと一緒にいるときなんて、嫉妬が特にわかりやすかったですよ。二年前から戻ってきていたギルメンはみんなモモンガさんの気持ちは知ってるから、無理に隠すことなんてないんです。

 でも無理矢理はダメだと思うので、再会したときはウルベルトさんの意志を尊重することは忘れないでくださいね」

 

「え?」

 

 目の前の聖騎士は今、なんとのたまった。

 

「昔からって、あの、えー!」

 

 モモンガは頭を抱えた。

 寄せては返す波のように、モモンガのいたたまれなさによる動揺は絶頂に登っては急激に下がることを繰り返す。

 ペロロンチーノと二人だけで話しているとなんだかおもしろくなくて、さりげなく割って入ったり、無理矢理ウルベルトの注目を自分のほうに持って行かせた記憶は、多々ある。

 いい歳をした大人にあるまじき子供じみた感情で、そんな感情に振り回される恥ずかしさがあったから、モモンガとしては内心の妬心を曝け出さないように、かなり気を使っていたはずなのだ。

 

「あの、私ってそんなにわかりやすかったですか?」

 

「とても分かりやすかったですよ。

 それにうちには観察眼の鋭い女性がいますから。私たち男性陣が気づかない些細なことまで見ていて、目撃証言の多彩さには目をみはるものがありました。

 これが取り調べだったら、私は問答無用でモモンガさんにさっさと黒判定をしてますね」

 

 たっちはモモンガにとどめを刺した。

 

「んひーーー!」

 

 モモンガの骸骨の口から悲鳴がほとばしった。精神抑制も追いつかない。

 

「前からそうだったんですかー。へー。

 モモンガさんはホモってことで。言い訳もなにもないですよねぇ。それではかいさーん」

 

 ヘロヘロが勝手に場を切り上げようとするので、モモンガは慌てて待ったをかける。

 

「待ってくださいって。私は別にウルベルトさんと付き合いたいとか、その、えーとキスしたいとか思ったりしたことありませんから! セクシャルな欲求は一切ないんです! 私は昔から女の人が好きです!」 

 

「依存とか執着とかほざいた人が何か言ってますよぉ、たっちさん」

 

「確定黒が何か言ってますね、ヘロヘロさん」

 

 はっはっは、とわざとらしい笑い声と共に仲のいい掛け合いをしている。

 モモンガは必死に訴えた。

 

「あの、依存とか執着は、その……お恥ずかしいことにみんながいなくなったことで、一時期本気で病んでいた時期がありまして、そんなときにウルベルトさんから俺にギルドを辞めて欲しくないなんて言われて、俺にはウルベルトさんしかいないように、ウルベルトさんにも俺しかいないんじゃないかって一度思ってしまったら、ずるずると……」

 

 その発言に、三人の間にしんみりとした空気が生まれた。

 

「パンドラズ・アクターが貴方から本音を聞き出そうとするのを見て、モモンガさん、私は貴方に謝らなきゃいけないと思ったんです」

 

 突然真面目な声で言いだす。

 

「ヘロヘロさん?」

 

「私はけっこうギリギリまで長く入れたほうだから、彼の存在理由を知ってます。そんな彼だから、何事もなく私が受け入れられてるのが許せなかったんじゃないかと思ったんです。

 それで、受け入れられるのが当たり前のような厚かましい態度を取っているのって、なんか違うなあって感じて。

 途中でこのギルドに来れなくなった私が、このままなあなあにそのまま受け入れられるのは虫の良すぎる話だと反省しました。

 まあ、パンドラズ・アクターの暴露させたい目的が全然違くて、最終的にキャッチボールをしていていきなり渾身の暴投くらった気になりましたけど」

 

 ヘロヘロは頭を掻いた。

 

「パンドラズ・アクターがモモンガさんから引き出したかった本音は全然違かったけど、私はそれによって気づかされることがありました。

 私は、何もしていなかったんですよね。すみません。

 モモンガさん、今までナザリックを守ってくれてありがとうございました。たっちさんも、戻ってきてからモモンガさんたちと一緒にギルド維持をしてくれて本当にありがとうございました。

 みんながいてくれなかったら、私はあんな風にいきいきと動くメイドさんたちに会えませんでしたから。

 今まで自分がなんとか生きるためだけに働いていましたが、これからはナザリックのために働いていこうと思っています。

 あの、だから、これからよろしくお願いしますね?」

 

「は、はい……!」

 

 モモンガは歓喜をこめて頷いた。

 このいい感じの雰囲気のまま話が終われば、モモンガの心の平穏を保てたわけだが。

 

「でも、それとこれとは話が別で、モモンガさんはホモですよ」

 

 感動的な空気を無慈悲なホモ発言でヘロヘロは完全破壊した。

 

「やばい発言多すぎですからねー。言い逃れできませんよ」

 

「いつも丁寧な言葉遣いのモモンガさんが、さん付けを忘れて俺のウルベルトって相当力強く断言したところなんて、少し鳥肌たちましたね。あの瞬間、モモンガさん本気でしたよね。私の知る限りお二人が恋人同士になっていたなんて聞いてませんし、ただの友達の状態であの発言って、なかなかすごいものがありましたよ」

 

 うう、とモモンガは痛いところを刺されたように呻く。

 

「それにも理由があるんですよ……」

 

 しどろもどろに言い募りはじめた。

 

「さっきも言ったとおり、すごく申し訳なさそうに、止める権利はないけれど俺に出来れば辞めないでほしいです、って、すごくためらいがちに言われたことがあるんです。ああ、なんて言えばいいのかな、その時のウルベルトさんは小さい子供が手を伸ばそうとするんだけど直前でなにか我慢するようにぎゅっと握り込んでしまうような感じで……

 ウルベルトさんと一緒にいて、そんな感じのことが何度かあったんです。何かを掴もうとするけれど、掴む前から諦めてるように見えること。私は、それを掴みたくなったんです。本当はずっと、掴みたくて仕方がなかった。諦めて逃げられる前に力一杯掴んで、俺に渡せるものなら自分ごと全部やるから、そんな寂しそうにするのはやめてほしいって言いたかった。それを言ってウルベルトさんの悩みを全てどうにかできるような能力なんてなかったけど、一緒にいれるくらいのことはできたと思うんです。

 それで、まあ何かを渡すなら俺も何かを欲しい、っていう下心ではないですけど、等価交換とも違うなあ、言葉が出てこないです。

 俺は、他の誰にもあの人のその手を掴ませるつもりはなくて、俺だけがあの人を掴んで救いたかった。何ができるわけではないけど、俺の差し出せるものすべてあげるからその代わり、俺は貴方の全部が欲しい……みたいなことを勝手に思っていた部分がありまして、それがあの滅茶苦茶恥ずかしい俺のウルベルトさん発言に繋がっちゃって……」

 

 俺のモノだなど言うのは、さすがにこれはちょっとおかしいと思っていたから、口に出そうになったときも誰もいなくてもずっと我慢していたのだ。思うことも躊躇われ、頭の中でも仲間だとかギルドメンバーだとかいう言葉に置き換えていた。

 言葉という形にしてはっきりさせてしまうのは恐ろしいくらいの、あまりにも大きすぎる執着だったから。

 その存在を失ってしまったときの喪失感を想像すると怖かった。

 いつ何時いなくなるかわからなかったのだ。

 ゲームという縁が切れてしまったときの防波堤として、その欲求からは距離を置いて蓋をしていた。

 いなくなって欲しくはないけれど、いなくなったとしても、ちゃんと別れを告げられるように。

 

 それが、今や。

 

 かつては、我慢できていたのだ。

 別離を告げられたときの傷を浅くするために、特別な感情の中にひそむ、さらに深い気持ちを無視できた。

 もう、そんなことは無理だ。

 この骸骨の体はひどくおかしい。感情の抑圧はするくせに、自分の中にある欲求をむき出しにさせて強く意識させる。

 鈴木悟という人間がもっていた良識とか常識、思いやりを削ぎ落として、言い聞かすようにしてごまかして形を歪めて隠してきたものをはっきりと見せつけてくる。

 別離を恐れて、執着をぶつけて嫌われるのを恐れて、自分の中に眠る感情を知らないふりなどできない。

 近づきすぎて、なんて思われるのかわからなくて怖かった。図々しいと嫌われたりしないだろうか。気持ち悪いと思われたりしないだろうか。

 そんな保身のせいで、逃げる手を何度も掴み損ねていた。

 けれど、もう、モモンガは恐れない。

 もし再び会えたなら、その手を掴むことをためらわない。

 逃げられる前に、絶対に捕まえるのだ。

 絶対に、逃がさない。

 いなくなる言葉など、言わせてやるものか。他の誰かに告げられるそれは許容できても、ウルベルトからのそれは許すつもりなんてない。

 あの人は自分の前からいなくなることなどない。

 絶対に、逃がさないから。

 ぶつけられる依存と執着に嫌気がさして拒まれて逃げられそうになっても、離してなんかやらない。

 

 だって、あの人が欲しい。

 あの人は、俺の。

 

「できることなら、欲しいんです。ていうか、自分のものにします。絶対」

 

 考えすぎていたせいで、この場では絶対にこぼしてはならない本音がぽろりとこぼれていた。

 

「あ、しまった」

 

 話を聞いていた二人は、雲行きがあやしいどころか土砂降りのようにウルベルトへと降り注いでいる愛情に、砂糖を吐くような思いだった。

 

「その牽制がね、アウトなんです。モモンガさん」

 

「ストップ。もう十分です。聞いているこっちが胸焼けします。これはアウト、アウトですよ、モモンガさん。甘酸っぱすぎてスライムの体が溶けそうなんですけど、何これえ。なんでこれで恋じゃないって言ってんのうちのギルマスは」

 

「あー、恋って素晴らしいなあ。理沙と出会ったときのことを思い出します。今、無性に理沙に会いたいなあ。とりあえず、もう解散しましょうか」

 

「待ってくださーい、本当に違うんですから! 友情です、私はウルベルトさんに友達以上の関係は求めていないんですってば!」

 

 慌てるモモンガに、たっちはぽんと肩に手を置いた。

 

「正直に告白して、あまり自分の感情を押し付けずにウルベルトさんの気持ちも尊重すれば、ちょっとは脈ありだと思いますよ、モモンガさん。

 ウルベルトさんは、モモンガさんから向けられる好意に友情だって言って困りながら否定はしても、嫌がったり拒んだりするようなことは言っていませんでしたからね。割とまんざらでもなかったんじゃないかなあ」

 

「はいぃっ!? ちょっと待ってください、もしかしてウルベルトさんにも、私の執着が割と筒抜けだった!?」

 

「あれで本人にバレてないと思えるその抜けっぷりはすごいですね。完全に筒抜けでしたよ。『モモンガさんのアレはあくまで友情だから、恋心とかじゃないから。お願いだから気にしないで』っていう苦い顔で必死に言い訳してました。あれはモモンガさんの気持ちを気づいたうえで黙ってただけですね。

 でも、変に指摘して気まずくなりたくないから、モモンガさん本人には何も言わないでくれって頼まれていたので今まで何もいいませんでしたが……その時は人様の恋愛事情に深く首を突っ込みたくなかったから、私も言われた通り気にしないようにしていました。

 こうなると、私から言えるのはこれくらいですね、モモンガさん頑張れ!」

 

「モモンガさん頑張れ!」

 

 ヘロヘロとたっちの棒読みの応援に、モモンガは膝から崩れ落ちた。

 

「ウルベルトさんにもバレていたとか、恥ずかしさのあまり死ねそうなんですが」

 

 震える声で告げる。床に膝をついたまま絶望した。

 うう、でもウルベルトさんが誤解していなかったなら、まだマシなのかなあ。

 ぶつぶつとつぶやきモモンガは煩悶する。

 

「恋人ができても気にしないとか、結婚していても気にならないとか、自分を無理に偽らないでもっと正直になったほうがいいですよ、モモンガさん。ぶっちゃけた話、ウルベルトさんに恋人ができたら嫌でしょ」

 

 ヘロヘロはうずくまったままのモモンガの肩を叩く。

 

「いや、でもそこは全く気にならないんですよ。本当ですよ? ウルベルトさんの特別を恋人に取られるのは嫌ですけど、俺ノーマルですし、恋人になりたいわけじゃないんです」

 

 よたよたと立ち上がり、モモンガは潔白を証明するために断言した。

 

「でも、恋人や奥さんできたらそちらを優先するようになるんじゃないかなあ」

 

「優先させませんから」

 

 ヘロヘロの仮定の話に、モモンガはきっぱりと言った。

 

「その理屈はおかしい。おかしすぎますよ、モモンガさん」

 

 頭をかかえるヘロヘロに、モモンガも言いにくそうに弁明する。

 

「おかしいのはわかるんですけど、アンデッドの体になってしまったせいか、物事の考え方がかなり変わってしまっていて。困ったことに、なんだか箍が外れてしまったみたいで、そういった理屈や理性的なことが全く伴ってこないんですよ。

 友達よりも恋人を優先する? そんな他人の当たり前なんて知ったことかというのが本音なんです。

 人間だったころよりも力があるっていう自信がついちゃったせいなのか、それともアンデッドの体の特性なのかは判別つきませんが、ウルベルトさんに関してすごくわがままになってしまっているっていうのが実情で……

 かつてこうだった、っていう常識的なことを頭の中で考えることができても、それによって不快なことを許容できるかは別問題として脳内で処理されていて、そこは譲れないです」

 

「うーわー。ウルベルトさん御愁傷様ー」

 

「何度もいいますがね、仮に再会できたら、ちゃんとウルベルトさんの意思を大事にしてあげてくださいね」

 

 たっちは内心、モモンガの手が届きようがないリアルにログアウトできているほうがウルベルトにとって幸せだろうな、と友人の平穏について思いを馳せていた。そうなると、モモンガは手に入らなくなってしまった存在に絶望しそうだから、やっぱりこの世界にいて欲しいと同時に思うわけではあるが。

 

「それと……体が骨になったことでブツがなくなってしまって、恋人を作るとかそういう欲求が低くなっている気がすんですよね。アルベドのあの胸を見ても全っ然ムラムラしませんでしたし。

 だから、やっぱりウルベルトさんは私にとって大事な友人なんです」

 

 モモンガの告げた衝撃の真実に、男二人はつい股間を注視ししてしまった。その視線は、モモンガにとって非常に痛いものだった。モモンガの悲痛さに気づいたのか、二人は気遣うように慌ててそらし、あー、と気まずげに声をもらす。

 

「それを言うなら私もそうですね……これに関してはお互いドンマイってことで」

 

 ヘロヘロはブツをなくした仲間同士、励ました。たっちは同じ男としてかける言葉が出てこず、黙っていた。

 

「今まで恋人なんていたことないし、アンデッドじゃあ恋人ができる気もしないから問題ないですけどね。だいたい、できたところで感情の比重が二の次になるのは目に見えてますし」

 

「ウルベルトさんを、できるかどうかもわからない恋人という存在よりも大事にするから、恋人なんていなくても問題なしですか?」

 

「そういうことですね」

 

 ここまで言葉を尽くしたのだから、誤解は解けただろう。モモンガは持ち前の善良さで仲間を信じてしまった。

 とくにヘロヘロは男の沽券を失ってしまった同士なんだ。きっとわかってくれるはず。

 けれど、その信頼は即座に裏切られる。

 

「モモンガさん、それをね」

 

 神の使徒が咎人に許しをあたえるような厳かさで言う。

 

「プラトニックホモって言うんですよ」

 

 ヘロヘロの声には、突き刺さって胸が痛くなるくらいの労りに溢れた優しさがあった。

 

 モモンガの弁明は失敗に終わった。

 

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