書きたいもの詰め合わせた闇鍋話 作:オニヤンマンマ
前話から唐突に話が飛びます
パソコンのファイル整理中に、ここだけ書いてあったのを見つけたのでもったいないからサルベージ
前話からなんやかんやあっていろいろ解決して、今話、みたいな流れです
プラトニックホモという烙印を押されたモモンガは、時間を見つけてはそれを払拭すべく頭をひねっていた。
ギルドメンバーがモモンガの言い分を信じてくれなくなったどころか、意思をもって動くようになったNPCたちまでもが誤った認識をしているのである。どうやらあの場にいた面々以外にも情報が拡散しているらしく、モモンガの精神的安定が進退窮る状態だった。
このままでは、ウルベルトが帰ってきたときに多大な誤解を与えてしまう。
過剰なまでの同性愛許容の歓迎にドン引きされて、その原因となったモモンガが嫌われてしまうことが容易に想像がつく。
嫌われてモモンガの元から離れていこうとしても、抵抗のために立てられる爪の感触ひとつひとつまで楽しむようにがっちりと捕らえておくから問題ないといえば問題ないのだが、出来れば嫌われることは避けたい。
自分の感情の言語化という内情に向き合えば向き合う恥ずかしいことをしながら、モモンガは必死に話を組み立てていた。
今度こそは、誤解を解かなければならない。
これから帰ってくる(予定の)ウルベルトと己の安寧のために、モモンガは固く決意したのだ。
男性陣のヘロヘロとたっちだと、まともに取り合ってくれずにさっさと結論を出したがる節があった。彼らからしてみれば、ホモのよもやま話などくどくど聞きたくないという切実な願いあっての態度なのだが、モモンガからしてみるとそれでは困るのだ。
きっちりとこちらの釈明を聞き、モモンガの語彙では形にできない心の機微を上手く汲み取って貰える相手を、まずは説き伏せよう。
それから、広がってしまった誤った認識を改めるための協力をしてもらえばいい。
恋愛事情ではないのだが、恋愛事情と勘違いされている以上、こういったことに詳しい女性陣を選ぶべきだろう。
そういった心理に対して洞察力が高い女性陣がモモンガの話をしっかりと理解してくれれば、これが恋などとは勘違いしないはずだ。
その考えのもと、アルベドと数人の一般メイドを「手に余裕がある者を数人、出来れば言葉に巧みな者が良い」とメイド長であるペストーニャを介して自室に呼び出した。
支配者とは、簡単に謝ってはダメらしい。
できれば「めっちゃ個人的なことでわざわざ呼んでごめんね」程度にはへりくだって頭を軽くさげておきたいのだが、そうもいかないのだ。
「個人的な呼び出しに集まってもらって感謝する。
呼び出しの理由がわからず困惑しているようだから、最初に説明しておこう。
今回お前たちに集まってもらったのは、女性ならではの知恵を借りるためだ」
呼び出した者とは別に仕事として控えているメイドは、自分に何か不足があったから別のメイドやアルベドを呼び出したのではと青い顔をしていたが、モモンガの説明に今度はきょとんとした顔をする。
それは呼び出された者たちも同じだ。
「感謝など……ご命令があるのならば、何をさしおいてもモモンガ様の元へと参じるのが下僕として当然であり、喜びです」
堅苦しい口上を黙って聞き入れ、「女性ならではの知恵でございますか。単純な知恵であったら私たちを遥かに凌ぐ叡智溢れるモモンガ様の助けとなれる自信などありませんが、それでしたら些少でありますがお助けできそうです」などという蜜のように甘い声で紡がれるお世辞を右から左から聞き流し、モモンガは本題に入った。
「どうも私は、ヘロヘロさんたちにウルベルトさんへの想いがプラトニックな愛情だと勘違いされているらしくてな。そうではないことを伝えたいのだが、私はこういったことに疎くて上手く言葉にならないんだ。
惚れた腫れたの感情の言語化は女性のほうが得意そうだと判断した。
こればかりは私一人では解決出来そうにない難題だからな、手伝え」
なりふり構わずシンプルに「ホモの誤解を解きたい」とでも言えば、更なる悲劇の幕開けとならなかったのだろうが、モモンガは支配者らしい言葉選びに拘泥して、違う意味にも取れるような言い方をしたことに気づかなかった。
アルベドは、モモンガがウルベルトを一途に愛していると信じ込んでいる。それは性的な欲求のない子供のようなものだと感じていたがモモンガのこの言により「そうではない」と間違った認識を加速させた。
プラトニックな感情ではない。ならば、肉欲が伴うものなのでは。
その悪魔的頭脳を持って、気づいてはならないことに瞬時に閃いたのだ。
アルベドは得心が言ったとばかりに微笑を浮かべる。
「左様でございましたか」
可憐な花がほころぶような無垢な笑みだ。
その内側でどんな熱狂が乱舞しているかなど絶対に察せない、完璧な笑みでもある。
守護者統括としての顔を脱ぎ捨てたアルベドの顔は、モモンガの中に残る鈴木悟の残滓の琴線に触れてくる。要するに、ちょっと好みだということだ。
ふわりとしたアルベドのいい匂いに、たっちたちの誤解によって疲弊しささくれだった心が癒される。
モモンガは、この目の前の女性こそがモモンガとウルベルトを精神的に追い詰める包囲網を鋭意作成しているとは知らぬまま、呑気に眺めていた。知らぬが仏とはまさにこのことだろう。
「モモンガ様であるならば、何においても優れているお方だと思っておりましたが、苦手なこともあるのですね」
楽しげに、そして意外そうに。
初めて知りました。と、新しいことを発見した喜びに頬を染める様に、モモンガは懐かしい感覚を得た。言葉遣いは堅苦しいが、この瞬間のアルベドには会社の年下の同僚と話すようなきさくさがあった。がちがちの忠誠ばかりを向けられるよりも、居心地のいい距離感に近づいた気がして、モモンガはほんの少し、心の重荷が軽くなった気がした。
「何をいうか。私は苦手なことが多いぞ。私一人では何もできない。それはギルド内最強のたっちさんとて例外ではないだろう。
なにせ、ここに残った者たちはみな戦闘向けで得意不得意の分野がはっきりしているからな。ぷにっと萌えさんや、ベルリバーさんがいればまた違っただろうが、内政などはアルベドたちナザリックの知恵者がいなければ立ち行かないだろう。
だからこそ、お前たちが私たちには必要だ。頼りにしているぞ」
おだてているわけではなく、本心からの言葉であった。
ゲームでの強さが現実化してしまったこの世界で通用することは立証されたが、力だけで全てが解決されるわけではない。むしろこれから必要とされるのはそれ以外の能力だと、いかな凡愚なモモンガとて容易に想像がつく。
ナザリックの維持や、安全の確保には数少ないギルドメンバーでは手が回らない。様々な能力を持つNPCの協力が必要不可欠だ。
アルベドも、メイドたちもモモンガに必要され、頼りにされていると告げられ、感極まったように震えていた。
怒涛のごとく忠誠を誓ってきそうな面々を押しとどめ、モモンガはさくさく本題へと入る。
「そうだな。まずは私の話を最後までよく聞いてほしい。私の抱えるものを上手く言語化してくれるとありがたい……いや、改めて話そうとするとなんだか照れ臭いな」
モモンガは何の気無しに朗らかに笑ってみせるが、いざ、話そうとなると照れ臭いなどというものではすまない気まずさがあった。
どれだけ恋愛というものに疎いモモンガとはいえ、もしかしたらこの執着や依存やウルベルトが欲しいという渇望は、恋愛感情から起因しているのではと考えたこともある。
そうではない、と自分の中ではっきりと断言できたのはヘロヘロたちに言ったとおり、女性に対してするようにキスをしたいなどという接触を望む欲求がなかったからだ。
それを女性陣の前で口にするのはダメだろうと、この直面においてようやく気付いた。
(よく考えてみれば異性の部下にこんな話を振るのって、セクハラなんじゃあ)
だが、ここまで来てしまった以上引くわけにもいかない。
彼女たちに手伝ってもらう以外の良い方法も思い浮かばないのだ。
支配者らしい口ぶりに気をつけ、かつ色っぽい生々しい話にならないようにしよう。
モモンガの中で言葉選びのハードルが跳ね上がった。
「私は……ウルベルトさんに深く触れたいという欲求が湧かないのだ」
少し抽象的すぎるだろうか。
モモンガは悩んだが、アルベドたちは実に女性らしく恋話(だと思い込んでいる)にうんうんと目を輝かせて聞いていて、意味をなんとか解釈してくれたようだ。
(嫌がられてるわけじゃないからいいけど、なんか気恥ずかしいな)
もう勘弁してくださいよ、と言いたげな男たち二人と違い、全力で耳を傾けてくれる。
ありがたいことだが、それが逆にいたたまれなくなった。男とは難儀なものである。
「抱きしめる……ことくらいならしたいな。でないと逃げられそうになったとき、捕まえておけないからな」
執着が酷すぎて、逃げられることを前提に考えてしまう。恋愛感情ではないにしろ、ひと一人が受け止めるにはあまりにも面倒で重い感情だ。こんなものをを受け止めることを躊躇われるのは、モモンガ自身がよくわかっている。
「手を掴むだけでは嫌だと思う。振りほどかせるつもりはないが、そういった素振りをされるのも嫌だ。だったら、最初から逃げることを諦めるくらいに強く抱きしめて、この腕の中にしまいこみたい」
それに、体の一部だけ掴んで留めおかせるのは、どこか味気なく心もとない。
触感が人間の時と比べると薄くなった。
触っている感覚、触られている感覚、それらが薄くなってしまったことを忘れるくらいに、ウルベルトの存在を感じたい。
脈拍を、心臓を、息遣いを、生きている存在感を。全身で確りと感じ取りたいのだ。
「私は、この想いの終着点が何処にあるのか分からないんだ。
どうすれば自分は満足できるのか、この希求を昇華できるのか」
鈴木悟としての肉体があったときですら、持て余していたこの感情。
努めて潜めていた執着の奥底に滲むものが、はっきりと形になって放たれる性欲として解消出来ていたのならば、オーバーロードとなった今こんなに悩んでいなかっただろう。傲慢な独占欲の根源が愛欲であったなら、肉体がなくなった時点で少しくらいは薄れていてもいいはずだ。モモンガが得たいのは肉体を重ねることで得られる充足感だとは、到底思えない。この餓えのような感情の決着は、一体どこにあるのか。
仲間たちを平等に、均等に大好きだった。大切な家族を失い、誰かに対して心を寄せるのは久しぶりだった。現実で親しい人間関係を構成することができず、こんなふうに誰を思うことは二度とないと諦めていたから、言葉に言い表せないくらい嬉しかった。ユグドラシル以外に交友関係がないモモンガは、ギルドの仲間たちが人生における幸せの全てだった。
仲間の存在はモモンガの中で非常に尊く、順位づけをして優劣をつけられるものではなかった。全員が同じくらい大切で、気が合う合わないとか、尊敬できるできない、気安い気安くないとか細かな違いはあれど、圧倒的な他意なき好意に大きい差はなかった。
それが変わっていってしまったのは、大切な仲間たちが徐々に減っていってしまったから。
仲間たちにとって、ユグドラシルの時間が切り捨てていいものと目の当たりにすることは、仕方のないこととどれだけ言い聞かせても、痛みを生むものだった。
徐々に減っていく仲間の背を見送るたびに、底のない泥沼にでも沈んでいく気がした。他人から見れば呆れるほどに大袈裟かもしれない、そんなことでと笑われるだろう。だが、モモンガからしてみれば息もできないくらいに胸が圧迫され、絶望に溺れる日々だったのだ。
窒息寸前のモモンガを救ったのは、ウルベルトの言葉。
自分に対してここに残って欲しい、と必要としてくれる言葉。
暗闇の中に意識を途絶える寸前に、やっと呼吸を与えられたような。もがく苦しみの中にやっと得られたわずかな酸素にも似た。モモンガを繫ぎ止めるなにか。
もっと、もっと欲しいと希うのは当然だろう。
人間は息ができなければ死んでしまう。
泥の水底に沈んでいたモモンガの心は、それと同様に死んでいただろう。
あの人がいなければ、もはや息もできなかったのだから。
たった一人の仲間に精神的にすがり続けているうちに、順列を付けて整理できる存在を通り越して、モモンガの中で唯一絶対のかけがえのないものとなった。
ウルベルトがいることで、どれだけ寂しさに苦しくなっても心が呼吸できていた。
(今は、たっちさんがいる、ヘロヘロさんがいる、リーザさんがいる、ミーシャちゃんがいる、そして皆が残してくれた子供のようなNPCたちがいる。でも、俺は貴方が欲しい)
呼吸できない苦しさは通りこしたが、あのウルベルトから与えられるものが恋しい。
ウルベルトを掴んで、モモンガにとって酸素のようなそれを早く貪りたい。
鈴木悟という人間の時ですら足りなかった。かつてはそれで我慢できていたが、鈴木悟の残骸を飲み込んだオーバーロードは、最早人間としての常識にとらわれて自制するつもりなんてない。
かつての苦しさとは別種のものが、モモンガの中にある。
あって当たり前のものを切り離された不安、苛立ち、苦痛。
彼の存在で、餓えている部分を満たしたい。彼の寂しい心を満たすことで、自分という存在を深くまで刻み付けたい。自分がいなければ苦しいと、言われるまでの存在になりたい。
そんな風にどれだけ願っても、最終的には拒まれることを想像してしまうから、雁字搦めに逃げられないようにして、自分はやっと安心できるのだろう。ウルベルトの中に自分を何一つ残せなくても、その存在が生きて隣にいることで得られる安堵だけは手にしたい。
そんな執着を愛だ、恋だと言われてもしっくりこない。
「あの人が完全に、自分のものになったと自分自身が納得できるには、そして誰にでも理解させるようにするには、そして何よりもウルベルトさん自身に分からせてやるには、どうすればいいのか。
ありがちなありふれた平坦な関係性で終わらせたくないと強く思うのに、私はどうすればその解決ができるのかが分からない。
……こうやって改めて考えると、分からないことばかりだな」
心なんていうのは肉を裂いて出てくるものでもない。解剖して臓器のように並べることもできない。目に見えなくて、完全に明文化できないから酷くもどかしい。
自分の中にあるものを、優先順位とラベル付けでもして理路整然と並べることができれば、既存の言葉にこの感情を置き換えられるのだろうか。
ウルベルトを大切にしたいという想いの中に執着があり、執着の裏には嫌われたくないという願いがあり、願いの隣には同じくらい想われたいという欲求がある。時を追うごとに肥大化していくものはぐちゃぐちゃにいろんなものが混じりあっていて、モモンガ自身把握できない。ただただ、彼の存在が欲しくてたまらない。
自分の世界に沈み込み、深く考え込んでいるモモンガは気づかなかった。
アルベドがありえないくらいに爛爛と目を輝かせ、女性としてはちょっとありえないような顔になっていることに。
(そういう……! そういうことなのですねモモンガ様!
サキュバスである私には絶対にわからない矛盾をお抱えなのですね。
ああ、深く触れたい欲求はないとおっしゃりながら、プラトニックな愛ではないという誤解を解きたいのはこういうことだったのですか!
ウルベルト様に分からせてやりたいなどとそのように強いお言葉を! 平坦な関係性で終わりたくないとおっしゃるのに、解決策がわからないなどと! ようするに、お腰のものが……その、今のお姿は完璧で素敵で超絶美形で誰にも負けないくらい格好良くあらせられるのですが、ないばっかりに!)
デミウルゴスに下卑た言葉でわざと煽ったが、まさしくそれこそがモモンガの中の真実であったのだ。
肉体がある者の恋愛というものを理解するからこそ、モモンガにはもどかしさがあるに違いない。
本能的にやりたい欲求が沸かなくても、愛する者同士がするそれをしてみたいと。そうすることで、肉体を持つ男となんら遜色のない悦楽を与え、ウルベルトに自分という存在を刻みつけてやりたいと。
精神的なものだけでは満たされず、もっと先を。その想いが、アンデッドならば本来抱くはずのない欲望が生んだのだろう。
そうすることで、自分自身が満足したいし納得したい。
(御自身の手でモモンガ様という男をウルベルト様に知らしめてやりたいと! そして周囲にそんな関係を見せつけてやりたいと!
逃げないようにしまいこんだ腕の中で何をするおつもりですか、モモンガ様! くふふふふふ)
女たちは脳内で黄色い悲鳴をあげた。
メイドたちは顔を真っ赤にして、抱いている情欲(だと思い込んでしまった)に目を輝かせている。アルベドに負けじと目を輝かせている。どんびきもせずに、目を輝かせてやる気に満ち溢れている。これはヘロヘロ様たちにしっかりとお伝えしなければ! とレベル100の男どもの魂を吹き飛ばす爆撃のような話を、圧倒的な速さで脳内で構成していた。
「こんな身勝手なものは愛情なんかではない」
モモンガが短い話を締めくくると、アルベドは迷いなくきっぱりと答えた。
「それこそが恋です、モモンガ様」
誤解を解こうと恥ずかしい内心を言葉を選びつつもあけすけに話したつもりなのに、一切伝わっていない。
「え?」
頬を可憐な色に染めている美しい女たち。いい恋話きいた、と言わんばかりの態度だ。愛情ではないと言ったのに、それを信じているそぶりはない。
モモンガにはさっぱり理解できないが、何やら、さらなる疑いが深まっているのは察した。
「ま、待てアルベド、私とあの人は男同士だ」
それなのに、どうして恋になってしまうのか。慌てて訂正しようとするも、アルベドはにこやかに阻まれてしまう。
「なにか問題があるのでしょうか?」
「いや、問題しかないだろ」
つい、素の部分を出しながら突っ込んでいた。
「そのような些細な問題、サキュバスとして必ずや解決に導いてみせます、モモンガ様」
幸いにも実験に使えそうなアンデッドが十階層には多い。彼らにはモモンガのために協力を仰ごう。
必ずや、アンデッドの煩悩の解消を可能とする方法を、この身を使って探り当ててみせる!
不可能を可能とする方法を見つけるのだ。アルベドはどんな困難にぶち当たっても諦めないだろう。サキュバスとしての血が非常に滾った。
話が全く噛み合わないことに、モモンガは戦慄していた。えー、と小さな声を上げる。アルベドは自分の世界に入り込んでしまっていて、そんな声を聞き届けた様子がない。
「重要なことはひとつだと思います」
もったいぶりながら、アルベドはモモンガにわずかに詰め寄る。
「ウルベルト・アレイン・オードル様をモモンガ様のモノとすること」
なにかーーモモンガが抱えているニュアンスと、アルベドが告げるニュアンスが全くかけ離れているような、同じような……
圧に押されながら「ああ、そうだな」とたじたじ答えると、アルベドは艶のある声で畳み掛けてきた。
「ならよろしいのではないでしょうか」
自分が間違っていないと確信している曇りなき眼であった。
「えー」
モモンガはそれに言葉が詰まる。これ以上何を言えばアルベドの思い込みを正せるのか。
「ならよろしいのではないでしょうか」
繰り返してくるアルベドに、モモンガは抵抗を試みる。
きっと自分の心の機微を過たず読み取ってくれる、最初に抱いた期待をゴミ箱に放り投げ、忖度なんてろくなもんじゃねえな、と心の中で吐き捨てながら。
「ウルベルトさんが帰ってきたとき、私が彼を愛しているなどと周りの態度で思われたのでは困るのだが」
「ふふ、そうですねモモンガ様。大事なことはご自分のお言葉で伝えたいと、承知致しました。決して下僕たちから気取られないよう、モモンガ様の望みを徹底して周知いたします」
「そ、そうか」
最後まで言いたいことは伝わっていなかったが、モモンガがしでかしたことがウルベルトに伝わらないようであるならば一安心である。いや、果たして安心などしていいのだろうか。
モモンガが心の中で首をひねった。
メイドたちの裏話
モモンガの部屋から退出したメイドたちは、一様に同じ顔をしていた。
「生えろ……」
メイドの一人がこの世の全てを嘆くかの面持ちでぽつりと呟いた。
それに皆がはっとする。
現在のお姿こそが美しくも雄々しい完全なるものだと理解している。不足などありはしない。だが、男としての象徴がアンデッドであるがゆえに存在しないせいで、その昇華のさせかたがわからず苦悩なさっているのだ。まるで何も知らない幼子のような無垢さであったが、子供ではないからこそ持て余してしまう欲求が至高の方を戸惑わせておられる。
アンデッドで、ブツがないばっかりに。
それはなんという悲劇であるのか!
「はえろぉおおおーーーーー!」
彼女は願った。
両手を天に力強く築き上げて、遠吠えのように可愛らしい声を精一杯張り上げた。
その邪教の祈りのようなポーズで、一体ナニを何処に生やすというのか。
鬼気迫る表情で祈るようにする仲間の醜態を咎めもせず、仲間たちは頷きあいそれに呼応する。
「はえろぉおおおおおおっーーー!!」
天井を見据え、睨みつけるように両手をつき上げた。