太刀風   作:mofu mikuro

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「太刀風」の最後で「2.まだ撤収しない」を選択した場合の続きです。
「太刀風」をお読みになっていなくても大歓迎ですが、目次から「太刀風」をお読み頂ければ幸いです。


太刀風C

B.【まだ撤収しない】

 

 

 

いや、まだ撤収すべきでない。今の内に一人でも多くの敵を殺傷しなければ、のちのち俺達が大変な思いをする。

「電、弾薬は?」

「少なくなってきたのです!」

そうか、と答えた次の瞬間、陣地のすぐ横に砲弾が落ちた。猛烈な爆風を浴び、巻き上げられた砂塵に視界を奪われる。

「皆、大丈夫か!?」

「大丈夫よ!」

「無事よ!」

「大丈夫だよ。」

「大丈夫なのです!」

慌てたが全員無事なようだ。徐々に視界が回復し、四人の姿が見えた。

「よし、暁!機関銃の弾薬を取りに行ってくれ!場所は分かるな?」

「もちろんよ!行ってくるわ!」

暁が陣地を飛び出し、基地に向かって駆けていく。

「俺達は撃ち続けるぞ!一人でも多く倒すんだ!」

射撃を再開し、砂浜を走る米兵に猛射を加えた。

程なくして暁が弾薬箱を抱えて戻って来た。すぐさま機関銃に装填して射撃を継続する。みるみるうちに空薬莢で足の踏み場がなくなっていき、やがて撃ち尽くした。

「弾切れなのです!」

「隊長、どうするの?」

雷と電が指示を仰ぐ。恐らく司令部は基地を拠点に敵を足止めするだろう。ならば俺達も参戦しない訳にはいかない。

「撤収しよう。基地まで後退してもう一戦やるぞ!」

四人を連れて陣地を飛び出し、基地に向かって駆け出した。

 

 

焼け焦げたジャングルを駆け抜け、俺達は無事に基地に到着することができた。凄まじい艦砲射撃により、殆ど瓦礫の山と化し、まともに建物は残っていないが、地下に掘られた防空壕は健在だった。しかし防空壕に身を潜めた俺達は、そこで司令部の意外な命令を受ける事になった。

「まだ後退しろ、だと…?」

命令を伝えに来た兵はランプの灯りに照らされながら、直立不動のまま答えた。

「はっ。この基地を放棄して山地の洞窟陣地に向かうように、とのことであります。」

確かに洞窟陣地は島中央の山に構築されている幾重にも防衛線を張り巡らせた強固な陣地だが、この基地を敵に無血占領させてしまうのはあまりにも惜しい。

「米軍がここを占領すれば、必ず修復して利用してくるぞ?いいのか?」

問われた兵は少し難しい顔をして言った。

「はぁ…。そう言われても、私の一存で決められることではないので。」

「ま、そうだよな。…じゃあ司令部には部下が疲弊しているから少し休ませてから行く、と伝えてくれ。」

「了解です。では。」

彼は大急ぎで山に向かって走って行った。俺は彼を見送ってから口を開いた。

「米兵はすぐに来るとも分からん。とりあえず俺が見張っとくから、お前らは休んでてくれ。」

すると雷が声を上げた。

「隊長、見張りは私に任せて!隊長こそ休んだ方がいいわ。」

「雷は疲れてないのか?」

「大丈夫よ。とにかく任せて!」

俺は雷の申し出を了承し、見張りを任せる事にした。

「すまないな。では、頼んだ。敵が来たらすぐに知らせてくれよ。」

「もちろんよ!じゃ、行ってくるわね!」

雷が小銃を担いで外に出ていく。暁が呟いた。

「雷は元気ね。私は疲れちゃった。」

響が呆れた、という顔をしながら嫌らしい発言をする。

「訓練で鍛えられていれば、あれくらいは動ける。暁が未熟なだけ。」

「未熟って何よ!」

口論になりかけたところで慌てて仲裁に入る。

「待て待て。体力には個人差あるんだから、そう責めるな。暁も落ち着け。」

「…隊長がそう言うなら。」

「ごめんなさい。…子供扱いされたみたいで、つい…。」

「頼むから仲間内で喧嘩しないでくれよ。平時ならまだしも、目の前まで敵が来てるんだからな。」

そこまで言ってから、電の方を見る。

「電は疲れてないのか?」

彼女はぼぉっとしたまま答えを返さない。

「おい、聞いてるか?大丈夫か?」

電は慌てて俺の方を向いてニッコリと笑顔を見せた。

「あ、はい。大丈夫なのです!」

「ならいいんだが。不調があったらすぐに言えよ。」

「了解なのです。」

ふと気になって防空壕から頭を出して周囲を伺う。空は夕日に赤く染まっていたが、立ち上る爆煙のせいで幾分黒っぽくなっていた。

 

 

 

私は見張り任せてもらって、防空壕を出て、崩れかけた格納庫の中に身を潜めた。本当は見張りがしたかった訳じゃない。あのまま隊長と一緒に防空壕にいたら、頭がどうにかなってしまいそうだったから。もちろん悪い意味じゃない。胸に手を当てて鼓動を確かめる。まだ速いけど、さっきよりは少し落ち着いたかな。

隊長は戦死してしまった大好きだった父親にどこか似ている。姿や声は違うけれども…性格、なのかな。他人を思いやる。そんな所もそっくりだ。速い話、私は隊長のことが好きになっていたのだ。それも、どうしようもないくらいに。

「…はぁ。」

大きなため息をつき、立ち上がる。ここに来てからずいぶん時間が経っていた。気が付けば、空一面に星がが瞬いていた。今のところ、米兵の姿は見えない。

と、その時。

「おい。」

いきなり後ろから声を掛けられて、飛び上がるほど驚いた。振り向くと隊長が立っていた。彼の事を考えていただけに、たちまち頬が紅潮し、熱くなる。

「何の音沙汰もないから心配したんだぞ?たまには戻って無事を知らせてくれないと。」

「あ、ああ、うん。分かったわ。今度からそうするね!」

激しく動揺しながらも、この気持ちを悟られまいと必死になる。

「…?何か様子が変じゃないか?」

ドクンと心臓が跳ねる。気付かれた!?

「え!?別に変じゃないわ!私はいつも通りよ!」

「いや、お前じゃなくて。敵の動きだよ。」

「…あぁ。そ、そうね。」

私の事じゃなくて良かった。…良かった?どうしてだろう、何故か残念な気分になる。

「海岸の確保が今日の目標だったのか…?仕掛けてこないのが不気味だな。…見張りを代わるからお前は休んでくれ。明日は厳しくなりそうだからな。」

「え…。でも…。もう少し、ここにいたい。」

さっきは一緒に居たくないと思ったのに、今は離れたくないと思っている。自分の心はどうなっているのやら。

「まぁ、構わないけど。寝てろよ。」

「うん。」

その場にゴロリと横になる。だが、枕になりそうな物がない。

「隊長、枕になるものない?」

「寝づらいか?じゃあ…。」

隊長が腰を下ろし、胡座をかいた。

「俺の膝でも使え。無いよりはマシだろ。」

「えっ!?」

再び頬の紅潮と心臓の高鳴りを感じる。

「ほら、来ないのか?」

「えっえっ!?でも、いきなり過ぎてちょっと…!」

隊長がニヤリと笑みを浮かべた。

「分かった分かった。冗談だよ。第一、座ったら周りが見えづら…」

「あ、あの!」

私は勇気を出して隊長の言葉を遮った。 だが、その後の言葉はとても小さいものになってしまった。

「その、膝枕、して欲しいの…。」

「………。」

私の心臓が飛び出しそうになるほど強く、そして速く脈打っているのが聞こえる。長い沈黙のあと、隊長は口を開いた。

「悪いけど、もっかい言って。なんつった?」

緊張していただけに隊長の返答に拍子抜けしてしまった。恥ずかしさも手伝ってすぐに大声で言い直す。

「だから、やっぱり膝ま…」

そこまで言った時、南に照明弾が上がり、辺り一面が白く照らし出された。

「伏せろっ!」

隊長の一声で伏せる。敵に見つかればたちまち蜂の巣にされてしまう…と思ったが。

直後、大人数によるものと思われるもの凄い雄叫びが遠くから聞こえ、一瞬遅れて銃声が響いてきた。

私は恐ろしくなって隊長の腕を掴みながら聞いた。

「隊長、あれ、何?」

「分からない。けど、あんな大人数っていったら…。まさか、味方が総攻撃に出たのか!?」

絶え間なく響いてくる雄叫びと銃声。それらは背後から近づく足音を隠すのに充分だった。

「雷?とりあえず、隊長から離れてくれないかな?」

背後から言われ、慌てて隊長と振り返る。そこに立っていたのは響だった。

「響!驚かすなよ!」

「それはこっちの台詞だよ。なかなか帰ってこないし、正体不明の絶叫が聞こえたから心配になって来てみれば…。どうして雷は隊長の腕にくっついてるんだい?」

「別にいいだろ?何か…。」

「隊長は黙ってて。私は雷に聞いてるんだ。」

響は隊長の発言を遮り、真っ直ぐに私を睨みつけた。その態度に腹が立った私は立ち上がって言った。

「雄叫びで驚いただけよ!何か問題があるの?」

「問題は隊長の腕にくっついた事だよ。そこにいていいのは私だけ。」

隊長が慌てて聞き返す。

「ちょっと待て!どういう意味だ!?」

「意味?簡単だよ。隊長の傍にいるべきなのは私、ということだよ。他の人、特に女なんかは要らない。」

呆気にとられる隊長。そこに響は追い討ちで決定的な一撃を放った。

「隊長には私だけがいればいい。素直に言うよ?……ずーっと愛してるからね。隊長。」

笑みを浮かべる響。私は頭を思いきり殴られたような衝撃を受けて言葉を失って…。

 

 

 

「おっと!」

俺は気を失ってふわりと後ろに倒れた雷を慌てて受け止めた。それを見て、響が露骨に嫌そうな顔をする。

「放っておけばいいのに。」

「なんてことを言うんだ!仲間だろ!?」

俺の言葉に響は訳が分からないという風に首を傾げた。

「仲間?」

「そうだろ!?助け合って戦って、一緒に生きていく大切な仲間だろ!?それに、俺に言ったさっきのは…!」

「本心だよ。他には誰も要らない。もし聞いてなかったのなら、何度でも言うよ。…ずーっと…」

「やめろっ!」

俺はこの場から逃げ出したくなった。そもそも、彼女はいつから…。

「最初に会った時からだよ。それから、ずーっと。」

「なっ…!なんで俺の考えた事が!?」

彼女は当然といったふうに答えた。

「私は隊長の事なら何でも分かるんだ。それよりも、その汚らわしい害虫を早く放して欲しいな。」

そう言って響は俺が抱えている雷を指さした。

「が、害虫…!?」

「そう。害虫。ソイツも隊長に気があったんだよ。あぁ、考えるだけで気持ち悪いね。…まさか、気付かなかった?」

言われてから雷を見下ろす。すぅすぅと息をして眠っている彼女が、そんな想いを抱いていたとは全く思っていなかった。

「…ああ、知らなかった。」

「ふふっ。隊長は鈍感だね。ソイツの様子を見てればすぐに分かるのに…。」

しばし沈黙が流れる。いつの間にか、あの雄叫びは聞こえなくなり、散発的に聞こえる銃声が、ここが戦場であることを教えてくれていた。

「…もう戻るぞ。暁と電が心配するだろ。小銃を持ってくれ。」

「分かったよ。」

俺が雷を抱え直して立ち上がると、響も小銃を担いでそれに続いた。そして銃声に背を向け、防空壕へと向かった。

 

防空壕の中に入ると電が出迎えてくれた。

「おかえりなさい…あれ、お姉ちゃん?」

「ああ、眠ってしまってな。…暁は?」

「寝ちゃったのです。」

奥に入って見れば、壁にもたれかかって眠っている暁がいた。彼女の疲れは限界だったのだろう。

「うむ。お前も無理せずに寝るんだ。これからどうなるか分からん。」

「了解なのです。それでは…。」

電は暁の隣で座り、そのまま寝始めた。彼女の疲れも頂点に達していたに違いない。

すやすやと寝息をたてる二人の隣に雷を下ろし、俺は反対に座って壁に背を預けた。

「響ももう寝ろ。明日持たないぞ?」

「そうだね。寝るよ。」

響は小銃を下ろして壁に立て掛け、俺の隣に腰を下ろした。

「ちょ、反対側に行きなさい。」

「嫌だよ。私は隊長と一緒に寝たいんだ。」

「わがまま言わない!命令だ。」

「…隊長の命令とあらば仕方が無い。」

不服そうな顔をしながら彼女は反対側に移り、寝ている三人と少し距離を置いて座った。

「…それじゃ。あ、返事を聞かせて欲しいな。」

返事?俺は少し考えてから意味を理解した。

「…仮に君が俺を好きだとしても、俺はそれに応えないぞ。」

「どうして?こんなに好きなのに。」

俺は一呼吸置いてからハッキリと言った。

「俺は君達の小隊長に過ぎない。だから、俺は君達をそういう目でみることはしない。」

一瞬の静寂。響はクスリと笑った。しかしその目は笑っていなかった。

「そっか。隊長は真面目だね。」

「…当然だ。俺は君達の命を預かっているんだ。もう寝ろ。明日が辛くなる。」

「分かったよ。それじゃ、おやすみ。」

響が瞼を下ろした。俺も目を閉じて、押し寄せる強い眠気に身を任せた。

 

 

 

目が覚めた。何故か私は防空壕の中にいる。起き上がって見回すと、小隊の皆が寝ていた。えっと…格納庫にいて、それから隊長が来て、それから…。

「うっ…。」

あのときの記憶が蘇る。

響だ。そう、響だ。アイツが来て、そして隊長に……。

思い出して私は強烈な吐き気を覚えた。アイツは私の気持ちを踏みにじった。わざわざ私の目の前で、しかも見せつけるように。

…………………憎い。

響が、憎い。

あの女が、憎い。

あのゴミクズが、憎い。

…憎い。

憎い、憎い。

憎い憎い憎い。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ…。

…憎い奴はどうしてやろうかしら?

今 す ぐ に消えて欲しい。

ならば、消せばいいじゃない―――。

私の目に、壁に立て掛けてある小銃が目に留まった。そっと立ち上がり、小銃に歩み寄って手に取る。装弾されている事を確認し、そして、安全装置に指を伸ばし、触れた―。

「……雷?」

隊長の声。動きと思考が止まった。

「目が覚めたのか?…おい、なんで小銃を…。」

「あ、怪しい物音がしたからよ!様子を見に行こうと…。」

咄嗟に出た嘘にしては上出来だった。

…あれ?私は一体、何をしようとしていたんだ?手にした小銃をまじまじと見つめた。そうか、私は…響を…。

その時、隊長に小銃を奪われた。

「お前はここにいろ。俺が見てくる。」

「わ、分かったわ。」

隊長が地上に出ていく。私はゆっくり後ろを振り返り、眠る響を見た。

「…大丈夫よね。」

小さく呟いた。

隊長は私に膝枕をしようとしてくれた。響より私の方が隊長に良く思われてるに違いない。気にする必要も無かったのだ。危うく、取り返しのつかない事になるところだった。そんな事をしたら、隊長はもう二度と私を見てくれなくなってしまう。

「何もいなかったぞ。」

隊長が降りてきた。

「ごめんなさい。私の気のせいかも知れないわ。」

「謝らなくていいさ。気のせいかも知れなくても教えてくれ。何が命取りに繋がるか分からないんだ。」

「…うん。」

私は少しはにかんだ。褒められたようで嬉しくなった。

「で、その…。気分は大丈夫か?」

「何ともないわ。安心して。」

「そうか…。なら、いいんだが…。」

何やら言いづらそうにする隊長。まさか、私に隠し事?…それは許せない。

「何かあるの?言って!」

チラリと隊長が私を見て頬を赤らめ、口を開いた。

「その、君は、俺に…き、気が…。」

なんだ、その事か。私も響に負けてられない。気持ちを伝えよう!

「私は隊長の事が好き。大好きよ!」

「…!!」

隊長の動きが止まった。わくわくしながら隊長の再起動を待つ。が、なかなか再起動しない。

「隊長…?」

「お、おぉ。」

しばらく経ってから声を掛けたところでようやく再起動した。

「…答えは?」

心臓が高鳴る。耳に全神経を集中させて隊長の答えを聞こうとした。

「…すまない。」

「えっ…?」

期待は裏切られてしまった。

「すまない。俺は君達の小隊長に過ぎない。だから、君達をそういう目で見ることは無い。…勿論、響にも同じ答えを返した。分かってくれ。」

「そっか…。」

確かに、立場上誰かに傾くのは無理なんだろう。別に今すぐじゃなくてもいい。最後には、きっと私が勝つ。

「…もう寝るわ。」

「分かってくれるのか?」

「うん。仕方が無いことだもの。」

「…ありがとう。」

隊長が表情を緩め、座って目を閉じた。その顔を脳裏に刻み込みながら、私は再び眠りに就いた。

 

 

 

翌朝。

雄叫びの原因を確認すべく、南海岸へと向かった俺達の目に飛び込んで来たのは累々と横たわる友軍兵の遺体だった。やや後方に暁、雷、響を残して敵襲に備えるように指示し、俺は電を連れて生存者の搜索を行った。米軍に見つからない様にコソコソ動き回ること三十分。ようやく息のある者を発見した。

「おい、大丈夫か?」

「見えない…何も見えない…。味方、なのか…?」

よく顔を確認すると、昨日の伝令兵だった。砲弾にやられたのか、彼の裂かれた腹から陽の光を浴びてヌラヌラ光る内臓が見えた。

「電、どうだ?」

電はゆっくり首を横に振った。もう手の施しようが無い、ということだ。彼はそう長くは持たない。早く情報を聞き出さねば。

「昨日会ったな。俺は特別小隊の田村だ。分かるか?」

「ああ、あの小隊長殿でありましたか…。これは失礼しました…。」

「構わん。それより、今の状況を教えてくれ。何があったんだ?」

伝令兵は二、三咳き込むと、ゆっくりと話し出した。

「昨日の夕方に、後退命令によって残存兵力が洞窟陣地に集結しました。てっきり篭城して戦うものと思っていたら、総攻撃を行うと命令が下りました…。そしたら、これです…。」

「洞窟陣地には誰もいないのか?」

「はぁ。指揮官殿は総攻撃で戦死され、負傷兵も自決しましたし…。誰も生きてはいないかと…。あの、私は?私を連れて行ってはくれませんか…?」

電と顔を合わせる。電も困った顔でこっちを見てきた。

「…すまんが、それは出来ない。」

重々しく告げると、彼は自嘲気味な掠れた笑い声を漏らした。

「はは……そうですよね。私はただのお荷物にしかなりませんからね…。」

俺は心が引き裂かれる思いになった。助からないと分かっていても、この哀れな伝令兵を見捨てたくは無い。だが、同時にそれは無意味に自分達の移動速度を下げ、小隊を危険に晒す事になるのだ。

「本当に…すまん。」

「構いません。…ならば、一つ頼み事をよろしいですか?」

「何だ、聞こう。」

「私を、楽にしてはくれませんか?」

楽にする、ということが治療という意味でないことは瞬時に理解した。しかし、俺は彼を楽にしてやるほどの度胸が無かった。

「味方を、手に掛けろと…?」

「そうです。お願いします…痛くて堪らんのです。早く、終わりにしてくれませんか…?」

彼は裂かれた腹を指さした。それでも俺は彼を殺す決心がつかなかった。

と、その時。

「私がやってあげるのです。」

電が口を開いた。

「まだ、誰か居られるのですか?」

「私は特別小隊の衛生兵なのです。私があなたを楽にしてあげるのです。」

「…本当ですか?なら、ありがたい。是非ともお願いします…。」

「任せるのです。」

そこまで言って、電は俺を見た。

「許可を、お願いするのです。」

俺は込み上げる涙を堪えながら、静かに頷いた。

「…やってやれ。」

電は大きく頷くと、両手で伝令兵の首を掴んだ。そして…。

「さよなら、なのです。」

渾身の力で彼の首を絞めた。絞め続けること数十秒。彼は微かな呻きを上げたきり、動かなくなった。

電は彼の首からそっと手を離し、立ち上がった。彼女の目線はさっきまで首を絞めていた自分の手に注がれていた。そして、その見開かれた瞳から一筋の涙が零れ、頬を伝って流れたのを、俺はハッキリと見た。

「傷病兵の面倒を見るのが衛生兵の仕事なのです。…最期を看取るのも、衛生兵の仕事なのです。」

彼女は、そう言った。その言葉は俺に対してではなく、彼女自身に言い聞かせている様に聞こえた。

「…行くぞ。」

俺は涙を隠すように凄惨な現場に背を向け、歩き出した。電もそれに続く。

二人とも、暁達の元に戻るまで一言も喋らなかった。

 

「…で、生存者は?」

開口一番の響の問に言葉を詰まらせる俺と電。

「…無し。」

嘘は言っていない。そう自分に言い聞かせる。

「そっか。じゃ、行こう。」

「そうだな。ここは危険だし、移動するか。」

しかし、何処に行くべきか。

最早この人数では敵の進攻を阻止するのは到底無理だ。行くとすれば島中央の山岳にある洞窟陣地か、一気に島北部まで後退するか…。

 

 

 

1.洞窟陣地へ(「太刀風 E」へ)

 

2.北部へ(「太刀風 F」へ)




最後までお読みいただきありがとうございます。
また分岐を設けました。それぞれ選んだルートへ進んでいただければ幸いです。
ご意見ご感想、お待ちしております。
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