今回はとても長くなってしまいましたが試験的に投稿
**2014 2/4 誤字を修正
『魔導士』となっていた部分を『魔導師』へ
**2014 2/11 修正
バルディッシュのデバイスフォームをアックスフォームへ
これに従い、デバイスの設定などをバリアジャケットのデザインに合わせ劇場版へ
第97管理外世界 惑星『地球』。文明レベルはBと、ミッドチルダほどではないが科学力はある。魔法文化は無し、つまり魔法の存在が認知されておらず、そのため管理外世界に認定されている。管理局が統治するに足りないと感じた世界である。
ここではコミュニケーション可能な知的生命の存在が、現地名称の惑星『地球』のみで確認されているため、『第97管理外世界』は『地球』と同義であると認識されている。
ギル・グレアム提督の出身世界であり、魔法文化は無いが、極稀に高い才能を持った魔導師が生まれる地でもある為、管理局の上層部からは秘密裏に監視されている。
『魔法少女リリカルなのは』では、主人公『高町なのは』の出身世界でも有名であり、1年で2度も第1級危険指定ロストロギアの災害に見舞われ、かつ闇の書の闇と決別したある種特別な世界でもある。
そんな地球、特に原作の舞台となる海鳴市にテスタロッサ一家は来ていた。
「ここがレヴィが来たいって言っていた、地球の海鳴市ね。全く、よくこんな世界知っていたわね」
紫がかった黒髪を持つ母と思わしき女性、プレシア・テスタロッサが歩きながら言葉をこぼす。その女性の隣には、金髪赤目の身長以外は瓜二つの少女が二人、周りを見回していた。その一方後ろにオレンジ色の髪をし、額に宝石のような物を付けている10代中ごろのスタイル抜群の女性と、茶髪のこれまたスタイルが良い20代初め頃の女性が付き従っていた。
『あはは』
どこかごまかすような笑いが一行に聞こえる。テスタロッサ家以外の人には聞こえていない『魔法』と呼べる技術の一端。その技術を知る人は『念話』と呼ぶものが一行の頭の中に響く。
「魔法文化はありませんが技術力自体はミッドとあまり変わりなく不便ではありませんし、それにここ海鳴市はミッド郊外位ですが、自然も多く少し遠出すれば温泉や海などのレジャー施設もあるみたいですし、二人の教育には良い場所ではないでしょうか?」
そんな声をフォローするように茶髪の女性、リニスが海鳴市の概要を説明する。
そう、ここ海鳴市は都会に近いが山もあり、海もあると言う、中々に自然が多い場所であった。山側に少々遠出すれば温泉が、海側に遠出すれば海水浴と、レジャー施設には困らず、町の中心、つまり今現在一行がいる海鳴駅周辺は都会と言って遜色ないほどのビルや施設が立ち並んでいる。
「そうね。まぁ管理外世界だし管理局もあまり気にしてない場所なのでしょう。良い場所と言えば良い場所ね」
そんなリニスの言葉に納得したのか、プレシアは少しの溜息を吐くとリニスの方に向き直り指示を出す。
「それじゃ、あなたは市役所だったかしら、ここの行政施設に行って色々やってきてちょうだい」
「はい」
「このために色々とやってきたんだから大丈夫でしょうけどお願いね。私たちはめぼしい住居探しておくから」
「わかりました」
「それじゃ、よろしくお願いね」
「バイバイ! リニス!」
プレシアとリニスの大人の会話が終わると、プレシアの隣に居た二人の少女の内、どちらかと言うと背の低い方の少女が手を振り上げリニスに別れを告げる。
そんな少女の別れの挨拶にリニスは、にこやかにほほ笑み挨拶を返す。
「はい。アリシア、また後で。家が決まったらそこで。フェイトにアルフも頑張って良い家を探してくださいね」
そんなリニスは別れを告げた少女をアリシア、そのアリシアより少し背の高いアリシアによく似た少女をフェイトと呼び、オレンジ髪の女性をアルフと呼んだ。
「うん。リニスも頑張ってね」
「任せといてよ!」
フェイトはアリシアとは違い少し大人しい子なのか、ひかえめに、それとは真逆にアルフは元気よく返事を返す。
「わかっているでしょうけどレヴィもですよ。あまりレヴィと騒がないでくださいね。ここは魔法文化が無いのですから下手したら変な子だと思われてしまいますからね」
「はーい! わかってるよ~」
「うん。大丈夫」
そう言ってリニスは少し忠告すると去っていく。
プレシア一家が抱えている秘密。それは魔法と言う文明を知っている、使用できると言う事だけではないもう一つの秘密があった。その秘密は、先ほどのリニスも言っていたレヴィと言う存在だった。
「まったく~。リニスは心配性なんだからなー」
リニスが去っていくのを確認した後、アリシアは腕を組み頬を膨らましていかにも「不機嫌です」と言った体を取る。
『ボクは他人に見えなければ、リンカーコアが無い人には念話も聞こえないからね。空想の人物と話す人や、見えないものが見えてる人だと思われちゃうかもしれないしね。リニスの言うことも最もだよ』
そんなアリシアを含めたプレシア一家に聞こえるのは、この場に居ない少女の声。
自身をボクと呼び、『フェイトの体を間借りしている』と言っている少女の声だった。
そんなレヴィの声を聞いてアリシアの頬はますます膨らむ。それは未だ10にもなっていない少女がやるとただただ微笑ましいだけであった。
「そうね。だからこれからは家が決まるまではレヴィとの会話は控えましょう」
そんな娘を優しい目で見ながらも諭すプレシア。その言葉に渋々従ったのか、アリシアは頬を膨らませるために口内に溜めていた空気を、ぷすーと実際に音が出る程の勢いで吐き出した。
「お姉ちゃんったら」
そんな姉であるアリシアを見てフェイトが苦笑する。それを見てプレシアが微笑む。そうしてアルフも笑う。
「もう! みんな失礼だよ! 早く家さがしにいこ!」
笑われることにご立腹なのか一人足早に歩きだすアリシア。それにあわててついていくフェイト。それを微笑ましそうに笑いながら見ているプレシアとアルフ。
そんな普通の、それどころかとても仲の良い微笑ましい一家は、自分たちのこれからの住居を探すために歩き出した。
*
「えぇ。それではここで、お願いします。はい」
その後、海鳴市の中央からは少しだけ離れた場所で、家賃は高いがその分家の広さもあり、家具なども必要最低限の物は最初から設置されているマンションを見つけ、そこに移り住むことになった。
今は、合流したリニスに契約諸々に関しての事柄は任せて、他の面々は時の庭園から必要なものを持ち運んでいる所であった。
「食器に洗面具、当面の服に布団。とりあえずこれだけあれば数日は大丈夫でしょう」
転移魔法を利用し運ばれた物を確認し終えると、プレシアは備え付けてあったソファに腰を下ろし一息ついた。
「お疲れ様です。プレシア」
「ありがとう。あなたもお疲れ様、リニス」
プレシアが一息つくのと同時に、目の前に差し出されるお茶を飲みながらプレシアはリニスにお礼を言った。
そうして大人二人が寛いでいると、自分たちの部屋をあらかた片づけたアリシアが勢いよく飛び出した。
「お母さんお母さん!」
「あら、どうしたの? アリシア」
「お片づけ終わったから探検してきて良い!?」
家を探し歩いたと言っても、現地の不動産屋に赴き特に考えもせず契約したためか、アリシア達は疲れている様子は見せず、特にアリシアは未だ見ぬ土地を歩き回れる興奮を抑えきれぬ様子で、プレシアに詰め寄っていた。
「そうねぇ……。危ないことはしない、って母さんと約束できる?」
「うん!」
「知らない人に付いて行っちゃダメよ?」
「うん!」
「フェイトやアルフと離れないでね?」
「うん!」
娘を心配するためか色々と言い含めるプレシアだが、アリシアは聞いているのか、聞いていないのかはわからないが、とにかく返事だけは調子が良かった。
「それから……」
「大丈夫! 私たちは大丈夫だから!」
あまりにしつこい母に焦れたのか、プレシアのいうことを遮り自分たちは大丈夫だと主張するアリシア。その姿にプレシアも折れたのか、注意することを止めた。
「……そうね、わかったわ。あと、フェイトを頼んだわよ?」
「うん! 大丈夫だよ!」
「それじゃぁ、いってらっしゃい」
「はーい!!」
母に許可を貰い元気よく返事をするアリシアは妹を連れに、自分たちの部屋へ舞い戻る。
「フェイト! お母さん良いって!」
「ん、そっか。それじゃぁアルフ。行こう」
「あぁ。そうだね」
アリシアの掛け声にベッドで寛いでいたフェイトも起き上がり、狼の状態で寛いでいたアルフも、人間の姿へと変わる。
「それじゃぁ、お母さん! 行ってきます!!」
「行ってきます」
部屋から出てリビングに居る母に声をかけるとアリシアはすぐさま玄関へと駆け出す。
「フェイト」
プレシアは、アリシアに追従しようとしたフェイトを呼び止め側によると、中腰になりフェイトに話しかける。
「アリシアは危なっかしいから。お願いね?」
「うん。まかせて」
「それと、あなたもくれぐれも気を付けてね。知らない人に付いて行っちゃダメよ? アリシアに言われても危ない事はしないようにね? もしもの時は良いけれど、なるべく魔法は使わないように。それから……」
「母さん」
アリシアと同じように注意を促し始めたプレシアに、フェイトは苦笑しながら言葉を遮ると自身の思いを告げる。
「大丈夫だよ」
そんなたった一言。それだけで、プレシアには十分だった。
「わかったわ。行ってらっしゃい。アルフにレヴィも気を付けて、二人を頼んだわよ」
「まかせなよ」
『りょーかい』
最後に、娘の使い魔と娘に憑依している幽霊、体が無いだけで、自分の三人目の娘に声をかけると、見送る為に玄関に出る。
「それじゃぁ、皆。行ってらっしゃい。夕飯までには戻ってくるのよ」
「はーい! 行ってきます!」
「行ってきます、母さん」
「行ってきます」
『行ってきます』
アリシア、フェイト、アルフ。そして姿は無いがレヴィと、各々が返事をし、アリシア率いる探検隊は未知の土地へと足を踏みだした。
*
「この辺はあんまりビルとか無いんだねぇ」
「集合住宅が有る位だねぇ。それもあんまり見ないけど」
「多分、住宅地なんだと思うよ」
家を出てからしばらく、辺り一帯を散策している探検隊一行は思い思いの感想を述べていた。アリシアは特に見るべき場所の少ない町で少しばかり退屈し始めており、アルフやフェイトなどは、見知らぬ土地を見て回るだけでも目新しさを感じていた。
それもそのはずで、アリシアは5歳までとは言えミッドチルダの中でも都会に住んでおり、1人で出かける機会が無かったとはいえ、プレシアに近場ではショッピング、遠出するならピクニックと色々な経験をしている。
一方フェイトは、アリシアの記憶があるとは言え、それはもはや思い出では無く、一種の知識の様にこの三年間で感じてきており、本人の思い出としては時の庭園と呼ばれた場所しか記憶に無い。つまり、プレシアの屋敷と、その庭。あとは近場の森や山だけである。
自分たち以外の人間を見る事が実は初めてであり、このように人がたくさん住んでいる(と思われる)住宅地を歩くだけでも結構楽しめている。
「っう!」
そんな一行がうろうろとしていると、急にフェイトの頭に嫌な響きが走った。
その響きは、一瞬のめまいや頭痛などでは無く、嫌な予感を感じさせる物だった。
「どうしたの? フェイト」
足を止め顔をしかめた妹を心配するアリシア。彼女は妹の顔色をうかがおうと、下から顔を覗き込む。
「なんでもないよ。ただ、変な感じがあるだけ」
「変な感じ? 私は何も感じないけど……」
訳が分からず辺りを見ますアリシア。そうしたアリシアはアルフも顔をしかめっ面にし、必死に周りの匂いを嗅ごうとしているのに気が付いた。
「どうしたの、アルフ。もしかして、アルフも嫌な感じするの?」
「……あぁ。なんとも言えないんだけど、ね」
アリシアの質問に答えながらも、表情や行為は止めないアルフ。そんな二人が心配になり、家へ帰ろうか提案しようとした瞬間、何かが爆ぜた。
「なに?」
「え!?」
「こいつは!!」
アリシアは、その感覚にどこか覚えがあり、無意識に自分の肩を抱きしめた。
フェイトは信じられない物を見るかのように、ある方向に顔を向ける。
アルフはフェイトと同じ方向を向いたまま、何時でもどうとでも動けるように、中腰に、されど脱力し臨戦態勢を取った。
「レヴィ、これって」
不安になりついレヴィに話しかけてしまったフェイトだが、その質問に対する答えはすぐさま帰ってきた。
『うん。魔力反応だ。それも飛び切りの』
「なんで、こんな世界で」
レヴィの言葉に信じられないという表情で誰に言うわけでも無く、つい疑問を呟いてしまうフェイト。
『とりあえず、アリシアをどうにかしないと』
レヴィのその言葉にやっと気づいたのか、フェイトは傍らに居るアリシアを見た。
そうすると、アリシアは自分の肩を抱き、蹲って震えていた。
「アリシア! 大丈夫!?」
「……フェイト? うん、だいじょうぶ、だよ。お姉ちゃんだもん」
フェイトに声をかけられ、妹を安心させるためにと気丈にも笑おうとするアリシア。しかしその口は、体に付随するかのように震え、まともな声にならなかった。
「とりあえずアルフはアリシアを連れて家に! 母さんかリニスに事情を話してきて!」
「フェイトはどうすんだい?」
「私は、この魔力反応の原因を探ってみる」
「でも!」
「大丈夫。危険そうなことはしないから。だから早く」
「でも……」
『アルフ、アリシアを連れて家に帰って。いざとなったらボクも居るから』
「……わかった」
アリシアを連れて行けと言うフェイトと、フェイトを一人にするわけにはいかないと思っているアルフ。二人の間で意見が食い違うがそれはレヴィの鶴の一言で、ひとまずの決着を得る。
「直ぐプレシアかリニスを呼んでくるから。それまで、絶対に無茶はしないで」
アルフは渋々、と言った形でアリシアを抱くとフェイトに向き直り、それだけを告げると抱いているアリシアになるべく振動を与えないように、それでもできるだけ早く字面を駆けた。
「バルディッシュ」
〈Get set〉
残されたフェイトは人目の無い場所に移動すると愛機の名を呟く。その言葉に呼応するのはアクセサリとしてポケットに忍ばせていたバルディッシュ。
魔導師の杖にして相棒。フェイトの行く先を照らし、闇を切り裂く雷刃。
たった一言のやり取りだけでセットアップを終えると静かに飛行魔法を展開するフェイト。
「レヴィ」
『うん。認識阻害は任せて。だからフェイトは最短で、最速でまっすぐに原因の場所へ向かって』
「わかった。最短で最速でまっすぐに、だね」
〈行きましょう。サー〉
短いやり取りで各々の役割を確認すると、フェイトは電柱を超える程まで浮かび上がる。
このあたりはビルが少ないので、あまり高く飛ばなくても一直線で目的地へ行けるだろう。
「バルディッシュ」
〈イェッサー〉
そうしてフェイトは音に迫りよる。
音を置き去りにする勢いで翔る。
――――早く、速く、
*
そうしてたどり着いた場所は海鳴市からも離れた郊外だった。
側には大きなお屋敷が一件。もう少し範囲を広げると、豪邸と一般では言えるような広い庭等を備えた家がぽつぽつと建っている。
そんな中でも一際目立つ豪邸の側の森にそれはあった。
『結界魔法』
それは、魔導師の使う魔法の一種であり、結界と言う境界線で世界を区切り、分ける魔法である。
その境界線の外と中では、文字通り世界が違う。それは時間の流れだったり、物質の影響だったりする。有名なものは時間と空間を切り分け戦闘の影響を結界外に及ばないようにする結界だが、用途は様々であり、中に居る者を閉じ込めると言う用途で用いられることもある。
今回は、中の影響を外に出さないための結界であり、外から中へは配慮されていないらしい。
「なんでこんな所に結界が? この世界に魔法文化は無いはずなのに……」
有る筈がない場所に有る。ありえない物を見てフェイトは恐慌状態になりかけてしまう。それも、フェイトと常に共にあるレヴィの言葉ですぐさま気を取り直す。
『とりあえず今は中に入って様子を見よう。もしかしたら、次元犯罪者を管理局が追いつめているのかもしれないし』
「……う、うん」
レヴィの言葉で意を決して結界の中へ飛び込むフェイト。しかしその中には想像した光景は無かった。
あるのは、結界内の森とその中央に居る巨大な猫。いや、巨大な“子猫”だった。
しかもその巨体は森の木々の高さを大きく超えている。
「な、なにアレ……」
二度目の信じられない物。今度は先ほどとは別の方向で信じられない物を見て遂にフェイトの脳みそは悲鳴を上げる。
「え? この世界って巨大生物とか普通なの? 魔法ないのに? でも魔法ないけど結界はあるの? わけわかんないよ。意味が分かんないよ。なに? 原住魔法とか、なんかシャーマニズム的な何かとか言い張っちゃうの? だってこの結界ミッド式だったじゃん。おかしいよ。なんで管理局はこんな世界を魔法文化なしとか言っちゃうの? 怠慢? 仕事してないの? それともここ数年で急成長遂げたとか言っちゃうの? 馬鹿なの?」
『ふぇ、フェイト! とりあえず落ち着いて!!』
脳がオーバーヒートを起こした所為か支離滅裂な事を呟き続けるフェイトを落ち着かせようと頑張って声を変えるレヴィ。
「なんなの? どういうことなの? 地球を防衛する人たちの戦いとか始まっちゃうの? 実はこれ宇宙人の侵略なの? 有効射程200mとか言うわけのわからない実弾兵器で戦ったりするの? 実は今足元では威力2000あるロケットランチャーが飛び交ってたりするの?」
しかし、その呼びかけはあまり意味を成していなかった。
『ちょっとフェイト! なんでそんなこと知ってるのとか、なに口走ってるのとか、もうどうでもいいから気を取り直して~!!』
フェイトにしか聞こえない筈のその声を第三者が聞いていたらその人はこう言うのだろう。「その声はとても悲痛で、まるでどうしていいかわからない赤子の鳴き声のようにも感じました」と。
「は!? 私は、なにを……」
レヴィの悲痛な叫びが届いたのか正気を取り戻すフェイト。
『よ、よかった。とりあえずあの猫が暴れたら危ないし行動不能にしよう』
「えっと、うん。そうだね。かわいそうだけど仕方ないよね」
正気を取り戻したフェイトは、レヴィの提案に素直に従い、バルディッシュを猫に向ける。
「バルディッシュ」
〈Photon Lancer〉
フェイトの掛け声に従い一発だけの直射型の魔法を放つ。
それは高速で飛び対象に直撃した。
〈直撃を確認しました〉
「まだ、元気だね」
『大きいからダメージに強いのか、さっきの魔力反応の所為で魔法に耐性が付いちゃってるのか。とにかく、もう何発か撃ってみよう』
「うん。フォトンランサー」
〈Photon Lancer Full Auto Fire〉
マスターの短い指示でもその場にあった適当な魔法を使うのがインテリジェントデバイスの特徴であり、今回もフェイトはフォトンランサーと、使う魔法の種類を指定しただけだが、バルディッシュはフォトンランサーを連射した。
連射されたフォトンランサーは、先ほどと同じように猫に当たるが、それは最初の数発だけで、突如猫の上に現れた人影によって防がれてしまう。
「!? 魔導師!?」
自身のフォトンランサーを防いだのはれっきとした魔法、バリア系の魔法であった。それはつまりそれを行使した人影が魔導師であることの確固たる証であった。
「あなた誰? どうしてこんな事するの!」
その魔導師はこちらに声をかけてきた。その姿はまだ幼くフェイトと同年代の様に見えた。白いバリアジャケットに白と黄色と色はともかく、形状は一般的な杖の形をしているデバイス。しかし、先ほどの魔法を見るにそのデバイスもバルディッシュと同じ、インテリジェントデバイスの様に見えた。
「あなたこそ誰? 管理局?」
「かん、りきょく?」
フェイトの質問に何を言っているのかわからないような顔をする白い魔導師。その反応で少なくとも、管理局員ではないと判断したフェイト。魔法技術の無い現地の魔導師がインテリジェントデバイスを持っているとも考え難く、最も可能性の高いのは、次元犯罪者か。
ならば、その幼い見た目で油断する訳にはいかない。リニスやプレシアに一流の魔導師であるとお墨付きをもらっていてもフェイトに実戦の経験は皆無。自身の状況と敵の可能性のある未知数の魔導師。今現在自分が置かれている状況を冷静に判断すると、フェイトは頭の中を切り替え、戦闘準備を整えた。
「(レヴィ)」
『やるの? フェイト』
「(うん)」
『わかった。ボクはもしもの為の保険になるよ? それで良い?』
「(大丈夫)」
相手に聞こえないように念話、特にレヴィとだけ聞こえる念話を利用し、お互いの気持ちを戦闘へと傾けていく。
「バルディッシュ」
〈Scythe Form〉
フェイトの呼びかけに即座に応え自身の形を通常形態のアックスフォームから、高速近接戦闘形態であるサイズフォームへと変えるバルディッシュ。
その姿かたちを見て、相手の白い魔導師はこちらの戦う意志を読み取ったのかデバイスをこちらに付きつけるように身構える。
「その、形は……」
バルディッシュを見つめいう魔導師。心なしか震えているようにも見える。
「怖い?」
「えっ?」
だから聞いた。
「怖くて当然。だって……」
――――だってこの形は――――
「命を刈り取る形をしているでしょう?」
戦う意志を、鎌へと姿を変えたバルディッシュに込め、言葉と同時に動く。一瞬で間合いを詰めバルディッシュを振り払う。
〈Flier Fin〉
しかし、その場に相手は居なかった。相手のデバイスがとっさに反応し飛行魔法で上空に飛びあがったのだ。
――やっぱり、インテリジェントデバイス。
相手のデバイスの種類に確信を持ち、その確信からますます相手の正体がわからなくなってくる。
もし次元犯罪者だったとしたならば、なぜあんなに、自分と変わらなそうな年齢でこんなことを。なぜ一人なのか。なぜ攻撃をしてこないのか。
疑問は尽きないが、それが解消されることは無いのだろう。すでに戦いの火蓋は切って落とされたのだから。切ったのは自分であるのだが。
「なんで急に攻撃してくるの!」
上空からそんな世迷言を言ってくる。
「あなたの事情は知らないし、知る必要も感じないけど。ただ、一つだけ。あなたがあの巨大な猫のような危険生物を作成していると言うのなら、私はそれを阻止します」
「な! それは違うよ!」
フェイトの放った言葉を即座に否定してくる。
「私はあの子を作ってないよ! ただ、原因は知ってるけど……」
「ならばなぜ直ぐに止めようとしない。あなたが私の攻撃に反応できたと言うことは、少なくとも、あなたは私が攻撃を開始する前に、あの猫の側に居たはず。ならばなぜ原因を排除しようとしない? それは、あなたがそうする気が無いから。違う?」
「違う! 違うよ!! うまく言えないけど、アレは危険なもので、下手に扱っちゃうとこの世界が危険で! だから!!」
「じゃぁ何故あなたは管理局に報告しない? なぜ大人を頼らない?」
「そ、それは……」
フェイトの追求に言葉を失う白い魔導師。その姿を見て、フェイトは少しため息をつくと鋭い視線と共に言い捨てた。
「あなたが悪人では無いならば、そのヒーローごっこはすぐさまやめた方が良い。あなたの言う通り、あの猫が危険な物なのならばすぐに」
「わ、私は、ヒーローごっこなんか……」
「……話しても、無駄か」
自身の言葉に反抗する相手に付き合う気が失せたのかフェイトは小さくつぶやくとバルディッシュを腰だめに構え、その場で横薙ぎに振った。彼我の距離を見ても刃が届くわけがない距離。しかし――
〈Arc Saber〉
――バルディッシュの宣言と共に、形成されていた魔力刃が切り離され相手に向かって飛翔する。それはさながらブーメランのように回転しながら相手に向かう。
〈Protection〉
しかしその刃は相手へと届かない。インテリジェントデバイスがとっさに防御魔法を展開したからだ。だが、その光景はフェイトにとっては予想通りの物であった。
そもそもアークセイバーが相手に直撃するとは思っていない。アークセイバーを放った理由の一つは相手の戦力調査だった。
バリアを“噛む”性質を持ったアークセイバーは、生半可な防御魔法だったら噛んだ後切り裂く事ができる。しかし、それが叶わず相手の防御魔法と削り合い、魔法を構成した魔力が散り、魔力素をばら撒いている現状から見るに、相手の魔力量は相当な物だと判断できる。それこそ自分と同程度。
しかし、その一般的に見たら大魔力を保持している本人はどうかと言えばてんで素人。才能はあるようだが、戦闘経験、特に対魔導師戦の経験はほぼ無いと言っても良いだろう。
証拠に、不規則なアークセイバーの軌道に驚くも、それを目で追えてはいた。しかし追えていただけで、思考が間に合わなかったのか、思考に体が間に合わなかったのかはわからないが、少なくとも動くことはできていなかった。
故にデバイスがとっさに防御魔法を発動し、その結果本人が意識して使う魔法とは比べ物にならない、脆弱な魔法となってしまっている。
だからその隙を突く。
「セイバーブラスト」
〈Saber Blast〉
そのキーワードを呟いた瞬間に、アークセイバーが
「きゃっ!!」
その予期せぬ衝撃に身をやられ体勢を崩す魔導師へと高速で近づき、バルディッシュを振るう。
「きゃあああああっ!!!!」
抵抗なく切られ墜落する魔導師。止めとばかりに、威力をほとんど殺し電気の性質だけを残したフォトンランサーを一発だけ追い打ちする。
魔導師の地面への衝突と同時に直撃するフォトンランサー。これでしばらくは相手はまともに動けないだろう。魔力ダメージと共に自分の電気変換資質による感電にも似た痺れがすこし残る筈だ。
「あなたは弱い。その弱さでわざわざ危険に挑むことは無い。ヒーローごっこは大人しく諦めたほうが良い」
冷徹に、冷酷に。落した相手にただそれだけを告げ、当初の目的である猫へと向きを変える。視線の先の巨大な子猫は、今までの戦闘に怯えたのか丸くなり震えていた。
〈Ax Form〉
猫へとバルディッシュを向けるとバルディッシュは自発的にサイズフォームからアックスフォーム。つまり、最初の形態へと戻る。
「ごめんね」
〈Thunder Smasher〉
怯える子猫に罪悪感を感じ、それだけ呟くと魔法を放つ。フェイトの持つ数少ない直射砲撃魔法、サンダースマッシャー。
それは雷光を纏いながら一直線に対象へ向かうと着弾と同時に炸裂した。
着弾時に起きた煙が晴れた場所に向かうと、そこには、普通のサイズになった子猫と青いひし形の宝石のような物が落ちていた。
「ごめんね」
子猫を抱き上げ少しだけ回復魔法を使う。あまり得意ではない為、本当に気休め程度だが、自分が与えたダメージが少しだけ早く抜けるだろう。
そうして子猫を寝かせると、隣に落ちていた宝石を手に取る。
「これが、原因だったのかな?」
『わからないけど、一応持って帰ろう。プレシアに見せれば何かわかるかも』
「そうだね」
レヴィとのやり取りで回収が決定された宝石を、バルディッシュの収納空間に安全に収納できたことを確認すると、フェイトはその場で浮き上がり、来た時と同じように高速でその場から離れた。
その場に残ったのは、フェイトに撃墜された白い魔導師だった少女と、その少女を心配するように駆け寄る小動物。そして離れた場所の子猫だけだった。
(あなたは結局誰なの? 何故攻撃してきたの? どうして、謝りながら攻撃するの? もう、訳が分からないよ)
動けない体で、意識と視線だけでフェイトを見送った少女の頭の中には、その事だけがただただ渦巻いていた。
それも体の痛みで長くは続かず、意識を失ってしまう事に成ってしまうのだが。
*
「お帰りなさい! フェイト!!」
帰宅したフェイトを迎えたのはアリシアのハグだった。玄関には、アリシア以外の全員も集まっており、皆フェイトが無事に戻ってきた事に安堵していた。
「よかった。良かったよぉ」
抱きついているアリシアは心配のあまりかフェイトに抱きついたまま泣き出しており、服の肩の部分がぬれ始めている。
「何はともあれ、無事でよかったわ、フェイト」
「ごめんなさい。母さん」
「あなたが無事ならそれでいいの」
プレシアもよほど心配していたのか、少し涙目になりながら、アリシアごとフェイトを抱きしめた。
「さぁ、フェイトも無事帰ってきた事ですし、夕飯にしましょう。今日は新居引っ越しパーティーですから、腕によりをかけてたくさん作ったんですよ!」
リニスの明るい言葉で一同はダイニングに向かう。
「(何があったのか、後で詳しく聞かせてもらうわよ。レヴィ)」
『うん』
その裏で、プレシアとレヴィだけの、そんな会話が会った事も知らず、この日のテスタロッサ家はアクシデントがあったものの、無事に地球、海鳴市へと根を下ろすことができたのだった。
*
「それで、もう少し詳しく話を聞かせてもらっていいかしら?」
深夜、日もまたぎ子供はもちろんの事大人ですら眠っている人もいる時間、ある部屋に30代半ばに見える女性と10歳行くか行かないか位の少女が部屋の中に居た。
女性はプレシア・テスタロッサ。テスタロッサ家の家長である。
少女は、フェイト・テスタロッサ。テスタロッサ家の次女である。しかし、本来あるべき瞳の色はワインレッドとも言えるような綺麗な赤色であり、今の彼女とは違う。
今いる少女は、瞳の色以外フェイトと瓜二つであるが、その瞳の色だけはサファイアブルーとでも言えるような綺麗な濃い青色をしていた。
少女の今の名はレヴィ。彼女がフェイトに似ているのは当前であり、彼女の体はフェイトの物なのだから。
「うん。フェイトが言った事で、ボク達が見聞きしたことは大体合ってるんだけど」
「当然、それ以上の情報が聞きたいのよ」
二人が話すその姿はまるで悪の大魔王とその参謀の様に、怪しく、昏い雰囲気を纏っていた。
「そうだね、僕が昔話した“
「そしてフェイトを彼女に合わせるために、このロストロギアに関連する事件を通して、彼女との友情を育むためにこの世界に私たちは来た」
「そして、ボクの未来予知とまぁ6割がた同じ状況で二人は出会っている」
「このまま誤解とすれ違い、それを乗り越えた共闘。お互いの思いをぶつけあうことで二人は無二の親友となる」
「確かに違う事が多いけれど、大筋は間違ってない。今のところはね」
「えぇ。その様ね。それで、私は管理局が来る時までフェイトを陰ながら見守っていればいいのね?」
「うん。フェイトを表で守るのは、ボクがするから」
「良いわ、あなたのその狂言に付き合っている限り、フェイトにとって、あの子たちにとって良い未来が待っていると言うのなら、その狂言に付き合いましょう」
「ありがとう。それと……」
「えぇ。アリシアの事でしょう。大体予想はつくわ。
アリシアの死因は次元振、正確にはそれを発生させる程巨大な魔力の奔流に充てられてのリンカーコアの破壊。それによるショック死。つまり今回のアリシアに起きた影響は――」
「次元振を起こせるほどの魔力の奔流。氷山の一角とは言えその一部を感じてしまった事による、
「えぇ。これからはアリシアには私かリニスが側に居るようにしましょう。私は
「うん。実働はフェイトとアルフ、それにボクってことになるね。大丈夫、上手くいくように努力するよ」
「上手くいくように、じゃだめなのよ。上手くいかせなくちゃ」
「……そうだね」
「…………あなたももう寝なさい。これから数日はジュエルシードの捜索を含めた市内の散策、あなた達が通う学校の選定と、やる事は色々あるのだから。アリシアなんかは旅行なんかも楽しみにしているし。やる事はたくさんあるのよ」
「りょーかい。それじゃ、お休み」
「えぇ。おやすみなさい」
こうして、いない筈のラスボスと参謀の会話は終わった。
それは夜も更け虫も鳴かないような時間の話だった。
と言うわけで無印編1話にして、原作で言うならアニメ4話のお話し。
ここからフェイトとなのはのすれ違いとぶつかり合いが始まっていきます。
前書きでも言いましたが、今回はなんと13000文字と言う、今までの約3~4倍と言う大ボリューム。
それで、もしも今後も同じように長くなってしまった場合どうするべきなのか
1、従来通り3000文字前後の長さで細目に投稿する。
2、10000文字超えようと1話分ガツンと投稿する
私の活動報告の『L×F= の無印編について』と言う活動報告に数字だけでもコメントしてくれると助かります。
それでは、また次回