長らくお待たせしました4話〈下〉となります。
なんだか最近熱意が減ってきまして、その上とてもつまらない部分であったためとても書くのに苦労しました。
それでは、管理局による事情聴取と言う、特に動きの無い話ですがどうぞ見てやってください。
フェイトとなのはが戦い、管理局が遂にこの地球にやってきた翌日の昼、高町なのはは外を走っていた。
昨日定めた待ち合わせの時間が迫っている事もあるが、今の時間は12時30分。早めの昼食を終えすぐさま家を出たのだ。なのはの家から待ち合わせ場所である海鳴臨海公園までは歩いても20分程度。待ち合わせは13時なので歩いても間に合う時間であるが、それにもかかわらず、なのはは走っていた。
理由としては鍛練であると、なのはは言うだろう。なのはは実は今朝、最近の日課である鍛錬ができなかった。昨夜のダメージの所為か起きた時はすでに10時だったのだ。もちろん家族には心配された。だがなのはにとっては心配された事より、自分が決めた日課をこなせなかった事が不満だった。ユーノはもちろん、レイジングハートですら昨日の今日なので無理をする必要は無いと言ったのだが、なのはは頑なにその言葉を受け入れなかった。
一度決めたことはやり通す。そんな高町なのはの信条が、頑固なまでの信念がそれを許さなかったのだ。
なのでなのはは今走っている。朝できなかったことをせめて今やろうと。そして早めに家を出て、ランニングをしながら遠回りをして海鳴臨海公園に行こうと思っていたのだ。
そんななのはが臨海公園にたどり着いた時間は12時50分。待ち合わせ10分前と言う、まぁ悪くない時間だろう。
公園の敷地内に足を踏み入れると同時に歩みを遅くしていき、息を整えるために歩く。そのまま臨海公園の名前の由来である海が見える展望台へとたどり着くとそこにはすでに人が居た。
金髪ツインテールのなのはと同じくらいの年齢だと思われる少女、フェイトとそのそばに立つ知らない女性。その黒髪の女性とフェイトは母娘なのだろう。海を見ながら言葉を交わし、お互いが明るい表情を浮かべている。
そんなフェイトになのはは少しばかりの衝撃を受けていた。自分が見たことのない表情を浮かべるフェイト。それは当然だろう。母親の前でいる時と、敵とみなされたなのはの前に居る時、同じ表情だったらそっちの方が怖い。
しかし、なのはが受けた衝撃はそんな簡単なものでは無かった。フェイトの明るい表情をなのはは初めて見たのだ。自分の前では感情が無いような、凍りついたような冷徹な顔しかしなかった彼女が、その目尻を下げ、口角を上げ、優しく、朗らかに笑っている。
そんな顔が、そんな表情を浮かべるフェイトが衝撃的だった。悔しいとすら思ってしまった。
「……フェイト、ちゃん」
そんな衝撃でなのはは足を止め、ついフェイトの名前を呟いてしまった。
その声は決して大きくは無かったが、ある程度は近づいているため相手にも聞こえたのだろう。フェイトはなのはの方に振り向き、なのはの存在を確認すると、唐突に表情が凍った。
今までの明るい表情とは一変した、今までなのはに向けられ、なのはが見慣れてしまった冷たい顔。
――っ!
そんなフェイトになのはは得も言えぬ胸の痛みを感じた。その光景は自分の想いが一方通行だったのだと、フェイトにとって自分は未だ敵であるのだと、突き付けられる光景だった。
そんなフェイトを見てなのはの存在に気が付いたのか、フェイトの側に居た母親らしき女性はなのはの方を向き、近づいてきた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
にこやかにあいさつする女性に対して、すこしどもりながらもキチンと頭を下げ挨拶するなのは。
「フェイトの母親のプレシア・テスタロッサです。あなたが高町なのはさんね?」
「えっと、はい。そうです」
「あなたの事は娘から聞いているわ。ごめんなさいね」
自己紹介が終わるとすぐさま謝るプレシアになのはは驚き戸惑う。なぜプレシアに謝られたのかが理解できなかったのだ。
「え!? えっと、その……」
何を言えば良いのかわからず狼狽えるなのはが可愛らしかったのか、プレシアは少しだけ笑うと、なぜ謝った彼の理由を説明しだした。
「あの子、フェイトがあなたにきつく当たっているでしょう? 今もああやってあなたを睨んで」
プレシアにそう言われ、少しだけ意識をフェイトに向けるとプレシアの言う通り、フェイトは先ほどと変わらぬ表情でなのはを睨んでいた。
特に顔が怖くなっただとか、雰囲気が恐ろしくなったなどと言う悪い変化は見られない。しかし、冷徹な表情はいつもなのはと対峙するときのフェイトそのものであり、良くなっているわけでも無い。
「それに、あなたの言う事も良く聞かないで戦ったりして、謝って済むことじゃないと思うけど、謝らせて頂戴」
「い、いえ、それは、その……私の方も、悪かった、事とかあったり、したり……」
何を言いたいのか定まらず、明瞭を得ないなのはの言い分を、取り敢えず受け止め微笑むプレシア。
「だから、あなたにはできればあの子と仲良くなって貰いたいのよ」
「え?」
「あの子、フェイトは私の所為で友達がいなくてね。生まれてから今まで側に居たのは家族と家政婦だけ。だからそれ以外の人にどう接していいのかわからないの」
唐突に語りだしたフェイトの過去になのはは驚き、思い出してしまった。昔の自分を。独りだった頃の幼い自分を。
「それどころか、私の所為で家族との時間も取れなくて……、だからずうずうしいお願いだとは分かっているのだけれど、フェイトと仲良くなってほしいの」
今は過去のものとなったあの頃の自分。その時代を経験しているからこそ分かる、家族が側に居てくれなかった悲しみ。
この時なのはは気づいた。なぜ自分がああまでしてフェイトにこだわってしまっていたのかを。フェイトの事が知りたい、その思いだけでなのははフェイトに挑んでいた。今はフェイトに勝ちたいと言う思いもある。しかし、その最初の、なぜ『フェイトを知りたい』と思ってしまったのか、その原点。
出会った瞬間自分の直感が訴えたのだろう。自分では理解できなかったが感覚の奥深く、直感を超えた部分で勘付いていたのだろう。
『フェイトが自分と似ている』事に。
同じ悲しみを知っているから。
それでも彼女は、フェイトは強かった。優しく、気高く、強かった。
だから知りたかったのだ、子猫に謝りながら攻撃をする彼女が、こちらを心配しているのか、否定したいのか明瞭としない彼女が。それらを併せ持った彼女の全てが『気になっていた』のだ。
同じようで違うから、なぜ違うのかを知りたかった。彼女と自分が分かたれた原因が知りたかったのだ。
「大丈夫ですよ」
それに気づいたなのはは、プレシアを安心させるかのように笑った。
「私、諦めてませんから。フェイトちゃんとお友達になる事」
朗らかに笑いながら宣言した。
*
「二人とも待たせてみたいですまない」
プレシアがなのはと話した後、結局フェイトはなのはとは一言も会話を交わさなかったが時間が時間だったのか直ぐにクロノが現れた。
「えっと、あなたが」
クロノは見知らぬ女性、プレシアを見る。そのクロノの視線に訝しむ思いを感じたのかプレシアは自分から頭を下げた。
「この子の母親のプレシア・テスタロッサです」
「あぁ、すみません。クロノ・ハラオウン、執務官です」
慌ててクロノも頭を下げながら自己紹介をする。名乗られた役職にプレシアは少し驚いたようにクロノを褒めた。
「あら、その年で執務官だなんて相当優秀なのね」
「いえ、自分はまだまだ未熟ですよ」
「過ぎた謙遜は嫌味に聞こえますわよ、執務官様」
嫌味たっぷりなプレシアの言葉にクロノは少しばかし顔をゆがめた後、その顔を隠すようにもう一度頭を下げた。
「それは申し訳ありません。ありがたく受け取らせていただきます」
外見だけ見ればなんて事の無い話し合いだが、その実は嫌味を含んだ大人の言いあいに眼が白黒するなのはとフェイト。
フェイトなどは母親の意外な一面を見てことさら驚いている。
クロノはそんな二人に視線を動かすと強の本題を切り出した。
「それでは、早速になるが僕達の船に行こう」
「あ、はい」
「わかりました」
「それじゃぁ僕のそばに寄ってくれ」
クロノの指示通りに集まる三人。三人ともが近寄ったことを確認するとクロノは転移魔法を発動させた。
「さて、ようこそ次元航空戦艦『アースラ』へ」
転移の光が収まって見える光景は無機質な人工的な部屋。その光景がまさにSF映画の世界である所為か、なのはは少し目を輝かせて辺りを見回している。一方フェイトも初めて入る戦艦に興味があるのか辺りを見回しているが、なのはほど熱のこもった視線は送っていない。
「ここはあまり見ても何も面白くないと思うぞ。さぁ、付いてきてくれ。艦長に合ってもらうから」
「は、はい!」
「わかりました」
先を歩くクロノ連れられ歩く三人。なのはは未だ興味が尽きないのか辺りをキョロキョロ視線を移しながら付いて行くが、フェイトは変わらない光景に飽きたのかもうすでに辺りを見回す事はしていなかった。
「あぁ、そうだ」
そうしてしばし歩いたところでクロノは何か思い当たったのか、急に足を止めるとなのはの方へ向き直った。
「先日から思っていたんだが、何時までその恰好で、と言うかそんな場所にいるんだ? 君は」
「ふぇ?」
クロノが言った事に思い当たらないのか頭を傾げるなのは。そんななのはを見てクロノは顔を横に振りながら言う。
「あぁ、違う、君じゃない。君がしょってる鞄の中にいるんだろう? あのフェレットもどき」
「え、あ!」
なのははクロノにそう言われて初めて思い出したのか、家を出る前に鞄に詰めたユーノを慌てて取り出した。
「ごめんね! ユーノくん」
「あぁ、もうついてたのか」
慣れてしまったのかそれとも意外と図太いのか、ユーノは今まで寝ていたらしくなのはに取り出されると前足で器用に頭を擦る。
「で? いつまでその姿なんだ? いい加減戻れるのだろう?」
そんなユーノに呆れながらもクロノが言った言葉にユーノははっと気が付いたように頷いた。
「あぁ、そうだったね。ここ最近ずっとこの姿だったから忘れてたよ」
そう言うとなのはの手の上から降り、光に包まれるユーノ。
「え? え? どういうこと?」
その光景の意味が分からず狼狽えるなのはを無視して、光に包まれたユーノは大きくなる。そして、光が消えるとそこにはなのはやフェイトと同年代の男の子が現れた。
金髪碧眼で中性的、年齢や顔立ちも相まってか男の子と言うには少し可愛らしいが、男の子である。
「なのはにこの姿を見せるのは久しぶりかもね」
そんな『人間』に変わったユーノをなのはは震える手で指さしながら慄いていた。
「どうしたの? なのは」
なのはがなぜ震えているのか理解できないのかユーノは顔を傾けながらなのはに近づく。
「な、なななな」
「な?」
「なんでユーノくんが人間になってるのおおおおおおおっ????!!!??」
そんななのはの大声がアースラに響き渡った。
*
「まったく、しっかりと説明をしておかないからこうなるんだ」
「ご、ごめんなのは。最初に出会った時はこっちの姿だったとばかり」
「? 君はあの子の使い魔じゃないの?」
「違うよ……」
「落ち着いたかしら? なのはちゃん」
「……すみません。ありがとうございますフェイトちゃんのお母さん」
なのはが叫んだあと数分程なのはを落ち着かせたり、説明したりと無駄な時間があったが、その甲斐あってなのははユーノがフェレットでは無く人間である事実を受け止められたようだ。
むしろ今ユーノはなのはの使い魔だと思い込んでいたフェイトの誤解を解くのに疲れてしまっていた。
「あれ? でも君ってあの子達と一緒に温泉入ってたよね?」
「あ!」
フェイトの何気ない一言で収まっていたはずの場が騒然となる。
「え!? なんでフェイトさんがその事を!?」
「ほう、もしや僕は君を覗きの罪で検挙しなくちゃならないのかな?」
「ちょっと待ってよ! アレはなのは達が無理やり! 僕だって男湯の方に行きたかったさ!」
「ユーノくん。だったわね」
その話を聞いたプレシアが笑いながらユーノの後ろに立つ。
「は、はぃ」
「ちょっと、来てもらえるかしら?」
「はいぃ」
プレシアの顔は誰がどう見ても笑顔だと言うのに、纏うオーラは全く微笑ましいものでは無く、直接向けられたユーノ以外の三人を竦みあがらせる程だった。
――あ、あれは怒ったお母さんと同等! フェイトちゃんのお母さんは化け物なの!?
――やばい、あぁなった母さんは誰にも止められない。ご愁傷様……。
そんなプレシアを見てなのはとフェイトは失礼なことを考える。
「……え? ……はい。……ね」
なにやら離れた場所で話し合いを始めたプレシアとユーノ。まるでユーノは怒られている子供の用に下を向き縮こまってしまっている。
「え!? あ、………はぃ」
どんどんとプレシアの怒気が高まるのと共に涙目になるユーノ。
そのあまりにも哀れな光景が同情を誘ったのかフェイトは最近めっきり表に出る事が無くなったレヴィに相談した。
「(ねぇレヴィ)」
『ん? どうしたんだい?』
「(どうにか母さんをなだめられないかな?)」
『う~ん。フェイトが上目使いで「止めて!」って言えば一発だと思うけど?』
「(そんなテキトーな)」
結局帰ってきたのは当てにならないアドバイスだけ。フェイトは落胆し肩を落としてしまう。
『いやいや、結構本気なんだけど。騙されたと思ってやってみなって』
「(むー、ホント?)」
『ホントホント。「ゆるしてあげて!」って言えば大丈夫だって』
このままではまだ見ぬアースラの艦長を待ち惚けにさせてしまうので、仕方なく意を決してプレシアに近づく。
「母さん」
「あら、どうしたの? フェイト」
フェイトが声をかけたことで今までの怒気を一瞬でひっこめ表情通りの優しい雰囲気に変わるプレシア。
「もう時間もたっちゃってるしさ、彼、許してあげて? ね?」
とりあえず母が落ち着いているうちにとレヴィに言われた通りに上目使いでプレシアにやめるよう頼む。
そんな可愛らしいフェイトを見た瞬間プレシアの動きが止まる。
「母さん?」
「はっ。……わかったわ。フェイトに免じて許してあげる」
「……あ、ありがとうございます」
気を取り戻して直ぐにユーノに許しを与えるプレシア。与えられたユーノは今までの恐怖から解放された喜びでか硬くつぶった目から涙が零れ落ちていた。
「……ありがとう。ありがとう、フェイトさん」
あまりに感極まってしまい泣きながらフェイトに感謝するユーノ。そんなユーノにフェイトは少し引きながらも応えた。
「う、ううん。大丈夫だよ。それとフェイトで良いよ。同い年くらいだし」
「うぅっ! ありがとう! ありがとう、フェイトぉ!」
「う、うん。わかったから、わかったから手離して……」
滂沱の涙を流しながらフェイトの手を掴み拝み倒すユーノをなんとか落ち着かせ、一行はやっと艦長室へと向かう事になった。
その時間約30分の出来事だった。
*
*
「ようこそ、アースラへ、歓迎いたしまわ」
一行がようやく艦長室に辿り着き、部屋に入ると同時に中にいた女性、リンディがそう声をかける。
「お邪魔します」
「初めまして、この子の、フェイトの母のプレシア・テスタロッサです」
「プレシアさんね。今日はよろしくお願いします。どうぞ、好きなところにお座りください」
フェイトが律儀にお辞儀をし、それと同時にプレシアも自己紹介をする。この部屋の異常を素通りして。
いや、異常だと感じられなかったのだろう。この中で異常だと感じられたのは、高町なのはただ一人。生粋の『日本人』である彼女だけだった。
―――な、なななな、なんなのこの部屋!?
そんな異常を唯一感じ取れるなのはは艦長室の光景に驚き戸惑っていた。
それはそうだろう。SFの世界のような船の中、その最高権力者がいるはずの艦長室で見慣れた物があったのだから。
そう、畳と座布団、茶器に鹿威しと言う純和風の出で立ちと言う、『見慣れた物』だったのが問題だった。
なぜ室内に鹿威しが、とか色々突っ込みたい物が多いが、何より近未来的な様相を期待したなのはにとって、その光景は期待を斜め上に突き抜けすぎてショックだった。
「どうした? 君も好きなところに座ると良い」
気づいたら一人入り口で取り残されクロノに心配される始末。
とりあえず、隠しきれない驚きを抱えたままなのははユーノの隣に座る。
それを見るとクロノはリンディの隣に座りやっと今日の目的である事情聴取の体勢が整った。
「それでは、改めまして。本日は戦艦アースラにお越しいただきありがとうございます。この船の艦長を務めさせていただいています、リンディ・ハラオウンと申します。」
「フェイト・テスタロッサです」
「プレシア・テスタロッサです」
「あ、た高町なのはです!」
「ユーノ・スクライアです。スクライアは部族名なので僕の名前はユーノって事になります」
頭を下げるリンディに続きフェイト達も自己紹介と共に頭を下げる。
「それでは今回は第97管理外世界で起きているロストロギア事件の事についての事情聴取をさせていただきます。私と執務官のクロノ・ハラオウン。それと書記官としてエイミィ・リミエッタも同席させていただきますが、よろしいですね?」
「はい」
リンディの事務的な確認作業にプレシアが答える。この辺りは大人の仕事だ。
「それじゃぁ、お話を伺いましょう。まず、ロストロギア『ジュエルシード』についてなのですが……」
そう言ってリンディが話を進めようとすると、それをなのはがおずおずと申し訳なさそうに手を上げ遮った。
「あ、あのぉ、ろすとろぎあって、なんですか? それとその、第なんちゃら世界とか……」
「……ユーノ、君はちゃんと説明をしてないのか?」
なのはの言葉にクロノは半目になりながらユーノを見つめる。
「えっと、ユーノくんには、ジュエルシードを放っておいたら大変なことになる。って事位は説明してもらったんですけど……」
なのはのその言葉からは申し訳なさが伺え、本人も縮こまってしまっている。
「なのはさんは管理外世界の出身だから仕方ないわね。それじゃ最初から、世界の成り立ちからお話ししましょうか」
「よ、よろしくお願いします」
にこやかに笑いながら言ったリンディに恥ずかしそうに言うなのは。そうしてリンディとクロノを中心に世界の説明と共に、ロストロギア、そしてなのは達がどれだけ危険な事をしてきたかの説明がなされた。
「と言うわけなのよ。それじゃぁ本題に戻って、ジュエルシードの事なのだけど」
「それは、僕から」
そう言って次はユーノが説明をしだす。自分が発見したロストロギアであること。管理局に護送を依頼したが断られ、結局自分たちで運ぶことにした事。途中で事故が起こり輸送船が壊れ荷物であったジュエルシードが97管理外世界、その中の日本海鳴市にばらまかれてしまった事、その時の事故の衝撃で封印が弱まっている事。
そして責任を感じ自分が回収し直すために日本へ来たが、魔力素の相性が悪く苦戦し結局現地で強力な魔力を持ったなのはに頼ってしまった事。
それら全てを嘘偽りなく、事実だけを簡潔に説明した。
「なるほど、責任を感じてと言う事ね」
「はい」
「それは立派ね」
「だが、無謀だ」
ユーノが行った行動を褒めると共に窘めるリンディとクロノ。その事にユーノは少し落ち込んでしまい、隣に座っているなのははどうにかユーノの事を擁護しようと口を開こうとした――
「ですが」
――が、それはリンディの言葉でできなかった。
「あなたのような子供にそのような決断をさせてしまったのも我々管理局の落ち度。謝罪させてください」
リンディはそう言ってユーノに頭を下げた。
「そ、そんな! リンディさんが謝る必要は……」
「そうかもしれないが、部署が違ってもそれは管理局の判断だ。その所為で君を、君たちを危険な目に合わせる事になってしまった。それは許される事では無い。だから、この通りだ」
そう言ってクロノも頭を下げる。
純和風、畳の上で正座で話し合っているために、その行為は所謂土下座の状態となってしまっている。そこまでの深い謝罪にユーノはどうすれば返せばいいのかわからず、慌ててしまっていた。
「わ、わかりました! わかりましたから頭を上げてください!」
ユーノが何か言うまで頭を上げる気が無い二人に慌て、つい大声を出してしまうユーノ。しかしその声でリンディとクロノは下げていた頭を上げ直した。
「ありがとうございます。今後このような事が無いよう、極力努力いたします」
「それじゃぁ、次は君たち二人、なのはとフェイトの話なのだが」
ユーノの話は一段落し、話題はなのはとフェイトの話題に移る。
最初になのはの話を聞き、次にフェイトの話を聞く。それらを統合すると以下のようになる。
なのはの証言
ある日不思議な夢を見、それがユーノとジュエルシードの投影体の戦闘であった。翌日頭に響く声(念話)に導かれ進むとフェレットとなったユーノを発見、怪我をしていたので病院に運んだ。
同日夜、同じ声が聞こえ向かうとジュエルシードの投影体が暴れており、ユーノの言う通りにレイジングハートをセットアップし撃退。これを封印した。
以後、なのは自身からユーノの手助けをすることを進言、ジュエルシードを封印してきたがある日フェイトと遭遇、交戦に入り撃墜される。
以後何度かフェイトと出会い、対話の機会もあったがお互いの意見の不一致により2度交戦した。
フェイト・プレシアの証言
家族で旅行に第97管理外世界に到来、教育、科学力共に水準が高く、平和である日本に腰を落ち着ける予定だったが、ある日強大な魔力反応を感知。現場に向かうと魔法文化の有る筈の無いこの世界でミッドチルダ式の結界魔法を発見。内部で管理局員と次元犯罪者の交戦があるのかと思ったがそんなことは無く、いたのは一人の魔導師(高町なのは)のみ。
忠告をしたがこれを聞かず止む無く交戦、これを撃墜。この時に管理局に通報を入れた。
その後も旅行中にジュエルシードを感知し、封印したところ高町なのはと遭遇。この件から手を引くように忠告するが高町なのははこれを固辞、交戦に入り撃墜。
そして先日もジュエルシードを感知し高町なのはと三度目の遭遇。今度は高町なのはが襲ってきたのでこれを撃墜。
大雑把にまとめるとこうなる。
「な、なるほど……」
「……」
二人の話を聞き終えたリンディはなんと言えば良いのかわからず、曖昧な言葉しか言えなかった。隣のクロノなんて頭痛がするのか、うつむいて眉間を揉んでいる。
「……そ、そうねぇ。お二人の言い分はわかりました。わかりました、が!」
語尾を強く言いながらフェイトに強い視線を送るリンディ。
「フェイトさん。確かに管理外世界に高い魔力を持った魔導師、それもインテリジェントデバイスを持った魔導師がいるのは怪しいでしょう。ですが、それでろくに話も聞かずに撃墜する事は良いこととは思えません」
「……はい」
「それに、二度目の時もなのはさんに手を引いて貰いたかったら、キツく当たるのではなく、きちんと話せばなのはさんも分かってくれたのではなくて? それをせず安易に戦闘行為に走るのはそれはただの暴力です。良いですか?」
「はぃ、すみません……」
リンディの説教に反論も無く縮こまるフェイト。そのフェイトを見ると、リンディは次になのはの方に視線を動かした。
「次になのはさん!」
「は、はい!」
「確かに始まりはフェイトさんの一方的な攻撃からだったかもしれませんが、2度目はなのはさんもフェイトさんも、お互いが口喧嘩で熱くなりすぎてそれで戦闘になったと解釈しました」
「は、はい」
「あなた達の年で冷静になれ、と言うのは難しいかもしれませんが、それで直ぐに戦闘行為に走るのは良いとは言えません。それに三度目はなのはさんから戦闘を仕掛けていましたね。もう少し話し合う姿勢を見せるべきだったのではなくて?」
「うぅ、すみません」
「三度目の戦闘の光景は勝手ながら見させてもらいましたが、はっきり言って二人ともやりすぎです!」
「す、すみません」
「ごめんなさい」
リンディの剣幕に萎れるなのはとフェイト。言いたい事を言い終わり、二人が反省していると感じたのか、リンディは一息つくと、それまでの怒気を収め初めのような穏やかな雰囲気に戻った。
「とにかく、二人とも今回の件でお互いの誤解も解けたでしょうし、反省するようにしてください。良いですね?」
「はい」
「わかりました」
「それじゃぁお互いに謝罪して今までの事は水に流しましょう?」
「……」
「……」
リンディに諭されお互いに見つめ合うなのはとフェイト。なのはもフェイトもどことなく目を合わせづらいがリンディの言う事も最もなので意を決して頭を下げる。
『ごめんなさい』
その声は見事に一致し二人同時に頭を下げた。
「はい! それじゃぁこの話はこれでおしまいにしましょう」
それを見届けにこやかになるリンディ。それにつられ緊張感が漂っていた場の雰囲気も和やかなものになる。
「それじゃぁ、今後の事についてだが……」
空気が変わった事を切っ掛けにクロノが話を切り出す。
その言葉にリンディは一つ頷くと言葉の続きを継いだ。
「この件はこれより管理局が責任を持ちます。なのであなた達は普通の生活に戻ってかまいません」
「え!?」
リンディの言葉に反応したのはなのはだけだった。もともとユーノは管理局に頼むことが良いと考えており、リンディの言う事は最もだと思っていた。
フェイトやプレシアはもとよりこの世界には魔法やロストロギアなど関係なく訪れただけであり、ジュエルシードは放っておくと危険だと判断したため仕方なく関わっていた部分があった。
故にこの申し出は管理局の業務として当然であり、本人たちとしても願っても居ない事であった。
しかし、なのはは違った。なのは本来の責任感の強さと頑固さ、それは一度決めた『ジュエルシードを集める』と言う目標を途中で終わらせてしまう事に難色を示した。それに加え、なのはが見つけた『魔法』と言う手段。それを振るう場を取り上げられてしまう事を無意識に恐れてしまったのだ。
「あ、あの」
なにか言いかけるなのはの機先をクロノが遮る。
「君たち一般人にこれ以上危険なまねはさせられない。今後は僕達に任せて、この事は忘れて“普通”の生活に戻った方が良い」
クロノの言う“普通”。それがなのはは最も恐れていた事だった。やっと見つけた打ち込める事。自分が他人に誇れる事。それが『魔法』。その魔法を忘れ、『普通』に戻ってしまえばまたなのはは昔のなのはに戻ってしまう。自分に自信が持てず、日々を無為に過ごしていたあの『弱いなのは』に戻ってしまう気がしてしまった。そうなってしまう事がとてつもなく恐ろしかった。
「あの、手伝っちゃ、ダメですか?」
だからなのはは怒られることを覚悟してそう提案した。
どうしても“普通”には戻りたくなかった。今の『強いなのは』になれた魔法を捨てたくなかった。忘れたくなかった。
たとえそれが他の何かを失うことになっても。
今のなのはは無意識にでも『魔法』に縋っていたかった。
「しかし、僕達管理局が来た以上君たちに任せるわけにはいかない」
「だから、そのお手伝いを……」
「危険な目に合うかもしれないんだ。そんな事を許せるはずがないだろう」
「だけど」
クロノの言い分を聞かず食い下がるなのは。フェイトはそんななのはを訝しむ目で見ていた。
「わかりました」
なのはとクロノの言いあいをリンディの言葉が止める。
「なのはさん。今日は保留にして、よーく考えてみてください。私達はその考えを尊重しましょう」
「艦長!」
リンディの申し出になのはは喜び、クロノは驚いた様子でリンディに向かって声を荒げる。
「なのはさんはこう言っていますが、フェイトさんはどうしますか?」
クロノを無視しフェイトへと話しかけるリンディ。その問いにフェイトは
「あなた達にお任せします」
そう、きっぱりと答えた。
「え? どうして?」
そのフェイトの言葉に今度はなのはが信じられないかと言うような表情で驚いていた。
「私は別にジュエルシードに用は無い。必要だったから集めてただけ、私がやらなきゃ危険だと、そう判断したからジュエルシードを封印してただけだから」
「で、でも、フェイトちゃんあんなに強いのに……」
「強さは関係ない。それに強いならそこの執務官は私より強いはず。何も問題は無いでしょ?」
「でも!」
「あなたがどう思おうと関係ないけど。私はこの世界にジュエルシードを集めに来たわけじゃない。母さんと、姉さんと、家族と『普通』に暮らす為に来た。それだけ」
食い下がるなのはに言い放ったフェイトのその言葉に、なのはは信じられないとでも言うように、ただただ口を開くだけだった。
「だから、集めたジュエルシードもお渡しします。……良いよね? 母さん」
「えぇ。大丈夫よ」
「わかりました。それでは、ジュエルシードはこちらでお預かりしましょう」
フェイトの言葉にリンディは頷くが一向に場にジュエルシードは現れない。
「? 母さん?」
「あら、タダで渡す気は無いわよ?」
ジュエルシードを保管している筈のプレシアが出さないので、母を見るフェイト。その視線にジュエルシードが出てくることを皆が待っているのだと気づいたプレシアはそう言った。
「な! ロストロギアの不当所持は違法だぞ!」
「あら、私は別に渡したくない訳じゃないわ。ただ、それをあなた達管理局がタダで受け取ろうとするのが気に食わないだけよ。この世界の警察、管理局のような組織も落ちたお金を届けたらその金額の一割を報酬としてくれるそうよ?
私たちは旅行に来たらこんなことに巻き込まれたのよ。謝罪だけじゃなく、あなた達の“誠意”を見せてもらいたいわね」
クロノの言葉にプレシアは嫌味たっぷりに言い放った。もともと管理局が来たらこの交渉をするつもりであったし、フェイトに言い聞かせてたのもプレシアがジュエルシードを管理していたのも全てこのためだ。
「わかりました、フェイトさんとなのはさん、それにユーノくんには後ほど謝礼をすることにします。その事の交渉はまた後日でよろしいでしょうか?」
とりあえずこの場を収めるためにプレシアの言い分をのむリンディ。
「えぇ。良いわよ」
この後は大人同士の話し合いが必要であり、子供がいる場でする事では無いと判断した二人はひとまず、ジュエルシードの受け渡しを保留とした。
「それでは、今日聞きたい事は大体伺いました。なのはさんは自分がどう思っているのかよく考えて、明日でもそれ以降でも良いわ。あなたの決断を聞かせて頂戴。フェイトさんはありがとうございました。お母さんと良く話し合って、後日満足のいく謝礼をさせていただきます」
「はい」
「……」
「それでは、今日はここまでとしましょう。クロノ、送ってあげて」
「……わかりました」
リンディのその言葉でアースラでの事情聴取は終わった。
*
海鳴臨海公園展望台。昼に集まった場所であり、転移魔法で帰ってくればもう時は夕暮れ、太陽が落ちかけている時間であった。
「それじゃぁ、ボクはこれで」
4人を転移魔法で送ったクロノはそう言うと再度転移魔法を発動しアースラへと帰っていく。
後に残された4人の間には何とも言えない空気が漂っていた。
「それじゃぁ母さん、帰ろう」
「……えぇ、そうね」
最初に口を開いたのはフェイトであり、フェイトはプレシアにそう言うと一人歩き出す。
「ま、待って!」
そんなフェイトをなのはが呼び止める。
「ね、ねぇフェイトちゃん」
「あなたは」
「え?」
呼び止めたなのはが何かを言う前になのはに背を向けたまま、フェイトがなのはに言う。
「あなたは、なぜそこまで魔法にこだわるの?」
それはフェイトの疑問。常に会うたび言った「手を引け」と。しかしなのははそれを固辞してきた。故にフェイトは気になっていた。なのはが魔法にこだわる理由を。
「わ、私は、魔法に出会えて、ユーノくんを助ける事が出来て、これなら、魔法なら人の役に立てるんだって思って、それで」
「それが、自分を傷つける事になっても?」
「だって、私がやらなきゃ」
「もう管理局が来た。あなたはやらなくていい。それでもなぜ管理局の手伝いまでしようとして、魔法に関わろうとするの?」
「それは、私は『弱い』から……。でも、魔法があれば私は『強く』なれるから、だから」
「そう」
そう言ったなのはの魔法にこだわる理由はフェイトには理解できない物だった。故に再確認した。フェイトはなのはが気に食わないのだと。自分を傷つけてでも、“普通”に戻る事を拒否する彼女が。
「あの、フェイトちゃん」
「なに?」
「一緒に、ジュエルシード集めよ?」
なのははフェイトと共に居たかった。もっと一緒にいてお互いを知りたかった。だから一緒にいられる同じ目標を持って進める、ジュエルシード集めに誘った。
「私は『普通』になる為にこの世界に来たの。ジュエルシードの所為で延期してたけど今度からここの学校にも通う」
「え?」
「私は、あなたが嫌っている“普通”を満喫するためにこの世界へ来たの。だから、ジュエルシードには、もう関わらない」
「…………」
「バイバイ」
黙るなのはを置いてフェイトは歩き出す。プレシアも何かを言いたそうにしていたが何も言わず、黙ってフェイトと共に帰路に付いた。
茫然とフェイトを見送るなのは。
フェイトの言い残した言葉に衝撃を受けていた。
――わたしは、“普通”を嫌ってる……
そうなのかもしれない。普通に過ぎゆく時間が嫌だった。普通の世界で何もできない自分が嫌だった。
そんな中“特別”に、魔法に出会ってしまった。
この世界で魔法が使えると言う特別に、普通とは違う非日常に、なのはは気づいていなかった。自分がジュエルシードを集めていたのは魔法が使える使命感でも、自分だけが魔法が使える責任感でもない。
―――魔法と言う非日常を、“普通”ではない世界を楽しんでいたのだと。
その事をフェイトに突き付けられてしまった。必死に言い訳をして、必死に覆い隠してきた事を、遂に暴かれてしまった。
「なのは?」
フェイトの姿が見えなくなっても固まったままでいるなのはをユーノが心配して声をかけてくる。
「え、あ、うん。なに? ユーノくん」
「ボク達も帰ろう?」
そう言いながらユーノはフェレットに戻りなのはの肩へと駆け上がる。
「な、なのは!?」
そんなユーノをなのはは胸に押し付けるように抱きしめた。
「ど、どうしたんだい?」
「ごめん、帰るまで、このままで」
なのはの様子がおかしいことに気付いたユーノはその言葉に頷き、黙ってされるがままで居た。
―――私は、どうしたら良いの?
“日常”と“非日常”
どちらが良いのか、なのははどちらに居たいのか。
フェイトは明確に宣言した、“普通”を選んだ。
――私は、どっちが良いんだろう……。
なのはの胸中は家に帰るまで、いや、家に帰ってからもその疑問で埋め尽くされていた。
――――――3度出会い、引かれ合い、出会う度にぶつかって、弾きあってきた少女二人の思いは、ついにこの瞬間、ぶつかることなくすれ違い、そしてそのまま離れて行った―――――――
と言うわけで4話〈下〉でした。
なのはさんの苦悩を書くのが楽しすぎる。主人公は伊達じゃないっすわ。
話は変わりましてなのはのオリジナルクロニクル1stと言う漫画が出ましたね。
皆さんは読みましたか? 私は読みました。これは二次小説書きにとって明確な指針となる漫画だと思います。
基本は映画にサウンドステージや、TV版をちょこちょこ挿入した感じの話でしょうか。
プールでのジュエルシードの話が収録されているのはありがたいですね。
次回は学校も始まる等々の理由もあってホントに更新は不明となります。
期待しないで待ってやってください。それではまた次回