魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

19 / 57
第5話 初めての学校、望んだ普通 ―2

「うわぁ、アリサってお金持ち?」

 

 放課後、アリサに言われた通り迎えが来るまで待ち、そしてアリサの言う迎えを目にしたアリシアは、驚きながらそんな事を呟いた。

 

「んー、まぁそうなるわね」

 

 アリサはそんなアリシア達の驚きに慣れているのか、特に感慨も無くアリシアの言葉を流した。

 

「すごい、ふかふか……」

 

 フェイトも迎えの車に備え付けられている椅子の座り心地に心を奪われており、しきりにシートを手で押している。

 

「鮫島、出してちょうだい」

 

 アリサがそう言うと少女4人を乗せた高級車は音も振動もなく動き始めた。

 

 

「うわぁ、すごいね。全然揺れないよ」

「うん、旅行の時借りた車はもっとすごかったよね」

 

 アリシアとフェイトはお互いが知っている唯一の比較対象であるレンタカーを話題にだすが、もちろんレンタカーは安物な上、古いので比べる事すらおこがましいのであるが、その言葉にアリサもフォローをする。

 

「さすがに山道じゃここまで揺れないなんて事は無いわよ」

「それに、これに驚いてたらアリサちゃんのお家に付いたらもっとびっくりするよー? アリサちゃんの家凄い大きいから」

「何言ってんのよ。すずかの家も相当じゃない! それにすずかのお家は由緒正しい家なんでしょ? 家みたいな成り上がりとは違うんじゃないの?」

「そんなことないよ~。古いだけでさすがに『バニングス』には敵わないよ」

 

 すずかの言葉に噛みつくアリサ。二人の何ともレベルの高い言い争いに、フェイトもアリシアも驚きを通り過ぎて呆れてしまっている。

 

 

「お嬢様、到着しました」

 

 その後もお互いの家族についての雑談をしていると、目的地―バニングス邸―に到着したのか、運転手であるアリサが鮫島と呼んだ老齢の執事が声をかける。

 

「あら、じゃぁ降りましょ。あまり期待しないでよね」

 

 一言良い残し一番に降りるアリサに引き続き、残りの三人も車から降りる。

 

『おぉ~』

 

 降りた二人は『地球に来てから』はほとんど目にしない豪邸に感慨深い声をあげるが、すずかは慣れているのか特に反応を見せずにアリサに付いて行く。

 

 

 「二人とも! 早く行くわよ!」

 

 アリサの掛け声に合わせて家に入る4人。

 

 

「お、おぉ~?」

 

 家に入った途端にアリシアが、何やら名状し難い声を上げる。

 

「ん? どうしたの?」

 

 当然アリサはそんなアリシアを不審に思い、後ろに振り向きながら声をかけるが、それには首を振りながらなんでもないと告げる。

 

 

「アリシア、どうしたの?」

「え、うん。そのぉ」

 

 フェイトの心配そうな声にも明瞭を得ない返答をするアリシア。

 

「ちょっと、どうしたのよ」

 

 不審に思い、アリシアの側によりながら声をかけるアリサ。

 

 そんなアリサに対してアリシアは申し訳なく思いながらも言った。

 

「えっと、思ったより狭いな~って」

 

 たははは、と乾いた笑いをしながら頬を掻くアリシア。

 

 そんなアリシアが言い放った言葉に驚いたのか、アリサは目と口を大きく開いている。後ろのすずかも目を大きく開き、口元を隠すように手を口へ持って行っている。

 

 対してフェイトはアリシアの感想に得心が行ったのか、納得した表情で再度辺りを見回している。

 

「あぁ、確かにちょっと狭いかもね」

「は、はぁ~!? 確かに期待しないでって言ったけど、家が狭いってどんだけ広い家に住んでんのよ!」

 

 フェイトからも放たれた言葉に、つい大声で返してしまうアリサ。その大声に驚いたのかフェイトの体が跳ねる。

 

「あはは~、ごめんって~」

 

 頬を掻きながら何とも気の抜けた声で謝るアリシアに呆れ、ため息を吐きながらも冷静になったアリサは、少しだけ声のトーンを落とした。

 

「家で狭いとか、アンタたちの家に興味がわいたわよ。いったいどんなお城に住んでるんだか……」

「今度見てみたいな~」

 

 やれやれ、と言いたげに頭を振りながら言うアリサに追随するように、すずかも興味を持ったことを伝える。

 

「あ~、いやー。こっちの家は多分普通の集合住宅なんだけど」

「うん、その、向こうの家がね……」

 

 申し訳なさそうに言うアリシアに、なにやら言いにくそうなフェイト。

 

 

「へ~。向こうのお家が凄いんだ~」

「まぁ、良いわ。とりあえず廊下じゃなんだし部屋に行きましょう。落ち着いたら色々話してもらえるからね!」

 

 腰に手を当てながら強気なアリサに押され、取り敢えず首を縦に振るアリシアとフェイト。そんな二人を見て満足したのか、アリサも一つ頷くと踵を介してまた歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん、なるほどねぇ」

「はわぁ、ホントにお城に住んでたんだぁ」

「ま、まぁ古い上に周りには何もなかったけどねぇ」

「うん。山と森だけだったよね」

 

 アリサに通された部屋のソファに座り、メイドさんが出してくれたお茶を飲んで一息ついた一行は、アリサの宣言通りアリシア達の『向こう』の家について話していた。

 

 想定していない話題の為、急遽フェイトがレヴィと相談したのだが『世界丸々が敷地である』事を除いて特に隠すことはしない方針で行くことにしたのだ。

 

 

「へぇ~。アンタたちってなんか由緒正しいお家柄だったりするわけ?」

「んにゃ、そんなことない、と思う」

「家は母さんが仕事の関係で貰った、とかなんとかって理由だったと思う」

「仕事の関係でお城貰えるって、どんな仕事なのよそれ……」

 

 アリシアとフェイトの話すとんでもない内容に、驚くことすら疲れてしまったアリサは、ただただ肩を下げため息ををつく事しかできていない。

 

「アリシアちゃん達のお母さん調べたら出てきたりして」

「あー、それは絶対ないと思うよ」

 

 冗談なのか本気なのか判断付かない様子のすずかの言葉に、出されたジュースをストローで飲みながらアリシアが否定する。

 

「ホントかしら? 家のパパですら出てくるのよ? お城貰えるような仕事してる人ならもっと簡単に探せるんじゃない?」

「アリサのお父さんって有名な社長さんなんでしょ? それなら簡単なんじゃない?」

 

 自分の父を比較対象に出すアリサに、今までの話からアリサの父が相当の有名人だと判断したフェイトはその言葉を否定する。

 

「いや、そうだけど、アンタ達のお母さんもそうなんじゃないの?」

「んー、お母さんの仕事って詳しくは知らないけど、研究者って奴だから、そんな事無いと思うよ~?」

 

 気の抜けたアリシアの返答に、それもそうかと納得したのか、アリサもすずかもそれ以上話題を深める事はしなかった。

 

 

「さ、それじゃ、何して遊びましょうか?」

 

 話題も一段落したのでアリサがこの後の行動を訪ねると、アリシアが元気よく手を挙げた。

 

「はいはーい。ゲームがしたいでーす!」

「そう! すずかとフェイトもそれで良い?」

「うん。大丈夫だよ」

「うん。私も興味あるから」

「それじゃぁ、ゲーム引っ張り出すから少し待ってて頂戴!」

 

 全員の返事を聞くと、アリサは席を立ち部屋に設置されたテレビの横にある棚を漁りだす。

 

 そこから出てくる出てくる、ゲーム機及びそれに関する物が。

 

「なにか要望はある~?」

 

 とりあえず、持っているハードとそれに関する機器を取り出して、次に肝心のソフトの入っている段を漁ろう、と言う所で三人の方へ向きどんなゲームがやりたいか聞く。

 

「よくわからないからお任せで!」

「私もそれで」

「私も何でもいいよ~」

「それが一番困るのよね~」

 

 三人の意見は「アリサに任せる」だったので苦笑いを浮かべながらも、なるべく皆で遊べそうなものを選ぶ。

 

――とりあえず、鉄板はパーティゲーム物かなぁ。中に入ってるゲームも色々種類あるし。あとはパズル系と、レース物。これくらいあれば大丈夫よね!

 

 とりあえずで三種類程ソフトを選び、ゲーム機器をセッティングすると、人数分のコントローラーを持ってテレビから少し離れたソファへ向かう。

 

「とりあえず皆で遊べるパーティゲーム物にしたわ! 色々なゲームで遊べるしとりあえずこれで良いでしょ!」

「わーい! やったー!」

 

 アリシアは戻ってきたアリサの手からいち早くコントローラーを受け取ると、強く握りしめ今か今かと目を輝かせながらゲーム開始を待ち構えている。

 

 

「ふふっ」

 

 

 そんな子供っぽいアリシアの行動に子供らしくない子供であるアリサは噴出してしまう。

 

「ちょっと、アリサ! 今笑ったでしょ!」

「あはは、ごめんごめん。それじゃぁ、アリシアも待ちきれないみたいだし、始めましょう!」

「む~」

 

 

 むくれっつらのアリシアを放置したまま、4人は各々ソファに座り、ゲームの開始を待った。そこには、皆種類は違うモノの、笑顔が確かに存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴もたけなわ、律儀に1時間ごとに休憩を進めるメイドさんに従いながら、日も落ちるかと言う時間まで遊びとおした4人だったが。遂に解散する流れになっていた。

 

「あ~、楽しかった! ありがとね、アリサ!」

「すごく楽しかったよ。すずかも、ありがとう」

 

 玄関で二人にお礼を言うアリシアとフェイト。すずかはいつも通りにこやかに笑いながら、アリサその勝気な顔に満面の笑みを浮かべている。

 

「私も楽しかったわ! また遊びに来ても良いんだからね!」

「ふふふ、私も楽しかったよ~。それじゃ、また明日ね~」

 

 何やらツンデレのようなセリフを言い放つアリサと、終始おっとりとした笑みを浮かべたままのすずかに手を振り、二人はアリサが用意してくれた送迎の車に乗る。

 すずかもしばらくしたら家の迎えが来るらしく、ここで二人とはお別れとなる。

 

 

「じゃぁね~、二人とも~。また明日~」

「バイバイ。また明日」

 

 乗り込む直前に手を振り合い、別れの挨拶を済ますと、今度こそ二人は車に乗り込み車は発進した。

 

 

 

 

「あ~、楽しかった~」

「そうだね」

 

 相変わらず座り心地抜群のソファと揺れない高級車に身を任せ、二人は今日の感想をまたもらす。

 

 

「(それにしても、レヴィ)」

『ん? どうしたの?』

 

 

 そんな中フェイトは自信と常に共にいる存在、レヴィに念話で声をかける。今まで影も形もなくても、常にフェイトと共にあるのだ。

 

「(ホントに、ゲームやらなくてよかったの? 交代したのに)」

 

 そう、フェイトは遊んでいる最中、何度かレヴィに交代するかどうか問いかけていた。自分が楽しく遊べているこの空間を、遊戯をもっとレヴィに直接味わってほしかったのだ。

 

『何度も言ったけど、大丈夫だよ』

 

 しかしレヴィは頑なに首を縦に振らなかった。

 

『アリサはボクを覚えていた。それに、アリサもすずかも人を見る目が良い。観察力に長けてるって言うのかな、空気をよく読めるって言うべきか。そんな二人の前で交代なんかしたら、瞳の色も変わっちゃうし、その場では何も言わなくても怪しまれちゃうと思うよ』

「(でも……)」

『ボクはフェイトが楽しんでいるのを見てるだけで楽しいよ。それに夢にまで見た初めての友達との時間なんだから。目一杯楽しまなきゃ損だよ』

 

 頭の中には、なんとも思っていないようないつも通りのレヴィの声が聞こえる。普通なら言葉通りの意味で受け取るのだろう。しかし、生まれてから、フェイトとして存在してから文字通り四六時中共にいたフェイトには、レヴィの言葉を素直に受け止める事は出来なかった。

 

――やっぱり、遠慮、しちゃってるのかな……

 

 

 いつも、どんな時もレヴィはフェイトの事を気遣ってくれた。レヴィの行動は全てフェイトの為にあると言っても過言では無かった。それこそ、生まれた時から。

 

 

 故にフェイトは最近よく考える事があった。

 

――もしレヴィに体があれば……。

 

 もし、そんな奇跡が起こり得たら。今日この楽しみを自分だけが味わうのではなく、レヴィも合わせた5人で味わえただろう、と。

 

 

 

「(ごめんね、レヴィ)」

『なんでフェイトが謝るのさ』

「(何でもない。でも、ごめん)」

 

 

 理由も何も言わず、表情にも出さず、ただ悲しげな念話を送るフェイトに、レヴィは何も言えなかった。

 

 

――今日はホントに楽しかった。

 

 

 それこそ、今でも夢心地の気分でいられる程。それはフェイト達にとっては夢のような出来事だった。

 

 

 

 

 そんな夢が叶ったからこそ

 

 

 

 だからこそ、脳裏に過るのは一人の少女。

 

 

 

 

 忘れようと思っても忘れられない強烈な存在感を持つ少女。

 

 

 

 最初は犯罪者かと思った。

次はただの素人だと思った。

次は自分から危険に飛び込む英雄症候群の(ヒーローに夢見た)子供かと思った。

そして、今は

 

 

――私以上に才能に恵まれた体。努力を忘れず、失敗にくじけない強靭な精神。まるで、魔法を使うために生まれたような娘

 

 

 ――――――高町、なのは。

 

 

 

 なぜ、とまた疑問が浮かんでくる。昼もかすめた疑問。友達の温かさを、友達と過ごす時間の幸せを知ってしまったからこそ、より強く想起される。

 

 

――なぜ、彼女はこの幸せな“日常”よりも、辛い“非日常”を選んだの?

 

 

 忘れようと思っても忘れられない。強烈な程の存在感を持つ天才魔法少女、高町なのは。

 

 特に気にも止めない少女の筈だった。すこし、魔力量が多い位だと。

 

 しかし気づいたら、こんな時ですら思い出すほどに、脳裏に焼き付くほどに強烈な少女だった。

 

 

 

――なぜ、あなたは……

 

 

なぜ、なぜ、なぜ

 

 

 疑問は尽きず、去れとて解決されず。

 

 

 

 もう二度と関わらない筈だったのに、それでもまだフェイトの頭を悩ませる。

 

 

「(レヴィ)」

『ん? どうした?』

「(帰ったら、母さんにゲーム買ってもらおう)」

『え?』

 

――そうだ、そうしよう

 

 白い魔導師の事で頭を悩ますより、そちらの方がよほど建設的だろう。

 

「ねぇ、アリシア」

「んん? どうしたの~、フェイト」

「帰ったら、母さんにゲーム買ってっておねだりしよう」

「え?」

 

 フェイトの言った事があまりにも予想外だったのか、驚きで目を瞬かせるアリシア。

 

「もう、アリシアもそう言う。なんで? そんなに意外?」

「う、うぅん! そんなことないよ! そっか、うん! そうだね! 買ってもらおうね、ゲーム!」

「うん!」

 

 

 アリシアも巻き込んでの、気紛らわせ。そうでもしなければ、いつまでもあの少女の事を考えてしまいそうだったから。

 

 

 

 

 車内に二人の楽しげな声が響く。

 

 

 

 それでも、フェイトの悩みは消えることは無い――

 

 

 

 

 

 

――――おまけ

 

「ママー、あのね、ちょっと用事があるんだけど~」

「どうしたの? アリシア」

「ほら、フェイト」

「う、うん。あのね母さん」

「何かしら?」

「えっとね、その、今日、友達とね。テレビゲームで遊んだの」

「えぇ。楽しかったのよね?」

「うん。それでね、その。家もゲーム、欲しいな、って」

「!!?」

「買って、欲しいなぁ」

「買って~、ママ~」

「あ、あぁ、ああぁあぁぁ」

「母さん?」

「ママ?」

「フェイトが、あのフェイトが、我がままを! フェイトが生まれて早4年。あの大人しく、いつも一歩引いてたフェイトが、初めての、初めての我が儘をぉぉおぉぉおおぉぉおおっ!!」

「か、母さん!?」

「うわぁ、急に泣きだした」

「えぇ、えぇ! 何でも買ってあげるわ! ゲームだったわね! 今すぐ買いに行きましょうか!? いえ、いっそお店ごと全部買いましょうか!!?」

「か、母さん! 落ち着いてぇ!」

「リニス~助けて~。助けて、リニス~」

 

こんな騒動があったとか無かったとか。

 




と言うわけで、第5話でした。

投稿方針ですが、今後はこのようにあまり長くならないようにしていこうかと思います。


こんな先行きの見えない私と小説ですが、どうかよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。