魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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副題
『事件の後始末―高町家編』


無印編最終話 本当の私の全力全開―2

 

 なのはは家に帰り、リンディと共に両親に事情を話していた。

 

 少し、大人の話があるからと、今は自室のベッドの上で物思いにふけっている。

 

 

 それは、当然ながらフェイトの事だった。

 

 どうすれば勝てるのか。それは今日全力のその上、更に全力、まさに全力全開のフェイトを見てより深く考えなくてはならない命題と化した。

 

 あそこまでの大魔法、アレにはさすがに移動砲台と称されたなのはでも耐えきれるとは到底思えなかった。

 

 

 ならば必要なことはアレを撃たせない。フェイトに大魔法を使わせないようにすることだ。

 

〈マスター。決戦の日まであと1週間あります。それまでに色々対策を練りましょう〉

「うん。そうだね」

 

 レイジングハートの言葉に素直に頷く。

 

 たった一週間であのフェイトに対して何ができるとは思えないが、やると決めたのだ。後悔しないように、フェイトへの未練を打ち切る為に。

 

 

 そうして色々考えていると、部屋の扉を叩く音が聞こえた。

 

「なのは? 起きてる?」

 

 部屋の外から声をかけてくるのは姉の美由紀だった。

 

「どうしたの? お姉ちゃん」

「お父さんたちが呼んでるから、下に来てくれない?」

「わかった~」

「それと、ユーノも連れてきて」

 

 美由紀はそれだけ言うと顔も見せず下に降りて行った。

 

――いったい、なんなのだろうか?

 

 なぜ呼ばれたのかわからず、首を傾げながら眠りかけていたユーノを引き連れ下に降りると、そこには何とも言えない剣呑な雰囲気であった。

 

 

 その場に居るヒトを確認すると、父、士郎はいつもの優しい顔では無く訓練で見せるような少し険しい顔をしている。母、桃子を見るといつも通りの母のように見えるが、なにか得体のしれない悪寒を感じる。

 兄、恭也はその不機嫌さを、敵意を隠そうとせずリンディを睨んでおり、姉の美由紀もどこかリンディを憎んですらいる様子が見える。

 

 そして睨まれているリンディの頬はすこし赤く染まっているようにも見えた。

 

「なのは、こっちに来なさい」

 

 子供心に恐怖を覚えながら士郎に呼ばれ近寄る。

 

「なのは、話は全部聞いた」

 

――はて、全部聞いたとは何のことだろうか。

 

 そう、とぼけてみるがなのはもうすうす気づいていた。なのはは人の顔色を伺うのが得意だ。それは幼い頃のある理由で身についてしまった能力なのだが、そんな察しの良いなのはは、リンディの顔を見た時になぜ自分が、自分とユーノが呼ばれたかあらかた見当は付いていた。

 

 

「全部って、全部?」

「あぁ、全部だ。なのはが最近隠している事も、リンディさんの下で何をしてきたかも、全部聞いた」

 

――あぁ、やはりそうか。

 

 士郎のその言葉を聞いてなのはの中に諦めの感情が浮かぶ。

 

「少し、我慢しなさい」

 

 士郎のその言葉が聞こえるのとほぼ同時に、甲高い破裂音が家に響き、なのはの頬に痛みが走った。

 

「なぜ、ぶたれたか、わかるね」

「……心配を、かけさせた、から……」

 

 なのはの答えを聞いて士郎は初めて仏頂面をやめ、少し悲しそうな表情へと変わる。

 

「そうだ。じゃぁ、言わなきゃいけない事は、わかるね」

「……ごめん、なさい」

 

 心配かけさせてごめんなさい。

 

 なのはが謝るのと同時に、美由紀がなのはに抱きつき、桃子がしゃがみ頭を撫でてくる。

 

「なのはのバカバカッ、もっと私たちを頼ってよ。私達に魔法は使えないかもしれないけど、お手伝い位はできるんだからっ!」

 

 そう言う美由紀は泣いていた。

 

「なのは、良く頑張ったわね。それと、ごめんなさい。頼りない家族で、相談もできない私達で」

 

 そう言いながら、桃子は頭を撫でてきた。その手は、少し震えている。

 

「わ、私は……」

 

 なのはは何か言いたかった。違うのだと、そうじゃないのだと、声を荒げて言いたかった。しかし、なのはの瞳からも雫がこぼれ、その想いは言葉にならなかった。

 

「僕が!」

 

 だが、なのはを代弁してくれる人は居た。いや、なのはを庇ってくれたのかもしれない。

 

「僕が全部悪いんです! 魔法の事はこの世界の人には秘密にしなきゃいけないって! 僕が言って! だから!」

 

 そう叫ぶユーノは、フェレットのまま、自分の姿など気にせずなのはを擁護する。

 

「ユーノ、いやユーノくんと呼んだ方が良いかな」

 

 士郎はそんなユーノに、落ち着いた声で喋りかける。

 

「僕達は、君も、叱らなきゃいけない」

「え?」

「もっと大人を頼りなさい。事情は全て聞いた。君が君の生まれ故郷ではもう大人として扱われている事を、管理局、だったか。その組織に通報してもあしらわれた事。だがね、1人ですべて解決しようと言うのは思い上がりだ。もっと大人を頼りなさい。自分が大人だと言うなら、見栄を張らず、もっと周りを頼りなさい」

 

 静かに、淡々と、しかし力強く士郎はユーノを叱る。

 

 

「……はい。すみません、でした……」

 

 

 そうしてユーノは謝った。泣きながら謝った。何時振りの涙だろうか。ここ数年はとんと涙を流すと言う事をしていない気がする。

 それほど、ユーノが育った環境と言うのは特殊であった。特殊すぎたのだ。

 

 

「なのはさん、ユーノくん」

 

 

 その空気をなるべく壊さぬよう、リンディは静かに声をかけた。

 

「もう一度、謝らせてください。あなた達を危険な目に合わせて、すみませんでした」

 

 そういってリンディは深く頭を下げた。

 

「リンディさん、でもリンディさんは私の我が儘を聞いてくれただけで……」

「そ、そうですよ!」

「それでも、私はもしもの保険を、あなた達自身に書いて貰いました。いえ、書かせました」

「? ……あ」

 

 そう言われ、なのははようやく思い出す。自分が今日出撃する前に書いた紙の事を。

 

「い、しょ……?」

「はい。ユーノくんにも書いて貰いましたが、管理局には魔導師を臨時で運用するために必要な制度の一つに、『遺書を書かせる』という物があります」

 

 そこまで言うとリンディは少し区切り、再度話し出す。

 

「これは、つまり端的に言ってしまえば責任逃れのための制度です。本人がこちらの忠告を聞かず危険行為に走ったと証明するための。なのはさんは言いましたね『ズルいですね』と。確かにズルいです。ズルい大人です。私を許さなくていいです。ですが、私は最後の私の責任として、ご家族に全て話しました。ご家族には、家族であるあなたに起こった事を知る権利があり、私には話す義務があります」

 

 

 リンディはそこまで話すと、すこし息をつき、自分を落ち着かせる。

 

 

「多分、一週間後のなのはさんとの約束を果たしたら、私たちは二度と会うことは無いでしょう。ですからなのはさん、最後に一言だけいいですか?」

「……はい」

 

 なのはが頷くのを確認するとリンディはなのはに近づき、なのはを抱きしめる。

 

「なのはさん、生きていてくれて、ありがとう。私の息子を、救ってくれて、ありがとう。この町を救ってくれて、ありがとう。ありが、とうござい、ます」

 

 30を軽く過ぎた女性が、10も満たない少女に抱きつき、泣きながら感謝を述べる。それはあまりに、滑稽な光景だった。

 

 だが、それを笑える者はこの場には居ない。

 

 リンディのその言葉で、リンディがどれだけ自分を憎んでいるのかわかってしまったから。少女を、息子を自ら死地に追いやらなければならない辛さと、組織の一員として義務を果たさなければならない責任。それらすべてを背負い。そして、『管理局員』として判断を下したリンディ。

 

「リンディ、さん」

 

 なのははそんなリンディに何も言えず、ただしがみつく女性の背中を撫でていた。

 

 

 

 

 

「お騒がせして、すみませんでした」

 

 あれからしばらくし、落ち着いたリンディは直ぐに帰ることになった。

 

「もう夜も遅いし、家に泊って行けば……」

 

 桃子はそう言うが、リンディはその言葉に首を横に振る。

 

「すみません。これでも、忙しい立場なんです。被害が出てしまったと予想される地域への支援や、この世界の行政への根回し、それと、もう1人、謝らなければならない子がいますから」

「そう、ですよね」

「はい。ですから、今日はこれで失礼します」

 

 そう言って立ち去ろうとするリンディを桃子が呼び止める。

 

「リンディさん」

「はい?」

「また、いらしてください。今度は母親同士、お喋りしましょう」

「……ふふっ。はい。きっと」

 

 桃子の言葉にリンディは少し微笑み、その場を後にした。

 

 

 

**

 

 

 

「さて、なのはもっと色々話をしてほしいが、今日はもう遅いから寝よう」

「うん。それじゃぁお父さん、お母さん。お姉ちゃんにお兄ちゃん。おやすみなさい」

「あぁ、お休み」

「おやすみなさい、なのは」

「おやすみ、なのは」

「おやすみ」

 

 

 なのはは、やっと、暖かい家族を手に入れられた。そんな気すら、していた。

 

 

****

 

 

 翌日、高町家では、なのはの大演説会が開催されていた。

 

 

 なのはが関わった魔法の話を、家族全員で聞く。ただそれだけの話なのだが。

 

 そのなかで、フェイトの話になると、なのははひたすらフェイトの事をしゃべった。

 

 それはもう、まるで恋する乙女の様に、フェイトについて知っている事を話した。

 

 そうして、話し終える頃には朝食の後から始めたはずが、すでに昼食の時間になっていた。そのまま、軽く昼食をとる事になり、みなが食卓に着いたころ、士郎がなのはに喋りかけた。

 

「なのは、その、フェイトちゃんとは、もう一度戦うんだよね」

「うん。一週間後、リンディさん達が戦っても被害の出ない場所を作ってくれるから、そこで」

「なるほどなぁ」

 

 なのはの答えを聞くと、士郎はなにか悩み、暫くすると言いにくいのか歯切れ悪く喋れ始めた。

 

「なぁ、なのは。その、父さんたちが、あー、武道をしているのは、知ってるよな」

「? うん。毎朝お稽古してるの見てるよ?」

「あー、で、だな。その魔法に使えるかはわからないが、そのー。なのはも、やって見るか?」

「え?」

「なっ!」

「ちょっと!!」

 

 士郎の言葉になのはは首を傾げ、美由紀と恭也は何を言っているのか信じられないと言う様に声を荒げ、座っていた椅子から急に立ち上がる。

 

 

「何言ってるのよお父さん!」

「そうだ! なのはにはまだ早い! いや、なのはには教えないっていう話じゃなかったのか!?」

 

 二人して父である士郎を責める美由紀と恭也。しかし、そんな言葉を受け流し、士郎は静かに言った。

 

「確かにその予定だったが、なのはが戦いの世界に身を置きたいと言うなら話は別だ。それに、力の意味を知らない子供に持たせられる程、“力”と言うのは甘くない事はお前たちも分かっているだろう」

「……」

「そ、れは……そうだが」

「俺は何も御神流を継げと言っている訳じゃない。ただ、なのははリンディさんが頼りにしてしまう位大きな力を手に入れたんだ。なら、『力を振るう意味』を知っておく必要がある。と、俺は思ったんだが、どうだ? なのは」

 

 士郎のその言葉に美由紀と恭也は反論する事ができなくなり、大人しく席に座る。

 

 そうして話を振られたなのはは一二もなく頷いた。

 

「うん! やる! 頑張る!」

 

 その言葉は珍しく子供らしい返事であったが、それが武道を習う事とは、何とも子供らしくない。いや、ある意味子供らしいかもしれないが。

 

「わかった。じゃぁ、今日の午後から訓練だ。一朝一夕で何とかなる物ではないが、なのはには『戦う事の意味』と『力を振るう意味』を徹底的に叩き込む。ついて来れるか?」

 

 挑発的な笑みを浮かべながら、なのはに聞く士郎。その士郎に対してなのはは、真面目な顔で、大きく頷いた。

 

 





リンディには汚い大人なりに筋を通してもらいました。


彼女は汚いけど悪では無い。そのような役をこの小説ではして貰っています。



次回は明日の0:00です

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