魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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今回はちょっと短いです。

副題
『事件の後始末―クロノ編』


無印編最終話 本当の私の全力全開―4

 地球の衛星軌道上に戦艦『アースラ』は浮かんでいる。

 

 

 第97管理外世界で起きた、ロストロギア災害、通称「ジュエルシード事件」は幕を下ろした。

 

 そんなアースラでは現在後処理に追われており、けが人の治療、報告書の作成。そして何より、被害のあった現地への後処理が多大な忙しさを作っていた。

 関係各所への根回し、事件が起きたのが管理外世界なので、魔法がバレないように情報操作等。その忙しさには、魔法の使えない事務官も、実働要員の局員も分け隔てなく襲われていた。

 

 そして、そんな中アースラ内で2番目の権力を誇るアースラ搭乗執務官であるクロノもまた、忙しさに時間を奪われていた。

 

 

「……ふぅ」

 

 そんなクロノは、書類整理を一段落させ背もたれに体重を預け一息つき、冷めたお茶を飲みつつ、今回の事件をどのようにまとめて報告すれば良いか、を悩んでいた。

 

「クロノく~ん、入るよ~」

 

 そんな折、そう言うや否や別所で仕事をしていたエイミィが部屋にやってくる。

 

「エイミィか、どうした」

「いや、今日の映像の解析とか諸々が終わったから一応報告に、と思って」

「そうか」

 

 エイミィはアースラの通信主任であると同時に、クロノの執務官補佐である。それは、通常時通信士としての仕事が無いときは、基本的にクロノの仕事の手伝いをしている、と言う事であり、今回の用事もクロノに頼まれた物だった。

 

「どんな感じだった」

「とりあえずこれが、資料で、実際に映像見ながらの方がわかりやすいかな」

 

 そう言うとエイミィはクロノに紙束を渡しながら、機械を操作し映像を映し出す。

 

 そこには今日の戦闘、特に途中から現れたフェイトが映し出されていた。

 

 

「ここからフェイトちゃんの詠唱が始まる」

「ふむ、珍しい詠唱だな。魔法の起動キーも言っているようには見えない」

 

 クロノが気になった事は当然フェイトの事であり、フェイトが使った魔法。いや、フェイトがその魔法を使えた事実が気になっていた。

 

「それで、ここで詠唱が完了すると……」

「魔力値が2倍以上、か」

「うん。魔力保有量は詳しい検査ができないからわからないけど、少なくとも次に使う魔法の発揮値は、前回測定したフェイトちゃんじゃぁ、出せない筈だよ」

 

 エイミィがそう言っている間に、映像は『フェイト』が魔法を放っている場面だった。その映像が映った瞬間にエイミィが映像を一時停止する。

 

「ここ、このスフィアの色」

「あぁ、やはりか」

 

 エイミィが指さす箇所を見ながらクロノは得心がいったように頷く。

 

「現場では、見間違い、と思ったんだがな」

 

 そこには、金色と青色の混ざりあったような、マーブル色をした魔力光でできたスフィアがあった。

 

「確か、前回の時の彼女の魔力光は……」

「うん、金色だけ、だったよ」

 

 そう言いながらエイミィは別枠でなのはとフェイトが戦っている映像を映し出し、クロノに見せる。

 

「まさか、魔力光が変わるだなんてな。いったいどういう原理なんだか」

 

 そう、クロノが懸念していた事は、フェイトの強化自体もそうであるが、何より『魔力光の色が変わった』と言う事実を訝しんでいたのである。

 

 魔力光の色と言うのは千差万別で、その本人のリンカーコアが生み出す魔力の波長によって決定される。

 

 同じ色の魔力光が存在しないわけでは無いが、詳しい検査をすると、人間の目には同じ色に見えても微妙に波長が違う事がほとんどであり、その魔力の波長を本人認証に使用するシステムなども開発されている位である。

 

 そして、それは生まれつき決定され、生まれてから死ぬまで魔力光、すなわち魔力の波長のパターンが変わったと言う事例は今まで発見、報告されていなかった。

 

 だから、クロノは気になったのである。フェイトの魔力光の色が変わったと言う目の前で起きてしまっている事実に。

 

 

「魔力発揮値や魔力保有量が変わるのは納得できる。強固な魔力リミッターでも掛けて居ればそれで済む。半分以下の魔力でまともな戦闘ができるか、と言われればNOと言うが……」

 

 そうクロノは二つの映像と、手元の資料を見ながら独り言を呟く。

 

「逆に、急激に魔力が増してもその状態での戦闘訓練を十分に積まなければ、まともな戦闘をこなすことは不可能と言っても良い……。

しかし、リミッターを掛けたり、何らかの方法で魔力量を増やしたとしても、魔力光――魔力の波長パターンは変わらない。二色の魔力光が混ざる事例としては、他者が外部から魔法に直接魔力供給したパターンだが、それは本来の発動者の魔力光の周りに、後から供給された魔力光が纏わり付くように発現する、という研究結果が出ている。

つまり、今回のような、魔法自体の中で色が混ざると言う事は無いはずだ」

 

 独り言を自分が言っていると言う事すら意識せず、クロノの意識は仮説と記憶している事例の海に沈んでいく。

 

「では考えられる仮説としては、リンカーコアが二つある状況。リンカーコアが魔力の波形を形作るなら、二種類のリンカーコアを所持していれば魔力の波形が二種類あってもおかしくは無い。

 しかし、現状リンカーコアの解明はほとんど進んでいない。なぜリンカーコアを持つ者と持たざる者が居るのか。その原因すらつかめていない。わかっているのは、遺伝が関係している言う事だけ……。ならば、僕達が知らないだけで、生まれつきリンカーコアが二つある、奇形児に近い形の存在が居てもおかしくは無い。無い、が……」

 

 そこでクロノの思考はこれからの事へと移り変わる。

 

「この事が発表されたらどうなる。彼女は要注意観察どころか、なんらかの組織に誘拐されモルモットとして扱われてもおかしくは無い」

 

 この世界の全てが優しいわけでは無いことをクロノは知っている。執務官と言う、刑事であり検察官であり、裁判官である彼は自分の仕事で関わらなければならない人間を多く見てきた。それは、善良な市民が冤罪を掛けられていたり、外道を裁くための場だったり。

 年若いながらも、多くの人間をクロノは見てきたのだ。

 

 

「エイミィ、僕は、どうすれば良いかな……」

 

 そう、隣にいるエイミィに弱音を吐くクロノ。

 

 その言葉にエイミィは答えられなかった。管理局員としては、起きた事件は隠さず報告する義務がある。しかし、これが知れ渡ってしまえばフェイトは狙われる事になる。ヒトの口に戸は建てられず、この世に残った情報は必ずどこかから漏れる。絶対の秘密と言うのは無理に近いのだ。

 

 そしてクロノの前なので言わないが、フェイトを狙う相手が犯罪者だけとは限らない。エイミィは、クロノもそうだが執務官、執務官補佐等と言う役職に居ると、心無い管理局員や、管理局勤めの研究者なども見かける事がある。

 たとえ、もし、管理局外にこの事実が漏れなかったとしても、管理局内部で隠すと言う事は不可能に近い。管理局外部はもちろん、内部にすら隠し通す必要があるのなら、その方法は、この事実と仮定、そしてそれに至る可能性のある情報を知っている者を、ごく少数の人間だけに留めるしかない。

 

 それは、この事実を『報告しない』と言う事他ならないのだ。

 

 

 エイミィもその事がわかっているがゆえに、クロノが管理局員の義務と一人の少女の将来の間で板挟みになっている事も分かるがゆえに、何も言えなかった。

 

 

「……」

「……」

 

 

 そうして二人が黙りこみ、暫く時間が経ったとき、クロノに通信が入る。

 

 

「はい。こちらクロノ・ハラオウンです……、って母さ、艦長」

 

 通信をかけてきたのはアースラの艦長、リンディだった。

 

「どうしました」

「今日はお疲れ様でした。クロノ執務官」

「はっ」

 

 リンディの言葉に、敬礼をして答えるクロノ。その様子を見ながら、リンディは言葉を続ける。

 

「クロノ執務官、報告書の進捗はどうですか?」

「そ、それは、その……」

 

 リンディにそう言われクロノは言いよどむ。先ほど考えていた事も理由ではあるが、何よりそれほど進んでいる訳では無いからだ。

 

「進んでいないようですね」

「いえ、その……はい。申し訳ありません」

 

 謝るクロノにリンディは微笑む。

 

「いえ、今回に限ってはちょうどよかったです。前回の戦闘の報告書、及び映像を含めた参考資料から『フェイト・テスタロッサに関連する部分を消去』してください」

「なっ!?」

 

 リンディの口から放たれた言葉にクロノは驚愕する。

 

「で、ですが、それは!」

「はい。言いたい事はわかっています、クロノ執務官。ですが、これはテスタロッサさん、母親の方ですが、彼女から我々が払う報酬として提案され、私はそれを承諾しました。

それに、クロノ執務官もどう報告すべきか悩んでいたのでは?」

「それは……」

 

 リンディの質問にクロノは言葉を詰まらせる。

 

「ですから今回の事は我々、アースラ乗組員での厳重機密事項とし、箝口令も引きます。良いですね、これは艦長命令です」

「……わかりました」

 

 クロノは渋々と言った体で了承する。しかし、ある意味助かったと言えば助かった。どのように報告すれば良いのかも悩んでいたし、ある意味これはリンディがすべての責任を取ってくれると言ったような物なのだ。

 

「ですのでクロノ執務官、あなたは引き続き報告書の作成と、資料の編集、添削をお願いします」

「はっ! 承りました!」

 

 

 

 艦長の指令に綺麗な敬礼を返し、アースラ内での通信は終わった。

 

 

 




と言うわけでクロノくんの疑問と、レヴィの詰めの甘さが招く危険の説明でした。


一応プレシアが潰しておいてくれた、と言う形になります。
この辺がプレシアがレヴィを子供と判断する理由の一つですね。



次回、最終話の最後にして無印編の最後は明日の0:00となります。

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