魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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遂に来ました無印編ホントの最終回。
今回は長いです。

副題は
『幸せになるための戦い』

レヴィがフェイトの為に起こしたかった本当の闘いです。



無印編最終話 本当の私の全力全開―5

 ジュエルシード21個を封印し終えてからちょうど一週間。戦艦アースラのブリッジにはいつもより人が集まっていた。

 

 その場に居るのは、まずアースラ乗組員、艦長であるリンディ・ハラオウン提督、執務官及び本日の解説役としてクロノ・ハラオウン、映像を撮るためのサーチャーを管理するオペレーター達とそれを統率するエイミィ・リミエッタ。

 それ以外のアースラ乗組員は別室にて映される映像を見る為大画面のモニターのある部屋に集まっている。

 

 

 それ以外で、ブリッジに居るのはまずフェイトの家族である、プレシア、アリシア、アルフにリニスの4人。

 

 そして、なのはの家族である、士郎、桃子、恭也に美由紀の4人とユーノ。

 

 

 それぞれが、モニターにすでに映っている二人の少女を真剣な表情で見つめていた。

 

 

 

 なぜ、この人数がアースラに集まっているのか。それは状況を見ればわかるだろうが、今日、この時がなのはとフェイトの再戦の日であり、家族にもそれを見せようと言うリンディの計らいだった。

 

 すでに高町家には事情の説明をしてあるし、テスタロッサ家はもともとミッドチルダの人間なので、見せても特に問題は無い、と判断したためである。

 

 

 高町家とテスタロッサ家が出会った時、お互いが頭を下げ合うと言う場面もあったが、重要ではないので割愛する。

 

 

 

 

 そうして、家族たちが見守る中、映像の方では少しだけ、動きがあった。

 

 

 

「やっとだね。フェイトちゃん」

 

 今まで見つめ合い、一言も話さなかった二人だが、まずはなのはが口を開く。

 

「フェイトちゃんは、本気にならなくて、良いの?」

「?」

 

 なのはの言っている意味が良くわからず、首を傾げるフェイト。そのフェイトになのははさらに説明する。

 

「赤と青のオッドアイになって、魔力が爆発的に増える……、一週間前のあの時みたいな状態に。私は、なって欲しい。例えそれで、私の勝ち目が減っても。私は、本気のフェイトちゃんと。全力のフェイトちゃんと全力でぶつかり合いたいから」

 

 そう言って真剣な瞳でフェイトを見つめるなのは。そのなのはの目線に、フェイトはつい、目をそらしてしまう。

 

――あれは、“私”じゃ、ないから……。

 

 『最強モード』中の『フェイト』は、フェイトであってフェイトでは無い。レヴィであってレヴィでは無い。フェイトであり、レヴィでもある。そんな曖昧な精神状態を魔法で無理やり発現させ、固定させる。それが『最強モード』だ。

 

 だから、フェイトは今日はそれになるつもりは無かったし、レヴィの手助けも貰うつもりは無かった。

 

『どうする、フェイト? なのはは、ああ言ってるけど』

 

 答えはわかりきっているが、一応と言った体で聞いてくるレヴィ。フェイトはそれにきっぱりと自分の意志を告げる。

 

(要らないよ。私はもう、ちゃんと自分の足で立つって決めたから)

『……うん。それで良いんだ。それでこそ、フェイトだよ』

 

 フェイトの言葉に、嬉しさと一抹の寂しさを感じながらレヴィは言う。

 

『ボクは、見てるだけだから。戦闘が始まったら、声もかけないよ』

(うん)

 

 常に共に居た。共に居なければならなかったレヴィとの決別。それは、別れでは無く、巣立ちの決意であった。

 

『頑張って、フェイト』

 

 それだけ言うと、レヴィの意識は引っ込む。意識を閉ざしたわけでは無く、起きている事は感じられるが、それも随分と小さく感じられるだけになった。

 

 

 それを確認すると、フェイトは大きく深呼吸して、なのはの瞳を見つめる。

 

「アレは、理由があって今日はできない」

「……」

「その理由は、後で詳しく話すけど。だけど、全力を出さない訳じゃない」

 

 フェイトの言い分を、なのはは黙って聞く。

 

「私は、私だけの全力で。誰の手も借りず。私の意思で、あなたを倒す」

 

 フェイトの力強い言葉を聞くと、なのはは一度目を閉じる。

 

 数度深呼吸すると、再度目を開き言った。

 

「フェイトちゃんが本気にならないなら、私、勝っちゃうよ?」

「負けない。あなた程度に、私は負けない」

 

 売り言葉に、買い言葉。

 

 頭に血が上るほどの激情を感じているわけでは無いが、お互いの言葉でお互いの心に点火し、エンジンの回転数を上げていく。

 

「私が、勝つよ」

「私が勝つ」

 

 

 そうして、お互いの心の火が燃え上がり、その解放を今か今かと待ち望み始めた瞬間。

 

 

 二人は、どちらともなく飛び上がった。

 

 

「ディバインシューター」

〈Divine Shooter〉

 

 なのはは、小手調べに魔法の基本の一つである、射撃魔法、ディバインシューターを放つ。

 

「フォトンランサー」

〈Photon Lancer〉

 

 それに対抗してか、フェイトも自身の基礎魔法であるフォトンランサーを放つ。

 

 直射型のフォトンランサーに対し、ディバインシューターは誘導型。

 

 その結果、ディバインシューターはフォトンランサーを巧みに避け、フェイトに接近。フォトンランサーもなのはに接近するが、なのははそれを移動魔法も使わず、軽々と避ける。

 

 対して、フェイトもディバインシューターを避けるために動き始めるが、ディバインシューターはなのはの優れた操作技術の賜物か、フェイトを執拗に追いかける。

 

 

 それを確認して、フェイトは高速機動へと入る。ディバインシューターを置いていく速度での起動。

 

 誘導制御魔法は誰が制御するかと言うと、当然使用者である魔導師がする。なので、誘導制御魔法の避け方は、その魔法の誘導性以上の回避をするか、それか魔法自体の速度では追いつけない速度で動けばよい。

 

 なので、フェイトは後者を選択した。

 

 

 それを見たなのはも、もはや牽制のディバインシューターは意味が無いと思い、破棄。

 自分に加速魔法を使用し、フェイトを追いかける。

 

 

 

 そこから始まったのは、追いかけっこだった。

 

 

 こう表記すると可愛らしく見えるが、実際の速度は約80km/h。高速移動としては遅い方だが、一般人からしてみれば、高速道路の車と同じか少し遅い程度。相当早い。

 

 

 アースラに居る観戦者も、魔法戦技に慣れていない事務員なんかは、サーチャーが追えているから何とか確認できるだけで、自身の肉眼では認識できないだろうと思うほど。

 

 高町家は、皆一般人であるが、母桃子以外は、武術を嗜んでいる事もあり、普通の一般人よりは動体視力が良い。それに加え、サーチャーは追えているので、まだ苦ではない。

 

 

 そうして始まった追いかけっこは、唐突に終わりを見せる。

 

 フェイトが牽制で放ったフォトンランサーを避ける為に、気をそらしたなのはの視界から、フェイトが消えた。

 

 そして、フェイトにとっては、その一瞬で良かった。

 

〈Blitz Action〉

 

 バルディッシュのその声を置き去りにし、フェイトが消える。

 

 観戦者の中には驚く者も数人いたが、なのははそれに驚かない。

 

 今までのフェイトとの戦い、その全てで使われた魔法だからだ。

 

〈Protection〉

 

 レイジングハートの言葉と共に、即座に自身の後ろに防御魔法が展開される。そして展開した防御魔法に、サイズフォームへと変形したバルディッシュの魔力刃が当たり、火花を散らしていた。

 

 

 その光景をお互いに確認し、フェイトは笑みを浮かべる。

 

「ついて、これる?」

 

 フェイトの不敵な笑みと共に放たれた言葉に、なのはも同じ不敵な笑みを浮かべ答える。

 

「当然!!」

〈Barrier Burst〉

 

 レイジングハートのその声と同時になのはの展開していた防御魔法が破裂し、煙幕を張った。

 

 破裂の衝撃は、先ほどと同じブリッツアクションで躱したフェイトだが、煙幕に隠れなのはの姿が見えない。

 

 しかし、フェイトはその先を予想していた。

 

――あの子なら……。

 

 意趣返しに来る、と。

 

 だから、即座に後ろへ振り向きつつ、バルディッシュを横にし、突き出した。

 

 

ギィン!

 

 と甲高い音が響く。フェイトの後ろへ回り込んだなのはは、レイジングハートを『打撃武器』として使用してきたのだ。

 

 

 なのははあの後、実家の武術を学び始めた。それは未だ綺麗な素振りをどれだけ維持できるか、と言う基礎の基礎の部分と、力を持つものの心構えと言う、精神的な部分でしかないが、それでもなのはは『レイジングハート程度の長さの武器を振り回す基礎』を学んでいた。

 

 地上で行う事が前提の地球の武術と、空中で行うことが前提の空戦魔導師の近接格闘術では、勝手が違うはずなのだが、――当然一週間の間で訓練したとはいえ――そこを感覚でとらえ、判断し、一週間で合わせてくるのがなのはの恐ろしい部分でもある。

 

 

 そうして始まったのは、単純な追いかけっこでは無く、相手から離れ、近づき、武器を振るう。時には、射撃魔法を牽制として放つ。

 

 それは、近づき接触したと思ったら離れ、しかし離れ過ぎず。そんなつかず離れずを維持していた。

 

 

 一合、二合、三合と二人はぶつかり合い離れあう。

 

 

 その様は、クロノにこのまま空戦魔導師の教本ビデオにしてよいのではと思わせる程の、戦いぶりだった。

 

 

 

 そんな戦いぶりを披露している二人が考えている事は一緒だった。

 

――あの子に……

――フェイトちゃんに……

 

――『暇を与えちゃいけない!』

 

 

 なのはは本来砲撃魔導師であり、その本質は足を止めての砲撃魔法による撃ちあいであるが、魔法の出力で劣るフェイトはなのはの舞台にさせてしまえば、勝ち目が薄くなる。なので、こうした高速機動戦であり、高速接近戦を挑んだはずだが、相手は、なのははそれを予想していたかのように、近接戦闘の技術を磨いてきた。

 

 それゆえ、膠着状態が続いているが、しかし、この膠着状態が続けば、勝ちに近づくのはなのはではなく、フェイトだ。

 

 フェイトはバリアジャケットの防御力を捨ててでも機動力を確保した、ミッドチルダ式では珍しい高速近接魔導師だが、なのはは逆に機動力が無く、堅牢な防御力と尋常ならざる火力を持って相手を圧倒するミッドチルダ式の華である砲撃魔導師だ。

 それはつまり、フェイトより機動力では劣ると言う事であり、フェイトと同等の速度を出すためには、魔力で無理やり増幅してやるしかない、と言う事だ。

 

 つまりなのはとフェイトでは効率が違い、さらに同じ程度の魔力量の二人が、このまま同じ戦いをしていたら効率の良いフェイトに軍配が上がると言う事である。

 

 

 しかしそんなことはなのはも百も承知であった。

 

 フェイトはなのはに砲撃魔法のチャージ時間を稼がせないための、高速機動戦だが、なのはも思惑としては一緒だった。

 

 それは、今まで見てきたフェイトの大魔法を警戒しての事だった。

 

 現在の状況が続けば、なのはも砲撃魔法を撃てないが、それはフェイトも牽制に使用しているフォトンランサー程度の魔法しか使えないと言う事だ。

 

 

 あとは、こちらの戦術の用意が済めば、罠にはめそのまま火力で押し切る。ただそれだけで良い。

 

 そうしてなのはは、フェイトの攻撃をさばき、避けながらあるモノを設置していく。

 

 

 唯一フェイトとの戦いで成果を出した戦術の発展系、クロノに無茶苦茶な使い方だと呆れられた魔法。

 

 

「(レイジングハート、今の状況は?)」

 

 念話でレイジングハートに罠の経過を確認する。その答えは直ぐに返ってきた。

 

〈(現在、19個展開中。今までの訓練から予測するマスターの限界まで残り13です。)〉

「(19個か、じゃぁ、25個設置したら教えて!)」

〈(了解しました、マスター)〉

 

 

 念話で作戦の完成を予想しながら、なのはは移動魔法とレイジングハートによる打撃を繰り返し、フェイトを誘導する。

 

 

 

 そうしてお互いが、牽制と打撃を繰り返す高速機動戦闘をしながら、なのはの『罠』は着々と進んでいく。

 

 

〈(マスター。25個、設置完了しました)〉

「(よし。行くよレイジングハート!)」

〈(Yes,Master)〉

 

 

 レイジングハートに作戦の発動を知らせると同時に、打って出るなのは。

 

 機動力を確保するための移動魔法に、さらなら魔力を注ぎ込み、今までより一段階はやい速度でフェイトに突撃する(・・・・)

 

 

「なっ!?」

 

 

 唐突な突進に驚き、大きく避けるフェイト。しかし、なのははそんなフェイトを気にせず、そのまま直進しフェイトから大きく離れる。

 

 

――しまった!

 

 

 急な展開で一歩遅れたが、フェイトも加速しなのはを追う。

 

 

 そうして、移動するなのはは唐突に振り返り叫ぶ。

 

 

「かかったね、フェイトちゃん! そこはもう、私の『檻』の中だよ!」

〈Divine Cage〉

 

 

 なのはの叫びと共に、レイジングハートが魔法を起動する。

 

 それは前回戦った時に使われた魔法、そしてその時罠にはまった時と全く同じ状況だった。

 

 

 発動した魔法はディバインケージ。隠蔽魔法をかけたスフィアを設置し、その中央に対象をおびき寄せ、四方八方から同時に射撃する魔法。それは、“罠”として使うために気付かれにくさに特化しているが、フェイトの“奥の手”と似たような魔法だった。

 

 前回はそれに嵌められ、冷や汗をかいた。しかも今回は前回の約3倍近いシューターが形成され、こっちに迫ってくる。

 

 

 しかし、フェイトはニヤリと顔に笑みを浮かべると、さらに加速した(・・・・・・・)

 

 

――予想は、していた!

 

 

 そう、予想はしていた。高速機動戦に入った時から、なのはが自身の機動力を削ぐためにこの魔法を使うであろう事は。なぜなら一度見ているのだ。ならば予想できない筈がない。

 

――予想より、仕掛けるのが早かった。けど!

 

 なのはがフェイトの全力を想定して訓練を積み、戦術を考えていたように、フェイトもまた、なのはの成長速度を予想し、戦術を組み込んできた。

 

 そのフェイトにとって、今のなのははもっとディバインケージのスフィアを増やせると予想していた。しかし、それよりも早くなのはが仕掛けてきたため先ほど驚いたのだ。

 

 

 

――わかっていれば、対処はできる!

 

 

 そう思いながらフェイトは、加速し、防御魔法を展開する。

 

〈Defenser〉

 

 バルディッシュの展開した防御魔法も前回と同じ。

 

 前回より隙間が狭く、そして前回と同じ魔法であるならば、貫通属性も組み込んでいるだろう。

 

 しかし、今回も前回と同じ。少しだけ時間が稼げればいいのだ。

 

 

 展開したディフェンサーにディバインケージの弾が当たる。すると、予想通りそれはディフェンサーを削り始めるが、しかし、破壊される前に潜り抜ける。

 

 そこには、当然

 

「バスター!」

 

 威力と射程は落ちるが、溜めを極限まで減らしたなのはのショートバスターが射出されていた。

 

 

 

――それもまた、予想通り!

〈Defenser〉

 

 そしてフェイトは二度ディフェンサーを発動する。

 

 防御魔法とは言え、フェイトは防御魔法が苦手で、ディフェンサーも最低限の防御力しか持っていない。

 

 しかし、一瞬、ほんの一瞬の間をくれれば良かった。

 

 

 そうしてフェイトは加速したままショートバスターと衝突する。

 

 

 ディフェンサーとショートバスターがせめぎ合い、フェイトの勢いが削がれる。しかし、それに逆らわず、追突する勢いをそのまま、『方向だけ』ずらした。

 

 

 それによって起こる現象は、フェイトの体は縦に回転しながら、上前方に、跳んだ(・・・)

 

 

「うそっ!?」

 

 

 それはさすがになのはも予想しておらず、まさか避けるのではなくあえて砲撃魔法に突っ込んでくるとは思わなかった。

 

 

 そして、その驚きは一瞬の油断となり、フェイトに渾身の一撃を放たせてしまった。

 

 

〈Scythe Form〉

 

 フェイトは縦に回転する体を押さえつけず、それどころか自分でもその勢いを増すように飛行し、その間にバルディッシュをサイズフォームへと変形させ、遠心力を乗せた大上段の一撃をなのはに向けて振り下ろした。

 

 

〈Protection〉

 

 

 とっさにレイジングハートが防御魔法を張るが、遠心力と慣性ののった一撃は従来のそれよりはるかに威力が高く。

 

 

「っがぁっ!」

 

 

 ガラスが割れるような甲高い音と共にプロテクションは割れ、フェイトの一撃がなのはに直撃する。

 

 

 

 戦闘が始まり、お互いが受けた初めてのダメージ。その先制はフェイトがもぎ取った。

 

 

 

〈マスター、しっかりしてください!〉

 

 

 大上段の振り下ろしの衝撃を殺しきれず、落ちるなのはをレイジングハートは心配し叫ぶ。

 

「だい、じょうぶ。だ、よ!」

 

 

 なのはは、魔力ダメージとは言え大きなダメージを受けた鈍い痛みと、バルディッシュを叩きつけられた衝撃に動きを遅くする体を、その不屈の心で制し活を入れる。

 

 

 

 そして図らずとも、お互いの立ち位置に上下関係ができてしまったなのはは、フェイトを見上げながら言う。

 

 

「やっぱり、フェイトちゃんは強いね!」

 

 

 フェイトの斬撃によって切り裂かれたバリアジャケットを修復しながら、なのはは笑みを浮かべる。その表情には強者と戦える喜びと、それを打ち倒す為の野獣の牙が見え隠れしていた。

 

 

 そんななのはと対照的に、フェイトは冷たい表情でなのはを見降ろす。

 

「あなた如きじゃ、私は倒せない」

 

 

 その視線は、今の立ち位置こそがお互いの実力の縮図であるのだと、暗に語っていた。

 

 

 

 その表情を見てなのはの心の炎は沈下するのではなくさらに燃え上がる。今までだったらあまりの実力差に呆然としただろう。しかし、そんな『弱いなのは』はもう居ない。

 今は、あの時とは違う。確固たる意志を持ってフェイトを倒す。そう覚悟した『不屈の魔導師』がそこにいた。

 

 

「だったら、その余裕の態度、取れないようにしてあげる!」

〈Divine Buster〉

 

 その言葉と共に放たれるディバインバスター。

 

 しかし、その砲撃はフェイトにたやすく避けられてしまう。フェイトはその勢いのまま、なのはの後ろへ回り込む。

 

 

 フェイトの基本戦闘パターン。それはなのはもわかりきっていた。故に今度は受ける事はせず、あえて前に動く。

 

〈Protection〉

「え? なぁっ!?」

 

 だが、そうしたなのはの耳に、レイジングハートが防御魔法を展開した声が聞こえ、それとほぼ同時に背中に鋭い痛みが走る。

 

 

 その痛みの正体は、後ろに回り込んだフェイトが撃った魔法、サンダーバレットである。

 

 サンダーバレットはフォトンランサーと同じ直射魔法に分類されるが、性質はだいぶ異なり、その特色は『防御貫通』に有ると言える。防御魔法や、バリアジャケットを含めた防御系魔法を貫通、破壊するための効果が強く付与され、それと同時に強いスタンも相手に与える。

 それゆえ、連射性はなく単発でしか放てず、威力もあるとは言えないが、その強力な効果で、フェイトが“奥の手”を決める為に使う魔法の一つでもある。

 

 

 その痛みと体を走る痺れに、まともな飛行ができないと判断したなのはは、移動を諦めフェイトに向き直り、反撃の一撃を放とうとした。

 

「ディバインッ―――――っ!?」

 

 しかしそれは叶わない。フェイトがチャンスを逃すわけはないのだから。

 

「バインド!」

 

 前回戦った時も受けたバインド。ライトニングバインドでなのはの両手が固定されている。

 

 しかし、前回受けたと言う事はレイジングハートはその魔導式を解析しており、なのははバインドブレイクを練習していた。

 

――たった、2個なら!

 

 さっそくなのははバインドブレイクを仕掛けるために魔導式へと介入する。練習の甲斐もあり、両腕を拘束する程度なら数十秒で解ける筈だった。

 

 しかし、フェイトはそれを許さない。

 

〈Lightning Bind〉

 

 さらに、重ね掛けされるバインド。それは、なのはの体を、足を、頭を。至る所を拘束していった。

 

 そしてライトニングバインドの特性は、接触面からのスタンが特徴であり、なのはは各所から与えられる微弱な痺れと、数を増したバインドに苦戦していた。

 

 

――はやく、解かないと!

 

 

 前回はバインドに絡め取られ、その間にサンダーレイジを喰らい負けた。今回も同じ轍を踏むわけにはいかない。

 

 

 しかし、そんななのはの目の前では、恐ろしい光景が始まっていた。

 

 

「アルカス・クルタス・エイギアス」

 

 それはフェイトがバルディッシュをグレイブフォーム、大魔法を発動するための高出力形態に変形させ、頭上へ掲げている姿だった。

 フェイトはその体勢で魔法の発動キーを唱える。

 

「疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

〈Photon Lancer Phalanx Shift〉

 

 そうしてフェイトの両翼に多数のスフィアが形成される。

 

 その数、約40。

 本来フェイトがファランクスシフトで形成できるスフィアは38基が限界だった。普通の対魔導士戦であれば、そこまでの数の一斉掃射があれば十分だった。しかし、相手はなのは。その耐久力もさることながら、気絶しない限り立ち上がるその精神力を憂慮し、フェイトは限界を超えた。

 

 

「っぅ!」

〈頑張ってください、サー〉

 

 辛そうに顔をゆがめるフェイトを励ますバルディッシュ。

 

 ファランクスの限界を超えたこともそうだが、すでに今までの戦闘でフェイトの魔力は相当消耗していた。

 

 なのはとの長時間の高速機動戦も、フェイト有利に進んだとはいえ、なのはの空間制御能力の前に、想定以上に魔力を使わされていたし、なのはの張った罠を打ち破り、ピンチをチャンスに変えるためとはいえ、ディバインケージからのショートバスターのコンボを抜ける為の無茶な機動と、いつも以上の強固な防御魔法で随分と魔力を消費してしまった。

 

「……フォトンランサー・ファランクスシフト」

 

 しかし、フェイトはその全てを超えて、ただなのはを倒すために魔法を使った。奥の手のファランクス、その限界すら―たった2基、されど2基―超えて見せた。

 

 

「ぁあ……ぁぁああぁぁぁっああああぁっ!」

 

 

 フェイトの魔法が完成した事を感じ取りなのはが吼える。

 

 それは、少女が叫ぶにはあまりに雄々しく、あまりに野獣的であった。

 

 

 しかし、その叫びで精神を持ち直したのか、一つずつバインドブレイクを完遂させて行くなのは。

 

「っ!! 撃ち砕け、ファイアァァアアアアァァァァツァッアアアアァァッ」

 

 

 そうして足掻くなのはに、絶体絶命だと言うのにいまだ心折れぬ『不屈の魔導師』に、フェイトはバルディッシュを振りおろし、自身の最高の魔法を放った。

 

 

〈Protection〉

 

 レイジングハートの助けもあり、バインドを4つ解除したが、それでもなのはに防御魔法を張れる余裕はなく、直前にレイジングハートはプロテクションを発動する。しかし、それはあまりに頼りなく、そんな頼りない壁に限界を超えた、まさにフェイトの『最高の魔法』となったファランクスが襲い掛かる。

 

 

 

 40基のスフィアから秒間7発、4秒間。計1120発のフォトンランサーは、狙いを誤らずすべてがなのはへと向かって飛ぶ。

 

 

 

 

「っぅ!」

 

 

 その衝撃を、その豪雨の様な怒涛の雷光をなのはは歯を食い縛って耐える。

 

 

――フェイトちゃんにも、もう余裕は無いはず。これを、耐えきればっ!

 

 

 そう、なのはは自身の残り魔力の状況から、あらかたのフェイトの残存魔力を予想していた。

 

 この魔法さえ凌げば、なのはの勝ちは決まったような物。

 

 しかし、レイジングハートが張ったプロテクションはあまりに脆く、ファランクスの掃射が始まってから1秒も持たずに破壊され、辺りは自身に当たり炸裂したフォトンランサーによる煙幕で満たされていた。

 

 

――まだ!? まだなの!?

 

 なのはは、もはや精神力だけで耐えていた。

 

 バインドは破壊できず、もはや破壊することを諦め、ひたすらバリアジャケットに魔力を流し続け、短いはずの4秒間が終わるのを待っていた。

 

 

 それは外から見たらあまりに短く、本人からしたらあまりに長い4秒間だった。

 

 

 

 しかし、それは唐突に終わる。なのはの体に走る衝撃が無くなっていたのだ。

 

――おわ……った?

 

 

 目を開けると辺り一面煙に覆われフェイトの姿すら確認できない。

 

「今の内に!」

 

 そう言いながら残った2つのバインドを解除しようとするなのは。

 

 

 だが、それをフェイトは許さない。

 

 ファランクスの掃射が終わると同時に突出したバルディッシュを中心に、役目を終えたスフィアの魔力を回収し、巨大な魔力刃を形成する。

 

 本来グレイブフォームは魔力刃を形成するように設計されていなく、今回形成されたそれは、バルディッシュを中心に、その周囲を覆う魔力の塊であった。

 

 

 その魔力の塊で、巨大な『雷の槍』を形成するとフェイトは一直線に飛ぶ。

 

 まだ自分でバインドは解除していない。放つ直前の様子から予想すると、なのははバインドをすべて解除できていないと予想できる。

 

 

――今しか、ないんだ!

 

 

 

 ファランクスシフトのスフィアを形成していた魔力を最後まで使い切るコンボ、スパークエンドの派生形。

 

 

〈SparkEnd ThunderSpear〉

 

 

 そしてフェイトは自分ごと、自分すらも槍の一部とし、飛ぶ。

 

 

 ファランクスシフトの影響でできた煙幕を切り裂き、なのはに向かって一直線に。

 

 

「――――っ!?」

 

 唐突に晴れた煙幕の先に見えた光景に声を失うなのは。しかし、今やらなければならない事をとっさに判断し自身の愛機へと指示を出す。

 

 

「レイジングハート!!」

〈Protection〉

 

 ギリギリで防御魔法の展開が間に合い、まさに、雷光の速度で迫ってきたフェイトの槍の切っ先が当たる。

 

 

「ああああぁあぁぁぁっっあああっああああぁぁっ!!!!!」

 

 なりふり構わずなのはは叫ぶ。自身の残りの魔力を全て消費する勢いで防御魔法を強化する。

 

 

「つ、ら、ぬ、けえええええぇぇぇえぇっっぇええええええっぇぇっ!!!!!」

 

 対するフェイトも叫ぶ。自身の残り全ての魔力を推進力として使い、勢いを増す。

 

 

 

 

 なのはの防御魔法とフェイトの突進。お互い譲らぬ鍔迫り合いは、永遠とも思える体感時間の中で、しかし優劣を決める。

 

 ピシッ、と言う小さな音と共になのはの防御魔法にひびが入る。

 

 なのははそれを補うためさらに魔力を供給するが、できた罅はだんだんと防御魔法全体に広がっていく。

 

 

 そして、一呼吸もできぬ瞬間に、防御魔法は甲高い音を立て砕け散る。

 

 

 それが指し示す事は、なのはを守る物が無くなったと言う事であり、フェイトはその勢いのまま、なのはの腹を貫いた(・・・)

 

 

 それでもその勢いは止まらず、なのはを固定していたバインドをその勢いで無理やり破壊し、なのはとフェイトはその勢いのままなのはの後ろのビルに衝突する。

 

 

 それでもフェイトが生み出した加速は衰えず、そのビルを勢いのまま貫き、貫通し、また次のビルへと突き刺さり、その勢いで大きく壁を陥没させる。

 

 

 そうしてようやくその勢いがなくなったその槍に手を添えながらフェイトは『最後の言葉』を呟く。

 

 

 

「スパーク、エンド」

 

 

 

 その言葉と共に、なのはの腹を貫通している魔力刃はその内部に溜めこんだ魔力を爆発させる。

 

 

 

 そのダメージは当然直接バリアジャケットを貫き接触しているなのはが最大限受けてしまうのはもちろんだが、それはなのはとほぼ変わらぬ距離で、魔力刃形成の核となっているバルディッシュを握りしめているフェイトも喰らう。

 

 

「フェ、イト、ちゃん!?」

 

 

 なのはが見つめるフェイトの顔は、確かに笑っていた。

 

 

 心中まがいの一撃だとしても、最後に浮かべていたのは、勝利を確信した笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして魔力は爆発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りに雷光と爆音をまき散らし、なのはを支えていたビルはその衝撃をまともに受け消し飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースラ内に放送されていた映像ですら、その閃光にホワイトアウトする。

 

 

 

 

 

 

 

 その衝撃をまともに受け、なのはとフェイトは気を失っていた。

 

 

 閃光が消え、映像が復活すると、その映像には気を失い墜落する二人が映し出されていた。

 

 

 一応下が海とは言え、それなりの高度から落ちたら普通死ぬ。それは魔導師だろうが一般人だろうが関係なく、二人はかろうじてバリアジャケットが残っている為、衝撃をある程度和らげるだろうが、それでも絶対に安心とは言えない。

 

 

 

 その映像を見てアースラの中は阿鼻叫喚、と言った様子を見せる。

 

 なのはの兄姉である恭也と美由紀はなのはの名を叫び、アリシアもフェイトの名を叫んでいる。

 

 

 リンディは、オペレーターの一人にすぐさま医務室を使用できるように指示を飛ばし、クロノはバリアジャケットを纏い、転移の準備に入っていた。

 

 

 

 しかし、それらすべてが一度中止する。

 

 

 映像の中でフェイトが気を取り戻したのか、飛行魔法を発動させ、未だ気絶しているなのはを抱きかかえ近場のビルが倒壊し足場となっているところにゆっくりと着地したのだ。

 

 

 

 

 

 その当人であるフェイトは、ほとんど無意識だった。燃え尽きたと言っても過言では無い。

 

 

 気を失ったのは本当だが、その瞬間レヴィの声が頭に響き、なんとか意識を取り戻した。

 

 

 フェイトは動かぬ頭で考えていた。

 

 

 それは、レヴィに言われたなのはを嫌う理由だった。

 

 

 ゆっくりと、なのはの顔を眺めながら考える。

 

 

 

 すると、だいぶ頭が働くようになったのかおぼろげながら、自分の心が理解できてきた。

 

 

 

 端的に言うと、フェイトはなのはを羨んでいただけなのだ。

 

 

 一緒に温泉に行く家族と、友達がいて、魔法の才能にあふれ、それでもなお己の道を貫き通すなのはに、その輝かしい、まるで一等星のような光に、“なのは”と言う存在に目を奪われた。

 

 

 そんななのはを、フェイトは無意識に自分と比べていたのだ。自分は親を知らない。父親を知らない。自分は友達を知らない。自分は、本来のプレシアの子供では無い。自分の魔法の才能はなのはに劣り、そして、自分には主体性が無い。

 

 

 

――あぁ、私は彼女が羨ましかったんだ。

 

 

 

 だから、その輝かしい光から目を逸らし、逆に憎んだ。

 

 

 近づこうとするなのはを拒絶した。

 

 そうしないと

 

――そうしないと、自分がみじめだったから。

 

 

 

 そう思うとなぜ自分があそこまでなのはを拒絶していたのか、心にストンとはまる感覚がした。

 

 

――だけど、もう違う。

 

 

 全力のなのはに、全力でぶつかり、そして自分の力だけで勝利を手に入れたフェイト。

 

 もう、人形では無い、フェイト・テスタロッサという人間であることを決めたフェイト。

 

 

 いずれ、なのはには才能の差を見せつけられる時が来るだろう。彼女は才能もあり、努力もする。しかし、今だけは自分はなのはより上なのだと、そんな小さな自尊心で奮い立たせられる。

 

 もう、なのはとの違いを気にしなくても良いのではないか。フェイトはなのはに、自分に、本当の意味で勝つことにより、やっと自分を認められた。

 

 

 そう思えてくると、気絶しているだけのなのはの顔すら、微笑ましく思えてくる。

 

 

「このっ」

 

 

 最後に残った少しの憎しみを込めて、なのはの頬を引っ張る。

 

「……いた、痛いよお姉ちゃん。おねえ、ちゃ……」

 

 

 その痛みで目が覚めたのかなのはが目を開ける。

 

 

「ふぇ、フェイトちゃん! ……っぅ」

 

 フェイトの姿を見て思い出したのか、急に体を起こそうとするが、激痛が走ったのかそれは叶わず横になる。

 

 

「ごめんね」

 

 

 その様子をみて、フェイトは素直に謝る事が出来た。本気の勝負の為とはいえ、相手に魔力の塊を突き刺し、体内で炸裂させるのはやりすぎたと素直に思ったからだ。

 

 

「あー、私、負けちゃったんだね」

 

 フェイトの謝罪で全てを思い出し、察したのかなのははそう呟く。

 

「うん。私が、勝った」

 

 フェイトも取り繕う事などせず、ただ、誇らしげに微笑んだ。

 なのははその微笑みを見て、すこし考えた後、口を開く。

 

「あのね、フェイトちゃん。ありがとう」

「え?」

 

 その言葉はフェイトへの感謝の言葉だった。フェイトはなぜ言われたのかわからず頭を傾げる。

 

「フェイトちゃんは私を心配してくれたんだよね。私が弱いから、このままじゃ危険な目に合うからって」

「それは……」

 

 フェイトはそうではないと言いたかった。先ほど自覚した通り、自分がなのはから目を逸らしたくて、辛く当たっていただと言うのに。

 

「でも、私認めてもらいたかったんだ、フェイトちゃんに。確かに私が日常をないがしろにしてたのは悪かったと思う。それでも、私は私のやりたい事に全力で、一生懸命頑張りたかったんだって。知ってもらいたかった。認めてもらいたかったの」

 

 そんなフェイトを気にせずなのはの語りは続く。

 

「だから、この模擬戦で勝って、『なのはは弱くないんだよ』って知ってもらおうと思ってたんだけど、結局負けちゃった」

「私はっ」

 

 フェイトは違うと言いたかった。私はそんな高尚なものでは無いと言いたかった。

 

「だからフェイトちゃん、ありがとう。こんななのはを心配してくれて。なのはの友達の為に怒ってくれて」

「それは、私がっ」

 

 フェイトが何か言おうとするのを、なのはは首を横に振って止める。

 

「……本当は、フェイトちゃんに勝ってから言いたかったんだけど、我慢できないから言うね」

「?」

「フェイトちゃん。私と、高町なのはと、友達になってください」

 

 なのはの言葉を聞き、フェイトは言葉を失う。

 

「お願いします」

 

 そんなフェイトをよそに置き、なのはは寝たまま言う。頭を下げられない代わりに、その瞳は純真で真摯に、フェイトを笑いながら見つめていた。その笑顔はとても清々しく、澄んでいて、そして温かい笑顔だった。

 

 

「でも、私は」

 

 

 フェイトはそんななのはからつい目線を外してしまう。見てられなかった。自分をぼろぼろにした相手に笑って話しかけられるなのはを。自分を負かした相手と友達になりたいと言う、なのはの“強い”輝きを直視できなかった。

 

「私は、君に、ずっと酷いこと言って、今も、こんなにボロボロにしてっ」

「酷いことは、私を心配してくれただけだし、今回は私から言いだした全力の勝負だったんだから仕方ないよ」

「それでも、私は、君の友達になんて……」

「対等じゃないと、友達になれない」

「?」

「だから、私はフェイトちゃんと対等になりたかったの。フェイトちゃんに勝って、これで今までの事は帳消しだよって言いたかった。それでも結局負けちゃったんだけどね」

 

 にゃはは、とはにかむ彼女を見てフェイトは目を見開いた。

 彼女は、高町なのははやはり強かった。フェイトと出会った頃から強かった。なんて、なんて強い心なのだろう。高町なのはと言う少女は、自分など足元にも及ばない強い心を持っている少女だったのだ。

 

 折れない心、不撓不屈の精神。不屈の魔導師。

 

「フェイトちゃんにいつか勝つから。だから、それまでは対等じゃないかもしれないけど、フェイトちゃんにとっては“弱いなのは”のまんまかもしれないけど、それでも、友達になってください」

 

 そう言って彼女は、なのはは右手を差し出した。しかし、その右手を取ることは躊躇われた。

 

「私は、友達になる方法なんて……」

 

 

 アリサやすずかとは、自然と友達になっていた。と言うより、友達と認識されていた。

 しかしフェイト自身としては、姉の、アリシアの友達であるという認識が強かった。だからフェイトは今まで友達と胸を張って呼べる人は居なかった。

 

「簡単だよ。名前を呼ぶの。ただそれだけ。お互いがお互いの名前を呼ぶ。それだけでもう、お友達なんだよ。

 フェイトちゃん今までずっと私の事『君』とか、『あなた』とかって呼んでたでしょう?」

 

――言われてみれば……。

 

 言われてみればそうなのだろう。ずっと『なのは』と呼ぶことを心のどこかで躊躇われてきた気がする。

 

 だけど、友達になるならば、なりたいのならば勇気を出さなければならない。

 

「……は」

「?」

 

 無言で差し出された右手を握る。

 

 そして勇気を、一握りの勇気をもって

 

「……なのは」

「……うん!」

 

 呼んだ。

 

 

 『なのは』と呼ばれた彼女は、それはとても嬉しそうに笑った。

 

「なのは」

「うん」

「なのは」

「うん」

「なのは、なのは、なのはっ!」

「うん、うん、うん」

 

 気づいたらなのはの胸に飛び込んでいた。なのはの体調など考えもせず、彼女に体を預けていた。

 

 嬉しかった。やっとできた友達。家族以外で初めて自分の想いをぶつけて、ぶつけられて、そうして認め合えた友達。自分だけで作った、初めての対等の友人。

 

「フェイトちゃん」

「なのはっ」

「フェイトちゃん」

「なのはぁ」

「フェイトちゃん」

「なのはっっ!」

 

 ずっと呼んでいたかった。お互いの名前を、今二人が通わせた思いを確かめ合い続けたかった。

 

 自然と涙がこぼれる。しかし、その涙は悲しみの涙ではなく。心の温かさからあふれ出た物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、フェイトとなのはは“友達”となった。

 

 

 

 

 

――――――Magical Girl Lyrical Nanoha end with this. To the next stage…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Magical Girl Lyrical Nanoha A's―――――

 

 




これにて『魔法少女リリカルなのは L×F=』無印編、終了とさせていただきます。



ハッキリ言ってやりきったと言う思いでいっぱいです。それも、この小説を読み、感想をくれたり、お気に入りしてくれた方々の応援のおかげです。



この無印編にて私の書きたかった『レヴィの変えたフェイトの物語』は終了となります。

ハッキリ言うとここで終わっても良い位です。と言うか終わった方が綺麗な気がします。

ですが、この小説には、私にはもう1人幸せにしなくてはならない少女が居ます。


ある意味の幸せではなく、本当の幸せを彼女に与える為の物語が必要です。。



それでは、何時になるかはわかりませんが、A's編でお会いできることを祈って。






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