魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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大変長らくお待たせいたしました。
今日よりA's編、毎日更新でお送りいたします。

ただ、A's編は無印編とは違い、原作とほとんど変わらないため短いです。
戦闘もほとんど行わない為、文章量としては無印編の5分の1以下となるでしょう。



それでは、魔法少女リリカルなのは L×F= A's編 はじまります。



彼女が彼女になるために必要なこと――A's編
第1話 「闇、始動」


 

「紫電、一閃!!」

 

 

 敵対者の放つその言葉と共にボクは、いやボク達は吹き飛ばされる。

 

 

 その勢いは何もない空中では衰えず、そのまま歩道橋へと突撃してしまう。

 

 

「っぅ!?」

 

 

 ボクの憑依先であり、この身体の持ち主であるフェイトはその衝撃をもろに喰らい声にならない悲鳴を上げる。

 

 

「っ、な、のは……」

 

 バルディッシュは断ち切られ、相手の攻撃で骨の2,3本が折れていようとも、それでもフェイトはなのはのいる方向へと這いずり手を伸ばす。

 

 

「なぜそうまでしてあの少女の事を気に掛ける」

 

 

 ボク達を吹き飛ばし、今こうして地を舐めさせている張本人が側に降りてきてボク達に、いやフェイトに言う。

 

 

「友達、だからだ!」

 

 そのフェイトは相手を睨みながら力強く言う。

 

 

「友、か……」

「とも、だち……なん……だっ」

 

 それだけ言うと痛みに耐えきれなかったのかフェイトは気を失う。

 

 

 

 その瞬間、まだ意識のあるボクに身体の主導権が移る。

 

 

「っ!?」

 

 

 主導権を手に入れると同時に動こうとしたのだが、体に走る激痛にそれは叶わなかった。

 

 

――い、痛い! すごく痛い!!

 

 

 痛みで混乱する思考を切り離し、マルチタスクを利用して体の状況を冷静に観察する。

 

――あばらが何本か折れてる、それに左腕も。

 

 

 そうして出た結論は戦闘不能の四文字だった。

 

 唯でさえバルディッシュは折れ魔法補助としてはともかく武器としては役目を果たさない上、相手はまだ無傷。経験不足とは言え、ボクとフェイトを無傷で打倒した歴戦の猛者だ。勝てる勝てないと言う次元の問題では無かった。

 

 

――あぁ、もう……最初っから踏んだり蹴ったりだよ、これ……。

 

 

 

 一矢報いたかったがそれすらできない体に思考は諦めの命令を出す。それにつられボク自身の意識も薄らとしてくる。

 

 

「許せ、我らにも譲れぬものがあるのだ」

 

 ボク達を襲った、黒いサンバイザー(・・・・・・・・)黒いボディースーツ(・・・・・・・・)を身にまとったピンク髪の女性は、小さな声でそう呟くと、いつの間にか手元にあった本を広げ、こちらに突き付けた。

 

 

「ぐ、あ、ああああああああああっ!!????」

 

 

 耐え切れないほどの痛みと不快感が体を駆け巡る。

 

 

 ボク(フェイト)の体から、蒼いリンカーコア(・・・・・・・・)が無理やり引きずり出され、そしてそのまま魔力を吸われる。

 

 

「む? これは……」

 

 

 相手も疑問に思ったのだろうが、魔力蒐集は恙なく進行しているのでそのまま限界まで吸う事にしたのだろう。

 

 

 

 どうしてボク達が突然こんなことになっているかと言うと、簡単に言えば始まったのだ。

 

 リリカルなのは最大の危機にして、薄氷の上を歩くような危険を乗り越え、奇跡を手繰りよせた物語――

 

 ――魔法少女リリカルなのは A’sが

 

 

 

 

 

 

 

「いってきまーす!」

 

 

 アリシアが元気な声で家の中に居るプレシアとリニスに言う。

 

 

「そのあたりを散歩したらすぐ帰ってくるんですよ。もう暗いんですからね」

「は~い!」

 

 リニスの忠告に素直に頷くと、アリシアは隣にいるフェイトとアルフに声をかける。

 

「じゃぁ、行くよ! フェイト、アルフ!」

「うん」

「あいよ~」

 

 

 頷くフェイトにアルフ。アルフはジュエルシード事件後、本格的に魔法を使う事が無くなったのでリニスと同じ節約モードを導入した。これは通称『子犬モード』と呼ばれ、リニスとは違い、魔力だけでは無く体も小さくすることで更なる節約を行っている。当然ながら、この状態では戦う事は出来ない。

 

 小さくなったからなのか、飼い犬としての本能(?)が目覚めたのか、子犬モードを導入したアルフは良く散歩に行くことをねだってきた。

 今回もその日課としてアリシア、フェイトと共に散歩に行くのだ。

 

 

 

 

 

「~~~♪」

 

 

 アルフはペットと言う扱いなので、一応付けられたリードをアリシアが握りしめ散歩をする。

 

 それがアリシアは楽しいのか鼻歌を歌いながら、夜の街を散策した。

 

 フェイトも後ろから付いて行くのだが、ハッキリ言ってこの約半年で随分と住み慣れた街並みは夜とはいえあまり楽しいものでは無い。

 

 それに最近プレシア伝手でリンディからある忠告を聞いている事も、楽しめない要因の一つであった。

 

 

 リンディからの忠告、それは最近管理世界で魔導師が通り魔に襲われる事件が多発しているらしい、と言う話だ。

 管理外世界とは言え魔導師であるフェイトとなのはには十分に注意をしておくように、という忠告だった。しかもその犯人と思わしき一団は、この近辺の世界に居ると考えているらしく、今度リンディ率いるアースラが戦力を強化しこの近辺に調査しに来るらしい。

 

 もしかしたら、その時に挨拶に伺うかも。という事も言っていたが、とにかく用件は魔導師を狙う通り魔に気を付けろ。と言う事だ。

 

 

『どうしたの? フェイト』

 

 

 そんなフェイトが悩んでいる事を読み取ったのか、レヴィが声をかけてくる。

 

「(……うん)」

 

 なんと答えれば良いのかわからず、フェイトは生返事を返す。そんなフェイトの考えている事に予想がついたのか、レヴィは質問してきた。

 

『もしかして、プレシアから聞いた通り魔の事?』

「(うん。ここは管理外世界だし、そうそう無いとは思うんだけど……。なんか嫌な予感がして……)」

 

 

 ――嫌な予感がする。フェイトの直感はハッキリ言ってそう鋭い方では無い。無いが、大抵こう言った直感と言うのは当たってしまう物なのだ。物語的に

 

 

 

「(フェイト!)」

『フェイト!』

 

 魔力の波動を察知したアルフとレヴィが同時に念話を飛ばす。

 

 

「(この感じ、多分結界! しかもこの方向は……)」

 

 

 それはフェイトも感じており、すぐさま感知魔法を発動し詳しく調べる。

 

 そうしてわかった事は結界が展開された事と、その展開された方向にある場所が良く見知った場所だった、と言うだけだ。

 

 

――なのはっ!

 

 

 なのは、高町なのは。半年前ジュエルシード事件が切っ掛けで出会い、ぶつかり合い、そして認めあった友達。フェイトが初めて一人で作った親友。

 その彼女の家がある方向だった。

 

 

「アルフはアリシアを連れて直ぐに家に帰って!」

「(フェイトはどうすんのさ!)」

「私は、なのはの様子を見に行く」

「(でも!)」

 

 

 フェイトは自分の使い魔であるアルフに指示を出すが、アルフはそれに反発するがフェイトは強いまなざしでアルフを見つめて言った。

 

「おねがい。アリシアを、お姉ちゃんを守って。アルフ」

「フェイト……」

「(……わかった。でも、絶対無理しちゃダメだからね!)」

 

 フェイトの言葉に感動したのか少し涙ぐむアリシアと、それを聞いてフェイトが譲りそうにないと判断したアルフは一言言うと一緒に家に向かって走り出す。

 

 

「フェイト! 絶対に無茶しちゃダメだよ!」

「うん、大丈夫。それに、レヴィも居るから」

 

 

 姉の心配そうな言葉を背に受けて、フェイトはバルディッシュを取り出す。

 

「バルディッシュ」

〈Yes sir〉

 

 

 お互いにただ一言だけのやり取り、しかしお互いにそれだけで良かった。それだけで意志疎通は完了していた。

 

 

〈Set,Up〉

 

 

 バルシッシュがそう言うとフェイトはバリアジャケットを纏い結界に飛び、一気に結界内へと侵入する。

 

 

 

 結界内に入り、中を見渡すと、遠くの結界の中心部に近い場所で光が見えた。

 

 

 それは良く見知った桜色の光であり、それだけでフェイトはなのはが何者かに襲われているのだと予想がついた。

 

 

「なのは!」

 

 

 そう叫び、一息で駆け寄ろうとすると、目の前にそれを遮る者が現れた。

 

 

「悪いがこの先に行かせるわけにはいかんな」

 

 そう言いながらフェイトの前に現れたのはピンク色の長髪をポニーテールにした女性だった。

 

 

 黒いボディスーツはそのボディラインを隠すことは無く、逆に強調し、その女性的な豊満な体を見せつけている。

 

 しかし、その体から漂う剣気は、剣士ではないフェイトをしてなお、躊躇わせるものであり、寄らば斬ると言わんばかりのモノであった。

 その剣気は右手に持ったデバイスらしき剣の所為もあるだろう。そしてその顔は、残念ながら目を覆う、黒い仮面らしきサンバイザーでよく見えない。

 

 

 そんな剣呑とした雰囲気を纏った女性は、凛とした声を唯一見えている口から発し、フェイトに言う。

 

 

「本来なら各個撃破と言いたいところだったが、ここに来ては仕方がない。悪いが我らの目的の為、斬らせてもらう」

 

 そう言ってその女性は持っていた剣を両手で握り、正眼の構えを取る。

 

 

 なのはとレヴィに連れられ、なのはの家族から剣の手ほどきを受けていたフェイトは、それだけで目の前にいる魔導師が剣士としても一流であることを感じ取っていた。

 

 

「あなたが、最近噂の通り魔ですか」

 

 

 フェイトは一応、嘱託魔導師の資格を持っている身として、聞いておかなければならないと思い質問する。

 その問いを聞いた女性は、バイザーで顔は見えないが口を少しだけ歪ませると小さく呟く様に言った。

 

「そうか、すでに噂になってしまっているか。早くしなければな」

 

 そう言う女性にフェイトは言う。

 

「私は嘱託魔導師です。このまま大人しく投降してくれれば……」

「悪いが、それはできん!!」

 

 嘱託とは言え、管理局に所属する魔導師として必要な口上を言おうとしたら、相手がそれを聞かず襲い掛かってきた。

 

 

「っく!」

 

 その剣撃をバルディッシュでなんとか受け止めるが、その想像以上の“重さ”に怯む。

 

 

「ほう、今のを受け止めるか。並みの魔導師ならば反応できずに一撃で斬り伏せられるのだが」

「これでも、私は!」

 

 相手の言葉にそう叫びながら魔法を発動する。

 

〈Blitz Action〉

 

 高速短距離移動魔法。フェイトが最も使う魔法の一つだ。

 

〈Scythe Slash〉

 

 そして即座に後ろに回り込むと、バリディッシュをサイズフォームに変形させ斬撃を叩き込む。

 

「ほう。高速近接系魔導師か。最近の魔導師にしては珍しい」

 

 

 しかし、その斬撃は相手の剣で容易く防がれる。

 

 

「先程の高速移動にこの斬撃。なかなかの手練れだな」

「それは、どう、も!」

〈Photon Lancer〉

 

 嫌味と共にフォトンランサーを放ち、その隙に離脱する。

 

 離脱した先で相手を見ると、近距離で放ち、なおかつ直射魔法の中ではそれなりの速度を持っているはずのフォトンランサーはたやすく避けられていた。

 

「ふむ、力で勝てないと分かった瞬間に即座に離脱する。その若さでその強さ、さらに将来性もあるな」

 

 相手はフェイトを一方的に分析する。

 

「その将来性をつぶすのは一武人として惜しむ事だが、しかしそれで我らの願いを捨てるわけにはいかん」

 

 相手は一方的にそう言うとまた構える。

 

「少女よ、名乗れる立場では無いが、名を聞いておきたい。教えてもらえるか」

「……フェイト・テスタロッサ」

 

 相手の言い分に素直に名を教えるフェイト。その名前を反芻すると、相手の女性は大きく頷き武器である剣を強く握りしめる。

 

 

「テスタロッサよ。悪いが落させてもらう。安心しろ、殺しはせん」

 

 

 その一方的な上から目線に、戦闘では冷静なフェイトが珍しく頭に血が上る。

 

 リニスやプレシア等フェイトより強い魔導師は数多くいる。自分より魔力が少なくとも自分より強いクロノと言う相手も知っている。

 

 しかし、しかしそれでも相手に正面から手加減してやる。と言われそれで腹が立たないほどフェイトは達観しておらず、年老いても居なかった。

 

 フェイトはやはりどこまで行っても未だ子供で、子供には子供なりのプライドがあるのだ。

 

「(レヴィ! アレ、やるよ!!)」

 

 そんなフェイトは自分だけの力では勝てない事を認め、レヴィ曰く『最強モード』になる事を促す。

 独り立ちを決めた筈なのに、なんて事は言わない。相手は実力の似通ったなのはなどではなく、今のままでは歯が立たない程の強敵なのだ。ならば自身にできる全力、それを超えた、自分だけではできない全力を出すしかない。

 

『了解。アイツ、ぶっとばしてやろう』

 

 レヴィもそれをわかっていたから、何も言わず魔法の準備に入る。

 

 

「常に目指すのは最強の自分」

『あぁ、遂に来てしまった。この時が』

Everyone shakes Between the real and the ideal person(ヒトは誰もが理想と現実の狭間で揺れる)〉」

 

 

 詠唱を開始する。『最強モード』になる為の必要手順。しかし、相手は武人だからと言って、それを見逃すほど善人では無かった。

 

「自己強化魔法か、どちらかと言うと我らと同じ魔法詠唱に聞こえるが、すまんな。悠長に敵を強化させる程、今の私に余裕は無いのでな!」

 

 そう叫ぶとフェイトに突っ込む女性。

 

「くっ!」

 

 

 その速度はフェイト程では無いとはいえ、さすがに悠長に詠唱を続けられる程の距離では無く、相手の攻撃を耐えられる程の防御力もない。

 

 故に仕方なく詠唱は破棄し『最強モード』では無く、50%のーレヴィとフェイトがそれぞれ個別で魔法を使えるー状態で相手と戦う事にした。

 

 

〈Blitz Action〉

『電刃衝!』

 

 相手の攻撃を避けると同時にレヴィが魔法を発動する。

 

「!?」

 

 その発動された魔法を見て相手の女性が怯む。同時に魔法を発動した事では無い、同時に発動された直射魔法の色に驚いたのだ。

 

「ふむ、気づいたら魔力も少々上がっているみたいだな。どういう理屈かは知らぬが、こちらにとってはある意味好都合だ! レヴァンティン!」

 

 女性は自身の愛機の名を叫ぶと、剣を鞘に納める。

 

 そうすると鞘が何かをリロードしたのか、鞘から何かが排出される。

 

 

 それは薬莢(・・)だった。

 

「飛龍、一閃!」

 

 女性がそう叫ぶと共に剣を抜くと、そこから出されたのは直剣では無く蛇腹剣と呼ばれる連結刃だった。

 

 

「っ!?」

 

 

 魔法の効果なのか、明らかに先ほどの質量より長く増えた連結刃を避ける為必死に飛び回るフェイト。

 

 しかし、相手の物理法則や質量保存の法則を無視した蛇腹剣の動きには対応しきれず、所々浅い切り傷を受け血が流れる。そんな受けた傷から流れる血を見てフェイトは驚く。

 

 

「物理干渉設定っ!?」

 

 

 物理干渉設定。つまるところ物理非干渉設定―通称非殺傷設定―にされていない。と言う事だ。それはつまり、相手はこちらを本気で殺す気だと言う事である。

 

 

 その事が判った瞬間、フェイトの体に震えが走る。

 

 

 今までフェイトは命のやり取りを経験したことは無かった。ジュエルシードの暴走体の時は例外だが、アレは最強モードを利用して相手を上回っていたため、そこまでの恐怖は無かった。

 

 しかし今回は違う。今回の相手は格上であり、さらに最強モードも使用できない、させて貰えない状況。そんな状況でフェイトは生まれて初めて、生命の危機に瀕する根源的な恐怖を味わっていた。

 

 

『フェイト! しっかりして!』

「え?」

 

 

 その恐怖に鈍った動きを相手が見逃すわけが無く、気づいたら襲撃者は目の前に迫り、剣を振り上げていた。

 

 

「紫電、一閃!!」

「っ!」

 

 とっさにバルディッシュでガードしようと突きだす。しかし、金属が弾ける嫌な音と共に相手の剣先はフェイトの目の前を通り過ぎて行った。

 

 

――え?

 

 

 一瞬、呆然とするフェイト。その手の中には持ち手の中ごろを綺麗に断ち切られたバルディッシュがあった。

 

「っ!!」

 

 それでも今は戦闘中、どうにか気を取り戻し短くなったバルディッシュで応戦を試みるが、相手はそれを簡単に避け、いなし、そして――

 

「すまんな」

 

 そう一言言うと、剣を思いっきり振りかぶった。

 

 

 防御も回避もままならず直撃を喰らい吹き飛ぶフェイト。

 

 

 そしてその勢いのまま歩道橋へと突撃する。

 

 

 

「っぁ!」

 

 

 あまりの衝撃と痛みにフェイトは一瞬気を失いそうになる。しかし粉塵の先に一瞬だけ、気絶し倒れているなのはが見えた気がした。それだけを、自分の体など気にせず、なのはの事だけを考え、手を伸ばす。

 

 

「っ、な、のは……」

 

 

 

 こうして状況は最初に戻る。

 

 

――痛い、痛い、痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいっ!

 

 

 ある意味初めて(・・・)受ける痛みにレヴィの思考は焼き切れたように一つの単語を繰り返す。

 左腕とあばらが数本折れているこの状況はレヴィにとって、フェイトにとっても初めての出来事であり痛みだった。

 

 そう、原作とは違いプレシアから虐待を受けていないフェイトは痛みに耐性ができていなかったのだ。それゆえにフェイトはダメージと疲労激痛から身を守る為に意識を閉ざした。つまり、気を失ったのだ。しかしフェイトが気を失ってもレヴィが気を失うわけではない。それはレヴィの意識が表層に現れ、フェイトの体の主導権を握る事になる。つまり、フェイトが受ける筈だった痛みをレヴィが受ける事となるのだ。

 

 

 

「―――――――」

 

 目の前に居る狼藉者、レヴィはそれが闇の書の守護騎士の一人、烈火の将シグナムであることはわかっていた。そのシグナムが何かを呟くといつの間にか現れていた本が開きレヴィの胸から蒼く輝く球体が出てくる。

 

「ぐ、あ、ああああああああああっ!!????」

 

 耐え切れないほどの痛みと不快感が体を駆け巡る。

 

 レヴィにとってこの痛みはある意味想定内であり、ある意味想定外であった。

 

 

 想定内なのは自分も闇の書に蒐集される事。これはレヴィ一人分原作より多く魔力が蒐集できる筈なのである程度の余裕ができると予想していた。なのでここでレヴィが蒐集されるのは想定内なのだ。

 そして想定外なのは痛み。原作でもなのはやフェイトはリンカーコアから無理やり魔力を蒐集され苦しんでいたが、その苦痛がここまでの物だと言う事はさすがにわからなかった。

 

 それに、シグナムとフェイトの戦闘の影響がレヴィに残っていた事が予想外であった。

 

 これは完全にレヴィの勘違いなのだが、レヴィが体の主導権を握ってもその体はあくまでフェイトの体を操っているだけに過ぎない。なのでフェイトが受けた身体ダメージは途中でレヴィに変わっても回復することはないのだ。

 しかし、魔力ダメージは違う。魔力ダメージはゲーム的に表すならばMPダメージであり、HPにダメージはほぼ行かない。そしてフェイトとレヴィはリンカーコアが別々。つまり別のMPを保持している状態である為、フェイトが気絶寸前まで魔力ダメージを受けても、レヴィに変われば回復するのだ。正確に言うなら、レヴィは攻撃を受けていないのだから、無傷のまま、と言うことになる。

 

 そして今までの戦闘訓練と言うのは物理非干渉設定。つまり非殺傷設定で行われていたため、受けるダメージのそのほとんどは魔力ダメージとなる。これがレヴィがフェイトからレヴィに主導権を変えればダメージが回復すると勘違い(・・・)していた理由となる。

 

 

――色々と想定外であまり思考がうまく回らないけどっ。

 

 

 レヴィがそう思いっている内に不快な痛みを伴う魔力の蒐集は続く。そしてレヴィはそれを行っている相手を睨みつけ、右手に握ったバルディッシュを突き付け魔法を放つ。

 

「っ!?」

 

 相手の顔面を狙った電刃衝は見事不意を突くことに成功したが、それは相手のサンバイザーのような仮面を破壊するだけで終わった。

 

「貴様、まだ意識がっ」

 

 不意の攻撃を受けたシグナムはそれを行ったレヴィを驚愕の表情で見つめる。そんな目で見つめられたレヴィは不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「そん、な悪趣味な仮面、美人が台無し、だよっ」

「そうか、それはすまないな」

 

 シグナムはレヴィの挑発をさらりと受け流しながら、レヴィにそれ以上の行動が不可能だと判断すると蒐集が終わるまで油断はしまいと、レヴァンティンに手を掛ける。

 

 

――イタチの最後っ屁みたいだけど、映像は撮った。あとは……

 

 

 薄れゆく意識の中でレヴィはバルディッシュの記録映像にシグナムの顔を映せたことを確信しつつ、最後の一押しをして意識を失った。

 

 

 

 

 

 レヴィが気絶してなお、暫く魔力の吸収は続いた。それはフェイトの魔力量を大きく超えた量であり、そのあまりの魔力の多さに襲撃者、シグナムは驚愕していた。

 しかし、だいぶ魔力を蒐集しこのままでは生命に関わるのではと思えるほどの量を蒐集すると、蒼いリンカーコアは一際大きく輝く。

 その輝きが収まると、蒼かったリンカーコアは一瞬で金色に変わり、しかもそれだけでは無く吸ったはずの魔力すら回復したように見えた。

 

「なんだこれは!? いったいどういう体をしているのだ!?」

 

 

 戦闘時は2色の魔力光を使い、撃墜して蒐集を開始したら蒼、しかししばらくすると金色に変わり、予測した量よりはるか多くの魔力が吸えてしまっている。

 

「テスタロッサ、フェイト・テスタロッサと言っていたな。いったいどういう体を……」

 

 

――いや、考えても仕方ない。今は想定以上に魔力が蒐集できた事だけを喜ぼう。

 

 

 そうして死なない程度ギリギリまで魔力を吸って、シグナムの前にあった本、闇の書は閉じる。

 

 

「よぉ、シグナム。どうだ」

 

 

 そう声をかけシグナムに近寄るのは、シグナムと同じような恰好だが、背丈はなのはやフェイトとあまり変わらない赤髪の少女。

 彼女はヴィータ。シグナムと同じ闇の書の主に仕えるヴォルケンリッターの一人であり、先にもう1人の魔導師―なのは―を襲撃していたのもヴィータである。

 

 

「あぁ、予想以上に蒐集できた」

「マジか。うっわすっげぇ。この二人だけで40ページ位埋まってるじゃねぇか」

「あぁ。だが……」

 

 とシグナムは言いかけそれを止める。

 

「ん? どうした?」

「いや、なんでもない」

 

 シグナムが先ほど言いよどんだのは自分が相対した少女、フェイト・テスタロッサのリンカーコアについてだったのだが、ヴィータもシグナムと同じで考える事を得意としていない。

 

 

――今言ったところでどうにもならんか。後でシャマルに話すだけにしておこう。

 

 シグナムが守護騎士の参謀役である湖の騎士にだけ話しておこうと考えていると、ヴィータが声をかけてくる。

 

「どうした、早く帰ろうぜ。はやて達が待ってる」

「あぁ。そうだな」

 

 

 

 襲撃した少女たちの後始末はシャマルにまかせ、シグナムとヴィータは一足先にその場を後にするのだった。

 

 

 

 


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