どうもみなさん1か月ちょっとぶり位ですかね。
なんとかネタをひり出して書き上げました。
本来なら空白期編はもっとガンガン小話をやってく予定だったのですが、モチベやらやる気やらネタやら時間やらの関係上であと数話やって終わりになるかもしれません。どうか、ご了承ください。
それと今回も大事な事を後書きに纏めておきます。
「だ、だめだレヴィちゃん」
休日の白昼から高町家の道場に声が響く。声は大人に近い青年の渋い声と、まだ年端もいかない少女の甲高い声
「なんで? ボクはこんなに滾ってるのに……」
「し、しかし」
水色の髪を項の部分で一つ結びにした少女、レヴィは眼前に居る大人びた青年、高町恭也に詰め寄っていた……。
「ねぇ、恭也……。ボクと……、しよ?」
一言一言区切り、どこか艶めかしく恭也に詰め寄るレヴィ。詰め寄られている恭也は、そんなレヴィにどう対応していいかわからず慌てるばかり。
そんなどこか怪しい雰囲気を醸し出す二人に救いの手が差し伸べられた。いや、それはレヴィにとっての救いの手であり、恭也にとっては悪魔の囁きだった。
「もう観念しちゃえばいいじゃん、恭ちゃん」
その声は共に道場にいた恭也の妹、高町美由紀であった。
「な! 何を言うんだ美由紀!」
そばで何食わぬ顔で素振りをしている美由紀に向かって声を荒げる恭也。しかしそんな恭也の味方はこの場には居なかった。
「そうだよお兄ちゃん。してあげれば良いじゃん」
そう言い放ったのは恭也の二人目の妹、高町なのは。彼女は美由希の隣で共に素振りをしながら視線を恭也たちには向けず、声だけをかける。
そんな美由紀、なのはの援護射撃を受け、レヴィはさらに詰め寄る。
「ほら、美由希もなのはもああ言ってるんだし、さ。ね? 良いでしょ?」
そんなレヴィに観念したのか、それともこれ以上拒んでもらちが明かないと判断したのか恭也は声を張り上げて言う。
「わかった! やろう! 準備をするから少し待っていてくれ」
「うん。待ってる!」
レヴィは恭也の言葉に、言質を取ったと言わんばかりに元気よく返事をし、恭也から離れる。
そうすると美由紀となのはも素振りを止め、道場の壁際へと下がり座る。
それを確認した恭也は道場の壁にかかっている
「御神流は門外不出の剣だ。いくら妹の親友だろうと部外者には教えられない」
そう言う恭也は先ほどまで幼い少女に翻弄されていた青年では無く、既に一人の剣士の空気を纏っていた。
「わかってるよ」
そんな恭也に相対するレヴィも、自分の身長の半分ほどもある木刀を構えている。その構えからは、美由希やなのはの背筋に冷や汗をかかせる程の剣気を纏っていた。
「だから、俺ができるのは本気の試合だけだ。しかし、いくら本気と言えど……いや、本気だからこそ必要と思わなければ俺は技を使わない」
そう言った恭也は静かに両手に持った小太刀を構える。
「だから、俺に使わせてみろ。御神の神髄を」
それはつまり、御神流師範代に本気にさせてみろと言う事である。恭也は過去の自身を追いこみすぎた特訓の後遺症で全力が出せないと言えど、魔法抜きならばシグナムとすら打ち合える剣豪である。そんな恭也に本気を出させて見せろと、レヴィを
「あぁ。それこそ、望むところ、さ!」
そう言いながらレヴィは駆け出す。
本気の試合に合図は要らない。お互いがやる気に満ち相対したならば、その時からすでに試合は、戦闘は始まっているのだ。
そうしてレヴィは
マテリアル―L、そして
そうしてレヴィはワンステップで消える。観戦者であるなのはと美由希ですら追う事が困難なスピードで駆け恭也に肉薄する。
なのはの生来持った動体視力ですらとらえきらない速度。それはまさしく、本格的に御神流を学び始めた時、父に御神の神髄を見せて貰った時の感覚に酷似していた。つまり、何もわからない事がわかった、ただそれだけだった。
対して、本人もすでに御神の神髄にたどり着いている程にまで練度を高めている美由希は剣士の直感と、鍛え抜かれた眼でレヴィの速度を見切る。自分が動く事を度外視し、『視る』事だけに集中したからこそ、レヴィの動きを見切る事ができた。そこが、美由希と恭也の現時点での力量の差だった。
「踏み込みが甘い。それに素直すぎる。速さと腕力があるからこそ衝撃は相当だが……」
高速で向かってくるレヴィを恭也はしっかりと見切り、高速で振りぬかれる木刀を左手に持った小太刀一本で器用に衝撃を逸らす。
「一定の実力を持った剣士には通用しない」
そう言いながら容赦なく、右手の小太刀を振り下ろす。しかし、レヴィはその振りおろしを筋力に物を言わせた強引な身体操作で躱すと、そのまま恭也から離れる。
そして突撃した速度のまま恭也から離れたレヴィは体制を崩しながらも恭也に向き直る。
「あはは、やっぱり強いなぁ。恭也は」
「どうした、その程度しかできないなら俺に技の一つも使わせられんぞ」
無表情になり冷たく言い放つ恭也に対して、レヴィは心底楽しそうな表情で言う。
「うん、だから」
体制を整え木刀を構える。両手で木刀を支える正眼の構え。
「今度は剣士として、本気で行くよ」
そしてレヴィは踏み込む。
自身のスペックを、持って生まれた
そうして得た技術を駆使したレヴィの踏込は早かった。速いのではなく、早い。単純に身体能力に任せたスピードではなく、確かな技術によって裏打ちされた、無駄のない洗練された動きだった。故に、早い。
そうして接近したレヴィと恭也は剣を交わす。レヴィの振るう木刀を小太刀でいなし、そらし、受け流しながら使っていない方の小太刀で反撃を加える。その反撃をレヴィは持ち前の身体能力と、確かに習得し十全に使いこなせるようになった技術で躱す。
「レヴィちゃんの成長速度、飲み込みは驚くばかりだ。父さんとも話したがまるでスポンジが水を吸うようだと……」
「それはどうも!」
激しい剣劇を交わしながらも恭也は涼しい顔で喋る。対するレヴィも力は入っているものの、余裕があるのか恭也の言葉に反応する。
「だから惜しかった。君が男だったら婿養子でも養子縁組でも、何をしてでも家に迎え入れたいと思ったほどに、ね!」
最後の語気に合わせ力を込めレヴィを弾く。そうして一区切りついた激しい攻防は今度は役者を変え再開される。
「それこそ、君は剣士としては一流の域に達している。だから御神の剣士に近づきたいと言うのは理解できるし、君に技を教えればすぐさま使いこなせるようになるだろう。それが楽しみでもあり、悔しくもある。だから、少々憂さ晴らしもかねて痛めつけさせてもらおう。そして盗んで見せろ。俺から、俺の攻撃から!」
そう言い終わると今度は恭也がレヴィに肉薄する。両手に持った小太刀を使い、まるで舞う様に振るわれる小太刀は、まるで別々の動物のようにレヴィを追い立て、しかし同じ意志を持ったかのような隙のない連携でレヴィを追い込む。
「ぐふっぅっ!」
数合剣を交わした後、レヴィが呻き後ろへ跳ぶ。
「っごほっ! げほっ!」
レヴィの感覚では確かに恭也の小太刀は木刀で防いだはずだった。しかし、実際は腹に強い衝撃を受け、苦しさのあまり咳き込む程である。
「今のが御神流の基礎の一つ『貫』。相手の防御や回避の癖を見切り、その隙を突く
咳き込むレヴィを冷ややかに見つめ自分の使った技の解説を始める恭也。なんだかんだ言いつつも、恭也はレヴィに美由紀とは違った御神の剣士の完成系を、発展系を見出していた。結局、こうして理由をこじつけ、自分をごまかしてレヴィに
「なるほど……視えなかったけど、理解はしたよ」
そう言いながら不敵に笑うレヴィに向かって恭也は駆け出す。
「さぁ、まだ日は昇ったばかりだ。どんどん行くぞ」
そうしてレヴィと恭也の『稽古』は激しさを増す。
***
幾度恭也の振るう剣を身に受けただろうか、幾度恭也の剣閃に死を感じただろうか。
そうして早朝に始まったはずの稽古は、気づけば朝食をとるには少々遅い時間となってしまった。そんな時間だからか、道場には恭也とレヴィしか居ない。二人の隙を縫って見稽古をしていたはずの美由紀となのはは何時の間にか道場から退散していた。
そんな事にも気づかぬ程の集中を維持したまま数時間、レヴィと恭也は『稽古』を続けていた。
「つはぁ、はぁっ。こ、これが『御神流奥義之参・射抜』、だ」
「…………『射抜』。……それも、『覚えた』っ!」
恭也の突きを喰らいふらつきながらもレヴィは叫ぶ。
この数時間でレヴィは御神流の基礎と言える技術と、奥義と呼ばれる技のいくつかを完全に習得し、十全に使いこなすほどになっていた。
「今日は、ここまでに、しよう……。さすがの俺も、足がガクガクだ」
そう言って座り込む恭也。そして恭也の言葉を聞いて力が抜けたのか、レヴィは倒れ込むようにして気絶した。
「お疲れさん、恭也」
「父さん」
そんな恭也にタオルを差し出すのは恭也の父である高町士郎。そんな士郎は困ったような笑みを浮かべていた。
「すまん、父さん。少々、熱が入ってしまった」
受け取ったタオルで身体中の汗を拭いながら恭也は父に謝る。本来ならば少々痛めつけて諦めさせる筈だったのに、気づけば奥義すら『覚えた』と言わせる程の『稽古』になってしまっていた。
「いや、かまわないさ。恭也がやらなかったら、いずれ俺がやっていただろうしな……」
そう言う士郎の視線は倒れ込み静かに寝息を立てるレヴィに注がれていた。
「末恐ろしいな……。あれほどの才能を見てしまうと」
「あぁ……自分の今までを否定された気分になる」
士郎の言葉に恭也は頷く。
本来御神流は一朝一夕で習得できるような、そんな生ぬるい武術では無い。武術自体がそんな生ぬるくは無いが、それでも御神流は古武術として、そして門外不出の武術として並みの才能では奥義の一つに辿り着くまでに一生を捧げるなどザラであった。
士郎の記憶にも、努力は人一倍積んだが、才能が足らずに御神流を学ぶ資格なしとされた者は何人かいる。
恭也のように20になる前に免許皆伝を得、師範代にすらなれるのは相当な才能と絶え間ない努力があってこそなのだ。
しかし目の前で死んだように眠る少女はそれを覆す。過剰なほどに
恭也も最初は御神流の技を教える気は無かった。しかし、そのあまりにも埒外な才能を目の当たりにし、その完成系を見たくなってしまった。これは美由希という大器晩成の才能を育てる楽しみを見出してしまった弊害とも言えた。
そして今日の稽古、後半は汗だくになるほど本気で戦っていた。キレを増し、より早くなるレヴィの素早さに負けぬように神速まで使っていた。そしてその原理を、神速の摂理をレヴィは直感で、肌で感じただけで理解し、十全に使いこなして見せた。
「あの才能は眩しすぎる。見る者全てを焼き尽くす太陽の灼熱のような才能。そんな才能を使ってでも、使いこなしてでも得たい物が、レヴィちゃんにはあるんだろう……」
レヴィが身体を手に入れてから一月がたち、レヴィの士郎や恭也に対する御神の技を求める姿勢は強くなった。がむしゃらにでも力を得たい。得なければならない。そんな半年程前のなのはと同じ雰囲気を士郎は感じていた。
だから例外的に、言い訳ができる様な形で自分達に、御神の信念に言い訳をしながらレヴィに御神の技を教授した。
「恭也、今日の夜から俺の訓練に付き合え」
「どういう風の吹き回しさ」
「なに、少しでも動けるように調整しておきたくってな」
年の功とでも言うのか、士郎の直感は小さいながらも警報を鳴らしていた。
レヴィが必死に力を求める何かがある。そしてその姿勢から余裕が失われつつあることを鑑みるに、そのタイムリミットは近い。
その時に士郎に何ができるかはわからない。魔法関連の出来事だったら手も足も出ない可能性がある。しかし、だからと言って、何もできなくていい訳ではないのだ。
「あぁ、俺も少々鈍ってたみたいだし、俺も今日から付き合うよ」
士郎に向かってそう言う恭也も、士郎と似た『なにか』を感じ取っているのだろう。
「ふっ、レヴィちゃんと数時間試合した程度で汗だくになるんだ。相当鈍ってるな」
「父さんはレヴィちゃんを甘く見てるな、明日の稽古は父さんが付けてやると良い、俺の気持ちがわかる」
士郎の軽口に同じく軽口で答える恭也。そんな二人はそのやり取りがツボに入ったのか二人して笑い出す。
朝とも言えない、しかし昼とも言い難いそんな時間の道場に、男二人の笑い声が響き渡った。
今回の大事な点
・レヴィが御神流を覚えて強くなった。
・士郎パパは剣士の勘でなんらかしらの騒動がある事を予見。
・なのははまだ御神流同士の戦いを見る事すら困難な程度には初心者。
以上です。
それでは、次回もまたいつになるかは不明ですが、どうか付き合ってやってください。
追伸
これを書いている時点で、この小説の通算UAが10万、お気に入りが1200を突破してます。
これほどのたくさんの人に見て貰っているのだと、改めて感じます。みなさん、誠にありがとうございます。