今回レヴィ復活。そして私の持病の一つ、厨二病が最大船速で水平線の彼方へ向けてまっしぐら。
オリジナル設定の嵐ですが、ここまでついて来た皆様はもう大丈夫かと思われますゆえ。
『躯体構築率45%......50%......』
機械的な音声のみが聞こえる闇の中、レヴィはただ誕生の時を待っていた。
未来からのメッセージを確認したのが昨日の出来事。
今日はフェイトが出撃当番となっているため、レヴィ自身はマテリアルの意識のみがある闇の中、『紫天の魔導書』の中で自分の躯体の構築を手伝っていた。
『躯体構築率75%......』
シュテルとディアーチェの献身もあり、躯体の設計自体は早朝に完成し、それからずっと3人のリソースをつぎ込みレヴィの躯体構築を続けていた。
今、シュテルとディアーチェの躯体自体は与えらたアースラ内にある自室で、眠るように動作を停止している事だろう。
『躯体構築率99%............』
そしてレヴィ自身もまた、躯体構築が始まってからはずっと紫天の魔導書内で躯体構築を行っていた。作業の進捗率のみが時間の指標となっているこの闇の中、外では何時間が過ぎているのか見当がつかない。
『躯体構築率100%......』
しかし、それももう終わる。長かったような短かったような、懐かしさすら感じる何もない闇の世界に居なければならない時間は終わる。
『システムチェック......オールグリーン......』
『躯体構築は正常に終了しました』
『おはようございます。マテリアル―L』
その音声と共に、レヴィの意識は、レヴィが認識していた闇は蒼に染まる。
本来感じるはずのない電流の刺激に、1日ぶりの身体の実感を感じながら、レヴィは目を開く。
すぐさま目に入るのは仲間であり、家族でもある、大事な二人――。
「うむ、無事目が覚めたようだな」
マテリアル―Dと
「おはようございます。レヴィ」
マテリアル―S。
「おはよう、王様。シュテるん」
そう言ってレヴィは朗らかな笑顔を浮かべた。
***
***
***
とりあえず躯体構築が終了したばかりで全裸なのもどうなのかということとなり、
レヴィがそうしている間にディアーチェは、レヴィの躯体構築が完了した連絡をリンディ達に行っていた。
そうしているとドタドタと廊下を走る大きな足音が聞こえ、レヴィ達のいる扉が開く。
「パパ、起きた!?」
大声を上げながら、勢いよく入ってきたのはヴィヴィオであった。
「わぁすごい! ほんとにフェイトママそっくり! 2Pカラーみたい!!」
入ってくるなりレヴィを見つけるや否や、テン上げ↑↑状態でレヴィの周りを飛び跳ねながら回るヴィヴィオ。
昨日顔をあわせてからというもの何かとテンションが高いヴィヴィオであったが、ここに来て記録更新をたたき出すテンションの上がりっぷりには、さすがのレヴィもどう対応してよいかわからず苦笑を浮かべる事しかできない。
「いや……ヴィヴィオ……2Pカラーって……」
レヴィの、マテリアル―Lの成り立ちを考えれば2Pカラーというのもあながち間違いではないため、レヴィはヴィヴィオの言葉を強く否定する事ができなかった。
そんなはしゃぐヴィヴィオにレヴィが困っている中、その様子を見かねたディアーチェが助け舟を出す。
「ところで、ヴィヴィオよ随分と急いでやってきたようだが、どうした」
「はい! パパが復活したとリンディさんからお聞きしたので! なのでパパ! 早速一戦やりましょう! そうしましょう!」
ディアーチェからの問いに答えると、レヴィの目の前でステップとシャドーボクシングを始めるヴィヴィオ。その様はかなりさまになっていた。
「パパからのメッセージで、私と一戦以上するようにとのことでしたので! さぁやりましょう!」
ヴィヴィオ曰く未来のレヴィからのメッセージにあった、レヴィの躯体の再構築が終了したらヴィヴィオと必ず戦うように。との指令を早速こなそうということであった。
「そうですね。レヴィの躯体の様子も確認するつもりでしたし、実際のフォーミュラを利用したレヴィの戦闘力を作戦に組み込むために、どこかで実戦形式で戦っていただこうと思っておりましたので、いい機会ですし早速やってもらいましょう」
「うん、シュテるんの言う通りだね。それじゃぁヴィヴィオ、お願いできるかい?」
「はい! ヴィヴィオにお任せください!」
シュテルの言葉もあり、レヴィはヴィヴィオに躯体の動作確認の相手を頼む。その言葉にヴィヴィオはとても良い笑顔を浮かべ、力強くうなづくのであった。
**
**
レヴィ達はその後、場所をアースラ内の模擬戦室に移していた。
『それでは、レヴィの戦闘データの記録のため、思う存分気のすむまで
シュテルは観測のため、そばに併設されたモニタールームへと途中で合流したアインハルトと共に入り、モニターの準備が完了したことを模擬戦室の中の二人に告げる。
『ヴィヴィオさんの技等の実況、解説は私アインハルトでお送りいたします。よろしくお願いしますシュテルさん』
『はい。よろしくお願いします』
なにやらモニタールームが実況スペースの体裁をとりはじめたが、レヴィの前に相対するヴィヴィオはそれを気にせずストレッチを行い、体をほぐしていた。
「それじゃぁ、やりましょう!」
「うん。よろしくね、ヴィヴィオ」
「バルニフィカス」
「セイクリッドハート!」
レヴィは自分の躯体と共に設計が見直された新たなバルニフィカス、バルニフィカス・ジアンサーを握りしめる。
対するヴィヴィオはセットアップと共にその姿を大きく変えていた。
まず身長が伸び、体の各所がヴィヴィオを大人にしたかのように成長を遂げている。
足や腹、腕などの局所に鎧が装着された紺色のボディスーツの上から、上半身だけに白いジャケットを羽織っている。
ヴィヴィオの武装形態、大人モードである。
「昨日もお見せしましたが、今回ヴィヴィオはパパから与えられたすべてをお見せします」
そういってどこからともなくヴィヴィオは剣型のネックレスを取り出すと掲げる叫ぶ。
「コールブランド!!!」
その言葉と共にヴィヴィオはまばゆい輝きに包まれる。
そしてその光が収まるとそこには、武装を追加したヴィヴィオの姿。
上から羽織っていたジャケットは裾が伸び、足、腹の装甲は動きをなるべく阻害しない形で大きく防御する範囲が広がっている。
腰の装甲から広がるスカート状の布は、紺色から白色へと変わりよりスカートのように、長く大きく広がる。
サイドポニーの形でまとめられていた長髪は、三つ編みを編み込んだシニョンの形に後頭部でまとめられている。
裾が伸びたジャケットの上からは表が白で、裏地が赤のマントを羽織り、ジャケットの前腕には、指先から前腕を覆うように巨大なガントレットが装着されていた。
「コールブランドTYPEⅠ」
武装展開を終えたヴィヴィオは静かにそうつぶやくと、重厚な鎧に包まれた拳を握りしめファイティングポーズをとる。
その表情は今までの天真爛漫な笑顔とは打って変わり、目元が鋭く口元もきつく結ばれた真剣なものへと変わっていた。
ヴィヴィオから発せられる空気の変化を感じ取り、レヴィもバルニフィカスを両手で握りしめ構える。
『それでは、今回の戦いはクラッシュエミュレートを利用した模擬戦闘で行います。レギュレーションは対ユーリ戦を想定し空中での戦闘のみとしてください』
モニタールームから聞こえるシュテルの声を聴き、レヴィとヴィヴィオはどちらともなく飛行魔法を発動し空へと浮かび上がる。
そしてある一定の高さまで浮かび上がった瞬間―――――レヴィの目の前からヴィヴィオが消えた。
「!?」
驚く隙もなく腹部に走る強烈な衝撃、そして目の前にはヴィヴィオの姿。
「っは」
あまりにもいきなり受けた衝撃に、レヴィは肺の中の空気をすべて抜かれ苦しむ。
そしてレヴィの体勢が整う前にヴィヴィオは、レヴィの腹に埋めていた左手を引き抜くとともに大きく腰を捩じり、斜め上から打ち下ろすように右拳をレヴィの顔にたたきつけ、そのまま地面に向けて振りぬいた。
殴り飛ばされた勢いのまま、大きな音を立てて床に激突するレヴィ。
そのダメージから戦闘続行が困難と判断されたのか、ゴングの音が鳴り響きクラッシュエミュレートが解除される。
「さぁ、立ってください。まだ、こんなものじゃないですよ」
空に浮かんだまま、ヴィヴィオはレヴィを見下ろしそういう。
「私がパパから教えられた技、力。まだまだこんなものじゃないんです。レヴィ・テスタロッサがレヴィ・テスタロッサのために『完成』させた『御神流』。まだパパから免許皆伝は貰ってないけど。それでも、レヴィ・テスタロッサが認めた、レヴィ・テスタロッサが唯一『完了』を見た王者の姿――――『永全不動八門一派御神亜流 総合魔法戦闘術』」
クラッシュエミュレートが解除されても、いきなり受けた衝撃から回復できず、ヴィヴィオを見上げるレヴィに対しヴィヴィオは言う。
「その全てをお見せします。まずは、徒手空拳から――――」
レヴィを見下ろすヴィヴィオの姿は、まさに支配者としての――――王者の姿だった。
***
***
あれから三度ヴィヴィオの前に膝をついた。
二度目はヴィヴィオに触れることすら許されず、全ての攻撃を巧みに躱され、カウンターで急所を抉られた。
三度目はすべての行動の出足をジャブやローキックで潰され、なすすべもなく体力を削り取られた。
そして四度目の今は、遠距離戦に持ち込もうと放った砲撃魔法を、上から砲撃魔法で押しつぶされ、その隙に近づかれサブミッションで体中を破壊された。
明らかに動きが違った。
こちらは
最初の違いには2度目で気付いた。
レヴィ
それを試そうとした3度目では、空中に居ながら地上であるという条件が揃ったにもかかわらず、全ての行動の先を行かれた。まだ、ヴィヴィオのほうが早かった。
先ほどの4度目では、あえて見に回るために距離をとり、射撃戦に努めた。マテリアル―Lとしての気質か、レヴィ本来の気質かはわからないが、あまり気の乗らない射撃やバインドといった絡めてを珍しく使い、時間を稼いだ。
結局はそれすらも相手が上手であり、まともにダメージを与えられずに圧殺された。
「さて、まだできますよね」
時間がないからか、他の理由か。ヴィヴィオは決着がつくと必ず5分ほどしか休憩の時間を与えてくれなかった。
それでも、その5分でレヴィの頭の中の整理は済んだ。観察した結果は解析し終えた。
「うん、十分だ」
そういうと模擬戦室の床で大の字になっていたレヴィはネックスプリングの要領で跳ね起きる。
跳ね起きたレヴィの顔は不敵な笑顔を浮かべていた。
「なにか、掴みましたか」
両の拳を握りながらヴィヴィオが訪ねる。
「うん。ボクとヴィヴィオの違いに気づいたよ」
「そうですか、では――――答え合わせです!」
そういうと同時にヴィヴィオは軸足の底に小さく展開した足場を踏み込み、チャージを仕掛ける。
レヴィと、普通の空戦魔導師との違いのその一である。
本来空戦魔導師は空中での移動は全て飛行魔法で行う。それは加減速はもちろん、スタートとストップまで飛行魔法で行っている。
普通の空戦魔導師であればそれで問題はない。
しかし普通でないのなら。武術としての踏み込みや歩法を習得した空戦魔導師に限って言えば、初速だけなら己の足で地面を蹴った方が速い。
いうならばロケットが己の力だけでエンジンを噴火し加速するだけではなく、カタパルトを用いて勢いをつけ初速を稼ぐようなもの。
それをするために、ヴィヴィオはデバイスが無くても足場を自分の足元に瞬時に生成することができるように鍛えられている。ほぼ無意識に、踏み込みたいときに踏み込みたい場所に足場が生成されるように。毎日毎日、幼いときにレヴィに指示を仰いでから毎日。無意識に刷り込まれるほどにその魔法を繰り返していた。
そして初等部4年生の進級祝いで与えられたデバイスの中に、それを補助する装備が含まれていた。
現在もヴィヴィオが足に装着している足鎧。それは、スバル・ナカジマのマッハキャリバーのような、足場を生成する魔法が組み込まれた、それを補助するためだけのデバイス。
そして、それと同じものはレヴィの
故に、一つ目の違いにはすぐさま思い至ることができた。
踏み込みの勢いのままヴィヴィオが拳を突き出す。
ただのストレート。
しかしそのストレートは、空中で無理やり腕を振るったにしてはコンパクトで、鋭く、そして
空戦中に行う拳の突き出しにしては早く、鋭く、体重の乗った一撃。その予想を反する早さに、重さにレヴィは苦戦してきていた。
今まで苦労したそれをレヴィは最小限の動きで
そしてカウンターに魔力刃を展開し薙刀状に変形したバルニフィカスで突く。
その動きもまた、これまでのレヴィの動きとは見違えるほどコンパクトで早く、鋭い一撃だった。
その一撃をヴィヴィオは突き出していない側の腕で防御し逸らす。
模擬戦が始まってから
拳と薙刀を突き出しあった至近距離で二人は笑みを浮かべる。
「気づき、ましたね」
「うん。君の動きの種は暴いたよ」
ヴィヴィオの動きの理由。
空中で地上と同じ動きが、大振りによる遠心力を利用する以外で打撃力を増すことができた理由。
圧倒的に速いはずのレヴィがすべての行動においてヴィヴィオに後の先を取られた理由。
「まさか、自分の身体を、自分の魔力で無理やり動かすなんて、ね」
レヴィのその言葉にヴィヴィオは笑みを深める。
「教えたのはパパですよ。そしてそれこそ私が、私だけが唯一パパのための御神流を継げると、そう判断された理由です」
ヴィヴィオの遺伝子の元となったベルカ最強と謳われた最後の聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。彼女の両腕は
血の通わぬ仮初の両腕を、魔力で人形を操るように、外側から動かす。それによって彼女は日常生活を営み、武術を嗜んでいた。
その才能が、綿密で緻密な魔力操作の熟練度が、それを行っていた
「正気の沙汰じゃない。調整を間違えれば、自分の身体を傷つける」
「はい。だからパパは人並み以上に頑丈で、人ではない身体の自分だからできる身体運用だと言っていました。私が、ほんの少しでも身体が弱ければ、絶対に教えなかった、とも」
二人はどちらともなく、拳と武器を下し距離を取りながら、会話を続ける。
「やっぱり、正気じゃないよ。ボクの、マテリアル―Lの運用方針とはかけ離れた結論だ。精密な魔力操作だなんて、パワーの代わりに精密動作性をおざなりにした
「そうです。それでも」
「それでも、そうしないとユーリには、U-Dには勝てないんだね」
「そうだと思います。パパは『覚える必要があったから覚えた。使わなきゃいけなかったから使った』そう言っていましたから」
その言葉を聞き、レヴィは目を閉じ、深呼吸を一度行う。
「わかった。きっとそのために君が、生きる教本が居るんだろう。だから未来のボクはボクに、ヴィヴィオと戦えと、そうメッセージを残したんだね。君から全てを学べと、今、ここでボクのための御神流を『完成』させろ、と」
目を開き、ヴィヴィオをまっすぐ見つめるレヴィの瞳を、ヴィヴィオもまたまっすぐに見返しながら
「そうです。あのメッセージと一緒に、私宛にパパから手紙が入っていました。『ヴィヴィオのすべてを、その時代のボクに見せなさい。』と」
そういうとヴィヴィオの右腕が、右腕のガントレットが光り輝く。
「さぁ、Lesson1『身体の使い方を覚えよう』は終了です。このまま次にいきましょう」
そう言い終えると、ヴィヴィオの右前腕は重厚なガットレットではなく、ジャケットそのままになっており、その右手には
「コールブランドTYPEⅡ」
「なるほど、コールブランド。そのデバイスは――」
「はい。パパとアリシアおばさんが私にくれた。御神流の技を、千変万化の
そういうと、ヴィヴィオは構える。左腕を前に突き出し、右手に持った長剣は相手から見てヴィヴィオの身体に隠れるような、そんな独特な構え。
「Lesson2『御神流を覚えよう』」
ヴィヴィオのその言葉と同時に、ヴィヴィオとレヴィはお互いの距離を0にする――――。
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レヴィとヴィヴィオが模擬戦を開始してからどれほどの時間がたっただろうか。少なくとも1時間で済まない時間が立っているのは確実であった。
二人の戦いは今はついに「Lesson3『フォーミュラを覚えよう』」まで突入しており、最初のころとは打って変わった激戦を繰り広げている。
躯体再構築の際に、それ専用に設計し、再構成したシュテルとディアーチェの考えた答えの一つ。バルニフィカス・ジアンサーの新機能も正常に動作しているのを確認した。
そうして二人が模擬戦し続けているなか、併設されたモニタールームではシュテルが延々と観測を行っていた。
「できれば、あなたの力も実際に目で見ながら計測したかったのですが」
シュテルはそう、隣に座りながらモニターを真剣に見続けるアインハルトに告げる。
「そう、ですね。私も、今とてもだれかと拳を合わせたくてうずうずしています」
そういうアインハルトは、無意識なのかしばらく前から右手を握っては開き、握っては開きとずっと繰り返していた。
「参考までにお聞きしますが、あなたはヴィヴィオとはどれくらいやれますか」
なぜシュテルがアインハルトにそんな質問をするのか、それは今モニタールームで行っている作業と関係がある。
シュテルは今までずっと、ヴィヴィオとレヴィの戦闘を観測しながら、二人の戦闘力に関する詳細なデータを取得、蓄積しあるシミュレーションを行っていた。
「あのお二人の戦いぶりを見ても、まだ不安ですか。ユーリさんとの戦いは」
アインハルトが視線もあわせず言い放つ言葉の通り、シュテルはずっと最終決戦となるであろうユーリとの、U-Dとの戦闘をシミュレーションしていた。
より詳細により精密にするべく、作戦の要であるフォーミュラを使える
「そうですね、不安。なのでしょう。なんど繰り返しても、なんど実施しても、私のこの目の前に現れる結果を見れば、不安にもなります」
「……そうですね。ヴィヴィオさんと、の話になりますが」
そう言って、少しだけ弱気な発言をするシュテルを、アインハルトは横目で見てつぶやくように語り始める。
「ヴィヴィオさんとは練習試合、公式戦。それこそ格闘戦、総合戦あわせて何度も拳を交えてきました。その中で、あのように
ですが、お互い徒手空拳でなら、魔法を含めた空中戦でも、今のヴィヴィオさんに対しては私が有利ですね。これでもまだU-15チャンピオンの場は明け渡しておりませんので。
フォーミュラを使われて同格か、私のほうが不利なのでしょうね、フォーミュラというモノの性質を見るに。戦えば戦うほど、時間が長引けば長引くほど、私が不利になっていくのでしょう。
私の戦力としては、だいたいそのような物、とお考え下さい」
アインハルトにしては珍しい長台詞を受けてもまだ、シュテルの顔色は良くならない。
「……そう、ですか」
シュテルはそういうことがやっとであり、すぐさまアインハルトの言葉から推測されるデータをシミュレータに打ち込んでいく。
それでも、シュテルの纏う雰囲気は、晴れやかにならない。
「どうだ、様子は」
そんな中、レヴィとヴィヴィオの決着が20回目を迎えようとしている中、別件のとある人物についてリンディ達と話し合っていたディアーチェが、様子を見に来たのかモニタールームにやってきた。
「ディアーチェですか、そうですねレヴィは徐々に仕上がってきていますよ」
やってきたディアーチェへと視線を向けながらシュテルが言うように、レヴィは戦いを通じて新たな躯体、新たな力に対して途轍もない速度で習熟していた。
「いまさっき20回決着を迎えて現在は小休止を取っているようですが、このままヴィヴィオと戦って学び、アインハルトという別の相手と戦って復習を行えれば、じきにレヴィの中で『完成』するでしょう」
「そうか。しかし順調そうな割にはシュテル、貴様の表情は優れないようだな」
ディアーチェの指摘を受け目を背けるように、シュテルは模擬戦をモニターしている画面とは違う、もう一つの画面に視線を移す。
ディアーチェはシュテルの後ろに移動し、背中越しにシュテルの見つめる画面を視界に収める。
「ふむ、これはシミュレーションか」
「はい」
「見たところユーリとの戦闘か」
「そうです。未来のレヴィからもたらされたデータでユーリの戦闘力、およびこちらの戦力を修正したうえで私なりに実戦を想定したシミュレーションを組み立てています。戦闘の要であるレヴィとヴィヴィオの戦闘データは現在モニターしつつ最新のものへ逐次アップデートを重ね、なるべく決戦時と同様の状況を構築しようとしています」
シュテルは話しながら組み立てたシミュレーションを実行する。その動作を眺めていくうちに、ディアーチェにはシュテルがなぜ浮かない顔でモニターを眺めるのかを思い至る。
「このシミュレーション、もしや……」
「はい。ディアーチェもお気づきの通り、
そうして行くうちにシミュレーション戦闘は決着を迎える。
「どうしても、どうしてもあと一手が足りないのです。
現状の戦力ではレヴィとヴィヴィオの二人でユーリの生命力を吸収する能力からの防御、回復、そしてユーリへの攻撃を分担する。しなくてはいけません。しかし、そうするには2人では手が足りません。
そして王の検証の結果、フォーミュラと同様にユーリの能力に耐性を持つと推測されるECドライバーのトーマ。しかしECドライバーの全力を発揮されると、今度はフォーミュラが使えるレヴィ、ヴィヴィオ、そしてトーマ以外の魔導師がまともに戦闘できなくなります。ですので、結局2人の負担は変わらず。
せめてあと一人フォーミュラ使いが居れば、それかレヴィではなくフォーミュラを使えるのが私か王であったならば……」
悔しさか焦燥のあまりシュテルは無意識のうちに親指を噛み締めていた。
その後ろでディアーチェも顎に手を当てながら考える。考えながらシュテルと会話をする。
「しかし、シュテルか我、そのどちらでもここまで早い躯体の再構築、そして初期設計にない力への習熟は無理だ。それこそまさに時間が足りない」
「はい。王のおっしゃる通りです。今回の計画はレヴィだから、マテリアル―Lだからこそ実行できたスケジュールです。私や王では、あまりにも複雑に過ぎますから」
シュテルとディアーチェの言う通り、初期設計にない仕様を追加してのVerUPをこの短時間で不具合なく完成させることができたのは、偏にレヴィ―マテリアル―L―のもともとの作りが簡素かつ単純であったからできたことであった。
さらに、レヴィ自身はその特殊な生まれから、技術を学ぶということに関しては他の追随を許さないほどの速度があるため、実戦で活用できるレベルまで新技能を習熟することが可能であった。
これがシュテルであれば、新たな躯体のロールアウトにレヴィの10倍、動作テストがスムーズに行っても、新機能を満足に戦術に取り込むほどの習熟には、少なく見積もってもレヴィの5倍の時間を要することだろう。
ディアーチェであればシュテルよりさらに大きく期間を延ばすことになる。
これはそもそものマテリアルの設計思想がそのようになっているためどうしようもできない事柄であった。
『ふぅ……は、ははは。勝ったぁ』
『がーーー、また負けたぁ!!』
そうしてシュテルが悩んでいる間にレヴィとヴィヴィオの模擬戦もひと段落ついたようであった。
それを見計らい、ディアーチェがマイクのスイッチを入れしゃべりかける。
「おい、レヴィ」
『んぁ? 王様じゃん、どうしたの?』
「貴様らが模擬戦を始めて数時間は立っている。もうよい時間だ、ひと段落ついたようだし食事にしよう。実は小鴉が次元渡航者を拾ってきた。そいつと顔合わせもしたい」
『あーい。了解~。立てるくらい元気になったら行く~』
「ヴィヴィオもだ。よいな」
『は~い。わかりました~』
二人の返答を聞くとディアーチェはマイクのスイッチを切るとシュテルの方に向き直る。
「と、いうわけで我はお前たちを呼びに来たのだ。考え続けるだけでは煮詰まろう。とりあえず食事をとりながら気分転換でもするがいい」
「そう、ですね。王の言う通りです」
「なに、腹も満ちて気分が変わればポッと打開策が見つかるやもしれんしな! では我は先に行っているぞ」
ディアーチェはそういうと、明るく笑いながらモニタールームを去っていった。
「ディアーチェさんの言う通りですね。私はヴィヴィオさんたちを迎えに行ってそのまま一緒に食堂へ向かいます」
ディアーチェの後を追うようにアインハルトも最後にそれでは。といってモニタールームを後にする。
1人残ったシュテルはシミュレーションを終了し、機材の電源を落としていく。
モニタールームに映し出されている光景を、大人モードを解除したヴィヴィオと一緒に寝ころび談笑している中、アインハルトが入ってきてヴィヴィオと軽口をたたきあう。
そんな光景を見て明るい、満面の笑みを浮かべているレヴィを見つめながら――――
――対抗策ならば、もうすでに……。でも、それは―――。
――シュテルはそう、一人思い悩みながら、モニターの電源を落とした
そんなわけでヴィヴィオちゃんがお強いという話。
レヴィが使う『御神流』が『完成形変体刀』だとしたら、これよりもっと成長した時のヴィヴィオちゃんは『完了形変体刀』みたいな感じ。
さて、この話を終えたことでGOD編はいよいよクライマックスとなります。
プロット上はエピローグを入れてあと2話。
だけど実際はわからない。
この後から完結までは勢いが大事だと思っておりますので、申し訳ありませんがかなり長い時間を頂いて書きためた後、まとめて投稿という形を取るかと思います。
それでは、次回もまたよろしくお願いします。