魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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ついに始まる最後の戦い。


最大最強の敵にして災厄の化身。

化物。

怪物。

真なる闇。


悲しむ少女を救う戦いが、はじまる。



――戦闘開始。




GOD編第9話 「Start of [the Combat]」

―――――――――――――――――

 

 

 ふよふよと空を揺蕩う少女が居た。

 

 カールのついた輝くような金色の長髪が海風に流される。

 

 どこへ行くわけでもなく。

 どこへも行かないように。

 

 ずっとずっと逃げ続けていた。

 

 生命の灯(きれいなひかり)から。

 

 

 ふと意識が奪われ、明るい光が、温かい光が多くある方へ方向を変えるも、すぐに意識を取り戻し反転する。

 

 そうしてずっと、ふらふらと、ふよふよと。

 

 意識と無意識の狭間で、生命の灯(きれいなもの)から逃げるように。

 

 

――そうしないといけないから。

 

 

――そうしないと怖いから。

 

 

――あんなにもきれいなものを、システムU-D(わたし)はすべて奪ってしまうから。

 

 

 そうして、ユーリ・エーベルヴァインはずっと己と戦っていた。

 ありとあらゆる生命の天敵(システムU-D)と。

 

 

 そうしている時、ふと気が付く。

 

 

 沢山の(生命反応)が、己に近づいてくることに。

 

 

――ダメ。私に近づいてはいけない!

 

 

 そう思っても、声にはならなかった。

 目が覚めてから、目を覚ましてしまってから長い時間己を律してきた彼女はもう夢うつつであり、今自分の身体を操っているのがユーリ(自分)なのかU-Dなのかすら判断つかなかった。

 

 そうしているうちに、自分がいる場所が変わったことを直感で理解する。

 アースラから遠隔で起動された結界である。

 

 

「対象とエンゲージ」

『みんな、頑張ってね!」

 

 

 黒づくめの小さい魔導師の言葉に、どこからか声が返ってくるのを見つめるユーリ。

 

 気付いたら、周囲は大小さまざまな眩い輝き(いのちのひかり)に囲まれていた。

 

 

 

「ユーリ」

 

 

 

 その中から、まだ唯一認識できる存在が声をかけてくる。

 

 

――マテリアル―D。

「マテリアル―D」

 

 

 こんどの思考は口に出すことができた、今はまだ、自分であるらしい。

 

 

「終わらせに来たぞユーリ。すべてを」

「そう、ですか」

 

――やっと、終われるんですね……。すべての命を喰らってしまう(ぜつぼう)は。

 

 

「――やく」

「なに?」

「はやく、してください。(U-D)が、あなたたちを殺さないうちに!!」

 

 

 ユーリの慟哭と共に、ユーリの背中から炎が噴き出す。

 魄翼(ソレ)は大きく広がり、魄翼(ソレ)から広がるエネルギー光(フレア)はユーリの身体を覆う。

 その姿はまさに巨鳥。どす黒い血のような、赤黒い、絶望の鳥。

 

「ああぁぁあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあああああああAAAAAAHHHHHHHH――――――」

 

 

 

 

『魔力反応爆発的に増加中!』

 

 アースラの管制室から現場に、ユーリの慟哭と共におきた変化が伝えられる。

 

「総員戦闘態勢!」

「待っていろユーリ! 今、救ってやる!!」

 

 クロノとディアーチェの叫びとともに、戦いの火ぶたは切って落とされた。

 

 

 

 ***

 

 

 ***

 

 

 

「一番槍は――」

「私たちが貰ったぁ!!」

 

 

 クロノの指示とほぼ同時にユーリに向かって飛び出したのは、夜天の守護騎士であるシグナムとヴィータ。

 

 対人戦闘力がトップクラスのシグナムに、対物対大物などの破壊性能の高いヴィータ。

 

 現場にあつまる魔導師の中でもトップクラスの攻撃力をもつ2人が躍り出る。

 

 

「手加減は無用と判断させてもらう! 紫電―――――――」

「遠慮は無しで行くぜ!! ラケーテン―――――――」

 

 シグナムが剣を振りかざし、ヴィータが槌を振り上げる。

 2人のデバイスがカートリッジをありったけ装填し、薬莢を輩出するとともに、魔力を爆発的に増加させる。

 

「一閃!!!!」

「ハンマー!!!!」

 

 炎の斬撃とロケット噴射で加速した槌が同時に激突する。

 

 たった一人の、小柄な少女に向かって。

 

 

「―――――!!!!」

 

 

 爆炎と共に吹き上がる煙幕によりユーリの姿は見えなくなる。

 あいさつ代わりの技を打ち終わった2人は、しかして油断せずその煙幕を見据える。

 

「どうだ、ヴィータ」

「話に聞いてたよりは手ごたえがあった。バリアを砕いた感触もした。攻勢プログラムってのは十分効いてるっぽいぜ。だけど」

「あぁ。だが―――」

 

 

 海風によって急速に晴れていく煙幕を見つめながら2人は声を掛け合う。

 ヴィータの言う通り、シグナムにも手ごたえはあった。

 それは、レヴィから聞いていた話よりは大分大きいものだった。

 

 

 しかし――――

 

「浅い、か」

 

 ――晴れた煙幕から現れるのは、傷どころか汚れすら服にも体にも付着していないユーリの姿。

 

 手ごたえはあれど、それは話に聞いていたよりは、の但し書きがつく。

 

 今の手ごたえでは、仕留めたどころか傷をつけたことも怪しいと2人は感じていた。

 そしてその感覚はあたっていた。

 

 

 痛くも痒くもない、といった様子でユーリは佇んでいた。

 

 

 そして、その背の魄翼が大きく開くと、そこから雨霰のごとく魔力弾がまき散らされる。

 

 

「散れ!」

 

 

 シグナムの声と共に、ユーリの側から各々の判断で魔力弾を避けるために動く。

 

 

 しかし、動かぬ人影がただ一人。

 

 桃色の光を放つ魔法陣の上に立ち、デバイスをユーリに突きつけるのは、高町なのは。

 

 

「ユーノくん!」

 

 

 なのはに向かっていた魔力弾が当たるかと思われたその時、なのはの声とともに緑色の障壁がなのはの目の前に現れる。

 

「なのは、防御は任せて!」

 

 なのはと共に死線を潜り抜けたユーノ。その補助魔法の能力はクロノをして「流石」と言わしめるほどの腕前。

 そんな彼が、全力でなのはをサポートしていた。

 なのはが全力を出せるように、意識のすべてを攻撃に割けるよう、防御のすべてを担っていた。

 

「うん! 受けてみて、私の全力全開!」

<Excellion Buster>

 

「ブレイク、シューーーーーーーーーーーット!!!!」

 

 

 掛け声とともに放つはエクセリオンバスター。現状のなのはの砲撃魔法では随一の威力を誇る。

 

 その砲撃は道中にある魔力弾をかき消しながら一直線にユーリへと飛翔する。

 

 

 

 ユーリもその砲撃の脅威を悟ったのか、魄翼が攻撃の手を止め、周囲へ展開しバリア状に変化する。

 

 

 直撃。

 

 

 エクセリオンバスターの炸裂反応もあわさり、再度煙の中に埋もれるユーリ。

 

 そして、エクセリオンバスターを防御するために緩んだ攻撃の手。

 その隙を見逃す魔導師は、この場には立っていない。

 

 

「プラズマスマッシャー」

「雷光破」

「ディザスターヒート」

「シュワルベフリーゲン」

「ブライズカノン」

「アロンダイト」

「ブリューナク」

「ディバインバスター」

「シルバーハンマー」

『ファイネストカノン』

 

 

 雨霰と四方八方から飛び交う砲撃魔法。

 

 

 そのどれもが手加減なく、そのどれもが本気で。

 そんな集中攻撃を受けては一溜りもないだろう。

 

 

 相手が、普通の魔導師であったのなら。

 

 

 雨霰と降り注いだ砲撃魔法によって煙幕はさらに濃度を増したが、その煙幕を切り裂くように無数の炎弾がところかまわずまき散らされる。

 

 己に近づけないためと、視界を確保するためにユーリはスピットフレアを撒き散らす。

 

「いまの一斉射でもダメージ無し、か」

 

 煙が晴れた先に見える無傷のユーリを見てクロノが呟く。

 

「ちくしょう。堅すぎんだよ!」

 

 スピットフレアによる弾幕を避けながらヴィータが叫ぶ。

 

 射砲撃魔法を使える者が全員で一斉掃射した砲撃魔法を受けても傷一つついた様子のないユーリにヴィータだけでなく、戦場にいる全ての人が同様の感想を持っていた。

 

 

「でも、まだ()()は使ってこないみたいですね」

 

 最小限の動きで弾幕をよけつつも接近を狙うヴィヴィオの言葉に全員が言葉もなくうなづく。

 

「多分、残っているユーリ本人の意思が使わないよう抑制しているのでしょう。その代わりその抑制が強固な防御として機能してしまっているのかと」

 

 ヴィヴィオの言葉を引き継ぐようにシュテルが主観を述べる。

 その考察の裏付けをとるように、ユーリは戦闘開始からその場を一歩も動いてはおらず、その両腕は己を掻き抱き、攻撃といえる攻撃は背の魄翼から放たれる散弾による無差別な弾幕のみであった。

 それはまるで、自分に誰も近付けさせないように丸まるハリネズミのよう。

 

「そのおかげでこうして全員が好きに行動できる、というのはありがたいが――」

「向こうにダメージが通らんかったらなんも意味ないなぁ」

 

 そんなユーリの様子に辟易としているディアーチェとはやての言葉は、その場に居る全員の焦りを代弁していた。

 

 

 その中で積極的に動く影が二つ。

 

 

「フェイト、いこう」

「うん。レヴィ」

 

 この場に居る誰よりも速い2人が同時に加速する。

 

 ユーリが張る弾幕を、フェイトは極力無駄の無い動作で。レヴィは強引に身体を操りながら無理やり。

 お互の性格が表れる機動を取りながらも、高速で、確実にユーリに近づく。

 

 

「スライサー」

 

 レヴィの呟いた言葉と共にバルニフィカス・ジアンサーは薙刀状のスライサー形態へと変形し、魔力刃を展開。

 

 

<Crescent Form>

 たいしてフェイトの持つバルディッシュ・アサルトは音声で変形を告げ、大鎌状のクレッセントフォームへと変形する。

 

 

「ズレないでよ、フェイト」

「あわせるよ、レヴィ」

 

 

 そうして愛機を変形させた2人は、ユーリを軌道上の中心に置くように大きく離れ、一気に加速する。

 

「雷光――――」

「ライトニング―――――」

 

 そうして2人が描く線が、ちょうどユーリを中心点として重なる瞬間――――

 

X字切り(クロススラッシュ)!』

 

 ――手に持った刃を振りぬきながら、加速を止めずそのまま交差し通り過ぎる。

 

 

 雷光X字切り(ライトニングクロススラッシュ)

 

 その名の通りレヴィとフェイトが高速で対象をX字に交差するよう切り裂き、その加速を止めずに過ぎ去る一撃離脱のコンビネーション技。

 

 高速移動による加速度ののった一撃。その威力、衝撃はさることながら、2人で挟むように同時に斬撃を対象に命中させることにより、ダメージの受け流しを許さず、対象に確実に強烈な一撃を与える。

 その威力は相乗効果によって一人で突撃するより何倍もの威力を発揮する。

 

 しかしこの技、一瞬でも衝撃の伝わる打点、攻撃の当たるタイミングがズレたら最大威力を発揮せず、ただの1+1のダメージしか与えられない繊細な技でもあり、長年一つの身体に同居していた2人だからこそ最大限の威力を発揮できる連携技であった。

 

 

 その攻撃はさすがのユーリも怯んだのか、一瞬スピットフレアの勢いが弱まる。

 

 極短時間、それこそ数秒もない時間を利用し、ユーリに近づく影。

 

 

 X字切りを放った勢いのまま反転し、再度X字切り(クロススラッシュ)を狙うレヴィとフェイト、そしてそれに合わせるように動いている剣の騎士、シグナム。

 

「シグナム!?」

 

 予想外の乱入者にレヴィは驚くも、シグナムの存在を気にも留めないフェイトに気づく。

 

 

「シグナムなら、大丈夫」

 

 

 レヴィの視線に気づき、強くうなづきシグナムに対して強い信頼を見せるフェイト。

 

 フェイトとシグナムが出会ってからの3か月。短いようで長い3か月は、フェイトにとってシグナムの実力に疑問を抱かせる必要はない時間であった。

 

「シグナム! 合わせられる!?」

 

 コンビネーションを中断することもできるが、する気のないフェイトを、シグナムの力量を信頼するフェイトを信頼しレヴィは叫ぶようにシグナムに問う。

 

「愚問。ひよっこ2人に合わせることなど、造作もない!」

 

 シグナムはそう叫びながらユーリに近づくにつれ、レヴァンティンを振り上げカートリッジを装填、炸裂させる。

 

「紫電――――」

 

 一足早く魔法を発動し、目の前に迫るユーリを叩き切らんと剣に炎を纏わせるシグナム。

 明らかにフェイトやレヴィより早い魔法の発動。しかし、それはレヴィとフェイトの速度を計算したうえでの移動、魔法発動であり

 

「雷光――――」

「ライトニング――――」

 

 遅れてレヴィとフェイトが体制を整えたように見えても――――

 

 

「一閃!!!!」『X字切り(クロススラッシュ)!!!!』

 

 

 ――三本の剣閃は綺麗に*の字を描くようにユーリを中心に交差する。

 

 

 そして先ほどと同様にレヴィとフェイトは勢いを止めずにユーリから離れ、シグナムも剣を振り下ろした勢いをあえて殺さず、海面に向かって降下する。

 

 

 3人の即席連携攻撃の衝撃でユーリが大きく怯み、そしてその攻撃を繰り出した3人は高速でユーリの側からなにかに道を譲るように離れる。

 

 

 

 そしてそれは訪れる。

 

 

「チャージ完了!」

「迸れ、焔の煌めき!」

 

 

 

 ザフィーラとユーノ。

 

 防御役の2人にユーリからの防御を完全に任せきることで、なのはとシュテルの砲撃魔法は準備を完了していた。

 

 2人の眼前に聳えるのは収束魔法と見紛う魔力球。

 防御に気を裂かず、自信の魔力のみを溜めに溜めた砲撃魔法は、まるで二つの恒星のように、桃色の光と朱色の光が煌めき輝く。

 

「ハイペリオン――」

<Hyperion Smasher>

 

「セレネシアン――」

 

 

 フェイト、レヴィ、シグナムの3人による*字切りによって完全に一瞬スピットフレアが止まり、前衛の2人が道を開けることが可能になったその瞬間を狙ってフルチャージの砲撃魔法が放たれる。

 

『スマッシャー!!!』

 

 なのはとシュテルの砲撃(スマッシャー)は迷うことなくユーリへと突き進み、直撃。

 

 込められたあまりの魔力量に着弾した魔力はそのまま止まらず、ユーリにぶつかり弾けるようにユーリの後ろへと拡散。

 

 なのはとシュテルの2人とユーリを挟み逆側に位置してしまっていた者は慌てて、その余波を避けるほどの勢いで、二つの大魔力砲撃はユーリを飲み込んだ。

 

 

 その光が途切れる間もなく、旋回を終えたレヴィとフェイトは三度ユーリへと突き進む。

 

 シグナムとの即席連携、なのはとシュテルの砲撃により、スピットフレアは完全に止まり、2人を阻む物は何もない。

 単純に、最速で、一直線に。

 

 レヴィとフェイトで挟むように高速で接近し、砲撃魔法の光が収まる瞬間を狙い、三度目のコンビネーションを放つ。

 

 

雷光(ライトニング)――――』

 

 2人の三度目の斬撃がユーリに向かって放たれるその瞬間。

 

 

 炎の剣が二本、光から飛び出てくる。

 

 

 ユーリを挟むように振るわれた二本の剣閃は、先ほどまでとは違い、突き進むことなく止められる。

 

 

 光から、光の中から現れたユーリの腕から出る、二本の炎剣によって。

 

 ユーリの意識を乗っ取りつつあるU-Dはプログラム特有の冷静な計算によって、レヴィとフェイトの三度目のX字切りを予測し、対抗した。

 

 そしてユーリの視界が晴れると同時に、U-Dは己の予測が間違っていないことを、炎剣によって動きを止められたレヴィとフェイトを見て確認する。

 

 

 そしてユーリの細腕を振るい、レヴィとフェイトを薙ぎ払うと共に、長大な炎剣によって切り裂こうとした。

 

 

 

 

 

 

 その瞬間ユーリ(U-D)は背中から強い衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 選択していたのがスピットフレアによる周囲の無作為爆撃で逢ったのなら、また話は変わったのだろうが、直近の脅威と認識したレヴィとフェイトのコンビネーションへの対応のためにエターナルセイバーによる薙ぎ払いを優先してしまったがゆえに、ユーリは決定的な隙をさらしてしまっていた。

 

 視線を背中側に向けると、そこには魔力で作り出した足場を踏みしめる少女の姿。

 

 ユーリ(U-D)が知らない、現状の自分に対して有効打をもち、最も高い打点(ダメージ)の出せる存在―――

 

 

 

 

 

「わが拳は空を断つ」

 

 

 

 

――拳を引く覇王(アインハルト)の姿。

 

 

 拳が繰り出される。

 

 

 ユーリの身体に強い衝撃が走る。

 

 戦闘が始まってから()()()()、ユーリがうけたまともなダメージであった。

 

 

「我が脚は地を穿つ」

 

 

 蹴りが繰り出さる。

 

 動くことも、反応することも許されないほどの高速で、隙のない連撃。

 その一撃一撃が、確実にユーリにダメージを与えていった。

 

 

「殺意は波濤の如く、その武は嵐が如し」

 

 

 殴打が、蹴りが。

 拳が、足が。

 

 絶え間なく、自然に、止まることなくユーリを打ち付ける。

 

 

殺激嵐武断空撃(あなたがしぬまで、なぐるのをやめない)

 

 

 

――拳打

 ―――蹴打

  拳打蹴打

   拳打打蹴打蹴!

 

蹴打打打打蹴蹴蹴打打打打蹴打打蹴蹴蹴打打打打打!!!!!

 

 

 あまりの衝撃のためか、人体を殴っているとは思えない轟音が、豪雨の音のように絶え間なく鳴り響く。

 

 

 これこそが、ヴィヴィオをして徒手空拳で勝つのは難しいと言わしめる覇王(アインハルト)の武。

 

 全ての動作が覇王流の極みに、断空に至ったが故に、アインハルトの繰り出す攻撃は、すべてが拘束も防御も意味をなさない神の一撃。

 

 

 

――――神撃。

 

 若干14歳にしてその域にたどり着いた覇王の(けん)

 

 

 

 隙を見せたら殺される。

 

 防御をしたら殺される。

 

 一撃貰ったら殺される。

 

 触れられたら殺される。

 

 

 

 なにもしなければ殺される。

 しかし、なにをしても殺される。

 

 

 唯殺す。

 

 

 14歳にしてDSAA公式委員会から、U-15の殿堂入り(という名の出場停止)に指定しようかという議論がなされるほど、他の追随を許さぬ圧倒的な武の持ち主。

 

 アインハルトを前にして立てるのは、人智を超えた防御力とタフネスをもつ怪物か、全ての攻撃を見切り捌ききることのできる神眼(しんがん)の持ち主のみ。

 

 

 

 普通であれば、両の手では数えきれないほどの回数だけ、死んでいてもおかしくはない猛攻。

 

 しかし残念ながら、今のアインハルトの相手は普通ではなく、アインハルトの猛攻を受けてなお戦闘が続けられる()()そのものであった。

 

 

 

 

「がああぁぁぁあああぁぁあぁあぁぁぁAAAAAああああAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHH■■■■■■■■■■■――――――!!!!!!!!」

 

 

 

 ダメージを無視して殴られながらも無理やりアインハルトの腕をつかむユーリ。

 

 しかしその程度の抵抗はアインハルトにとって脅威にならない。

 少しでも足が動けば、少しでも腰をひねることができれば、少しでも肩を捩じることができれば。

 それだけでアインハルトの一撃は断空へと至る。

 

 

 掴まれた腕を引き、ユーリを自分に引き寄せそのまま体を回転。

 肘でユーリの胸を打つ。これも断空。

 そのまま背負い投げの形でユーリに自分の肩を強く打ち付ける。これもまた断空。

 

 

 そしてそのまま、投げに入ろうとしたところで、アインハルトの動きが止まる。

 

 

「っ!!」

 

 息をのむアインハルト。

 

 右腕はユーリの右手に。

 左腕はユーリの左手に。

 

 

 

 そして、両足はユーリの魄翼の巨腕に掴まれていた。

 

 たった一瞬の隙。アインハルトが鉄山靠(てつざんこう)の要領で断空を放った一瞬の隙を突かれた。

 唯人であればあまりの衝撃に動くことはおろか、呼吸すら、心臓の鼓動すらままならぬ打撃を受けてなお、その衝撃を持ち前のタフネスで耐え、システム(U-D)が身体を動かしているという利点により無理やりアインハルトを拘束した。

 

 アインハルトの攻撃を受けて倒れないタフネスと、4()()()()という普通の人には無い部位があるからこそ実現した突破法。まさに怪物の所業。

 

 

 

「しま――」

 

 ――った。アインハルトがそう言い切る暇もなく、U-Dの浸食が始まる。

 

 

「あ、ぁっ」

 

 

 

 身体が沸き立つ。

 

 血管が沸騰する。

 

 神経が泣き叫ぶ。

 

 魔力が暴れ狂う。

 

 

 

 ダメージをうけたU-Dが、そのダメージをアインハルトそのもので補うために捕食する。

 奪い取る。

 

 

 

 

「ぐ、ああああああぁぁぁああああああぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 アインハルトの苦痛の叫びと共に、アインハルトの身体から血のような色の結晶が生える。

 

 

 

 結晶樹。

 

 

 

 ユーリ(U-D)が持つすべての生命の天敵たる理由。

 

 生命力という概念を物質化し結晶化させ、奪う。

 

 全ての命を喰らいつくす災厄(さいあく)の力。

 

 

 

 いままではユーリの意志で封印されていたそれが、アインハルトの猛攻により受けたダメージによてU-Dの防御反応がユーリの意識を上回ってしまったことで、ついに解禁された。

 

 

 アインハルトの結晶樹を奪うかのように、ユーリの身体には両手から赤い刺青が体中に刻まれていく。

 

 

 それはもう、ユーリではなく、破壊の化身。すべての生命の天敵。

 

砕けえぬ闇(システムU-D)』そのものであった。

 

 

 

 

 

「ちょおおおおおっと待ったああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 生命力を奪われるアインハルトと奪うU-Dの間を切り裂くように青い閃光が走る。

 

 それを察知し、アインハルトを投げ捨て離脱したU-Dの位置を予測したかのように、U-Dに向かって虹色の砲撃が飛ぶ。

 

 円形に広げた魄翼の障壁でその砲撃を防いだU-Dは回復の邪魔をした攻撃の先を見る。

 

 

 そこには、フルドライブ状態(特大剣形態)のバルニフィカス・ギガブレイバーを振るうレヴィと、アインハルトの隣からU-Dへと、同じくコールブランドのフルドライブである大剣(TYPEⅢ)を突きつけるヴィヴィオの姿。

 

 

「全く、足引っ張らないでくださいってヴィヴィオちゃん言いましたよね」

 

 身体中から生える結晶樹によって身動きが取れないアインハルトに、U-Dから視線を外さずにヴィヴィオが声をかける。

 

「……あれで落とす気でいたのですが、……少々驕ったようです」

 

 そのヴィヴィオに辛そうながらも声を返すアインハルト。

 アインハルトの返答を確認し、ヴィヴィオは小さく、されど深く息を吐く。

 

 

「良かった、死んではいないんですね。私がチャンピオンベルト奪うまで死んじゃダメですからね」

「――それは、長生きしないと……いけないですね」

 

 

「UUUUUUUUUAHHHHHHHHHAAAAAAAAAAAAAAAAA■■■■■■■■■―――――」

 

 

 ヴィヴィオとアインハルトの会話も、戦場に響く慟哭にかき消される。

 

 それはアインハルトの結晶樹を吸収したことで身体中に刺青のような模様が走り、瞳は緑色、綺麗な輝くような金髪はくすんだ黄色へと変色したユーリ(システムU-D)の姿。

 

 そしてその咆哮と共に、U-Dを取り囲むように動いていた魔導師全員の身体に不快感が走る。

 

 

「っぅ」

 

 

 その声にならぬ驚愕はだれの口から出たものか、しかし魔導師全員が、機械の身体であるアミタ、キリエ。そして他の存在を浸食するウィルスを保有するEC因子適合者のトーマ以外のすべてがその不快感を覚えていた。

 

 

「うえぇ気持ち悪い!」

「ヴィヴィオ!!」

 

 ヴィヴィオはあまりの不快感に声をあげるも、レヴィの声で我にかえる。

 

「はい!」

「使うよ!」

「了解です!」

 

 ヴィヴィオに声をかけながら、レヴィはヴィヴィオと己でU-Dを挟むように大きく旋回する。

 その間にも魔導師たちは己の生命力が外へ出ないよう抗うかのように身体を掻き抱く。

 

「時間稼ぎは私たちにおまかせを!」

「なるべく早くお願いね」

「行くよ! リリィ!」

『行こう! トーマ!』

 

 その身体が機械であるがゆえに生命力という概念の無いフローリアン姉妹と、ECウィルスを持つが故にユーリ(UーD)の能力と干渉し、打ち消しあうトーマ。

 UーD能力の適応外である3人は足止めのため、咆哮を続けるU-Dに突撃し、四方八方から前衛、後衛を臨機応変に切り替え戦っている。

 

 全ては切り札(エース)の準備が整う時間稼ぎのために。

 

 その3人の奮闘もありレヴィは所定の位置につくと愛機、バルニフィカス・ジアンサーを構える。

 

 

「バルニフィカス・ジアンサー」

「セイクリッドハート」

 

 

 ヴィヴィオも胸に手を当て、己の中に同化している愛機へと声をかける。

 

「超過駆動解放」

 

 レヴィの構えたバルニフィカスは、武器の部分が弾けるように消え去り、持ち手だけとなった棒状に変化する。

 

「疑似聖王核連結起動」

 

 ヴィヴィオのその言葉と同時に、ヴィヴィオの魔力が爆発的に上昇。

 体中からは虹色の魔力光が渦巻くように体外へと放出される。

 

 

<F.O.R.M.U.L.A.(フォーミュラ) Drive>

 

 

 

『ドライブイグニッション!!』

 

 

 

 2人の声が同時に響き渡る。

 

 

 それと同時に2人の魔力が吹きあれ、そして()()()()()()()()が戦場を満たす。

 

 

 その()()()によって、アインハルトの身体から生えていた結晶樹は破壊され、幾分かアインハルトの身体に活力がみなぎる。

 

 それと同じく他のメンバーの身体を覆っていた結晶樹になりかけの結晶が弾け、虚空に消えていくと主に身体中を駆け巡っていた不快感は失せ意識がはっきりとしていく。

 

 

 そして戦場に居る全員は目にする。

 

 戦場を満たした光の発生源である2人の姿を。

 

 

 

 

 レヴィの襲撃服(スラッシュスーツ)は全ての無駄をそぎ落とされ、スプライトモード同様のボディスーツだけとなり、その右手には銀色の鉄棒、コアと持ち手以外のすべてをパージしたバルニフィカス・フォーミュラブレイドが握られている。

 

 あまりにも無駄の無い姿。あらゆる無駄をそぎ落とした、ありのままの形。

 

 

 対してU-Dをレヴィと挟む対角線上に位置するヴィヴィオはというと、コールブランドの追加装甲により増えたバリアジャケットはさらに豪華さを増し、装甲や装飾がこれでもかというほどに身体中を覆う。

 その姿はヴィヴィオの身体が一回り大きくなったように見えるほどに、鎧が鎧の上に羽織っている衣服の量が増していた。

 唯一見える顔にも、今までなかった王冠のような髪飾りがすえられ、まさに聖王かくありきと言わんばかりの出で立ちであった。

 その右手には聖王の姿とは打って変わり装飾などない、地金と塗装によって見劣りしない程度の見栄えに整えられた長剣が握られており、背には6対12枚のフローターユニットがまるで天使の翼のようにヴィヴィオの背中の後ろに浮遊している。

 

 その姿はまさに、現代に蘇りし聖王そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿を見て一番最初に正気に戻ったのはクロノであった。

 作戦の、戦闘の要はレヴィとヴィヴィオであるとはいえ、クロノは戦闘の全指揮権を戦闘に参加する全員から移譲されていた。

 その責任感が、使命感がクロノを最も早く正気に戻らせた。

 

 

「作戦をBに移行! 各員フォーメーションF! 」

 

 

 

 クロノの声によって、全員が意識を切り替え、即座に動く。

 

 前衛はレヴィを筆頭にアミタ、キリエ、トーマが努める形で4人がU-Dへと突撃する。

 

 ディアーチェ、はやて(ユニゾンinリインフォース)、ユーノ、シャマルが最後衛となり、それを守るようにヴィヴィオとザフィーラが位置する。

 

 そして残りの全員が中衛という、戦況に応じて前衛の穴埋め、もしくは後衛の防御というフォーメーションを取っていた。

 

 

 これがフォーメーションF(フォーミュラ)。作戦B、U-Dが攻撃重視となり結晶樹を使ってきた際、レヴィとヴィヴィオがフォーミュラを発動した後の状況を想定した陣形。

 

 

 前衛はレヴィが他人の回復、防御にフォーミュラを使う必要がなるべく少なくなるように、結晶樹の効果を受けないメンバーがメインで努める。

 

 

 そして作戦の要であるディアーチェを温存するために、補助に特化したメンバー+広域魔導師のはやてを最後衛に配置。

 残りの中衛に対する結晶樹の防御、回復をヴィヴィオが中衛と後衛の間から判断して実施。

 

 少々ヴィヴィオへの負担が重くなるが、疑似聖王核として身体に埋め込まれているロストロギア級の魔力タンクを、それも二基を起動させた今のヴィヴィオはまさに無限に近い魔力を保有していた。

 完全なる無限ではないが、無限に近い有限。それを有するため問題ないというヴィヴィオの強い意志もあり、このフォーメーションは決定された。

 

 

 

 

 そして戦況は若干膠着する様相を呈しながらも、緩やかに、しかし激しく行われる。

 

 

 

 防御行動が減り、その分のリソースが攻撃行動へと回されたU-Dをレヴィ筆頭の前衛が抑える。連携なんてあってないようなものだが、隙を見て殴って、殴られそうになったら離れる。それを4人で繰り返す。

 

 その隙に中衛は射砲撃や、4人のローテーションが間に合わなかった際の緊急遊撃として、U-Dへと攻撃を続ける。

 

 U-Dの攻撃を受け、大きなダメージを負った場合は早めに離脱し最後衛のユーノ、シャマルから回復と補給を受け再度戻る。

 

 

 まるで整った模擬戦のような集団戦の様子が、一人相手に行われていた。

 

 

 フォーミュラの影響範囲から外れないようにするために、ある程度メンバーを固まらせるためやむを得ず取ったこの陣形は、攻撃能力こそ全員での一斉攻撃より少ないものの、安定した戦いぶりを見せていた。

 

 

 しかしクロノも、シュテルも、ディアーチェも。それだけではない、ここに参加している全員が、その安定にこそ恐怖を覚えていた。

 

 

 

 千日手。

 

 

 

 勝ちもしない、負けもしない。永遠と同じ手が繰り返される。

 

 普通の持久戦であれば補給の受けれる上、人数の多い側が有利なのは明白。しかし相手は無限の魔力の持ち主。

 先ほどまでとは変わり攻撃重視になったため防御力が落ちているとはいえ、無限の魔力の下地に支えられるバリア魔法は、全員の中で最も堅いバリアジャケットを展開するなのはの数倍の防御力を誇り、その攻撃能力は対単体に置いてはレヴィやヴィヴィオ、アインハルトと同格であり、対集団においてはディアーチェやはやてに引けを取らない。

 そして本当に本当の、誇張表現も嘘偽りもない真の無限の魔力。絶対に尽きないリソース。それを用いた回復、それはユーノとシャマルが魔力炉と連結して回復を行い続けているような状態。

 

 たった一人で20人近い魔導師と同様の戦力を誇る化け物。それがエグザミアをその身に抱く砕けえぬ闇(システムU-D)

 

 

 つまり、無限対有限の戦い。それはたとえ千日手と言われようが、千日たった後どちらが戦闘可能状態であるかなど、日の目を見るより明らかな事実。

 

 

 どれだけ1を重ねても無限には届かないように、有限は無限には敵わない。

 ただそんな当たり前の事実が付きつけられるだけであった。

 

 

 そのことをわかっているからこそ、クロノを筆頭に戦闘員は全員が内心で焦っていた。

 

 

 しかしそれで事を急いてはいけないということも、今回の作戦立案をメインで担当したシュテルから強く言い含められていた。

 

 

 だから各々が自分の役目を最大限にこなす。

 

 

 レヴィは高速機動での一撃離脱を繰り返しながらも、決して大技は使わない。それは前衛の四人全員の共通事項であった。

 来るべき時(奇跡の一瞬)が来るまで、なるべく魔力を温存するようにとの指令がシュテルからなされているためである。

 

 そのためU-Dへ決定的なダメージは与えられていない。

 しかしそれでも、U-Dが防御へのリソースを減らしたこと、攻勢プログラムが全員にインストールされていること、レヴィのフォーミュラが十分に機能していること。

 

 それら全ての要因が兼ね合い、U-Dには着実にダメージを徹せていた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!!!」

 

 その事実に焦れだしたのか、こちらの数を減らすためか。

 U-Dがまた大きく咆哮を上げ、周囲からの生命力奪取をより強力に、意識的に発動する。

 

 

「セイクリッド・フォーミュラレイン」

 

 

 それを見て素早くヴィヴィオは頭上にコールブランドを掲げると、広域魔法を使用する。

 

 

 それは多重ロックオンを利用し、戦闘域に存在するすべてのモノを対象に放たれる。

 

 U-Dだけではなく、レヴィ達その場にいた者全員がヴィヴィオから放たれた虹色の流星に撃ち抜かれる。

 

 

 その攻撃をユーリは防御し、他の全員は()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 そうして放たれた魔法はU-Dとその他で違った結果を表す。

 

 

 

 U-Dには砲撃魔法と同様のダメージとして、それ以外には()()()()()()という結果を。

 

 

 

 マルチロックオンと、綿密な変数管理をマニュアルで行うことによって実現する、一人一人効果の違う魔法。

 

 

 味方には回復を、敵には攻撃を。一つの魔法で複数の結果をもたらすという絶技。

 

 

 そして、この魔法が放たれたのは、作戦Bに移行してから()()()であった。

 

 

 

 三度同じやり取りをした。

 

 

 

 U-Dへ地道にダメージを与え、焦れたU-Dが結晶樹を強引に発揮させようとするのをヴィヴィオが妨害する。

 

 

 そしてその隙をついて、またダメージを徐々に与える。

 

 

 そんな気が遠くなるような行いを三度繰り返した。

 

 

 

 ************

 

 

 

 そして、ついに戦況が動く。

 

 

 

 邪魔な羽虫を落とそうと攻撃を繰り返すも、それすらもさらに邪魔な存在に防がれることに焦れ、ついにU-Dが行動を変える。

 

 

「―――――――――――――」

 

 

 甲高い声にならない咆哮を上げると共にU-Dから攻撃性を持たないまばゆい光が放射される。

 

 

 それはあまりにも唐突であり、初めての動きであったため反応が遅れるも、その閃光をとっさに目を覆うことで防ごうとする。

 そうしても腕を、瞼をすり抜けて直接眼球を刺すような光量は、まさに閃光弾のような役目を果たし、腕で視界を覆った者たちの視界を奪った。

 ほとんどが視界がまともに働かないため、うかつに動くこともできず、視界が元に戻るのを待つ事しかできない。

 

 そのため、唐突にU-Dが行った閃光魔法の理由を知ることができたものは数少ない。

 そんな数少ないうちの一人であるレヴィは、せわしなく視線を動かし、必死に周囲を見渡していた。

 

 高速戦闘を止まらず行うため、フォーミュラの力で眼球に防御膜を展開していたため、閃光をほぼ無効化できたレヴィは、眩い光の中でU-Dが()()()のを目撃していた。

 

 

 戦闘域は武装局員とアースラによって結界で閉ざされており、その役目は戦闘の余波を漏らさないことも理由だが、最大の目的は転移によって結界の内外へ移動する事を防ぐことであった。

 

 これは先のレヴィの威力偵察の後、転移でユーリが移動し見失ったためであり、同じように逃がすことをしないよう強力な転移阻害と封鎖結界が展開されていた。

 そのために総勢20名、ローテーションで絶え間なくアースラの武装局員が魔力を注入し続けているという徹底具合である。

 

 それを承知であるためレヴィはU-Dが消えても結界の外へは移動していないと確信していた。であれば消えた理由は唯一つ。

 

 

 短距離瞬間移動(ショートジャンプ)

 

 

 奇襲、暗殺。それらを容易にする技能。その技能を戦闘中に使いこなすのは特別な素養が必要であると言われており、使いこなせる者は瞬間移動者(ショートジャンパー)と特別な呼称をされる。

 

 

 そのショートジャンプをU-Dが使ってきた。

 

 

 ならば狙うのは中衛か後衛。レヴィ達前衛が足止めをしていたからこそ、通常の攻撃行動が届かない位置にいる者。

 

 そして、その中でU-Dへの対抗策をもち、もっとも厄介な者。それは――

 

「っ!!」

 

 その事実に気づいた瞬間にレヴィは足場と移動魔法を同時に発動し、加速を開始しながら後ろへと振り返る。

 

 

 そして加速が始まる瞬間、目にしたのは――ヴィヴィオの後ろに現れ腕を振りかざすU-Dの姿。

 

 

「ヴィヴィオ!!」

 

 

 レヴィの叫びが響き渡る。

 

 ――U-Dの腕が振るわれる。

 

 足場を踏み込み移動を始める。

 

 しかし、遅い。気づくのがあと数瞬早ければ間に合ったかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 ――鮮血が飛び散る。

 

 

 

 U-Dの腕が彼女の身体を貫通している。

 

 

 

 ()()()()()()が鮮血の深紅に上書きされる。

 

 

 

 

 

 

 

「――()()

 

 

 ヴィヴィオの呆然とした声が聞こえる。

 

 閃光によって視界を一瞬奪われたかと思ったら、自分に走る衝撃によりその場から強制的に移動させられた。

 U-Dの攻撃かと思い振り向くと、そこには自分をかばうように腕を突き出し、U-Dに胸を抉られている()()()()()姿()

 

 

「――シュテルママ!」

 

 

 ヴィヴィオの叫び声が戦場に響き渡る。それと同時にシュテルの傷口からは赤黒い結晶樹が急速に、何本も生える。

 

 そしてそのまま、それをU-Dが吸収を始めたところで、無表情であったユーリ(U-D)の目が見開かれる。

 

 

 結晶樹に包まれる中、シュテルはU-Dの腕を両手でしっかりとつかみ、その表情を見つめる。

 

 

「――驚きましたか?」

 

 

 

 U-Dの放った唐突な閃光魔法により多くのモノが視界をふさがれ、行動を困難とする状況の中、シュテルが動けた理由。

 シュテルだけが、ヴィヴィオを庇えた理由。それは――――

 

 

 

 シュテルは想定し予想し、戦術を戦略を組み立てていった。

 

 そうしていずれ、死なないためにこの陣形に落ち着き、そして全滅するだろうことまでたどり着いた。

 

 

 

 皆が五体満足でいながらU-Dに勝つ方法はない。

 

 シュテルの度重なるシミュレーションはそう告げていた。

 

 

 

 だからシュテルは覚悟を決めた。

 

 

 

 犠牲が0で勝てないのなら、犠牲を最小限にして勝つ。そのために必要な条件を、戦略を組み立てた。

 

 

 

 数少ない情報からU-Dの行動を想像し、予測し、戦場を作戦段階から組み立てた。

 

 

 

 そうして今、シュテルはヴィヴィオを庇いU-Dに貫かれ、己の生命力を結晶化させられ奪われている。

 

 

 

 

 ――――()()()()()()だった。

 

 

 

 

 今までの戦闘はすべてシュテルの想像通りに、シミュレーション通りに動いていた。

 

 

 

 ヴィヴィオを防御、妨害役としたのも、中衛と後衛の間に配置したのも。

 

 全てU-Dの動きを誘導するため。

 

 

 U-Dがヴィヴィオの妨害に不快感を感じ、優先的に排除するようにさせるため、()()()千日手になる作戦を、陣形を組んだ。

 

 

 ヴィヴィオを庇うためにあえて自分は攻撃に積極的に参加せず、ヴィヴィオの近くの位置取りをキープした。

 

 

 

 すべてはこのために。

 

 己を犠牲にするために。

 

 

 

 聡明なディアーチェに気づかせないため、あえて中衛の数を多くし、自分がそこに紛れるように配置した。

 

 レヴィが間違って()()()()()()()()に、ヴィヴィオを中衛より後ろに配置した。

 

 

 

 

 全ては()()()()()()をU-Dに()()()()()ために。

 

 

 

 

「――どうです、あなた(U-D)のために特別に拵えた調味料(ウィルス)は。さぞ、美味しい、ことでしょう」

 

 

 

 結晶樹による生命力奪取の疲労感と胸を貫通させられているための、呼吸困難。その中で逢ってもシュテルは気丈に言葉を紡ぐ。

 

 

「GU GUAAA■■■■■■■■■―――――」

 

 

 そうしているうちに、U-Dがもがき苦しみだす。

 

 

 シュテルから腕を抜こうとするのを、シュテルは渾身の力を込めて握りしめる。

 

 

 

「私の身体の中に忍ばせた特性のウィルスです。お残しは、許しませんよ――!」

 

 

 U-Dの抵抗は激しさを増す。

 

 しかし負けじと腕を握りしめるシュテル。

 

 

 

 そうしている数瞬、数秒もたたぬ内に加速したレヴィが到達する。

 

 

 

「――――っ!」

 

 

 渾身の力とここまで移動するための加速のすべてが詰まった突撃。

 ヴァリアントコアにより形状をランス状へと変化させたバルニフィカスを握りしめ速度を殺さずに、そのままU-Dに突撃する。

 

「らぁっ!!」

 

 気合の声と共に突き出されるランス。その勢いにシュテルの握力は耐えることができるはずもなく。

 そして目標の時間は、U-Dにウィルスを打ち込むための最低限の時間の拘束を達成したために、シュテルは自らユーリの腕を離す。

 

 

 そうして拘束がなくなった瞬間、U-Dはレヴィの勢いそのままに、その小さい身体を吹き飛ばされていった。

 

 その勢いのまま胸から腕を引き抜かれたシュテルは一瞬意識を失い、飛行魔法を維持することもできず、崩れるように墜ちる。

 

 

「シュテるん!」

 

 レヴィはU-Dを吹き飛ばすと、すぐさま墜ちかけていた血まみれのシュテルを抱き止め、その腕の中に抱きかかえる。

 

 

「シュテルママ!」

 

 レヴィが表れU-Dが吹き飛ばされたことで、呆然自失から立ち直ったヴィヴィオもシュテルの側に近寄る。

 

 

 

 視界を取り戻した面々はその3人を囲うように陣形を変え、吹き飛ばされたU-Dへ警戒を行う。

 

 

「シュテル!」

 

 

 視界を取り戻したディアーチェも、レヴィに抱かれるシュテルの側に駆け寄る。

 そのころには、ヴィヴィオとレヴィによって、シュテルの身体から結晶樹は取り除かれていたが、そのせいでシュテルの胸に空いた大穴がよく見えてしまう。

 

 

 その穴は、シュテルの胸に空いた虚空は、誰がどう見ても手遅れだった。

 

 

「シュテるん、シュテるん! しっかりして!」

「シュテルママ、なんで、私を庇って――」

「シュテル、なぜこんなバカなことを!」

 

 三者三様に詰められることで意識を取り戻したシュテルは、涙を流すレヴィの頬を弱弱しい手で撫でると、口を開く。

 

「――必要な、ことでした」

 

 

 そうしてゆっくりと、シュテルは説明する。

 

 

「彼女に、U-Dに勝つための最後の奇跡。それを引き寄せる生贄に自分を選びました。私の身体を貫いたU-Dに、私の血肉を媒介に直接専用のウィルスを打ち込みました。これで、U-Dの魔力運用は阻害され、勝ちの目が出てきたはずです」

「馬鹿者! それで貴様が再起不能になってしまえば元も子もないではないか!」

「――王の、いう通りですね。そこが、その部分だけが賭けでした。奇跡を祈るしか、ありませんでした」

 

 レヴィ達の泣き顔を優しい顔で見つめながら喋るシュテルに、レヴィは悲痛な声を上げる。

 

「シュテるん! もういいから! 間に合うなら早く躯体を――」

 

 その言葉を頬をなでていた手をレヴィの口へと当てることでシュテルは止めると、ヴィヴィオのほうへと視線を向ける。

 シュテルの視線の先には、レヴィと同様に涙を流すヴィヴィオの姿があった。

 

「――ヴィヴィオ」

「――はいっ。ヴィヴィオですっ」

「私は、大丈夫ですから。戦線に戻ってください。あなたが居ないと、他の皆が、危険。ですから」

 

「――っ。わかり、ました……」

 

 シュテルの言葉に息を飲み込むと、ヴィヴィオは涙をジャケットで拭い、表情を引き締め、戦闘音が鳴り響く前線に目を向ける。

 その先にはシュテルのウィルスにより動きに精彩を欠きながらも他を圧倒するU-Dの姿と、それに抗い傷つきながらも懸命に戦う勇者の姿。

 

 その光景を見て、ヴィヴィオは心を切り替える。

 

「絶対、勝ちますから」

「――えぇ」

 

 シュテルにそれだけ告げると、ヴィヴィオは戦線に復帰していった。

 

 

 ヴィヴィオが戻ったことを見るとシュテルは再度レヴィに視線を戻す。

 

 

「――今から、私は躯体を放棄します」

「うん、だから早く」

「でも、躯体修復には入りません。私は、レヴィ。あなたと()()()()します」

 

 

 シュテルの言葉にレヴィだけではなくディアーチェもまた驚愕に目を見開く。

 

 

 その機能は知っている。レヴィの記憶(原作)ではレヴィとシュテルがディアーチェに対して行ったことである。

 

 

「トリニティドライブ。我々本来の機能を用いて、私はあなたの頭脳となり、私があなたのフォーミュラの使用を補助します」

「そうか、それが貴様の()()()()()()か」

 

 シュテルの言う言葉に、ディアーチェは心あたりがあったのかシュテルにそう問うとシュテルはゆっくりと頷きを返す。

 

 

「私を、受け入れてください。レヴィ」

 

 

 そういって、光も失われつつある瞳でレヴィを見つめるシュテル。

 そのまなざしを受け止め、レヴィは頷き返す。

 

「わかった。それが必要なら。シュテるんの作戦なら、それに従うよ。ボクは2人の、マテリアルズの手足だから――」

 

 

 レヴィのその言葉を聞いて安心したのか、シュテルは目を閉じる。するとシュテルの身体が光の粒子となり解けていく。

 

 シュテルの魔力光である赤い光は、シュテルの躯体を構成していた魔力であり、シュテルそのもの。それは本来なら虚空に消え、紫天の書へと返るはずが、そうはならずそのままレヴィへと吸収されていく。

 

 (シュテル)が身体へ入るごとに、レヴィにも変化が現れる。

 

 

 青色が基調の戦闘衣服は、シュテルの赤を取り入れたためか紫へと変色し、その身体からは紅炎が吹き上がる。

 

 

「受け取ったよ、シュテるんの力」

 

 そうつぶやくと、レヴィは強く拳を握りしめ顔を上げる。

 

 

「シュテルの意志を無駄にするわけにはいかん。疾く征くぞレヴィ」

「うん。いこう」

 

 紅炎を纏う焔神の刃(レヴィ・ザ・フレイム)と、暗黒を纏う闇統べる王(ロード・ディアーチェ)

 

 

 

 

 2人は並び立ち、激戦の最中に舞い戻る―――――。

 

 

 

 




レヴィ達が戦線へ戻るために、時間を稼ぐ必要がある。


それでも敵は強大で、こちらは脆弱。


負けないでヴィヴィオ!
フォーミュラを使えるのはもうあなただけ、まだチャンスは残ってる!

ここを凌げば、レヴィとディアーチェが駆けつけてくれるんだから!


次回、「魔法少女リリカルなのはL×F= 『Battle of [Sacred king]』」


聖王、抜刀。


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