魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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彼女は戦う。

信念と、命を懸けて。


母の願いを叶えるために。

父の家族を救うために。



民に平穏を、悲しむ者に救いを。それこそが、彼女の王道なのだから――。


――聖王の戦い。


----2018年10月1日 追記----
フラスコ(@frasco_coguma)さんがヴィヴィオのフォーミュラドライブ状態のファンアートを描いていただきました。
境界線上のホライゾンのエリザベスを元にしてますが、私も元ネタの一つなのでそんなにデザインに差異はありません。
フラスコさん、ありがとうございました!

【挿絵表示】


※本文等の変更はありません。ファンアートの紹介のみです。


GOD編第10話 「Battle of [Sacred king]」

 時間は少々巻き戻り、シュテルがU-Dに胸を貫かれた後、レヴィによってU-Dが吹き飛ばされた瞬間。

 

 

 視界を取り戻し始め、そして目にしたその光景に一部の魔導師、特になのはやはやては端から見ても狼狽していた。

 

 

 

「気を取り直せ!」

 

 

 

 そんな面々にU-Dの方向へ移動しながら叫ぶクロノの声が響く。

 

 

「U-Dを彼女に近づけさせるな!!」

 

 クロノのその言葉に、いち早く冷静を取り戻したのはヴォルケンリッターの面々。

 

 

「そうだ、今はU-Dを抑えることが先決だ」

 

 シグナムはそばに居たフェイト肩をつかみ。

 

「しっかりしろなのは! アイツは私達と同じなんだから問題ねぇんだよ!!」

 

 ヴィータもまたシュテルを見て呆然自失としているなのはに活を入れる。

 

 

『主はやて、鉄槌の騎士の言う通りです。彼女たちなら大丈夫、最悪でも死ぬ。ということはないはずです』

 

 

 そしてリインフォースもまた、はやての内側から動けないはやてに声を投げかけていた。

 

 

『アクセラレイター!』

 

 

 そんな()になれていない少女たちの横を、自身に搭載された加速装置を起動したアミタとキリエが高速で通り過ぎる。

 

 エネルギーの消費が大きいため乱発はできないが、今は一刻も早くU-Dの足止めを行う前線を構築することが重要だと判断したためである。

 

 

 それに続くようにトーマが、アインハルトがU-Dへ向かい翔ける。

 

 

 

「……シグナム、ごめん。いこう」

「ありがと、ヴィータちゃん。心配かけさせてごめん」

「ありがとうなリインフォース。私はもう大丈夫やから」

 

 

 なのは、フェイト、はやての3人はほぼ同時に呆然自失状態から立ち直り、移動を開始する。

 

 

 なんとか心を切り替えて。なるべく、シュテルの事は考えないようにして。

 

 

 

――今はただ、目の前のことをキチンとこなす。目の前の子を助ける。悲しむのも怖がるのも、全部後でいい!

 

 

 

 

 なのは達が戻った先では、もがき苦しむように荒々しい動作で攻撃を繰り出すU-Dと、それに対処しながら戦うクロノ達の姿が目に入る。

 

 

「クロノくん!?」

 

 

 その瞬間なのははつい叫んでしまった。

 クロノの身体は、あまりにも、あんまりな状態だった。

 

 

 クロノの半身は()()()()()()()()()()

 

 

 

 右腕も右足も、顔の右半分も。まさにクロノの右半分からは結晶樹が乱立し、辛うじて飛行魔法が発動できているといった、まさに死に体の状態であった。

 

 

 

 そんなクロノを守るように、結晶樹が生え始めているザフィーラがU-Dとの間に仁王立ちをし、クロノの体力を少しでも回復するために、シャマルもまた、体から結晶樹が生え始めているにもかかわらず、回復魔法をクロノに使用していた。

 

 

 

 そんな面々からU-Dを離すように、アミタ、キリエ、トーマは戦っていた。

 

 

 その特性から結晶樹こそ生えてきてはいないものの、全員が全員傷が目立つ状態であった。

 

 ECドライバーのトーマでさえ、その身体にダメージを負っているのが分かるほど、負担の大きい戦いを強いられていた。

 

 

「っ」

 

 

 その光景になのは達は息をのむ。

 しかし足踏みをしているわけにはいかない。

 

 

 今はだれもが、己の死と隣り合わせにもなりながら、足を踏みしめなくてはならない場面であるのだから。

 

 

 

 ****

 

 

 ****

 

 

 なのは達も合流したことにより、なんとか戦線を構築する事ができた。

 

 しかし、ヴィヴィオもレヴィも居ない中で結晶樹の能力が常時(パッシブ)で発動しているUーDの相手をするのは、常に死と隣り合わせであり、クロノのように一人また一人と動くことができなくなっていく。

 

 シュテルの犠牲によりUーD本体の動きの精細は欠き、魔力の循環が阻害されているためか攻撃力、防御力ともに大幅に減少していた。

 

 そのため、主力である2人を欠いた状態であるにも関わらず予想以上に戦えてはいるのだが、結晶樹への対策が無いため時間と共に戦力が削られていく。

 

 まず長時間戦っていたクロノが。

 

 次にクロノを守るためにUーDを足止めしていたザフィーラが。

 

 

 そしてなのは達が合流してからは攻撃をするために近づかなくてはならないアインハルトを筆頭に、戦線を構築している殆どの者が五体満足でいられる状況ではなかった。

 

 アインハルトは既に左足と両腕を結晶樹に包まれほぼほぼ戦闘不能。

 

 シグナム、ヴィータ、フェイトもどことは言わないが結晶樹が至る所から生え、動きに精彩を欠く。

 

 UーDに近づく必要のないなのはとはやては、2人を結晶樹の影響を弱らすために尽力してくれたユーノのお陰もあり、まだ戦闘が可能な状況ではあった。

 

 そのユーノも、回復に尽力していたシャマルも先ほど魔法の使用が困難になるまで結晶樹に覆われてしまった。

 

 そしてそもそも結晶樹の影響を受けないアミタ、キリエ、トーマを含めた5人だけがUーDと戦い―既にただの足止めでしかないが―続けている状況であった。

 

「バインド! からのバスター!」

「ブラッディダガー! 隙をついてアロンダイト!」

 

 なのはとはやても果敢に攻撃を繰り返すが、それでもUーDが倒れる様子は見られない。

 

「■■■■■■■■―――!」

「キリエ!?」

 

 アミタ達前線の3人のお陰でなんとか戦いになっていたが、キリエの大剣による攻撃を受けながらも、そのダメージを無視しながら魄翼の巨腕を操るUーDによってキリエが捕らえられてしまう。

 

「が、あああぁぁぁああっ」

 

 そのまま巨腕の握力が増し、全身を締め付ける苦しさに声を上げるキリエ。

 

 

「キリエさん!」

「キリエを、離しなさい!」

 

 捕らえられたキリエを助けるため、トーマとアミタが駆ける。

 

 2人がUーDの後ろから近づき、攻撃を加えようとした瞬間、UーDは勢いよく振り向くと、その勢いのままキリエをアミタへと投げつけた。

 

「――っぐ」

 

 高速で飛来するキリエを受け止めようと移動を止め、構えるアミタだったが、キリエという重量物が超高速で飛んでくる勢いと衝撃を止めきれず、そのままキリエとともに後方斜め下、つまり海面へと吹き飛ばされる。

 

 

「なっ」

 

 

 UーDの唐突行動と、高速で飛来するキリエに意識を奪われてしまったせいか、トーマが振るった攻撃はなにもいない空間を凪ぐ。

 

<敵性反応、後方に出現>

 

「しまっ――」

 

 銀の福音によるガイドによって、UーDが短距離転移により自分の背後をとった事に気づいたトーマは()()振り向いてします。

 

 これがシグナムやクロノといった戦闘経験豊富な者であれば、今のトーマのように振り向いたりはしなかった。

 

 一度UーDが短距離転移によってヴィヴィオの胸を貫こうとしたのをみているのだから、選ぶ選択肢は振り向いての対応などではなく、全速力で斜め前方へ移動すること。

 しかしトーマの戦闘経験はこの数ヶ月までほぼ皆無であり、短距離転移者との戦闘経験は無いに等しかった。

 

 そのためトーマは選択を間違えてしまった。

 

 

『トーマァ!!』

 

 間違えてしまったがゆえに、己と同化しているリリィの悲痛な叫びが頭の中に響き、自分の胸から深紅の華が生えてしまっていた。

 

 

「――――がはっ」

 

 

 胸を貫かれたことで呼吸困難になり、気道に入り込んだ鮮血を口から吐き出すトーマ。

 

 トーマの血を浴びながら、U-Dはトーマの胸から腕をゆっくりと引き抜く。

 引き抜いた腕の先から現れるのは結晶樹によって形作られた巨大な杭。

 

 ■■■■■■■■■■■■(エンシェント・マトリクス)――――」

 

 雄叫びを上げながらU-Dは眼前のトーマを蹴り飛ばし、その勢いでトーマの血肉(せいめいりょく)によって作り出した杭を引き抜き。

 そのままトーマに向かって投擲した。

 

 

 トーマは蹴り飛ばされた勢いのまま、超質量の物体によって押しつぶされる形で海へと墜落する。

 

 

 

 

 そうして、一瞬のうちにU-Dとまともに戦闘ができる前線の3人が戦線を離脱。戦線は完全に崩壊した。

 

 

 

「――――っ」

 

 

 

 その光景が眼前で繰り広げられたなのはとはやては息をのむ。

 既に2人も結晶樹の能力によって満足に身体を動かせる状況ではなく、そんな状態での前線の壊滅。それすなわち、自分達の全滅を意味していた。

 

 

 そしてその2人に向かってU-Dが翔ける。

 

 

「っ、バスター!」

 

 

 なのはは辛うじて動く右腕を上げ、ほぼ溜めなしでショートバスターを放つ。

 しかしその必死の抵抗も、避ける必要なしと言わんばかりにU-Dは直進し、バスターを切り裂きながら突き進む。

 

 バスターを防がれ、それでも速度の堕ちないU-Dがなのはの眼前へと迫る。

 

 

「なのはちゃん―――」

 

 

 はやての叫び声が聞こえる。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■―――――――!!!」

 

 

 

 U-Dの咆哮と共に魄翼によって形成された巨腕が振るわれる。

 

 

 なのはは目を見開き目の前に迫る(U-D)を見つめる。

 やけに死が迫るのが遅く感じる。世界から色が消える。

 

 

――あぁ、これが走馬灯ってやつか……。

 

 

 そんな事を悠長に考えられるほどに、なのはの体感する時間は長くなっていた。

 もしかしたら今なら、と思い身体に力を込めてもうんともすんとも言わない。唯一動かせた右腕もすでに結晶樹の浸食が広がり、もう動かすことはできないだろう。

 

 

――ごめんなさい。お父さん、お母さん、お兄ちゃんにお姉ちゃん。先立つなのはを許して……。

 

 

 このまま二度と会えなくなってしまうかもしれない家族に心の中で謝り、なのははゆっくりと動く世界の中で体の力を抜いた。

 

 諦めるように、負けを認めるように。

 

 

 

 

 そうして諦めたなのはの意識が落ちようとする瞬間、色が失せていた世界の中に、光り輝く虹が見えた。

 

 その虹はU-Dの背後で強く光り輝くと、だんだんと人の形をとり両手で握りしめた()()を振り下ろす。

 

 

 魄翼の腕が目の前に迫る。

 

 大剣がU-Dの肩を強く打ち付ける。

 

 なのはの目の前に迫っていた禍々しい指先がブレる。

 

 

 そして、なのはの世界は通常の時間を取り戻す。

 

 

 

 

ドオゥン!!

 

 

 

 

 爆音とともに大きな水柱が昇りなのはの視界を埋め尽くす。

 

 その水流のなかから漏れるのは虹の光。

 

 

 水柱が引いていくのに合わせて、なのはの目の前に虹の光を背負った人物の姿が浮かび上がる。

 

 

 輝く12枚の翼のような虹色の光を噴射する光背を背負い、豪奢な戦闘装束を身にまとった十代後半の少女の姿。

 

 

 

「――――ヴィヴィオ」

 

 

 

 高町ヴィヴィオ。

 

 

 未来の高町なのはの娘。

 

 

 

「はい、ヴィヴィオです。待たせてごめんね、なのはママ」

 

 

 

 現状唯一U-Dへ対抗できる主力(主人公)鮮烈(VIVID)に姿を現した―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィヴィオは姿を表すとなのはとはやてにまとわりついていた結晶樹をフォーミュラの力によって破壊しながら、穏やかな表情で声をかける。

 

「待たせてごめんなさい。私が来たからにはもう大丈夫だから。シャマルさんたちはこっち来る途中で結晶樹から解放しましたので、なのはママとはやて司令は一旦下がって回復してもらって、ね」

「そんな! ヴィヴィオだけで戦うなんて!」

「せや、私達でもいないよりマシなはずやで」

 

 そう言うなのはとはやての2人に対し、ヴィヴィオは首を横に振る。

 

「今のママたちじゃ、ハッキリ言って足手まといだから。消耗しきっているママたちと一緒に戦ったら、さっきのシュテルママみたいに、今度は私がなっちゃう」

「ぁ……」

「……」

 

 ヴィヴィオの言葉で、シュテルの惨状を思い出し言葉を失うなのはとはやて。

 心では共に戦いたいが、自分たちの身体が全力を出せないのもまた事実。

 そしてヴィヴィオ本人がU-Dと直接矛を交えるために、結晶樹の能力から守らなくてはならないなのは達がそばに居る事が重荷になることも、また事実。

 それゆえ心では否定したいが、冷静になればそれは無謀なことであるとわかりきってしまっていた。

 

「……わかった」

 

 そうして顔を伏せるなのはとはやてのうち、先に諦めたのはなのはの方であった。

 はやてもこの三か月でなのはの頑固さは身に染みており、なのはがこうもあっさり折れるとは思っておらず、つい驚いてしまう。

 

「なのはちゃん」

 

 はやての言葉になのはは顔を上げると、まっすぐにヴィヴィオを見つめる。

 

「このまま私たちがいても、確かに邪魔だもんね。無理でもやらなきゃいけない時がある。そんな時はわたしも引けない。でも、無茶を押し通してもいい結果にはならない。それは大切な人に教わったから。でも、ヴィヴィオは、無理してない?」

 

 とても、9歳の少女とは思えない達観した、けれども優しい顔でなのははヴィヴィオに語り掛ける。

 そんななのはにヴィヴィオは力強く、そしてとても明るい笑顔を見せ大きくうなづく。

 

「うん。ヴィヴィオは強い子だから。大丈夫だよ」

 

 

 ヴィヴィオがそう言った瞬間、水面が爆発し大きな水柱が立ち昇る。

 

 

 噴出する水柱を弾けさせながら現れるのは見たところ傷を受けているようには見えないU-Dの姿。

 それを視界の端に入れるとヴィヴィオはその端整な顔を不快気にゆがめる。

 

「ッチ。さっきので腕の一本でも貰うつもりだったんですがねぇ……」

 

 そう吐き捨てたヴィヴィオはなのは達へと向き直り、先ほどの不快気な表情から打って変わり穏やかに声をかける。

 

「さ、2人はシャマルさんのところへ。あとはヴィヴィオに任せてください」

「わかった。頼んだで、ヴィヴィオちゃん」

「無茶しないでね、ヴィヴィオ」

 

 2人の声援を聞きながらヴィヴィオは背を向けながら、強く握りしめた拳を2人に見えるように掲げる。

 

 それを「大丈夫」という意味であると受け取った2人は、なるべくヴィヴィオの邪魔にならないよう、急いで後方、シャマル達の元へと移動を開始した。

 

 

 

 ******

 

 

 

 ゆっくりと上昇してくるUーDを見つめながら、ヴィヴィオはなのはとはやてが戦線を離脱したのを感知すると、小さな声で己の身体に命令を下す。

 

 

「魄翼・聖天式、超過駆動開始」

 

 ヴィヴィオの言葉と同時に、ヴィヴィオの背中に浮遊していたフローターユニット『魄翼・聖天式』がその機構を展開する。

 12枚の魄翼は等間隔に円形に広がり、それを結ぶように虹色の光輪が展開される。

 広がった魄翼はまさに大天使の翼であり、現れた光輪はまさに釈迦の光背のよう。

 

 さらにヴィヴィオは続けて唱える。

 

 

「第1次聖王核、第2次聖王核共に駆動率上昇。連結聖王核限界解除(リミットリリース)

 

 

 その言葉と共にヴィヴィオの身体から虹色の魔力光が噴出し、ヴィヴィオを包み込むように渦を巻く。

 

 

 それは父と呼び親しむ人とその姉、そしてその母がヴィヴィオの後遺症をなんとかするために生み出したシステム。

 

 憎き()()()()が残した負の遺産の結晶。それを2人の天才技術者と4人の知識と経験によって安定させたもの。

 ヴィヴィオの体内に残った超級ロストロギアを魔力タンク、および()2()()3()()()()()()()()として使用することで、平均的な魔導師の何倍もの魔力保有量、魔力出力を発揮させるもの。

 

 そしてそれを安定稼働させる役目として、体内に過剰な魔力をため込まないよう魔力を排出する廃燃魔力排出機関、および周囲に漂う魔力を吸収、分解し聖王核へと供給する疑似無限機関である外付けユニットの魄翼・聖天式。

 

 本来はヴィヴィオの身体に残ってしまった後遺症を和らげる医療機器を改造し、増設したもの。

 設計者の特異技能の名を借り、それには()()と名付けられた。

 

 魄翼を与えられた結果、ヴィヴィオの聖王核によってもたらされていた常人からすれば無限に思えるが、しかし有限である魔力は、実質無限と言えるようになった。

 

 これを授けられたとき、父と慕いそして武の師であるレヴィからはこう伝えられた。

 

 

――これは、ヴィヴィオの身体を正常に近づけながらも、より強い()を行使するための翼。聖王であることを切っても切り離せない君は、これから沢山の苦難と譲れない選択を経験するだろう。そのとき、ヴィヴィオの力になれるよう、ボクたちからの贈り物。

 

 優しい顔でありながら、しかし力強い眼差しで語った(レヴィ)の言葉は今でも思い出すことができる。

 

――だけど、それを無闇に振るってはイケないよ。御神の武も、その翼の力も、ヴィヴィオがどうしても譲れない、命と魂と信念を懸ける、そんな時にだけ使うんだ。強すぎる力もまた、君を不幸にしてしまうから。

 

 そう告げられてから、この翼は体調を管理する名目以外で使ったことはなかった。

 

 魔法戦技の公式大会はもとより、アインハルトとの()()戦いですらも。

 譲れない信念を守るために御神の武を振るうことはあっても、その信念を守るからこそ翼を使うことはなかった。

 

 

――でも今は、今こそが、私の命と魂と信念を懸ける戦い。(シュテル)と約束した『勝つ』という誓いを果たすために。

 

 

 覚悟を決めヴィヴィオは最後の聖句を唱える。

 

「コールブランド、TYPEⅡ」

 

 その言葉と共に右手に握っていたコールブランドが二本の長剣に分割し、ヴィヴィオの手を放れ虚空に漂う。

 

 虹色に輝く12枚の魄翼と虹色の光背。そして、渦巻く魔力の壁を纏い、周囲に二本の聖剣を滞空させるヴィヴィオを見て、U-Dが初めて人語を口にする。

 

 

「―――――オリ、ヴィエ―――」

 

 

 オリヴィエ。最後の聖王。ヴィヴィオのクローン元。

 ヴィヴィオの身体を構成する遺伝子の大半であり、実質的にヴィヴィオの()

 

「そう、ですね」

 

 ゆえに、そんな彼女に。自分でもあり親でもある彼女に経緯を払い、ヴィヴィオは名乗る。

 

「ヴィヴィオ=オリヴィエ・テスタロッサ・高町・ゼーゲブレヒト」

 

 尊敬する母(なのは)と、優しい父と母(レヴィとフェイト)、そして自分にして母(オリヴィエ)

 全員に敬意を、親愛を示しこの名を名乗る。

 

「未来の、聖王の名です」

 

 

 自己紹介を終えるとヴィヴィオは拳を握りファイティングポーズをとる。

 それは従来のステップとフリッカーを使うための構えとは全く別物。

 腰を深く落とし、左腕を引き右拳を左腰の横へと持って行く構え。居合いの構えによく似ていた。

 

 対するUーDも魄翼を腕状へ変化させ吼える。

 

「■■■■■■■■■■■――――!」

 

 その咆哮が合図となり、ヴィヴィオがUーDへ向かって突撃(チャージ)する。

 

 空中に作り出した足場を強く蹴って一直線にUーDへと突撃するヴィヴィオ。

 それを迎撃するためにUーDがとった選択は両腕から生やした二本の炎剣(エターナルセイバー)による挟撃。

 

 ヴィヴィオの左右に向かって突き出した両腕からエターナルセイバーを瞬時に生成、長大な剣をヴィヴィオが挟まれるように生成すると、そのまま挟み込み、切り裂くため両腕を薙ぐ。

 

 

 しかしその剣はヴィヴィオを切り裂け無い。

 

 

 命中はした。ヴィヴィオは避ける様子もなく、突撃の速度を落とさずUーDへと向かってくる。

 

 命中したはずのエターナルセイバーは、ヴィヴィオの周りで渦巻く虹色の壁に遮られていた。

 

 

 

 聖王の鎧。

 

 

 

 肉体資質で劣るはずのオリヴィエが、覇王クラウスの攻撃を寄せ付けなかった最大の理由。

 絶対突破不可能な防御壁。

 

 聖王の鎧があるからこそ聖王を止めることのできる者は居らず、聖王の鎧があるからこそ聖王は止まらない。

 

 

 古代ベルカにおいて、聖王が最強と謳われた所以。

 

 

 

 それを、未来の聖王であるヴィヴィオも纏っていた。

 

 とある事件の後遺症により、不具合を起こした聖王核のせいで、本来の聖王のように己の魔力だけで常に発動させることは叶わないが、尊敬する人達の力によって生み出された連結聖王核と魄翼。それらを起動させた状態であれば使えるようになった最強の鎧。

 

 人並み以上ではあるものの、アスリートとして身体の頑健さがあるとは決して言えないヴィヴィオの防御力を解決する強固な鎧。

 

 

 なのはのブラスターモードでのスターライトブレイカーや、アインハルトの放つ神撃の覇王断空拳など例外はあるが、並みの攻撃であればヴィヴィオに触れることすら許さない聖王の鎧にとって、中距離相手に向かって振るわれた技も力も無いただ長いだけの剣なぞ小枝にも等しい。

 

 ゆえにヴィヴィオは避けない。

 今までの戦闘で、UーDは格闘距離(クロスレンジ)での単体攻撃力は末恐ろしいものがあるが、遠~中距離に限って言えば聖王の鎧を貫ける大火力技は持ち合わせていないとヴィヴィオは判断した。

 

 ゆえに、避けることは考えず、近づいてぶちのめす。

 

 その事だけをヴィヴィオは考えていた。

 

 

 エターナルセイバーと聖王の鎧がぶつかり合い発生する火花をまといながら、ヴィヴィオは強引に近づく。

 

 

 そしてUーDとの距離が近距離(ショートレンジ)―格闘距離ではないが、射撃魔導師にとって射撃を撃ち合うには近すぎる距離―まで近づいた瞬間、ヴィヴィオは再度踏み込み、加速する。

 

 

「御神流奥義之壱、『虎切』」

 

 その言葉を置き去りに加速したヴィヴィオは、左腰に添えていた右腕を()()する。

 

 剣を使わずに、拳をもって神速の抜刀術『虎切』を放つ。

 

 実際のところ、ヴィヴィオは未だ神速の域には達しておらず、レヴィやなのはの実家(本家)にてたどり着く目標として奥義を一通り見せてもらっただけであるため、厳密には虎切であるとは言い切れないのだが、そこはテンション優先。

 師であるレヴィも『カッコいい』から、という理由で技名はどんどん叫ぶべきと教えられている。

 

 そんな理由により、厳密には虎切もどきと言うべき技は、本来小太刀を用いるべきところを本人の手刀をもって放たれる。

 

 添えた左手を鞘に見立て、右手刀を刀として放つ抜刀術は、操作魔法によって己の身体自信を操るレヴィとヴィヴィオの御神流なればこその業。

 

 再度の踏み込みによって加速したヴィヴィオは、UーDとの距離を一足で0にし、右手を振り抜く。

 

 

 一閃。

 

 

 加速の勢いが乗ったヴィヴィオの抜刀はU-Dの防壁を突き破り、その身に傷をつける。

 

 

 U-Dの胸を切り裂き、そこから鮮血が舞う。

 

 そのかすかな赤は、続く旋風によって巻き散らされる。

 

 

 

「『虎切』連結変成『虎嵐』」

 

 その言葉と共にヴィヴィオの左貫手が放たれる。

 それもまたU-Dの右肩を抉り鮮血を虚空に撒き散らす。貫通こそしないものの常人であれば二度と肩が上がらないようになるであろう傷をU-Dに刻みこむ。

 

 それでもヴィヴィオは止まらない。

 聖王の鎧を纏った自分の身体を、魔力により外部から操作することによって己自信を最硬の剣と化したヴィヴィオの業。

 だからといって、どこぞの完了形のように刀が使えないわけではない。

 

 

 全世界の武術を極め、その総てをあわせた武の境地を『完成』させたレヴィの『御神流』。

 

『永全不動八門一派御神亜流 総合魔法戦闘術』。

 

 その理念は使えるものは使う。剣も、槍も、斧も、槌も、拳も、石も、砂も、なにもかも。

 

 それを()()()に習得する技術を限定し、発展させ、量産性を増した『完了形』。それがヴィヴィオの『御神流』。

 

 そのヴィヴィオが、剣が使えないなど、ありえない。

 

 

 故に使う。

 

 たとえ剣を握っておらずとも、ヴィヴィオが振れる剣は、そばに二振り存在するのだから。

 

 

「続けて変則多重連撃」

 

 

 その言葉と共にU-Dの背中に剣閃が走る。

 

 ヴィヴィオは目の前に居るというのに、背中に鋭い切り傷が刻まれる。

 

 

 それは、ヴィヴィオの側に滞空していた二振りの聖剣。

 ヴィヴィオを守る盾であり、ヴィヴィオの第3、第4の腕であるアームドデバイス、コールブランド。

 

「『花菱』」

 

 ヴィヴィオが技名をつぶやくと同時に、2本の長剣と2本の手刀、計4本の刃がU-Dへと息もつかせぬ連撃を浴びせる。

 

 

 身体を外部から操作することをレヴィから教わったヴィヴィオ。そんなヴィヴィオの武は、ある友人の使う魔法を知ることでこの発想にたどり着いた。

 

 己の徒手格闘と、操作する外部兵装。それらをすべて扱う、常人には到底たどり着けない手数。それが操作系魔導師兼格闘家である友人のたどり着いた境地であった。

 

 それを知った()は能天気にこういった。

 

 ――それ、ヴィヴィオにピッタリの戦法じゃん。

 

 ヴィヴィオの好みの問題もあり、公式の大会では、格闘技メインで戦っているが、実際問題この戦法はヴィヴィオの好みと素質。

 好きなこととできることと得意なこと。その総てがマッチした、まさにヴィヴィオ向けの戦い方であった。

 

 

 息もつかせぬ刃の嵐。

 

 スイッチングフリッカーによってしなやかさを獲得したヴィヴィオの腕の軌道は、手刀であっても変わらず、御神流の技術『貫』をもって、的確にU-Dの隙をつく。

 そしてそれと同時にヴィヴィオのマルチタスクによって操られたコールブランドは、ヴィヴィオの身体に比べては乱雑だが、その代わり果敢に、猛烈に、果断なくU-Dを切り裂き続ける。

 

 元来コールブランドはヴィヴィオの防護となるよう設計されており、高出力形態である大剣形態以外はすべからく最も優先されている設計思想が「頑丈さ」であった。

 そのため籠手、長剣形態では魔法の補助機能は殆どなく、純粋に壊れない武器および防具。としての性能が突き詰められている。

 

 そのため、強固な防護壁を持つU-Dに対し多少乱雑に扱っても問題なく、精密に操作する必要が無いためヴィヴィオの思考リソースの消耗を軽減できていた。

 

 

 だが、ヴィヴィオが果敢な連撃を繰り出すも、相手が相手。アインハルトの断空による連撃を受け切った真正の怪物。

 

 

 フォーミュラの相性。鍛えられた観察眼によって防御の甘い箇所を見つけ、磨かれた技巧によって確実に打ち抜く。それができてやっとU-Dに傷をつけられる。

 しかし、そこまでやってもU-Dは()()()()

 

 

――天から二物どころか五物くらい与えられた、才能の塊であるこの私が嫉妬しちゃうほどの身体強度……。完全に化け物ですね……。

 

 

 頭の中で悪態をついているうちに先ほど付けた切り傷はふさがり、最も大きな傷であった虎切による切り傷と虎嵐による右肩の傷も治りかけている。

 

 

 人智を超越した身体強度。そして無限の魔力による強引な回復。これこそがU-Dとの1対1の戦いにおいて最も懸念すべき力。

 

 

 純粋に強い。

 

 

 少しまえに、これまたヴィヴィオを歯牙にもかけない圧倒的な恵体を持つ選手と戦ったが、それ以上の怪物。

 その選手がゴリラだとしたら目の前の存在はドラゴン。たいしてヴィヴィオは剣と鎧で武装した兵士。

 

 身体的な話に限って言えば、それほどまでに圧倒的な差が、ヴィヴィオとU-Dにはあった。

 

 

 

 その差を利用し、UーDが魄翼の巨腕をヴィヴィオに向かって振るう。

 

 強力な薙払いを、ヴィヴィオは聖王の鎧で足止めし、生まれたわずかばかりの時間で余裕を持って回避する。

 

 薙払いが終わらぬうちに避けたことを確信すると、即座にカウンター。

 連撃を再開する。

 

 ヴィヴィオのそばを薙いだ巨腕から発せられる音は、その威力と速度を想像させるに相応しいものではあり、内心冷や冷やするもののそれを表に出さず冷静に攻撃を続ける。

 

 ヴィヴィオは的確な攻撃により、UーD本体の行動を出足で潰し、その場に釘付けにしていた。

 

 エネルギー状であるがゆえに、不定形である魄翼だけは唯一釘付けにできないため、相手に反撃を許してしまうものの、逆に言えばそれだけを警戒すれば良かった。

 

 一見圧倒しているように見えるヴィヴィオであるが、その内心は荒れていた。

 

 ――くっそぉ。やっぱり壊滅的に相性が悪い!

 

 アインハルトのような、堅いが攻撃を続ければいずれ倒せるような相手であればヴィヴィオの心がこれほど荒れることはない。なぜなら倒れるまで攻撃すれば良いのだから。

 相手の攻撃を全部避けて、こちらの攻撃を全部当てる。それを相手が倒れるまで続ける。

 いつもやっていることだった。

 

 ただ違うのは、相手がこちらのダメージと同等か上回る回復力を持っていることである。

 

 御神の技、魄翼による魔力供給と聖王の鎧の硬度、あらゆる物を利用しても、ヴィヴィオの火力は高いとはいえない。けして低いわけではなく、ヴィヴィオの手刀の一撃は純粋な攻撃力だけを見ても現在のなのはのショートバスターより高い。

 それでも、UーDの回復力と同等かという程度でしかない。

 

 母から受け継いだ収束砲撃や、父から教わった収束斬撃など、大技はあるにはあれどそれを放つ時間も無ければ、放って倒せる保証もない。

 

 

 であればこそ選択したのが今の戦い方。相手に傷は負わせている。ならば後少しだけ、威力か速度を増せばいい。

 

――相手が倒れるまで全部避けて全分当てる! いつもと同じことをやればいい!

 

 自分に言い聞かせながらヴィヴィオは攻撃を続ける。

 

 観察し思考し相手の動作の始まりを妨害する。

 なにもさせない。

 

 結局戦いとは相手の嫌がる事を多くやった方の勝ちなのだ。

 

 

 

 UーDが魄翼をたたみ、防御壁として展開しようが関係ない。御神流剣士の()はその中で最も弱い箇所を見抜く。そこを突けばよい。

 

 足を止めず、さりとて攻撃の手も止めず。

 

 UーDの周囲を回るようにヴィヴィオは移動しながら、防御の薄い部分を的確について、確実にダメージを蓄積していった。

 

 

 それを体感時間上は長く感じられる時間続けた。

 

 このままなら押し切れる。そういう確信もあった。

 

 油断か慢心か。

 

 

 確信は安心に変わり、安心は本人も気づかない程わずかにヴィヴィオの集中力を奪ってしまった。

 

 ゆえに、UーDの打開策への対応が遅れてしまった。

 UーDが()()()()()()()()を行っているのかを考察できなかった。

 

 

 だからヴィヴィオは、UーDに釣られてしまった。

 

 

「■■■■■■■■――――!」

 

 

 防御壁の魔力濃度が変わり、再度魔力の薄い-防御の弱い-部分を攻撃するため回り込んだヴィヴィオ。

 それを待っていたと言わんばかりに、ヴィヴィオが回り込むと同時にUーDが吼える。

 

「んなぁっ!」

 

 

 そしてヴィヴィオの視界を赤黒い壁が覆い尽くす。

 

 

 その壁は高濃度の魔力が流動しながら迫るカラミティウォール。

 

 この技を放つためUーDは防御を固め、この技をヴィヴィオに確実に当てるため、あえて防御が弱い部分を作った。

 ヴィヴィオの()()()()()()()()()()というルーチンを利用された形だった。

 

 災厄の壁がヴィヴィオを飲み込まんと迫る。

 直撃を受けたら流石のフォーミュラと聖王の鎧といえども無事ではすまないだろう。

 

 それほどの魔力が目の前の破壊の力に込められていた。

 聖王の鎧の防御力にも限度というものがある。

 

 

――回避っ、無理!!

 

 

 レヴィであれば、後ろに高速移動しながら大きく迂回することで強引に避けられただろうが、残念ながらヴィヴィオにそこまでの機動力と加速力は無い。

 

 

――なら、受けるしかない!

 

 

 ヴィヴィオは壁が迫る一瞬のうちに覚悟を決めると、足元に足場を生成そ、強く踏みしめる。

 

「聖王の鎧、出力全開! 魔力解放!」

 

 ヴィヴィオのかけ声と共にヴィヴィオの周囲に虹色の魔力が渦巻く。

 

 

 魔力の壁がヴィヴィオに迫る。

 

 当たる直前にフォーミュラで魔力に干渉、分解中和を試みつつ、防御魔法に魔力を回す。

 

 

「セイクリッドディフェンダー!」

 

 

 フォーミュラで多少なりとも威力を減衰させ、聖王の鎧と防御魔法で無理やりやり過ごす。

 

 カラミティウォールが聖王の鎧と防御魔法に当たると、そのあまりの圧に後ろに押し切られる。

 

 それを踏ん張りながら、聖王の鎧で魔力の壁をこじ開け、防御魔法で軽減しながら押し切る。

 

 聖王の鎧と全力の防御魔法。その二つを行使するため、ヴィヴィオの保有魔力が急激に減少を始めていた。

 

 

――消費魔力に対して魄翼の循環回復が追いついてないっ。

 

 

 ヴィヴィオの魔力が尽き果て、壁に飲み込まれ塵になるのが先か、それとも壁をこじ開け破壊の波から脱出するのが先か。

 

 

 

「こんなくそぉぉおおおぉぉぉ!!! 死んで、た ま る かぁぁぁあああああぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 ヤケクソ気味に叫び、保有魔力を全て使い切る勢いで聖王の鎧を増幅、無理やり破壊の障壁をこじ開ける。

 

 

 

 その先に見えたのは、星々がかがやく夜空であった。

 

 

 

「――っはぁ! はぁっ」

 

 

――耐えきったっ!

 

 

 ヴィヴィオは生き延びた喜びがこみ上げ思わずガッツポーズをしかけるも、今が戦闘中であることをすぐさま思い出し肩で大きく息をしながらも視線をU-Dが居る方向へ向ける。

 

 

「っ!」

 

 

 そして息をのみつつ足場を展開。踏み込み、前に飛び出た。

 

 

 ヴィヴィオが見た本来U-Dが居るべき場所。カラミティウォールの発生源に、U-Dの姿が見えなかった。

 

 一度使われた戦法。ヴィヴィオが不覚を取った行動。

 

 

 こちらの視界をふさぎ、その隙にショートジャンプで後方に回る。

 

 一つ覚えだが、たしかに効果的ではある短距離転移者の常套手段であった。

 

 

 それを知っているゆえに、ヴィヴィオは回復しきっていないなけなしの魔力を使って、前に飛び出た。

 

 後ろからの奇襲を警戒しての行動だった。

 

 

 

 前に出るヴィヴィオの耳に、音が響く。

 

 それは鋼鉄を引き裂く騒音。

 回路がショートする破裂音。

 

 機械が破壊される音。

 

 

 ヴィヴィオはその音を確認するため、U-Dを視界に入れるため、前に飛び出た勢いを殺さず、体だけをひねり後ろをへと視線を向ける。

 

 

 そこには予想通り、U-Dが居た。

 一つ覚えにショートジャンプでヴィヴィオの後ろに転移したらしいU-D。

 

 

 その背から生える魄翼の巨腕は、なにかの機械を握りつぶしていた。

 

 

「ぁっ」

 

 

 それを見てヴィヴィオはやっと気づく。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 即座に自身にリンクしている魄翼・聖天式の数を数える。

 

 

 その数9()()

 

 

――3基、破壊された!?

 

 

 破壊されたのは3基。たった3。されど3。

 

 3/12ということは、つまるところ25%である。

 

 

 魄翼・聖天式は、ヴィヴィオの保有魔力を調節する役割をもった機械である。

 

 もともとの役割は、ヴィヴィオに残った後遺症によって魔力をため込みすぎてしまって起きる魔力熱を緩和するため、ヴィヴィオの保有魔力が一定になるよう調節する役割を持つ医療器械であった。

 

 それを魔改造し、周囲の魔力を収束しヴィヴィオに還元することで魔力を回復。

 実質的に無限の魔力を得る。という代物に変わったのである。

 

 それは計算上、12枚すべてが超過駆動を行っている場合、秒間3発のディバインバスターを放てるほどの供給量を実現していた。

 その供給量をもって、聖王の鎧を常時発動させていたのである。

 

 つまるところ、聖王の鎧という名前だが、やっていることはU-Dの常時展開の魔力防御と同じである。

 莫大な魔力を無意識に高密度のバリアに変換する。それが聖王の鎧。

 

 当然魔力の消費も半端ないものであるため、現在のヴィヴィオでは魄翼・聖天式がなければまともに発動することすら危うい。

 

 

 その魄翼が3枚失われた。つまりヴィヴィオへ供給される魔力が25%も減少したということである。

 

――現在の聖王核内臓魔力量は……10%以下!?

 

 ロストロギア級の魔力タンクである擬似聖王核を2つも合わせ持つ連結聖王核。それは魔力保有量SSSランクの数倍はある。それほどまでに莫大な魔力を先ほどの防御でほとんどを使い切ってしまっていた。

 

――この状態で魄翼が3枚失われた……。これは魔力の回復はほぼ不可能。聖王の鎧も省エネしてかないとすぐ枯渇する……。

 

 そこまで瞬時に考えると、そばに滞空していたコールブランドを手元によせ、自分の手で握る。

 

――今は少しでも魔力を温存しないと。もう一度さっきの奴をやられたら今度こそ死ぬ……。

 

 UーDの起死回生の一撃はまさにヴィヴィオにとって手痛い一撃であり、そのたった一撃で一気に不利な状況にたたされてしまった。

 

 しかしそれで足を止めるわけには行かない。気持ちも身体も前に出す。前にでてUーDに攻撃を加える。

 持久戦こそUーDが最も得意とする戦法なのだから。

 

 

 ***

 

 ***

 

 ヴィヴィオの魄翼を破壊してからUーDは思考していた。

 

 ヴィヴィオ(オリヴィエ)の動きが変わった理由、因果関係について。

 

 

 ある瞬間からヴィヴィオの戦闘力、特に攻撃力が減少した。浮遊していた剣を己で振るうのは、純粋に攻撃の手が半減したことを意味する。

 

 ヴィヴィオの技術によって行われる行動阻害は鬱陶しいことこの上ないが、それでも秒間単位で受けるダメージや、攻撃の手が減ったことにより拘束力は明らかに減少していた。

 

 

 

 

 

 なぜ?

 

――2本の剣+徒手格闘から双剣術に変わったことによる手数の減少、及び攻撃に使われる魔力の絶対量の減少。

 (UーD)の能力を阻害する正体不明の要素には減少が見られないため、こちらの防御力の増加ではないと判断。純粋に対象の攻撃力が減少したことが原因と推測。

 

 

 

 いつから?

 

――対象が剣を握ったときから。

 

 

 

 なぜ対象は剣を握った?

 

――魔力の枯渇による制限が濃厚。

 

――――今までの観測結果から対象は膨大な魔力ストレージ、もしくは魔力回復手段を持ち合わせていると推測。そのどちらか、もしくは両方に不具合が発生した可能性。

 

――――――魔力ストレージ、魔力回復手段どちらの不具合でも、弱体前と後で変わった点は、先ほど破壊した機構。現状これによる弱体化の可能性が濃厚。

 

 

 

 ヴィヴィオの攻撃を受けながらも、ヴィヴィオの攻撃の手が減ったことによって生まれた余裕を使い、U-Dは考察する。

 

 

 

――仮説の検証、要。

 

 

 

 そして、U-Dの攻撃は明確にヴィヴィオの魄翼を狙う動きに変化した。

 

 

「ちょっ、まっ」

 

 

 これ以上魄翼を破壊されては戦闘行動の継続すら危ぶまれるため、ヴィヴィオは今までとは打って変わり、大袈裟に回避行動をとる。

 

 

――対象の負の感情を検知。検索結果照合、感情値『不快』。

 

 

 戦いは、相手の嫌がる行為を最も多く行った方が勝つ。

 

 

 ユーリの記憶と思考により感情すらも検証できる上、プラグラムとしての高速演算、冷徹な思考を持ち合わせるシステムU-D。

 ヴィヴィオは、そんな相手に、致命的な隙をさらしてしまった。

 

 

 ***

 

 ***

 

 

 戦闘の様子は先ほどまでとは打って変わり、今度はU-Dがヴィヴィオへと猛攻を繰り広げる形になった。

 

 ヴィヴィオも回避と反撃を試みるも、そもそもU-Dの目標はヴィヴィオの背中に浮かぶ魄翼。

 

 ヴィヴィオ本体を狙っていないため回避は容易であるものの、()()()()()()()()()()()()()()()()となると、難しいのが現状であった。

 

 

 実質、ヴィヴィオの当たり判定が魄翼の部分だけ増えているのと同義であるのだから。

 

 

 

――くっそぉ。明らかに翼が狙われてる! やりにくい! とてもやりにくい。こんなことならもっと全戦力状態での実戦経験を積んどけばよかったぁ!

 

 別にヴィヴィオが全戦力状態(今の状態)での戦闘訓練をサボっていたわけではない。ただ、最近はアインハルトのU-15引退チャンピオンシップに向けての調整が主になっており、たしかに格闘競技以外がおろそかになっていた部分はあった。

 

 

 U-Dと攻撃の押収を繰り広げる時間が増すにつれ、1枚、また1枚とヴィヴィオの魄翼にダメージが与えられ、不具合をおこし破壊されていく。

 

 

 

――残り7枚、稼働率は50%…………残り6枚!?

 

 

 魄翼が破壊されるたびにヴィヴィオのパフォーマンスが落ちていく。魄翼が少なくなるにつれ、多量の魔力を前提としたヴィヴィオのフォーミュラドライブは制限が厳しくなっていく。

 

 

――聖装解除、バリアジャケット変更! 魄翼・聖天式格納!

 

 

 魄翼を気にしながら戦うことに限界を感じ、ヴィヴィオは魄翼の展開を解除し、バリアジャケットすら格闘戦技で使うだけの最低限の装いへと変える。

 

 

「コールブランド、TYPEⅠ-Ⅱ」

 

 

 タイツスーツ型のバリアジャケット姿に、左腕に籠手型(TYPE Ⅰ)のコールブランド、左手に長剣型(TYPE Ⅱ)のコールブランドを持つ、ヴィヴィオ本人だけの全力の姿。

 

 そもそも、装甲が追加された重量型バリアジャケットである聖装は、魄翼が稼働していて魔力が潤沢にある状態を想定したバリアジャケットなため、魄翼の機能の半数以上が失われた今、維持すること自体がヴィヴィオにとっては重しとなっていた。

 

 それゆえ、バリアジャケットを最低限の初期状態に戻した。

 

 体内のセイクリッドハート(クリス)はフォーミュラドライブの制御をしてもらわなくてはならないため、防御魔法(セイクリッドディフェンダー)のピンポイント展開をクリスに頼むことは難しく、残魔力量の関係上聖王の鎧を発動するという選択すら取ることはできない。そのため、ヴィヴィオはこれからU-Dの攻撃をすべて回避するしかない。

 

 スピリットフレアの弾一発すらも当たれば致命傷となるほどの防御力。現状のヴィヴィオはU-Dに対しその程度のか弱い存在でしかなくなっていた。

 

 バリアジャケットを戻した身軽な状態でU-Dの攻撃をよけつつ、ヴィヴィオは自分を心の中で鼓舞する。

 

 

――気合を入れろ高町ヴィヴィオ! これから瞬きすらも許されない。全部避けろ! 避けれなければ……死ぬ!!

 

 

 

 

 連結聖王核に残ったなけなしの魔力と、自分個人の今この場においては貧相としか表現できない魔力。

 

 それだけで目の前の化け物を倒す。

 

 

 その覚悟を決め、拳を強く握りしめた瞬間、ヴィヴィオの視界が闇に染まる。

 

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 U-Dが闇に飲まれ姿がヴィヴィオの視界から消え失せる。

 

 その代わり、ヴィヴィオの目の前には闇からヴィヴィオを守るように、()()()に埋め尽くされる。

 

 

「まったく、そんなになるまで頑張って。遅れてごめんね、ヴィヴィオ」

 

 

 ()()()()()()は、視線だけヴィヴィオに向けると悲しげな、慈しむような表情でヴィヴィオに声をかける。

 

 

 

 

「パパ……」

 

 

 

 紅炎を纏いう小さな背。

 ヴィヴィオを守るように前に立ちはだかるその背は、ヴィヴィオにとって何よりも、誰よりも大きく見える。

 

 

 

「あとは任せて、ヴィヴィオ。ここからはレヴィ・ザ・フレイム(ボク達)の戦いだ」

 

 

 ****

 

 ****

 

 

「全くたった一人でU-Dを抑えるとは、誰に似たんだが無茶をしおってからに」

 

 ヴィヴィオの背に悪態をつき、後ろから現れるのはU-Dを闇に閉ざした張本人。

 

 

「ディアーチェさん」

「そのように貧相な見た目になるほど消耗しおって、少し下がって小鴉達と共に休んでおれ」

 

 泰然と構えながら親指で後ろを指さすディアーチェに、ヴィヴィオは力が抜ける感覚を覚えながらも困惑していた。

 

 

「え、で、でも」

「ふん、なのはと小鴉には邪魔だから下がってろと言っていたらしいな。今は貴様こそそうよ。そのような貧弱な状態では、それこそ邪魔というもの」

 

 やれやれと言った様子で手を広げ肩をすくめるディアーチェの言葉に、ヴィヴィオはバツが悪い感覚を覚える。

 

 

「そうだよ、ヴィヴィオ」

 

 

 そんなヴィヴィオに優しげな声がディアーチェの後ろからかけられる。

 

「なのはママ」

 

 ヴィヴィオが後ろに下がらせたなのはが、いやヴィヴィオが一人で戦ったがゆえに、回復を行えたメンバー全員が、その場に集結していた。

 

 

「そうやでヴィヴィオちゃん。今のヴィヴィオちゃんは足手まといになるから、下がってて、な?」

 

 意趣返しと言わんばかりに少し意地の悪い顔で言うはやて。

 

 

「大丈夫だよ、私達を、レヴィを信じて今は休んで、ね?」

 

 優しく温かく包み込むような雰囲気で諭すフェイト。

 

 

「今は足手まといになるということを素直に認めた方が良いですよ、全く負けず嫌いなんですから」

 

 いつも通りの刺々しさと無表情さで冷たい印象を与えるも、そこには友人特有の気安さが垣間見えるアインハルトの言葉。

 

 

「はやて指令、フェイトママ、アインハルトさん……みんなも」

 

 

 U-Dにやられ、戦線を離脱していたメンバー全員が、万全とはいいがたいものの元気な姿ではあるものの、ヴィヴィオの前に姿を見せていた。

 

 

「トーマ、アミタさんにキリエさん。無事だったんですね」

「あぁ、ヴィヴィオの奮闘してくれたおかげで他のひとに救助されて、さ」

『私もトーマも、体質の関係でほぼ万全。大丈夫だよ』

 

 ヴィヴィオの言葉にトーマとリリィが返す。

 

「大丈夫です、お姉ちゃんは強いですから!」

「ちょーっと体に違和感あるけど、まだまだ全然戦えちゃうわよ」

 

 アミタが力こぶを作り元気さをアピールし、キリエは自分の胸を撫でながら無事を告げる。

 

 

 

「みんな、ヴィヴィオが頑張ってくれたから、一人で踏ん張ってくれたからここまで元気になれた。だから、ヴィヴィオは少しだけ休んで、ね?」

 

 

 

 ヴィヴィオの頬をなでるように触りながら、なのはは優しくヴィヴィオを諭す。

 

 

 

「……うん」

 

 張りつめていた緊張の糸が途切れてしまったせいか、ヴィヴィオは瞳に涙を浮かべながら、なのはの言葉にうなづく。

 

 

「みんな! そろそろ王様の拘束が破壊されるよ!」

 

 感動的な場面のなかにレヴィの厳しい声が響く。

 その声をきき、全員が武器を構え、戦士の顔つきへと変わる。

 

 

「なのはママ、みんな。ちょっとだけ、休むね」

 

 ヴィヴィオはそういうと、ユーノとシャマルに連れられ後方へと下がる。

 

 

 そうしているうちにU-Dを包んでいた闇に徐々に亀裂が走っていく。

 

 

「さて、クロノ指揮官、なにか作戦は?」

 

 その闇を見つめながら、レヴィは戦闘指揮官であるクロノへと意見を問う。

 その意見にクロノは少し考え、作戦を伝える。

 

「作戦Cでいこう」

「作戦C? なんだそれは」

 

 事前には無かった作戦パターンにシグナムが疑問を口にする。

 

「そんなものはない! 各員生きることを最優先に臨機応変に対応してくれ! 以上だ!!」

 

 シグナムの疑問にやたらと力強くクロノが答えた内容は、クロノの性格てきにかなりありえない作戦であった。

 クロノがまさかこの状況でそんな冗談のようなことを言うとは思わず、一堂は思わず瞠目する中レヴィの笑い声だけが響く。

 

「あっはっはははっ。了解! 最初に強く当たってあとは流れで、ってことで!」

 

 レヴィは笑いながら、クロノの作戦を復唱すると、バルニフィカスを特大剣の形状に変形させ、紅炎の魔力刃を形成する。

 

 

 レヴィが魔力刃を形成した瞬間、U-Dをとらえていた闇の亀裂は限界を迎えついに弾ける。

 

 

 

「AHHHHHHHHHHH■■■■■■■■■■■■―――――」

 

 

 

 闇が弾けるとともに中に居たU-Dは方向を上げると、周囲へと高密度の魔力の奔流を放つ。

 

 

「総員散開!」

『了解!』

 

 

 クロノの指示に従い、全員がばらけて移動、U-Dの放った魔力流を回避する。

 

 

 

「さぁ、3ラウンド目を始めよう!」

 

 その言葉と共に、レヴィはU-Dへと突撃する。

 

 

 

 

 

 

 




新たな力を、家族の意思を焔として受け取ったレヴィは、三度U-Dの前に立つ。




それは、新たな領域への一歩。



次回、「魔法少女リリカルなのはL×F= 『Sphere of [God speed]』



少女は、神の領域へと至る。


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