みなさんもお気を付けくださいね。
今回はテスタロッサ一家の幸せのための第一歩。
しかしそれはやはり偽善なのかもしれません
今日フェイトに作っていたデバイス、バルディッシュを渡した。
それは、フェイト達が一人前の魔導師になったと言う証であり、私の役目が終了したと言う事でもある。
プレシア程の魔導師ですら私の維持には苦労しているようだ。特に最近は病状が悪化したのかより辛そうに感じる。
あの子達に仕込めることは仕込んだと思っているし、その最後としてデバイスを渡した。
最近では1対2とは言え、デバイス無しで私とまともに戦えるほどには成長している。
――もう、私の役目は終わりですね。
その事をプレシアに報告しようと思い部屋を出ようとしたら急にレヴィに止められた。
「どうしました?」
私がそう言い振り返ると、レヴィは強い意志を秘めた瞳でこちらを見ていた。
フェイトの姿でフェイトとは真逆の青色をした瞳。それはまるで深海の様に深く、大空の様にすべてを見透かすような目だった。
「話が、あるんだ……。大事な話」
「話、ですか?」
レヴィの顔をよく見ると、何時になく真剣な表情をしている。
真剣な時と言えば魔法を習っている時だが、その時でも楽しげな表情で、常に笑顔を絶やさない。それは、魔法の練習以外でもそうだ。
――実際は魔法の練習以外ではフェイトと入れ替わる事はほぼ無いので日常生活でレヴィを見ること自体稀なのだが。
そんなレヴィが真剣な表情でこちらを見つめている。
それだけで、深刻な話だと言うのが伺える。
「それで、どのような話ですか?」
そんなレヴィに対してちゃんと話を聞けるように、体ごと向きを変え正面で対峙する。
それを、真剣に話を聞くと解釈したのかレヴィは一度頷いてから話し出した。
「これは、フェイトにとっても大事な話だからキチンと聞いて貰いたいんだ」
私には存在を感知できないフェイトの意識に向かって言うレヴィ。しばし頷いた後すぐさま次の言葉を切り出した。
「今から話すことは荒唐無稽な話。だけどとても大切な話。フェイトとプレシア。……そしてアリシアに関する大事な話」
それからの話は今までの世界を壊して有り余る衝撃を私達にもたらした。
私がプレシアの研究室の奥で見てしまったフェイト似の女の子はアリシアと言う、プレシアの実の娘でフェイトの姉のような存在であること。
フェイトは実はアリシアのクローンであり、プレシアがアリシアを蘇らせようとして生み出し、失敗したとみなして記憶を改竄したこと。
そして自分には、それらを解決できる手段がある事。
「だから、僕はプレシアに合いたい。相対して理解してもらいたい。アリシアもプレシア自身も救えると言う事、フェイトが、アリシアの妹のようなものだと言う事。だからリニスにも協力してほしいんだ。ボクがプレシアと話し合える状況を作ってほしい。欲を言えば、激昂したプレシアを沈めて、説得するのも手伝ってほしいんだけど」
そう言ってきたレヴィはいつになく饒舌でいつになく真剣で、そしていつになく――
――不安な顔をしていましたね。
いつもはフェイトを安心させるためなのか、自信たっぷりと明るい、まさに天真爛漫な彼女はそこに居なく。
外見通りの、大人に信用してもらえるか不安気な少女がそこには居た。
――そんな顔をされたら、大人としては協力するしか無いですね。
「わかりました。レヴィの言う通りプレシアの説得を私も手伝います」
「ありがとう! リニス!」
私の言葉にまさに太陽の様に輝く笑顔を浮かべるレヴィ。
――フェイトもこのように笑えるようになるならば、手伝う事になんの躊躇いもありません。
「それでは、何時プレシアと会いますか?」
それによって私の根回しも変わってくるでしょうし、今のプレシアがそう簡単に説得できるとは思えません。
――場合によっては強硬策も……、と覚悟はしておきましょうか。
「あー、今ちょっとフェイトが落ち込んでるから、早くても明日、……が良いかな」
私がそんな考えをしていると、レヴィは少し困ったような表情で言いました。
「なるほど、私ですら衝撃的なのですから仕方ありませんね。フェイト。ゆっくりと考えてください。あなたにとっても重要な話なのですから。レヴィ、フェイトをよろしくお願いしますね。私は少しやる事があるので。それでは」
少し逃げるようになってしまうがやる事があるのは事実だ。
フェイトは少し静かに考える時間も必要だろうし、レヴィも側に居る。彼女に任せておけば大丈夫だろう。
――さて、プレシアにはどう報告しましょうか。
元々プレシアには今日の事を報告するはずであったのだが、その内容を少しばかり変更しなくてはならないだろう。
――あの子たちの笑顔を見るまでは、消えるわけにはいきませんね。
フェイトとレヴィと、眠っているように死んでいるアリシアの笑顔を見るためには。
そんなことを思いながら、私はプレシアの研究室に足を向ける事にした。
*
リニスが退出した後、ボク達はフェイトの部屋に帰ってきた。あれから今までフェイトは一言も喋っていない。
アルフは子狼の状態となり、足元で丸まっている。そんなアルフもどこか落ち込んでいるように見えるのは、フェイトが落ち込んでいるからだろうか。使い魔は主と感覚のリンクがあるらしいし、その所為なのだろう。
結局、誰も一言も喋らず、重い空気の部屋についてしまう。
とりあえず、ベッドに腰掛けじっと待つ。衝撃の事実を発表した本人が何か言うのも憚れるし、何よりボク自身がなんと声をかけていいのか思いつかない。
そんな重い空気のまま時間は経っていき、何分経ったのかはわからないが、ポツリとフェイトが話しかけてきた。
『…ねぇ、レヴィ』
その声は沈んでいて聞いている方が悲しくなる様な声だった。
『さっき言ってた事って、ホント?』
「――うん」
『……そっか』
何も言えなかった。フェイトから発せられたのは、信じたくないと言う思いや、悲しみを押し殺したような声だった。今回ばかりはさすがに後悔もする。
――6歳、自我が芽生えてからはほんの数年の少女には早すぎたか。
当然だろう。今まで信じてたものが崩されるのだ。母の笑顔も何もかもが、記憶の中のアリシアだけに向けられたもの。
『レヴィは……、レヴィは一緒に居てくれるよね?』
まるで藁にすがるような思いだったのだろうか、その問いかけはあまりにもか細く今にも消えてしまいそうな声だった。だから、そんな不安をかき消すように、藁では無く大木になれるようになるべく明るい声で答える。
「うん。ボクはずっとフェイトと一緒だよ。何があってもフェイトの側に居る。だって、ボクとフェイトは1つなんだから」
『……』
ボクの言葉に思う事があるのか、それとも信じられないのかフェイトからは落ち込んだ雰囲気を感じる。
当然だ。今まで仲良くしていたとはいえボクは姿も見えない、いわゆる幽霊のような存在。しかもついさっき今までの
――もう、どうしようもないのかな……。
言葉は軽い。とは良く言われる。しかし、言葉にしなければ伝わらない。ともよく言われる。だが、それは心が通じ合わない人同士だからだ。だから言葉にしなければ想いは伝わらない。しかし、心の中の想いは言葉で表せば軽くなってしまう。言葉に表せられるからこそ軽くなってしまう。
それは仕方ない、どうしようもない事実でしかない。いかにボクがフェイトに憑依していようと、フェイトとボクは違う人間であり、心を共有していない。だから想いが伝わらないのは仕方がない。どうしようもないことだ。だが――――
「わたしも! フェイトとずっといっしょだよ!!」
――この世には、フェイトには心を通わせられる、想いを共有できる存在がいる。
使い魔。今まで空気を読んでいたのか、ヒト型ではなく、動物の姿になってボク―フェイト―の足元で丸くなっていたアルフが、ボクの言葉―端から聞けば独り言―を聞いていても立っても居られなくなったのだろうか、顔を上げてボクを、フェイトを見つめて語りかけてきた。
アルフの想いはボクには伝わらない。それでも、アルフが何を想っているのかはわかる。それはフェイトにも伝わっているはずだ。使い魔とその主の感覚共有、それは一方的なものかもしれないが、フェイトの孤独感はアルフに伝わっている。
「だから! いっしょだから! ぜったい、いっしょだから!」
そんなアルフだからこそ放てる言葉。それは語彙の無い拙い言葉。だけど、だからこそ伝わる必死な想い。ボクにすら伝わっているのだ。使い魔の主である、アルフの一番であるフェイトにはもっと伝わっている事だろう。
「……ありがとう。ありがとうアルフ……」
そう言って
フェイトがそうしたいと思ったから、ボクは引いた。本来この身体はフェイトの物である。アリシアの物でもボクの物でもないフェイトの物である。だから変わった。
ボクはあまり表に出るべきではないのだ。
――今回はアルフに助けられちゃったな。
できればボクがフェイトを救ってあげたかった。しかし今回ボクにはそれができなかった。
結局、人が人を救おうなどと思うのは、思い上がりにすぎないのだろうか。
――それでもボクは、フェイトが幸せになる為なら何でもやるよ。
それが、ボクがこの世界に存在する理由そのものなのだから。
今回は約3800文字。やはり長く書くのは難しいです。
もっとひとまとめにした方が良いんですかね?
今回は真実が暴かれそしてフェイトが落ち込みました。
しかしアルフの真摯な想いによって復活。
影が薄くてもフェイトの安寧にとっては重要な部分を占めているアルフ。
でもこの小説では出番は少ない。
自我意識を得てから約1年とちょっとの少女に残酷な真実を押し付ける。
このあたりからレヴィの異常性が垣間見えますね。ひどい人だ←
ではまた次回