魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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 今回は長いです。いつもの2倍以上はあります。今回はプレシアさんの自分に対する後悔(?)的な描写があり長くなりました。人によっては冗長かもしれませんし、ちょい鬱かも?

 アリシアの死因や、フェイトとアリシアの差についてのオリ設定が含まれています。このあたりからオリ設定、ご都合主義が多くなるので注意です。


狂愛×親愛=それは第6話

「私はプレシアに事情を説明してから呼んできます。ですので、あなた達はゆっくりと何を言いたいか考えておいてください」

 

 リニスはそう言い残して玉座の間から出て行った。

 ボク達が今いる場所は時の庭園の最奥、玉座の間。

 玉座の間に付いても当然プレシアは居ない。常日頃から玉座の間で踏ん張りかえっている人なんていないだろう。なのでリニスが呼びに行ったのだ。

 

「どうする? レヴィ」

 

 打ち合わせをしておけとリニスに言われたからかフェイトがこちらに伺ってくる。

 

『基本はボクが喋るけど、最初はフェイトがプレシアに言いたい事言えば良いよ』

「わかった」

『それと、ボクが喋ってるときはいつでも防御魔法が展開できるように準備してくれるとありがたいかな』

「うん」

『あとは……、なるようになるさ』

「そうだね。なるように、なるよね」

 

 軽く打ち合わせをしてからもう会話が無くなる。しかし、居心地が悪いわけでは無い。この無言は、お互いが目指すべき場所、やるべきことを理解しているから生まれる無言。もう言葉は必要ないのだ。

 

「ねえ! わたしはなにすればいいの?」

 

 そんな中アルフが声をかけてきた。人間形態になってもまだ幼い。確かに戦えはするが、今回の相手はあの大魔導師だし、戦闘し勝利するのが目的ではない。あくまで対話が目的であり、戦闘行為は相手が暴力に訴えてきたときの最終手段でしかない。

 

「そうだなぁ。じゃぁアルフは、私たちの事守って、ね」

 

 そんなアルフの質問にフェイトが答える。それを聞いたアルフは顔を輝かせて大きく首を振った後気合を入れて扉を見つめている。微笑ましい光景ではあるが、アルフもやる気十分、と言う事だろう。

 使い魔は主の精神状態に影響されると言う。ならば今のフェイトのやる気がアルフに伝わっていると考えてもよさそうだ。

 

 そうして、気合十分なボク達が言葉もなくただやる気を満たして待っていると、扉が開いた。

 その扉から入ってくるのはリニス。そしてリニスの後ろに居るのが、

 

――プレシア・テスタロッサ。

 

 フェイトの母であり、アリシアの生みの親。魔法少女リリカルなのは第1期のラスボス。大魔導師にして研究者。魔導師としての実力は大魔導師と言われるだけの事はある。『条件付きSS』と言う魔導師ランクに加え、次元跳躍魔法と言う難度S+の魔法すら使いこなし、その魔力量から放たれる一撃は、次元航空艦の防壁を突破し一時でも機能を落せてしまうほど。

 対して、研究者としてはどうかと言うと、魔導エネルギー工学の研究者にして、過去、魔導炉ヒュードラの開発主任でもあった。残念ながらそれがプレシアの不幸の始まりでもあった訳だが。まさに天才の名にふさわしい人物である。

 その本人が今目の前に居る。今はまだ私服に白衣と研究者姿であるので、リニスが上手く説明してくれたのだろう。

 

「それで、そのレヴィとやらはどこに居るのかしら?」

 

 ボク達を一瞥した後、リニスに向かって言うプレシア。まぁ、当然の疑問だろう。なぜならプレシアにとって、今この場には自分とリニスに、フェイトとアルフしかいないように見えて居るのだから。

 

「プレシア、先ほども伝えたとおりレヴィはフェイトの中に居ます。二重人格、と言えば簡単でしょうか」

「そう。ならば、早く出しなさいフェイト。リニスが言っている事が本当なら瞳の色が変わるのでしょう?」

「……母さん」

「今あなたと話すつもりはないの、良いから早く変わりなさい、フェイト」

 

 フェイトの言葉に耳を傾けず、冷たく自分の要件を伝える。それはまるで焦っているようで、こちらを急かしている風にも受け取れる。

 そう言われたフェイトは諦めたのか、目を閉じこちらと変わる。

 

(ごめんね、フェイト)

『……大丈夫。母さんとアリシアの事、よろしくね』

(うん。頑張るよ)

 

 目を開ける寸前にフェイトと少しだけ言葉を交わす。フェイトからはわかっていたような、諦めたような感情が感じられる。それでも、よろしくされたのだ。頑張らないわけにはいかないだろう。

そう、改めて覚悟を決め、目を開ける。

 そこには、意識で見ていた時とは違い、目を通じて脳が処理する、生のプレシアがいた。

 改めてみて思う、こちらを人間とは思っていないかのような冷たい目。表情は無表情だが、オーラと言うのだろうか、そう言う何とも言えないモノを感じる。

 

「初めまして。プレシア・テスタロッサ。“あなたの娘”の体を間借りしてる。まぁ幽霊みたいなものだと思ってくれて構わないよ」

 

 ボクのあいさつに少し表情をゆがませるがすぐさまそれを元の無表情に戻し、なるべく感情を押し殺そうとした声音で声をかけてきた。

 

「あなたが、レヴィね。なるほど、確かに、一目でわかるわね。“ソレ”とは真逆の瞳の色。それで? あなたの言い分は何かしら? まさか本当に私の目的(・・・・)を達成できるとは言わないわよね」

「できるよ」

 

 プレシアの質問にボクは即答する。ここから先ごまかしは利かない。相手はこちらの何倍もの人生経験と知識を蓄えている。弱みを見せちゃいけない。だから、事実だけを簡潔に、直接的に伝える。

 

「嘘を言うのは感心しないわ。私が何年かけても突き止められなかったモノが、ぽっと出のあなたに解決できるとでも? もし、本当なら方法を教えてもらいたいものね」

「できる。あなたの目的を達成する方法は教える事ができるし、実践もできる」

「なら!」

「でも!」

 

 声を荒げるプレシアをこちらも大声を出すことで収める。

 

「対価としてボクの言い分を聞いてほしい」

「……いいでしょう。何が欲しいのかしら? お金? それとも私の研究成果かしら? 研究成果ならすきにすればいいし、お金なら少し時間をくれればすぐに用意するわ」

 

 まくしたてるように言ってくるプレシア。確かにアリシアの為ならば金に糸目は付けないだろうし、プレシアの研究成果ならばそれなりのものが得られるだろう。

 しかし、そんな即物的なものは要らない。必要ない。

 

「そう言うモノは良いんだ」

「なら、何が欲しいのかしら?」

 

 プレシアの声から感じ取れるテンションが少しづつ上がってきている。

 プレシアもボクも、お互い冷静になろうと努めているが、それでも熱がこもってきている。お互い自分の目的を達成するため、お互いを満足させる妥協点を探すため。

 

「ボクがあなたに望むのはただ一つ」

 

 言え。言うんだ。ボクがこの世界でやるべき目的の一つ。ボクがボクである存在理由。

 フェイトに幸せを上げる為に。

 ボクは、ボクはプレシアに、望むのは――

 

「プレシア・テスタロッサ。ボクがあなたに望むものはただ一つ。それは……」

 

――それは――

 

「フェイトを自分の子だと、アリシアの妹だと認めて、一緒に幸せな家庭を築いてもらいたい」

 

 そんな、簡単そうで難しい。ただ一つの事。

 

 

 レヴィという“アレ”の中に居るらしい存在が私に話があるとリニスに伝えられた。

 それは、レヴィと言う者が私の目的(アリシアの蘇生)を達成する手段があるので交渉したい。と言うものだった。

 その言葉を聞いた時に私は居てもたっても居られなくなった。すぐさまその場に駆けつけ、拷問にかけてでもその方法を吐かせたかった。

 しかし、私は冷静になるよう努めた。相手は交渉がしたいと伝えてきたのだ。ならば、相手にも言い分が、こちらに要求する事が有る筈だ。それを引きだし、満たすことでこちらの要求も満たされる。そう言う話し合いの場を設けたいと言うのだ。ならば冷静になるべきだろう。

 

 しかし、そんな私の思いも開始しばらくして打ち壊されることになる。

 相手の要求を聞いた瞬間、私は冷静でいられなくなった。

 頭が沸騰した。まるで脳味噌が溶岩に変わったかのように熱くなり、考える事が困難になった。ここまで頭に血が上ったことは人生で何度あるだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。

 

「ふざけないで!」

 

 そんな私は、気が付いた時は大声で怒鳴り散らしていた。

 

「“ソレ”を! その出来損ないを娘だと思えですって!? できるわけがないでしょう!! 私の娘は! 古今東西、未来永劫、現在過去未来、何時どんな時でもアリシアただ一人なのよ! 私の家族は!! アリシア以外に居ない!! 私はアリシアの為ならどんな事だってやれたししてきた! そんな私に! アリシアの出来損ないを! お人形を娘だと思えですって!? ふざけるのも、いい加減にしてちょうだい!!!!」

「それでも、ボクはあなたとフェイトに本当の親子になって貰いたいし。アリシアも合わせて、本当の家族になって貰いたい」

 

 激昂する私とは対照的にどこまでも冷静なレヴィの声が聞こえる。まるで、その瞳の色みたいに冷静に、冷徹にあちらの言い分を突き付けてくる。

 

「あなたに何が判るの! あの時、アリシアを失った私のキモチが!! あなたにわかると言うの!!?」

「あなたのキモチはわからない。でも、今のあなたより、アリシアのキモチはわかると思うよ」

「ふっ、ざけるなあああああぁぁぁぁっあああああああああああああああぁぁぁぁぁああああっぁぁぁあぁぁぁっ!!!!!」

 

 気が付いたら私は、隠し持っていたデバイスをセットアップしていた。

 何も考えてはいなかったし、何も考えられなかった。ただこの激情を何かにぶつけたかった。目に映る全てのモノを破壊したかった。ただそんな子供の癇癪のような激情に身を任せてデバイスを振るった。魔法も何もない。ただ私のデバイスを形態変化させた鞭でただひたすらに目の前の子憎たらしい存在に打ち続けた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 しかし、そんな私の八つ当たりはレヴィには届いてなかった。

 

「プレシア、少し落ち着いてください」

「ふたりは、わたしが守るんだ!」

 

 いつの間にかレヴィの目の前に出リニスと、アルフとか言う“アレ”の使い魔が防御魔法を展開していた。デバイスでの攻撃とは言え、魔力も何も込めていない、振るっただけの一撃が防御魔法を貫けるわけもなく、三人は無傷で立っていた。

 

「あなた達も、私の邪魔をするのね……」

 

 それならば。私の邪魔をするならば……

 

「話を聞いてください。プレシア!」

 

 リニスが何かを言っているようだが頭に入ってこない。

 私の邪魔を。私とアリシアの邪魔をするモノは、全部、ゼンブ――

 

――ゼンブナクナッテシマエバイイ

 

「私は、アリシアの為ならなんだってできるの。あなた達を消すことだって!」

 

 そう言って魔法を展開する。私の最も信頼し、最も得意とする魔法、サンダーレイジ。ある一定の範囲を稲妻で打ち払う魔法であり、電気変換素質と相まって、高威力、広範囲かつ、雷の感電により、攻撃を受けた後の行動を制限するなど、追加効果もある。

 本来は自然界の電子運動、つまり自然発生した静電気を利用し雷自体を起こさせることで、魔力消費を抑えるのだが、室内でも魔力さえあれば使える。さらに、術式構築の段階で対象認識を組み込んでおり、たとえ範囲内だろうと、対象以外には効果を及ぼさない。

 

 細かく説明したが、結論から言うとその魔法が放たれることは無かった。

 私が魔法を展開した瞬間に、リニスとアルフは防御魔法を多重展開し、なおかつレヴィからもフィールド系魔法の展開を確認できた。その中でレヴィは唐突に私に言葉を投げかけた。普通の言葉は今の私には届かなかっただろう。しかし、その言葉だけは届いた。

 

「あなたはそうやって、アリシアにすべての罪を被せるの?」

 

 その言葉は私の耳を貫き、脳まで届き、脳が理解し、そして一瞬で激昂していた私を冷静にさせる程の力を持った言葉だった。

 

――私が、アリシアに罪を被せる?

 

「なにを、何を言っているの」

「あなたはそうやって、アリシアのためだと言って罪を犯す。違法研究に手を染め、生み出した子を娘だと、人間だと認めず育児放棄(ネグレクト)し、今は殺人まで犯そうとしている。それらすべてを行った手で、あなたはアリシアを抱きながら言うんでしょう? 『アリシアの為に頑張ったのよ』って」

 

――ナニヲ、イッテイル?

 

 言葉の内容は届いていた。しかし理解したくなかった。

 

「目覚めたアリシアはそんなあなたを見てどう思うんだろうね。自分と同じ顔をした少女を無視し、人間として認めず、ましてや殺して。そうして目が覚めた自分に老けた母が言ってくる。『私はあなたの為に罪を犯したのよ』って」

 

 私に向かって放たれる言葉の刃が心を傷つける。脳味噌をぐちゃぐちゃにする。それでもレヴィの言葉は止まらず、私に向かって見えない剣を振り下ろす。

 

「優しい母しか知らなかった少女はどう思うんだろうね。ありがとう。と言って素直に喜ぶのかな」

 

 その言葉に私は居ても立っても居れなかった。

 

「ふざけないで! そんなわけないでしょう! アリシアは優しい子なのよ! 優しくて、優しくて! そんな子が!!」

 

 気づいたら叫んでいた。アリシアは優しかった。私が仕事で忙しいときも泣かず、悲しまずに待っていた。私が返ってきたときは明るい笑顔を見せてくれた。

 一人でさびしくないように、大きくなったら私を手伝えるように、妹すら願った。そんな優しい子だった。

 

「なら、そんな優しい子はどう思うんだろうね。自分の遺伝子で作られた、ある意味で自分自身、妹のような子が優しかった母に虐待され、殺され。その事を母は誇らしげに自分に語ってくる姿を見て。優しい優しいアリシアは、どう思うんだろうね」

 

 そうだ。あの子は妹を欲しがっていた。“アレ”はそんなアリシアの遺伝子から生み出したクローンだ。それも、ただのクローンじゃない。

ヒュードラの暴走による、一瞬で大量の魔力を浴びてしまったが故に起きた心肺停止。その実情は急激な魔力に耐え切れなくてリンカーコアが壊れてしまったのが原因だった。

 魔力生成機関のリンカーコアは不思議な物だと思われているが、それでも内蔵の一部であることは違いが無い。むしろ心臓に近い位置にある分、胃や腸よりも生死に直結する。

 それが破裂したとなればなおさらだ。

 もし、アリシアに大きな魔力があれば、自分ほどの魔力があれば、そんなことは起きなかっただろう。リンカーコアの活動が弱まっても、破裂してしまうことは無かっただろう。何度もそう思った。

 だから“アレ”には、フェイトには大きな魔力が生み出せるようリンカーコアを調整した(・・・・)

 そう。手を加えたのだ。クローンそのままでは、また同じようなことが起こった場合同じ結末になってしまう。だから手を加えた。

 それだけじゃない。クローンと言うのは総じて寿命が短い。採取した遺伝子がすでに寿命を消費しているにもかかわらず、無理やり急成長させるために、同じ年月でも普通のヒトより寿命を消費する。だから寿命が短い。

 そんなことが許せず私はアリシアのクローンを生み出すときにテロメアにも手を出した。つまり、通常より寿命を延ばしたのだ。そうすれば、クローンでも普通の人程度の寿命になる。

 そこまで手を加えているのだ。当然同じ人間になる訳がない。手を加えているのに、手を加えて居ないものと同じであれとは、なんと傲慢な考え方なのだろう。

 そして最も恐ろしいのは、そんな当たり前の考え方に気が付かなかった今までの狂った自分だった。『アリシアを取り戻す』その執念に取りつかれ、何もかもを顧みず、自分すらも顧みず突っ走ったと言うのに、それは何時からかアリシアすらも気に掛けず、自分の妄執を果たすためだけの行為になっていた。

 

「あ、あぁっ」

 

 目の前が暗くなり、足元がおぼつかなくなる。気づけばデバイスを床に落とし、その隣にへたり込んでいた。力が入らなかった。

 絶望してしまった。己が犯した罪に、己が行為の意味に。

 

――なぜ、気づかなかったのか……。

 

 その理由はわからない。

 今となってはアリシアを失ってから今までの自分がまるで誰かに操られていたのでは、誘導されていたのではと思えるほどに、狂っていた。狂おしいほどの愛に狂っていた。

 

「プレシア」

 

 そんな私の側に近づくのはリニス。フェイトが一流の魔導師となるために私が用意した使い魔。昔アリシアが拾ってきた山猫。教育の邪魔になるからと、使い魔になるまでの記憶はすべて消した。リニスはアリシアの数少ない孤独を紛らわしてくれる家族だったと言うのに。

 

「……あぁ、リニス。ごめん、なさい」

 

 自然と謝罪の言葉が口からこぼれていた。多分リニスには伝わっていないのだろう。私が何に対して謝っているかなど、しかし謝らずにはいられなかった。

 

「……プレシア。私に謝っても何も意味はありません。私はあなたの使い魔です。それより以前の記憶もなければ、それ以外だと言う自我もありません。ですがプレシア。そんな私にも、過去が戻らない事はわかります」

 

 リニスの言葉はまるで子供を諭すような口調すら感じられた。その言葉は私を怒らせる事は無く、ただただ心の中に入ってきた。

 

「ごめ、ん。……ごめん、なさい……」

「謝っても何にもなりません。プレシア、未来を見ましょう。過去は戻らない。でも今は、その過去を取り戻してくれる人が居る。手段がある。ならば、過去を見続けて後ろ向きに進むのは今日で終わりにしましょう。明日からは、フェイトと、レヴィと、アルフと、私。もちろんあなたとアリシアの二人も入れて。みんなで歩いていきましょう」

 

 そんなリニスの優しい言葉はまるで母のようだった。アリシアと共に居た頃の自分の様に、彼女らを慈しむ母の言葉だった。

 私が母どころか人としての道を踏み外していた時、フェイトを育てていた母は、まさにリニスだったのだ。

 

「……母さん」

 

 その言葉に思わず顔を上げる。その先に居たのは、赤い瞳の、まさにアリシアと瓜二つの少女。それでも、その顔には天真爛漫なアリシアと違って覚悟を決めた者特有の表情が垣間見える。

 

「母さん」

 

――こんな私でも、母と呼ぶのね……。

 

 そう思いながらも、フェイトが私に向けて言う言葉を、私はただただ黙って聞いていた。

 

「私はお人形かもしれません。私はアリシアの出来損ないかもしれません」

「それは!」

 

――そんなことは無い!

 

 そう声を大にして叫びたかった。だけどできなかった。私を見下ろすフェイトの瞳は、まだ伝える事があると、悠然と語っていたからだ。

 

「それでも、私はあなたを恨んでいません。母さんが私を作ってくれたから。アリシアでは無く、フェイトとして作ってくれたから、私はレヴィに出会いました。リニスに出会いました、アルフに出会いました。多分それらは全部、私がフェイトだったからできたことで、私がアリシアだったらできなかったことで」

 

 子は、気づくと大人になっていると言う。しかし未だ2桁にも年齢の満たない子が、自意識だけならたった数年の子が、ここまでの成長をするのだろうか。

 その大人びた言葉と覚悟は、まるで私を断じるかのようで、私が必要ないと告げるようで、とてもつらかった。

 それでも聞かなくてはならない。

 彼女を生み、そして放置した罪を贖わなくてはならない。

 

「だから、私はあなたに感謝します。プレシア・テスタロッサに、フェイト・テスタロッサとして生んでくれたことを感謝します。産んでくれてありがとう」

 

 断罪されることすら覚悟した私に対し、フェイトはただ感謝の言葉を伝えた。

 

「だから、最後に聞いてください。私はあなたの娘じゃないかもしれない。それでもあなたは、私の、フェイト・テスタロッサの母親です」

「――……。」

 

 言葉も出なかった。彼女は母だと言う。自分が娘では無くても、私の事は母だと言う。

 

――なんて良い子なのか。

 

 どうしてこんな良い子が生まれたのか。私の遺伝子では無い、産んだ命に責任を持たず狂った女の娘がここまで良い子に育つのだろうか。

 

「だから」

 

 私がいくら自責の念に飲まれても、フェイトの言葉は続く。

 

「だから、あなたが許してくれるのなら、あなたが望むのなら私はあなたの剣にも盾にもなります。母さんの罪を、たとえ世界が許さなくても私が許します。だから」

 

 あぁ、この子は。フェイトは。アリシアの妹は――

 

「だから私の母さんのままでいてください」

 

――どこまでお人よしなのだろうか。

 




 と言うわけで、プレシアさんとの対決はレヴィの『言葉の刃』で瞬間決着となります。釈然としない人もいるかと思いますが、自分ではこの程度が限界でした。

 後、1,2話で序章が終了するかと思います。

 それと、宣伝になるかもしれませんが、活動報告にて色々なんか言ってるのでもしよければそっちも見てやってください。

 それでは、また次回

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