六代目火影、はたけカカシは里で最も大きい忍者アカデミー、そして過去自分が卒業した学び舎でもあり、ナルト達、第七班が結成された思い出の場所を訪れていた。
眼前には12人の忍の卵たちが並んでいる。今年のアカデミー卒業生であり、これから下忍選抜試験を連れてきた上忍たちから受ける者たちだ。
資料に目を通せばその年齢は下は7歳から上は14歳。アカデミーの平均年齢が大戦前では12歳程度だったのを考えれば今年の卒業生たちは平均的に若い、というよりも幼い。
14歳の子を除けば皆2桁にもいかない年齢だ。そして一人の卒業生の名前に目が留まる。
――日向
今年の卒業生の中で唯一、木の葉の名家と呼ばれる忍の一族だ。
他は親や親族が忍というわけではなく、アカデミーに入ってから鍛錬を始めた子ばかりである。
卒業成績の等級にははD~Sランクまであり、C以下は大抵が下忍選抜試験で落とされ、再びアカデミーに戻るか別の道を歩むことになる。
そしてB~Aランクはアカデミーが下忍としての能力があると判断されたものに与えられるものであり、Sランクはすでに中忍級の実力を備えているものに与えられる。
日向の娘はA級、つまり下忍としての能力が備わっているとアカデミーの教育課程から判断されている。
カカシは興味本位で資料から目を上げ、一番右の後方に並んでいた娘を盗み見る。
12人の中で最も大人びており、通った鼻筋、肩より短く切りそろえられた黒い髪、日向一族特有の白い眼。総合的にみると誰もが"可愛い少女"というより"美しい女性"と表現するような整った容姿をしていた。
(事前の報告だと特に特徴のない普通のくノ一と聞いていたが、どうもそうには見えないねー)
少なくともあれだけ目を惹きつける容姿をしているのだ。日向一族というのもあり、実力も申し分ない。普通に考えれば"普通"と評価されることに違和感を覚える。
しかし、いつまでも彼女のことを気にしている場合ではなかったので至極当然のように彼女のことを忘れ、挨拶をした。
「あー、どうも。六代目火影のはたけカカシです。よろしく」
今に始まったことではないが、カカシは挨拶といったものが苦手―というよりも興味がなく、手を抜く習慣がある。そのため、大抵の第一印象は"この人、まともなのかな?"であり、不真面目な人物として記憶に残る。
「なんとなく察しはついているだろうが、俺の横に並んでいる3人が君たちの担当上忍となる。
各自適当に一言挨拶してくれ」
(((て、適当だなー、この人)))
大半のアカデミー生とアカデミー教師はなんとなくイメージしていた火影の人物像が崩れ去り、多少なりともショックを受けていた。
現役時代は若くして火影直轄の特殊部隊"暗部"で活躍し、その後も"コピ―忍者"という異名を轟かせ、他里からも要注意人物として挙げられ、さらには英雄うずまきナルトの師として導いたという経歴から、威厳のある人物像が人々の中で作り上げられていたのだ。
なんとなく微妙な空気が流れる中、火影に挨拶を命じられた3人がそれぞれ自己紹介をする。
「はーい、注目~!私は山中いの。つい最近上忍になったばかりだから、新米のほうかな?気軽にいのちゃんって呼んでもいいよ。よろしく~」
長い金髪で前髪で顔の半分が隠れているが、それでも美人だと分かる美貌、そして扇情的なくノ一衣装を纏う彼女の明るい挨拶により、なんとなく場の雰囲気は明るくなった。
「次に私ですね。医療忍術を得意としています。シズネです。火影様の補佐を行っていましたが、今日から皆さんを受け持ち、現場で任務にあたることになりました。よろしくお願いいたします」
次に挨拶したのは如何にも真面目そうな黒髪のくノ一だった。彼女は五代目火影であり伝説の三忍にも謳われる綱手の付き人であり、会得の難しい医療忍術を幾つも扱いながらも戦闘技術も一流の医療忍者であるが、その素性を知るものは多くない。
ましてや、まだ忍とも言えないアカデミーの卒業生たちには知る由もないため、特に話題になることなく三人目の挨拶に移った。
「俺は猿飛木ノ葉丸だ。今日は"ある人"の代理で来ているだけだから、君たちの担当になるわけではないが、この後に行われる下忍選抜試験の監督員としてみていくからよろしく頼むんだなコレ」
そしてこの場にいたアカデミー生のほとんどが気にしていた最後の人物。
皆が里の英雄うずまきナルトの姿が確認できず、噂は真実ではなかったのかと落胆していたところ、代理であることを知らされ、場がざわついていた。
「(やっぱり噂は本当だったんだな!"ある人"ってナルト様のことだろ!?)」
「(ナルト様の班に入るには、あの人の試験を受けて突破しないといけないってことか・・・)」
「(猿飛、っていえば三代目火影様の一族で、木の葉の名家だもんな。エリートそのものだな)」
皆が一様に顔を合わせて憶測をする。
まず最初の班分けで試験官が、木ノ葉丸でなければナルトの班になれず、また、その試験自体突破できるのか分からないため、期待と不安でじっと話を聞いていることができなくなっていた。
ただ一人、誰とも顔を合わせず、誰にもその目を合わせられることなく、そして本人も身動きせずじっとしていた。
「・・・・」
―日向美影
もし誰かが彼女の"眼"を見ていたなら、その異常に気づき、騒ぎになっていただろう。
本来、白眼を宿す日向一族の眼に、赤い瞳―"写輪眼"が浮かび上がっていたのだから。
だが、誰も気が付くことはなかった。
誰もが彼女の存在を認識しながらも、顔を向き合わせ、眼を見ていないのだから。
視界の中にありながらそこに焦点が合わない。それを異常とも思わず、違和感も感じさせない。
「会ってみたいな、うずまきナルト・・・」
彼女はぽつりと声を発した。
近くにいるものなら聞き取れるようなはっきりとした声であったが誰も気づかない。
そしてゆっくりと瞬きをして、再び瞼を開けたその瞳には、元の綺麗な白い目に戻っていた。