Lostorage restrained WIXOSS【完結】 作:ジマリス
昼休みは、御影と話し合いをしたり、すず子と一緒に弁当を食べたり、なにかと用事があった。
何か月も前の話だ。いまじゃ、それはなくなって、奏太と机を向かい合わせて飯を食う毎日。
別に嫌だとは言っていない。気の置けない親友と、こうやって過ごしているほうが性に合ってる。
だけど最近じゃ、いろんなことが起きすぎて、セレクターバトルのことが頭から離れなかった。
今のところ分かっているセレクターだけでも、全員がバトルの経験者。リィンも他のルリグも、別のセレクターを感じてはいないようだ。
こんな偶然があるか。いや、これは必然だ。
再びセレクターバトルを始めた黒幕は、セレクターバトルを耐え抜いた者だけを選んでいる。
問題は、なぜそんなことをしているかだ。
「まるで……」
まるで、誰が強いかを決めてるみたいじゃないか?
バトルで人を食い物にしてきたカーニバル。そのカーニバルを倒した穂村すず子。そして、歴戦を目の当たりにした水嶋清衣。
他のセレクターまで巻き込まれたのは、参加者を勝負へと引きずりこむためだとしたら……
しかし、それでもまだ、なぜそんなことをさせるのかという疑問は晴れない。
黒幕自身が、強者と戦いたがっているのか? それならば、白窓の部屋に拉致して無理やりバトルすればいいだろう。それをしないのは……
僕は考えを振り払った。
どれだけ考えようとも、たどり着けはしないだろう。
人知を超えた状況で、僕の狭い価値観や知識に当て嵌めようとするのが間違っている。そもそも何か理由があってセレクターバトルが行われていることすら、確かではないのだ。
適当に弄ばれているだけなのかも。
「まるで……どうしたん?」
正面に座る奏太が、訊ねてくる。
「別に。まるで、普通の日常だなって思って」
「なんだそれ」
呆れながら、奏太がおかずを頬張る。
このところ考えすぎだ。口から言葉が漏れるほど、頭がいっぱいになってる。
ため息をついていると、スマホが震えた。見てみると、水嶋さんからメッセージが届いていた。
『今日集合するって話、少し遅れるかも』
「誰からだ。女か、女なのか」
「奏太には関係ない」
「女だ。くっそう、いっつも肇のところに行って、俺のところには来ねえんだよな」
一部奏太が勘違いをしているのは放っておいて、僕はもう一度メッセージを見る。
集合? 今日はとくにそんな約束をしていなかったはずだ。
御影が水嶋さんを誘ったのか。そして、僕には伝えなかったと。
完全に決別してしまったな、と不安と後悔を持ちながら、僕は『了解』とだけ返信した。
△
水嶋さんとすず子と御影はどこかで集まるらしいというのを掴みながらも、僕は一人で調査をしていた。
里見と会ったことのあるところを見て、一応レイラと初めて会った路地も探してみるが、やはりいない。
探し物をするときには、無駄だとわかりながらも同じところを何度も見てしまう。そう思いつつ、僕が足を運んだのは、かつては里見が拠点としていた喫茶店だ。だがやはり、そこにカーニバルはいない。
戦えと言った時に、彼女は『まだその時じゃない』と言った。あれはどういう意味なのだろうか。
御影とは戦ったのだから、バトルができないわけじゃない。いや、あのときにはセレクターに選ばれていなかったのか?
紅林さんがセレクターに選ばれたのは、僕や植村さんよりも後。ルリグを手に入れるタイミングは、人によって同じだったり違ったりするから……いやいや、水嶋さんVS蒼井晶のときには、カーニバルもバトルフィールドにいた。あの時点では、すでにセレクターだったはずだ。
カーニバルが僕と戦うのに、何か必要なものがあるのか。前回負けたことを根に持って、全力で叩き潰してくるつもり……とか。
……あいつの言うことを真に受けるのはよしておこう。しかし警戒は最大限に。
僕と戦うのを避けているのは、それ以外の誰かを標的としているからだと考えていい。いまその標的となりうるのは、水嶋さんと紅林さん。その二人を引き合わせたほうがいいな。
注文もせずに、僕は店を出る。すると、入口に見知った顔が立っていた。
「森川……?」
思わず、名前を言ってしまう。
「誰?」
すず子の親友、森川千夏がそこにいた。
△
「そう……セレクターバトルで知り合ったんだ」
陽はまだ落ちていない。夕暮れ時のオレンジに晒されながら、俺はコーヒーをすすった。
カーニバルを探しに行ったのとは違う喫茶店だ。
話合い……というか一方的に僕が話すのを、森川はただただ頷いていた。
「知り合いというか……顔を知ってる程度だよ。森川……さんは、記憶の大半を失ったって聞いてるけど」
「森川でいいよ」
にこっと笑って言う。
こうやって話していて、僕が彼女に抱いた印象は前の時とはほぼ逆だった。
素直で、笑う姿が自然と似合う。どこかすず子と似たイメージに、身構えていた僕自身が馬鹿らしく思える。
「うん、今まで何があったのか、ほとんど思い出せないの。だから、伊吹君のことも……」
「そっちのほうが良かったかもね。君から見た僕の印象は最悪だっただろうから」
「最悪?」
「ずいぶん意地悪を言ったからね。君がすず子と本音を言い合えるように焚きつけたんだ」
「本音を……言い合えるように……」
あのときの二人の関係はこじれすぎていた。
それを解消するには、お互いが嘘偽りなく、二人だけで話せる空間と時間が必要だった。
表面上はすず子と決別するつもりだった森川は、挑発にあっさりと乗ってくれて、思惑どおり彼女たちは再び友達に戻ることができた。
賭けではあったけど、すず子なら元通りにできるほどの強さを持っていると、僕は信じていた。
「当時の森川は、すず子のことを忘れなきゃいけないって息巻いてた。けど、どうしてもそれが本当のことに思えなくてね。お節介だったかもだけど」
「……どうしてそう思ったの? 私が本当のことを言ってないって」
「苦しんでたから」
お互いに、プラスチックのコップを置く。
「君がすず子に絶交を宣言したことがあったんだけど……」
苦い顔をする森川。
すず子は言ってなかったか。わざわざ嫌なことを思い出させる必要もない。藪蛇だったか。
「言わないほうがよかった?」
「ううん、聞かせて」
首を振って、強い目で見てくる。
記憶が消えたことで一番苦しんでるのは本人だ。周りが感じているギャップを、森川はもっと感じているだろう。
なくなってしまったならこれからまた作ればいいというのは、責任も罪悪感も苦痛もない第三者だから言えることだ。
僕が話をすることで、少しは思い出すことができるだろうか。それとも余計に苦しめるだけか。悩んだが、彼女の言う通り話すことにした。
「その時、君の顔はたしかに覚悟を決めたような感じだったけど、同時に後悔も見えた。なんていうか、言いたくないのに言ってしまったみたいな」
「そういうこと、よくわかるね」
「あくまで推測だよ」
とは言うが、あのとき確信めいたものを僕は感じていた。特にネガティブな表情には敏感なのだ。
「記憶を取り戻したいと思う?」
「うん」
森川は即答した。
「嫌なこともいっぱいあっただろうけど、すず子との思い出を捨てたままにしたくないの。だから……」
すっと、一枚のカードを出した。
「だから、戦う」
ああ、僕はなんて馬鹿なんだ。
紅林さんのように、僕らの後で選ばれた人がいる可能性は考えた。けど、まさか森川がそうだとは、微塵も思ってなかった。
カードに描かれた少女が動く。
メル。以前も見た、森川のルリグ。
「セレクターになってたのか!」
思わず声を上げる。幸い、周りに人はおらず、聞かれることはなかった。
「うん、絶対に記憶を取り戻して、二度と忘れない」
ああくそ、まずい。
今の森川が以前のような非情な戦い方ができるとは思えない。そもそも、バトルのルールを把握してるのか? キーカードという新ルールもあるのに、勝ち抜けることができるのか?
答えはノーだ。カーニバルやレイラのような、強力な相手と戦えば、負けてしまう。
そうなればどうなる。せっかく積み上げた記憶がまた消えるか? 存在が消えてしまうか? なんにしろ良い目には遭わない。
「森川……」
確固たる意志が宿る彼女を止めようと、何か言葉をかけようとしたその時、僕のスマホが鳴った。
紅林さんからだ。通話ボタンを押して応える。
《伊吹さん、レイラを見つけた。というより、こっちに来たよ》
「今どこ?」
《駅前近くの……どこだろ》
早口でまくしたててくる。
あっちもこっちもままならない。ひとまずは、危険を目の前にしている紅林さんが優先だ。
僕は立ち上がりながら、森川を指差した。
「森川、とにかく戦わないようにしてくれ」
返事を待たずに走りながら、僕は紅林さんとの通話に戻る。
「紅林さん、僕がすぐ行く。ただし戦っちゃダメだ」
《できないよ。緑子を取り戻すためにも私がやらないと》
「紅林さん!」
通話が切れた。
くそっ、まずいまずいまずい。
紅林さんへかけ直すも出てくれない。植村さんも同じだ。
せめて明確な場所を言ってくれればいいのに。わかっているのは駅前ということだけ。迷っている暇も理由もない。僕は一目散にその方向へと駆けていった。
こうやって全速力で走っていると、里見紅が、森川とあるセレクターを戦わせたときのことを思い出す。
そのときの森川の対戦相手は、残りコイン一枚だった。里見はそいつが負けることを見越して、わざとその対戦場所へすず子と御影を向かわせた。そこで僕たちは、セレクターバトルに負けた者の末路を見ることになる。
ルリグによる人格の乗っ取り。
それは一つの心が消滅することを意味する。そんなことがまた起きてしまえば……
「肇、近いよ。あのビルの後ろでバトルフィールドが開いてる」
リィンの指差すほうへためらいなく向かう。
ビルに囲まれた開けた場所で、陽に照らされて濃い影を作る二人がいた。
一人は恐怖から逃れるように自分を掻き抱いている。それが植村さんだとわかり、駆け寄る。彼女は少しでも押せば崩れそうなくらいに震えていた。
「植村さん……」
「伊吹さん。遊月が……」
彼女が指差す先にいるのは、満足げな笑みを浮かべる一人の少女。
かえで。いや、僕の知っている彼女はびくびくとして大人しい印象だった。
今目の前にいるのは、堂々とした立ち振る舞いに、こちらを見定めてくるような挑発的な目。レイラだ。
状況を見て、最悪のことが起きてしまったことを理解する。
「なかなか良かったよ、この二人。けどあたしを満足させるにはまだまだだね」
答え合わせをするかのように、レイラが二枚のカードを見せる。真ん中に鍵穴が描かれた白いカードに、ぼんやりと人が浮かぶ。そこに囚われている二人、紅林さんと花代は気絶しているのか目を閉じていた。
負けてしまったんだ。
「レイラ……僕を覚えているか」
レイラを逃がさないように、睨みつける。
「ああ、かえでに勝った男だろ? 名前はたしか……」
「伊吹だ。伊吹肇」
「ああ、そうそう。あんたとも戦いたかったんだよねぇ。あの時のあんたの攻撃、まだ忘れられないんだ」
彼女は植村さんと同じように身体をさするが、そこにある感情は歓喜だ。根に持っているというわけではない。むしろ痛みを受けることを望んでいる。
「なら今ここでバトルしろ」
「望むところさ」
にやりと口角を上げるレイラに、僕は一瞬たじろぐ。
バトルジャンキー。この先で何が手に入れられるのか、何を失うのかなんて彼女には関係ない。ただバトルをする、それだけが目的なんだ。
しかしそれは好都合。逃げられることも避けられることもなく戦える。
「ただし、紅林さんを出せ。じゃなければ僕は本気で戦わない」
レイラは顔をしかめる。
この提案はまずかったか。しかし、彼女にとっても、僕を逃がしたくはないはずだ。
なんせ、一度自分を負かした相手だ。戦いたくて仕方ないはず。
「……ちっ、わかったよ」
しぶしぶ了承し、レイラは紅林さんのカードを掲げる。
つかの間ほっとして、僕は気合を入れ直した。
ここで負けたら、戦う手段をなくしてしまう。橋本さんとの約束を守れなくなってしまう。
勝つしかない!
「オープン!」
一瞬で場面が変わる。
灰色の空間に浮かぶ巨大な時計盤に、近くにいくつも浮かぶ黒色の立方体。
水嶋さんと蒼井のバトルでこの空間には立ったが、今回バトルするのは初めてだ。
ついに始まってしまったと恐怖がこみ上げてくるのを抑えて、深呼吸する。
目の前の机にはすでに一枚カードが出されている。その上に立つのは、手のひらに乗るほどのサイズのリィン。
「い、伊吹さん!? これ、どうなって……」
向こうには、約束通り紅林さんがいる。
「紅林さん、悪いけど痛いのは我慢してくれよ」
あたふたしていた彼女は、その言葉で状況を察したらしく、表情を暗くした。
「そう……そういうこと……うん、伊吹さん、遠慮なくやっちゃって」
「いいねいいねぇ、あんたを潰してやるよ、伊吹肇ェ!」
たまらない、といった様子でレイラが僕を睨む。約束したんだから、全力で来いと目が告げている。
もとよりバトルする以上、手を抜く気はない。
時刻を差さない盤の針がゆっくり動く。黒と赤で色分けされた円周部分の、黒を差して止まる。
「先攻よ、肇。ルールは覚えてる?」
リィンがこちらを見る。
バトル自体は久しぶりだが、キーカードは持っていないから、前回と同じように考えていい。
「もちろんだ。リィン、グロウ! シグニを配置して、ターンエンド」
お互いに、情報アドバンテージはなしとみていいだろう。
僕とレイラは戦ったことがあるけれど、彼女はリィンのコイン技『リターン』の効果を知らないままだし、僕は紅林さんをルリグとした場合の戦法を知らない。
だがこっちが有利なはずだ。同じ赤色とはいえ、レイラと紅林さんの戦略は違う。
いま紅林さんを手に入れただけの彼女が、すぐさま使いこなせるとは思えない。
「あたしのターン。グロウ。シグニを揃えて攻撃だ!」
紅林さんの手から、小さな火の玉が放たれる。
腕を交差させて防ごうとするリィンだが、一発目で体勢を崩され、二発目が胸へクリーンヒットする。倒れることはせず、少し後ずさっただけで済んだ。
「ご、ごめん、リィン!」
「いえ、いいのよ。謝ることなんてないわ」
キーカードを使ってくるんじゃないかとひやひやしたが、その可能性はなさそうだ。
その要因は一つ。僕がキーカードを持っていないこと。
レイラは対等な条件で戦いたいのだ。一度彼女を負かした僕を、全力でもう一度戦いたい。
だがキーカードを持っていない僕を相手に、自分が使ってしまえば、それは有利に勝つだけの手段に過ぎない。
勝つことではなく、戦うこと自体が目的の彼女にとって、それは避けたい行為なのだろう。
いわゆる舐めプレイとは少し違うが、使える手を使ってこないならこちらの勝率はぐんと上がる。
「シグニを配置、アタック!」
リィンが宙に描いた魔法陣からの光線の束が、紅林さんへと降り注ぐ。
悲鳴を上げながら攻撃に貫かれ、倒れる彼女を見て胸が痛む。
こんな事態にならないために、協力したっていうのに……っ。
自分の無力さに、怒りが増してくる。
「その目だよ、その目ェ」
「は?」
「『勝ってみせる』ってそのツラ、前のあんたには見られなかった。あああ……」
レイラは自分の身体を掻き抱いて、ぎゅうっと腕に爪を突き立てる。
「今のあんたと全力のバトルができたら、すっごい楽しいんだろうなぁ……」
ぶるぶると身体を震えさせ、やたらと視線を送ってくるレイラ。
どうやら、僕は彼女のお気に入りになったらしい。
もしそれで彼女が僕を狙うようになって、他への被害が多少減るようになればいいが……期待できそうもない。
なにせ戦闘狂だ。セレクターを見つければ、ところかまわずバトルをしかけてくるに違いない。
「アタックだ!」
「ガード!」
迫りくる紅林さんからの攻撃をかわし、カウンター。
レイラ本人と比べて、やはりパワーが足りない。それなのに、ごり押しのデッキ。
何気にテクニカルな戦略が必要なのをぶっつけ本番で使うのは、やはりきついみたいだ。
「ちっ、やっぱりあんた相当強いね。コイン技もなしにあたしをここまで追いつめるなんて」
コインを消費していないのはレイラも同じだし、前回のレイラとのバトルはコインを使っている。
彼女はそれに気づいていないだけだが、わざわざばらすこともないだろう。
「勝てる……これなら勝てるよ、伊吹さん!」
リィンの魔法攻撃を受けながらも、立ち上がり、応援してくれる紅林さん。
僕も半ば確信をもって、勝利へのカードを切っていく。
疑り深い僕がそこまで自信を持てた一番の決め手は、レイラがうなだれたことだ。
「ちっ、やっぱりあたしが出ないとダメだね」
「なら今度は本気で来たらいい。僕は逃げない」
そう約束して、僕は最後のカードを場に出す。
「アーツ」
あっさり、レイラはなんの抵抗もなしに受けた。
紅林さんのライフクロスは尽き、勝敗が決まる。
レイラの足場が音もなしに崩れ、彼女の身体が一瞬ふわりと浮かんだかと思うと、落下していく。
△
「はあ……」
最初に聞こえたのはレイラのため息。
気づいたときには、意識が現実に戻ってきていた。バトルする前と同じ場所、時間。
ただし、僕の手に一枚のカードが握られていることだけは違う。水嶋さんが持っていたのと同じ、キーカード。
そこに紅林さんがいるのを見て、ほっとする。
「次はどうする?」
「今回はこれで勘弁しといてやるよ。どうせあんたは負けなさそうだ。あたしを満足させるくらいになったら、またバトルしてくれよ」
負けたのに悔しそうな表情を一切見せず、それどころか恍惚にうっとりしながら舌なめずりをして、レイラは去っていく。
その姿が見えなくなったところで、張り詰めていた緊張感やら不安感やらが吹き飛んだ。
「ふう」
安堵のため息をつく。
僕の手持ちルリグはリィン一人だけだった。その状態でレイラに挑めば、おそらく負けていただろう。
だから先に紅林さんを取り戻したのだが、再戦を避けることができてよかった。
紅林さんを使っていても、レイラの強さは伝わってきた。もし本気の彼女が襲ってきたら、僕はリィンも奪われて、戦う手段をなくしていたかもしれない。
「す、すごいです、伊吹さん。勝っちゃうなんて」
「ああ、だけどすまない。緑子も花代も取り戻せなかった」
レイラがどれだけのルリグを所持しているかはわからないが、最低でもその二人は取り戻さないといけない。
ふと、とある考えがよぎった。
セレクターである紅林さんも、今はルリグとして、こうやってカードの中に収まっている。
キーカードとして、自身をベットしたからだろう。
もしレイラ自身を倒すことができれば、彼女自身もカードとなる。そうなれば、彼女の持っているルリグはすべて手に入れることが出来るのだろうか。
「ごめん、私が突っ走ってなきゃ……」
カードにされた紅林さんが謝る。
「いや、いいんだよ。紅林さんの気持ちもわかる。とりあえず無事でよかった。いや、無事と呼べるのかな」
「ルリグになるのは初めてじゃないし、そう心配することでもないよ。あー、でも家族とかバイト先になんて説明しようかな……」
言う通り、なんだか慣れた感じだ。取り乱すようなことがなくて、こちらとしては手間が省ける。
しかし楽観的にはなれない。
短期間で周りのセレクターが負け続けなうえ、一人はルリグになった。こちら側の戦力はどんどん少なくなっていく。
おまけに僕は……御影の手を借りられない。
いや、自分のことを考えるのはよそう。先に、紅林さんだ。
「説明するべきは、他にいるんじゃないのか」
それが何を指しているかを理解して、紅林さんは首を横に振る。
「だめだよ。るう子には言えない」
「言いたくないのはわかる。だけど紅林さんがルリグになってしまったいま、いつかはバレるんだ」
そうなれば、バトルが再び始まってしまったことと隠していたこと、紅林さんがルリグになってしまったショックが重なって、ややこしいことになってしまうことは目に見えている。
助けを借りられなくてもいい。現状を知ってもらうこと、それがやるべきことだ。
かつて僕ができなかった、やるべきことなんだ。