ガールズ&パンツァー ~二星は1つに輝く~   作:Celtmyth

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国中を行進する旧友は
固い友情で結ばれている
苦難の中も危機の中も
団結を新たにする

戦闘では矢継ぎ早の攻撃と
栄光と名誉は我等に勝利をもたらす
さあ戦友よ、新しいやつが装填されるぞ
これこそ我等の行進曲

作戦の合間に連隊の皆で
隣村の家に赴き
村の娘達や領主の娘の
もてなしに戯れたのだった

笑え、騒げ、笑え、騒げ、今日は今日だ
明日のことなど誰が知る
戦友よ、別離は我等の宿命ではないか
故にグラスを手にして「乾杯」と言おう

古いワインが若い力をくれる
それはワインの生命の味だ
我等が老いても心は若く
思い出も鮮明にしてくれる

歓喜のときも苦難のときも
我等は死ぬまで誠実でいよう
飲み干せ、また注げ
そして我等は旧友でいよう

我等が老いても心は若く
思い出に浸ろう
飲み干せ、また注げ
そして我等は旧友でいよう



作詞:カール・アルベルト・ヘルマン・タイケ




プロローグ――行進曲『旧友(Alte Kameraden)

 ――ジョリィ……。

 

 

 広大な倉庫でその音は誰の耳にも聞こえた。誰も声を出さず、誰も物音も立てず、そして誰もが自分の目に映る光景に頭が空っぽだった。

 その音を出した彼女を除いて。

 

「これが私の覚悟です。では隊長、失礼します」

 

 淡々と、そして力強く彼女は出口に向けて踵を返す。右手に持ったナイフを鞘に収め、左手に握った髪の束はそのままだった。背を覆うほどあったそれは首元から断ち切った事でかなりの量があり、これを取り戻す時間は長いと言える。

 

「――待ちなさいカナエッ!!」

 

 立ち去ろうとする彼女――橋場カナエを1人の少女が呼び止める。いや、呼び止めるにしては殺気に似た感情を込めた怒声。呆然としていた他の皆を驚かせる中でカナエは自然を反応した。そんな彼女にその少女は近づきその胸倉を掴んだ。

 

「どうしてアンタがここから出て行くのよっ! 十連覇を達成した後に、それも大きな貢献をしたアンタがっ!」

 

 お互いの顔と顔が間近である距離でその少女、逸見エリカはその胸中をぶつけた。普通なら怯んでしまう程の威圧があったがカナエは至って平静であった。

 

「ここに私の戦車道はない。さっき隊長に伝えた以外の理由はないわ」

「それが意味わからないのよ! まるで黒森峰が嫌になったみたいじゃない!」

「……矛盾している事を言うけど、このチームは好きよ。でも黒森峰は好きじゃなくなった」

「意味がわからないわよっ! もっと詳しく答えなさい!!」

「そうね。結果だけの黒森峰が嫌になった。優勝したら他の事に目を向けない黒森峰にね」

 

 怒鳴り声で詰め寄るエリカ。それを流れるように答えるカナエ。そして三度目のやり取りでエリカの掴む力が緩んだ。それは彼女にもその心当たりがある証拠であった。しかしカナエは掴まれたその手を離すことはしなかった。

 

「ただ王者たる黒森峰の1人として最後に言うなら、清濁を飲み干した選択に基づいた勝利を望んだだけ。批判に塗れようとも全力と決断の先に手に入れた物ならそれは尊い物だから。だからこそ、勝利しか望まない大人達には失望した。そしてそれにただ従うこの黒森峰の停滞が嫌になった。だから私はここを出るわ。私の戦車道を進む為に」

 

 そのカナエの言葉がトドメを刺す一撃の如く、エリカを貫いた。自分よりも、誰よりも信念を貫くカナエの尊さを。もう掴む力も失い、顔も俯いてエリカの両手はカナエから離された。

 

「じゃあねエリカ。またどこかで」

 

 そしてカナエは改めて出口へ向かい、誰に止められることなく去っていた。倉庫に残った彼女たちはそれを皮切りに力なく膝をつく者、泣き出す者、いまだ理解できないままの者たちで分けられた。

 そんな中でしばらくすると1人の少女がカナエのあとを追った。彼女の名は西住みほと言う。

 

 

 

 

 みほはエリカのようにすぐ止められなかった事を情けないと思っていた。カナエがあんな事を言い出した理由には自分がいる、そんな後ろめたさが恨めしかった。しかしそんなカナエがエリカに放った言葉があったからこうして遅れながらカナエを追いかけた。

行き先はわからない。ただ長い付き合いである彼女が向かいそうな場所には心当たりがあり、そこまでの道を走る。走って、走って、走ってカナエの背中を見つけた。

 

「カナエさん!

 

 

 

―――シロハさん(・・・・・)!」

 

 みほは彼女ともう一つ、2人の名前で呼び止めた。もちろん呼ばれたカナエは足を止めた。

 

「……みほ、こんな所で私の名前(・・・・)を呼ばないでちょうだい。

 

 

 

それは姉さんが最後に出てきたからでしょう?」

 

 そんなカナエがまるで違う誰かの言葉をその口で喋った。一人二役のようであったが、演技にしては存在感が強い。まるで本当に2人いるかのように。

 

「気付かれていたって訳ね。

 でも仕方がないかもね。姉さんの方がエリカと話すことが多かったし。

 同じ体で別々に仲良しっても変な話だけど。で、アナタはなんで追ってきたの、みほ」

 

 ここでようやくカナエはみほの方へ振り返る。その手にはナイフで切った髪が束ねてあったがそれを気付くほどみほには言いたいことがあった。

 

「……私の――」

「ストップ。それだけで言いたいことはわかった。

 みほ、確かに私たちは決勝戦がきっかけでここを去ることを決めたわ。でもそれ以外でもここの思想は合わなかったの。だから貴女のせいじゃないわ。」

「っ、でもっ」

「いい加減にしなさい。それ以上はアナタ自身がチームメイトを助けたことを否定することになるわ」

 

 カナエ(シロハ)がそう言うとみほはその先の言葉を飲み込んだ。

 

「姉さん、さすがにそれは。

 ここまで卑屈だとそう言いたくなるわよ。

 ……それなら私が伝える。みほ、貴女が責任を感じているなら今言う事を受け止めて」

「な、に?」

 

 カナエ(シロハ)はその足音が響きながら距離を近づけていき、そして弱々しくなっていくみほの体を抱きしめた。

 

「探しなさい、貴女の戦車道を。ここに残って探すのもいい。ここにないなら私たちのように去るのもいい。ただ変わらないのは前に進む事だけ。そして戦車に進めない道はないから」

「わた、しの、せん、しゃどう……?」

「ええそう。私たちが自分の戦車道を貫き続けるように、貴女も胸を張れる戦車道を見つけなさい。その進んだ先でまた会いましょう。その時はお互い、全力で」

「う、あ、あああぁぁぁぁぁぁ………っ!」

 

 みほの嗚咽が響く。ここからいなくなる友達が自分を励まし、そしてこれからの自分に導を残してくれた優しさに。そんな自分には勿体ないくらいの友達がそばにいなくなる事実が再び胸を締め付ける。

 

 

 

 

 二人の道は、これから分かたれる。しかしその道が交差する日は、決して遠くはない。

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

………………

 

 

 

………

 

 

 季節は移ろい、寒気が満ちる冬。黒森峰を去った橋場カナエ(シロハとカナエ)は今、質素な一室でヘッドフォンから流れる音楽を聴いて寛いでいた。その傍ら、読み終えたスポーツ新聞が置かれており、その見出しには抜粋するとこう書かれていた。

 

 

【西住しほ、西住流家元に就任!】

高校戦車道大会にて優勝十連覇の後に起きた黒森峰女学園1年・橋場カナエの転校騒ぎと黒森峰OBの不祥事発覚がまだ記憶に新しい最中での早急な就任。しかし不祥事の混乱を上手く鎮め、さらには体罰とも言える指導を行っていた西住流門下の師範達の摘発から厳しい処罰を行った手腕は賞賛に値する。黒森峰女学園の対応も――

 

 

 ほんの数ヶ月前までいた自身の母校に関わる記事であった。これを見て彼女たちは何を思っただろうか。ただ転校を皮切りに、まるで膿を出すかのようなスキャンダルが起きたのは偶然か?

 

 

 トントン。

 

 

 と、ノックの音が部屋に響いた。ヘッドフォンを付けていたがその音に気付いてすぐに外す。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 扉の向こうから出てきたのは所作が正しい女性であった。仲居のような所作であり、わかりやすく言えばメイドと呼んでも違和感がない程に。

 

「どうだった?」

「問題ありません。引っ越し荷物の手続きも一族の配備も滞りなく」

「そう、よかった。

 私は別に美鴒(みれい)と数人程度でいいと思うんだけど」

「申し訳ございません。ですがお嬢様方の安全と、そしてこれからの所在を隠すためには必要ですので」

「ふーん。

 姉さん。ごめんね美鴒」

「いえ、お気になさらずに」

 

 シロハの言葉にただ礼を持って対応する、風間(かざま)美鴒は本当に気にもしていない様子だった。そんな彼女の態度にため息を出てしまうのはカナエの方であろうか。

 

「ため息が出るほど? カナエはそこまで気にする子だったかしら?

 姉さんが大らかすぎるだけだよ。

 そう?」

「それよりもお嬢様方、そろそろ艦影が見える頃かと」

「あら早いわね。

 まだ話は……、いやもういいわ。姉さん、見に行く?

 そうね。美鴒、アナタも一緒にどう?」

「ご一緒します」

 

 それを聞くとヘッドフォンを置いて立ち上がる。

 

「じゃあ見に行きましょうか。転校先の大洗女子学園を」

 

 

 

 

 

 

 自身の戦車道を貫くと言い、しかしシロハとカナエ(彼女たち)が言ったのは戦車道のない場所。

しかし知っている。こここそが、彼女たち(シロハとカナエ)の戦車道を貫く為の場所であることを。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

「橋場カナエちゃんだね。実は君にお願いがあるんだ」


「母様の言ったように生徒会は戦車道を復活させました。
 間違いなく廃校を撤回させる為ね。でも、確実じゃないでしょうに」


「はは初めまして! わたくし、秋山優花里といいますぅ!」


「生徒会長、貴女はこの大洗女子学園の言わば言わば長です。だからこそ
 私はアナタにこう言う。昨年の功績を蹴って転校した私を、どうやって動かすか。今ここで答えなければ、私はここで戦車道をする事はない」



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