ガールズ&パンツァー ~二星は1つに輝く~ 作:Celtmyth
全ての時をとおして
主よ 導きたまえ
汝の御力によって
迷いは消え去る
その2
主よ 我らの神
汝よ 導きたまえ
汝の助けによって
迷いは消え去る
練習試合の日となった。
「……Zzz」
寝ていた。背もたれの代わりすらない戦車の天盤の上で器用に。黒森峰の経験があってもそれは去年までの事。転校してからは一般的な生活であり、いくら大洗で戦車道を再開したとしても万全に前の状態へとは戻らなかったようだった。
「Zzz……んっ、誰かしら……?」
しかし唐突にその眠りから目を覚ました。まだ
「おはようございます!」
大きな挨拶が倉庫の中で響いた。さすがに耳に響いたようで
「優花里かぁ……」
「カナエ殿! いえ、今日はミンカ殿ですか。お早いですね」
「うん、前の学校だとこのくらいだったから……
ああ、でもねむぅ……」
寝ぼけながらも近づいてくる優花里に答えつつ、眠気を振り払おうと頭を揺らす。そうして意識がハッキリし始めると
「それ、ドイツのシュタールヘルムですか?」
「まぁね。黒森峰は専用の帽子があったけど今回は私物。なんとなく被っていると気が引き締まるのよ。
――なんて言ったけどそれは一つの理由。後輩にツインテールに眼鏡の子がいたからこれを機にイメチェンしただけ」
「ああ、そう言えばいましたね」
M3リーこと
ちなみに今は伊達眼鏡を外してヘルメットの影で目元を誤魔化している。一応は陽炎のカナエとバレない対策はしている。
「それに優花里だって早いじゃない」
「はい! だって今日の試合がすっごく楽しみだったんですから。 あ、ちゃんと睡眠は取りましたよ」
「その様子じゃそうでしょうね」
「まぁ私たちより冷泉殿がちゃんと起きられるかどうか……」
「大丈夫。
それに戦車道は予防線も大事よ」
「はい?」
すると
『――もしもし』
「美鴒。そっちはどう?」
『はい、順調』『カナリンなのっ? ありがとね! 美鴒さんのお陰で今麻子を連れてそっちに向かってる!』
「沙織? 貴女も一緒なの?」
『うん、麻子を起こしにね。でも行ったら玄関が開いてたし、中に美鴒さんがいてビックリしたよ』
「それはごめんね。美鴒、そう言った特技があったから」
『ピッキングはそれほど難しくありませんでした』
「それを踏まえてお願いしたの」
ようするに麻子の事を美鴒にお願いしたのだ。風間の者として多くの技能を持っているし
『カナエさんか……?』
「おはよう麻子。調子はどう?」
『……なぁ、美鴒さんウチにいて貰っていいか?』
「ダメ」
『残念ですがお断わりします』
『本当に残念だ……』
『馬鹿なこと言うんじゃないの! と言うか美鴒さんにおぶって貰ってるのに図々しいよ』
『お気ににならさず。今日は戦車道優先と言われてますから』
「大丈夫そうね。
じゃ、、待ってるから」
『はい。では』
以上で電話は切れた。ここまでの会話で優花里は入って来なかったが
「そんな大したことはしてないわよ?」
「そんなことはありません! 恐らく私のモーニングコールよりは確実でしたでしょう!」
「ああ、そう言えばそんな事言ってわね。
そうなると私が貴女の好意を無下にしちゃったかしら?」
「問題ありません!」
(本気で言ってるわねこの子。
姉さんに同意するわけじゃないけど、これ以上はこっちがいたたまれなくなる真っ直ぐさだよ?
ここはこっちから折れましょうか)
「わかったわよ。じゃあ私の頑張りをこれからの試合にもぶつけましょうか」
「お供します! ところでお電話で聞きそびれていた事なんですが、そのシュタールヘルムは本物ですか?」
「うん、そうよ。
戦車道をしてるならあげるよって婚約者から貰ったの」
「そうですか、婚約者から……婚約者?」
「ん?」
次の人が来るまで婚約者についての質問は続くのだった。加えて先ほどのように話題に繋がらない限り言いふらさないことをお願いした。
無事に全員が到着(麻子は着いた途端、Ⅳ号内部で二度寝)したが移動と試合中に頑張って貰えればいいのでそっとしておいた。
そんな中で大洗は定時通りに大洗港に着岸し、そしてしばらくして聖グロリアーナ女学院の学園艦も着岸する。大洗戦車道のみんながその巨大さに見上げ、そして逆に比較して小さな大洗女学園の学園艦を見下ろす2人がいた。
「あそこですね。Ⅳ号戦車以外は特徴的なペイントをしていますね」
「初心者ですからね。保護色や統一性はまだ理解して居ないのでしょう」
巨大な学園艦であるからその人影も小さく見える。橋場レオナと風間悠鷹であった。落下防止の策にもたれ掛かるレオナに対し悠鷹は背後で姿勢正しく直立している。
「スクリーン観戦は大洗リゾートアウトレットで上映されるそうです。ただ客席は用意されてないそうですが」
「そうですか。では2階で立ち見にしましょうか」
「構いませんが、目立ちませんか?」
悠鷹が指摘する通り、レオナは戦車道の関係者ではないが立場を示すために学生服を着ている。規則ではあるが大洗では目立つ格好だ。しかし指摘した悠鷹も悠鷹であり、メイド服だった。いや、自分を含めて目立つと言ったのだろう。
「ふふっ、私は聖グロリアーナの生徒。悠鷹は私の従者。今さら隠れてもしょうがないでしょう?」
「……そういう事ですか。お嬢様も相変わらずですね」
自分の主が何を考えているのかを察し、悩ましくも呆れた。そんな従者の反応が楽しいのかレオナは手すりから離れ、近づく。
「ごめんなさいね、迷惑ばかりで」
「今さらですよ」
「ありがとう。では私たちも行きましょうか」
「はい」
(レオナも見に来るでしょうね。
悠鷹も一緒だろうね。元気だったかな?
そんな心配する妹じゃないでしょ)
戦車を背後に、他の車長たちと並んで聖グロリアーナの戦車道チームを待っていた。背筋を伸ばし、不動でピクリともしない。そんな
高校戦車道、四強の一角。優勝経験はないが黒森峰と並ぶ四強。つまり並ぶ強さを持つ学校だ。黒森峰は10連覇を成した学校だが決して楽だったわけではない。これはそこにいた
(……ん、来たよ。
ええ、ところで『陽炎』ってバレるかしら?
さぁ?)
キャタピラと戦車の影が近づいてくるのを察して改めて姿勢を正す。それに釣られてか他の車長たちも背筋を伸ばす。
目の前にチャーチルMk.Ⅶ1両とマルチダⅡ4両が並んで停車する。そして続けてそれぞれの車長が降車する。
「本日は急な試合の申し込みを受けて頂き感謝する」
「構いませんわ。我が学院はいかなる勝負も逃げませんの。――それにしても、個性的な戦車ですわね」
(同感。
それについては私もそう思う)
流れるように出たダージリンの皮肉を否定できなかった。
「しかし正々堂々、そして気高く優雅に。騎士道精神を持ってお相手します」
ただし、試合は真摯にやってくれるようだった。そんな彼女が率いる聖グロの戦車チーム。
さて、隊長としてどう導こうか。
「改めて伝えています。相手の戦車は装甲が厚いため、私たちの戦車で決定打になるとはⅣ号と三突の二両。狙い目によっては通る事はありますがここはハッキリ言います。私たちの練度でそこを狙い撃つのは難しいです」
『ハッキリ言うな』
「車両の性能差で得手不得手が出てくるのも戦車道です。なので河嶋先輩も無駄撃ちはしないで下さいね」
『なんだとぉ!』
通信越しに桃の怒鳴り声が聞こえるが気にしないし、言っておかないと暴走する事もあるだろうから釘は刺しておく。
「起こらないで下さい。私は
『ぐっ……』
『あはは、言われてるね河嶋ー。ところで橋場ちゃん、隊長なら作戦に名前はあるでしょ? ここでビシッと伝えてくれない?』
「今さらですね。それじゃあ作戦名は……、それじゃあ『アレグロモデラート』で」
『……ごめん。さすがに何言ったのかわからなかったんだけど』
「ああ、失礼。イタリア語で『ほどよく速く』です。クラシック音楽で使われる記号ですよ。要するに急がず、それでも足と頭の回転は速くというのを込めて」
なんとなく考えてでた名前が音楽用語なのは普段の生活から滲みでた結果なのだろう。
『橋場ちゃんって音楽が好きなの?』
「歌とピアノを嗜んでます」
『ふぅーん。じゃあ今度聴かせてよ』
「いいですよ。――そろそろ試合開始です。気を引き締めて、とは言いません。初めての試合です。だからこう言います。この試合、自分の出来る事をしましょう。結果は責めません。ただ自由に、戦いましょう」
『試合、開始です!』
タイミングよく、
さぁ。大洗の戦車道の始まりだ。
「姉様たちも頑張ったようですが、あれでは勝てませんね」
スクリーンに映る大洗の動きを見てレオナはそう評価した。アウトレットモールの2階通路、その手摺りを握りながら。
「もうですか? 随分と早いですね」
「戦車の行進に一体感がありません。これは整列の意味ではなく目標が、ですね。もし撃ち合いになれば一両か二両は逃亡します」
「それは逆に危なくないですか?」
「人は恐怖が勝ると危ない橋だって渡ってしまうものです」
穏やかに、しかし厳しい言葉を綴っていく。素人の目、とは言えない。レオナは戦車道を好んでいないがどういった物なのか知らないわけではない。むしろ聖グロの生徒として履修者並の知識は頭に叩き込んでいる。ただしその理由は嫌いな物を正しく酷評するため、と言う物だが。
「やはり戦車道は嫌いですか?」
「嫌いですよ。今のスポーツで
試合を楽しみに観戦している人達がいる中で堂々と応えた。しかし幸い、彼女らの声が聞こえる範囲に他の人はいなかった。
「それはカナエさま・シロハさまであっても?」
「私が一番に嫌う理由は姉様たちが執着している事です。なんであんな物に、と言う気持ちですよ」
「魅力があるからでは?」
「そうでしょうね。事実、戦車道をする姉様たちは輝いていますし、何より歌もピアノも独特な迫力を奏でます。これはもう、姉様たちの魂が惹かれているのでしょう。こういうのをなんと言うか知ってますか?」
「私が口にしてよろしいので?」
それは察していると言っているような物だった。素直さや誤魔化しより良いかと尋ねられれば難しいが、レオナにとっては自分が口にする方がよかった。
「嫉妬、ですよ」
笑顔で、しかしどこか含みのある声で答えると同時に遠くから砲撃の音が響いた。
次回予告
「ハハッ、いいねやっぱり。この試合の緊張感、いつでも興奮する」
「次よ。作戦がないなら後退するのが一番よ」
「堅実で強かね。思っていた以上に成長するかもね」
「私にあるのはね、度胸だけよ」