ガールズ&パンツァー ~二星は1つに輝く~   作:Celtmyth

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春の小川はさらさら流る。
岸のすみれやれんげの花に、
匂いめでたく、色うつくしく
咲けよ咲けよと、ささやく如く。


春の小川はさらさら流る。
蝦やめだかや小鮒の群に、
今日も一日ひなたに出でて
遊べ遊べと、ささやく如く。


春の小川はさらさら流る。
歌の上手よ、いとしき子ども、
声をそろえて小川の歌を
歌え歌えと、ささやく如く。



作詞:高野 辰之



第01話――文部省唱歌『春の小川』

 

 そこそこ髪も伸びてきたな。

 

 

彼女(シロハとカナエ)は洗面台の鏡に映る自分の顔を見てそんな事を思った。とは言え切り落とした長さまではまだ時間は掛かる。元の長さまで戻したい、とも思ってるわけではないが。

 まぁ今はどうでもいいか、と歯ブラシを取って歯磨きを行う。

 

「こちらでしたかお嬢様」

 

 そこに美鴒が現れたカナエは手を振ってそれに答える。

 

「朝食は出来ていますのでこの後すぐに。それと1つ」

 

 何? と歯を磨きながら言葉の続きに耳を傾ける。

 

「朝だけとは言え、いいかげん下着1枚で動き回るのはおやめください。それでは」

 

 呆れた色は見せず事務的に言うと美鴒は去って行く。残されたパンツ1枚姿の彼女(シロハとカナエ)は先ほどの言葉を聞き流した。

 

 

 

 

 

 橋場カナエ(シロハとカナエ)が黒森峰から大洗へ転校して初めての春。始業式もこの前に終わり2年生としてスタートした。ただし友達と呼べる相手はなく、しかし顔見知りとしてクラスメイトの付き合いはしていた。もっぱらそれはカナエが対応しており、シロハは強めに出る場合のみしか出てこないので彼女の正体を知るものはいない。もっとも転校してからツインテールのカツラと伊達メガネで変装をしているので同一人物に結びつかせる要素は幾分か取り払っていたが。

 そんな付き合い方なので嫌われてはいないが挨拶をされる事と数合わせに声をかけられる以外は机に座って1人で学園を過ごす事が多かった。そんな大洗で、それ以外で声を掛けてくる者は彼女の経歴を少なからず知る者。

 

「ちょっといいか?」

 

 今日も1人でいた彼女たちは予習をしているとクラスメイトとは違う声に呼ばれた。

顔をあげればそこには3人、よく知る面々がいた。

 

「あの、生徒会がどうしてここに?」

「お前に用があるからだ。ここではなんだから廊下に出てこい。時間はそんなに取らせん」

 

 横暴な態度を取る広報・川嶋桃は答えになってない返事をする。さすがにシロハが表に出てきそうだったがそれをカナエが制し、今は従う態度を示すために予習していた教材を片づける。

 

「よし。ついてこい」

 

 そう言って先導する生徒会の3人。カナエは表に出そうなシロハを抑えつつ続いていく。そうして廊下の、幾分か空いていた当たりで3人は止まり、その中で一番背が低く最もここでの権力を持つ1人が口を開く。

 

「橋場カナエちゃんだよね。実は君にお願いがあるんだ」

 

 生徒会の会長・角谷杏は笑顔でそう言った。

 

「私にお願いですか?」

「うん。実は今年から戦車道を復活させる事にしたんだ」

「……それで私を」

「まぁね。小山に調べさせて貰ったよ。君が戦車道の強豪・黒森峰にいた『陽炎』の橋場カナエ。キミの事だよね」

 

 杏が口にした『陽炎』の名前にカナエは少し眉を顰めた。

 『陽炎』の二つ名は黒森峰を転校した後に呼ばれるようになった橋場カナエ(シロハ)の呼び名だ。由来は英雄的な成果を上げながらも転校し、そして足取りを掴めなくなった事で高校戦車道ではそう呼ばれるようになった。

 それはともかく、彼女を調べないと知り得ない情報を得てこうして伝えている事にカナエはこう返した。

 

「しかし角谷会長。大洗の選択科目は生徒の自由の筈です。つまりこれはお願い、と言うことでいいんですよね?」

「おい貴様」

「ストップ。でも橋場さん、それは考え直したいいと思うよ?」

 

 カナエは遠回しに断る事を伝えると桃が噛み付こうしたが副会長・小山柚子が止める。しかし代わって彼女がやんわりと答えた。

 

「いや、せっかく経験者がいるんだから是非ともやって貰いたいんだよ。もし断るなら、まぁその時はその時だね」

 

 聞くだけなら諦めるとも捉えられる返しだが杏の瞳に映る険しい気配を感じられた。カナエはこれを脅しだと察した。同時にシロハが強引に出てこようとしたがここで出てこられては拗れるのでなんとか抑える。ただシロハの怒りの気配が体から出てきていた。

 

「とりあえずこの後、戦車道のオリエンテーションをやるし、提出もすぐじゃないからじっくり考えなよ。でも色よい答えを待ってるから。じゃあね」

 

 その気配は杏にも伝わり、彼女はここで話を終わらせて背を向ける。そのまま去って行く彼女に桃と柚子は少し出遅れてから続いていく。

 残されたのは1人にしてシロハとカナエとなった。

 

「……ふざけてるわね。

 でも姉さんが出てきたら拗れて落とし所がなくなるかもしれなかったでしょ? ただ姉さんの怒りを察して話を終わらせたのはこっちとしても助かったかもしれないけど。

 ふん。……あれはやらせるように脅しながらも引き際と判断して去った。つまり

 うん。母様の言ったとおりだったわね」

 

 少し前に予想を聞かされていた彼女(シロハとカナエ)は静かに教室へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 杏の言ったように戦車道のレクリエーションが行われ、しかし今さらな彼女たちは半分、と言うか交代で寝てやり過ごし、そして放課後を迎えた。ある人と連絡を取るためにこの時間まで待った。

 

「――もしもし、母様ですか?」

『やぁどもどーも。その感じはカナエちゃんね。シロハちゃんは?』

「聞くまでないでしょ母さん。

 さっそくですが、母様の言ったように生徒会は戦車道を復活させました。

 間違いなく廃校を撤回させる為ね。でも、確実じゃないでしょうに」

『ふーん』

 

 淡々と状況を話す彼女(シロハとカナエ)だったが話し相手である彼女たちの母親も淡々としていた。

 実は彼女(シロハとカナエ)は自分たちの母親から戦車道プロリーグ発足に伴い学園艦

の統廃合の話を聞かされていた。そして同時にこの大洗女子学園は廃艦する事実も。

 

『で、貴女たちはやるの? 友達の約束もあるんでしょ』

「勧誘が気に入らないから思案中。

 と、姉さんは渋っています。私は参加の方向で考えています」

『じゃあやればいいんじゃない』

「いや、私たちにここを勧めたのは母様じゃないですか。

 廃校の件を知ってたから、母さんは私たちをここに入れたんじゃないの?」

『あはは♪

 

 

 

 母校を守れない生徒会だったらそれまででしょ。私だって自分の手で守ったんだから、出来なくはないでしょ』

 

 明るい口調で聞こえた声は、電話越しから悪寒を感じさせた。自分達の母親ながら死んでも勝てる気も挑む気も起こさせない、生まれながらの王者。例え自分の母校でも情を感じさせない一言。さすがは学生時代、知る者からは『魔王』と呼ばれた人物だった。

 

『だから貴女たちの好きにしなさい。ま、貴女たちが力を貸す可能性を与えたのは大先輩からのささやかな手助けって事で』

「結局そのつもりだったわけね。

 しかもそれが本当に情けでもないのが母様らしいですけど」

『当たり前でしょー。私の教育方針は、全ては自分の力で、だからね』

うわー(うわー)

 

 ようするに大人とか国相手でも自分の力でなんとかしなさいと、この母親は言うのだ。思わず1つの口からシロハとカナエの言葉が被る程だった。戦車道を含むやりたいことに対して母親からなんとか許可を貰うために大変な思いをしたのは今でもトラウマだ。だからこそ対峙したくないわけだ。

 

『じゃあがんばりなさい。じゃあねー』

「はい、母様。

 ま、そこまで言われちゃこっちも前向きに考えてみるわ。それじゃあね」

 

 母娘の会話はそこで終わった。しかしシロハは前向きにと答えたもののまだ踏ん切りがつかない。あと1つ、彼女を動かす何かが必要だった。

 しかしその前に1つ。

 

「――そこの木陰に隠れている貴女。出てきてくれませんか?」

 

 近くの並木の一本に向かって言うとガサッっと物音がした。

 しばらく黙って待っているとその影から1人の少女が恐る恐ると出てきた。いや、動きのぎこちなさを見る限り緊張している様子だった。そして話せる距離まで来るとなぜか敬礼をした。

 

「はは初めまして! わたくし、秋山優花里といいますぅ!」

 

 なんとも印象的な自己紹介だな。それが彼女たちの感想だった。

 

「はじめまして。私は橋場カナエ」

「はっ、はい! 存じています!」

「そう。つまり私が誰なのかわかっていて尾行して居た訳ね」

「あっ、あうぅ……」

「別に咎めている訳じゃないわ。確認だけどそれは戦車道の?」

「はい、そうです! まさか陽炎の橋場殿が同じ学園にいるなんて!!

 

 緊張したり落ち込んだり歓喜したりと感情豊かな面を見せる優花里を微笑ましく眺めるカナエ。シロハは様子見で引っ込んではいるが同じ気持ちだった。

 

「戦車が好きなのね」

「はいっ! 小さい頃からずっと戦車が好きでしたし、毎年の戦車道大会の試合もずっと見続けています!」

「そう。なら今日のレクリエーションも秋山さんにとって嬉しかった?」

「それはもちろん! まさか大洗で戦車道が出来るなんて、感無量ですよ!」

 

 ああ、この子は本当に戦車が好きなんだ、とカナエ(シロハ)はこの短い間でそれが伝わった。

自分たちも戦車道は好きだ。好きだからやっていると言っていい位に。それは転校して、戦車どころか戦車道に距離を置いていたとしてもその気持ちは一片も変わらない。ただ彼女のような子にあったのは久しぶりだった。

 そんな優花里をシロハ(・・・)は思わず頭を撫でてしまった。

 

「へうっ!?」

「あっ、ごめんね。でもアナタのおかげで決心がついたわ。ありがとね」

「へ?」

 

 優花里は先ほどまでの話し方の違いに戸惑ってしまうがそれを気にせずシロハは手を引っ込めて彼女の横を過ぎていく。

 

「また今度会いましょう」

 

 そうしめたシロハは、その決意を行動に移した。

 

 

 

 

 

「姉さんって大胆なことを考えるよね。

 1人でやってはナシよ。カナエにも付き合ってもらうから。

 わかってるよ。私もやるなら生徒会長とは対等な関係でいたいからね。

 じゃ、行ってみますか」

 

 生徒も少なくなった廊下を歩きながら彼女(シロハとカナエ)はその目的地を前にして立ち止まった。視線の先は扉があり、その上には『生徒会室』とあった。

 その扉を躊躇うことなく叩いた。

 

「橋場カナエです。話があって来ました」

 

 軽く挨拶すると扉の向こうから物音が1つ聞こえた。それから続く慌ただしい音。

 

「いいよー。入っておいでー」

 

 物音なんてなかったよ、と言わんばかりの会長の声が聞こえた。なので気にすることなく中へと入っていく。

 広い生徒会室に少ない三人。勧誘しに来たあの三人だ。その内の1人である桃がどことなく髪のセットが乱れているのは気にしないで近づく。

 

「やぁやぁ。思ってたより早く来たね。で、戦車道は――」

「用紙なら処分しました」

「へ?」

「ですから、用紙なら処分しました」

 

 挨拶をするかのようにカナエは答えた。対して杏たちはその回答はさすがに予想しておらず固まってしまったが、その中で桃がいち早く復帰する。

 

「おい貴様! ふざけた事を――」

 

 

 

 ―――ギロリッ。

 

 

 

「ひっ!?」

 

 怒鳴ろうとした所でシロハが鋭い目を向けて黙らせる。そうして腰が引けた所を確認すると改めて杏と目を合わせる。少し抑えたが視線の鋭さはまだあり、しかし杏はそれを受けても怯えてはいなかった。

 

「生徒会長は私が転校した理由を想像出来ますか?」

 

 これを言ったのはカナエだ。しかし視線はシロハのままである。

 

「そうだねぇ。ネットや記事にはたくさんの憶測が飛び交ってるけどこれだってのはないね。なんせ優勝した功労者が忽然と消えた訳だしね」

「では答えましょう。黒森峰の戦車道が嫌になったからです。優勝こそしましたが大人達はその功績しか口にしなかった。あの日、もっと言うべき事があったというのに」

 

 去年の決勝のことを考えると10連覇の偉業に酔いしれるOG達の褒め言葉が聞こえるようで、怒りが込み上げてくる。

その怒気に最初に萎縮した桃に加えて様子見をしていた柚子も話に参加する事が出来なくなっていた。ただ杏は最初に会った時に僅かなそれを肌で感じた分、耐える心構えが出来ていた。

 

「生徒会長、貴女はこの大洗女子学園の言わば言わば長です。だからこそ

 私はアナタにこう言う。昨年の功績を蹴って転校した私を、どうやって動かすか。今ここで答えなければ、私はここで戦車道をする事はない」

 

 しかし彼女(シロハとカナエ)は遠慮しなかった。完全に話せる体勢になる前に、逆にこちらが追い詰める前に。何より、一部でも本心が隠れてしまう前に。

 杏はすで飄々とした顔はしていなかった。調べた時に生半可な相手とは思っていなかったがこの行動力は予想していなかった。それでも答えはここでしなければならない。希望の灯火を消してしまわないために。

 

「守りたい物があるんだ。その為の戦車道で、そこに橋場ちゃんの力が必要なんだ」

「だから直接勧誘した、と」

「そうだよ。でもあれじゃあダメだった。だから改めて言うよ

 

 

 

 私たちだけじゃ力が足りないんだ。だから少しだけでもいい。力を、貸して欲しい」

 

 事情も言わず、頭を下げて頼む訳でもなく、真摯な言葉だけだった。そしてその言葉は確かに届いた。

 カナエ(シロハ)は漏れ出ていた怒気と鋭い視線を霧散させ、なにげない動きで杏の前にある物を出した。それは選択必修の提出用紙。しかもしっかりと『戦車道』に印を付けたものだった。

 

「あれ?」

「処分したというのは嘘です。今の問答で生徒会長は信用できる人物ですが、やはり形に残る物が必要ですから。社会には口約束は正式のやり取りじゃないと返す大人なんていますしね」

「え?」

「では失礼します」

 

 頭を下げるとカナエは静かに踵を返して退出していく。残された生徒会は何が起こったのか、理解するのに数分ほど時間を要したのだった。

 

 

 

 

 

「ただいま。

 美鴒ー、いるー?」

 

生徒会室から寄り道する事なく彼女(シロハとカナエ)は帰宅した。そしてシロハが奥に向かって呼ぶと美鴒はすぐに現れた。

 

「お帰りなさいませ。今日は遅かったですね」

「ちょっと生徒会とね。

 それで美鴒、私たちはここで戦車道をする事になったわ」

「それは……、喜ばしいことですがこの大洗で戦車道をするのですか?」

「うん、今年から復活させたのよ。それで生徒会は経験者の私に入るように言ってきたの。

 なんとか対等でやれるようにしたわ。ついでに、書類がないなら廃校の撤回はないって言うのも伝えてきた」

 

 シロハとカナエが去り際に提出用紙を出した理由は大人の汚さを伝える為であった。恐らく、と言うよりもほぼ確実に生徒会はその為の書類を役所から受け取っていないと読んだのだ。自分達は両親に教えられたからその考えに至ったが普通、他の女子高生がそんな汚さを知っているわけがなかった。

 

「そうですか。でも実績が出来れば希望は残る、と言うことですか」

「ええ、どちらにしても戦車道で功績を残さないとこの大洗に未来はないわ。

 と、言うわけで美鴒。アナタ達の力を使いたいの」

 

 改めて告げると美鴒はその意味を察した。

 

「……風間家の総力を、とお答えしたいですがお国が相手となると御当主様か御曹司様の許可が必要です」

「そこまでしなくていいわよ。して欲しいのは味方と綻びを見つけてくれること。

 反故にされた時、表立って動いて貰うのは生徒会長にして貰おうと考えているわ。その為の根回しをやって貰いたいの」

「その程度でしたらこの場の決定だけでも可能です」

「ありがと。

 でもごめんなさい。また貴女達の力を頼ることになって」

「そんなことはありません。私は、私たちは橋場家の為になるならば喜んで働きます。我ら風間家―――風魔一族の末裔の血に誓って」

 

 そう答え、美鴒は古風とも言える臣下の礼を見せた。

 

 

 

 橋場カナエ(シロハ)の戦車道。ここから再び進み始めた。

 

 

 

 

 




次回予告


「橋場殿、これからよろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね秋山さん」



「私は武部沙織だよ」
「わたくしは五十鈴華と申します」



「ところで橋場さん。貴女とわたくし、どこかでお会いしませんでしたか?」



「橋場ちゃん。―――キミは本当に何者なんだい?」



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