ガールズ&パンツァー ~二星は1つに輝く~ 作:Celtmyth
I just feel my shine
空に rise & ride
じれったい夢だって 最初からわかってた
無関心な風に 何度傷ついても
太陽に手をのばす 指先のResonance
瞬きのあいだも 感じたくて
根拠なんていつも 後付けだよ
大人ぶった予防線 飛び越えて今 Bright way
踏み出した空に 走っていく光
一番先へ 目覚めるスピードで
破れそうな鼓動 連れていくんだ
もっと強い 可能性になれ
Rise to my feet!!
生徒会室を退出した後、
「沙織さんとは仲良くなれた?」
「その、少し苦手な子でした」
「人付き合いを公私にキッチリ分ける美鴒らしいね。
でも沙織さんは楽しそうだったから貴女が思うより相性は悪くないんじゃない?」
そんな話をしながらその日――昨日は終わった。
今日は自衛隊から教官が来ると聞いたので実際に戦車を動かすことになるだろうと思うと配置はどうしようかと考えていた。
「私の適正は車長・砲手、カナエは車長・通信手だけどどうする?
でも黒森峰だと一通りの練習をしたから他もできるからまずは他のみんながやりたいことをさせた方がいいよ。
まぁそうよね。ただⅣ号は元々5人乗りだからどこかで兼任が必要でしょうけどね
そうだね。出来ることならもう1人欲しいところだね」
経験者ゆえにある程度の話し合いを登校中でしている
だからこそ、何かを見つけるのも人よりは早かった。
「姉さん、あれ。
辛そうね、あの子」
「大丈夫ですか?」
「……………つらい」
「体調が優れないんですか?」
「なぜ、朝は来るのだろう………」
「(あ、低血圧か)」
カナエの言葉に対する返事かはともかく状態は把握した。大事ないが学園艦とはいえ車が走らないわけではない。
「(姉さん)
(うん、私も同じ)
歩ける?」
「大丈夫。これ以上の遅刻は、ダメだ……」
それを聞いてやることは決まった。
「ちょっと冷泉さん。どうして今日は背負われて登校してるんですか?」
危なっかしくて放っておけなかった
「拾っただけです」
「いや……、ええと、橋場さん。犬か猫を拾ってきたように言っても」
「同級生を連れて登校した。それではダメですか?」
「……はぁ。まぁまだ登校時間だからこれ以上は言わないわ。でも冷泉さん、ちゃんと自分で登校できるようになりなさい。ただでさえ244日の遅刻なんだから」
「おぉ~……」
「本当にわかってるの? それから橋場さん。これからは放っておいていいですからね」
「覚えておきます」
一律おかっぱ頭の風紀委員の彼女(名前はまだ知らない)に笑顔で返したがカナエの返事はわかりました、ではなく覚えておきます、である。そうして校門を潜った。
「起きてます?」
「ああ……」
「あとは自分で歩けます?」
「おう……」
それを聞いてカナエはしゃがむ。そして冷泉は浮いていた足を地面に付けるとゆっくりと離れる。まだふらついているが出会ったときよりはしっかりと立っている様子だったのでカナエも安心して立ち上がる。
「世話になった……。この借りは必ず返す」
「はい。それじゃあ気をつけて下さい」
手を振ると冷泉も返し、そしてフラフラと校舎へと向かっていた。
「さてと、私たちも今日から戦車道ね。
黒森峰以来になるね。会長さんには不謹慎かもしれないけど楽しみなの。
私も。お互い好きなことが出来てるからね」
気持ちを切り替え、
とは言え、その前にする事が1つ。
「みんな、昨日はごめんね。あの件は早い内に伝えなきゃいけなかったの」
「あ、頭を上げて下さい! 私たちは気にしてませんから」
「うん、そうだよ。それに美鴒さんが途中まで付き合ってくれて楽しかったから」
「その通りです。ですからカナエさんが気にすることではありません」
昨日の件で3人に謝る
「……そう言ってくれるならこれ以上は何も言わない。ならこの後はしっかり戦車道をやりましょ」
「はいっ!」
「でも教官、遅いね。焦らすなんて大人のテクだよ」
「ああ、そうね……」
「カナエさん?」
テンションを上げる優花里とちょっと待ち遠し沙織。その一方である沙織を見ては哀れみに近い目を向けるカナエ。彼女は予感している。杏の言うイケメンの教官というのは嘘ではない。嘘ではない、が。と言う事を。そしてシロハは心の中でニヤニヤしている事も。
そしてその時は、ジェット音と共にやって来た。皆が見上げればその視線の先、輸送機――C-2改輸送機が現れる。しばらく眺めているとハッチから戦車と分かるシルエットが投下され、そのまま駐車場の車を轢いた。
「学園長の車がっ!?」
副会長の言葉で影の薄い学園長の不幸に同情を感じ得ない戦車道履修者たち。
「(プククッ……。
姉さん……)」
一部、 もしくはシロハだけこの不幸を笑っている事実もある。
そんな光景を目の当たりにして投下された戦車が目の前にやって来た。
「おおっ、10式戦車です! 形状から試作車両ですよ」
「優花里さん。教官の人出てくるから後でね」
「あ、はい……」
「……あとで見学していいか一緒に聞いてあげるから」
「はっ、はい!」
優花里が興奮した所を諫め、しかし落ち込んだ所で慰める。そうしているうちに10式戦車が近くで停車し、そしてハッチから人が出てくる。
「こんにちわ」
そう挨拶したのは、
「だまされた……」
教官の登場に改めてチーム毎に整列した後、後ろから沙織の落ち込んだ声が聞こえる。
そもそも戦車道をするのは女性だ。故に教官となるのも女性の確率が高い。戦車道経験者だった
「私が皆さんの特別講師として派遣されてきました蝶野亜美一尉です」
それを余所に教官の自己紹介が行われた。と、その名前を聞いた
「ん?」
すると目を細めて
「あなた、どこかで会ったかしら?」
「……私、戦車道を経験してます。おそらくはどこかで顔を合わせたと思います」
「あら、そうだったの。確かにどこか別の場所で教えたときに会ってたかもね。ごめんね、急に近づいたりして」
「いえ大丈夫です」
納得して亜美が離れていく。その後、すぐ後ろにいた優花里が
「カナエ殿、どうして嘘を? カナエ殿は高校戦車道で『陽炎』と呼ばれてる方ですからあの方もそれで覚えがあったのでは」
「ちょっと目立ちたくないの。有名だから、一部で執着されてるからね」
「ん~、カナエ殿がそう言うのでしたら」
優花里は全て納得できたとは言えなかったが事情があると考えそれ以上の事か聞かなかった。
「蝶野教官! 教官はモテますかっ!」
「うーん、モテるかどうかわからないけど狙った的は外したことはないわ」
「はいっ、本日はどんな練習を行うのでしょうか?」
「あせらない。今日やるのは、本格戦闘の練習試合をやります!」
「「「「えぇ!」」」」
何気ない質問で全員がビックリする答えが返ってきた。
「大丈夫。戦車なんてものはバッとやってガッとやってバァーンよ」
その言葉に聞いた全員は思う。この人は感覚で物を教える人だと。
すぐ試合をする事になって皆はチームと戦車毎に分かれ、カナエたちAチームもⅣ号戦車の上に集まる。
「経験者は私だけだから私がまとめていい?」
「もちろんです!」
「そうだね。さっき教官から役割の分担を聞いてたけどわかんなかったし」
「よろしくお願いしますカナエさん」
「じゃあ私が指示する車長をやるね。このⅣ号戦車は五名だけど足りないし今回はチーム毎に分かれてるから通信者はなしでちょうど三名。砲手、装填手、操縦手があるよ」
指を3本立てて役割を教える。そこに優花里が事細かく説明する。しかし事細かく過ぎて2人は理解出来ていなかった。
「まぁ最初だから自由に選んでいいと思うよ。今日の試合で違う役割をやっていいしね」
「それなら私、まず砲手がやりたいです!」
「じゃあ私は操縦手をやってみましょう」
「うわ出遅れた! じゃあ私が装填手かぁ~」
交代もありと提案するとサクサクと決まってしまった。とは言え3人は初心者。カナエはそれぞれのやり方を教える。特に操縦手の運転は自動車とは違うクラッチ操作とギアチェンジなので担当する華の質問には丁寧に答えた。おかげで他より遅れたが戦車を動かすのは十分だ。
「待たせてごめんね」
「いえいえ。むしろ為になりました」
「うん。最初は重かったけどコツを教えてもらって楽になったし」
「ありがとう。それじゃあ一端の車長ですがよろしくお願いします」
戦車道は礼節を尊ぶ。故に挨拶は大切と考えるカナエは自然と皆に頭を下げた。それを見た、華は違う物を感じた。
「カナエさん、嬉しそうですね」
「……うん、そうかも。この空気を感じると戻ってきたって思えるの。それじゃあ華さん、運転をよろしく」
「はい。では行きます」
「カナエ殿、ここは戦車らしい合図を」
「わかった。それじゃあ、そうね」
合図と聞いてカナエが思い浮かんだのは友達の顔、彼女なら、こう言うだろうと。
「それじゃ、パンツァー・フォー!」
五両目のⅣ号戦車が出撃したのを亜美は監視塔より眺めていた。問いよりハッチから顔を出したカナエを、だ。
「……やっぱり橋場カナエね、あの子」
本人と話をしたときは誤魔化されたが後でよく記憶を巡らせると去年の高校戦車道の記事に彼女の事が載っていた事を思い出した。まさか彼女も黒森峰に10度目の優勝をもたらした選手が大洗という20年間も戦車道がなかったこの場所にいたとは思いもしなかった。それに眼鏡を掛けたり髪型や色も変えていたり容姿も違っていた。
「隠れるように大洗に……。何かがあって黒森峰に居づらくなったのかしら?」
1人色々な可能性を模索する亜美。
その時、後ろから足音が聞こえた。双眼鏡を外して振り返ると青年の姿があった。纏う服は軍服であり、しかしてそれは自衛隊の物ではない。それに違和感がないのは、彼が欧州人の顔立ちをしているからだった。
「貴方もここで見学?」
「もちろん。初心者から始める戦車道。選抜されたチームの練習試合より興味がありますし、むしろこう言った物を見てきた方がいいでしょうから」
「ドイツ陸軍の名門はフットワークが軽いのね。私がここに行くって話を聞いたらすぐに同行をお願したぐらいだからね」
「手続きはちゃんとしましたよ。それに本来なら姉が適任だったのですが貴女と同じで戦車道の強化委員なのでそちらが優先されました」
そんな会話をしている間に青年は亜美の隣に立ち横並びになる。そして拙い操縦でそれぞれのスタート地点を目指す戦車たちを見下ろす。その中でⅣ号を見下ろすと彼の口元に笑みが浮かぶ。
「ただこのタイミングで貴女がこの大洗に行くと聞いたときは強引にでも同行するつもりでした」
「え、なんで?」
「この学園に会いたい人がいるんです。ドイツから遠く想う、愛しい人が」
「会いたい人?」
と、亜美が返したが彼女が惹かれたのはその後の言葉。愛しい人がここにいると言う事だがそれは誰なのか? ただ彼の言い回しが少しロマンチックだからその相手に興味を抱いた。
「蝶野一尉、向こうは準備が終わったようですよ」
しかし亜美が追求するよりも戦車の配置が終わってしまった。残念な気もするがすぐに切り替えてマイクのスイッチを入れる。
「全員、配置についたみたいね。ルールは簡単。他の戦車を倒せば勝ち。ようはガンガン進んでバンバン撃てばいいって事よ」
亜美の説明に隣にいる青年は苦笑しているが何かを言ったりはしなかった。
「そして戦車道は礼に始まって礼に終わるのよ。一同、礼っ!」
しかし続けてハッキリ告げると青年の表情は穏やかになった。
「―――それでは、試合、開始!!」
次回予告
「操縦手、前進! 移動しながら状況を確認する!
でも焦らないで! 車内にいれば怪我はないからね!」
「また会ったな」
「Geht es dir gut? Meine prinzessin」
「私は好きに選んでるだけ。戦車道も、大洗に来たこともね」