ガールズ&パンツァー ~二星は1つに輝く~   作:Celtmyth

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 美しいミンカ 僕は旅立ちの時

 この痛みを分かってくれないだろうか

 喜びの無い荒野で 君から離れて

 これからの辛い日々に

 一人寂しく泣いてしまいそうだ

 山で 森で 僕は君の名を呼ぶよ ミンカ



作詞:クリストフ・アウグスト・ティートゲ




第05話――ドイツ歌曲『美しいミンカ』

 戦車道初の試合が終わり、色々あって戦車をアレンジしようとクッションや消臭剤を買ったり、戦車の塗装を塗り直そうとした所を止めたり黒森峰では考えたこともない事だった。そんな一日を振り返りながらの帰路、こんな話をみほとしたらどんな顔をするのだろうと彼女(シロハとカナエ)は笑った。

 

「ホント、今はどうしてるのかしらねぇ。

 連絡してないしね。

 バカ、それは言わないでよ」

 

 実は彼女(シロハとカナエ)、転校してから黒森峰の交流は一切断っていた。あそこまで啖呵を切った事もあり、印象としては黒森峰を去った人間だ。そんな自分たちが在籍しているみほ達とまだ交流があるとなれば向こうで問題が起きるのは目に見えていたからだ。だからこそ彼女(シロハとカナエ)は今の黒森峰がどうなっているのか知らない。知る方法(例:美鴒にお願いする)はあるが、無粋だとしていない。

 

「全国大会、もうすぐねぇ。

 勝ち上がらないと大洗を守れないし、約束も果たせないからね。

 まぁね。それにどうせなら現実にしたいわよね

 なら頑張ろう。この大洗で。

 ええ」

 

 そんなこんな、独り言のように彼女(シロハとカナエ)たちの談笑は家に到着した所で終わった。

 

「ただいまー……あ?

 え?」

 

 いつものように玄関から入り、挨拶をして靴を脱ごうとするといつもはない物があった。それを見た彼女(シロハとカナエ)はしばらく動きを止め、と思ったらシロハが先に行動し黙って素早く靴を脱ぐと早足で廊下を進む。そしてリビングの戸を開けた。

 

「おかえりなさい」

 

 そしてそのリビングにいた人物に挨拶を受けた。ソファーに腰掛け軍帽をテーブルに置き、似合わない湯飲みを両手で持つその青年から。

 

「なんでいるのよ。

 姉さん言い方。確かに私もそう思ったけど」

「もちろん、貴女に会うためですよ」

「さっき会ったけど」

「仕事ではなくプライベートで、ですよ。――と、敬語はここまでにしようか」

「いや、あんた普段から丁寧な言葉遣いでしょ、ヘリー」

 

 シロハがヘリーと――ヘルベルトの愛称で呼ぶと彼は嬉しそうに笑った。その反応にため息が出るが、それも今さらだと諦める。

 

「まぁいいわよ。

 ねぇヘリーさん、美鴒はどうしたの?」

「彼女なら買い出しに出たよ。食材が足りないのかって聞くと『それとは別です』と返されたね」

「……察した。

 ……うん、私も」

 

 本来、いるはずの従者がいない理由を知ると今度は頭が痛くなった。恐らく返ってきても夜中になれば理由を付けてまた席を外す事も。

 

「嬉しくないかい?」

 

 先ほどから意気消沈な態度を取る彼女(シロハとカナエ)にヘルベルトは意地悪そうに聞かれると呆れたように言葉を返す。

 

「嬉しいに決まってるでしょ。婚約者が来たんだから」

 

 愛しい婚約者(Meine prinzessin)の言葉にヘルベルトは嬉しそうに笑った。

 

 

 改めて語るが彼女(シロハとカナエ)の実家である橋場家は結構な家である。影では風間美鴒のような風魔の末裔たちを抱え、そして表はそれを支える財力と歴史、特に財を成す事業はこの日本を支える一端を担っている。

 そしてそんな橋場家と縁を結びたいと言う家は多い。事故に遭った彼女(シロハとカナエ)はパーティー等の出席自体は少ないが存在自体は知られており縁談も必然的にあった。

 

「――だった所をヘルベルト様が海外パーティーで求婚し、紆余曲折あってめでたく婚約者の関係となりました」

「解説風に何言ってるの?」

「いえ、もしかしたらお嬢様のご友人に語る事があるかと思いまして練習を」

「ふふっ、思い出すと我ながら大胆だったね」

「そんなヘリーさんに扇で首を取った姉さんも大胆だったけど。『女の手を取るならその首、賭けてみなさい』だって。

 ……止めてカナエ。無遠慮に求婚されてカッとなったとは言え、今じゃ恥ずかしいんだから」

 

 テーブル4人三席で夕食時に懐かしむように会話が弾んでいた。献立はトンカツ定食、にソーセージが添えてある。美鴒がヘルベルトに馴染みある物を用意したのだろう。ちなみにドイツには大量の油ではなくバターまたはラードで揚げ焼きする『シュニッツェル』がある。

 

「と言うかヘリーが来ること、美鴒は知ってたんじゃないの?」

「残念ながら自衛隊、つまり国の影響下に風魔はいません。交通機関を経由していれば耳に入ったのですが輸送機で直通、加えて教官の影に隠れていたようです。と、言いたいですがヘルベルト様。間違いなく永世ご意見番と接触しましたね?」

「ええ。実を言うとあの人にここへと言われて来ました」

「あの怪忍者か……。

 ホント、あの人の正体ってなんだろうね」

「隠してはないと思われますよ。ただ信じられないだけです」

 

 この場で4人はある人物を思い浮かべる。ただし、その想像図は普段の姿だったり忍者の格好だったり何だから悪魔のようなシルエットだったり統一しない。それだけ正体不明な人物である。

 

「それはそうとヘリーさん。義姉さんの代わりに来たって言ってたけどここにいて大丈夫?」

「予定自体はもう終わってるよ。プロリーグの会議に視察、後はドイツに帰るだけだよ。ただ日本の大会も見てこいって言われてるからまた戻ってくるけどね」

「大変ね。あなた一応は少尉でしょ?」

「士官としてはまだ下だよ。下っ端として使われてるだけだから」

「欧州圏の戦車道は前世代の慣習をぶち壊して純粋な競技として改変を行っている。そこには陸軍名門のクニスペル家もあるそうですが?」

「ははは、おかげでお婆様には逆らいたくないです」

 

 彼はそう言ったが彼女たちはこれを言葉通りではないと取った。でなければ海を、大陸を超えて極東の少女を婚約者にする事などしない筈だから。

 そんな話は料理が食べ終わるまで続くのだった。

 

 

 夜空は星空の輝きや月明かりを持って綺麗と誰もが言うだろう。海上を走る学園艦ならそのさまは十色と変わるだろう。

 

「―――Die schönste Jungfrau sitzet

    Dort oben wunderbar

    Ihr gold’nes Geschmeide blitzet,

    Sie kämmt ihr gold’nes Haar.―――」

 

「ローレライだね。でも学園艦で歌って大丈夫かい?」

「ここはライン川じゃないから大丈夫でしょ。

 それに誘いたい人はこうして隣にいるよ」

「君たちの為ならこの命、捧げるよ」

 

 そんな夜空の下で彼女(シロハとカナエ)とヘルベルトが寄り添っていた。よく見れば彼女(シロハとカナエ)がヘルベルトを離さないようその腕に抱きついている。普段の振る舞いを顧みるなら乙女のような姿だった。

 

「……廃艦の件は聞いているよ。やっぱり重く感じてるかい?」

「うん、そうだね。でも後悔はしてない。

 大洗の命運に、黒森峰との縁。たった二つの事だけどその重さは自覚してる。強がらないとやっていけないわね」

 

 それは弱音であった。生徒会に堂々と言った威風も戦車を指揮した気風もない。今見せる、文字通りの乙女の姿だった。それを強調するかのようにヘルベルトに更に強く抱きつく。

 

「だからさ、今晩はそれに耐えられる為の熱をちょうだい。

 姉さんと私に気付いて求めてくれたヘリーさんだがら私たちの愛は貴方に」

 ここまで言われたヘルベルトはその愛しい婚約者を片腕で抱きしめる。

 二人の男女、三人の男女。彼女たちの愛は変わらず固く強く、繋がっている。

 

 

 

 

 

……………………

……………

………

 

 

 

 翌日。今日から大洗の戦車道における最初の活動、となるわけだが。

 

「38(t)が、M3が、八十九式が、三突がぁ~」

 

 色とりどり、それぞれ独自性を主張した外観になった戦車たちを前にして。優花里は両手と両膝を地面に付けていた。彼女(シロハとカナエ)たちのⅣ号戦車が外観こそそのままだが内装はこれ以上なくアレンジされている。外か中かの違いだった。

 

「ねぇこれなら私たちの戦車もペイントしてよかったんじゃない?」

「今さらだよ。……ふぁ」

「カナエさん、寝不足ですか?」

「ん~。ちょっと夜更かししちゃったから……」

「その割には背筋がピンとしてらっしゃるのですね」

「……腰が痛いだけよ」

「はい?」

「ほら、元気出して優花里。戦車の塗装はこれからわかってもらおうよ」

 漏れた呟きを誤魔化すように落ち込む優花里を励ましすカナエ。しかしそれでも腰をかばうような動きではあった。昨夜、何があったかは察して欲しい。

 補足としてヘルベルトは朝食を一緒に食べた後にすぐドイツに帰国するために出発した。昨日のうちにヘリを手配してそれで空港まで向かうそうだ。

「カナエ殿ぉ~」

「ぐっ」

 

 優花里を励ましたら腰に抱き付かれたカナエ。思わず声が漏れて色々とヤバい感覚だが耐えて彼女の肩を気遣うように叩く。

 

「ほら立って。それにこう考えてみようよ。みんなが戦車を楽しんでいる。戦車が好きな優花里が戦車道を楽しむように、ね」

「……はいぃ~」

 

 カナエの言葉に納得し、優花里は腰から離れて立ち上がる。対してカナエは今日の練習は我慢の一日になるなと、これからの苦労にため息が出そうだった

 

「カナエさん、さっきの――」

「ではこれから練習を始める! 全員、すぐに戦車に乗り込め!」

 そこでまだ誤魔化されなかった華が尋ねようとした所で練習を開始する桃の声が響いたことで結局は聞けず、これでようやく誤魔化せた結果となった。

 

 

 

 

 ~~~~~~~練習風景省略~~~~~~~

 

 

 

 隊列練習、砲撃練習、登坂練習。等々……、戦車を動かし戦術的な動きに必要な練習が行われた。初心者故にまだまだ未熟さは目立っていたが唯一の経験者である彼女(シロハとカナエ)からすればかなり出来ているのが本音だ。本音だが、口にしないのは恐らくこれからの打ち込みに影響が出るので胸の内だけにしておく。そんな彼女が言えるのは。

 

「清々しい気分ね」

「はいっ!!」

 

 久しぶりに戦車道の練習に身を置いた彼女(シロハとカナエ)はそれは本当に爽やかな笑顔で。隣の優花里も眩しいほどに笑顔だった。他はバレー部の四人と生徒会の三人を除き、練習に慣れてなかったために疲労の色は滲み出ていた。

 

「えー、本日の練習はここまでとする。一同、礼!」

「「「お疲れ様でした!!」」」

 

 桃の号令に全員が一斉に挨拶をする。

 

「―――と、ここで皆に伝える事がある」

 

 しかし皆が頭を上げた所で話は続けられた。狙ったようなタイミングだったため皆が困惑した様子ながら耳を傾ける。そして桃はその事を伝える。

 

「今度の日曜に練習試合が決まった。相手は聖グロリアーナ女学院だ」

 

 誰もがそれに驚くのだった。それは彼女(シロハとカナエ)も含めてだが、彼女たちの場合は違う理由で驚いていた。

 

「……河嶋先輩。質問、よろしいですか?」

「いいぞ。なんだ?」

「聖グロリアーナ、高校戦車道でも4強にも数えられる相手を選んだ理由は?」

「いや別に。関東圏だったからダメ元で連絡入れてOK貰っただけだよ」

 

 答えたのは杏だったが、予想した回答より単純すぎて呆れてしまった。しかし決まっているなら仕方がないと考えて切り替える。

 

「とにかく、練習試合とは言え気を引き締めて望むように。集合時間は朝6時であるから決して遅刻しないように」

 

 しかしそんな事を伝えられた為に、麻子の離脱を止めるように説得する羽目になった。

 

 

 

 

 

 戦車道で試合をするというなら行うのは作戦会議である。生徒会室には生徒会の3人と彼女(シロハとカナエ)を含む各戦車の車長たちが集まっていた。ホワイトボードには聖グロリアーナがよく使用する戦車、装甲の硬い歩兵戦車チャーチルとマチルダⅡの絵が張られて空いた所に作戦を書き記している。彼女(シロハとカナエ)は黙って桃が考えた作戦を聞いているが、内心では『初心者だなぁ』『戦車の性能、同じだと思ってるのかしら?』と考えていた。しかし試合をする上、作戦が考案されている以上は確認すべき事が1つ。

 

「河嶋先輩、1つ質問が」

「ん、なんだ?」

「この練習試合における行動方針は?」

「? そんなの勝つことに決まってるだろう」

「え、嘘でしょう」

 

 思わずシロハの口が漏れた。

 

「失礼。ですが勝つことを目標にしているならその作戦は難しいですよ」

「なんだ、文句があるのか?」

「私、戦車道経験者。河嶋先輩は?」

「うっ……、未経験だ」

 

 またシロハが口を挟んだが、以前の気迫を放った彼女だったお陰か桃は萎縮しながら素直に答えた。姉の行動に一言あったが今は説明が先とカナエは割り切る。

 

「聖グロリアーナの戦車は硬い装甲が特徴です。残念ですが大洗の戦車ではⅣ号戦車とⅢ号突撃砲の主砲でした撃破判定が出せません」

「あー。そりゃあゲームみたいにちゃんと相手にダメージ与えられるわけないね」

「わかりやすい例え、ありがとうございます会長」

 

 戦車道には戦車の性能も考慮して作戦を考えなくてはならない。まぁ黒森峰にいたときは火力と装甲が十二分にあったので作戦の幅は広かったが。

 しかし大洗はさっきも言ったとおり撃破に至る戦車が2両のみ。幸いなのは先ほどの説明の中で、練習試合である事と大洗が復活した事で5両対5両の形式になった事だ。火力不足は今さらだが撃破する数が少ないなら芽はある。

 であれば方法は、彼女(シロハとカナエ)は考える。

 

「……そこまで言うならお前が隊長をやったらどうだ?」

「はい?」

 

 すると桃からそんな提案を受けた。考えていた彼女(シロハとカナエ)は思わずどこか抜けた返事をしてしまったがすぐにその意図を考える。普段の振る舞いを考慮するなら『文句があるならお前がやれ』であるが、それならもう少し怒声でしっかりそう言うはず。と、考えてシロハが脅したせいかもと至り、これ以上は考えなかった。

 

「一応、私は経験と知識から戦術・戦略を立てるタイプです。突拍子な事は出来ませんよ」

「ならなんでダメ出しをしたんだ?」

「……目標が定まらないチームほど混乱が多いからですよ。

 河嶋先輩が先に勝つことを伝えていてもさっきと同じ反応でしたけど」

「……? なんか妙な話し方をするな。とにかく、やるのかやらないのか?」

 

 カナエとシロハが交互に喋っている事に違和感を抱いたようだが事実に至らず、隊長就任の是非を問う。彼女(シロハとカナエ)も喋りすぎと思っていたが戦車道だからかとも考えた。我ながら高ぶっているようだった。

 それはともかく、どうしようかと彼女(シロハとカナエ)は思う。自分達は隊長に向かない()()だ。せいぜい搭乗車を含めて5両が限界。今ならいいが今後は恐らく戦車も履修者も増え、そうなれば指揮に支障がでるだろう。しかし同時に自分達の経験者はおらず、戦車道を熟知しているのは他にいない。

 なら正直に言おうとシロハは至り、それしかないねとカナエが同調する。加えて条件を付けて貰おうと考える。

 

「では2つ、お願いしたいことがあります」

「何?」

「おー、大胆だねぇ。いいよ、言ってみなよ」

 

 桃ではなく何故か杏が条件を聞いてきたが話が進むならと続ける。

 

「私は経験者ですが隊長、多くの車両を指揮する資質はありません。なんとか5両は動かせますがそれ以上は拙くなります。恐らくですが今後も戦車は増えると思ってます」

「ああ、なるほどねぇ。じゃあカナエちゃんは副隊長を決めておきたいんだ」

「いえ、それは河嶋先輩にお願いします」

「えっ、私?」

「今日の演習は先輩の指導でしたし、それに隊長を薦めておいて一履修者になる、なんて事はしませんよね」

「うっ。いいだろう、やってやる」

「ありがとうございます、先輩。

 それで、指揮の話ですが。副隊長と言うより小隊長を私が任命させて下さい。タイミングはこの練習試合の後に」

 

 まず一つ目を伝えると小さなざわつき、と言うより他の車長達が反応したのだ。彼女(シロハとカナエ)が隊長、桃が副隊長になるならこれで2両の枠が埋まり、残りは3両。つまり彼女たち尾誰かが小隊長に選ばれるのだ。

 

「いいよー。で、もう1つは?」

 

 その中でも話は続く。しかし彼女(シロハとカナエ)とってはこっちが重要だ。

 

「戦車道に限り、私は―――」

 

 

 

 

 

「あんこう踊りぃ!?」

 

 会議が終わってⅣ号戦車チームのみんなにその内容を報告したが、その単語が彼女たちにとっては衝撃だった。

 

「うん。私が隊長になって作戦も立て直したけど、『どうせなら負けた時の罰ゲームやろうか』って会長が。私も隊長をやる時に条件を言ったからしょうがないかなって」

「だからってあんこう踊りはないでしょ!」

「でも負ける気はないから。あまり無様な試合は見せたくないしね。

 それに勝てばいいんだから」

「肝が据わってますねカナエさん……」

「慣れてるからね。それにアレでしょ? あんこう踊りってご当地名物的な物でしょ?」

「そんなレベルじゃないよぉ!! めちゃ恥ずかしいんだよ」

「じゃあ勝っても負けた時は何か奢ってあげるから」

「!! 絶対だよ! 特大のパフェ頼んでも撤回しちゃダメだよ!」

「わかったわ」

「では、それを励みに頑張りましょうか」

 

 軽い提案だったがとりあえず元気づけられたようであった。奢りに華の目が怪しい色をしたように見えたが撤回する気はないので気にしないことにする。

 

「それと最後、私は戦車道に限って別の名前を使わせて貰える事になったから」

「え? なにそれ?」

「いやいやいや! 戦車道では隊長格がコードネームを名乗るのはよくあることです! と言う事はやっぱり『陽炎』を連想する名前ですか!?」

「落ち着いて優花里」

 

 言い残していた事を伝えると優花里が一番に反応したがそれをまず落ち着かせる。

 

「残念だけど目的は私の存在を隠すこと。本名なんて名乗ったらせっかくの変装が意味なくなるでしょ」

「ああ、そう言えば伊達メガネとカツラが普段の姿でしたねカナエさん」

「その天然は置いておくわ」

「で、なんて名乗るの?」

 

 尋ねられると彼女(シロハとカナエ)は笑顔で答える。

 

「ミンカ。ドイツにある歌の『Schöne Minka(美しいミンカ)』のミンカ」

 

 それはドイツの歌曲で、旅立つ男と残される女を歌ったものだ。特に意味はないが、自然とヘリーの事を思い出すとこの歌曲から借りようと思った。他意はない、他意は。

 とは言え、教えてわかるような由来ではないので全員に首を傾げられた。ちなみに会議の時も同じ反応でした。

 

「まぁこれは選手の登録データ上で使う名前だし、他校の生徒がいる時に呼んでくれればいいから」

「了解しましたミンカ殿」

「いや今はカナエでいいからね」

「なんか面倒くさいね、それ。――それでその奢りは試合後でいい?」

「それは無理。間違いなく用事が入るから」

「え? それはどうしてですか?」

 

 どこか眼光に鋭さを感じさせた華だが彼女(シロハとカナエ)は時に気にせず、学園艦から見れる大海原に顔を向けて答えた。

 

「練習試合もあるけど、終わったら私には会う子がいるから」

 

 試合相手の聖グロリアーナ女学院。そこには今年入学した、彼女(シロハとカナエ)の妹が通う学園艦でもあった。

 

 

 

 

 

 

………………………

………………

………

 

 

 

 ここは聖グロリアーナ女学園。その一角にして特殊である住居地区。お嬢様学院であるここの生徒は指定された寮で過ごす事が原則であるが、例外も存在する。その例外に当たる生徒達が住む場所がここ。明確な区別を表し、己を晒さない少女達がそれぞれの住まいで過ごす場所。いつか箱入り娘達の園と比喩され今では『金剛百合(ネリネ)の庭園』と呼ばれていた。

 その場所の、古きイギリスの洋館を小さくしたデザインの一戸建て。そこに住むのは2人。だから戸を叩くノックもコンコン、とよく聞こえた。

 

「お嬢様」

「どうぞ」

 

 入室の許可を得ると最小限の動作と適度な速度で扉を開ける。それは丁寧な物で扉の鳴る軋みも深いではない。そして部屋の中へ入り、扉を静かに閉めるとその場で一礼する。そして顔を上げれば左右の壁ある本棚と、部屋の中心の書斎と9面にもなるパソコンモニターが目に入る。その書斎でパソコンを操作する少女の後ろ姿も。

 

「戦車道の件かしら?」

「はい。試合当日の下船の許可と同時に密かに上陸する準備が終わりました」

「そう、ありがとう悠鷹(ゆたか)

「仕事ですから」

「ふふ、そうね」

 

 少女が椅子を回し、ようやく悠鷹と向き合う。

 彼女は例えるなら猫のようだった。髪型は令嬢然として整えられているが生まれつきなのか所々にハネたクセッ毛が目立つ。目はクリッと可愛らしいが瞳は何かを狙っているかのような鋭さがある。聖グロリア―ナの生徒として風貌は違和感がない。しかし雰囲気はどこかかみ合わない。そんな少女。

 

「では行きましょう。私、戦車道は好意的ではありませんが姉様たちは大好きですから」

 

 彼女の名前は橋場レオナ。聖グロリアーナ女学院の高等一年。橋場カナエ/シロハの妹である。

 




次回予告


「大丈夫。
 それに戦車道は予防線も大事よ」


「騎士道精神を持ってお相手します」


「作戦名は・・・・・・、それじゃあ『アレグロモデラート』で」


「姉様たちも頑張ったようですが、あれでは勝てませんね」


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