最近山田は自分周辺の環境の変化に戸惑っていた。
小杉とは小学生高学年からの付き合いであるがその頃から今と同様に連るんできた。
中学生時代もポンコツではあるが才覚に胡坐をかかず努力を重ねる小杉はめきめき頭角を現し学年どころか学校のトップを三年間張っていた。
もちろん自分も彼女のために色々と協力したものだ。
武術を重んじるこの川神では特に喧嘩沙汰も多くそういった方面での協力は勿論、能力は高いくせにポンコツな彼女の人間関係的な方面でのフォローも多かった。
小杉は上昇志向が高い。
まず新興の勢力である武蔵家全体に言えることで歴史の長い名家である不死川や綾小路、世界のTOPをひた走る九鬼に追いつけ追い越せと日夜精力的に動いている。
そんな一族の中で子供の時から育ってきた小杉は、そういった武蔵一族の性質を体現しているのだ。
故に野心家の習性ともいうべきか、障害となるものを積極的に排除しようとしたり、一般的に評価の低い、利益のないモノを軽視する傾向が小杉にはあるのだ。
俺自身ハンター時代はグレーどころかブラックなことをしていたのでそれが悪いとは思わない。
だが昔の俺を助けたように根は善良なので俺が注意したりフォローを行うことで小杉の性格を矯正してきたのだ。
中学時代は小杉が過剰なことをした場合は制止したり謝罪させたり、俺が小杉の努力を広めたり、あえて、そうあえて!俺が小杉をイジることで彼女に対して周囲の皆から親近感を持たせたりと、陰日向に彼女のフォローをしてきたのだ。
だが…先日の東西交流戦を終えて、いつも通りの日常が戻ってくるという山田願いは叶うことはなかった。
「さっすが紋様!プレミアムに素晴らしいですわ!!」
「フハハハ‼まあな‼我は九鬼だからな‼だがムサコッスのお陰でもある!感謝するぞ!」
「そんな!?とても光栄ですわ!紋様‼」
この有様である。
先に述べた武蔵一族の習性であるが、もう一つある。
それは明確に上のモノに対しては後で下克上してやるという意思を持っているものの、見事に、それはもう見事に媚びへつらうのだ。
今山田の目の前で、数々の決闘を経て自分から1年生のトップを奪った九鬼紋白を全力でヨイショする武蔵小杉のように。
「お嬢・・・(´・ω・`)」
九鬼紋白
世界に名だたる九鬼一族の末子で、2年生に在籍する九鬼英雄の妹でもあるロリ美少女である。
東西交流戦を終えてから最初の月曜日、九鬼主導の「武士道プラン」によって生まれた過去の英雄のクローン「源義経」「武蔵坊弁慶」「那須与一」「葉桜清楚」と共に入学してきた。
そしてその優秀さとカリスマ性からすぐさま1年生を掌握、小杉を下しわずか数日で完全に1年生のトップに収まった傑物である。
だがいくらなんでも今の小杉の太鼓持ちっぷりに先週までの彼女を知る山田は悲しみを覚えてしまった。
「山田さん…気を落とさないでください。」
「まゆっち、まゆっち!今のムサコッスを写真に撮って『盛者必衰』って題名付けたらピッタリじゃねえ?」
「こら!松風!確かに清々しいほどの手のひら返しですが失礼でしょう!」
「後生だから止めたげてよぉ。」
何気に酷いことを言うまゆっちと松風の心の闇を気づかないふりをしていると、1年生の優秀な人材たちの視察を行っていた小杉と人材マニアの紋白、そして明らかにお前1年生じゃないだろ!という外見の老年の金髪執事、ハゲがやってきた。
「ん?そこにいるのは山田太郎ではないか‼まずはおはよう‼」
「おはよう。紋白さん今日も元気ですね。」
「当たり前だ‼上に立つものに覇気がなければ下の者も覇気は出ぬ。上の立つものはかくあるべき理想を普段から体現せぬとな!!」
なんとなく話した言葉から予想外に深い理由が返される。
流石は九鬼。
上に立つものとして、器の大きさが違う。
…山田は割とマジで「お嬢に爪の垢を食べてもらいたいなあ」とか考えた。
「こら!太郎!紋様に対してその気の抜けた返事は何なの⁉」
「後てめえ紋様を呼び捨てだあ?俺ですらしたことねえのに何チョーシこいてんだァ⁉こらァ⁉羨ましいだろうがア⁉」
「よいよい。他者に強制された敬意は本物ではない。これから我の器を山田に見せていけばいいだけのこと、それに悪気がないとはいえ自身の主が下されたのだ。隔意があってもしょうがあるまい、良い従者であるなムサコッス‼」
「そ、そんなことは⁉」
やべえ。マジでカリスマがあるな。
本当お嬢勝ってるところ年齢以外ないんじゃないか。
今度本当に爪の垢くわせるかなあ」
「ちょっと太郎⁉何考えてるのよ⁉プレミアムに不穏なことを言ってないかしら⁉」
「何い紋様の垢だとぉ!誰がやるか!紋様の爪の垢なんざ俺が欲しいくらヴぁああ⁉」
「フハハハ‼山田は面白いやつだなあ!」
山田はつい内心を露呈してしまった。
ついでに爪の垢発言で気持ち悪いこと言っていたハゲはヒュームさ…ヒューム君に粛清されて倒れた。
何故だろう。
好感度を稼ぐイベントなど欠片もないのにハゲに対する親近感が何故か高い。
とりあえず気付けを行って介抱するとしよう。
「紋白さんは流石のカリスマ性だ。お嬢に本気で見習わせたい位だよマジで。後、俺はお嬢の従者でなくて友人だよ。」
「そうなのか?んー?では山田も九鬼に仕えぬか?我の人材センサーに山田がただモノではないと反応を示しているのだ!」
「んー。本気でありがたいですが俺、まだそういうのは考える気がないので。」
「フハハ気にするな。高校卒業後の進路の一つにでも考えておいてくれ。我のセンサー通りならば山田が九鬼に入ってくれればきっと九鬼は更なる躍進をするだろうからな!!」
「…本当にありがとうございます。でも俺将来はお嬢の旦那さんかご主人様になっている予定なので…」
「⁉ちょっ太郎何を言ってるのよ⁉初耳なんだけど⁉」
顔を赤く染めてアワアワする武蔵小杉。
『ご、誤解です紋様~』とか言って腕を振る彼女の姿に山田の心は満たされる。
今日も強く生きていけそうである。
「お嬢のご両親からも『山田君なら収支的に見てもプラスになるし小杉も嫌ってないから良いんじゃないかなあ。でも無理やりは駄目だよ?』と言われてますし。」
因みに今のご主人様云々の話は嘘である。
実は山田はまだ子供の頃に一度小杉の両親に「娘さんが欲しい」という旨の話をしたことがあるのだ。
しかし、その際小杉ママにはOKを貰えたが小杉パパには猟銃でお返事された。
それからというもの偶にどこからともなく弾丸が飛んでくる度に、銃弾を回避、なんとなく小杉パパの枕元に回収した弾丸を転がしておくのが山田の日課となった。
「本っ当に初耳なんですけど⁉」
「ほえー山田とムサコッスはア、アダルティな関係なのだな…」
紋白も小杉と同様に顔を真っ赤にしつつも興味津々である。
中々威力が高い。
素晴らしい。
山田はその顔を見て『お嬢には負けるが紋白もイイなあ』などと慈愛顔を浮かべていると
「良い仕事だ。山田。お前、俺と同類…ではなさそうだが仲良くできそうだ。俺は2-Sの井上準っていうんだ。よろしくブラザー!」
復活したハゲ…改め同じく慈愛顔で顔を赤く染めた紋白を眺める井上準。
一瞬で険悪→友→ブラザーにまで仲が進展したが、山田も彼に何かしらシンパシーを感じていた。
「こちらこそよろしくお願いします。井上先輩。俺たち向かう場所こそ違えど色々と共通点がありそうで…気が合いそうですよね!」
「ああ!だが先輩なんて他人行儀だ。準で良いぜ俺も太郎と呼ぶからな!」
「!ああ準よろしく!」
ロリコンとドエスの最悪の変態タッグがここに結成された。
二人は固く握手を交わし、顔を赤らめて小杉を興味津々に問い詰める紋白とそれに“はわわ”っという感じで答える小杉を二人して悟りを開いた聖人のような顔で眺める。
まさにこの世に苦しみなどないというかのような穏やかな表情だ。
「…とりあえず紋様に不躾な視線を向けたお前らには俺がお仕置きだ。」
「「!?」」
だがしかし、現実ではこの世には悪意も不条理も多く存在する。
不愉快な視線で主を視姦する変態二人を排除せんとヒューム君、何故か高校1年生として無理のある入学を果たした世界最強格のジジイ、ヒューム・ヘルシングが牙をむく。
「なんで『そんな馬鹿な』って顔を自信満々に出来るか理解できんが、とりあえず潰れろ。ジェノサイド・チェンソー(弱)‼」
「あべし⁉」
「ひでぶ⁉」
「⁉ほう…やはりただの赤子ではないか、山田太郎。」
ヒュームのジェノサイド・チェンソー(弱)を受けて再度気絶する準。
そして瞬間的に気を纏い、「堅」を行って、攻撃を防ぎ切った山田。
完全に(視姦に夢中で)気を抜いていたがゆえに条件反射で念を使用してしまった山田は表情は変えず、だが内心ではかなりパニクっていた。
(しまった⁉油断しすぎた⁉これは…ごまかせないな。だが実力の全ては察知できないはず。最悪さえ避ければいい!)
「…まあお嬢を守るため、そこらのチンピラはもちろん、お嬢よりも強いですよ俺は。まあ今のは運がよかった。咄嗟に防御したら上手い事耐えきれましたからね。」
「ふん、もう1時間目が始まる時間だ。今日はそういうことにしておいてやろう。」
全く誤魔化せなかったが、少なくとも最悪は避けられた。
俺が
「「…」」
時間も来たので、この場はそのまま御開きとなった。
小杉たちは連れ立ってSクラスへ、山田は一人でBクラスへ戻る。
廊下に残ったのは奇妙な体勢で気絶する準だけだ。
1時間目が始まり、真面目に授業を受ける山田。
山田は自分がそこまで頭はよくないと考えている。
念能力の分析など戦いについては頭が回るし仕事や経済についてもHUNTER×HUNTER世界ではそこそこの成功は収める程度には知識と適正があった。
学校の勉強についても実は本気を出せばAの上位かギリギリSクラスまで行けるのだ。
だが迂闊というかすぐ楽な方向へ思考が向かうためよく失敗する。
だから彼のかつての念能力【戦闘民族の遺伝子/サイヤ・ジーン】も余計な選択肢を生まないように頭をあまり使わない能力で、典型的なLVを上げて物理で殴るスタイルであった。
そんな単純思考な山田であったので、今回のような場合はどうするか?
(致命的ではない。だから悩んでも良いことないし忘れよう。そうしよう。)
都合の悪いことから目を背けて、流されるままになることである。
後日、山田はこの判断を後々悔やむこととなる。
具体的には武神をはじめとした実力者とガチで戦うこととなった時に。