つぶら★マギア【アニメ編完結】   作:ダラ毛虫

12 / 18

さやか&まどか視点



第10話

 あの時は、ツブラと出会ってからまだ、3日も経ってなかったはず。

 

 

「約2、3ヶ月。経験則だと、大体このくらい」

 

 ツブラの発言は、いつも唐突だ。

 放課後の恒例になった、魔法少女体験コース前のお茶会でも、基本的に黙ってケーキを食べている。

 地図を広げて探索ポイントをマミさんと話し合い、後はだんまり。

 

 その日も、突然の台詞までは、静かだった。

 話し始めてからも、抑揚がない静かな声だけど。

 

「このくらいの期間、死線を乗り越えた魔法少女は、急激に強くなるわ。

 魔力のコントロールに慣れるのもあるけれど、戦うことそのものが上手くなるの」

 

 ツブラが、言葉を切り、紅茶を飲む。ついでにケーキもパクリ。

 今って、真面目な話じゃないの? あんた。

 

「そういった、コツを掴んだ魔法少女が、ベテランと呼ばれる者達よ。

 ルーキーでは、多少魔力が多い程度では太刀打ちできない。

 そして、たった2、3ヶ月だけれど、大抵の魔法少女はルーキーで終わる」

 

 もう1度ケーキをパクリ。

 

「大抵は、その前に死ぬから」

 

 話は終わり、とばかりに、視線は完全にケーキへ固定。

 パクリ、パクリ、パクパクモグモグ、紅茶を一口。

 

 

 どこまでも淡々と、残酷なくらい生々しく語られた、魔法少女の死。

 だけど、それ以上にあたしは、こんな話をケーキの合間で口にする、こいつのことが怖かった。

「……そ、そんなことにはならないように、わたし達が」

「貴女がいつまで守るつもりかは知らないけれど、私はワルプルギスの夜を始末したら、次に行くわよ?

 魔女を狩り尽くしたら、見滝原に留まる理由は無いもの」

 

 パクリパクリと、一定のリズム。

 

 いつだってこいつは、自分を変えないのだろう。

 

「鹿目、美樹、貴女達が魔法少女になることを選ぶのは、確かに自由。

 ただし、私はそれ以降、貴女達を『魔法少女』として扱うわ」

 

 機械みたいに精密で、人形みたいに無機質。

 あたしは、こいつのことが、苦手だ。

 

 

 

 

 

 そして、魔法少女になろうとしていることを、みんなの前で言った日。

 

 最近仲間になったらしい、杏子ってやつを含めた全員。もちろん、ツブラもいた。

 

 

 あたしは、ツブラが、大嫌いになった。

 

 

★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 カナメさんのことを、優しい、と言うと、さやかちゃんとほむらちゃんは、スゴく嫌そうな顔をする。

 マミさんは困ったように笑って、杏子ちゃんは、鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。

 そして、カナメさん本人は、きょとんと、不思議そうに小首を傾げていた。

「私のことを優しいなんて言うのは、姉くらいなものだと思っていたわ」

 

 その時わたしは、確かに彼女の笑顔を見た。

 

 

 

 

「他人のために祈ろうと、自分のために祈ろうと、結末は変わらない」

 

 だから、カナメさんの厳しい言葉の内側には、優しさがあると信じている。

 

「奇跡などにすがった時点で、ロクな死に方をしないことくらい、目に見えている。

 言ったはずよ。魔法少女など、残りの人生を投げ捨てられる者だけ成れば良い」

 

 残酷な事実を冷たいくらい真っ直ぐに突き付けるのが、カナメさんの優しさなんだ、と。

 

「幼馴染みの手を治す。

 それが、貴女の人生より重いなら、私は止めない」

 

 いつも通り淡々と、いつも通りの無表情。

 

「姉に救われて、姉に守られた人生を、私は『魔女への八つ当たり』のために捨てた。

 私の人生は、復讐心の解消よりも軽かった。憎悪に身を委ねるのが、最も生きやすかった」

 

 いつも通りの様子で語られる、彼女の人生観。

 

「貴女の選択を、私は否定しない。否定も後悔も、未来の貴女がすることだから」

 

 後悔するな、なんて、彼女は言わない。

 後悔することを理解して進め、と、言葉の刃を突き刺す。

 

「私から言えるとしたら、『手を治す』よりも『手を治せる力』を願うべき、くらいかしら。

 貴女の素質では、何らかの能力に特化した方が、まだ生き残れるわ」

「………………………あたしは……」

 俯いたさやかちゃんが、口を開いて、また閉じる。

 周りに助けを求めようとはしない。

 わたしはもちろん、この場に、さやかちゃんが魔法少女になることに賛成する人は居ない。

 特に、杏子ちゃんは、他人のために願うことに、嫌悪感を剥き出しにしていた。

 

 賛成してはいないけど、カナメさんだけが、『選ぶこと』を肯定した。

 そのカナメさんは、静かな視線をさやかちゃんに向けている。

 マミさんはつらそうにさやかちゃんを見守り、杏子ちゃんはイライラした態度でリンゴをかじる。

 

 

「……まどか。あなたにも言えることよ」

 そして、ほむらちゃんが、わたしに語りかける。

「魔法少女の運命は、最期は、とても残酷なものよ。

 今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないで」

 迷子みたいに不安げな瞳で、ほむらちゃんがわたしに訴えかける。

 どうしてほむらちゃんは、こんなにも必死に、わたしを想ってくれるのだろう。

 ずっとずっと不思議で、だけど、もう少しで何かが掴めそうなーーー

 

 

「……あんたが前に言ってた、『魔法少女』として扱うっていうのは、具体的にどういうこと?」

 途端に、浮遊感が消えていく。

 どこか違う場所に行きかけた思考が、ここに戻る。

 さやかちゃんとカナメさんの会話へと、意識を向けた。

 

「最低限の戦力に鍛えるけれど、その前に『美樹さやか』としての知人と縁を切ってもらうわ。

 世間的には、行方不明ね。学歴は諦めて。貴女の素質で、両立は不可能よ」

「恭介とも……?」

「………上条恭介、か。貴女が治したい相手だったわね。

 論外よ。遠目に見ることもやめておきなさい」

 その言葉を聞いた瞬間、さやかちゃんが、カナメさんを睨み付けた。

「なんであんたにそんなことを!」

「わざわざ死に急ぎたいなら、好きにしたら良い」

 爆発のような激情。怒り。哀しみ。

 だけど、カナメさんは揺るぎもしない。

 

「その少年は、貴女にとって『幸福』の象徴なのでしょう?

 そんなモノは、『殺し合い』との落差を見せ付ける致死毒よ」

 

 固く、堅く、硬く、魔法少女の生き方について語る。

 

「それは『貴女が捨てるモノ』よ。『平穏』なんて、『私達』にとっては羽休めにしかならない。

 止まり木に囚われれば、もう飛べない。

 分かっているでしょう。魔法少女は、魔女を殺し続けなければ、死ぬの。

 普通の幸せ、なんてモノは、夢見るだけでも腕が鈍る」

 

 ひたすら冷たく鋭い、言葉の刃。

 

奇跡(ヒトツ)のために人生(スベテ)を捨てなさい。

 拒むなら、幸福(フツウ)に生きていけば良い」

 

 

 

 目を背けて進むことを許さない、甘えを斬り捨てる、優しい残酷さ。

 

 マミさんも、ほむらちゃんも、杏子ちゃんも、誰もカナメさんの言葉を否定しなかった。

 誰もが、沈痛な表情で、無言のまま、その冷徹な正しさを認めていた。

 

 カナメさんは、きっと優しいし、正しいのだろう。

 

 

 

 

 だけど、わたしには、そんなカナメさんが、とても悲しく見えた。

 




背後霊慟哭中のため後書き休載
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。