ほむほむは苦労人(確信
土曜日の朝、私は巴マミーーマミの家に向かった。
特に約束はしていないけれど、この時間なら、多分いるだろう。
魔法少女同士のテレパシーを使うことも考えたが、インキュベーターに傍聴される気がして嫌だ。
内容は今週の成果確認と情報共有なので、隠すほどでもないものの、何か嫌だ。
携帯電話? まどかと会うまで入院生活だった私が持っているとでも?
マミもそんなコミュニケーションツールに縁は無い。
などと、徒な思考を弄びつつ、エレベーターに乗り込む。
後になって思えば、この時の私は、余りにも油断していた。
扉が閉まる直前に滑り込んで来たのは、佐倉杏子。
この日付で見滝原に来たことなど、『過去』に1度も無い魔法少女。
もしも彼女が私達と敵対するつもりだったら、今の瞬間に、殺されていた。
なんて迂闊。だけど、まだ、致命的ではないはず。少なくとも、現時点では、彼女は私に敵意を向けていない。
警戒心を隠しつつ、佐倉杏子を観察する。
幸い、彼女はエレベーターのボタンに目を向けていて、私の動揺に気付いた様子は無い。
既に私が押したボタン、マミの部屋がある階が点灯しているのを見て、彼女は壁に背を預けた。
間違いない。マミの部屋に行くつもりだ。
このイレギュラーの原因は、考えるまでも無い。
円が何かした。おそらく、魔女退治の縄張り争いで彼女とぶつかった。
マミの部屋に円がいることは、どうせインキュベーターが教えたのだろう。後で殺そう。
そうなると、目的は円への報復か。でも、佐倉杏子の態度には、襲撃前の緊張感が感じられない。
どうする。下手に干渉すると、また『まどか』を失うかもしれない。
今回は、かつて無いくらいに順調だ。
まどかも美樹も魔法少女になっておらず、マミと協力関係を結ぶことができた。
更に、強力なイレギュラーである円もいる。
その円は、まどかを魔法少女にせずワルプルギスの夜を倒す、という私の願いに賛成している。
できるなら、今回でもう終わらせてしまいたい。
何度繰り返すことになっても、必ず『まどか』を守ってみせる。
その約束にも決意にも、変わりは無い。だけど、これ以上『まどか』が不幸になる姿を、見たくない。
この状況で、どう動くのが正解か。
佐倉杏子は有力な魔法少女だ。無意味な戦いは避けたい。
だけど、でも、いやしかし。
考えている内に、気付けばマミの部屋の前まで着いてしまった。
「……あなたも、巴マミさんに用事があるのかしら?」
迷った末に、偶然同じ家を訪れた初対面として振る舞う。
まずは、相手の出方を見極めなければ、動けない。
「へぇ。そう言うアンタは、マミの知り合い?
だったら、教えてほしーんだけどさぁ」
目を細めた佐倉杏子が、ずいと私に顔を寄せる。その眼差しは、明らかに私を値踏みしていた。
「円カナメって奴も、アンタの知り合い?」
滲む敵意。完全にビンゴだ。絶対に縄張り争いしている。そして、彼女は十中八九、円に負けている。
「そういう話は、本人も交えてしましょう」
極力自然に、かつ素早く、インターホンを押す。
この距離で佐倉杏子と戦闘になるのは危険だ。
円の性格からして、マミがいる時に玄関を開けに出てくる可能性は低いはず。
拘束に長けたマミと2人なら、無駄な争いをせずに佐倉杏子を捕らえることもーー
「まったく、巴は何をぼんやりしているのやら……」
何であなたが出るのよ!?
あなたの魔力感知能力なら、扉越しにでも誰がいるか分かったでしょ!?
縄張り争いした相手なんでしょ!?
空気を読みなさいよ!?
「とりあえず、暁美は部屋に入れて良いとして、佐倉杏子はどうするべきかしら」
案の定と言うか、円は何も考えていなかったらしい。
基本的に、彼女は物事に取り組む時、とりあえず当たってみてから考えるタイプだ。
無表情に冷静に無計画。
半ば条件反射の対応で大体どうにかなるのが、余計に憎たらしい。それによる周囲への影響を考えなさい本当に。
「円、あなたはどこまで愚かーー
「……へ? 杏ーー佐倉さんっ!?!」
そんな円に苦言を呈そうとしたところ、部屋の奥から、やけに慌てた様子のマミが飛び出してきた。
名前で呼びかけてから、名字で言い直した。
「よぅ……巴マミ……」
それに対して、佐倉杏子は、気まずそうに視線を逸らす。
呼び方も、先ほど私と話した時は『マミ』と呼んでいたのに、フルネームだ。
ああ、これは、思った以上に、面倒な関係性らしい。
「なんだ。2人とも知り合いだったのね。
好都合だわ。貴女とは対話したいと思っていたの、佐倉杏子」
空気を読まないあなたが、今だけは羨ましいわ、円。
背後霊「あんこちゃんキターッ!! って、え? マジで? なんでこんな早い段階で?
て、うん、やっぱカナメちゃんが縄張り侵略してボコった挙げ句に『治療費』ポイしたせいだよね分かります。
杏マミ? マミあん? あるいはほむあん? どれでもおいしいですもぐむしゃあ。
とりま、ほむほむ、ふぁいと」