皆さんは憑依というものをご存じだろうか。
一般的でいう霊的な何かが人に乗り移るというあれだ。
悪魔憑きだの狐憑きだのいろいろと代表的なものがあるが、まぁそんな名称とか割りとどうでもよく、なんで冒頭からこんな話をするのか説明をするとだな、端的にいうと俺はとある人間に憑依してしまった。
それもかの有名なアニメのキャラクターにだ。
はっきり言ってなんで俺がこんなことになっているのか皆目見当もつかないし、訳ワカメだし、意味がわからなかった。
気づいたら赤ん坊の姿になっていたのだ。
俺はもともと普通の営業サラリーマンだったはずだ。
記憶違いなんてない。
だから、憑依の代表的なものである幽霊的な何かだった覚えなんてこれっぽっちもなかったし、ましてや死んだ記憶なんてないのだ。
神様的なサムシングに出会った記憶も皆無である。
まぁ最初は、前世の記憶もちでの転生やっほい!強くてニューゲームや俺の時代が来たぜ、と無駄にテンション上がったが、幼稚園のときに出会ってしまった。
この世界の主人公に。
そいつと出会った瞬間俺に電流が走った。
そのぐらいの衝撃だった。
あぁ、こいつを俺は知っている。
この世界を俺は知っている。
そして俺の転生、もとい憑依元も。
そう憑依だ。
転生ではないのだ。
俺が、俺という魂が一人のキャラクターに憑依したのだ。
元人格がどうなったかは知らない。
確かめる術がないのだから。
この時の俺はショタッ子ながら軽い鬱状態だったのだと思う。
そりゃそうだ。
なんせ無意識ながらも人を一人殺しているのだから。
しかし、この時の俺を立ち直らせてくれたのは主人公を始め、たくさんの仲間、今世の両親、そして最愛の妹だった。
俺のことを心配し、怒り、涙を流し、そして笑いあう劇的なドラマがあったりなかったり。
その結果、俺は俺だということを認識させてくれた。
もしかしたら今の俺が本当の俺で、記憶の俺がただの妄想でここがアニメの世界だということもただの妄想なのかもしれない。
まぁ、どれが真実なのか強くてニューゲームしてもそれなりの学力しかない俺には考えてもわからないわけで、つまりは俺は俺だということでFA。
うん、それでいいだろう。
そこからの俺は自由だった。
自重を捨てた俺は原作? んなもんねーよ、と誰もよりも自由にフリーダムで自分の心に従ってやりたいことをやってきた。
特に小学生に上がってから顕著に現れた。
原作のような大冒険をしたり、俺の存在のせいか原作にはなかったよくわからん不思議災害どもを主人公たちと駆逐したり、と順風満帆な日々を送っていた。
楽しいことや辛いこと、出会いや別れ……いろいろなことがあって、そして、時は過ぎ、俺が高校生になったとき、運命に出会った。
そいつは俺がたまたま遭遇した不思議災害どもを殲滅している時に現れた、燃えるような赤い髪を翼のように振り乱して、綺麗な声音で歌を唄いながら、だけど、荒々しく、粗々しく、己の激情に身を任せ、その姿はただただ苛烈で、そして痛々しかった。
そいつのおかげで被害少なく不思議災害どもを駆除することができたが、だけど、俺は昔の病んでいるころの自分を見ているような気がして、そいつのことが放っとけなかった。
だから俺は、もはや癖のようになっている普段通りの乱暴な口調でそいつに声を掛けた。
それが悪かったのか、そいつとの会話は徐々に徐々に苛烈さを増した。
―――奴らを皆殺せるのなら、あたしは喜んで地獄に堕ちる!
最後にあいつはそう言って俺の前から消えていった。
もう話すことは何もないということなのかもしれない。
彼女の態度を見るに、過去になにかあったのだろう。
もしかしたら、自分の大切な人をあの不思議災害どもに殺されたのかもしれない。
彼女からは自分の全てを犠牲にしてでも、復讐を達成してやるという気概を感じる。
しかし、それでは駄目なのだ。
他人が死んで自分が生き残ったら、その死んだ人の分まで幸せにならないといけないのだ。
そういう義務が残った人には生まれるのだ。
だから、精一杯生きて、笑って、泣いて、怒って、そして、いざ死ぬときにいい人生だったって笑って逝かなければならないのだ。
あいつのような復讐に生きるってことは死んでいった者たちに失礼な事なんだから。
次にそいつと会ったのはしがない公園だった。
俺は草野球の帰りで、そいつはなぜかベンチに座っていた。
また前みたいに言い合いになるのかと思いきやそんなことにはならず、二人してベンチに座り最近会った他愛無いことを話していた。
彼女は俺と同じ自由奔放でとにかく明るくサバサバした性格というか、男勝りな性格というか、姉御肌?っていう感じの性格だったため、あの時はあの時、今日は今日と割り切っていたからなのかもしれない。
俺がそうみたいに。
―――あんたが言ったとおり、私が間違っていたのかもね。
ふいに彼女はそんなことを呟いた。
よくよく話を聴くと、昔あの不思議災害どもに両親を殺されているらしく、こいつはやつらを殲滅するためにありとあらゆる努力をしてきたみたいだ。
文字通り、血を吐くような努力を。
だから、今まで復讐のためだけに槍を振るっていたみたいだが、つい先日戦場で助けた自衛官の言葉で「歌を聞いてもうことで誰かを勇気づけられる」ことに気づき、これからは復讐のためではなく誰かを護るために力を使うことを決意したらしい。
そう穏やかな表情でそう語った彼女を見て、なんだそれかっこいいいじゃねぇか、と思ってしまった。
頑張れ、頑張れ、としか応援することしかできない俺はちょっと話の途中から目から汗が出ていたもので語彙力が低下してしまうのはしょうがないことだと思うんだ。うん。
それにしてもよかったなぁ、これからも大変だと思うけど、お前なら絶対できるからな、と肩を叩くと、そいつは、おうっと照れくさそうにはにかんだ。
次にそいつを見たのはテレビの中。
なぜか誰かを護るといったあいつ、天羽奏はアイドルになっていた。
え、なんで?
「今日はこんなたくさんの連中が聴いてくれるんだ。だからあたしも、出し惜しみなしでいく。とっておきのをくれてやる……絶唱ッ」
なんでこんなことになったのだろうか。
今日は私、天羽奏と風鳴翼のツインボーカルユニット、ツヴァイウィングのコンサートだった。
だが、コンサートの途中、奴らが襲撃してきたのだ。
人類共通の脅威とされている認定特異災害、ノイズ。
空間からにじみ出るように突如発生し、人間のみを大群で襲撃、触れたものを自分もろとも炭素の塊に転換させてしまうという恐ろしい特性をもつ化け物だ。
奴らのせいでコンサートどころでは無くなってしまった。
私は、翼と共にコンサートに来てくれ人達が避難できるようにすぐさまノイズに向かっていった。
当たり前だ、今この場で槍と剣を携えているのは私たちだけなのだから。
ノイズとの戦いは熾烈さを増した。数が多い。倒しても倒しても奴らは湧いて出てくる。
「い、いやっ!」
叫び声が聞こえた。
声の方を見ると、一人、逃げ遅れた女の子の方にノイズが近寄っていた。
やらせはしないッ!
「はああッ!」
瞬時にノイズを切り捨てた。
「駈け出せッ!」
「奏ーッ!!」
翼の叫びに気づく。
一体のノイズが私に攻撃をしてきた。
そして、
「ギアが破損ッ!?時限式はここまでだってのか……」
私は制御薬「LiNKER」を過剰投与した結果、やっとの思いでシンフォギア適合者へとなったのだ。
そう、もともとは正式な適合者ではない。
しかも「LiNKER」は人体への負荷が絶大でギア装着も時間制限付きの限定的なものである。
ギアが破損してしまったのもそのせいだ。
だが、私はまだ戦える。
この女の子を護るのだ。
しかし、私の思いとは裏腹に破損したギアが勢いを失うことなくはじけ飛び、
「――え?」
「なッ!!」
そして、女の子の胸を貫いた。
「おいッ!死ぬなッ!目を開けてくれッ!生きるのを諦めるなッ!」
すぐに彼女のもとへと駆け寄り、上体を支え上げ、彼女に呼びかけた。
「…………」
目を開けてくれた。
すぐに病院で治療をすればまだ助かるッ!
だが、周りの溢れかえっているノイズどもが黙ってないだろう。
「ごめんな……もう少しだけ頑張ってくれ」
周りの連中はあたしがなんとかする。
なんとかする方法は、一つだけある。
この子を護る方法が。
「いつか心と身体、全部空っぽにして、思いっきり唄いたかったんだよな」
これを使えば、適合率が低いあたしの体は持たないかもしれない。
だけど、それでもいい。
誰かを護れるのだとしたらそれでも。
「今日はこんなたくさんの連中が聴いてくれるんだ。だからあたしも、出し惜しみなしでいく。とっておきのをくれてやる……絶唱ッ」
だけど、一個だけ心残りなのは、最後にあいつの顔を見れなかったことか。
こんなあたしを見たら、また、馬鹿野郎って言うのかな。
……ふふっ。
「いけない奏ッ!唄ってはダメーーーッ!」
ごめんな翼、あとは任せた。
「歌が……聞こえる……」
「そうさ、命を燃やす最後の―――」
ボカンッ!
そのとき爆発、そして衝撃が走った。
何が起こったか分からず、私は歌を止めてしまった。
ただその爆発はノイズが固まっていたところから発生していた。
その証拠にノイズが固まっていた場所の一部に小さなクレーターができており、そこにいたであろうノイズが粉々になっていた。
い、一体何が……。
「おいおい、俺様に挨拶なく何死のうとしてんだ、おい」
声が聞こえた。
最近できた私の理解者で私の友達。
粗暴で乱暴で暴君でガキ大将な彼。
「泣く子も黙るジャイアン様の登場だ! 助けにきたぜ、心の友よ!」
おもむろに野球のバットをこちらに向けて二カッと笑っていた。
プッシュンッとまた音が聞こえた。
その瞬間、ノイズが炭化していく。
こ、今度はなに?
「ジャイアン!かっこつけてないで残りのノイズをなんとかしようよ!」
眼鏡をかけた男の子が拳銃のような何かをノイズに向けて打っている。
その速さ、正確性、常人ではない技術を持っていた。
これは彼がやったの?
「やれやれ、ジャイアンものび太もノイズを倒すよりもこっちの重症患者の処置が先だろうに」
「き、君は?」
「うん? 僕はスネ夫、ああ大丈夫。これでも医師免許を持てっててね。ハワイで親父に教わったんだ」
そういってやけにメカメカしい鞄を取り出し、女の子を治療していった。
なんだこの子たちは……。
なにが、なにが起こっているんだ?
そんな私の疑問をよそにノイズを強振打ちで吹っ飛ばしながら私の友人、剛田武が私に近づいてきた。
「たけしッ!どうしてここに……というかなんでノイズに触れてなんともないんだ!」
「なんだ奏、知らないのか。今の俺様は劇場版なんだぜ」
「わけがわからないよ」
誰か私に説明してくれ。
「たまたまテレビにお前が映っててな。歌手を志している俺様への挑戦状かと思ったぞ。だから今日やるライブに乱入してお前らユニットより素晴らしい歌手がいることを世間に知らせようとしてな」
「僕たちはそれを止めにきたんだけどね」
「なんか言ったかのび太」
「いや別になにも」
ふんっと鼻を鳴らした武は続けて、
「それにしてもお前、また自分を犠牲にしようとしたな」
「……ッ!」
私をジロリと睨み付ける。
なんともいえない迫力が彼にはあった。
初めて会ったときと同じ凄まじい威圧感が彼を包んでいる。
「ごめん……これしかないと思ったから」
「まったく……反省しろ。お前がいなくなったら悲しむやつはいくらでもいるんだからな」
そういって彼は指を向けた。
そこには泣きそうな顔の翼が私を見つめていた。
そうか、そうだよな。
あたしは一人じゃないんだよな。
「わかったならいい……さて、さっきから聞きたかったんだが、お前らって歌を歌うことで不思議災害どもを倒すんだよな」
「あ、ああ。それが普通というかお前らがおかしいというか……。私たちは歌を引き金に―――」
「いや難しいことはわからんから説明はいい。大事なのは歌を歌えばやつらを倒せるってことだ。つまりは、だ。―――臨時ジャイアンリサイタルの開催だ」
その日世界は震撼した。
物理的に。
彼の歌は絶望を撒き散らし、そして、希望を彩った。
あたしはこの日を境に奏者を引退した。
というのも、この日の絶唱が原因で身体が限界を迎えてしまったからだ。
だがしかし、悔いはない。
あたしの後を引き継いでくれた子がいるのだから。
そう、あの時怪我を負った女の子だ。
彼女があたしの後任になってくれた。
怪我をさせ、もしかしたら命を失ってしまう可能性もあったのだが、彼女は今でもあたしを慕ってくれている。
あたしと同じでノイズからいろんな人を護るんだって言っていた。彼女なら大丈夫だろう。
そして、あたしは―――
「たけしッ!早く配達行って!」
「ふざけんな今日は我がジャイアンズの―――」
「すぐ行かないとお母様に告げ口するよ」
「マッハで行ってまいります!」
剛田雑貨店で働かせてもらっている。
身寄りのない私をたけしのご両親は快く迎えてくれたのだ。
身体に支障があることはやらせてもらえないけど、いろいろと忙しいので奏者の時とは違ったやりがいというのがある。
昔の私なら考えられないけど、こんな生活もいいもんだ。
あの日あの時、たけしに出会えてよかった。
「じゃあ行ってくるわ」
「はいはい、行ってらっしゃっい」
「おっしゃー行くぜ!おっれはジャイアン~ガキ大将~♪」
だけど、あの歌だけはなんとかならないかな。
ノイズを消滅させるほどの歌って……彼、人間辞めてるでしょ。
ご機嫌に自転車を漕いで唄っている彼の背中を見てそう思うあたしであった。
【戦姫絶唱シンフォギア×ドラえもん】
ジャイアン
転生者であり憑依者でもあるこのお話の主人公。
昔は情緒不安定だったが、悲しみを乗り越えた現在の彼は常に劇場版状態へと変貌した。
高校生になった彼を止められる人間は妹と母ちゃん以外いなかったものの最近になって一人増えた。
のび太
幼少期より傍若無人なジャイアンに付き合っていたため、何かと荒事には慣れている英雄。
世界を何度か救っている。
スネ夫
金持ちで人脈の広いパパのおかけで様々な技術をもつ天才。
なお、未だに髪型が変わらない模様。
天羽奏
本当なら原作一話で亡くなってしまう悲しい姉御。
今作ではジャイアンと出会い見事死を回避した。
かわいい。