いつか、あったはずの日々   作:白滝あまね

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戻らない日々

「久しぶりね、三年ぶりかしらね」

 

「あぁ、久しぶりだな」

 

言葉にすれば短い時間であるところの三年は俺にとってはひどく遠いことのように思えて、自分の認識が正しいか記憶を探ろうとしたが無意味なことだ。なぜなら彼女という証言者が俺自身に告げている、あの日々は決して戻らないと。

 

「大学の帰りか?」

 

「えぇ、そんなところよ。あなたは就職活動かしら?」

 

「違ぇよ、教育実習だよ。俺が働く訳ねぇだろ」

 

自分で思っていたより俺という人間は図太いらしい。過去の再現をしてしまっている、これは期待でもしているのか。当たり障りのない対応をすればいいだけなのに。すると彼女は一度こちらを見つめたかと思うと、微笑んで。

 

「変わらないのね、比企谷君は」

 

あれは胸のうちを隠しながらも、相手を気遣う言葉だった。いつ頃だっただろうか、以前見せた顔と重なってしまい、一瞬目を瞑る。

あの時も俺は行動する理由を誰かに委ね、自分の流儀を曲げてしまった結果、自分の望みの本質を見誤っていた。何より彼女の今の表情が全てを物語っている、お前はまた間違えたのだと。こんなお互いにとって何の利益も生まないならば、いっそ終わらせた方がいい。

 

「悪いな急いでるから、そろそろ」

 

「それは迷惑をかけたわね、それではさようなら」

 

「お、おう」

 

雪ノ下は俺の返事を聞くと駅から離れていき、俺もまた一人帰路へと向かった。こんなことは誰にでもよくある話だ、進路の違う顔見知りと久々に会って挨拶をしたり、様子が気になって連絡をして近況を話す、たったそれだけのことなのだ。ただ俺に限っては声をかけられる事も、突然連絡が来るなんてことは奉仕部に入るまであり得なかったはずなのだ。俺は何年経とうと過去に囚われ、苦い経験を積み重ねた分だけ拗らせていく。巡り合わせというのは恐ろしいと常々思う、一度過去を振り返ったならば隙を作らずに畳み掛けてくる。

 

「やっぱ、俺には教師なんて無理だな」

 

言い聞かせるように呟きながら空を見ると、厚い雲が微かに見えるはずの星を隠してしまっていた。

 

 

 

 

「ただいまーって、誰も帰ってないのか」

 

両親は仕事でいないにしても、小町も塾か。今日も真面目に働いたというのに、妹に会えないなんて辛すぎるよぉ。とりあえず沈んだ気持ちを抑えるためにも、カマクラに遊んでもらうとしよう。俺くらいになると猫とは対等どころか立場は下になるし、なんなら家族の中でも一番下になるんだよな。ソファーの上で丸まっいてるカマクラを抱き上げ、喉を撫でるとゴロゴロ言いながら目を細めて体を預けてくる。

 

「もう俺には、お前くらいしかいないよ。

ってヤバイな、このままじゃ平塚先生と変わらんぞ」

 

本人に聞かれたらガチ泣きされそうなので、今度お詫びとして愚痴酒にでも付き合うとしよう。独身女性のレーダーを警戒してか、腕の中にいたカマクラは暴れだしたので放してやるとニャーニャー言って玄関へと向かっていった。

 

「ただいまー。カー君出迎えなんて偉いねぇー、ご褒美に猫缶を出してあげるね」

 

流石、我が家の猫だけあって家の勢力図を把握しているなぁ。媚びるのは我が家の男たちの基本スキルらしい。

 

「おかえり。飯準備しようか?」

 

「いや、私は外で食べてきたし。お兄ちゃんこそ何も食べてないなら、作ろうか?」

 

「大丈夫だ、インスタントで済ますわ」

 

「そう?なら小町、お風呂入ってくるから」

 

「あいよ」

 

いつも通りの八幡クオリティーなインスタントラーメンをさっさと食べ終わり、ソファーでテレビを流し見しながら休み明けの仕事の準備をすることにした。ちくしょー、仕事が終わっても仕事、仕事ってプライベートはどこいったんだよ。しかも教育実習だから給料は出ないという、こいつがブラックの片鱗なのかもしれん。

 

「ふぅ、仕事仕事仕事かー」

 

「おっ、立派な社会人らしくなってきたじゃん」

 

「やっぱり大人になんてなるもんじゃないな。っていうかお前の大人像歪んでねぇか」

 

「お母さん、いつもそんなんじゃん。まぁ、目が死んでるのはお兄ちゃんだけだけどさ」

 

こいつ、意地でも親父の名前は出さない気だな。その内俺もいないもの扱いされるんだろうなぁ、本当辛いし親父には同情するしかいない。

 

「で、お兄ちゃん何かあったの?」

 

「....何で分かるんだ」

 

「いつもより目が腐ってるんだもん。話聞こうか?」

 

「あー、うん。別に大したことないぞ。雪ノ下と会っただけだ」

 

何が大したことないだ。たった二、三言会話して動揺を隠せていないし、小町には全てがお見通しってことか。兄の立場ないな、ホントに。

 

「あーなるほど、お兄ちゃん会ってなかったもんね」

 

「まぁな、お前は会ってたのか?」

 

「えぇとね、お兄ちゃん。小町の友達として付き合いは続いてるよ」

 

「そうか、仲良くしてもらってるか」

 

「うん、可愛がってもらってるよ」

 

「それなら、良かったよ」

 

俺は今自然に振る舞えているだろうか、気遣いのできる小町のことだから指摘はしてこないだろうが。

 

「お兄ちゃん、顔が気持ち悪いよ」

 

あれぇ、よくできた俺の妹はどこにいったんでしょう。もう少し何か言い方あると思うんだけど、でもそんな厳しい小町も可愛いんだよな。

 

「小町ちゃん、言葉遣いが乱暴すぎない?」

 

「いい加減お兄ちゃんもはっきりすればいいんだよ、三年だよ、三年。小町もう大学受験なんだよ」

 

「本当に立派になってなぁ、この調子で可愛さに磨きがかかると考えるだけでお兄ちゃん嬉しいよ。成人式の振り袖とか絶対似合うぞ、これは超ポイント高い」

 

「も、もう、そんな褒めたって誤魔化されないんだからね。待っててあげるから準備できたら話してね」

 

「えっと、小町ちゃん?つまり」

 

「決着付けて下さい」

 

「....マジ?」

 

「マジです」

 

いや、でもなぁ。三年も前の事を今さらになって行動するとか、ちょっとなぁ。

 

「ウダウダしない、とにかく待ってるからね。お休み」

 

「は、はい。お休みなさい」

 

やはり自分で答えを出した気になっていただけで周りは納得してはくれないらしい。

 

「どうしたもんかなぁ」

 

 

[newpage]

 

結論、休みを費やしても何も変わりませんでした。マジどうしよう。

 

『答え出すまで小町話聞かないからね』

 

マイスウィートエンジェルからの最後通告は堪えるものがあるな。そんな中でも仕事は始まってしまい、授業も慣れてくると生徒一人一人に目が向かいって、おい監督するための教員寝てんじゃねぇか、あとでマッ缶飲むしかねぇな。

 

「はい、それじゃあ授業の最後に質問あるやついますか?」

 

何だか派手目な女子グループがクスクス笑っている。何かやらかしたかな、授業はカリキュラム通りなんだけど。

 

「先生、駅前で超美人と話してるの見たって人がいるんですけど本当ですか?」

 

「.....人違いじゃないですかね、私には仲の良い女性なんていませんから」

 

「えぇー、でも先生ニヤニヤしながら美人さんと会話してましたよ」

 

「えっ、マジかよ、ってヤバ」

 

クラス全体がざわつき始め、流石の指導教員も目が覚めたからか俺を睨んできたが、俺のせいじゃないと身振り手振りで否定した。この状況を覆す言葉も出ずに悩んでいると、運よくチャイムが鳴ってくれたので助かった。

 

「はい、今日の授業はここまでです。次回もよろしくお願いします」

 

教室からはブーイングの嵐だったが一礼して廊下へと出ると、一人の女子生徒が声をかけてきた、真面目な子なので授業についての質問だと思ったが先程の話の続きだったらしい。

 

「比企谷先生、美人さんとはどんな関係何ですか」

 

「えぇと、そのー、あのーちょっとした知り合いですよ、知り合い」

 

それじゃあ、と一言断って彼女から離れるが周囲からの視線がヤバい。一実習生から話のタネになっている、こんな状況なので俺はかつてのベストプレイスへ避難していた。本当に全てのタイミングが悪い、小町のこともあるのに加えて雪ノ下ときた。家から出るとろくなことがないよな、もうヒッキーでいいいから働きたくねぇな。

 

「比企谷君」

 

「二階堂さん、よくここが分かりましたね」

 

「いや、今や話の中心じゃない。すごく目立ってるよ」

 

現実逃避していると同じ実習生の、二階堂七海から声をけられていた、どうやら俺に逃げ場はないらしい。

 

「比企谷君は知らないだろうけど、私総武の国際教養科で君と同級生なんだよ、この意味分かる?」

 

「いや、よく分からねぇな」

 

一度嫌な事を考えると現実に対しても嫌な出来事を引き寄せるらしい。

 

「つまり、奉仕部の雪ノ下雪乃さんと同じ部活だった比企谷君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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