「おい兄ちゃん。リンガ買うのか?買わないのか?」
「え・・?」
サンジの目の前に顔に刀傷の負った緑髪の男がいた。その男は手のひらにリンガを乗せてサンジに見せる。
「ここは・・・」
辺りを見回して気づく。
ここは先ほどサンジがリンガを買った店だ。そしてサテラと一緒に来た所でもある。
しかし不可解な事がある。それは、
「太陽・・・・?」
空を見上げて太陽を見た。眩しかったのかサンジは手で太陽から発せられる光から目を反射的に守る。
「どういうことだ・・さっきまで夜だったはずだぞ?それに・・・」
サンジは自身の腹部に手を当てて確認する。
「腹がある・・・さっき誰かに斬られたはずなのに・・・」
この世界に来たばかリの時のようにサンジは混乱し始める。
時は少し遡る
サンジとサテラは貧民街で会った青年に道を聞いてやっとフェルトがいると思われる盗品蔵にへと辿りついた。
「サテラちゃんはここで待っててくれ。俺一人で行ってくるから」
「うん・・・わかった。ねえサンジ」
「どうした?」
サテラは一瞬黙りそして、
「後で必ず謝るから」
「??」
そしてサンジは盗品蔵の扉を開けた。
「じゃまするぜ」
ギシギシと立て付けの悪い扉をゆっくり開けて中に入る。
蔵の中には電気などは無く何も見えない。そのためサンジが今手に持って付けているライターだけが唯一の灯りだった。
ーーー誰かいる。
サンジは覇気で蔵の中に誰かいるのを知り警戒しながら進む。
そしてライターの火が照らし見えたものは蔵の中に飾ってる鎧や剣。それが至る所に飾ってあるのをサンジは確認した。
「(これ全部盗んだものか?)」
そんな事を思いながら奥へと進む。そして何か踏んだ。
「ん?」
サンジは不快感を覚える。それは踏んだ感触が気持ち悪かったからだ。
説明するならば液体のようなもの。踏むとビチャビチャと音がして若干粘り気がある。
「(なんだ?)」
サンジはライターの火を足元に向けて自分が何を踏んだのか確認する。すると、
「(赤いな・・・これって・・・)」
そして気づく。この液体はサンジがいる所まで流れて来たのだと。そして流れて来た跡を辿りサンジはライターの火を前に向けた。
「なっ!!!」
声を上げて驚愕した。
「おいあんた!!大丈夫か!!」
そこにあった・・・いや、いたのは血だらけの老人だった。仲間の船大工ほどの大きさはありそうな老人が血達磨になってカウンター席のような所に寄りかかっている。
サンジは駆け寄りその老人のケガの具合を確認するが、
「ダメだ。死んでる・・・」
その老人はすでに息絶えて絶命していた。
「一体誰が、こんなことを・・・」
サンジは老人の死体を見下ろしながら怒りに似た感情を宿す。
「・・・・・」
その瞬間サンジは瞬時に体を180度回転させた。
「テメェだな!!」
サンジはそう言いながら全力の蹴りを老人を殺した犯人であろう人物にあてようとしたが、
「ふふっ」
ーーーー女!?
サンジが持つライターの火がそこにいた者の姿を照らした。
顔は見えなかったが露出の激しい服を着て胸があったことからサンジは一瞬にして相手の性別を見抜いた。
「(クソ!!)」
しかし何を思ったのかサンジは蹴りを大振りにしてワザと外した。
「あら。外しちゃったわね」
妖艶な声がサンジの耳に入る。
ーーーやっぱリ女か!
サンジが自分自身で決めている絶対のルール。
それは、
『死んでも女は蹴らない。』
女性が大好きという事もあるが、このルールを作るきっかけとなったのはサンジに料理の技術を教えた(正確にはサンジが技術を盗んだ)サンジの大恩人でありサンジの仮の父。
海上レストラン バラティエのオーナー赤足のゼフ。
サンジの精神哲学の基盤となったのが何を隠そうこの男だ。
幼き頃のサンジはそれほど女性に対しての暴力は否定的でなく寧ろ賛成派だったのだ。
しかしこの男から決して女性には手を上げてはいけないという事を学んだ。
『男は女を蹴っちゃならねェ!!そんな事は恐竜の時代から決まってんだ!!いいか!!人間としてならいくらでも間違え!!だが男の道を踏み外した時ァ・・・!てめェの金玉を切り落とし!!この俺も首を切る!!』
そして決定打となったのはこの言葉。
『それが親の落とし前ってもんだ!おれの嫌いな人間にゃなるなよ!」
この言葉がサンジにとってどれほど嬉しかったか。
そしてサンジはこの言葉をこの男に言われた時からこの異世界に来るまで守り通してきた。
それは敵に殺されかけても、仲間に嘘を付かれても、サンジは自身の親の言葉をずっと守り通してきた。
そしてそれはいつしか自身の信念へと変わっていた。
そしてそれはこの先も変わらない。
「今度は私ね」
「(マズい!!)」
攻撃を外して不安定な体勢となったサンジ。そのためサンジは目の前にいる女から距離を取ろうと地面に着けていたもう片方の足で踏ん張り後退しようとする。
それがいけなかった。
「うおッ!!」
サンジはさらに体勢を崩した。
「(しまった!!!)」
サンジの足元にはこの女に殺されたであろう老人の血が大量に流れていたのだ。
足に力を籠めて踏ん張った為サンジはそのまま背中から床に落ちようとした時に、
ザシュッ。
その生々しい音と同時にサンジは吹き飛ばされた。
「がああっ・・・・・・・・・・・・」
サンジは獣ような呻き声をあげて自身の腹に触れる。
「この俺が・・・・・・・・・・・ここで死ぬのか・・・・・・・・・・・・・・・」
腹がない。
これは比喩でもなんでもなく。自分の腹部がなくなっているのだ。
「!!!?」
そしてサンジは自分の目で見てしまった。
自身の腹から零れ落ちたであろう自身の血や臓物を。
「がっ・・・・・・・・・・・・ぐっ・・・・・・・・・・・・」
サンジは今まで感じた事のない痛みに耐えて声を出す。
「く・・・・・・・・るな・・・・・・・・ら・・・・・・・・・・」
扉の開く音が微かに聞こえた。
声を出そうにもサンジはすでに体中の血が体外に流れ出てしまい風前の灯という言葉が当てはまるような状態になっていた。
「サンジ?大丈夫?」
外に待機していたサテラが心配したのか盗品蔵の中に入って来た。
「だめ・・・・・・・・・・だ・・・・・・・・てら・・・・・・・・・」
意識もすでに亡くなりかけている男は最後の力を振り絞り入って来たサテラに言葉を飛ばす。しかしサンジのした行為は無意味だったと知った。
「!!!!!!!!」
ドサッ。そんな音が半死状態のサンジの耳に入った。
サンジの隣でサテラが死んでいた。きっと自分と同じで腹をやられたのだろうとサンジは直感した。
「(俺はこんなとこで死ぬのか。この世界が何なのか。この少女の事も知らずに。)」
拳に力を籠め後悔の念を浮かばせるサンジ
「(俺は約束したんだ。この子の願いを叶えるって。そして、)」
サンジは最後の力を振り絞り自身の願望を言葉にして現した。
「ルフィ・・・・・・・・俺は必ず・・・・・・戻るか・・・・・・ら・・・・・・・・な」
力を籠めていた拳はゆっくりと開かれサンジの呼吸と鼓動が止まる。
海賊麦わらの一味コック。懸賞金3億3000万ベリー。
ヴィンスモーク・サンジ。
通称 黒足のサンジ。
異世界にて命を落とす。
そして世界は逆行を始める。
やっぱり一番好きなのはサンジだな。