俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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第一章 津上保:ライジング
ヒーローは遅れてやってくる


────────誰かが言った、ヒーローは遅れてやってくる。

 

 ヒーローは何かが起きてから現れるんだから当然だ。それで全部助ける。そんな存在に憧れて俺もヒーロー養成の超名門校、雄英高校に志願した。

 そして今日は入学試験の日。そんな大事な日なのに、俺は今────

 

「脚は痛くないですか?」

「大丈夫だよ、ありがとう」

 

────足をくじいたお婆さんをおぶっていた!

 

 今日は大事な試験日だから何が起きても大丈夫なよう、夜明けとともに家を出たはずだったのだが……

 

「お婆さん、今何時かわかります?」

「今は11時23分だよ。本当に、大丈夫なのかい? 今日は入学試験なんだろう?」

「ええ、大丈夫です」

 

 既に昼前、大遅刻中だ。

 それもこれも、近所のゴミ捨て場がカラスに荒らされていたり、電車で痴漢騒動があったり、乗り換えに迷う外国人ファミリーがいたり、落とした財布を探してウロウロしてるサラリーマンがいたり、親とはぐれて泣いている子供が居たり、足をくじいたお婆さんがいたりしたからだ。

 しかしどうしても、見ていないふりは出来なかった。

 

「見ず知らずの婆さんを助けてくれるアンタはいいヒーローになるんだろうねえ」

「そうなれれば良いのですが」

「なれるとも、アンタはいい子だから」

 

 その言葉を聞けただけでも、お婆さんに手を差し伸べて良かったと思う。

 

 

*

 

 

 その後、お婆さんをかかりつけ医まで連れていき、受付に症状を伝えてお婆さんとは別れた。別れる時に受験頑張ってね、と言われたのに何と返せばいいか迷って、ありがとう、としか伝えられなかったのが少し心残りだ。

 雄英高校はここから駅を挟んだ反対側、走れば20分ほどで着くはずだと、走りやすいようにリュックの肩紐をしっかり締めなおし、靴紐をきっちり結んでから地面を蹴った。

 

 真っ昼間の街は車も人通りも少なく、思ったよりも走りやすい。雄英高校の近くだけあって治安が良く、地元のようなトラブルに巻き込まれずに済みそうだ、そう思ったときだった。

 

「あっくん! あっくん!」

 

 川に向かって叫んでいる子供が視界に入った。その子の視線の先、川の中でもがいている子供が居た。

 

「大丈夫か、今行くぞ!」

 

 助けないと、と思ったのとそう言ったのは全くの同時だった。近くの柵をよじ登り川に飛び降りると、思わぬ誤算が発生する。

 

「浅っ!?」

 

 水深は30cmもなく、膝下が濡れるくらいで、よく見れば子供は流されておらずその場で泣いているだけだった。ともあれ小さな子供が足を取られてもおかしくない深さであることは確かだし、落ちたのなら何処か怪我をしているかもしれない。そう思って下流からゆっくりと溺れている子供の方へ向かっていった。

 滑る川底に脚を取られ何度か躓いて、全身ずぶ濡れになりながら無事子供の元にたどり着いた。

 

「大丈夫かい? 何処か痛いところは?」

「うわああああん」

 

 ギャン泣きで言葉は通じないが、頭や脚に外傷は見当たらない。川から上げるために膝をついて子供と視線を合わせた。

 持ち上げるよ、と声をかけてから脇に手を入れて慎重に抱きかかえる。抱き寄せると、子供は首を締めんばかりの力で抱きついてきた。

 

「あっくん!」

「おがあざ~ん!!」

 

 川岸にこの子の親であろう女性が居て、手を伸ばしていた。恐らくさっき叫んでいた子が呼んでくれたのだろう。

 

「今連れて行きます!」

 

 暴れる子供に苦戦しながら慎重に川岸に向かって歩き、子供を女性に預けた。

 

 

*

 

 

「本当にありがとうございました」

「大きな怪我が無くて安心しました。君も気をつけるんだよ」

 

 その言葉に、子供は鼻をすすりながら頷いた。

 

「何かお礼をさせて下さい」

「いえ、人として当然のことをしただけですから」

「でも……そんなずぶ濡れでは」

 

 かれこれ10回以上何かお礼をさせて欲しいとお母さんは食い下がるが、それに応じる時間は俺には無い。

 

「用事が有って急いでるので、俺はこれで」

「では、連絡先だけでも!」

 

 連絡先と言っても携帯電話は持ってないし、家の電話は使えない。 住所を書こうにもノートもペンもずぶ濡れだろう。しかし、このまま好意を無下にするのも気が引ける。と考えていると名案が浮かんできた。

 

「でしたら、今日の試験に受かるよう祈ってください」

「試験? そんな大事な日なのに、引き留めてしまって、重ね重ねご迷惑を……」

「あ、いや、大丈夫です、正直、もう今更なんで……それでは失礼します!」

 

 強引に切り上げて駆け足で立ち去る。背中に今日約30回目の「ありがとう」を受け、足取りは随分と軽く感じた。

 しかし、時刻は13時を回っていて、もう午後の筆記が始まっているだろう。今から行っても受かるはずはなく、行っても行かなくても結果は変わらないと思う。仮に行ったところで門前払いを食らうかもしれない。

 

 それでも、行きたいと思った。 雄英高校をこの目で見て感じたい。そんな気持ちだけが脚を動かしていた。

 

 

*

 

 

《一週間後》

 

(士傑高校に傑物学園は出願したけど……勇学園もヒーロー科の後期試験があるんだな)

 

 学校で配られた募集要項に目を通す。雄英高校の試験から一週間、気持ちを切り替え他の高校のヒーロー科を物色している。

 雄英高校以外にも魅力溢れるところが多くて、何処にしようか迷っているのが現状だ。

 

 雄英高校の試験結果はどうなったって? 見なくても分かるさ。 筆記試験しか受けてないんだから。

 そんな分かりきった合否判定は送られてこないかもしれないけど、あの日ずぶ濡れのまま大遅刻で現れた俺に試験を受けさせてくれた雄英の懐の深さに感謝すらしている。

 何校かの募集要項から目を放して一息つくと、ふすまが勢いよく開き、叔母が姿を現した。その手には何やら封筒が握られいる。

 

「貴方宛、雄英高校から」

 

 無表情のままそれだけ言い、封筒を放り投げるとふすまを素早く閉め切った。

 

「受験生も多いんだから不合格通知なんて送らなくても良いと思うけど」

 

 そんなセリフを吐きながら、何処か期待している自分が居た。わずかに震える手で封を切る。すると中から小さな円盤状のものが机の上にするりと落ちた。

 そして、それは思いもよらなかった事を俺に伝えたのだった。

 

『んんんっ!私が投影された!』

 

 その機械から飛び出てきたのは誰もが認めるNo.1ヒーロー、平和の象徴オールマイト。

 オールマイトが発した言葉はどれも驚くべき内容だった。

 

『やあ、私はオールマイト、今年度から雄英高校で教鞭を執る事になったんだ。さて、時間も押してるから手短に伝えよう』

 

 

*

 

 

 ずぶ濡れで半日遅刻してきた受験生がいる。事情を聞いても、道に迷って川に落ちたの一点張りで、本人の希望で今は筆記試験に参加している。それを聞いた私を含むその場に居た皆が頭に疑問符を浮かべた。

 これだけの人数が居るのだから変わった受験生が紛れ込んでもおかしくない。採点やら審議に追われていた私達はそう考えて、すぐさまその変わった受験生を頭の端の方へ追いやった。

 

 それから数日かけて協議を重ね合格者を決めたところに一本の電話が届く。それは、雄英高校の受験生に命を救われた、という内容だった。

 脚をくじいているところを助けられ、その彼が主治医に伝えた症状は大病の前兆であり、それのおかげで早期発見につながった。とその女性は言っていたらしい。

 

 しかし、そういった電話はひとつだけではなかった。川に落ちた子供を救われた母親からも似たような連絡が有ったのだ、学校の近くで受験生に助けられたと。そこで繋がったのだ、ずぶ濡れの受験生と救われた人々の声が。

 その確信を以て、その受験生の母校へ問い合わせると、彼は日常的にそういった人助けで学校に遅れてくる事がある人物であることが分かった。

 

 そして、当日の彼の行動を調査してみれば、数多くの救われた人物がそこには居たのだ。

 自分の事情を顧みずに人助けをしてしまう。彼は正にヒーローだった。

 

 

*

 

 

『筆記試験は全くもって問題なし、実技試験で見ようとしていた項目も何一つ問題ないことが証明された』

 

『だが、既に合格者は決めてしまっている。その誰もが素晴らしい人材で失うのは非常に惜しい。だから、この素晴らしいヒーローの卵は諦めよう』

 

『……そんなことあってたまるかってね』

 

『雄英高校は君のような生徒を育成するためにあるんだ。さあ来てくれ、41人目の合格者、津上(つかみ) (たもつ)くん! ここが、君のヒーローアカデミアだ』

 

 いつもハッキリ輝くオールマイトが何故かぼやけて見えていた。

 

 改めて言おう、これは、俺が誰かのヒーローになる物語だ。




僕のヒーローアカデミアの二次創作小説です。
小説制作の勉強を兼ねて書いていますので至らぬ点が多々ありますが、お楽しみ頂ければ幸いです。
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