俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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オールマイト視点スタートです。


訓練終了!

「終ーーーーーーーーー了ーーーーーーーーーーー!」

 

 戦闘訓練第三試合、蛙吹少女と津上少年のHチームと常闇少年・峰田少年・八百万少女のCチームの対戦は時間をフルに使って行われた。その結果は――――

 

「ヴィランチーム、WIIIIIN!」

 

 先の2戦と大きく異なりかなりテクニカルな展開を見せた第三試合。豊富なトラップを駆使したヴィランチームが最後まで耐えきり見事勝利。

 うむ、見どころの多いこれまた面白い訓練だった。

 

「さあ、講評に移ろう、皆戻っておいで!」

 

 通信機の向こうの生徒たちに呼び掛け返答を待つと、蛙吹少女と峰田少年、常闇少年からはすぐに返答があった。

 残る2人がいる場所の映像を大きく表示し様子を伺う、イヤホンから聞こえるは今のところ咳の音だけ、催涙ガスと言っていたけど大事になっていませんように。

 

 徐々に煙が晴れ八百万少女の姿が微かに浮かび上がる。それに対面していたはずの津上少年の姿は見えない。

 煙から脱した様子はないのでそのまま観察を続けると、丸くなって床に伏せている津上少年が煙の中から現れた。この姿勢、煙を防いでいるのではないな。これはもしや――――

 

「「「「「『土下座!!?』」」」」」

 

 お手本みたいな土下座だ、だが一体どうして土下座なんてしたと言うのだ。

 

「津上少年、一体どうしたんだい?」

『ドザグジャ゙ニ゙マ゙ゲェ゙レ゙デヴェ゙ン゙ダイ゙ゴヴイ゙ニ゙オ゙ヨ゙ヴィ゙モ゙ヴジヷゲア゙リ゙マ゙ゼン゙』

「…………なんて?」

 

 うん、何を言ってるのかサッパリで、何が起きたのかもサッパリだ。

 

『事故ですので、どうかお気になさらないで!』

『デボォ゙ッ゙……!』

 

 事情を把握している八百万少女の言葉に反応して津上少年が顔を上げる。津上少年の目はストーブの上に置いたお餅くらいに腫れ上がっており、そこからおびただしい量の涙が流れ出ている。

 こっちのほうがよっぽどトラブルじゃないか!

 

『目が! 大丈夫ですか、津上さん』

『ダイ゙ジョ゙ヴブ』

『何か有ったの?』

『おい、どうしたんだよ八百万』

 

 通信機越しに異常を察した蛙吹少女や峰田少年がそう言った。彼女たちが廊下に出てしまったら残っている催涙ガスで二次被害が出てしまうだろう。それは避けねば!

 

「ガスが充満している、皆そこを動かないようね」

 

 それだけ伝えて返事を待たずにモニタールームを後にする。少し急げば20秒とかからない距離だ。

 

 そのままノンストップで建物の5階へ飛び、津上少年らの居る廊下に面した窓に向かい――――

 

「TEXAS SMASH!!」

 

 衝撃波による突風で建物内からガスを追い出して、ビルに突入した。

 そこには八百万少女と、膝をついている津上少年が先程見たままの姿で居た

 

「ハーッハッハッハッ、もう大丈夫、私が来た! からね!」

 

 驚きの表情を浮かべる少年少女。津上少年の腫れる目が私を捉えると驚愕から苦悶へと表情が変わっていく。

 催涙ガスを受けてさぞ辛いだろう、すぐにリカバリーガールのところへ連れていって上げなくては。滝のように流れる涙は私にそう思わせるのに十分だった。

 

「オ゙ールマ゙イト、俺、ゼグバラ゙で除籍デズガ」

「じょ、除籍?」

 

 津上少年の言葉も直接聞けば意味が理解出来る。しかしセクハラで除籍とは、煙の中で何かしらデリケートなアクシデントが起きたのだろう。

 ちらりと八百万少女へ目配せすると視線を泳がせて腕を胸元に添えていた。大体何が有ったか理解できたぞ。

 

「アクシデントさ、八百万少女もさっき気にしないでいいと言っていただろう。こう言うのは被害者さえ許せば問題にならないんだ。どうかな?」

「津上さんは転倒したわたくしを支えようとしてくれただけでしょうし、感謝こそすれ非難なんて致しません」

「ほら、ね?」

 

「ア゙リ゙ガドヴゴザイ゙マ゙ズ!!!」

 

 除籍を免れた感謝の慟哭と共に津上少年の涙が水溜まりが出来かねない勢いで流れる。もしかして相澤くんの合理的虚偽が尾を引いてるんじゃないかと少し心配になる。

 いや、そんな事より今は少年を保健室に運ばなくては。

 

「津上少年、リカバリーガールのところへ行っておいで」

 

 うずくまる津上少年を両手で横抱きにする。すみませんと泣きながら言う少年の顔は間近でみるとより痛々しい。

 このまま仰向けにしてたら自分の分泌液で溺死してしまいそうで、早くハンソーロボに預けリカバリーガールのところへ連れていってもらわないと。

 

「さあ、残る3人もモニタールームに戻って講評の時間だ!」

 

 

 

 

「お大事にね」

「ありがとうございました」

 

 リカバリーガールの手当を終え、保健室を後にする。

 目や鼻、喉の粘膜をこれでもかと洗われ、あっという間に手当は終了した。少し経てば腫れも収まり、未だ若干のかゆみは残るものの隣で横になっていた緑谷くんに比べればなんてことない状態だ。

 

「はあ、勝てなかった……」

 

 今回の訓練を振り返ると、反省点が幾つも出てくる。

 穴を開けたりトラップを無効化したり、それなりには働けていたと思うが、それもこれも蛙吹さんの助言のお陰だ。

 それに道中のトラップも蛙吹さんと同じような動きができればもっと迅速に突破可能だったし、最後の通信を阻止出来ていれば蛙吹さんは奇襲に成功していただろう。

 

 自分の個性のコントロールが全然なっていない。少し調子が悪くなっただけで解放のコントロールが出来なくなったし、キープしながらリリースとか、右と左で別々の動作が出来てない。などなど課題は山積みだ。

 

 そんなこんな考えながら教室の前へ行くと、中が何やら騒がしい。誰が残っているのだろうと扉に手を伸ばしたその時、扉が勢いよく開いた。

 

「爆豪くん!今帰りか」

 

 扉の向こうにいた爆豪くんに声をかけたが反応はなく、こちらを一瞥して足早に教室を去っていった。

 何か思いつめているようで少し心配だ。

 

「お、津上。もう大丈夫なのか?」

「すっかり元通りさ、心配ありがとう、切島」

 

 爆豪くんを目で追っていた俺は、クラスの中からの切島の呼びかけで振り向いた。

 

「皆で反省会やってんだけど津上もどうだ?」

「ありがたい、俺も少し考えてたんだ。参加させてもらうよ」

 

 切島の手招きにしたがって教室に入る。未だ痒む目をまばたきを繰り返して誤魔化しながら、教室内を流し見る。どうやらほとんどのクラスメートが残っており、幾つかのグループに分かれて話していた。

 大体が訓練の組み合わせらしく、峰田くん常闇くん蛙吹さん八百万さんが固まっている。

 

 蛙吹さんと八百万さんとは顔を合わせ辛い。俺のせいで負けてしまった蛙吹さんは勿論、事故とは言え胸を触ってしまった八百万さんとは一体どう接すればいいのだろうか。

 どう声を掛けたものかと悩んでいたら、こちらに気付いたのか蛙吹さんがグループを離れて歩み寄ってきた。

 

「あら、津上ちゃん。 もう大丈夫なの?」

「あ、ああ! 心配ありがとう、蛙吹さん」

「良かったわ。それと、私のことは梅雨ちゃんと呼んで」

 

 梅雨ちゃん、下の名前でしかもちゃん付け。そんな親しげな呼び方をした人はかつて居ただろうか。少し抵抗があるが、本人がそう呼ばれる事を望んでいるのだから無下にはできない。

 

「分かった、これからは梅雨ちゃんと呼ぶよ」

「嬉しいわ」

 

 蛙す……梅雨ちゃんの朗らか笑顔に、先の訓練での申し訳なさが沸き上がってくる。

 

「さっきの訓練、俺がしっかりしてれば勝てたのに、本当に申し訳ない」

「それを言うのは私の方よ、何度も助けて貰ったもの。ありがとう、とっても助かったわ」

 

 「さ、行きましょう」と続けて梅雨ちゃんはさっきまで居たグループへ戻っていく、せめて有意義な反省会にしようと決意を持ってその輪に加わる。

 峰田くん常闇くんと簡単に挨拶を交わして、最後に曇った表情の八百万さんと目が合った。

 

「津上さん、その……お体の方は……」

「大丈夫。うん、大丈夫。……心配かけて申し訳ない」

 

 ぎこちない八百万さんの言葉にぎこちなく返す。訓練の場、オールマイトの前では許すように言っていたが、やはり俺に胸を触られたのは不快だったんだろう。

 今でも鮮明に覚えている、八百万さんの胸の感触を……ああ、こんな事を思い出すなんてやっぱり俺は裁かれるべき変態なんだろう。

 

「八百万さん、あの時は――――

「そうだ、オイラそれを聞きたくて残ったんだよ……全て吐いてもらうぜ、感触から臭いから何から何まで!」

 

 俺の言葉を遮って峰田くんは全て知っているようだ。俺の罪を白日の下に晒し然るべき罰を与える為にこの場に残った、悪を見逃せない彼は紛れもなくヒーロー志望なのだろう。

 常闇くんも俺の考えすら見通しているような鋭い視線を向けている。

 

「先程お話しした通り、津上さんの攻撃が私の顔に当たってしまった事に対するお詫びですわ」

「一方の証言じゃあ真実は見えてこないだろ? ほら、津上教えてくれよ、何がどうなってたのか」

 

 八百万さんが吐いた嘘を看破した峰田くんの追及の矛先は俺に向けられた。素晴らしい洞察力だ。

 観念し真実を明かそうとした俺は別の言葉に遮られる事になる。

 

「峰田ちゃん、最低よ」

「蛙吹の言うとおりだ、止さないか峰田」

「うるせー! 常闇、お前だって興味津々で津上の事見てたくせに!」

 

 何故かは分からないが梅雨ちゃんと常闇くんは真実を話すことに否定的だ。そもそも八百万さんが嘘を吐いた理由は一体何だったのだろうか。

 

「そこまで言うのでしたら、お聞きしましょう。津上さん、土下座していたのはわたくしへの直接攻撃に対する謝罪という事で間違いありませんね?」

 

 八百万さんの強い眼差しは俺に肯定しろと強く念押ししている。

 そうだ、俺が変態行為を告白すればそれは八百万さんが辱しめを受けた事の証明になる。それは避けねばならない。

 

「八百万さんの言うとおり、あの謝罪は個性のコントロールが乱れて顔に向けて攻撃したことに対してやったんだ。決して胸を触ってしまったからじゃ――――

「おまえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 慟哭、いや、咆哮だろうか、峰田くんの強烈な叫びは耳をつんざき教室中に響き渡った。その声でクラスメイトの視線は一気に俺たちに集中する。

 当の峰田くんは血の涙を流しながら手をワナワナさせている。一体何がそうさせるのか。

 

「津上ちゃん、嘘が下手ね」

「全くだ」

 

 蛙吹さんと常闇くんが呆れたような口調で言った。嘘であることが露呈した、つまり八百万さんが俺の手で汚された事が白日の下に晒されたということだ。

 なんとか八百万さんの名誉を守らなければと思考を張り巡らせるが、俺の言葉を待たず八百万さんが口を開く。

 

「体勢を崩した私を支えてくださった、それが事実ですわ。 津上さんには貴方のような下心はございません」

「何を言うかと思いきや、男は誰もが下心を持ってるんだよ! そうだろ津上ィ!」

「あ、ああ……」

 

 紛れもない事実だ。現に俺は八百万さんの胸を意識してしまっている。

 

「津上、ことここに於いて誠実さは無用ではないか?」

「だが、事実なんだ、今も八百万さんを見るとどうしても意識してしまう。……本当にすまない」

「ほら! こいつがよくてオイラはダメ、それは差別じゃないのか?」

「甚だしい詭弁だな」

「峰田ちゃん、最低ね」

 

 常闇くんはどうやら俺をかばってくれるようだ、そんな事をしては常闇くんの立場も危うくなってしまう。

 

「うーん、私は、峰田ちゃんはともかく津上ちゃんならそういう事されても気にしないわね」

「「「!?!?!?!?!?」」」

 

 What's the fXXk!? 梅雨ちゃん今とんでもないことを言わなかったか?

 

「変な意味じゃないわ、そうなったとき津上ちゃんなら心からお詫びをしてくれるもの。今みたいに」

「そうですわ。津上さんの誠意を感じたからこそ私も気にしないと言ってるんです。峰田さんが表面上同じ事をしても無駄ですわ」

「人徳の差だ。諦めろ峰田」

「チクショオオオオオオオオッ!」

 

 人徳の差、誠意を感じた。梅雨ちゃんも八百万さんも常闇くんもそういう。少し誇らしくて、少し申し訳ない。

 どんな表情をしていいか分からず、いつものように笑顔を作ってありがとう。と小さく言った。

 

「さあ、かなり脱線いたしましたが反省会に戻りましょう」

 

 手を叩いて八百万さんが場の空気を変える。そうだ、反省会をするためにここに残ったのだった。

 

 

 

 

 そのまま今回の訓練の流れとそれぞれの作戦について話を進めていく。

 俺以外の4人は訓練の直後モニタールームで映像を見ており、前半はほとんど俺に対しての説明の時間となり、手間をとらせてしまって申し訳ないと度々謝ることになった。

 

 

 その後、グループを崩した雑談のような状態に移行し多くのクラスメイトと言葉を交わした。

 

 その中で度々話題となったのが俺の個性についてだ。

 

 だいたいの内容は「便利そう」とか「汎用性が高い」とか「どんなものがキープできるか」で、この個性が好意的に捉えられていて戸惑ってしまった。

 中でも壁抜きに興味を持つ人が多く、目の前の飯田くんと麗日さんを含め何度も説明する事になった。

 

「抜くのだったら出来るけど戻せないから、今は見せられないんだ、ごめん」

「謝る事はない、備品を壊すのはルール違反だからな」

「だったらさ、八百万さんに適当な板を作ってもらってやるのはどうだろ?」

 

 その麗日さんの提案に一緒に居た飯田くんも名案だと同意して、すぐさま八百万さんのところへ行って板を創造してくれるよう依頼をしてくれた。

 

「話は伺いました。わたくしも拝見したかったので喜んで創造致しますわ。板の大きさは20センチ四方、厚さは5ミリ、材質は塩化ビニルでよろしいでしょうか?」

「手のひらより大きければ、後はお任せで」

「かしこまりました」

 

 そう言って八百万さんは袖を捲り、腕から板を創造してこちらに差し出した。

 

「ありがとう」

 

 板を受け取ってその中央に右手を添える。そのまま手に力を込めて行くと僅かな抵抗が有った後するりと右手が板を貫いた。

 手の形通りに抜けた穴が円形になるように縁を指先でなぞり削っていく。それを終えて、円形にくり抜かれた四角い板とくり抜いた円盤をそれぞれ眼前に掲げた。

 

「なるほどー、面白いね」

「これなら閉所に閉じ込められた人も簡単に救出できるな」

「思っていたよりもゆっくりなんですね」

 

 くり抜かれた板をまじまじと見ながら3人が感想を思い思いに口にしている。

 

 

「まだ残ってたのかお前ら。もう最終下校時刻だ、さっさと帰れ」

 

 背後からした声に振り向くとそこには相澤先生が立っていた。どうやらかなり話し込んでしまったようだ。

 相澤先生の指導にのっとり飯田くんが皆に帰るよう促す、飯田くんは率先して皆に声を掛けられる素晴らしい人だ。

 

 みんなと一緒に荷物をまとめ、教室を後にしようとしたとき相澤先生に引き留められた。

 

「津上、明日は7時44分だ。忘れるなよ」

 

 相澤先生が短く言ったそれが家に寄ってくれる時間だと少ししてから理解して、強く返事をした。

 

 その後、昨日と同じようにクラスメイトと一緒に下校をする。色々有ったけど、楽しい一日だった。




第二章、これにておしまいです。

津上のトラウマからくる個性使用に対する抵抗感、図らずもそれを薄めたのは初めての訓練でパートナーとなった蛙吹梅雨ちゃん。
ちょっとアレでもやっぱり思春期の津上くんは八百万さんへのラッキースケベを忘れられない。そのことで峰田くんは敵対心をもったり持たなかったり。
常闇くんいいとこなくてごめんね。

次回、委員長決め。
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