俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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レッツ投票

「ホームルームの本題だ。急で悪いが今日は君たちに」

 

 いつもどおり時間ピッタリに現れた相澤先生は昨日の訓練について軽く触れてからそう口にする。

 また臨時のテストかと身構え、クラスの皆も固唾をのんで続く言葉を待った。

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

 相澤先生の口から出たのはこの上なく普通の学校っぽい内容だった。

 

 学級委員長、書類上クラスのリーダーとなるその役職は往々にして面倒事を引き受ける誰もやりたがらない役職だ。

 中学時代に何度か推薦されたことがあるが、あまりにも人望が無い俺は結局学級委員長になることは無かった。

 

 求められるのは最低限の人望、今なら、俺のことを皆が知らない今なら特に問題なく決まるだろう。

 面倒事を引き受ける、そんなつもりで立候補しようと思ったが、すこし迷った俺よりも先に切島を筆頭に活発なクラスメイト達が一斉に手を上げた。

 

 予想外の事態に少し驚いたが、ここはヒーロー科。面倒事や皆が嫌がる事を率先してやれる、そんな素晴らしい人たちばかりなのだから当然だとすぐに理解した。

 ならばこそそんな人達にやらせる訳にはいかないと周りを説得しようと思った矢先、飯田くんの声がクラス中に響いた。

 

「静粛にしたまえ!多を牽引する責任重大な仕事だぞ!やりたい者がやれるモノではないだろ。周囲の信頼あってこそ務まる聖務!民主主義にのっとり真のリーダーをみんなで決めるというのなら」

 

 俺の認識は間違っていた事を痛感させられる。中学の頃とは違って、学級委員長は名実ともにクラスのリーダー、面倒事を押し付けるような人間の居ないここでは本来の意味の学級委員長ということになる。

 であれば俺は立候補するべきではない。俺以外の誰がなっても差し支えないと思いながら、それを気付かせてくれた言葉の主を見る。

 

「これは投票で決めるべき議案!!」

 

 誰よりも真っ直ぐに伸びる手は学級委員長への意欲を表していて、そんな彼がこれまで見せた投票を提案する公平さや思慮深さに訓練でも率先して疑問をぶつけていた姿を思い出し、飯田くんこそ学級委員長に相応しいと俺は思った。

 

「そんなん皆自分にいれらぁ!」

「だからこそここで複数票を獲った者こそが、真にふさわしい人間という事にならないか!?」

 

 なるほど、この短期間で信頼を勝ち取った人間なら間違いない。きっと多くの人が飯田くんに入れるはずだ。

 

「どうでしょうか? 先生」

「時間内に決めりゃなんでもいいよ」

「ありがとうございます」

 

 きっと先生も結果が見えているのだろう。寝袋に入って仮眠する気満々のようだ。

 

 

 ほどなくして全員が投票を終え、すぐに開票し集計する。勿論それを行ったのは飯田くんだ。その結果……

 

「僕、3票!?」

 

 驚きの声を上げた緑谷くんが得票数3で1位となった。2位は、2票獲得した八百万さん。俺と同じく何人かはこの結果に驚いているようだ。

 飯田くんの獲得票数は俺が入れた1票のみで、俺以外の誰も彼に投票しなかったらしい。しかしそれ以上にあることが気になった。

 

「……俺に、票が入ってる?」

 

 そう、誰かが俺に間違えて投票しているのだ。

 書き間違いか、或いは集計ミスか、たった1票とはいえこの1票があれば結果は大きく変わってくる。

 

「投票のやり直しを要求する!」

「やり直し? なんかミスったのか、津上」

「切島、いや、俺じゃないんだが……誰かの書き間違いか、集計ミスかは分からない、だが票が誤って俺なんかに入ってしまっている。こんな事はあり得ない!」

 

「「「自己評価ひっく…!!」」」

 

 俺のやり直し要求に対するクラスメイトの反応はいかにも困ったかのようなものだった。

 俺に入った1票で全員に手間をかけるのは確かに面倒かもしれないが、今後を左右する大切な役職だ、ミスは無くしたい。

 

「いいかしら」

 

 しなやかな指が伸びた大きな手を上げながらそう言ったのは、蛙吹梅雨ちゃんだ。彼女とは昨日の訓練でペアになり少しだけ縁がある。

 俺に向いていたクラス中の視線はそのまま梅雨ちゃんに移り、次の言葉を待った。

 

「津上ちゃんに投票したのは私、決して間違えた訳じゃないからやり直ししても時間の無駄よ」

「それは……本当に?」

 

 驚く俺の目を見て梅雨ちゃんは強く頷いた。間違いでない、という事は彼女は俺が学級委員長に相応しいと思ったということだ。

 誇らしく思うが、彼女は俺の事を誤解してる。俺にリーダーなんて不相応だ。

 

 雑務ならこなす自信はある、けれど皆を導くことは俺には無理だ。投票してくれた梅雨ちゃんには申し訳ないが、つまり今のこの結果が最良なのだと思う。

 

「それじゃ。学級委員長は緑谷、副委員長は八百万だ」

 

 相澤先生の宣言にパラパラと拍手が上がる。気合十分そうな緑谷くんとクールに立つ八百万さんの姿を見て、2人なら学級委員の仕事をつつがなく全うできるだろうという確信を持った。

 ホームルームの終了を告げて相澤先生が教室を後にする。1限目の授業の準備をしながら隣の席の緑谷くんをみやると、彼はみなぎるやる気に全身を小さく震えさせている。

 

「委員長就任おめでとう、もし困ったことが有ったらすぐに手伝うから何でも言ってくれ」

「う、うん。ありがとう津上くん」

 

 その時の緑谷くんの表情は、少し強張っていた。

 

 

 

 

 午前中の授業も終わり、昼休み、昼食の時間だ。

 昨日と同じくグラウンドで風を感じながら昼食を取ろうと外に出てきた訳だが、校門の向こうにマスコミ達が朝に見た時よりも大人数で騒いでいるのが見え、少し身構えてしまった。

 

 マスコミの目当てはオールマイトだと言っていたが、クラスメイトの中にはインタビューと称してあれこれ質問され、かなりの時間拘束された人も居るらしく、無意識で足は校門から遠のいていった。

 

 グラウンドに行くとサッカーをしている生徒の一団が既に縦横無尽に駆け回っており、砂埃を避けて端の方に腰掛けた。

 

 サッカーとは言ったが個性を用いた立体的なアマチュアのものでもかなりの見応えがある。

 3分ぐらいボールが地面に着かない空中戦が繰り広げられたと思ったらドリブルしながら地面に埋まっていく地中戦が始まり、キーパー同士のスナイピングシュート合戦、見てて飽きない内容だ。

 

 そんな個性を活かしたスポーツを眺めて居た俺はふと、膝の上で広げたおにぎりに目を向ける。うめ、おかか、ふりかけの入った外見のほとんど変わらないそれらは、今朝相澤先生に言い渡された個性の訓練にちょうど良いように見えた。

 集中してイメージする。どれがどれかは作った自分さえ見ただけでは分からないが、それでもなんとなく梅っぽい感覚がするおにぎりをイメージして右手を開く。

 

 一口食べる。ベタッとする米の中に確かな酸味を感じる。食べたところを見れば中から梅干しが顔を見せていた。

 

「意外に、出来るもんだな」

 

 そう思って次はおかかっぽいイメージのおにぎりを取り出す。一口食べて感じるのは焼き肉風味。残念ながらこれはふりかけだ。

 

「運が良かっただけか」

 

 残った3つ目は特にイメージをせずに取り出す。今キープしてるのはこれだけで、間違えるはずはないからイメージは省略しても問題ない。

 かじった中からは勿論おかかが姿を現した。

 

(食べ終えてから次のを出せば良かったな)

 

 手に持った食べかけの3つのおにぎりを見てそう思った。

 

 

――――ビィィィィ!

 突如校門の方から鳴った警報に驚いて振り向いて目を凝らす。さっきまでマスコミの集団が集まっていた校門が重々しいシャッターで封鎖されているのが見えた。

 そう言えば、ホームルームで相澤先生が軽く触れていた気がする。厳重な警備があり部外者が侵入することはまず無いと言っていた。きっとあのシャッターは警備の一部なのだろう。

 

 一安心して視線を元に戻すとおにぎりが手元から消えていることに気がつく。地面に落ちて砂まみれなったおにぎり3つを見て、やっぱりマスコミは嫌いだと一人勝手に責任転嫁した。

 

 

 

 午後の授業も受けるなら腹ごしらえは必須だ。砂まみれのおにぎりをゴミ箱に捨てながら、食堂の位置を記憶から掘り起こす。

 雄英の学食は内外問わず、安い美味い早いと高い評価を受けているとパンフレットか何かで読んだ気がする。

 

 食堂はさっきまで居た場所から直ぐ側にあり、迷う時間すらなく食堂に到着した。

 食堂内は人でごった返しており、その雰囲気に少したじろぎ、特に意味もなく遠回りを選んでしまった。

 

「あっ、津上くん」

 

 不意に掛けられた声の元へ振り返ると、緑谷くんが飯田くん・麗日さんと同席して食事をしていた。

 

「あれ、さっきグラウンドでおにぎり食べてなかった?」

「そうだけど、麗日さんはどうしてそれを?」

「並んでる途中でちらっと見えて、なんかいいなあって思って」

「雄英は緑が多いから風が気持ちいいんだ。砂埃がちょっと気になるけどね」

 

 むしろそれさえ無ければ今の季節は食事するのにこの上ないロケーションだと思えるくらいだ。

 

「二食目かい? あまり食べ過ぎると却って辛くなるぞ」

「恥ずかしながら、持ってきた弁当ひっくり返しちゃってさ」

「あちゃー、そりゃ災難だ」

 

 すこし大袈裟な麗日さんの身振りは同級生なのに何処か小動物的可愛らしさを感じる。話のついでにおすすめのメニューを聞いてみた。

 

「おすすめって言われてもまだ2回目だからなぁ、あっ本日のおすすめメニューで良いんじゃないかな」

「俺と緑谷くんも昨日今日と同じメニューしか食べていないから公平な判断は出来ないぞ、津上くんの好みも知らないからな」

「あ、でもランチラッシュなら何でも美味しいんだ! アレルギーとか有れば対応してくれるから、何でもおすすめだよ」

 

 幾つかの助言に納得しながら耳を傾けていると、紆余曲折を経て3人がある結論に到達した。

 

「「「白米!」」」

 

 そう、白米に落ち着くらしいのだ、最終的に。

 

「ありがとう、参考にさせてもらうよ」

 

 礼を伝え3人の元を離れると、真っ直ぐ軽食コーナーへと移動する。そこはおにぎりやサンドイッチ、手軽に食べられ持ち帰りも可能な食品を取り扱っているコーナーだ。

 ピークをわずかに過ぎたのと、食べ盛りの雄英生には物足りない為か誰も並んでいないその窓口の前に立ちメニューをちらりと確認する。

 メニューの豊富さにまず驚き、次に値段に驚いた。安いどころの騒ぎではない、もはや慈善事業といえるレベルの値段だ。昼をここでちゃんと食べ夕食を軽く済ませば、食費に関してはトントン、いやむしろ安上がりになるだろう。

 

 そして、メニュー全体を目を皿のようにして見て目的のものを見つける。白米、それを究極に味わう方法それは……

 

「塩むすび、塩抜きでお願いします!」

「えっ!?」

 

 俺のオーダーに対応していた係の人は勿論、隣で並んでいた生徒の皆が驚いた表情を浮かべた。その直後キッチン内が慌ただしく動き始めた。

 頼んだ俺自身も、塩抜き塩むすびはチーズ抜きチーズバーガーに匹敵する矛盾だと思うが、そこまで驚かれると何かとんでもないことをしたのでは無いかと不安になる。

 

「君、見ない顔だけど、1年生かな?」

「は、はい。ヒーロー科1年A組です」

「ヒーロー科か、いやぁ、2日目にしてここの至高の一品にたどり着くとはやるね」

 

 声を掛けてきたのは横に居たつぶらな瞳が特徴の上級生らしき男子生徒。肩の科章からするとこの人もヒーロー科なのだろう。

 

「塩むすび塩抜きに自力でたどり着いた生徒は大成するって噂は知ってるかな」

「いえ、聞いたことありません」

「そりゃそうだね、俺が勝手に言ってるんだから」

 

 あっけらかんとしたその人はHAHAHAと笑いながらトレーを持って嵐のように去っていった。

 何がしたかったのかイマイチ分からないが、とてもユーモラスな先輩だった。

 

「おまたせ。塩むすび、塩抜き。これを作ったのは久しぶりだよ、ぜひともひと粒ひと粒噛み締めておくれ」

「ありがとうございます」

 

 ガスマスクのような物を着けたコックさんが差し出した塩むすびを、代金と引き換えに受け取った。

 

 しっかりとした重みのある白米の塊は煌々と艶めき、芳しい炊きたての香りを昇らせている。

 ゴクリといつの間にかに分泌されていた唾液を飲み込む、食欲はこの上なくそそられるが美しい黄金比率で立つそのバランスを崩すのには強い抵抗を覚える。

 

「何処か座れる場所は……」

 

 これはぜひともしっかり腰を据えて食べたいと思い、空いている席を探して辺りを見回す。ぐるりと一周食堂内を見回すと偶然飯田くんと目が合った。

 俺が席を探しているのを察したのか飯田くんがキビキビとした動きで一際大きく手招きした。飯田くんの元へ行くと緑谷くんが詰めて通路側の席をひとつ開けて待っていてくれた。

 

「ありがとう、助かったよ」

「当然の事をしただけさ」

 

 飯田くんの気遣いに心から感謝する。これでこの握り飯を熱々のまま食べられそうだ。

 

「津上くん、おにぎりにしたん? 中身は?」

「塩むすび塩抜きだ、これが最も白米の味を感じられると思ったからね」

「塩抜き塩むすびは、塩むすびと言うのか?」

「そうか、盲点だった……そうかランチラッシュが最も多く提供しているのは間違いなく白米……文字通り超人的な経験が裏打ちするその味におかずは必要ない……いや、むしろご飯がおかず……米をおかずに米を食う、ファットガムもそう言っていたし……」ブツブツ

 

 恐ろしいまでの集中力で分析を開始した緑谷くんを横目に塩むすびを一口頬張る。

 

――――俺が今まで食べていたのは粒状のデンプンだ。俺は今日初めて本物の米を知った。

 

 それが、真の米を知らなかった津上保が最期に遺した言葉だった。




ユーモラスな先輩、また何処かで登場しそうです。
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