俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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お待たせしました。USJ襲撃事件編です。
痛々しい描写が予定されています。ご承知の上でお読みください。


第四章 嘘の災害や事故
襲撃、敵連合


────今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもうひとりの3人体制で見ることになった。災害水難なんでもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ。

 

 マスコミ侵入騒動から数日経ち、すっかり日常を取り戻した雄英高校ヒーロー科では当たり前のように唐突にビッグイベントが始まる。

 

 現場となる訓練場は遠くに有り、そこまではバスでの移動だ。先生の指示に従ってコスチュームを身に着けた俺たちA組は委員長である飯田の指示に従いテキパキとバスへ乗り込んだ。

 

 

 バスに揺られながら自然体の左手へ意識を向ける。握ると開くの丁度中間、手全体が最もリラックスした状態で個性を発動する。指や手のひらに力を加えず、空気をイメージすることで触れている空気をキープしていく。

 キープした分気圧が下がり、そこへ周りの空気が集まる。集まった空気をキープすると更に空気が集まっていく。

 

 先日の食堂での恐慌状態、俺の個性はほぼ役に立たなかった。それが少し悔しくてあのような状況で冷静さを失った人たちを傷つけることなく沈静化させられる、そんな方法を模索したどり着いたのが低酸素状態にして一度気絶させるというものだ。

 その手段として使うのが今やっている継続的に周囲の空気をキープする技だ。空気に限らず水などの流体なら同じようにして手を動かさずにキープでき、これまでより遥かに効率よく空気とかは集められるようになった。

 

 俺の個性はキープした物の重さが体にかかるため一度にキープ出来る量には限界がある、だがそれは逆に空気のような非常に軽いものならばかなりの量をキープ出来るという事だ。

 体積の上限は正確には分からないが、今乗っているバスの車内くらいであれば全然余裕で、1-Aの教室くらいなら全ての空気をキープすることが出来る。

 キープした空気をもう片手で放出して吸えば俺はその影響を最小限に出来る。俺にしては中々いいアイディアだと思う。

 

 だが、現実はそう甘くない。この方法は当然屋外では使えないし、屋内でも完全に密閉された部屋でなければ効果はかなり低くなる。それに加え即効性に欠け、気絶させた人が転倒して怪我をする恐れもあり、著しい低酸素状態は一歩間違えれば脳に深刻なダメージを与えてしまう等、様々な危険もある。

 なので使うとしてもヴィラン相手に最低限の使用で留めるべきで、もっと有効な手立てを考える必要がある。

 

 数日かけてヴィラン相手に限定的に使える鎮圧方法を考えた訳だが、そんなことよりも今日のレスキュー訓練に向けて応急処置の方法を復習しておいた方が良かったと今は後悔している。

 

「津上、ずっと手見てるけど……どうしたの?」

「いや、なんでもない、尾白くん。ちょっとイメージトレーニングをしててさ」

 

 隣に座っていた尾白くんに声をかけられキープを中断した。

 鎮圧方法と並行してやっていたのが、相澤先生に言われたイメージトレーニング。これが驚くほど効果抜群で、取り出し(リリース)のスピードは勿論のこと、しっかりとしたイメージを持って行うとキープのスピードも向上したのだ。相澤先生は俺以上に俺の個性を把握しているようで、本当に尊敬する。

 

「レスキュー訓練で何やるか、俺あまりイメージが湧かないんだ。津上はどんなイメトレをしてたの?」

「あっいや、イメトレは俺の個性に関しての事で……相澤先生は何でもござれと言っていたから、色々な災害現場での救助活動の演習になるんじゃないかな、溺れている人の救助とか瓦礫の下敷きになった人を助け出すとか……」

「なるほど。それなら俺の個性で色々出来そうだ」

 

 尾白くんの個性はその見た目通りの尻尾だ。彼の強靭な尻尾から繰り出される打撃は単純故に強力で、尻尾を活用した三次元的な敏捷性は梅雨ちゃんと並んでクラスの中でトップクラスだ。その2つが相まって屋内での格闘戦ならA組の中で最強候補だと俺は思う。

 人を軽々持ち上げられる尻尾が生えているというのは、戦闘だけでなくレスキューの現場においてもかなりのアドバンテージだろう。

 

「少しなんて、怪我人を運んだり、出来ることは沢山有ると思う。こんな俺の個性にも出来ることが結構有るんだし」

「津上の個性、俺は凄く便利だと思うけど……この前の戦闘訓練みたく色んな使い方が出来るだろ?」

 

 尾白くんの大げさな言葉につい得意気になりかけて、そんなことはないと口にする。この前の戦闘訓練後の反省会でちやほやされてから有頂天になっているみたいだ。

 

「まあ派手で強ぇっつったらやっぱ轟と爆豪だな」

 

 話が少し落ち着いた瞬間、前の方で話していた切島の声が耳に入る。

 切島の言葉の通り轟くんと爆豪くんの個性は誰がどう見ても強い。その上、威力や範囲の緻密なコントロールも身に着けており、俺では万に一つも敵わないだろう。

 爆豪くんと轟くんの2人とは未だ多くの言葉を交わせていないが、少なくとも爆豪くんは情に厚い男であるし、ヒーローになったらきっと人気者になるだろう。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう」

「んだとコラ!出すわ!」

 

 反応した爆豪くんを指差し「ほら」と言う、梅雨ちゃんは俺とは見解が違うらしい。

 

「この付き合いの浅さで既に“クソを下水で煮込んだような性格”と認識されてるってスゲーよ」

「テメェのボキャブラリーはなんだこら!殺すぞ!」

 

 どうやら上鳴くんも俺と見解が違うらしい、見方は人それぞれだが“クソを下水で煮込んだ”というは、いくら何でも言葉が過ぎると感じた。

 

――――爆豪くんは公正で情に厚い男だと、俺は思う。

 

 そう口にしようと思ったが、爆豪くんとは入学初日に話して以来言葉を交わせていないため口を噤んだ。彼の幼馴染である緑谷くんの助言通りにこちらから爆豪くんには普通に接しているが、彼は自身の放った「話しかけてくるな」という言葉を重んじているのか、俺に言葉を返すことをしない。

 彼はきっと何かしらの手続きを経てこの件を終わらせようと考えているのだ、そんな礼儀を重んじる爆豪くんの性格が汚れきっているとは決して思えない。

 

 以前緑谷くんが言っていたように、そもそも爆豪くんは上鳴くんの言葉をさほど気にしていないのかもしれない。

 

「もう着くぞ、いい加減にしておけ」

 

 相澤の号令が飛ぶと、車内のざわめきも水を打ったように治まった。その後程なくしてバスが停車する。窓の外に目をやると、木々の向こうに巨大なドーム状の今回の訓練場らしき建物が見えた。

 

「尾白くん、頑張ろう」

「あっ……うん!」

 

 飯田くんの先導で俺たちはバスを降りて訓練場へと向かった。

 

 

 

 

 

「皆さん待ってましたよ」

 

 建物へ入ると、宇宙服のようなコスチュームを身に着けた教師、スペースヒーロー・13号先生が出迎えてくれた。

 この訓練場、水難事故、土砂災害、火災、防風などなどあらゆる事故や災害を想定して作られたのだそうだ、その名もU(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)。正式名称、USJだ。

 

「始める前にお小言を1つ2つ3つ4つ……」

 

 こちらに聞こえない声量で相澤先生と相談した13号先生は、どんどん増える注意事項を説明してくれるらしい。もしかすると相澤先生は、このクラスに裏口入学した隙あらばセクハラしようとする問題児が居ると13号先生に伝えたのかもしれない。そのせいで小言が増えていくのだろう。

 であれば、俺はクラスの皆より真摯に13号先生の言葉を拝聴しなければいけない。

 

「皆さんご存知と思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでしまいます」

 

 俺の上位互換と言える個性だ。その個性を使い、どんな災害からも人を救い上げるのだと、緑谷くんが補足する。

 

「しかし簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 先生の言葉でつい自分の手に意識を向けてしまう。

 物体の硬度をほとんど無視して引きちぎり切断することの出来る俺の個性。それを人に向ければどうなるか、俺は身をもって良く知っているからだ。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転、人命のために個性をどう活用するか学んでいきましょう」

 

「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない、助けるためにあるのだと心得て帰ってください」

 

 それこそがヒーローのあるべき姿、ヴィランを倒す事が目的ではなく、人を助けることがヒーローの目的だ。と、13号先生の言葉をしっかりと意識の芯に刻み込む。

 

「以上、ご清聴ありがとうございました」

 

 クラスメイトが揃って万雷の拍手を送る、13号先生はヒーローの理想像をその身に宿しているのだ、そうなるのも当然だった。

 気持ちを新たにする。俺はこの授業の全てを吸収しなければいけない、そう確信したからだ。

 

 

 だが、その決意の灯はあっけなく吹き消される。命を救う術を学ぶ場にやってきた命を脅かす存在によって。

 

「一塊になって動くな! 13号、生徒を守れ…………あれは、(ヴィラン)だ」

 

 

 

 

 階段の先、USJの中央広場に突然現れた黒いモヤ。そこから次々と姿を現す者たちを、相澤先生は(ヴィラン)と言った。

 

「13号にイレイザーヘッドですか……先日頂いたカリキュラムにはオールマイトがここに居るとあったのですが……」

「どこだよ、せっかく大衆引き連れて来たのにさ……子供を殺せば来るのかな?」

 

 俺たちを殺す、そう言った主犯格と思わしき手だらけのコスチュームの男、その目は悪意に染まっている。

 それだけではない、広場に現れた何十人もの(ヴィラン)、その誰もが目に悪意と余裕を浮かべている。“自分たちには敗北や危険はない”そう確信している目、今日に至るまで繰り返し俺に向けられた目だ。

 

 敵がオールマイトの不在を語るという事は、オールマイトが本来ここにいることを知っていた――――事前に情報を得ていたということだ。その事実だけで目の前の敵の危険性が伺い知れる。

 

「バカだがアホじゃねえ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 轟くんも似たような意見らしく、自分の推測が間違っていないと後押しされた。

 計画性がありながら、その場の悦楽も優先する、そう言うタイプの人間は自分に大きなリスクが降りかからない限り悪意を隠そうとしない。

 裏を返せば明確なリスク、敗色を見せてやれば逃げ出す可能性が大いにある、と言うことだ。

 

 校舎から遠いこの場所での奇襲を選んだのは教師陣、多数のプロヒーローを相手取る事を恐れたからだろう。

 であれば俺たちのやることは決まっている。

 

(ここから全員無事で抜け出し、襲撃の事実を他の先生たちに伝える!)

 

 恐らくこの程度の考えにはクラスの誰もがたどり着くだろう。

 先生の合図が有ればいつでも行動を開始できる。相澤先生が戦闘態勢を取っているのは俺たちの脱出を阻止しようとする敵に対する殿(しんがり)だ。

 

 殿は最も危険な役割であり、その危険を少しでも減らす方法は本隊、今回の場合は俺たちが脱出を速やかに完了させることだ。

 

「一人で戦うんですか?」

 

 けれど優しい緑谷くんは相澤先生の心配をした。殿とは最も危険な役割、例え百戦錬磨の相澤先生であってもオールマイトの殺害を本気で画策するような凶悪な敵の前では必ずしも勝てるとは限らないはずだ。

 そこにすぐに思い至る緑谷くんはヒーローすら守る真のヒーローの素質が有るのだろう。

 

「あの数じゃいくら個性を消すといってもイレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 その言葉と共にヴィランの集団へ相澤先生は飛び出した。その背中はとても頼もしく見える。

 

 相澤先生が捕縛武器を使いヴィランを次々と倒していく。その圧倒的な戦闘につい見とれてしまったが、すぐさま意識を逃走の方へと向ける。

 俺のすべきことは相澤先生の戦闘をここで眺めることじゃない。

 

 きっと相澤先生が単身敵に飛び込んだのは敵を俺たちに近付けないためだ。目で見た相手の個性を消す。それは逆に、見えない位置にいる敵の個性は消せないということ。

 俺たち全員と相澤先生に対して同時に攻撃が行われれば必然的にどちらかは防げない。

 

 クラスの皆は既に扉に向けて走り始めている。見とれていた俺と相澤先生を心配している緑谷くんがそれに遅れた。

 

「緑谷くん、心配なのは分かるけど、俺たちも早く避難しよう」

「う、うん……!」

 

 戦闘を観察していた緑谷くんを連れて全員で出口へと駆ける。相澤先生が居る限り個性を用いた逃走の妨害は行われない、だがそれも無限じゃない。出来る限り早くこの場を離れること、それが相澤先生の負担軽減に繋がるはずだ。

 

「させませんよ」

 

 出口まで駆け出した時、俺たちと出口の間に黒いモヤが立ちはだかり言葉が響く。

 

「はじめまして、我々は(ヴィラン)連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

 敵連合を名乗ったのは目のような光が浮かぶ人型のモヤ。相澤先生の視線をくぐり抜けて広場から一瞬でここまで移動した、その事実だけでコイツの危険度が推し量れる。

 そしてそのモヤから伝えられた事実、敵連合と名乗った者たちの狙いはやはりオールマイトの殺害だったのだ。

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはずですが、何か変更があったのでしょうか?」

「オールマイトはここには来ない! だから用は無いはずだ、とっとと帰れよ!!」

 

 自分でも驚くような怒声をモヤに向けて放つ。オールマイトが今何処で何をやっているかは俺には皆目見当がつかないが、目的が達成出来ないと分かれば、余計なリスクを負うより撤退することを選択するはずと思ったからだ。

 だが、ヴィランはそれに一切動じないまま目を妖しく光らせ言葉を続ける。

 

「それは私が決める事ではありません。私がこの場に来たのは単に――――」

「くたばれや!」

 

 わずかにモヤの纏う雰囲気が変わったその瞬間、攻撃的な言葉と爆発音が響いた。眼前には爆豪くんと切島くん。この脅威的な敵に対し、勇猛果敢に撃退を選んだのだ。

 爆煙が晴れてモヤの中からプロテクターとスーツのような服がわずかに見える。どうやらこの敵は全身がモヤという訳ではないようだ。きっと爆破は有効なのだろう。

 

「……危ない危ない、生徒とはいえど優秀な金の卵」

「ダメだ!どきなさい二人共!」

 

 13号先生が叫ぶと同時に、男のまとっていたモヤが俺たちを包み込まんと広がっていく。

 詳細は分からないが、これに捕らわれれば何処かに移動させられてしまうのはこれまでの敵の動きで容易に想像できる。

 

「私の役目は、あなたたちを散らしてなぶり殺すこと!」

 

「させるか!」

 

 モヤをキープするべく手を伸ばす。

 しかしキープ出来るのは手で掴んだわずかな分だけ、煙のようでいて液体のようでもあるこの謎のモヤのイメージを正確に捉えることができず、一欠片のモヤを握りしめたまま視界は暗黒に包まれていった。

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