俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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すりつけろ入学

 合格発表から目まぐるしく時は過ぎ、あっという間に登校初日。高校から徒歩10分のところに越してきたとはいえ、何が起きても良いようにたっぷり3時間は見ておこう。試験に遅刻、初日にも遅刻は到底正しいとは言えない。

 

「よし、行ってきます!」

 

 誰も居ない部屋に言葉を残して部屋を出る。動き始めた街の音をBGMに雄英高校に向けてまっすぐ歩き始めた。

 

 

 

 

 数あるヒーローアカデミアの中でも倍率300倍を越す超名門、雄英高校ヒーロー科。僕、緑谷出久はこの春からそこの生徒になった。

 広大な敷地に巨大な校舎、目につくもの全てが新鮮で好奇心をくすぐられる。

 

 これから始まる高校生活に高まる期待と、クラスメイトに対する若干の不安を抱えつつ、僕は教室の扉を静かに開けた。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないとは思わないか?!」

「思わねーよ、てめーどこ中だよ端役が!」

 

 不安2トップの会話に面食らうも、こそこそと教室内へ踏み入れる。あの怖い人は聡明中出身の飯田天哉くんと言うらしい。仲良くなれるといいなあ。

 

「ハッ」「ハッ」

 

 目が合うと飯田くんは自己紹介をしながらこちらに近付いてきた。勢いに飲み込まれてしまわないようにこっちも何か話さないと。

 

「聞いてたよ!あっ…と僕は緑谷、よろしくね飯田くん」

「緑谷くん……君は、あの実技試験の構造に気付いていたのだな」

 

 どうやら僕は飯田くんに過大評価されている。それもかなり、どうにか誤解であると訂正したいところだけど、クラス中が見ている緊張感のなかでそれが出来るような強い人間では僕はない。

 

「あ!そのモサモサ頭は! 地味めの!」

 

 不意に掛けられた声に驚き、振り返ってみるとそこには試験であらゆる意味でお世話になった名も知らぬ“いい人”が明るい表情で立っていた。というか制服姿やっべええええ。

 女子に対する免疫が全くと言っていいほど無い僕には、このまばゆい輝きを放つ“いい人”をほとんど直視出来ずにいた。

 

────キーンコーンカーンコーン

 

「今日って式とかガイダンスだけかな? 先生ってどんな人だろうね、緊張するね」

 

 緊張と照れで真っ赤な顔が更に恥ずかしさを呼んで直視どころか見られていることにすら耐えきれそうになく、鳴っているチャイムも眼の前の女子の言葉も右から左へ抜けていた。

 慌てふためき、どうしようかと頭を悩ませている思考を遮ぎったのは突然現れた人の言葉だった。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは、ヒーロー科だぞ」

 

 寝袋に包まりゼリー型栄養食を食べながら現れた正体不明の人物、言っていることから先生でありプロヒーローであるはずだけどこういう見た目のヒーローは思い浮かばない。

 突然現れた正体不明のヒーローに驚き戸惑っている僕らの元にものすごい勢いの足音が近付いて来ていた。

 

 

 

 

 チャイムは鳴ったが、HR中なら遅刻じゃないタイプの先生ならまだ間に合うはずだと、一心に足を動かす。

 1-Aらしき教室の前に先生らしき男性がいて、HRはまだ始まる前の可能性がある。しかし、許してくれるかどうかは別に時間には間に合っていないので俺が教室にたどり着いたらやることはひとつだ。

 

「担任の相澤消太だ、よろし――「出席番号14番、津上(つかみ) (たもつ)、私用により遅刻しました。申し訳ありませんッッッ!!!」

 

 脚をコンパクトに折りたたみ、膝と手と額を床に擦り付けて行う謝罪の意思表示の極致、土下座。申し訳ないという気持ちが少しでも眼の前の相澤先生やまだ見ぬクラスメイトに伝われば良いのだが。

 

「どんなヒーローでも間に合わなければ誰も助けられない。次からは遅れる可能性が出た時点で連絡しろ」

「お許しいただけるんですか?」

 

 予想だにしない言葉に思わず声と顔を上げてしまった。一瞬目が合ったが再び目をつぶり額を床にくっつける。こんな態度では温情を誘うための演技だと疑わせてしまうかもしれない。

 

「理由は大体察しが付く。土下座はもう良いから立て」

「ありがとうございます」

 

 お許しをいただいたところで立ち上がると、先生の後ろで男女2人が面食らっているのが目に入った。片方はくせっ毛の誠実そうな男子、もう片方は丸く明るい印象の女子、いきなりの土下座と大声で驚かせてしまい申し訳なく思う。後で謝ろう。

 ちらりと見えたクラスの皆も表情が固く、いきなり迷惑をかけてしまったのは明白だ。重ねて謝罪しなければ。

 

「皆揃ったところで早速だが、体操服(これ)着てグラウンドに出ろ」

 

 寝袋から取り出した体操服を掲げ、相澤先生はそう言った。

 

 

 

 

「迷惑をかけて申し訳ない!」

 

 更衣室で、渡された体操着に手早く着替えてからその場に居る男子に向けて深く頭を下げた。ここを逃せば次はいつ謝罪出来るか分からないし、女子には別の機会に謝罪すればいい。

 しかし声が大きすぎたのか誰からも返答はない。いや、着替えで忙しいのかもしれない。

 

「何か事情が有ったのだろう? 相澤先生が許されたのだ、我々がとやかく言う事ではない」

「ありがとう」

 

 一番最初に言葉をかけてくれたのは、眼鏡をかけた体格のいい如何にも実直そうな男子だった。その後も皆、口を揃えて気にしていないと言ってくれて、出会ってたった10分でクラスメイトの心の広さに感動させられている。

 声をかけて来なかったのは先ほどのくせっ毛の男子と、目つきの鋭いみるからに自信に満ち溢れている男子だけだ。こんな簡単なお詫びでは許せないと、礼儀を重んじる人たちなのだろう。そう考え、先に目つきの鋭い男子へ近付いた。

 

「改めてお詫びをさせて欲しい」

「うっせえ、邪魔だ、モブが」

 

 これは、相当怒らせてしまったようだ。非は完全にこちらにある以上致し方ないだろう。しかし、長い高校生活をわだかまりを抱えたまま過ごすのは好ましくなく、何とか許してもらおうと言葉を続ける。

 

「申し訳ない。だがどうか許して欲しい。俺に出来ることがあればなんでも言ってくれ」

「ウゼェからもう話しかけてくんな」

「……承知した」

 

 それだけ言い残して彼は更衣室を去っていった。完全な拒絶だ。残念だがこうなっては仕方がない、消えろとか死ねとかでないのをありがたく思おう。

 これで更衣室に残ったのは俺と、くせっ毛の男子だけになり、その彼は先ほど出ていった彼の方を見ながら「かっちゃん」と漏らしていた。その様子から察するに、知り合いなのだろう。彼に似て礼儀を重んじる人ならば誠意を見せなくてはならないだろう。

 

「遅刻による迷惑と、大声を出して驚かせてしまったこと、重ねて申し訳ない」

「そんな、大丈夫だよ……!」

 

 こちらが頭を下げるよりも素早く、彼は手を眼前で振りながらそう言った。とても心の広い方で良かった。

 

「それより、かっちゃんがごめん」

「かっちゃん?」

「ああ、さっきの口の悪い……爆豪勝己っていって僕の幼馴染なんだけど」

 

 幼馴染で揃って雄英高校に来るとは、二人共素晴らしい才の持ち主なのだろう、尊敬する。そうだ、幼馴染であるならば爆豪くんへのお詫びの仕方を助言してもらえるかもしれない。

 

「そうだ不躾で悪いが、爆豪くんはどうすれば許してくれるか、アドバイスをもらえないか?」

「アドバイス? いや、大丈夫だと思うよ本人そんな気にしてないだろうから」

「それなら良いのだが……」

「うん。あっ、あんまり話し込んでると遅れちゃうよ」

 

 それもそうだと二人していそいそと更衣室を後にする。彼となら上手くやっていけそうだと思ったところで、お互い名乗っていなかった事に気がついた。

 

「名乗っていなかったが、俺の名前は――――」

「津上君だよね、さっき聞いたよ。あっ、僕の名前は緑谷、よろしくね」

「よろしく、緑谷くん」

 

 朗らかに浮かぶ彼の笑みからは人となりの良さがにじみ出ている。つられてこちらも笑顔になると少しこそばゆくなってグラウンドに集まりつつあるクラスメイトの方へ顔を逸らした。

 体操服に着替えて外に出るよう言われたが、その後について説明はない。これから何が始まるのだろうか。

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