俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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モブの名前有りオリキャラが出てきます。代名詞だけでは表現が追いつきませんでした。


第一種目、障害物競走!

 時は流れて雄英体育祭当日、津上は第一種目である障害物競走のスタートの合図を今か今かと待ちわびていた。数万人の観衆が、多くのメディアがグラウンドに居る雄英一年生に――津上に視線を注いでいる。

 ともすればそれは自意識過剰かもしれない。しかし津上の過去を考えれば視線を強く意識してしまうのも仕方のないことだ。注目され、自身の過去を暴かれた結果どうなったかを忘れる日はきっと訪れないだろう。

 

 衆目に晒される恐怖が無くなったわけではない、それでも体育祭に全力で挑むと、あの日から変わっていくと決めたのはクラスメイトとの約束と、相澤への信頼のお陰だ。

 

(覚悟は決めた、やるなら全力)

 

 

 

 

 時は遡り体育祭の一週間前のこと、放課後の生徒指導室に津上と相澤は居た。

 左腕の治療も進み、サポートアイテムでの保護を条件に体育祭出場の許可をリカバリーガールが与えた直後のことだった。

 

「改めて聞くが、体育祭に出場するか?」

「もちろんそのつもりですが……」

 

 そのためにここ一週間治療に専念してきた。切島をはじめとするクラスメイトとの約束もある以上、そもそも体育祭に出場しないという考えは津上には無い。

 相澤がこうして出場の意志を再確認する場を設けたのは元のように動かすことの出来ない左腕を心配してくれているからだろうと、津上は思った。

 

「心配してくれてありがとうございます。でも、俺頑張りたいんです。みんなと本気で競い合えるこの機会を逃したくないんです! それにほら、左手もこの通り回復傾向にありますし、大丈夫です!」

 

 動くようになった左手の親指・薬指・小指を曲げてピースサインを作り相澤に宣言した。

 しかし相澤の反応は芳しくない、相澤の懸念はどうやら別の所に有るようだった。

 

「お前、マスコミが嫌いというかトラウマだろ。今回は(ヴィラン)の襲撃のせいで例年以上に注目されてる。出場すればアレコレ調べられるだろう、過去とか、お前の両親のことも好き勝手に」

 

 淡々と相澤は言う。目立てば確実、そうでなくとも話題性を求めて探る人間は出てくるし、目立つのを嫌って手を抜いて参加するのも本意ではないだろう。と、相澤は手元の資料に目を落とし、言葉を並べていった。

 

 それに対し津上はさっきまでの調子が嘘のように黙って相澤の言葉を聞いている。マスコミ嫌いは間違いない。両親の事を知られることはトラウマだ。しかし津上が言葉を失った最大の原因は――――

 

「相澤先生は…ご存知、なんですね……」

「ああ、知ってる。両親の事も、お前がこれまで受けた数々の苦労もな」

 

 相澤は津上が知られたくない事を知っていた。ただその事実が胸に突き刺さった。

 

 しかし当の相澤は津上に目を向けずに言葉を続ける。もしも相澤に鋭い目を向けられていたら津上はどうなってしまったか分からない、その意味で相澤の視線が資料に向けられているのは幸運だった。

 津上はこの場を乗り切る道を探そうとしても、パニックになった頭は何の考えも浮かばず堂々巡り、そんな津上の動揺を止めたのは相澤の言葉だった。

 

「俺に限らず、教師のほとんどはその辺を知っている。だから今更外野が騒いだところで態度を変えたりはしないから、その点は心配するな」

 

 津上にはその言葉だけで十分だった。怖いのは過去を知られることじゃない、知られたせいで周りの人が変わってしまうのが津上は怖いのだ。だから、知っていても平然と接してくれていた相澤の優しさに気付いて胸がいっぱいになった。

 その後も、マスコミへの対処法や(ヴィラン)の家族への保障などなど津上の不安を取り除けるであろう言葉を矢継ぎ早に並べていく相澤を、津上は潤む視界で見据え続けた。

 

 

 

 

 

 相澤からの期待と恩に応えるべく津上は今日までリハビリやトレーニングを全力でこなしてきた。

 控室での轟や緑谷の決意表明、爆豪の優勝宣言、そんな熱を胸に抱きながら、スタートの合図を待つ。

 

『スターーーーーーーーーーーーーート!!!』

 

 主審・ミッドナイトの合図で、一年全員が一斉に走り出した。第一種目である障害物競走のコースは会場の外周を回り再び会場内へ戻ってくるというもの、その道中で一体どんな障害物が待ち受けるのかランナーのほとんどはそこに意識を傾けているようだ。

 けれども、スタート開始直後からこのレースは始まっている事を多くの生徒が痛感させられることになる。

 

 

『スタート直後からいきなりすし詰め! どうしたどうした、先頭はどんどん先行ってんぞー!』

 

 スタートゲートから外へとつながる通路は狭く、かつての食堂での騒動を思い起こさせるようなぎゅうぎゅう詰めの状態となり先頭を除く多くの生徒は足止めを食らった。勿論津上もその一人だ。

 手甲で保護されているとはいえ、いまだ完治していない左腕を保護しながら、津上はその流れに身を任せる。

 

(ここで余計に体力使って後でへばったら元も子もない)

 

 この先にどんな障害が待つか予想のつかない状態での体力の浪費を避けた津上は先頭集団から少し離れた位置についた。

 時間を掛けて狭い通路を抜けたが、足元が(恐らく同じクラスの轟の個性によって)一面凍結しており、スピードアップを図れなかった。

 

 周りで転倒している生徒や足と地面とが固着し身動きの取れなくなった生徒を横目に慎重に歩みを進める津上。雄英生ならきっと自分で解決するだろうと、自分に言い聞かせ手助けを我慢して前へ進む事に専念する。

 

「チクショウ、こんなところで……情けねえ」

「なんで、こんな」

 

 しかし、周りの生徒が出す悔しさの滲む声が耳に届いた途端、津上の体はいつものように周りを助けるべく動き出した。

 

(氷、ドライアイス、冷凍庫)

 

 これまでキープしてきた冷たいものをイメージしながら右手で地面に触れ個性を発動していく。

 今回キープするのは冷気。体育祭開催までに行った自主訓練で冷気のイメージを掴む訓練を行ってきた事が功を奏し、十秒もしない内に地面の冷気のキープが完了した。

 

「氷が消えた? 時間制限か?」

「とにかくラッキー! 巻き返そう!」

 

 四方から解放された生徒たちの聞こえてきて、ようやく津上はレースを再開する。

 大きく開いた差を埋めるように津上はハイペースでこの先に待つ第一関門へと向かっていった。

 

 

 

 第一関門として待ち受けているのはロボ、ヒーロー科受験生であれば目にした仮想(ヴィラン)たちだ。小さいものでも2mほど、大きいものになるとビルに匹敵するサイズだ。既に巨大ロボの一体は氷漬けにされ無力化されているが、まだ何体も残って行く手を阻んでいる。

 

「とりあえず俺たちは一時協力して道開くぞ!」

 

 誰かが言ったその言葉に、津上はすぐさま従った。

 さっきキープした冷気で巨大ロボの片足を拘束することで火力のある個性持ちのサポートを、小型のロボはキープで頭や胴体を右手で引きちぎることで数をどんどん減らしていった。

 

「チョロいですわ」

 

 動きを止めた巨大ロボに八百万が大砲を打ち込み、転倒させた。そうして拓けた道を通って多くの生徒が第一関門を突破していく。

 津上もそれに付いて行こうとしたが、視界の端で小型ロボに苦戦する生徒を発見すると、条件反射のようにその手助けに向かった。

 

「伏せて!」

 

 他科の生徒に振り下ろされようとしていたロボの腕を右手で受け止め、衝撃をキープすると共にロボの腕を個性で切断。すかさずその2つを同時に解放してロボを吹き飛ばした。

 集まってきたロボも右手で撫でるように無力化し安全を確保していく。

 

「助けてなんて言ってねーぞ」

「ごめん。俺が勝手にやってることだから、気にしないで」

 

 不機嫌そうに声を掛けてきた生徒に津上は謝罪を入れ、危機に瀕している生徒が居ないことを確認して再びゴールへ向けて走り出した。少し離れたところで「サンキューな」という言葉が背中を押した。

 

 

 

 

 続く第二関門は『ザ・フォール』。奈落に立つ柱とそこに架かるワイヤーを利用して対岸に向かう言わば大袈裟な綱渡りだ。

 個性で飛び越えられるものは個性で、そうでないならワイヤーを這いずって渡る。その2つが主だった攻略法だろう。

 

(この左手じゃあ、這いずるのも厳しいか)

 

 落下への恐怖に足をすくませ立ち止まっている生徒の集団を前に津上は手甲で保護されている左腕を眺めた。

 

 左腕の治療は進んでいるが、特に損傷の激しかった人差し指と中指は相変わらず動かず、ものを握ったりすることはかなり厳しい状態だ。つまりワイヤーを這いずって渡るのというのは現実的ではない。

 残る攻略法は個性の利用だが、膨大な量の風を溜めて跳躍するのは準備に時間がかかりすぎる上、確実性に欠けると考え却下した。

 

『上はイチ抜け、下はダンゴ状態! 上位何位が通過するかは公表してねえから安心()()()突き進め!!!』

 

 プレゼント・マイクの実況を聞き、足を止めている余裕は無いと理解した津上が、左手に負担を架けずそれでいて遅れを取り戻せるように素早く渡れる方法として考えたのが――――

 

「この太さなら走れる!」

 

 脳筋上等パワープレイだった。

 ただ考えなしと言う訳でもなく、右手で空気を取り込み続け、バランスが崩れそうになったら適宜放出し落下を避ける策略だ。

 最初は速歩き程度の速度しか出なかったが、3つ4つとワイヤーを超える度にスピードは速くなっていった。

 

 落下への恐怖で足が止まったりする生徒が多かったお陰で、手助けの必要な生徒に出くわさなかった事が津上の足を更に軽くした。

 

 あれよあれよと言う間に第二関門最後の柱にたどり着いた津上は、その上で女子生徒と遭遇する。その女子は肩で息をしながらワイヤーの先を見つめていて津上の事に気付いている様子はない。

 後から来て割り込むのには抵抗が有ったが、レースなのだからと意を決して声を掛けることにした。

 

「もしまだ息を整えてるなら、悪いんだけど、先行かせてもらってもいいかな?」

「は?」

 

 津上は努めて愛想よくしたが、その気安さは彼女からすると挑発されているように感じたのかもしれない。女子生徒は津上に聞こえるように舌打ちをしてから、苛立ちを隠す様子もなく道を譲った。

 

「お先にどーぞ」

「ありがとう!」

 

 その好意(?)を受けて、津上は最後のワイヤーの上を走り始めた。コツを掴めてきたからか一度もバランスを崩すことなくワイヤーの中央を通り過ぎた。

 

「先に、行くわよ!」

 

 対岸まで残り数メートルのところで、津上は左斜め上から掛けられた声に振り返った。するとそこにはさきほどの女子生徒。彼女の持つ発達した両脚(個性)でここまで跳んできたらしい。

 大変な状況下で声を掛け(煽っ)てきたことに感謝の言葉を返そうとした津上だったが、相手の様子のおかしさに言葉が詰まった。

 

「届かな……」

 

 既に落下を開始していて対岸にたどり着く気配はない。重力に引かれている彼女の目に浮かんでいる恐怖が津上の体を突き動かした。

 相手が助けを求めるよりも先に、自分が考えるよりも先に、津上はワイヤーから跳び出した。

 

 足りない推進力を溜め込んだ全ての風で補って、津上は全力で手を伸ばす。左手の怪我の事はすっかり頭から抜け落ちていた。

 

「手を!」

 

 言葉と共に差し出した左手は間一髪のところで繋ぐ事が出来た。もし僅かにでも動き出すのが遅ければ、結果は変わっていただろう。指はあまり動かなかったが、それでも出来る限り繋いだ手に力を込め続けた。

 

 跳躍の勢いに乗ったまま対岸の縁に右手を掛けたその時だった。人一人分の体重を吊るす事になった左腕に激痛が走る。

 

 骨が軋み、筋肉が千切られ、皮膚が裂かれるかのような壮絶な痛みに苛まれ、津上の右手は崖の縁を手放してしまった。

 

「しまった!」

 

 慌てて再び崖を掴もうと力を込めた津上は無意識に個性を発動する、すると壁と右手がまるで一体化したようにガッチリと固定された。

 

『ん? ヒーロー科A組 津上、普通科D組 跳崎(はねさき)、お二人さん崖にぶら下がって何やってんだァ? リプレイカモン!』

 

 もはや実況は津上の耳に入っておらず、左腕に走る痛みに耐えながら女子生徒――跳崎を縁まで持ち上げた。

 縁を掴んで上がった跳崎の手助けを得て、津上もなんとか崖の上へ登った。

 

「助かったよ、ありがとう!」

「いや、それ(あーし)のセリフなんだけど」

「あっ、ごめん」

「謝られても困るってーの」

 

 アクシデントによる精神面での疲労も相まって荒くなった呼吸を膝に手を当てて整えていく津上。一方の跳崎は大の字になっている。ただ、そのどちらも表情は晴れやかだ。

 

『落ちかけた跳崎を危険を顧みず助けた津上、その英雄的行動に拍手!』

『だが、それで一回戦敗退なら、競技上無駄な行動だ』

 

 解説役の相澤の言葉を聞いて今すぐレースを再開しようと津上は大きな深呼吸をした。ゴールに向かって走り出す直前、横になっている跳崎の後ろめたさをはらんだ表情が目に入った。

 

「大丈夫! 跳崎さんのせいになんかさせないよ!」

 

 もし津上が一回戦で敗退したら、これまでお礼を言ってくれた人たち、跳崎に罪悪感を抱かせてしまう。そういう事をさせないと津上は誓ったのだ。

 

「先に行くね!」

 

 跳崎の返答を待たず、津上は第三関門へと走り出す。

 

『さあ続々とゴールイン! 順位は後でまとめるからとりあえずお疲れ!』

 

「ガンバー!!」

 

 予断は一瞬も許されない。跳崎からの声援に右手の握りこぶしで答え、全力で地面を蹴る。

 

 

 

 

 第三関門は地雷原のフィールドを駆け抜ける、題して怒りのアフガン。

 地雷は威力自体はそこまででもないが、光と音はかなりのもので足止めには十分な代物だ。

 

 先行者が発動させて地雷が減る分、後続になればなるほど有利なる障害ではあるが……

 

(後追いじゃ、抜かせない)

 

 先行者のいる地雷のないルートには必然的に人が集まる。なので津上は後続の利点を捨てて、未だ多くの地雷が残るフィールド端を走ることにした。

 

 津上はこれまで強烈な音と光と衝撃のそれぞれをキープしたことがあり、イメージは掴めている。

 それらを遥かに下回る地雷の爆発ならば容易にキープ出来ると見越して、地雷を気にせずに全力疾走していく。

 

 前傾姿勢になり地雷が起爆した瞬間に個性を発動(キープ)、最初は怯んだがイメージを修正してそのロスもゼロに近付けていく。

 

『ここでA組 津上、端から猛烈な追い上げ! 全然起爆しねぇが、フリーパスでも持ってるのか?』

『いや起爆はしてるな。起爆したのを手当たり次第に無効化してるだけだ』

『なるほどな! 新たに出来た津上ルートに後続が殺到! まだレースは分からないぞォ!』

 

 キープした爆発は既に20発。キープできる容量の限界も見えてきていた。

 元より走りだけでここを突破するつもりはないので、限界に達する前に津上は次の行動に移ることにした。

 

「ついてきてる人! ごめん!」

 

 大声で叫ぶと共に今まで地面に向けていた右手を真後ろに構える。

 一発の威力は高くないが、それが集まれば大きな力になる。それを右手で圧縮して放出すれば、爆豪のような加速が可能になる。

 

 耳をつんざく爆音が響き渡り、津上は弾丸のように飛翔。第三関門を越え、勢いを維持したままスタジアムのゴールゲートを突っ切った。

 

『大!爆!発! A組 津上、地雷を利用して猛スピードでゴール! 緑谷といい、障害物競走は障害物を利用するレースじゃねーぞ!』

 

 大歓声の中ゴールした津上は、地面に激突する時の衝撃をキープして受け身をとり、無事スタジアムに降り立った。

 

 ゴールしているのは見える限りで40人ほどの生徒、その半分がA組だ。

 津上に続いて他科の女子生徒と青山がゴールし、これでA組は全員ゴールしたことになる。

 

「ド派手なゴールだね、津上」

「人助けして遅くなるなんて、津上ちゃんらしいけど、心配したわ」

 

 自分の順位を気にしていた津上に声を掛けたのは先にゴールしていた尾白と梅雨だ。

 

「もっと上位でゴールしたかったけど、どうしても体が動いちゃうんだよね」

「それが津上の良いところだよ」

「尾白くん、ありがとう。でも二回戦進出できるかな……」

「少し不安ね、入試のレスキューポイントみたいな制度が有ると良いけれど」

 

 

 そんな雑談を続けること数分後、ミッドナイトの進行で第一種目の結果が発表された。

 

 

――――41位 津上保。

 

 二回戦は上位42名が進出、津上はぎりぎり二回戦進出の切符を手に入れた。




青山くんは犠牲になったのだ。オリ主の犠牲に。
跳崎さんの出番は多分この章だけです。

2021/07/21 津上の順位を間違えるという痛恨のミス。41位です。42位発目さん、43位青山くんです。
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