雄英体育祭、第2回戦は騎馬戦だ。
1回戦の上位42人が2~4人チームを組んで騎馬を作り、
ちなみに1位の緑谷は特別に1000万ポイントが与えられている。
また、普通の騎馬戦と違いハチマキが取られても失格にはならずそのまま続行し、競技終了時点での保有ポイントで順位が決まる。
『チーム結成の為の15分間の交渉タイムよ、さあ、始めなさい!』
司会のミッドナイトの宣言で全員が交渉に動き出す。津上は一番最初に思い浮かんだ相手を探すことにした。初めてチームアップしたその人となら善戦出来るような気がしたからだ。
喜ばしい事にその相手も津上の事を探していたようで、そう時間もかからずに出会う事ができた。
「梅雨ちゃん!」「津上ちゃん」
互いの名前を発したのは同時で、多くの言葉を交わさずとも互いが互いを探していた事が分かった。梅雨となら間違いなく良いチームワークが取れる。津上はそう確信した。
「個性を踏まえて梅雨ちゃんが騎手で俺は馬かな。あとのメンバーをどうしようか」
「私もその考えだったわ。他のメンバーは、まず馬の先頭をできる体格の良い人が欲しいわね。私が背に貼り付けるくらいの」
「背に貼り付く?」
「ええ、その方が津上ちゃんの左腕に負担が掛からないでしょ?」
梅雨は左腕の手甲を指差してあっけらかんと言った。
第一種目の中盤で受けた負荷で左腕は今もズキズキと痛んでおり、騎馬戦と聞いたときから左腕への負担を強く懸念していた。そんな津上にとって、梅雨の提案は願ってもないことだった。
「ありがとう」
感謝を告げてすぐに後は誰とチームを組むか検討に移った。
津上と梅雨は求める条件に合う体格のいいクラスメイト――砂藤や口田、障子や飯田などの候補を上げていく。そんな話し合いをしていると、横合いからクラスで最も小柄な男、峰田が2人の話に割り込んだ。
「ヘイ津上、オイラも混ぜてもらっていいか?」
「もちろ……「ダメよ」
「オイラは津上に聞いてるんだぜ、なあ、良いだろ津上?」
基本的に人を疑う事をしない津上ですら、その言動に裏が有ることを感じる程度には、梅雨をそっちのけで話を進めようとする峰田の言動は不自然だった。
しかし峰田の企てが一体何なのかは皆目見当つかず、判断に困った津上は梅雨にその判断を委ねた。
「峰田ちゃん、イヤらしいこと考えてるでしょ」
「んなワケ……有るに決まってんだろ!!」
「素直なのだけは褒めてあげるわ。他を当たってちょうだい」
毒を吐きながら去っていく峰田の背を見送っていたが、見掛けた葉隠にそそくさと駆け寄っていくのを見て「峰田くんらしいな」と、津上は少し呆れてしまった。
「峰田くん相変わらずだな……」
「私の都合で断っちゃったけど、良かったかしら?」
「うん。峰田くんは強いけど、体格的に騎馬戦ではね」
そんな話もそこそこに、2人は当初の予定であった体格の大きなメンバーを探しはじめる。
見つけた順に砂藤、口田、飯田へ声を掛けていったが誰もが既にチームを決めていて無理に引き抜くのを遠慮した津上はそそくさと諦めてしまった。
峰田とのやり取りはロスだったかもしれない、と梅雨が口にした。
最後にA組で最も大きな障子を見つけたが、その側には峰田の姿があり、2人がチームを組むような素振りだったので声を掛けずに梅雨と共にそこを離れた。
組めば丁度4人になるが、梅雨と峰田を引き合わせるのが津上にはなんとなく嫌だった。
「梅雨ちゃん、俺の背中に貼り付ける?」
「ええ、無理ではないけれど……大丈夫?」
「個性柄多少の重量増加には慣れてるから、梅雨ちゃんくらいなら負担にもならないよ!」
「それなら、その方向でも考えましょうか」
そうなると組む相手は誰でも良い、能力や個性の相性を度外視して意思疎通が素早くでき信頼の置ける相手を探すことになった。
しかし既に時間も過ぎてチームも固まりつつある。その現状を鑑みて津上と梅雨は二手に分かれてひとりづつ探すことに決めた。
津上が真っ先に思い浮かべたのは尾白だ。先の襲撃事件で共に危機を脱して以来、尾白は津上にとって最も仲のいい友人の1人であり、強い信頼関係にある。
しかし、尾白はあまり目立たない人物(マイルドな表現)なので探し出すのに苦労することとなった。人をかき分け時にチームに誘われながら、津上は数分を掛けて端の方で他のクラスの生徒2人と一緒に立っている尾白を発見した。
既にチームを組んでいるようだったが、津上はダメ元で声を掛けてみることにした。尾白が誘えなかったときの代案が無かったからだ。
「尾白くん、既にチームを組んでるところ悪いけど、良かったら俺のところに来ない?」
しかし尾白はそれに反応を示さなかった。無視される事にはある意味慣れている津上はちょっと落ち込みながらも聞こえなかったのだろうと気持ちを切り替えてもう一度声を掛ける。
「別行動を取ってるけど、梅雨ちゃんも一緒なんだ。尾白くんも居ればかなりいいチームになると思う。協力して……」
誘い文句を最後まで言い切る前に、背の高い生徒が津上と尾白の間に立ちはだかった。一週間前、1年A組へと視察にやって来た普通科の生徒――心操人使だ。
「悪いね、もう俺たちと組んでるんだ。あんたはこの人のクラスメイト?」
「うん。俺はつか…………」
返答を始めた津上の意識はすぐに途切れた。それは呼びかけに答えた者の意識を奪い操る、心操の個性“洗脳”の効果によるものだ。
津上は知る由もないが、尾白ともうひとりのB組の生徒はこの個性によって操られ、チームに組み込まれている。
「これで4人か、コイツの仲間、来たらどうやって追い返すかな……」
――――バシッ!
心操の思考を遮るように、何かが破裂したような音が心操の目の前、津上の右手から発生した。
心操の
「痛っ! ごめん、驚かせたね。ぼーっとしてて個性の制御に失敗しちゃったみたいだ」
意識を奪われたのが余りに短い時間だった為、幸か不幸か津上は自身が心操の個性の支配下にあったことに気が付くことは無かった。それ故に津上から出たのは本心からの謝罪であった。
そんな津上の姿を眉間に皺を寄せて観察していた心操は何か思い当たったようで閉じていた口を再び開く。
「どっかで見たと思ったら、あんた包帯だらけだった人か」
「うん。そういえば自己紹介してなかったね。俺は津上保。君の名前は?」
「俺は……心操、心操人使。普通科」
2人がやったのは、あまりにもありきたりな自己紹介だった。そのやり取りの中で津上は自然に右手を差し出したが、心操がそれを取ることはなかった。
自己紹介をしたっきり視線を逸らした心操を見て、きっと人付き合いがあまり得意ではない人なんだろうと津上はひとり勝手に納得した。
「残念だ、心操くんと尾白くんが2人だけだったらチームに誘えたんだけどな。ちょっと遅かったね」
本心だった。津上から見て心操人使という人間は、理想とするヒーロー像を持ちそれからかけ離れている津上に幻滅しながらも宣戦布告する実直さがあり、怪我人を見たら自分の目的を後回しにしてでも手助けしようとする自己犠牲の精神を持っていて、ヒーロー科でも苦戦を強いられた第一種目を突破する実力を備えている尊敬の念を覚える人物だ。
そんな相手だからこそきっと尾白も心操の手を取ったんだろうと納得して、後ろ髪を引かれながらも2人に別れを告げる。
「時間取らせてごめん。それじゃあ、騎馬戦お互い頑張ろう! 尾白くんも、またね!」
心操からも尾白からも返答は無かったので、ちょっと残念な気持ちで梅雨が向かった方へ歩きだした。
ちらりと見た心操の思い詰めた顔が強く印象に残った。
梅雨と合流を果たしたものの、梅雨の方も津上と同じく誰かを誘うことが出来ていなかった。
既に組んでいるチームから有力な人を引き抜く為にも提示できる具体的な作戦を立てようと話を始めたとき、大きな影がぬるりと接近してきた。
「A組の津上、だよねぇ。はじめまして」
「はじめまして。えっと、そちらは?」
「B組の
ゆったりとした口調で自己紹介をしたのはB組の凡戸固次郎。頭部が穴の空いた縦長のシンバルのような見た目の、体の大きな男子生徒だ。
さらにその横には黒髪のセミロングボブの落ち着いた表情の女子が静かに立っていた。
「小大さん」
「ん」
その女子――小大と津上は面識が有った。
「津上ちゃん、知り合い?」
「うん、彼女は小大唯さん。前のセキュリティ3突破、マスコミの侵入騒ぎの時に知り合ったんだ」
「ああ、見覚えがあると思ったら前に津上ちゃんを訪ねて来てた人ね。私は蛙吹梅雨よ。それで何か用かしら?」
小大は「ん」という声と共に手を差し出した。言葉こそ無かったがそれがチームアップの誘いだと津上は理解した。
二人とは初対面である梅雨が津上の意思を伺い、津上は突然の誘いに少し頭を悩ませる。知り合いとは言ってもその実、小大の事を津上はほとんど知らない。自分ひとりだけなら二つ返事だが、同じチームに梅雨も居るとなると、今ひとつ決め手に欠く。
そんな津上の迷いを察してか、小大は差し出していた手を引っ込めて凡戸をつつき説明を促す。
「あっ、ええと、実は予定してたメンバー2人が別の所に行っちゃってねぇ、どうしようって相談してたら小大が津上くんたちを見付けてさぁ」
「ん」
状況は互いに同じで、断る理由は存在しなかった。特にそれが相手にとって助けになるのだから津上は無理してでもチームを組みたいと考えているほどだ。
そんな津上の前向きな表情を見たのであろう梅雨は、ゆっくりと頷いて同意の意思を示していた。
「有り難い申し出だ。凡戸くん、小大さん、一緒に頑張ろう!」
「やったぁ」
「ん」
再び差し出された小大の右手を津上は今度こそガッチリと掴んだ。
ようやく騎馬戦のチームが決まった四人は、具体的な作戦を練る前に梅雨の提案でそれぞれの個性を説明し合うことになった。
蛙という個性で出来ることをよどみ無く説明していく梅雨、対して津上は空気や手を叩いた衝撃を出し入れするなどの実演を交えて自分の個性を説明した。もちろん左腕の怪我の事を添えて。
「二人とも汎用的な個性だねぇ。僕のは“セメダイン”って言って、口とか
「傷付けることなく相手を無力化できる、いい個性だね」
「ええ。騎馬戦で頼りになりそうね。最後に小大ちゃんの個性を教えてちょうだい」
「ん」
返答した小大は津上を見つめるばかりで説明をする素振りを見せなかった。3人とも少しの間戸惑っていたが、その視線が小大の個性を知っている事を指摘するような色に見えた津上はかつて食堂で見た小大の個性を振り返る。
「小大さんの個性は、触れたものサイズを大小自在に変える個性だったよね」
それに対して頷く小大と、怪訝そうな表情を浮かべる凡戸と梅雨は実に対照的だ。
「知り合った時に個性を見せてもらったんだ、ただ細かいところは分からないから補足してくれると助かるんだけど」
「凡戸」
「え~、僕が説明するのぉ?」
「ん」
不承不承といった様子の凡戸が補足を始める。
小大の個性“サイズ”はその名の通り触れた固体のサイズを変更するものだが個性が適用されないものもある。まず生物、そして建物等の大きすぎるもの、その逆の目に見えないくらいの小さすぎるものだ。
加えて対象となる物体の長さや高さといった比率は変わらず、その一部分だけサイズを変更するような事も出来ないらしい。
凡戸の説明が終わると、小大は「ん」とそれらを強く肯定した。
「この場所だと個性を使えるのは着てる服とかだけになっちゃうから、クラスメイトと連携するつもりだったんだよねぇ」
「ん」――小大は小さく頷く
「八百万さんと組んだらスゴいことになりそうだ……」
「あの色々作り出してたA組の女子?」
「うん」
残念ながら小大の個性はこの場において自分のとは相性が良いとは言えない。そう津上が口にしようとした矢先、梅雨が小さく挙手した。何やら確認したいことが有るようだ。
「例えばだけど、この地面を砕いた破片とかなら個性は使えるの?」
「ん」――小大が頷く
小大の返答に梅雨は得意気に口角を上げて津上を
「2人とも、津上ちゃんの個性と相性抜群ね」
その言葉に
凡戸の個性はシンプルに接着剤を津上がキープすることで手数が倍に、さらに風や衝撃と共に放出することで遠距離攻撃が可能になる。
小大の個性は津上が地面を抉り取ることで個性の使い途を確保、ある程度の形状の自由も効くので対応能力はかなり高い。加えて津上がキープする物のサイズを小さくすれば津上の負荷も大きく軽減できる。
「こんなところかしら」
梅雨のまとめに3人は拍手を返す。冷静で思慮深い、本来の意味での梅雨の
その後も4人は時間の許す限り作戦を詰めていく。基本的な方針に始まり、互いのクラスで驚異になりそうな人物の情報交換などだ。
第2種目開始の瞬間は目前に迫っていた。
B組の中では小大ちゃんが特に好きなんだ。ウマ娘だとエイシンフラッシュが好きなんだ。……何かに気付きそう。