トーナメント表を書いてみましたが、レイアウトが崩れている可能性があるので同じ内容を挿絵として用意しました。トーナメント表がきちんと見えている方は挿絵を表示する必要はないです。
昼休憩が終わり、会場内に設置された朝礼台の真ん前で午後の部の開始を待っていた。午後の部は全員参加のレクリエーションを行い、そのあと最終種目という流れだ。
「「ひょ──ー!」」
津上は不意に後ろから奇妙な歓声のようなものが聞こえ反射的に振り返った。
声の主である峰田と上鳴が見つめる先で、なんとA組女子全員がチアリーダーの格好をしているではないか。
「ひょっ」
津上も思わず似たような声を上げかけたが、なんとか自制した。
尚視線の方はそうもいかず、チアの格好をしたクラスメイトたちの引き締まった腰回りや、丈の短いスカートからすらりと伸びる脚、ヒーローコスチュームとはまた違った健康的な魅力に釘付けだった。
我に返り、邪な視線は良くないと自分を律そうとしているものの、津上とて男子高校生である。女子が露出の多い格好をしていれば視界の端に納め続けてしまうのは自然の摂理だ。
「上鳴さん、峰田さん騙しましたわね!」
八百万の怒声と上鳴・峰田のやりきった表情で大体の事情を察した津上。女子を騙してあんな格好をさせるなんてありが……ダメじゃないかと注意しに行こうと考えたが、絶対余計な事を口走りそうなので口を噤む事を決めた。
当の女子たちがなんだか楽しんでいるように見えるから大丈夫と自分に言い聞かせている。
不意に梅雨と目が合うと、梅雨は握っているポンポンを上下に振って合図しだした。小柄な梅雨がやると輪をかけて可愛らしく見えて、津上の顔には自然と笑みが溢れていた。
「可愛い」
笑みだけではなく無意識に言葉も溢れている。
そうこうしているうちに午後の部についての案内は進んでおり、最終種目の説明へと移っていた。
『最終種目、進出4チーム16名からなるトーナメント形式のガチバトルだ! ここからの進行は主審のミッドナイトにバトンタッチするぜ』
壇上のミッドナイトがピシャリと鞭を鳴らした。
「最終種目のルールは至ってシンプル、相手を場外に押し出すか、戦闘不能にするか、降参させたら勝利。怪我はリカバリーガールが治療するから遠慮なくバンバンやっちゃいなさい! 勿論命に関わるようなのはNG。ヒーローは
説明に一区切り着けると、ミッドナイトは足元に置いてあった箱を持ち上げる。ヒーロー基礎学でもいつもお世話になっている抽選用のくじ引きだとほとんどのヒーロー科生徒が察したようだ。
「それじゃ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ、1位のグループから順に……」
「あの、すみません」
手を上げてミッドナイトの説明を遮ぎったのはクラスメイトの尾白だった。
一体何事だと周囲の視線が尾白に集まる。尾白は一瞬津上の方を見てから言葉を続ける。
「俺、辞退します」
その言葉にクラスはおろか、会場全体がざわつく。
津上は昼会った時に尾白の思い詰めていたことが、このことだったんだと理解した。
「尾白くん、なんで!?」
「せっかくプロに見てもらえるチャンスなのに!」
「第二種目の記憶、ほとんど残っていないんだ。多分、彼の個性で」
“彼”と指されたのは勿論心操だ、多くの視線が集まったが当の心操は無視を決め込んだ様子で動じた様子も無く立っている。
「このチャンスをフイにするのが愚かだってことは分かってる。でも」
尾白は言葉を溜め、津上をじっと見つめた。刺すような決意の視線は津上が目を逸らすことを許さなかった。
「皆が実力で勝ち取った舞台に、何もしてない俺が立つなんてことは、出来ない」
「気にしすぎだって! トーナメントで成果出せば良いんだよ!」
「そんなん言ったら私だって全然だし」
尾白の宣言は大きな波紋を呼ぶ。特にA組は考えを改めるよう説得を始める人もいたほどだ。しかし尾白の決意は固く、考えを改める素振りを見せなかった。
そんな中で、尾白の意志に同調する者も少数だが居た。騎馬戦の時に心操チームだったB組の生徒たちだ。
「僕も同様の理由から棄権を申し出る! 実力如何以前に、何もしていない者が最終種目へと上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」
「同感。さっきまでボケーっとしてたボクがフラッと立つのはズルしてるみたいで皆に申し訳ない」
尾白を説得していた声もいつの間にか止んでいた。その正々堂々とした行動は多くの人にヒーローらしく映ったことだろう。津上もそう思った1人だ。
感銘を受けた人々は静かに成り行きを見つめる。最後の判断は主審であるミッドナイトに託された。
「そういう青臭いのは…………好み! 3人の棄権を認めます!」
そして呆気ないほどに3人の棄権は受諾される。
「じゃあ繰り上げで5位の緑谷チームの3人が最終種目に────」
「え!? ええええええええ!?!?」
尾白に続いてミッドナイトの言葉に割り込んだのは同じくA組、緑谷だ。スプリンクラーの如く涙を流しながら驚きの声を上げている。
昼に見た涙とは打って変わった歓喜の涙を流す緑谷は津上の目に微笑ましく映った。
再三進行を妨げられたミッドナイトが鞭を振って「話の途中よ!」と声を荒げた。緑谷は涙の量を水漏れぐらいまでに抑え、繰り返し頭を下げた。
「説明はここまでにして、いい加減くじ引きを始めるわよ、1位轟チームこっちへいらっしゃい。緑谷チームは自分の番までに誰がトーナメントに進出するか決めておくこと!」
「「はいぃっ!」」
◇
抽選が終わり、トーナメントの組み合わせが掲示板に表示される。
「最初の相手は心操くんか」
トーナメント表を見て口にする。津上の一回戦の相手は心操人使、心操とは半月前の出会いからこの瞬間まで何かと因縁があるらしい。
望外のチャンスにチームメイトと喜び合っている緑谷も、諦めの色を浮かべながら津上の方へ向かってきている尾白も、そうさせた原因は心操だ。緑谷にとっての恩人で尾白にとって恨めしい相手、心操人使の認識はそんなもので、津上にとっては未だ距離感の掴めない相手だ。
「津上、分かってると思うけど」
「うん。操られないように気を付けないとだね」
「ああ」
尾白の助言に津上は自信満々に応えた。心操の個性の条件は判明していないが、それを解除する方法を津上は知っている。それだけで戦略はずっと立てやすい。
当の心操はトーナメントの組み合わせが決まってから津上へと視線を送り続けている。酷く難解そうなその顔に津上は自分の行動を省みるが、これと言って思い当たる節はなかった。
「ずっと見られててちょっと怖いな。俺の弱点知られてるかも」
「ただ単に警戒してるんじゃないか?」
今の津上には左腕という明確な弱点がある。手甲で保護しているとはいえ、蹴られたりしたら相当な痛みが走るだろう。それで万一傷口が開いたりしたら津上は今度こそ棄権をしなければいけない。バカなことをしないというリカバリーガールとの約束だ。
「棄権をした事に後悔はないけどさ」
勿体ぶったように尾白は語る。
「津上は俺の分も頑張ってくれ」
右手をしっかり握り、津上はその願いを心に留める。
「うん。分かった」
「ありがとう」
拳を付き合わせる尾白の顔は晴れやかだった。
『よーし、トーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!』
「レクリエーション、俺は参加だけど津上はどうする?」
プレゼントマイクの声を聞いた尾白が問いかける。
トーナメントの前に行われるレクリエーションは、最終種目進出者は参加するもしないも自由だ。津上はさっきまで参加するつもりでいたが、その考えを改めていた。
「体力を温存しておきたいのと、左手の事もあるから参加するのは止めとく」
「それがいい」
「あ、でも応援はするよ!」
体育祭でクラスメイトを精一杯応援する事に津上は憧れが有った。中学時代の体育祭にはあまりいい思い出がないのでその分を取り戻すような腹積もりだ。
そんな津上の熱に少し仰け反りながら尾白は「じゃ応援よろしく」と津上の後方を指差す。
振り返るとその先にはA組チアガール軍団が居た。
「あそこに交ざるのは……」
「津上ってそういうの抵抗有るんだ、ちょっと意外だ」
「いや、抵抗とかじゃなくて、邪魔じゃないかなって、ほら、1人だけ服装違うし、みんな華やかだし、あと」
「冗談だよ。まあ、俺もあそこに交ざる勇気はないし……あ、峰田返り討ちにされてる」
「耳郎さん容赦ないなぁ。しかしあれでメゲないんだから、ちょっと尊敬しちゃうよ」
ボロボロになりながら若干ニヤついている峰田に二人して苦笑いを浮かべ、尾白は参加者が集まっている方へ、津上は出口の方へと別れそれぞれ移動していった。
◇
自分のクラスに割り当てられた観覧席に着いた津上は、フィールドで行われている借り物競争を眺めていた。数分探しても尾白が見つからないのは競技に参加していないからだろう。
「隣いいかしら?」
「も、勿論!」
A組メンバーを探していた津上は、不意に現れた梅雨の問いかけに反射的に返した。
ちなみに視線はフィールドに固定したままである。視界の端に映る梅雨の格好がオレンジ色のチアガール姿のままであるのを察知し、鋼の意志で平静を装った。
「梅雨ちゃんもレクリエーションは観戦?」
「ええ、体力を温存したいから。津上ちゃんもよね?」
「うん」
目を見ずに行う会話はぎこちなかったが、梅雨は特に気にした様子もなく話を続ける。
「私達がぶつかるとしたら決勝ね」
「うん、別ブロックだもんね」
組み合わせでは津上VS心操が3組目、梅雨VS切島が7組目であり両者がぶつかるとすればそれは決勝戦だけだ。
梅雨と戦う事を想像できない津上にとってこの組み合わせはかなりありがたかった。
「よかった」「残念ね」
安堵と共に吐き出した言葉は梅雨と真っ向から対立した。驚いた津上がずっと逸らしていた視線を梅雨へと向けると、大きな瞳が津上をしっかりと見つめていた。
「やっと目が合ったわね」
「あ、うん。ごめん」
「気にしてないわ。そうだ、津上ちゃんから見てどうかしら、この格好?」
そう言って梅雨は手を広げ首をかしげる。
露出の多い派手な服装は梅雨が持つ淑やかさを際立たせ、垢抜けない仕草とのギャップが得も言われぬ魅力を醸し出していた。
その力に当てられた津上はただでさえ少なくなっていた語彙のことごとくを喪失した。
「いい。と、思う」
「ありがとう。皆に伝えておくわね」
なんとか捻り出した言葉は褒め言葉としては三流だったが、梅雨は気に召したようだった。皆に伝えるという発言が引っかからない程度には未だ津上の動揺は収まっておらず、意識はさっき衝突した意見の相違に囚われたままだった。
「梅雨ちゃんは、俺と戦いたかったの……?」
「うーん、ちょっと違うわね」
人差し指を口元に運んだ梅雨は少し考えてから言葉を続ける。
「津上ちゃんに私の実力を知ってほしいの。自分で言うのも何だけど、私、強いのよ」
「知ってるよ、梅雨ちゃんが強いのは」
梅雨が強いという事を津上は良く理解している。カエルの個性による優れた身体能力、判断力や観察力も高く、どんな時も冷静。津上から見て、梅雨とは優れたヒーローの資質を十全に備えた尊敬するクラスメイトの1人だ。
「そうかしら」
それだけ言って話を切り上げた梅雨はスッと立ち上がる。その顔には少しイジワルそうな笑顔が浮かんでいた。
どうやら梅雨は津上と話をするためにここに来ただけで、観戦に来たわけでは無かったようだ。
「観ていかないの?」
「ええ。トーナメント戦に集中したいから」
「そっか」
「それじゃあ津上ちゃん、決勝で会いましょう」
「う、うん……」
手を振る梅雨に、津上は歯切れの悪い返答しか出来なかった。
轟や爆豪、緑谷に飯田たち数多くいる強いクラスメイトを差し置いて決勝に進めるイメージが沸かなかったからだ。
出来ない約束をしたことを後で謝ろう。心のなかでそう決めて、津上はレクリエーションで活躍するクラスメイトの応援に戻った。
フィールドを見るとちょうど尾白がボールを持ってゴールをくぐっていた。見つからなかっただけで、尾白もちゃんと借り物競争に参加していたようである。
それから大玉転がしや玉入れなどなど色んな種目が広いフィールド内で同時に行われ、応援が追いつかなくなった津上は途中から歓声を上げるだけになっていた。
結局、レクリエーションが終わるまでに尾白の姿は3回くらいしか見つけることが出来なかった。多分活躍していたはずだ。
トーナメントの組み合わせは理解していただきやすいよう基本的に原作をベースにしていますが、心操は津上とぶつかってもらうことになりました。それにより上鳴が出久の相手となっています。
それ以外は鉄哲のところに梅雨、塩崎のところに小大、青山のところに凡戸といった感じで配置してます。
発目「我々技術者にとってヒーローとは最大の顧客。ヒーロー科生徒を差し置いてサポート科の私が出て顰蹙を買っては本末転倒。騎馬戦で活躍させてもらいましたし、喜んで私は辞退しましょう」
緑谷「発目さん、ありがと……
発目「ただぁし! サポートアイテムを新たに作成する際は真っ先に私のところへ来ることが条件です! いいですね!!!!」
麗日「手口が阿漕や」
てな感じで発目は辞退しました。辞退か?