俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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個性:キープ

────個性把握テスト。

 

 体力テストを個性を駆使して行うことで、自分の個性の最大限を把握するのが目的らしい。

 そして、総合成績最下位のものは除籍処分となる。雄英高校は自由な校風が売りで、教師にも自由が認められており、そういったことができる。改めて凄い学校だと感じた。

 

 だが、本当にそうだろうか? 自由な校風とはいえ、入学初日に除籍処分とは幾ら何でも荒唐無稽。それでは何のために入学試験をしたのかと問われるだろう。つまり、これは……

 

 21人目(おれ)が居るせい――――!

 

 本来居るべきではない21人目の生徒を合理的に排除する為の図らいなのだろう。本来なら実技試験で蹴落とされていたであろう俺に圧倒的な差を理解させて身を引かせる。

 そういうことなのだ、だから先ほど先生は何のお咎めも無く俺の遅刻を容認したのだろう。さっきの“次から連絡しろ”という言葉の裏には“もし次があるならば”というメッセージが隠されていたのだ。

 

 つまりこれが俺が雄英高校で行う最初で最期の試験だ。悔いの残らないようにやろう。体力テストにはさほど寄与しないこの地味な個性で。

 

 

津上保 個性:キープ

 

 手で掴んだものを四次元空間にキープ、気体液体個体に振動や衝撃、火や雷などだいたいなんでもキープできるぞ。

 キープしたものはいつでもリリース出来る。キープしている物の重さはそのまま全身にのしかかるため、キープのしすぎに要注意だ。

 

 

――――第一種目、50m走

 

 遅刻して来たため俺は緑谷くん以外のクラスメイトとほとんど言葉を交わせていない。今日でお別れになるとはいえ、顔と名前と個性くらいは知っておきたい。彼らがプロヒーローになった時に思い出せるように。

 

 名前と記録をしっかりと記憶に刻みこんでいると、あっという間に俺の番になった。記録は6.16秒。

 タイム自体はそれなりだが、個性も使わずただ走っただけの地味な50m走だった。飯田くんや爆豪くん八百万さんのように個性を最大限活かしてる人とは比べるまでもない。

 雄英高校に合格するだけあってみんな凄い個性ばかりだ。

 

 

――――第二種目、握力

 

 記録、測定不能。

 

 やってしまった……力んだときに思わず個性が発動してしまった。握力計は握った部分だけがキープされたことで壊れ、見るも無残な姿で地面に転がっている。

 器物損壊だ、すぐさま謝罪しようと土下座の姿勢に移ろうとしたが、周りの様子は予想していたものと違った。

 

「すげえ、測定不能だ!」「どんな個性だ?」「増強系か?」

「先は長い、駄弁るのは後にしておけ。津上、壊れたのはこのカゴに入れとけ」

「「「はいっ」」」

 

 相澤先生の言葉で囃し立てていた男子たちはすぐさま口を噤んだ。俺は指示された通りに壊れた握力計をカゴに移し、その場で土下座した。

 

「機材を壊して申し訳有りません! 必ず弁償します!!」

「弁償なんかいらん、こんなもんいつものことだ。さっさと立って次の種目の準備をしとけ」

 

 返答は淡白だったが、まさかのお許しを頂けた。俺はすぐさま立ち上がり、一礼して先生の元を離れる。

 クラスメイトの握力測定を遠巻きに見ていると、上鳴くんが個性の電撃で握力計を破壊していた。本当によくあることのようだ。

 

 

 

 

――――第三種目、立ち幅跳び

 

 青山くんがレーザーの反動で飛んでいるところや、50m走の爆豪くんの攻略法を見て思い付いたことがあり一か八か試すことにした。

 皆から離れたところで両手を空気を切り裂くように振りまわし、手に触れた空気をひたすらキープして溜めていく。「何やってんだ?」とか「どうした?」と不審な動きをしている俺に対して投げかけられる言葉に、謝罪と説明を返して自分の順番まで空気をキープし続けた。

 

「次、瀬呂と津上」

「はい」「はいっ!」

 

 容量上限にはまだ遠いが、それでも十分だろう。とにかくやるだけやってみようと意気込んだ。

 始め、と言った相澤先生の合図を聞き地面を思い切り蹴って斜め上に飛び上がった。

 

 上昇が終わり体が落下を始めたその瞬間、両の手のひらを後方の地面に向けて個性で溜め込んだ空気を一度に解放(リリース)した。吹き出した空気を推進力に、体をもう一度浮かせて、土煙の向こうへと体を飛ばした。

 

 記録、5m22cm

 

 想像より遥かにいい結果が出せて、つい小さくガッツポーズを取る。するとこちらを見ていた相澤先生の視線が鋭くなったように見えたので、ご期待に添えられずすみません。と素早く頭を下げた。

 そうだ、よく考えたら俺は最下位にならなくてはいけないんだった。

 

 自分の番を終え、他の生徒の様子を見ていたが緑谷くんは今回も個性を使っておらず、俺の目から見ても成績はあまり芳しくないように見える。

 

 

――――第四種目、反復横跳び

 

 この種目は俺に関して語れることは何も無い。記録は66回、ヒーローを目指すならこのくらい普通だろう。

 

 

――――第五種目、ボール投げ

 

「緑谷くん、調子悪いのか?」

 

 ここまで個性を使用せず大きな記録を出していない緑谷くんの顔には汗が滲み、表情がこわばっていた。もしかすると体調が悪いのかもしれない。

 

「だ、大丈夫……皆凄い記録出してるから驚いちゃって……」

「ああ、皆凄いな」

 

 彼の事をよく知らない俺でも、彼の言う大丈夫が虚勢だと分かる。分かったところで、彼にしてあげられる事は思い浮かばないのが悔やまれる。

 何かないかと思案している内に自分の名前が呼ばれ、頑張ろう。とだけ声をかけてその場を離れた。うんうんと頷く緑谷くんの顔はこの上なく引きつっていた。

 

「円から出なければ何をしてもいい。出来る限り遠くへ飛ばせ」

「分かりました」

 

 相澤先生から渡されたボールを手に取る。重さも大きさも普通のハンドボールだ。俺の個性でこれを出来る限り遠くに飛ばすには……

 

「少し時間をかけても良いでしょうか?」

「いいだろう、だが、あまりにも長ければ声をかけるぞ」

「ありがとうございます」

 

 軽く会釈をしてからボールを左手に持ち、右手に向かって力を込めて投げつける。右手がボールを受け止めるその瞬間に右手が受けた衝撃をキープする。それを何度も繰り返して衝撃を溜め、ボールを飛ばすのに利用する作戦だ。

 その最中、緑谷くんに目を向ける。その表情は相変わらずで、やはり調子が悪いらしい。

 こうしてゆっくり時間をかけているのは、自分の記録の為もあるが、少しでも彼が調子を取り戻すのを願ってのことだ。

 

「津上、時間だ」

「はいっ」

 

 緑谷くんから視線を外し、正面を向く。円の端に立ってステップを踏み、腕力と溜めた衝撃を使ってボールを飛ばした。

 

「おぉっ、めっちゃ飛んだぞ」「ボールを手に投げつけていましたが、彼の個性は一体……?」

 

 クラスメイトから歓声が飛んだ。少し誇らしく思うが、その記録は……無し。

 

「円から出るなと言ったはずだ。第二投、早くしろ」

 

 全力で投げた結果、円をオーバーしてしまいファール。相澤先生が投げた二投目のボールを受け取りながら俺はこう思った。そうかこの手があったか、と。

 

「さっきと同様だ、2分経ったら声をかける」

「分かりました」

 

 再び衝撃を溜める。緑谷くんは変わらず思いつめているようでやはり心配になるが、もう安心して欲しい。このテストの攻略法は掴めた。

 

「時間だ」

「行きます」

 

 足下に注意を払いながら、全力でボールを投擲した。その記録は

 

「二投目も円をオーバー、ファールだ」

「だぁー、勿体ねえ」「デモンストレーションの爆豪くんほどでは無いだろうが相当な記録が出ていただろう」

 

 狙い通りファールとなった。この後の競技もこんな感じで記録なしにすればきっと緑谷くんは大丈夫だろう。そう考えていた矢先、相澤先生の言葉で事態は一変する。

 

「計測値472.8m。ファールのペナルティとして測定値を半分にした値をスコアにする」

「なっ!?」

 

 半分でも236.4m、個性を使わずに出せる数値ではない。待ってくれ、それじゃあ緑谷くんが俺の代わりに除籍になってしまう。

 

「そんな……失格にしてください。ルールを守っている皆に悪いので」

「そうか、津上の記録に文句のある者は」

 

 相澤先生の言葉に対して誰も同意しなかった。それどころかそのままのスコアで良いと言う人も居たくらいだ。

 

「緑谷、お前はどう思う? 津上のスコアに意見はあるか?」

「……いえ、僕は何も」

「決まりだ。津上、記録236.4m」

「はい、ありがとうございます」

 

 急に重くなった肩を落として集団の方へ向かう。予定とは違うが、だが諦めるにはまだ早い。ここから全て完膚なきまでに低い記録を出せば緑谷くんは最下位を脱出できるはずだ。

 そう決意を新たにした俺を他所に相澤先生はこう続けた。

 

「次に行く前にルールの追加だ。これ以降、意図的に失格や低い記録を狙った者はその場で除籍とする。無論、そいつを除いた内の最下位も除籍なのは変わらない。次、常闇、準備しろ」

 

 手を抜くことは許さない、相澤先生はそう言った。とぼとぼと歩いて、少しざわついているクラスの皆を離れた場所から眺めていた。

 

 そして、あっという間に緑谷くんの番が回ってきた。その表情はこれでもかと強張っている。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」

「ったりめーだ無個性のザコだそ!」

「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 

 緑谷くんが、無個性? 無個性で雄英の入試を突破したのか緑谷くんは……なんて凄い人なんだ。

 俺のように裏口入学した人間と、無個性でありながら正々堂々と入試を突破した緑谷くん、どちらが雄英に相応しいかなんて論ずるまでもない。

 

 しかし、緑谷くんの目には決意と覚悟が浮かんでいた。彼はきっと何かをする。そう思わせる強い目だ。

 

「頑張ってくれ、緑谷くん」

 

 口から漏れた願いは届かず、緑谷くんの記録は46m。しかし、どこか様子が変だ。

 

「“個性”を消した。つくづくあの試験は……合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」

 

 “個性”を消す個性、それが相澤先生の個性か。無個性である緑谷くんに対して使ったら……どうなるんだ?

 そう思いながら聞いていると緑谷くんが無個性と言うのはどうやら間違いで、使用すると何かしら反動があり行動不能になってしまうようなピーキーな個性のようだ。だから使わなかったのだろう。

 そこまで考えたが、他の仮説が浮かぶ。使わなかったのではなく、使えなかったのではないか、と。それも誰かから妨害されて……

 そこでようやく全てのピースが繋がった。緑谷くんの突然の不調と追い詰められたような様子、“個性”を消す個性。そう言うことか!

 

「先生と言えど、彼だけを妨害すのは幾らなんでも公平では無いと思います!」

「……津上、後にしろ」

「いいえ、出来ません! 今だけでは有りません、ここに至るまで彼だけ個性を使用しなかった……いや、使用出来なかったのは、貴方が封じていたからだ! そうなんだろう、緑谷くん!!」

「つ、津上くん……?」

 

 そんなに不安そうな顔をしないでくれ緑谷くん。俺は大丈夫だ、本来有るべきカタチに戻るだけなのだから。

 

「このテストの趣旨はよく分かっています。本来居るべきではないこの俺を除籍する為の物だという事は、よく! その上で彼を妨害するのは、俺に罪を告白させる為だったのでしょう」

「お前、何言ってんだ?」

 

「あくまでシラを切るのですね。良いでしょう……皆、聞いてほしい。俺は、入試で実技試験を受けていない!! そう、俺は裏口入学なん……モガッ

「後にしろ。緑谷、2投目だ、さっさとしろ」

「……っはい」

 

 相澤先生が首に巻いてた包帯のようなもので簀巻きにされた俺はその場で横倒しになった。すまない緑谷くん。使えない裏口野郎ですまない。

 

「裏口?」「緑谷、個性消されてたのか?」「津上はミイラみたいになってるけど大丈夫なのか、あれ」「あー、思い出した。筆記試験にいきなりずぶ濡れで来た人だよ、津上」

 

 クラスの皆がざわついている。全ては話せなかったがきっと皆理解しただろう。そして緑谷くんもこれで多少は安心出来るはずだ。

 

(頑張れ、緑谷くん)

 

 そう祈ると緑谷くんと目が合った、申し訳なさそうな顔を浮かべて、声のない言葉を発するように口がこう動いた。“ありがとう”もしくは、“クソ野郎”と────。

 

 そのまま緑谷くんは決意に燃ゆる瞳でボールを振りかぶり、投げた。

 ボールが手から離れるその瞬間、凄まじい音と共にボールは彼方へと飛んでいく。

 

 記録は、755.3m。彼は俺が何かする必要なんて無い、本当に凄い人だった。

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