俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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後の矛盾に繋がる記述を一部修正しました。


合理的虚偽

「まだ、動けます…!」

 

 そうやって痛みに耐えながら強気の笑みを浮かべる緑谷くん。そのカッコいい姿に居ても立っても居られず、相澤先生に巻かれた布を触れている部分から順にキープしていくことで拘束を解き、大きな拍手と共に力いっぱい叫んだ。

 

「やっぱり凄いな、緑谷くん!!」

 

 クラスの面々も大小様々な歓声を上げている。中には彼の個性による反動に疑問を浮かべている生徒も居るみたいだが、今はまず、誇るべき成績を上げた彼に称賛を贈りたい。

 そんな最中、クラスメイトの一団から緑谷くんへ向かって猛スピードで突っ込んでいく人物が現れた。爆豪勝己、礼儀を重んじる彼はこのやり取りをやはり看過することは出来ないようだった。

 

「どーいうことだ、ワケを言え! デクてめえ!」

 

 なんて義に篤い男たちなんだと俺は感動していた。片や妨害を受けながらも静かにテストに挑み、俺の数少ない言葉から意図を汲んでリスクを背負いながら真っ向から越えてきた緑谷くん。片や自らを犠牲にするその在り方に憤慨し問いただそうとする爆豪くん。

 彼らと肩を並べて高校生活を送れないのは、心の底から残念でならない。

 

「ぐえっ、なんだこの布、固ぇ……!」

 

 緑谷くんを問い詰めようとしていた爆豪くんは俺と同様に包帯のようなもので相澤先生に拘束された。この包帯、どうやら捕縛武器らしい。

 体も個性も止められた爆豪くんが義憤の矛を収めることで、場は一旦収まり。テストが再開される。

 

「時間がもったいない。次、準備しろ」

「あの、先生……」

「なんだ津上、抗議なら終わってからにしてくれ」

 

 ドライな目の相澤先生に、キープしていた捕縛武器を見栄え良く揃えてから手渡す。キープする際に一部破損したが恐らく消耗品であるしきっと大丈夫なはずだ。

 

「先ほどお借りしたこちらお返しします。一部壊してしまいました、すみません」

「ああ、このくらい問題ない……というか、貸してたワケじゃないんだが」

 

 若干戸惑っているような様子の相澤先生は、遅刻したときや握力計を壊したときと同じく呆気ないほど簡単に許してくださった。教師やヒーローという立場上冷酷に振る舞ってこそいるが心根はとても優しい方なのだろうと、これまでのやり取りで確信した。

 となると、今までの緑谷くんへの妨害は彼の身を案じた上での行動で、それに加え高校生活最後の俺に華を持たせるために行っていたのだと理解すると、スッと腑に落ちた。

 

「疑ったりご迷惑おかけしたり、すみませんでした。ここからは全力で取り組みます。お心遣い、ありがとうございます」

「ん? ……まあ、頑張れ」

 

 激励を受け清々しい気持ちで先生の元を後にし、まっすぐ緑谷くんのところへ駆けていく。拒絶されようが、彼の大投擲を称えて労いたいこの気持はきっと正しいはず。

 

「緑谷くん、凄い記録じゃないか。おめでとう! 」

「あっ、津上くん……その、ありがとう」

「礼を言われるような事はしてないさ。ともかく、純粋な投擲力ならきっと君が1番だ」

 

 俺の言葉に少し困ったような顔で笑う彼。小柄なこの体からあれ程のパワーを発揮するとは一体どんな個性なんだろうと思い、何気なく観察をすると紫色に変色した痛々しい右手の人差し指が目に入った。

 

「ひどい怪我じゃないか、 早く保健室に行って手当てをしないと」

「大丈夫、このくらい平気だよ。それに、まだテストも残ってるし」

「それなら、応急処置くらいはさせてくれ」

 

 緑谷くんは強がっているようだが、見るからに痛々しいその指が力の反動なんだと理解した俺は、すぐさま体操服の袖を切り裂いた。

 出来れば清潔な包帯や添え木が欲しいところだが、今朝キープしていた分は登校中に使い切ってしまい代わりになるものは近場には見当たらなかった。

 指が折れた際の応急処置はは添え木が無ければ他の指で固定する方法もあると以前習ったことがある。これはただの骨折ではないが、痛みを和らげるにも固定するのは間違っていないだろう。

 

「津上、手を貸なくていい」

「相澤先生!? ですが、このまま放っておいたら怪我が悪化します」

「僕は大丈夫だよ……こうなるって分かってやったことだし」

「緑谷くん……」

 

 覚悟の上の怪我、それを俺のにわか仕込みの応急処置で却って悪化させてしまう事を先生は懸念し止めたのだろう。だがそれでも何もせずにこのまま放っておくのは信条に反する。

 

「緑谷が自分で良いと判断して負った傷だ、その判断を尊重しろ」

「……分かりました。 緑谷くんは何も間違っていない。これは、俺が勝手にやることだ」

 

 相澤先生に背を向けて、損傷した人差し指と中指をさっき切った布で縛り固定する。出来るのはこれだけだが、やらないよりもずっとマシだろう。

 小さな声でありがとう、と言う緑谷くんに対し、軽く微笑み返してすぐさま彼の元を離れた。あまり側に居るのも恩着せがましいと思ったからだ。

 

 

 

 

 その後、上体起こし、長座体前屈、持久走が滞りなく行われ試験は終了、俺も緑谷くんもボール投げ以降目立った成績は出せなかった。贔屓目に見ても総合成績は俺の方が上であろうが、相澤先生ならきっと上手いこと調整してくれるはずだ。

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評価点を合計した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なので一括開示する」

 

(楽しかった雄英高校、ありがとう雄英高校、1-Aの皆、またどこかで会う日を楽しみにしてる。きっと体育祭は見に来るよ)

 

 そんな風に頭の中で別れの挨拶に没頭していた俺は相澤先生の言葉は半分も耳に入っていなかったが、それでも次の言葉はしっかりと聞き取れた。

 

「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「「「「は────────!?!?!?!?」」」」

 

 驚くべきその言葉に、緑谷くんや飯田くん麗日さんと共に大声を上げてしまった。

 

「じゃ、じゃあ、俺は雄英に、1-Aに居て良いんですか……」

「とりあえず今はな。もし見込みなしと判断したらその場で除籍するから、気は緩めないことだ。他の奴らもな」

 

 クラス全体を見回しながら相澤先生はそう言った。

 

 津上保、個性把握テスト16位。緑谷くんはやはりと言うか予想通り21位(最下位)であったが……

 

「良かった」

 

 緑谷くんが除籍にならず、本当に良かったとつい気と腰が抜ける。周りのクラスメイトが大丈夫かと声をかけてきてくれて、それが尚の事嬉しく感じた。

 そんな俺の様子をそのままに相澤先生は続けて言った。

 

「これにて終わりだ、教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」

「はいっ」

「緑谷、リカバリーガール(ばあさん)のところへ行って治してもらえ」

 

 明日からもっと過酷な試練の目白押しだ、そう言いながら相澤先生は保健室利用書を緑谷くんに渡した。そうだった雄英には治癒の個性を持つリカバリーガールが居るんだった。

 雄英の屋台骨と例えられる彼女の手にかかればあんな怪我あっという間に治してくれるだろう。少しだけ、俺の勝手な処置が邪魔にならないか心配になった。

 少し安心した俺が校舎へ戻ろうと思った矢先、相澤先生に呼び止められた。

 

「津上、話があるから着替えたら一度職員室に来い」

「分かりました先生」

 

 思い当たる節が有りすぎてどれで呼び出しを食らったのか見当がつかない。遅刻や器物破損、テストの妨害に先生に対する暴言。もしかするとその全てかもしれない。

 実は俺の除籍は決まっていて、さっきのはこの場を収める合理的虚偽の可能性だってある。いや、段々とそんな気がしてきた。

 

「初日から指導かよ津上、色々すげー奴だな」

 

 後者に向かって歩き始めると、逆立った赤毛が特徴のいかにも熱血漢な男子が話しかけてきた。彼は確か……

 

「切島鋭児郎…くん、か。その通り、俺はスゲー駄目な裏口野郎だ」

「もっと自己評価上げてけ。お前の言ってる裏口ってのはよく分かんねーけど、男らしいなお前。俺のことは呼び捨てでいいぜ、俺もそうするからさ」

「分かった、切島鋭児郎」

「おっと、フルネームは予想外だぞ」

「冗談だ。よろしく、切島」

 

 歯を出して笑いながら握手を交わす。ああ、分かってきたぞ、この学校には聖人しか居ないんだろう。そして、俺が居なくなれば完璧な場所になる。

 よろしくとは言ったが、切島くんと会うのはこれが最後になるだろう。別れを惜しむほどの間柄ではない、何も言わずに去るのが相応しい。ゴウリテキキョギって奴だ。

 

「って、あんま引き留めたらやべえか。 先生にシメられるときに必要なのは、ガッツだぜ。多分」

「ありがとう、それじゃあ先に行くよ」

「またな、津上」

「ああ……また」

 

 手を振る切島くんを背に、まばらに歩くクラスメイトを抜いて更衣室へ、そそくさと着替えを終え一路職員室を目指す。

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