俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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始まり始まり

 途中、道に迷っていた生徒と一緒になって頭を捻ったり、落ちていた学生証の持ち主を探したり、迷い込んだ小動物だと思ったのが校長先生だったりしたが無事職員室に到着した。

 

「失礼します。相澤先生はいらっしゃいますか」

「津上か……随分時間かかったな。早速、生徒指導室に行くぞ」

 

 足元で寝袋に入っている相澤先生はそう言って起き上がり、寝袋を脇に抱えたまま職員室を後にした。

 相澤先生の後ろを着いていくと、少し歩いたところに生徒指導室と書かれた部屋があった。相澤先生が鍵を開けて中に入るのに従い一緒に部屋に入る。

 

「まあ座れ…………床にじゃない、ソファーにだ」

「失礼します」

 

 ソファーに浅く腰掛けて相澤先生の方を見やる。寝袋から何やら資料を取り出すと目の前の机に広げた。

 

「さて、今回呼び出したのは他でもない、お前の遅刻についてだ」

「はい」

「入試、今日、そしておそらく今さっき。既に三度も同じ理由で遅れているだろう、自覚はあるか?」

「あります」

 

 困っている人を見過ごす事が出来ない俺の悪癖のせいであり、そんな遅刻魔の面倒は見きれないしクラスの迷惑になるから除籍処分にするって事だろう。

 

「それなら結構。困っている人間を助けるのは良いことだ、それは否定しない」

「はい……」

「それはあくまで自分が困らない範囲でやることだ。それがわからない人間に人助けなど分不相応にも程がある」

「はい……」

 

 要点を纏めると、除籍ということだろう。

 

「緑谷にも言ったが、1人を助けて後は足手まといになっては結果的に誰も救えていないのと同じだ」

 

 そうならないように除籍に。

 

「救うなって事じゃない。出来る範囲に絞れって話だ」

 

 つまり、除籍。

 

「ここまでは分かるな?」

「はい、除籍ってことですね」

「なるほど、話を聞いてないな」

 

 

 

 

 目の前の思い込みの激しい津上(生徒)に小さくため息をついて、広げた資料を手に取る。

 津上の成績や来歴が簡単に纏まった資料だ、頭には入っているが何を読んでるか見えた方が分かりやすく合理的だ。

 

「入試の筆記試験はクラス8位、実技試験は不参加だが、今日の個性把握テストで16位ならまず問題ない。困っている他人(ひと)を放っておかない性分で社交性もある。客観的に見てヒーローになる見込みは充分だ」

「ありがとうございます」

「そのままの事を言っただけだ。見込みがあるやつを除籍するのは合理性に欠く」

 

 見込みはあるというのは事実だ、しかしそれを打ち消すだけの致命的な問題が津上にはある。それは遅刻、ではない、その原因となっている“困っている他人(・・)を放っておかない”という性分の方だ。

 

 そう、他人なのだ。学友でも近所の人間でも、保護者でもなく、津上が手を貸すのは見ず知らずの他人だけだ。

 そうなった理由は今持っている情報だけでは判然としない。

 だからこそ時間が必要だ、原因を知り、それを治す為の長い時間が。その為の第一歩は――――

 

「とりあえず、遅刻を無くすところからだな。今朝は何時に家を出た?」

「5時30分です!」

「そんな時間から何してんだ?」

 

「吸い殻の清掃に、道端に落ちていた洗濯物の持ち主の捜索、ご老人の荷物持ちと……」

「ストップ、内容を聞きたいんじゃない」

 

 俺が制止すると津上は暗い表情になってすいませんと頭を下げる。やってたことも、その反応も想像通りだ。

 

「明日は6時53分きっかりに家を出ろ」

「はい。6時53分ですね」

「……理由は聞かないのか?」

「え、聞いたほうがいいですか?」

「いや、いい。明日になれば嫌でも分かる」

 

 聞き分けがいいのか考えなしなのか、今はその判断もつかない。

 

「以上だ、寄り道せずに帰れ」

「はい! お時間頂きありがとうございました!」

 

 深々と礼をして津上は潮が引くようにそそくさと指導室を後にした。 あの分厚い社交性の皮の下には一体何が詰まっているのだろうか。

 津上保(あいつ)の事を俺はほとんど知らない。何をして何をされてきたのか、それをこれから知る必要がある。生徒を導く者(教師)として、そして敵を倒すもの(ヒーロー)として。

 それは、津上を41人目の合格者に推薦した人間の責任でもある。

 

 

 

 

 相澤先生の指導を終え、誰も居ない教室に置かれていた書類を取って帰路についた。

 明日からこのカリキュラムに沿って授業が行われるのだと、明日も引き続き雄英生なのだと強い実感を噛みしめる。素晴らしい先生が担任で本当に良かったと高鳴る気持ちにつられて早足で歩いていると、信号待ちをしている雄英生の中に緑谷くんと飯田くん麗日さんを見つけた。

 

 声を掛けようと思ったが、緑谷くんはともかく飯田くん麗日さんとは会話らしい会話はなく、向こうは俺のことを知らないかもしれない。そう思うと、少し迷ってしまう。

 だが声を掛けないのは失礼であるし、麗日さんには朝の騒動で驚かせてしまったことを謝らなくてはならない事を思い出し、意を決して声をかけることにした。

 

「緑谷くん、飯田くん、麗日さん。今日はお疲れ様」

「津上タモツくん! お疲れさまー」

「先生からの用事は終わったのかい?」

「ああ」

 

 なんと、飯田くんも麗日さんも俺のことを覚えていてくれたらしい。いい人たちだ。緑谷くんも言葉こそ発さないが笑って輪に入れてくれた。やっぱりいい人だ。

 

「ところで麗日さん、今朝は驚かせてしまって本当にすまない」

「今朝? あー、土下座! 別に謝られる事なんて。あんな綺麗な土下座みたら皆ああなるよ」

「た、確かに綺麗な土下座だったね……」

 

 快く許してくれた上に、土下座まで褒めてくれる。こんな幸福許されるのだろうか。そんな事を考えている俺に飯田くんが言葉を投げかける。

 

「そうだ、今朝の遅刻は一体どんな事情が? クラスメイトとして遅刻はあまり感心しないな」

「それは、全て俺の悪癖のせいだ」

「悪癖? 寝坊しちゃったとか?」

 

 麗日さんの指摘の通り、寝坊と言えるかもしれない。あと一分でも家を早く出ていれば遅刻にならずに済んだのだ。睡眠時間を削るべきだった。

 

「寝坊と言えば寝坊なのかもしれない、もう少し早く家を出ていれば遅刻せずに済んだはずだ」

「家が遠いと朝大変だよね、津上くんは電車はどっち方向?」

「いや、電車ではないんだ」

 

 緑谷くんに返答した通り、電車は使わない。この脇道の先ににあるアパートこそ、俺の自宅だからだ。名残惜しいが今日はここでお別れということになる。

 別れを告げる前に緑谷くんに確認しないといけないことがあったのを思い出した。

 

「会話の流れを切ってすまないが……緑谷くん、指の怪我は平気かい? 俺の処置が治療の邪魔になっていなければ良いのだが」

「治してもらったから平気だよ。それどころか津上くんの応急処置、リカバリーガールが完璧だって褒めてたよ。本当にありがとう」

「それは……良かった」

 

「あの時の啖呵、カッコ良かったよね!」

「ああ、俺は感動してしまったよ。 先生の制止を振り切り治療を施す様はさながらナイチンゲールだ」

「飯田くん、ナイチンゲールは女性なんじゃ……」

「尊い行為の前に男女なんて些細な違いだ、麗日くんもそう思わないか!」

 

 眼の前で恐らく自分のことで盛り上がる3人を何処か現実感なく見つめる。誰かと一緒にいたいと思ったのはいつぶりだろうか、なんて考えながら、ゆっくりと歩みを止めた。

 別れたくない気持ちを心の奥へしまい込み、3人に声をかける。

 

「悪いけれど、俺はこっちだから。……また明日」

「じゃあね!」「また明日(あす)、学校で」「またね、津上くん」

 

 そのまま手を振って3人と別れた。明日が楽しみなのもいつ以来だろうか……もしかすると、生まれて初めてのことかもしれない。

 

「なんて、大げさか……」




雄英高校生活、初日がようやく終了です。
こんなペースで大丈夫なんだろうかと心配です。

本文中でほのめかした通り、津上保くんがイレギュラーなヒーロー科の41人目になれた裏には相澤先生の後押しが有ったようです。

読み返すと性格や口調が飯田くんに似すぎていて、どうしようかと頭を抱えています。頑張れ津上、負けるな飯田くん。



修正終了(2021/07/19)
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